その日の地獄も漸く終わり、日も落ちた頃……飴とも言うべきイベントが開催される事となった。それはA組とB組の対抗肝試しであった。辛い訓練の後は楽しい事で気持ちをすっきりさせようと言う心遣いに周囲からは嬉しさの声が上がっている、特に補習組はこれをかなり楽しみにしていたのか酷く嬉しそうにしている。
「よぉ~し存分に肝を試すぞぉ~!!」
『おおっ~!!!』
と張り切りにも似ている歓喜の声を上げている芦戸、上鳴、瀬呂、砂藤、切島。確かに補習でかなり疲れている彼らにとっても心の安息や充足を計る為に飴は必要不可欠……存分に楽しもうとしていた彼らの背後に相澤がぬっと出現した。
「と言いたい所だが―――大変心苦しいのだが、補習組は俺と授業の時間になる」
『嘘だろ相澤先生!!?』
「生憎本当だ。昼間が疎かになっていて十分なノルマをこなせていないので此方を削る、さあ行くぞ」
何時の間にか全身に絡み付いている相澤の捕縛武器、既に逃げられない体勢が完成してしまっている。阿鼻叫喚な叫び声を上げ、断末魔が森の中から響いてくる。これはこれでもう十分怖いような気がしてくる。取り敢えず彼らには冥福を祈るとしよう……間違っている気もするがこの場合はあっている気がする。
「さてと、肝試しかぁ~なんか懐かしいな」
「アァンそうね、わたしもやったのなんて子供の時、以来よぉん♪」
「フフフッワクワクしますね」
意外な事に京水と鉄もかなり乗り気なのか、かなりやる気満々な様子。まずは1組が驚かされる側として参加し、2組は1組を驚かす。その手順から行く為にまずは1組がくじ引きでどんな順番で、どんなコンビで出発するかを決める。結果として剣崎は出久と共に回る事となった。
「宜しくね剣崎君、肝試しって剣崎君大丈夫なの?」
「多分平気だと思うけどな……もっとやばい物を見てきたし」
「ああっあの、ゾンビ&ゴーストヴィランとか……?」
「まあな……」
思わず小声で尋ねる出久の言葉を肯定する、ゾンビ&ゴーストヴィランというのは二人組で活動し通り魔的な犯行を行っていたコンビヴィラン。その見た目はまるでゾンビのようなおぞましくグロテスク、ゴーストのように寒気をさそう恐ろしい姿をしていた為にこのような名前が付けられた。が、その二人は仮面ライダーによって倒され、無事に逮捕された。それと比べると幾ら個性によって驚かすのがありだと言っても、あれ程の衝撃はないだろうと思っているのである。
「あれより怖い物とかそうそうねぇぞ……ぶっちゃけ、あれ凄い怖かった」
「やっぱり……?」
「うん……仮面で隠れてたけど、裏側だとめっちゃ怖がってました……」
と意外な剣崎の一面を見た出久だった、次々とコンビが出発していく中で自分達の番が迫ってくる中剣崎はじっとしてられないのか、妙にそわそわしていた。そんな彼を見かねたピクシーボブは内心でチャンスだと思いながら、歩み寄っていった。
「なぁに如何したのよ剣崎君?怖くてうずうずしちゃってるの?」
「……いや、なんか違うんですよ。身体がピリピリしてっ―――おいおい嘘だろ……!!?」
「け、剣崎君それってまさか!!!?」
そう、この感覚。自らの本能が鳴らしている警鐘、それは絶対的な安心と疲労によって鈍っていた物。自ら日頃から頼りにしそれを元にして活動を行う物―――即ち、ヴィランへの警報!!!同時に香ってくる焦げるような臭いに剣崎と出久は全身に力が入っていく。
「なんだあれ、山火事か!?」
同時に視界に映り込んでくる黒煙、畳み掛けるかのように事態は徐々に悪化の一途を辿っていく。山火事が起こる、雷などではない場合真っ先に考えられるのは人災。つまり人為的な放火……!!!
「飼い猫ちゃんは―――邪魔ねっ」
「なっなにっ―――!?」
突如として、悪意は姿を現し、牙をむき出しにして襲い掛かってくる。ピクシーボブの身体が宙に浮くといきなり引き寄せられるかのように木の影へと引っ張られていく、突然過ぎる事にプロヒーローの彼女も反応が出来ない。そしてそれへと狙いを定めるかのように、悪意は身の丈ほどある武器を構えて彼女の頭部めがけてそれを振るった。
「ピクシーボブッッ!!!」
出久の声が周囲に木霊する、助けようと振り向いた先には―――振るわれた巨大な鉄の塊を足で受け止めながらその腕でピクシーボブを抱きながら庇っている男の姿があった、それは静かに顔を上げながら眼前の悪意へと敵意を向ける。
「やらせるかよっ……!何の為に、ヒーロー科に入ってると思ってんだっ……!!!」
「剣崎君!!!」
片足で確りと地面を捉えながら、向かってくる巨大な鉄塊へと蹴りをいれている。
「あらっ貴方いいパワーしてるじゃない……!!」
更に押し込もうと力を込めるオカマ口調なヴィランは腕に更なる力を込めて、武器を押し込もうとしてくる。それを必死に耐える剣崎、だが腕の中のピクシーボブがヴィランへと引き寄せられているかのようになっている。恐らくそれが敵の個性、ならば余計に力なんて緩められないと更に強く抱き締めながら足に力を込める。
「―――操作っ!!!」
剣崎に抱きかかえられているピクシーボブも我に返り、必死に足を伸ばして地面へと触れると土を操作して自分らと敵の間に巨大な土の塊を出現させる。それを壁にして距離を作ると剣崎はそれを蹴って一気に後退する。
「良くやったぞ剣崎!!」
「虎さんの、訓練のお陰ですよ……!!大丈夫でしたかピクシーボブ……!?」
「え、ええっ有難う……ごめんなさい、逆に守られちゃったわっ……!!」
と剣崎の腕から下ろされながらもピクシーボブは赤くなった頬を隠しながら自分もファイティングポーズを取る。後れを取ったがそれは取り戻す、プロの誇りに賭けて……!!
「マンダレイ、虎、私達で皆を守るよ!!」
「当然よ!!」
「了解!!」
その時、森の中から一つの影が飛翔した。それは奇妙な翼をもった鋭い爪を保持した怪人のような者だった。それは真っ先に剣崎へと向かっていき、鋭い爪を剣崎へと―――突き刺した。
「会いたかったぞ……ブレイドォォ!!!」
「グッ……何だ一体!!?」
―――イーグル、襲来。バトル、開始。