「悪い梅雨ちゃん、肩貸してもらっても良いかな……悪いけど、慣れてないのか身体に力が入らないんだ……」
「大丈夫確り支えるわ、ほらっ」
闇の怪物を倒すことに成功した剣崎、抱きついてきている梅雨ちゃんを一段と強く抱き締めるとなんとか立ち上がろうとする。だが、先程の形態、ジャックフォームの影響か妙に身体に力が入らない。始めての姿という事もあって身体がついて行かない様な感じで、全身が筋肉痛のように痛む。肩を借りて漸く立ち上がれた程であった。立ち上がりながら自分が倒した怪物が炎に塗れながら、徐々に燃えていく姿を見つめるが直ぐに視線を施設の方へと向けて協力を得ながら歩いていく。
「にしても、梅雨ちゃんも無茶、するよね……」
「貴方の彼女だもの、似た物同士って奴よ」
「ははっそりゃ嬉しいもんだ……」
そんな軽口の掛け合いが疲れきった身体を癒していくかのように染み渡っていく、彼女の言葉が此処まで有難くて温かい物になってくれるなんて思わなかった。やっぱり、自分に取って彼女がどれほどまでに大きな存在なのかを実感出来る。彼女が隣に居てくれるだけで、元気が出てくる。彼女は自分の愛は重いと言っていたが如何やら自分もそれなりに重い愛情を向けてしまうタイプの人間のようだ。
「梅雨ちゃん、今度是非御礼をしたいな……今回は君が来てくれなかったら俺は本当に危なかった」
「いいのよそんなの。あの時言ったでしょ?お互いに気遣いあって、譲り合って行きましょうって」
「そっか……それじゃあさ、デートしようよ。折角その……つ、付き合ってるんだからさ……」
「それじゃあ日程を合わせて行きましょう。ケロケロその時は剣崎ちゃんのエスコートを期待しちゃおうかしら?」
「だから俺だって初めて付き合ったのが梅雨ちゃんだからそっち方面は初めてなんだって……」
とそんな初々しさを醸し出しながら木々の間を抜けていく、そして施設の明かりが見え始めた所で彼女から何かあっても私が話を合わせるからと言葉を貰って感謝を返す。
「剣崎……それに蛙吹!?お前どうして外に……!?」
「剣崎君無事!!?」
外で見張りをしていた相澤とピクシーボブがそれに真っ先に気付いた、二人は声を発しながら周囲を警戒しながら二人へと意識を向ける。二人は大丈夫だと言う事を伝えながらなんとか戻ってこれた。二人の元へとたどり着き、なんとか報告をする。
「ご心配、お掛けしました……なんとか拘束を振り解いたんですけど、そのまま森に落とされて……それでなんとか木々の闇に隠れてなんとか、逃げて来れてました……」
「そうか、兎も角無事で何よりだ」
「うんうん、ごめんね剣崎君……今度は私達が守るってあんなに自信満々に言ったのに……」
ピクシーボブは責任を感じながらボロボロになっている剣崎の身体を見ながら、梅雨ちゃんに肩を貸されて歩いている現状を見て顔に影を作った。あれほどまでに自信たっぷりに、助けられたのだから助けるんだと息巻いていたのにあっさりと空へと剣崎を連れ去られ、その後に多大な苦労を掛けさせてしまった。守るべき側にいる剣崎を守れなかったと言う事実が重く圧し掛かってくる。
「気にしないでくださいよピクシーボブ、誰だっていきなりあんな事されたら対処難しいに決まってますから。まあ確かに高高度から紐無しバンジーする羽目になりましたけど……まあいい経験になりましたよ」
「剣崎、お前それ良く生きてたな」
「俺もそう思いますよ……ああっほっとしたら、足に力が……」
と思わず後ろに倒れながら座りこんでしまう剣崎、そんな剣崎を見ながら相澤は思わずそれほどまでに先程まで続いていた戦いが激しかったのかと想う。兎に角これで生徒全員の安全が確認出来た、怪我も剣崎の手によって治療されているので実質的な被害と言えばライダーとして戦った剣崎の疲労困憊具合だろう。
「ほら剣崎ちゃん」
「ああ悪っ―――梅雨ちゃん危ない!!!!」
突如、闇の中から一段と深い物を凝縮されたかのようなものが此方へと接近して来た。それはまるで彼女を狙っているかのような動きで迫ってきた、それに素早く気付いた剣崎は身体の痛みなど忘れて彼女を突き飛ばしていた。
「キャアッ!!剣崎ちゃ―――っ……」
突き飛ばされた梅雨ちゃんは視界に広がっているそれを見て目を疑った。そこにあったのは暗い暗い海の底、その闇をそのまま掬い揚げてきたかのような闇が剣崎の身体に取り巻いている光景だった。それらは次第に深く絡みついて行き離す気がないような勢いで剣崎を拘束していく。
「何だこれはっ―――!!!」
「剣崎君!!」
「触れちゃ、駄目ですっ……!!!こいつは、きっと……触った奴を取り込むような、物です!!!」
その言葉を聴いたピクシーボブは手を引っ込めるが透かさず"土流"を発動、地面を操ってそのまままだ闇が纏わり付いていない部位に土を伸ばして思いっきり引っ張ろうとするが闇は侵食するウィルスのように土流すら飲み込んでいく。このままでは自分も飲み込まれると、土を崩すがこれでは本当に剣崎を助けられない!!相澤は近くに個性を使用しているヴィランがいるのではないかと視線を巡らせるが、全く姿が見えない。
「意識が……あい、ざわ先生……」
「剣崎!クソ!!」
相澤も焦る、この闇は捕らえた者を衰弱させて捕獲する類の物の可能性が一気に高くなった。だが、同時にとんでもなく狡猾なトラップでもある、助けるにはこの個性を使っている者の個性を消すしかないが、全く見当たらない。一体何処にいる……と焦りが生まれていく中で剣崎の声が聞こえてくる。
「つゆ、ちゃんを……皆を、守って……ください……!!俺は、大丈夫です、俺は、強い、ですか、ら……」
「剣崎ちゃん!!!!!」
悲鳴染みた声、飛び出して抱き付こうとする彼女をピクシーボブが必死に止める。
「駄目よ貴方も取り込まれてしまう!!!」
「いや、いやいやいやぁ!!!!」
徐々に飲み込まれていく剣崎の身体、それを目の当たりにする度に胸が張り裂けそうになる。駄目、自分は彼の隣にいるって約束した、初めてのデートの約束だってした。それなのに、それなのに……!!!そして闇は消えていくかのように薄れていく。
「駄目、待ってその人を連れて行かないでお願いだからぁぁぁっっ!!!!!」
「梅雨ちゃっ―――」
「剣崎ちゃんっ!!!!!」
伸ばされた手、それを必死に掴もうとする。だがそれは―――闇に飲み込まれ虚空へと消え去って行ってしまった。そこには剣崎の姿なんて無く、何もない地面だけが残っていた。相澤の歯軋りとピクシーボブの声にすらならない言葉が耳を劈く。先程まで彼が居た地面、それに座りこんだ梅雨ちゃんは、仕切りに辺りを見回す。確かにここに居た、居たんだ。居たのに何で、何で居ない……?
「いや、いやいや……いやああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
辺りに木霊する彼女の悲鳴は、悲しみに染まりきった絶望への道しるべ。大粒の涙を流しながら慟哭の声を上げる彼女をピクシーボブは必死に抱き締めた、虚空へと消えてしまった一人の生徒。目の前に居た筈の彼を救えなかった、そんな後悔が押し寄せる。
雄英高校の林間合宿襲撃事件、雄英生徒:剣崎 初の拉致という最悪の事態が最後に訪れ、それが事件の終幕を導いてしまった。