オール・フォー・ワンとオールマイトを始めとしたプロヒーロー達の大激突、それらは後に「神野の決戦」と呼ばれるまでに激しい物で神野区の一部が完全に瓦礫の山と化すほどの大激戦であった。無数の個性をストックしそれらを組み合わせて戦いを仕掛けてくるオール・フォー・ワン、それに対するは互いの個性などを計算に入れた上で抜群のチームワークで対抗するヒーロー達。正にオール・フォー・ワンの名とは全く逆の光景が出来上がっていた。
普段は決してオールマイトにいい顔などをしないエンデヴァーも積極的にチームワークを展開し、遂に究極の一撃とも言えるオールマイトの拳が突き刺さり、オール・フォー・ワンは屈し倒れこんだ。ヒーロー達の勝利となったという。
そして剣崎はヴィラン連合に囚われた事や様々な事を聞く必要があるのだが、彼の身体の事を考えて病院へと検査入院する事となった。
「私が来たっ!!(小声)剣崎少年お見舞いに来たよ、身体は大丈夫かね?あっこれお見舞いのフルーツ盛り合わせね」
「オールマイト、はい大丈夫です。すいません態々来て貰っちゃって……」
「何の何の、今回君は一番大変だった立場だったはずだ。寧ろ君は私達大人が守るべきだった……本当に自分の不甲斐なさに腹が立つよ」
入院している剣崎の元へとやって来たオールマイトはその手にフルーツを持ちながら彼の身を案じるように扉を開けた。そこにはベットに横たわっているが、元気そうな剣崎の姿があったので思わずホッと胸を撫で下ろす。そして中へと入ると同時にもう二人一緒に入ってくる。一人はオールマイトの友人の警察官の塚内、もう一人は怪我をしているのか頭に包帯をまいている小柄の老人がそこにいた。
「よぉお前が剣崎 初か。俊典から話は聞いてるぞ、まさかお前みたいな小僧があの仮面ライダーだったとは驚いたぜ」
「あ、あのオールマイト……」
「ああっ大丈夫だ剣崎少年、此方の方はグラントリノ。今の私があるのはこの方のお陰とも言ってもいい程の先生なんだ。こちらは私の友人の塚内君、私の身体の事も知っている事などから話した」
「そ、そうなんですか……えっと、剣崎 初と申します。態々来て貰って申し訳ありません」
と深々と頭を下げる剣崎に塚内は大丈夫だから身体を安静にしていなさいと言う、グラントリノは礼儀がなっているようで何よりだっと言いながら個室にあった椅子を引っ張り出して其処に腰掛ける。
「剣崎 初君、今回は本当に大変だったね。疲れているだろうから辛いかもしれないが、取り敢えず君がヴィラン連合に連れて行かれたときの事を聞いても大丈夫かな。頂点であったオール・フォー・ワンは倒されたとはいえ連合は健在だ、兎に角情報が欲しいんだ」
「はい、俺が知っている事で良ければ」
と塚内から矢継ぎ早に質問が飛び出していって当時の事や構成、どんな話をされたなどを詳しく聞かれて行く。死柄木にヴィランになるべき存在だといわれた事や、自分の中には復讐心があるなどの事の指摘等も包み隠さずに話して行く。そして内容はアンリ・マユへと移って行く。
「アンリ・マユ……?オールマイト、何か知っているか?」
「いや全くの初耳だ」
「俺も分からねぇな、どっかの神話に出てくる神だったぐらいしか知らないな」
「オール・フォー・ワンはそいつに付いてこう言ってました。―――個性は言うなれば人々の悪意、敵意などのマイナス面を強く受け変異、進化し続ける異様な物だって」
それらを聞いて三人は思わず言葉の意味を考え込んだ、その話が本当ならばとんでもない個性である事は間違いない。今の世の中、個性によって歪んでしまった人達も多く、それらの人々の悪意などを受けてそのアンリ・マユというのはどんどん進化して行く事になる。厄介極まりない事になる。そして自分がオール・フォー・ワンから自分は彼を倒す役目を背負う、という事を言われた事も。
「つまりなんだ、そのアンリ・マユってのは剣崎が倒すって事か。一体何が目的なんだ奴は」
「死柄木を育てること、って言ってました。その為に俺は成長しないと困るって……そして奴は何時か俺を倒して更に巨大になるって」
「むぅ……これはなんとも言えん事態だな。剣崎少年に入れられた個性の件もあるというのに……」
「おい、お前に入れられたって言う個性は今なんともないのか。身体に対する異常は」
「今の所は全く……。最初は死ぬほど苦しかったですけど、あいつは確実に個性を物にすると踏んでいたって」
「こいつを死柄木の糧にする気満々ってことか」
だが剣崎は負ける気など一切無いし、糧になる気など一切無い。その時は逆に飲み込んでやると声を上げるとグラントリノからその意気だと笑われるのであった。すると剣崎は塚内を見てある事を思った。
「あ、あの塚内さん……俺は違反自警者です、処罰とかしなくて良いんですか?」
「何を言ってるのかな?それは仮面ライダーであって君ではないだろう、まあ直接現場を押さえた時は捕まえるけどね」
とウィンクをする塚内に思わずホッと胸を撫で下ろす剣崎。塚内とていまの世の中で仮面ライダーがどれほどまでに大きな影響を与えている事は知っている、その行動理念なども全て。だから捕まえたりはしない、いべき存在だとも思っているからだ。
「さてと、剣崎少年。実は君に会わせたい人がいてね、実は部屋の前で待っていて貰っているんだ」
「俺に、ですか……?」
「ああっ私達はこれで失礼するから、その人とゆっくりするといいさ」
「そうだな、それじゃあお大事にね剣崎君」
「またな小僧。今度会った時は一緒に茶でも飲もうじゃねぇか」
何処かニヤニヤしながら出て行く三人、訳が分からずにそのまま待っていると扉がゆっくりと開いて待っていた人が姿を現した。それは―――
「剣崎、ちゃん……」
「梅雨ちゃん……?」
「剣崎ちゃんっっっ!!!!!」
大粒の涙を流しながら抱きついてきた。そして自分の身体に深々と腕を回しながら必死に自分の存在を確かめるように、体温を感じるたびに歓喜するように、それを言葉にしてひたすらに自分の名を呼びながら愛しい人を抱き締める梅雨ちゃんの姿だった。
「剣崎ちゃん、ああっ……いるのね、此処にぁぁっ……!!」
「梅雨ちゃん……梅雨ちゃん、梅雨ちゃんごめん不安にさせちゃって……!!」
「いいの、もう良いの何もかも……貴方さえ無事でいてくれるなら……!!!」
二人は只管に互いを確かめ合い続けた。互いの体温を、存在を、愛を確かめるように。