「……ふぃぃっ~……」
間も無く仮免試験の当日になろうとしている頃、剣崎は夜遅くになって寮への帰路へと着いていた。仮免に向けての必殺技作り、そしてそれらが終わってからは仮面ライダーとしての活動を行っている。既に日常の一部となってしまっている為か、剣崎は溜息程度に済ませているがこの日の剣崎はビルの大崩落現場という場に赴いて多くの人達を救って来たばかりであった。鉄骨などが地面から生えるという異様な状況の中で命の危機などに瀕していた人々を救ってきた彼は流石に疲れているのか、時々肩を回している。
「風呂にでも入って疲れ取りたいな……」
神経を遣った救出作業に心肺停止状態などの人に対する治療、それらにすら手を出してしまった故に想像以上の疲労が身体に積み重なってしまっている。出力調整をした電撃で心臓の動きを正常化させた後に回復させたりもした。酷く神経を使った事に剣崎は心身共にお疲れモードであった。
「お帰りなさい剣崎ちゃん」
「梅雨、ちゃん。ああっただいま」
間も無く寮に着こうとしている時に目の前にやってきた梅雨ちゃんが自分を笑顔で出迎えてくれる、それに一抹の嬉しさを感じながら疲れが一瞬吹き飛ぶのを感じて笑顔でそれを返す。両親が生きていた頃に父を笑顔で出迎えると元気が出て来たと言っていたが、確かにこれは元気が出てくる。
「今日も大変だったみたいね、今も凄いニュースになってるわよ仮面ライダーの事」
「ああっやっぱり……?」
「ええっ今皆で談話室のTVを見てる所よ」
愛しの彼の苦労を労いながら共に寮へと入っていく、談話室へと入って行くと皆がお帰りと声を掛けてくる。建前上はコスチュームに関する調整という事になっている剣崎は特に怪しまれずに談話へと参加する。
「よぉ剣崎、お疲れだな。今シフォンケーキ食べてるんだけどお前も食うだろ?」
「ああ、出来れば貰いたいな」
「んじゃ今持ってくるから座って待っててくれ」
砂藤の言葉を素直に受け取りながらソファに梅雨ちゃんともに座り込んだ剣崎、皆がみているTVへと視線を向けてみるとそこには自分が救出作業を行っていた現場での事が大々的に放送されていた。
『超高層ビルが突然の崩落、多くの怪我人が出る中に現れた救いのヒーロー仮面ライダー!!』
というテロップが凄い自己主張をしながら表示されている、超望遠カメラによる撮影は自分が行っていた救助活動が鮮明に記録されている。磁力の力で鉄材などを退けながら取り残された人達の救出に瓦礫の撤去、重傷者に対する処置など……次々と上げられていく自分の行動に少し恥ずかしさを抱いている時に切島が大声でカッコいい!!と叫ぶ。
「すっげぇな仮面ライダー!!あんな場所に躊躇なく向かって行って多くの人達を救うとかマジもんの英雄じゃねえか!!」
「いやでもマジで凄いよな……瓦礫の中に居て助けられない人を簡単に救い出して、治療までする。ホント何者なんだよこの人……」
「あそこまでの実力者ならば、正式にプロとしての資格をとって活動をすれば宜しいのに……如何して違法自警者として活動を続けるのでしょうか……」
そんな仮面ライダーに対して思わず八百万はそんな言葉を向けてしまう、実際今現在は仮面ライダーを違法自警者として捕縛しようとする動きは目立っていない。というよりも捕まえるのがヴィランよりも遥かに難しい上に、下手に捕まえたら彼に助けられた人達から凄まじいバッシングを受ける事を恐れていると言っても過言ではない。スカウトへと切り替えて、ヒーローは一旦仮面ライダーを連行した上で正式なスカウトをしようとしているのだが、それすら無視する仮面ライダーに対しては謎が深まり続けている。
「ほい剣崎、シフォンケーキ」
「あっ悪いな」
「良いって。そう言えばさ、麗日と梅雨ちゃんって仮面ライダーに助けられたんだよな?二人は何か知らないのか、仮面ライダーがプロにならないのかって」
「いやそんな事言われても……うちは分からないよ」
そんな風に聞かれたとしても麗日も困ってしまう。本当に偶然的な感じで助けられただけで、詳しい話もしていなかったのでよく分からないと言うのが素直な本音であった。そんな梅雨ちゃんが応える。
「ケロッ……多分だけど、彼はただ人を救いたいだけなんだと思うわ」
「救いたいだけ、ですか?」
「多分だけどね」
「フム……確かにそのような印象を受けるな。件の仮面の騎士は自らを贄とし人々に光を齎す存在、だと俺も思う」
梅雨ちゃんに同意したのは常闇もだった、彼も林間学校にて仮面ライダーに助けられ無事に宿泊所まで送り届けてもらった恩がある。
「つまり、仮面ライダーは人を救いたいだけ。プロヒーローという役職や報酬などには興味がないという事ですか?」
「そうだとしたらすげぇけど、なんか凄すぎてアレな感じだな」
「今のヒーローとはなんか対極的な感じだね……」
「うむ、ヒーロー殺しが求めた自己犠牲の果てのヒーローと言うべきなのかもな」
「言い方はアレな感じだけどな、まあそう思いたくなっちまう凄みが有るよな」
そんな言葉が次々と投げ掛けられていく。高潔、カッコいいなどと上げられていく言葉に剣崎は少々気恥ずかしさを覚えてしまっていたが、それを隠すようにシフォンケーキに喰らい付く。事情を知っている出久と梅雨ちゃんはそれを見て微笑ましい物を見るような目で見つめる。そんな中、爆豪が言った。
「自分が強ぇ、なんて考えた事は無い。何が出来るかで判断する、強ぇと粋がるのは良い、精神的な成長にも密接に関係する。だが時にそれが慢心を生み、自らを貶める……」
「かっちゃんそれって、あの時仮面ライダーが言ってた……」
「―――あいつはもっと先にいる、俺は其処に行く」
そんな風に言う爆豪の瞳はギラギラと輝きながらも、今までとは違うように光を放っている。そんな彼の言葉と共に、仮免試験の当日がやってくる。