あまつかぜ 作:天津k
ズキズキとした痛みで目が覚めた。
周りは暗めで、床の感触からしてコンクリートのようだ。
起き上がろうとしたが、体はあまり動かない。
直前までの記憶を思い出そうとすれば、いつも通り会社から帰って、ちょっとしたアクシデントのせいで疲れ果てていたため、泥のように眠りについたのを思い出す。
一瞬寝相が悪くて床に落ちたのかとも思ったが、寝室の床は絨毯を敷いているし、何よりもコンクリの床なんかではない。
それに、全身にこんな痛みが走るような怪我はしていなかったはず。
何とか全身に喝を入れ、痛みを我慢しつつ起き上がり、軽く周りを見渡せば、軽く雲のかかる、欠けた青ざめたような月が覗く鉄格子のはめられた窓が見える。
そこからの、少し冷たい風に体を軽く震わせると同時に、いくつもの違和感を感じた。
首元の圧迫感や、手足の不自由さ、それに、着ている服もだ。
かかっていた雲が流れたのか、月の明かりがより強く部屋を照らし、自分の体も鮮明に見えるようになった。
手足には鎖に繋がれた手錠、服は、かろうじて秘部を隠す程度のボロ布のような貫頭衣が1枚。
これは寝ている間に誘拐をされたのか?そんな考えがよぎるが、さらにおかしなことに気がつく。
手足がいつも見る少し日に焼け、筋肉のついたものではなく、少女のような、真っ白で細く華奢なものに変わっていた。
疑問に感じ貫頭衣をめくればやはり男の象徴は見当たらず、「少女のような」どではなく、正しく「少女の」身体になっているようだ。
困惑はある。
疑問も感じる。
しかし、不思議と焦りを感じない。なんというかもはや何かを諦めてしまったように、何もかもがどうでも良いような……。
「いや……ダメでしょ……」
危なかった、なんだか分からないが、自分の感情がおかしなことになっていた。
案の定、声も可憐なものに変わり果てていたが、そんなことよりもどうすればいいか……。
見たところ繋がれているせいでこの部屋の外には出ることが出来なさそうで、首の圧迫感は首輪かなにかを付けられているようだ。
感触からして革製の首輪かもしれないが、やはり擦れて痛い。
改めて部屋を見渡してみると、外に繋がっていそうなのは格子の窓以外、鉄製の丈夫そうな扉ひとつのみだ。
他には軽い仕切りが部屋の隅にあるのと、箱がひとつ置いてあるだけ。
「痛っ」
箱の中身を見るため、立とうとしたが、またも痛みが走る。
痛みの発生源を見てみれば、暗くて気が付かなかったが、青アザになっている所や、腫れている部分がいくつも見受けられる。
こんな環境だ、誰かに監禁、暴行でもされているのだろう。
無意識のうちに貫頭衣の裾を握りしめていると、箱から「ごそり」と、そんな音が聞こえてきた。
四つん這いで何とか近づけば、中には、軍艦などに着いているような砲……これは……連装砲?を可愛らしいロボットにしたような、そんなものが入っていた。
だが、砲身は少し曲がり、顔に当たる部分の目の模様は涙目になっているよう。
「連装砲くん……」
ふとそんな言葉が口から出ると、箱の中のロボットは答えるかのように「キュイ」とひと鳴きする。
どうやら、この子は連装砲くんで合っていたようだ。
何となく、この子を抱き上げると中には穴がいくつか空いた大きめの布があった。ちょうど寒かったし、この布を一緒に使わせてもらおうか?
「連装砲くん……一緒に寝てもいい?」
やはり連装砲くんはこちらの言葉を理解しているようで、肯定の意を示すかのように抱いている手を軽くペシペシした後、またひと鳴きした。
箱から大布を取り出して部屋の隅に移動し、連装砲くんを抱き抱えながら布にくるまって横になる。
今は他にできることは無いし、冷静でも判断材料が無さすぎるから、もう寝ることにした。
布は、穴が空いていたが案外暖かかった。
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朝、どうやら案外ぐっすり眠れたようで、目の疲れや寝不足のだるさは感じない。
アザなどの痛みはまだ残っているが、昨夜よりも断然痛くない。
どういう事だろうか?普通ならこんなに早く治ることは無いけども……。
格子窓からふわりと朝風が部屋に流れ込み、からだと一緒に変わった、長い髪の毛を揺らす。
「いい風…かな…」
少し潮の匂いがするから、ここは海の近くなのだろうか?
昨日、抱き抱えたままだった連装砲くんを見てみれば、未だ寝ている?ようで、顔の目の模様は閉じられ、口の部分にはよだれのような模様が出ている。
その様子に、思わず口を弛め、眺めてしまったがそんな時間もすぐに終わりが来た。
扉が勢いよく開け放たれたと思うと、そこから白い……軍服?のようなものを着た、よく肥えたおっさんが入ってきた。が、冷静でいられたのはそれを認識したところまでだ。
それと同時に、全身が震え、胸の内から理解不能な恐怖が溢れ、視界が揺れる。
目の前の男はなにか怒鳴りながらこちらの髪の毛をつかみ上げ、無理やり立たせると次の瞬間
お腹に強い衝撃とともに、昨晩などとは較べにならないほどの痛みが生じる。
思わずお腹を抑えようとすると、手錠に繋がれた鎖を捕まれ、壁に押さえつけられる。
そしてもう一撃、お腹に向けて今度は蹴りが入れられた。
先ほどと全く同じ場所を蹴られたためか、頭がやききれるんじゃないかという程の痛みにしゃがみこんでしまう。
すると男はこちらの貫頭衣を引っ張り、なにかを喚きながらひたすら蹴ってくる。
体を丸めて何とか急所を守ることしか出来ず、逃がすことの出来ない痛みに、細い悲鳴やうめき声を上げていると、ようやくその攻撃は止まった。
僅かに顔を動かして様子を伺えば、こちらを見下しながらお前は人質としてもストレス解消にも最高の働きをしてるぞなどとのたまっている。
人質?何の?
そんな疑問が思い浮かぶが、体が限界に達したのか視界がぼやけ始め、最後にはあの男の愉悦に歪んだ顔が見えただけだった。
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体の痛みで意識が覚醒する。
この短期間で2回も同じような起き方をしてしまった。
なんとか体を起こし、格子窓まで這っていくとそこからはまだ高い位置にある太陽がみてとれた。
そこまで長い時間気絶していたわけではなさそうだ。
と、外を見ていると目に水のようなものが入り、思わず擦ってしまう。手見てみてみれば赤い血が着いており、先程のあの暴行でどこか切れてしまっていたようだ。
血は出ているが、ほかが痛過ぎてどこを切ったのかわからない。
貫頭衣の縁でも使って抑えておこうかと思い、つまみ上げてみれば、先程引っ張られた時に破れてしまっていたようだが、まあ、元々あってないようなものだったから気にせず頭に布切れをあてがい、ボロ布の上に横になる。
そこに連装砲くんがちょこちょこと近付いてきて、心配そうにこちらに手を乗せてくる。
彼の曲がっていた砲身も片方が完全に折れてしまっている……よく見ればこちらと同じ箇所に傷ができており、この不思議なロボット?生物?はこの身体とリンクしているのだろうか?
「ありがとう、連装砲くん」
安心させるためにそう言って撫でてあげ、安静にするために再度寝ようとした所で、控えめなノック音が聞こえた。
思わずビクリとしてしまったが、先程の男ならこんな事せず勝手に乱暴に入ってくるであろうことから別人なのだろう。
返事をしようかどうか迷っているとゆっくりと扉が開き、そこから赤髪を黄色いリボンでツインテールにした、勝気そうな女の子が入ってきた。
強ばっていた体から緊張が溶け、ほんの少しの安心感が湧いてきた。
だが、誰かはよく分からない。
連装砲くんやあの男を見た時のように、見覚えなどがないため、多分会うのは初めてなのだろう。
ただ、別のどこか……そう、男の頃に何かで見た事がある気がする。
……なんだったか?
「はじめまして……よね」
自然と喋り方が女のようになっていたが、体がそうだから都合がいいなと思いつつ返事を待つ。
そして女の子は「えぇ、そう……」と何か言いかけたかと思うと、目を見開いてこちらに駆け寄ってきた。
「っ、け、怪我しているじゃない!しかもこんなに血が……!」
どうやらこの額の血に反応したようで慌てながらハンカチを当ててきた。
「あの……」
「あっ、その……大丈夫……じゃあなさそうよね」
「いえ、大丈夫よ……それよりアナタは?」
「……私は陽炎型駆逐艦一番艦、陽炎よ。まあ貴女のお姉ちゃんってやつね」
「陽……炎……」
「とにかく、手当しないと……少し待っててね」
そう言って彼女は部屋から出ていき、少しすると手に箱を持って戻ってきた。
「ごめんね、少ししみるかもしれないけど」
そう言い、消毒液らしきものを患部に吹き付け、ガーゼを貼ってくれた。
アザなどにも塗り薬をぬり、新しい貫頭衣も持ってきてくれた。
「……その、ありがとう」
「お礼はいいわ、むしろまここから連れだしてあげることがまだ出来ないのが申し訳ないわ……」
「そう……」
たしか、人質とか言っていたけども、この子、陽炎達に対しての人質と言うやつなのだろうか?
しかしなぜ……。
「あの、少し聞いてもいい?」
そう一言添えてから疑問をぶつける。
私は何故捕まっているのか、その理由。
彼女が言うには私たちは艦娘として、深海棲艦と戦うことが使命なのだが、あの男……提督は、私や、ほか数人の艦娘を人質にして、ほかの姉妹艦を無理やり従わせ、無理な艦隊運用を行っているらしい。
告発しようにも、以前姉妹を助けるために告発しようとした艦娘がいたのだが、ここの憲兵により捕まり嬲られて解体されたらしい。
やつ自身、かなり位の高い提督らしく、艦娘以外には奴の息がかかった者が多いとのことだ。
そんなことがあり、皆逆らうことが出来ないらしい。
陽炎型も、私という人質を取られ、毎日無理な出撃や遠征を繰り返し行わせられているらしい。
そして、ある程度の結果を出したから、私に面会することを許されたらしい。
「そんなことが……」
「ええ、でも安心して?私たちがもっと成果を上げれば、あなたを解放してくれるらしいの……だから、もう少し待っててね?」
本当にそうなら、嬉しいけども……あの提督が本当にそんな約束守るだろうか?
それに、そんな無理な出撃?を繰り返して平気なのだろうか?
未だ出撃などについてよく分かっていない私だが、危険なことだというのは分かる。
「無理は……しないで、私なんかのために」
そう伝えると陽炎は優しく微笑んでこちらの頭を抱きしめ「大丈夫」と一言言うと、面会の時間が終わるようで憲兵に外に連れ出された。
「あまりいい風じゃないわね……」
窓から吹き込んでくる風邪は生暖かく、気持ちのいいものではなかった。
ちなみに手足の拘束はかなり長めの鎖なので部屋の中なら自由に動けます。首輪は作者の趣味では無いです、本当です。
中身男でも天津風をボコるのはかなり心が痛いです。助けて。