救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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梅雨、反撃への狼煙。

「―――剣崎、ちゃんっ……?」

 

目を覚ますと其処は見知らぬ天井だった、思わず周囲を見回して見るとどうやら此処は病室であるという事が分かった。如何して自分が此処にいるのかすら何も分からないまま、未だにぼんやりとしている感覚に身を委ねているとドアがノックされてゆっくりと開けられた。

 

「梅雨ちゃん……はいっても大丈夫かしら」

「泉、ちゃん……大丈夫よ」

 

そこへ京水を筆頭に1組のメンバー達が入室して行く、皆は口々に彼女の身体を心配するような気遣うような言葉を掛けながら容態を窺うかのような視線を向けてくる。自分が入院しているのは理解出来るのだが如何して入院してしまっているのかは理解出来ない。どうにも前後の記憶が定かになっていないのか、梅雨ちゃんはぼんやりと天井を見上げる事しか出来なかった。来ていないのは同じく入院している八百万と葉隠、そして響香。

 

「皆、態々来て貰ってごめんなさいね……爆豪ちゃんまで来てるなんて驚きよ」

「……来てわりぃかよ」

 

そうお見舞いに爆豪の姿まであるのが一番の驚きであった。見舞い自体には誘いはしたが爆豪は特にこれと言って悪態もつかずに何時いくのかを聞くだけ聞いて、その時間に合わせて病院へとやってきたのである。相変わらず口は悪いが、矢張り彼の中で確実に何かが変わり始めているのは確実。嬉しいと伝えると、慣れない事をしているからかむず痒さを感じて舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。

 

「蛙吹、身体は大丈夫か?」

「ええ大丈夫よ、常闇ちゃん有難うね」

「ほらっお見舞いの御花も持ってきたわよ、綺麗なお花があると気分も明るくなるものね」

「私も色々持ってきたんだが……気分転換になればと思って本やら色々を……」

「泉ちゃんに鉄ちゃんも気を遣って貰って有難う。それと緑谷ちゃん一つ聞いていいかしら」

「う、うん何?」

「―――私如何して入院してるのかしら……」

 

それを聞いて皆の表情が曇ってしまった、飯田も言いづらそうに唇を噛んでしまう。麗日や芦戸も思わず口を噤んでしまう、記憶がまだハッキリせずにいる彼女になんていったら分からずに困ってしまっている。すると爆豪が口を開いた。

 

「てめぇが入院したのは簡単だ」

「カッちゃん待ってよ!」

「病院だぞ静かにしやがれクソデク。こういうのはさっさと明らかにしといた方が良いに決まってるだろ」

 

爆豪の物言いにも一理ある、確かにハッキリさせておいた方が良い。だけど今の彼女にそれを伝えてしまって良いのか分からない。それでも伝えなければ前に進まないし何れ自分で気付く事、なら今の内にさっさと伝えてしまった方が良い。出久は僕が言うよっと言い直してから真っ直ぐと梅雨ちゃんを見つめた。

 

「梅雨ちゃん、君が入院してるのは……入院、してるのは……目の前で、剣崎君が攫われたからだよ……」

 

一瞬、部屋の中の時間が止まったかのような静寂が広まった、彼女の慟哭はあの辺り一体まで聞こえていた。当然施設の中にいた皆は何事かと思って、外へと出た。そこには大粒の涙を流しながら泣き続ける梅雨ちゃんとそんな彼女を抱き締めるピクシーボブと悔しさで顔を歪ませている相澤の姿があった。何が会ったのか把握は出来ないが、何かとんでもない事が起きてしまったのは分かった。

 

相澤の口から漸く戻ってきた剣崎を梅雨ちゃんが肩を貸しながら戻ってきて、後少しで施設へと入ろうとした時に突如、闇のような個性攻撃から剣崎は彼女を庇った。救出を試みるがその闇から剣崎の救出は出来なかった、相澤の抹消の個性で個性発動者を捕らえて個性を消そうとするもそれが失敗し、剣崎が連れ浚われた事もその場の皆が知っていることだった……。

 

「―――そう、なの……やっぱり、夢なんかじゃ、なかったの、ね……」

「梅雨ちゃん……」

 

眼から大粒の涙を流しながら虚空を見つめる彼女は酷く痛々しく思えた、目の前で剣崎が消えていく様を見ていた彼女が受けている傷は皆が思っている以上に途轍もない物……いやそれだけではない。

 

「私……何も、出来なかった……。剣崎ちゃんは、私を庇って……私が支えるって言ったのに……結局私は何が出来たの……?」

「梅雨ちゃん……」

「もう、二度と剣崎ちゃんと会えなくなったら、どうしよう……私、如何したらいいの……?」

 

震えきった声のままで不安を口にする、届かなかった伸ばした手。何も掴まずに消えた闇、それらが余計に不安を掻き立ててくる。ヴィランの元へと連れて行かれてしまった剣崎、このまま本当に会えなかったら如何しようと言う強い強い不安に掻き立てられていく。が、出久は力強い声で大丈夫と口にする。

 

「ラグドールさんがサーチの個性で敵の場所を突き止めたんだって!!そしてそこにオールマイトを始めとしたトップヒーロー達が乗り込んで剣崎君の奪還作戦を開始するんだって!!!オールマイトが言ってたよ

 

―――大丈夫さ。何故って?私達が行くからさっ!!!って」

 

力強い言葉と共にやってくる希望の光、京水と鉄が必死に守りきったラグドールがサーチによって既に剣崎の場所を特定しそこへと乗り込む為の作戦や人員召集が既に開始されている。まもなく、ヒーロー達によるヴィラン連合への大反撃が行われようとしている。

 

 

―――待っていてくれ剣崎少年、今私達が行くぞっ!!!


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