救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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魔獣の森、動く針

ページをめくり、瞳を向ける。そこに映りこんでいるのは様々な人との出会いと、別れの物語。時に共に眺め、共に歩み、同じ夢を夢見て、共に眠り、そして別れていった。自ら望んだ事なのだから当然だ、そうすることが世界を救い、自分が此処から願った事を叶える事なのだから。

 

―――次第に色が薄くなっていく。記憶が、あやふやになって行く。

 

徐々に色が褪せていく記憶を、記録を見直すことで再び色を塗っていく。それも、何時かは色がなくなって行くのだろうか、それが只管に恐ろしくなってくる。だがこの記憶だけは色褪せない、そう信じている。いや確信している部分があった。

 

「―――なぁ、そうだろ―――□■□(はじめ)?」

 

―――でもどうして急にこんな事を思った?まさか―――

 

そう思ったとき、その場から影が消えて空を通り過ぎていく何かが見えていた。鳥のようなそれは、高々と空を横切りながら、鮮烈に人々の記憶に焼き付いていった。

 

 

 

「皆無事かっ!!?」

「うん、うんなんとか……剣崎君は大丈夫?」

「タッチの差でな。土塗れにならなく済んだって所だ」

 

梅雨ちゃんを抱えていた剣崎はそのままゆっくりと地面へと着地すると、土砂に巻き込まれて落ちていった出久達の元へと駆け寄っていった。皆に怪我はない、どうやら土砂がクッションの役割を果たしてくれたようで怪我自体はなかったらしい。それに一安心して上を見上げるとマンダレイが此方を見下ろしており、剣崎はそれを睨み付けるかのように見つめた。

 

「この辺りは私有地だから個性の使用は自由だよ!!今から3時間、自分の足で施設においでませ!!この、魔獣の森を越えてね!!」

「魔、魔獣の森ィ!!?」

 

と思わず叫び返してしまった剣崎、施設まで自力で来いというのはなんとなく察する事が出来たが森が物騒極まりない名前なのは完全に予想外であった。

 

「なんだよそのドラクエみてぇな名称は!?」

「3時間以内にこの森越えていけって……向こうからしたらこの程度越えられないのは―――おお ゆうしゃよ! しんでしまうとは なにごとじゃ!的な感じなんだろうな」

「おいおい冗談じゃねぇぞ……というか何で魔獣の森何だ?」

「魔獣がいる、とかじゃないかしら?」

 

と切島の言葉にそのままで返す梅雨ちゃん、しかし皆は魔獣なんている訳ないと思って一瞬笑うのだが……森の木々の奥から、それらを薙ぎ倒しながら巨大な怪物、いや魔獣が此方へと闊歩して来ていた。

 

静まりなさい獣よ、下がるのです

「口田!!」

 

即座に反応したのは直接声に出して命令することで人以外の生き物たちを操ることが出来る個性を持つ口田、彼の言葉ならば即座に生き物は制御下に置かれる筈―――だが魔獣は一切動きを止めずに迫り続けてきている。つまり―――生き物というカテゴリには入らない。それに気付き即座に行動したのは剣崎、出久、爆豪、轟、飯田の5人。それらの格闘攻撃によって魔獣は全身を砕かれて沈黙した。

 

「見て皆、やっぱりこれ土で出来てるよ」

「って事は……こいつは個性による魔獣か」

 

出久が破砕した魔獣の破片を手に持って見せながら推理を立てる、となるとこれもピクシーボブの個性による物。言うのであれば土魔獣だろうか、ピクシーボブの個性は"土流"という土を操る事が出来る個性。雄英にもセメントを自在に操作するセメントス先生がいるが、それの土版と考えればいいだろう。この山岳地帯ならば無限に近しい材料がある、つまり―――土魔獣は幾らでも襲いかかってくるという事だ。

 

「これは、相当きついと思うよ。目標は3時間以内での到達、それまでに襲い掛かってくる魔獣を退けていく必要がある」

「だな……飯田、クラス全体の指示を頼んでもいいかな。俺がその指示を細かくする」

「うむっ委員長として引き受けよう!!」

 

剣崎はグレイブの元で職場体験をしている時に大人数のチームで動く際の注意事項なども確りと教わっている事を皆に言い、司令官を飯田に任せ、その中継をして細かい指示を出す役目を引き受けた。それに爆豪は一瞬いやな顔をしたが―――

 

「腑抜けた指示を出しやがったら承知しねぇぞ」

「その時はお前に交代してやるよ」

「ザケンな、最後までてめぇで面倒見ろ」

 

と言い返してきた。そのやり取りに出久は思わず驚いたように目を見開いてしまった。あの爆豪が暗に剣崎の指示に従う事を認める事を言っているのだから、昔から彼の事を知っている出久からすると驚きでしかないのだろう。爆豪としては剣崎は自分に勝っている格上でその実力も理解している、それ故なのか任せてもいいだろうと思い至ったのかもしれない。

 

「では長時間個性が発動できる物が前衛、その後ろを支援に適した個性と支援があれば十二分に力を発揮できるグループに分ける事にしよう」

「了解だ」

 

基本的にスタミナがあって長時間個性を発動し続けていても問題がない者が前に出て、その後ろを支援に適した個性で固めて一気に森を越える作戦を取る。幾らでも魔獣が襲いかかってくる状況を考えると出来るだけ時間を掛けずに駆け抜けていくのが最適解だろう。

 

 

 

「よし、スタミナなら俺は自信ある。俺は最前線でいいな」

「アァン指揮官みたいな初ちゃんもス・テ・キ♪」

 

 

 

―――強い胸騒ぎを覚えた。それがなんなのか正体が分からない、でも動かなければならないと思った―――。

 

 

それは偶然か必然か、運命は再び世界を翻弄する。破滅と導き、今度こそ終わりへと誘うのか、新たな世界の創造を祝福するのか、それとも―――新たな切り札の生誕を祝するのか。




物語は動き出す、それが何を示すのかは分からない。

だが―――切り札は運命を変える。

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