救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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必殺技を編み出せ、シンプルさの罠。

入寮してからの翌日、剣崎と梅雨ちゃんは誰よりも早起きして同じ部屋で一夜を過ごしたという事実をバレないようにしながら朝を迎えた。その日は相澤によって教室に集合するように言われていたので、皆ランチラッシュによって作られた朝食を取った後に教室へと集まった。普段のHR開始時間に相澤がやってきて簡単な挨拶を終えると、今日から取り組む事に付いて説明をする。

 

「先日言った様に諸君には仮免の取得を目標として貰う。しかし、ヒーロー免許は人命に直接関わる責任重大な資格、その取得の為の試験は厳しく仮の免許だとしても取得率は例年5割を切っている」

 

其処までに厳しいのかと全員が改めて喉を鳴らした。この超人社会で新しくヒーローとなるのは非常に大変という事であるという事と、狭き門を潜り抜けた者は優秀なものという事になるのである。そして相澤は目つきを鋭くしながらこう告げると同時にミッドナイト、エクトプラズム、セメントスという雄英教師の中でも指折りの実力者と称される教師陣が教室へと入ってくる。

 

「其処で君達には今日から、最低でも二つ……必殺技を作って貰う!!」

「必殺、コレ即チ必勝ノ技デアリ型!!」

「その身体へと染みつかせた技・型は他の追随を許さず、己のオンリーワンとなる。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるかとなる!」

「技は己を象徴し、己の象徴は技となる。今時、必殺技を持たないプロヒーローなんて絶滅危惧種よ!!」

『凄い学校っぽくてヒーローらしいの来たぁぁぁぁっ!!!!』

「詳しい話は実演を交えながら合理的に行う。全員コスチュームに着替えて体育館γに集合へと集合、早くしろよ」

『はいっ!!』

 

その言葉を引き金となったように皆がコスチュームを手にとって素早くそれを纏いながら、体育館γへと向かっていく。

 

「ここは複数ある体育館の中の一つであるγ、トレーニングの台所ランド。通称TDL」

『その通称は絶対に拙い気がする……!!』

 

脳裏に世界一有名なあのキャラクターの顔が映りこんでくるが、それを退かしつつ先生方の説明へと耳を傾ける。ヒーローとは事件・事故・天災・人災といった様々なトラブルから人を救い出していくのが使命。件の仮免試験ではそれらの適正を試されて行く事となって行く。情報力、判断力、機動力、戦闘力、他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など、多くの適正を毎年様々な試験内容で確かめられて行く。

 

その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となっていく。ヴィラン連合というヒーロー社会を崩そうという大きな組織の力があるからである。それらに対した時の為に必殺技と言ったこれさえあれば勝てる、それらを主軸とした立ち回りが出来るというのは非常に大きな要素となって行くのである。合宿での個性伸ばしもこの必殺技作りのための下拵えだったという。

 

そして各自がエクトプラズムの個性である"分身"がそれぞれ一人ずつ付きながらの個人授業に近いスタンスになるという。それぞれの場所はTDLの考案者であるセメントスが個性によって、床のセメントを変化させてそれぞれ場所を作りそこで行って行く事となる。そして、必殺技の考案が始まって行く事となった。

 

 

「宜しくお願いします、エクトプラズム先生!」

「ウム。デハ剣崎君、君ニ問ウガ必殺技ノ明確ナヴィジョン、又ハ既ニ出来テイルノカ」

「ええっと、個性で走る速度と跳躍力を強化してから飛び蹴りをする"マイティキック"ていうのを考えてます」

「成程、君ノ個性ハ身体能力強化トイウノハ安定性トイウ意味デハ恐ラクトップクラス。故ニ無理ニ必殺技ヲ作ル必要皆無トモ言エル」

 

純粋な増強型の個性というのはシンプルさ故の強力さを秘めているので、個性を発動しながら何かしらの行動をするだけでも十分な必殺技として通用する場合が多い。剣崎の場合だと純粋に腕力を強化してそのまま殴るだけでも大きな威力を発揮出来る。言うなれば個性そのものが必殺技とも言える。

 

「シカシ、シンプルデアルカラコソ技ヲ構築シテオイタ場合ガ良イ事モ存在シテイル」

「例えばどんな感じなんですか?」

「選択肢ガ多スギル、ソレハ逆ニ言エバ適切ナ選択肢ヲ選択出来ナイトイウ事ヲ招キカネナイ。使イ手ニ高イ能力ヲ強イル事ニ成リ、パニックトナル恐レガアル。ヒーロー活動中ニ恐レル事ハ冷静サノ喪失」

「成程……」

 

不意の事態。それはヒーローである以上幾度も遭遇する必然でもある。それらに冷静に対処していき、責務を果たす者こそヒーローと言える。応用の幅があるというのは素晴らしい事だが、それゆえに危機を招くという事は非常に多い事でもあるらしい。エクトプラズムに言われて剣崎は改めて仮面ライダーとして活動していた時、何かあったらラウズカードを使う事で危機を脱して来た事を思い出す。それはラウズカードが必殺技として機能し、それらで危機を脱せられると分かっていたからだ。つまり、必殺技とは自らの気持ちを安定させながら活動に軸を持たせる重要な存在。

 

「君ノ場合、先程ノ"マイティキック"。コノヨウニ決マッタ動作ガアル事デ、コレガ決マラナケレバ別ノ技、撤退スルトイウ選択ガ出現スル」

「成程。つまり、俺に必要なのは必殺技という名の選択肢」

「ソウダ。我ノ場合、分身ハ多数ノヴィランナドニハ有効。ダガ巨大ナ相手ニハ効果ガ薄クナリガチダ、故ニ分身ヲ収束サセ巨大ナ分身ヲ創造スル技ヲ作リ上ゲタ。選択肢トハ、ソウイウ事ダ」

「えっとじゃあこんなのって如何なんですかね?」

「言ッテミルガヨイ」

 

剣崎は試しに脚力を限界まで高めてジャンプしたり、腕力を高めて殴るときの衝撃波を利用したり、投げ技を必殺技にするのもありかと尋ねた所、エクトプラズムは大いに結構と太鼓判を押すのであった。そしてそれらの本格的な特訓が始まるのであった。


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