救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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相澤、教師として。

三日目となる林間合宿、その日も剣崎と出久は虎による地獄なんて生温いとさえ思えるような虎による厳しい我'S ブートキャンプで個性を伸ばそうと必死になっていた。身体に掛けられている重りは昨日よりも増量しており、剣崎の身体には既に100キロの負担が掛けられ、出久には30キロという負担が掛けられている。出久は常時"フルカウル"を掛けなければ動けないような重さを食い縛るように努力し続けている。

 

よぉし次のそのままの状態で組み手をしろ!!倒れるまで止めるなぁ!!!

「「サーイエッサー!!!」」

 

そんな訓練をこなして行く中で担任の相澤は補習組みに活をいれながら、剣崎へと視線を向けながら昨夜の事を思い出していた。

 

昨夜―――

 

「剣崎に付いて、ですか」

「そう、彼に付いて。イレイザーヘッド、貴方は私の個性は十分知ってるでしょ?」

「勿論」

 

1組担任である相澤は夕食後に2組担任のブラドキングとの打ち合わせが終わった後にプッシーキャッツから進捗を聞きながらメニューの考案を手伝っていた時の事だった。ラグドールから突然の質問があった、それは剣崎に付いての物だった。一瞬ピクシーボブのように気に入られたのかとも思ったがどうやら違う模様。

 

「個性:サーチ。その目で見た人間の情報を100人分まで知る事ができ、居場所や弱点にいたるまで、つぶさに把握する広範囲知覚個性」

「その通り。この目で見た子達の事は何でも分かる、でもね―――彼の事は全然分からない」

「……どういう事ですか」

 

そもそもこの林間合宿でプッシーキャッツに協力して貰っているのは彼女らの個性が少数でありながら多くの人間の相手を出来るという点にある。広域カバーをしつつ全体を短期で集中的に伸ばす事に置いて非常に有効で合理的である為だ。

 

「彼を見て確かにサーチしている、だけどそれでも強い違和感が残ってる。強すぎて凄い違和感がある、サーチでも見る事が出来ない何かが彼にはある」

「あの子に……虎は如何思ってる?」

 

とお茶をいれていたマンダレイは明日の剣崎と出久のメニューを作って虎へと振ってみた、虎は本当に二人が気に入ったのか中々やらない個人メニューの製作まで行っている。

 

「我は気に入っている、奴は肉体及び精神は非常に強固で頑強だ。体力もそうだが余りにも強い精神面がそれら全てを支えているのは明らかだ」

「それは私も思ったわよ、あの鉄君だっけ?その上に他の生徒も居たのにそれを簡単に担ぎ上げてる上に平然としているんだもん」

「うんうん本当にいい子よね、何時からマジで狙おうかな……フッフッフッ……」

 

とピクシーボブが悪い笑顔を浮かべながらもこうなったら部屋に忍び込んで……とまで呟いた所で虎が一発をいれる、そしてそれに怒りを浮かべているが虎にとっても気に入った弟子の一人を毒牙に掛けるわけにも行かないという事だろう。同時に相澤は剣崎の部屋を自分の教員室の隣にしておいて本当によかったと安堵する、この様子だと冗談抜きで剣崎の所に忍びかねない。

 

「なんて言ったらいいのかな……彼には何か、壁みたいな情報を遮断してる物がある感じ?それが多分、強い違和感の正体だと思うの」

「壁……?」

「そう、何かが彼の真実を隠そうとしている巨大な壁みたいな何か」

「でもサーチで分からないって、今までなかった事よね?」

「うん……初めての経験」

 

居場所だけではなく弱点まで把握する事が出来るかなり強力な個性であるサーチ、それを持ってしても剣崎の全てを閲覧する事が出来ないという異常事態にラグドールは眉を顰めていた。

 

「それだけミステリアスって思っておいた方が良いんじゃない?事実として受け止めて、原因を探るしかないんじゃない?」

「うむ、我としてもそれが一番だと思う。だが個人的な意見としては奴は全くもって心配する必要はない、何れはオールマイトに匹敵する器に成長すると思っている」

 

とかなり高評価な虎だが同様に出久の事も高く評価する、教え子が褒められるのは悪い気分がしないが同時に相澤は以前校長から言われた事を思い出す。―――剣崎の正体に付いて。

 

『あいつが、剣崎が仮面ライダー……?』

『そう、彼は今世間を騒がす救いのヒーローである仮面ライダーなんだよ。但しこの事は内密に頼むよ、これはまだ私とオールマイトにしか知られて居ない事実だ』

『それを何故私に』

『担任であり救われた君には知る権利があると思ったからさ。それに君なら絶対に口外はしないと合理的に判断して守り続けて味方で居てくれると確信しているからだね』

 

仮面ライダー、それが剣崎の正体。恐らくラグドールの言っている事はライダーの力が大きく関係しているのだろう。確かに相澤がUSJで大怪我をした際にライダーに怪我を治療され救われている、だがその力を把握出来ないのは理解が出来ない。校長からも詳しく話されたが、相澤はプッシーキャッツに問われても話す事なんて出来ない。彼の、剣崎のある意味狂気とも取れるライダーとしての活動。

 

『彼にとって誰かを救うというのは日常茶飯事で日常の一部なのさ、だから彼はライダーとして人を救い続ける。雄英入学後もライダーが活動しているのもそれが理由さ』

「(全く合理的じゃない……自らを削り続けた先は自滅しかない、だが―――合理性だけで割り切れないのが人間か……)」

「イレイザーヘッドは何も知らないの?」

「ええ、それに付いては何も。そもそもサーチで分からない事があったと言うことが驚きです」

「本当よね」

 

故に相澤は剣崎に出来る限り干渉しない選択を取る事にする、それが自分にとっても剣崎にとっても合理的な物でありメリットが大きな事になる。校長やオールマイトのように味方はしない、だが敵にもならない。そういった者も必要だろう、相澤はライダーとしての活動を否定する気はない。それが剣崎のオリジンならば否定する意味すらない。だから―――見守る事を選択する。

 

 

「ウェエエエエイ!!!!」

「SMASH!!!!」

 

と一角から響いてくる剣崎と出久の一撃のぶつかり合い。それは互いを真芯で捉えたクロスカウンターとなって互いを吹き飛ばしていた。そしてそれを見た虎は暫くの休憩を言い渡すと、そのまま2組の方へと駆け出していくのであった。

 

「……さ、流石プロヒーローの扱き……」

「しょ、正直辛すぎる……」

 

倒れ込んでいる二人だがささやかながら、心の中で声援を送る相澤先生なのであった。


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