救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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A VS B 足し算

B組の担任であるブラドキングからの申し出を受けた相澤が了承した事で成立したA組対B組の模擬戦、それも仮免での試験を意識しているからだろうか。仮免では雄英の入試のようにロボではなく同じく個性を持った人間が相手となる。それを強く意識して仮免への意識を強めようというのが狙い、それもあるがブラドキングにとっては自分のクラスで唯一の補習を受けた物間に経験を積ませる狙いもあった。

 

「物間張り切って行けよ~!!」

「相手は体育祭1位だ、下克上しちまえ!!」

「ああっ当然だよ。1位に胡坐を搔いている奴なんかには負けないさっ!!」

 

などと応援の言葉を掛けられてそれに対して力強い言葉で返す物間、しかし一方である担任のブラドキングは正直言ってこの勝負で剣崎が出て来た時点で良い経験になれば良いとしか思っておらず物間が勝てる可能性なんて考えていなかった。物間の個性の関係上、剣崎は相性が悪い相手とも言える。だからこそ良い経験になるとも思っている。

 

「剣崎油断せずに行けよ~!!」

「初ちゃんファイト~!!なんだったら、初ちゃんのためなら今此処でチアガールになっても良いわ!!」

『すいませんそれは止めてください』

「アァン上鳴ちゃんと峰田ちゃんそれどういう事かしら!!?」

「はははっ応援有難うね」

 

そんなコント染みた光景を見て気持ちがほぐれている剣崎はメットで隠れてしまっているので手を振って反応を返す。ストレッチをしながら向かい合っている物間に視線を向けて、意識を集中する。物間が纏っているコスチュームは自分の元とは違い、タキシードのような物で特殊な機構があるとは思い難い物。強いていうのであれば、腰の時計が気になる程度だろうか。

 

「それではこれよりA組対B組の模擬戦を行います、ルールは私が作ったステージから出てしまうか相手が気絶するか戦闘不能と判断された場合となります。両者とも用意は宜しいですね?」

「俺は何時でも良いですよ」

「こっちもです」

 

審判を勤めるセメントスが両者に確認を取りながら片腕を大きく上げる、アレが下ろされた瞬間が試合開始を告げる合図となる。身体を沈ませていく剣崎は同時に網膜投影されているデータを見ながら、行動を幾つか選択する。物間も同じように身体を沈ませていく―――そして、

 

「開始っ!!!」

 

セメントスの合図と同時に物間は一気に地面を蹴って接近して行く、だがそれよりもずっと早く地面を蹴って即座に接近した剣崎。身体能力の差が如実に現れている、メットで隠れているので表情は隠れているだろうが彼の表情は鋭い物になっている。

 

「はっ力に物を言わせた力押しとは滑稽だねそれしか出来ないのかな!!?」

「優れてる物を使うのは割と常套手段だと思うけどなぁ」

 

と煽られるがそれにマジレスで答えながらも鋭い連続の蹴りを繰り出して行く。物間はそれを寸前で回避しようとする―――が、蹴りと同時に巻き起こる爆風じみている蹴りが巻き起こす風に圧されてしまい後ろへと退いてしまう。それでもなんとか前へと進み直して、今度は逆にフェイントを混ぜながら攻撃を開始するがそれは軽く受け流された上で腹部へと鋭い一撃が突き刺さった。

 

「がぁっ……!!?」

 

それを受けた物間は吹き飛ばされる、空気を切り裂いて一気に場外へと飛んで行こうとしたが必死に地面に足を突き刺すようにして身体を繋ぎ止めて踏ん張った。重い一撃が入ったはずだが物間の表情は寧ろ明るく、不敵な物へと変化していった。

 

「アハハハッまだまだ、君は君の力で負ける、正に滑稽な最後を上げるよ!!」

 

そう言いながら先程と同じように地面を蹴って一気に接近するが、先程とは段違いの速度を発揮して急接近してくる。まるで剣崎のような速度を出して迫ってくる物間、そして思いっきり腕を振り切ってお返しと言わんばかりに剣崎の腹部へとパンチを炸裂させる。その際の衝撃は身体をつき抜けるかのように、大きな音を立てた。

 

「はっどうだい君の個性を受けた気分は!!良い気持ちだろう、君はそうやってこれを押し付けていたんだからね!!良い経験になっただろうね!!」

 

物間 寧人の個性は"コピー"、触れた相手の個性を5分間の間自由に使用する事が出来るという物。相対する個性が強ければ自分もそれだけ強くなる事が出来る強力な個性を宿している、そして今は剣崎の"身体能力強化"の個性をコピーしており、鍛え上げられた剣崎と同じレベルの個性を所持している事になる。その一撃は非常に重い筈、1組の皆が心配する中、剣崎は物間の腹部へとお返しと言わんばかりの一撃を放って彼を後退させた。

 

「これが俺の個性か……成程な、本当に良い経験になるなこれ。自分の個性を客観的に見れるなんて機会中々無いもんな」

「ど、如何して、平気なん、だっ……!?君の、君の個性を最大限使った一撃だぞ……!?」

 

確かに重い一撃を叩き込んだ筈なのにケロッとしている剣崎に物間は動揺してしまっていた。体育祭の時から剣崎の強さを見て、それを認めた上で最適な使い方をしたと分かっている筈。それなのに全く堪えている様子が皆無という事態に驚愕していた。

 

「俺の個性は身体が大きく関係してるし、流石に俺と君とじゃ身体のレベルが違うから同じ威力は出ないぞ。今のは良い所30%位だ」

「ッッッ……!!!」

 

同じ個性を所有者と全く同じレベルまでコピーして使用出来る個性、それは非常に強力で同時に二つとかは使うことが出来ないという弱点が存在するがタイミングよく使い分ければ様々な攻撃に対応可能。そんな一面を持つ中で、物間のコピーは相手の身体レベルまではコピーできない。あくまで個性のみ。剣崎のような身体能力を強化する類の物の場合は、本人の身体の鍛え方や戦いが結果に影響するので相性は悪い。

 

剣崎は仮面ライダーとしても活動してきただけではなく、ずっと身体を鍛え続けていた。それこそ超重量の鉄を持ち上げて森の中を進んでいけるほどに身体が出来上がっている。そんな剣崎と物間では身体の出来上がるのレベルが違い過ぎる。

 

「確かに痛い、だけど出久の一発の方がよっぽど強いから耐える事は出来る」

「グッ……ハ、ハハハハッ可笑しいね、君は他人の方が強いと簡単に決めるんだね……!!」

「いやそりゃそうでしょ、俺はどっちかと言ったら足し算で出久は掛け算みたいなもんだ。流石にその差はでかい、だから俺は戦い方でそれを埋める……そう決めたんだよ」

 

軽く、地面を蹴って物間の前へと到達した剣崎。思わず目を見開いた物間の視線の先には限界まで引かれた矢のように、引き絞られた腕がそこにあった。自分が放った全力の一撃よりも遥か上を行くそれは迫っている、だが動けなかった。そして―――瞬時に振るわれた一撃が物間へと顔面へと迫って行った。これを受ければ間違いなく顔面が潰れる、そう思っても避けられない。思わず目を閉じてしまった、恐怖に負けてしまった。威圧的な姿も相まって自分に拳を向けるいまの剣崎は酷く恐ろしい物だった。

 

「そこまでだ剣崎、この模擬戦は終了とする。それで良いなブラド」

「ああっ良い経験になったと思う。感謝するぞ」

「礼なら奴に言え」

 

そんな声が聞こえてきて物間は目を開けると、そこには自分に背を向けて1組の仲間の元へと歩いていく剣崎の姿があって様々な思いが溢れ出て来たが安心感が真っ先に出てきて座り込んでしまった。そんな彼の元へとブラドキングが歩み寄り、優しく肩を叩いた。

 

「良くやった、さあお前も必殺技に励むんだ」

「……はい、先生」

 

 

「剣崎、お前最後全力で殴るつもりだったか」

「いえ50%でやるつもりでした、メーターだと53%でしたけど」

「そうか、誤差は常に5%以内を目指すように」

「分かりました!」


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