救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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視野、魅力。

「おおっ~随分と早かったじゃん、予想よりもずっと早い」

 

そんな風に呟きながら笑っているピクシーボブの視線の先には森の木々の間から、姿を現してくる1組の生徒達の姿があった。現在時間は午後3時50分、約3時間という道のりを6時間掛けて到達した1組生徒は全員が全身から疲労を滲ませて個性の酷使による疲労でフラフラしているものが多い。あの轟と爆豪にも大きな疲れが見えているらしく、疲れきっている。

 

「おおっあの子凄いじゃん!」

 

とピクシーボブが指差す先を見たマンダレイも思わず驚き、相澤は軽く笑いながら当然だなっと呟いた。その視線の先には普通科から転入した鉄があったのだが、ヒーロー科での戦闘訓練や基礎訓練などを受けていない彼にとってはかなりきつい道のりだったらしく酷くぐったりとしているが、目を引くのは其処ではない。

 

「鉄着いたぞ、もう大丈夫じっくり休めるぞ」

「……すまない剣崎さん、不甲斐なくてすいません……」

「気にするな。それよりお前の身体をスペースにしちゃって悪いな」

「こ、この位の役には立たないと……」

 

と酷くぐったりとしている鉄の身体の上には疲労がかなり激しいメンバー、最前線にて戦い続けていた切島や尾白、砂藤に京水などが座りこんでいる。前線を維持しながら後方にいるメンバーを守るための盾としての役割も含まれている彼らの疲労は相当な物だった。故に彼らは巨体である鉄の身体に座らせてもらって休ませて貰っている、そんな鉄を担ぎ上げているのが怪腕の剣崎であった。鉄だけでも体重は400キロオーバーであるのに加えてその上で複数人が乗っている状態、剣崎が担ぎ上げている重さは600キロ越える程であった。それを疲労さえ見えているが他に比べたら涼しい顔をしながら担ぎ上げている剣崎の無類のスタミナにプロからは驚きの声が漏れた。

 

「降ろすぞ、よっこいしょっと」

「わりなぁ剣崎……鉄も」

「いや、皆のお陰で麗日や八百万達が存分に活躍できたんだ。皆のお陰だ」

「そ、その通りだ……私の身体に乗る程度、気にしないでくれ……」

「本当にごめんね鉄ちゃん……流石に個性の数時間連続活動は、きつくて……」

 

流石の京水もクタクタになって思わず倒れこんでしまう、それを剣崎が抱きかかえてゆっくりと降ろすが京水は興奮する事無く純粋な感謝を述べるのであった。

 

「な、何が3時間ですか……もっと、凄い掛かったじゃないですか……」

「あれ、私達ならって意味ね。悪いね」

「実力差を示すための自慢っすか……趣味悪い」

「ねこねこねこ……でも、正直もっと時間が掛かると踏んでたよ」

「そうね、司令塔と指揮官の指示が的確だからかしら」

 

そう言って飯田と剣崎の事を指差すマンダレイ。的確な指示を飛ばす飯田とその指示をより細かく的確にして伝達、その上で最前線で魔獣を蹴散らし続けた剣崎。この二人の功労がなければもっと時間が掛かっていたことだろう。それでも個人の実力も確かで素晴らしい、特に最初に魔獣へと躊躇なく攻撃出来た5人の評価は特に高い。

 

「特に、君の功労がでかいね」

 

そう言いながらピクシーボブが剣崎を指差した。この中でまだまだ余裕が有り余っているのは唯一剣崎のみだった。それは仮面ライダーとして活動してきたからこそ鍛えられた圧倒的な精神力とスタミナが織り成す持久力の賜物、絶え間なく指示を飛ばしながらも激励も止めずに全員のモチベーションを維持させ続けてきた、此処まで早く来れたのも全員の気持ちが高く維持されていたのも大きな要因。

 

「う~ん君実にいいね、本当に良いね」

「いえ皆が元々強いからですよ、じゃなきゃ俺の指示なんて意味を成さない。飯田の指示も的確で俺も安心して任せられましたからね」

「実に謙虚で自己評価も悪くない……じゅるり、実にいい……っ!!」

 

何やら今まで無い位に瞳が輝きを放っているピクシーボブに剣崎は危機を感じる、色んな意味での危機である。後ろから感じる梅雨ちゃんの視線も何処か刀剣並に鋭い。

 

「あ、相澤先生これからの予定は如何すればいいんでしょうか!!まずはバスから荷物下ろしですかね!!?」

「そうだな。まずはバスから荷物を降ろして来い、部屋に運び込んだら食堂にて食事。そのあとは入浴し、自由時間。本格的なスタートは明日だ」

「了解しました!!さあ皆早く動こうさあ動こう!!!」

 

と危機を感じている剣崎はテキパキとした動きで作業に入っていく、何とかしてピクシーボブからの視線からの逃亡と梅雨ちゃんからの痛い視線を回避する為に……。作業をしている間もまるで獲物を定めた狩人かのような瞳は外れることもなく、中央に剣崎を捉え続けるのであった。

 

「むふふふふっ……煌めく眼でロックオン……!!!」

「マンダレイ、あの人あんなでしたっけ」

「彼女焦ってるのよ、適齢期的なアレで。でもまさか、あんなに気にいる子がいるとは……。こりゃあの子危ないわよ色んな意味で」

「……あいつの部屋だけ変えてやるかな」

 

 

「あ~怖かった……本気で怖かった」

「な、なんか剣崎君ピクシーボブさんに凄い目で見られてたもんね……」

「なんかやらかしたか俺……」

 

と荷物を置きながら思わず剣崎は呟くのであった。クラスの皆の為に全力を尽くしたのに何でこんな事になるのだろうか……本気で理解出来ない。剣崎はどちらかと言えば好意に少々鈍い所がある、それも両親からの愛を受けられなくなった事により弊害とも言える。一応剣崎は十分にイケメンなので雄英入学前も十分にモテていたのだが……その殆どを仮面ライダーとしての活動や個性のトレーニングに費やしてきたので、女子と触れ合う機会は余りなかった。荷物を置いて食堂に向かおうとすると、視界の端に梅雨ちゃんが映りこみ少し来てとアイコンタクトを受ける。出久に先に行っててくれと言ってからそちらへと行くと、物陰で梅雨ちゃんが抱き付いて来た。

 

「……剣崎ちゃん、ごめんなさい。少しでいいからこうさせて……」

「つ、梅雨ちゃん……俺、なんか駄目な事しちゃったかな」

「いいえ、貴方は自分に出来る事を精一杯にやっただけよ。それが誰かを惹き付けただけの事よ……」

 

それに少々ホッとしつつも全然ホッと出来ないなと思いなおしていると、梅雨ちゃんが少々潤んだ瞳で見つめてくる。剣崎には人を惹きつける不思議な魅力がある、それは理解出来る、出来るが……それだけで制御できるほど感情は簡単ではない。特に恋人に関する思いは。

 

「ごめんなさい、でも私……貴方の一番で居続けたいの」

「……。俺の中だと梅雨ちゃんがずっと一番だよ」

 

そう言うと一段強く抱きあうと軽く口づけを交わす、確かな思いが頬を伝う。そして笑いあうとそのまま一緒に食堂へと向かっていく。

 

「ああぁぁっ腹減ったな……何あるかな」

「美味しいのがあるといいわね」


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