救いのヒーローになりたい俺の約束   作:魔女っ子アルト姫

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仮免、一次試験。

「剣崎ちゃん、相当辛かったのね林間合宿。声を聞いただけであの反応って……緑谷ちゃんもだけど何があったの?」

「色々、あったんだよマジで……」

「うん……本当に、ね……」

「お前ら、一体どんな訓練内容だったんだ?」

 

と虎が去った後に皆が試験会場へと進んでいく中で思わず皆が先程の剣崎と出久の豹変振りに思わず林間合宿でどのような訓練をしていたのかと本当に気になってしまった。自分達ですら辛く厳しい物であったのも関わらずこの二人の場合はもっとというのが先程のやり取りでよく分かった。それですら、切島などが腕が上がらなくなっていたのにこの二人の内容はどんな物だったのだろうか。

 

『……本当に聞きたい?』

 

と死んだ瞳で振り返りながら笑みを作りながら聞き返す二人、それに思わず引き気味になりながら遠慮しておくと口を揃えて言うのであった。あの剣崎すらそんな表情を作ってしまっている、それは逆に訓練内容の厳しさを同時に皆に教えているというのと同義であった。

 

「剣崎、なにか相談したい事があったら言えよ。お前には借りがある」

「サンキュ轟……って俺なんかしたっけ?」

「お前は俺の中にあった個性の壁を壊してくれた、だから炎と氷を使う今の俺が居る、そういうことだ」

「ああっ別に気にしなくていいのによ」

「お前には当たり前の事をしたかも知れないけど、俺にとっては重要って事だ」

 

肩を叩いて力になると言ってくる轟に対して感謝を述べる剣崎、なんだかんだでこの二人は仲が良く偶に昼食を一緒に食べたり共に訓練を行っている姿が目撃されたりしている。轟も個性が強力なゆえに力押しになってしまっている部分を改善する為に色々と試したりしているようである。

 

「にしても試験って何すんだろうな」

「う~ん……相澤先生は年によってやる内容が違うって言ってたから断定は出来ないね」

「ヒーローにとって何が必要か、って事を試すのは確定だろうな」

「んじゃ今のヒーローに必要な物って何だ?」

 

剣崎がそう問いかけてみると皆に問いかけてみると各々がそれぞれの意見を出していく。

 

「カッコよさだろ!!」

「いや勇猛さ!!」

「人々の模範となり正義を成す真面目さ!!」

「優しさ、とか?」

「強さじゃねぇか」

「やっぱり色々必要な物ってあるわね」

「だね……となるとそれらを試す試験……対人とか救助とかかな」

 

様々な話を行って試験内容を仮定しながら説明の会場へと乗り込んでいくが、其処に広がっているのはとんでもない人数でごった返されている会場であった。100人や200人では説明し切れないほどの人数が会場の中に詰めている。まるで雄英の入試を思い出すかのような光景に圧倒される皆、そんな中で壇上に一人が立つと皆の視線が其処へ集中していく。

 

「えっ~……それでは仮免のアレをね、説明始めて行きたいと、思います……私は、ヒーロー公安委員会の目良です、好きな睡眠はノンレム睡眠、どうぞ宜しく……」

 

如何にも疲れ切っていますという目良は人手不足による激務で睡眠不足である事を告白しながら、今すぐにでも寝たいという事を言いながら説明を開始する。本当に良いのかこの人で、と思う受験者も多かった。事実、出久もそう思ったりしている。

 

「え~最初に言わせていただきますとずばり、この場にいる1540名一斉に勝ち抜けの演習を行って貰います。現代はヒーロー飽和社会と言われ、ヒーロー殺し「ステイン」逮捕以降ヒーローのあり方に疑問を呈する向きも少なくありません」

 

「ヒーローとは見返りを求めてはならない、自己犠牲の果てに得うる称号でなくてはならない」というステインの主張。そんな主張に納得を示しそうで有るべきと叫ぶ者、否定する者が多く生まれている。剣崎もそれに対して言えない、彼の仮面ライダーとしての生き方は正にそれだからである。誰かの笑顔こそが最大の報酬であると考える剣崎にはそれを否定する権利は持ち合わせていないし、同意すら浮かべてしまう。

 

「まあ個人的には見解としましては、否定こそしませんが現代社会的に動機がどうであれ命懸けで人助けしている人に何も求めるな、というのはアレだと思います。レスキュー隊なんかだってお給料を貰っている訳ですからね、何かを成した人達には何かしらの対価を与えるべきだ、とも思います。まあ何にせよ、ヴィランの退治や救出、それらを行うヒーロー達の活動は常に切磋琢磨されている現状では発生から解決までのタイムは引くぐらいに短縮されています。故にヒーロー社会はスピード社会、それに着いてこれないのは厳しい。よって試されるはスピードという事をご理解した上で、条件達成者は先着100名を一次試験合格者としますので宜しく」

 

目良の言葉は分かる、だがそれでも受験者は合計で1540人も居る。その中で僅か100名しか試験を突破する事が出来ない。その言葉に受験者から戸惑いの声が溢れだす、相澤の話では合格者は5割とされていた。それを遥かに下回る人数でしかも先着、僅か100という門を全員が争って潜り抜けなければならない。流石の条件に意見する者もいるが、世間で色々あったからこういう事になった。だから運が悪いと思ってくれという言葉に意見は封殺される。

 

「それじゃあ試験の内容について詳しく説明しますね」

 

まず受験者にはターゲット3つとボール6つが配布される。このターゲットにボールを当てると光が灯る。このターゲットの三つ目を光らせた者が倒した者となり、二人倒せば合格となり、3つのターゲットにボールを当てられた者は脱落となる。但し幾つかの注意事項もある。

 

1.ターゲットは体の好きな場所に付ける事が出来る、しかし脇や足裏などの見えない場所はNG。常に見える場所に付ける事、コスチュームのマントの裏などもアウト。

2.あくまで3つ目のターゲットを光らせる(奪う)、これが重要。故に他人が2つ光らせた人物の最後のターゲットを光らせる事が出来れば、自分がその人物を脱落させ、自分の合格条件を満たす事にも繋がる。

 

「入試に似てる……でも内容は全然違う、寧ろ奪い合いを推奨してる……」

「常闇が蟲毒と言ってたが、言い得て妙って奴だな」

 

そしてターゲットとボールが配布されるのだが、その前に説明会場の壁と天井が展開して直接試験会場へと出られるようになった。会場はまるで雄英のUSJと似ていて、各所に環境の違うフィールドが準備されていて各々戦い易い場でやってくれという物らしい。そして全員がターゲットとボールを受け取ると受験生全員がそれぞれ動きやすい場へと移動していく。

 

「飯田、林間合宿のときみたいに纏って行こう。ここは個人よりも集団で取りに行った方が確実だ!!」

「了解した!!皆移動を開始しよう、異論は!?」

 

全員に確認すると出久は真っ先に爆豪を見るが、爆豪は個人で動こうとせずに共に居続けた。

 

「……ねぇよ。おいウェイ野郎」

「だからその呼び名如何にかしろ……んで何」

「……てめぇ今度もまともな指示出しやがれ」

「あいよ。轟もいいな」

「ああ。構わない」

 

と全員が纏って行動する事が決定して一斉に移動を開始する、雄英生達は全員が体育祭にて個性をばらしている。この中では圧倒的なアドバンテージを受験相手全員に与えている、故に不利と言わざるを得ない。

 

「多分、相澤先生ワザと言ってないよねっ体育祭で個性とか色々バレてるって事!!」

「だろうなっ!!まあプロになったら個性公開とか当たり前だからな、相手がヴィランだと思えば当然の事って事だろ。合理主義者の先生らしい!!」

 

つまり―――試験開始と同時に行われるのは……雄英生徒への一斉攻撃。

 

「さあ来るぞ、言うなれば雄英潰しって奴か!!」

 

彼方此方から一斉に飛び出してくる他校の生徒達、視界を埋め尽くす勢いで此方への敵意を向けながらボール投げつけてくる。

 

仮免試験一次予選、開幕。


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