「ま、ま、ゆっくりしていってね! それにしてもソウゴ君たちも大変だったねー。あの爆発事故の近くに居たんだから」
「うん、まあ、怪我も大したことなかったし」
「それだけでも良かったよー。でも、可哀想な話だよねー。一人巻き添えになっちゃったみたいだし……」
スウォルツによるアナザーキメラことオーラの自爆は、かなりの騒動になっておりパトカー、救急車、消防車が一斉に駆けつけてくる事態となった。
ソウゴたちは自身が負った怪我を偶々その現場近くに居た為のものだと順一郎に説明をし、誤魔化すことが出来た。
一人巻き添えと聞き、オーラのことを思い出してソウゴは陰鬱な気分になる。あの自爆によってオーラは命を落とすこととなった。ソウゴたちは何もすることが出来ず、警察官たちに任せる形となってしまった。
彼らもさぞ不思議に思っただろう。爆発物の無い場所で爆発が起こり、その爆心地で何故か無傷の遺体が横たわっていたのだから。
オーラの死はソウゴたちに暗い影を落とす。敵だったとはいえその死を喜ぶことなど到底出来ず、ましてやこんな形の決着など望んでいない。
順一郎はソウゴたちの顔付きを見て『しまった』という表情をした。いくらショッキングな出来事だったとはいえ他人の死を話題にしてしまったせいで、場の空気を冷めさせたと勘違いをする。
出来れば何か別の方法でこの空気をどうにかしようと考え、ある物のこと思い出す。
「あ、そうだ! ちょっと待っててね!」
急いで台所に戻っていく順一郎。彼の存在の御陰で緩和されていた空気が、一気に元の息苦しさを取り戻す。
「ツクヨミ……何で俺たちに無事だったことをすぐに伝えなかったの?」
重苦しい空気の中で最初に口を開いたのはソウゴであった。
「……ごめんなさい」
ツクヨミから出てきたのは謝罪の言葉。しかし、今ソウゴたちが聞きたいのはそれではない。
「あの後、何が起こったんだ? ツクヨミ。何故、よりにもよってコイツと一緒に行動している?」
ゲイツはツクヨミには柔らかい声で接するが、『コイツ』という言い方は刺々しいものであり、ついでに横目で飛流を睨む。睨まれた飛流の方は、ゲイツの敵意に満ちた視線を鼻で笑う。
「私は……加古川飛流に助けられたの」
「何だと……?」
ゲイツは疑う様な眼差しを飛流に向ける。
「あの危機的状況を彼の力で打開したというのかい? ツクヨミ君」
「ええ、そうよ。その時に思ったの。飛流の力ならスウォルツにも対抗出来るって」
「だからといって、こいつに協力を求めるなど──」
「それだけお前たちが頼りないってことだろ?」
「何……?」
小馬鹿にする飛流の態度にゲイツはゆっくりと椅子から立ち上がる。
「もう一度言ってみろ……!」
「図星を指されて怒ったのか? まあ、しょうがないよなぁ? 自分たちはおめおめと尻尾を巻いてスウォルツから逃げた負け犬だと認める様なもんだからなぁ!」
「こいつっ!」
殴り掛かりそうになるゲイツであったが、直前にソウゴとウォズがゲイツの肩を掴み、そのまま押さえつける様に椅子へ座らせる。
「ゲイツ、堪えて。ここで飛流と争っても意味無い」
「我々と彼が揉めてもスウォルツを喜ばせるだけだ。ここは我慢をしてくれ」
ソウゴとウォズも飛流の発言に何も思わないと言えば嘘になるが、それでも理性で抑え込む。二人の代わりにゲイツが怒鳴ってくれたおかげで少しだけ溜飲を下げられた。
「飛流。何でツクヨミと協力することにしたの?」
「それは私も気になっていた。余程のことが無ければ君がツクヨミ君と組む筈が無い」
スウォルツにいい様に利用された挙句、何処か知らない場所へと追放された飛流。ツクヨミと共通の敵を持っているのも理由にはなるが、前の様に一時的な共闘関係は結ばれるかもしれないが、その後関係が続くとは思えなかった。
「はっ。俺じゃなくて本人に聞いていたらどうだ?」
質問を突っ撥ね、ツクヨミへ投げる。
「じゃあ、ツクヨミ。教えてくれる?」
「何か弱みでも握られているのなら正直に言ってくれ」
飛流が答える気が無いので、仕方なくツクヨミに訊く。ゲイツの方は、飛流に無理矢理従わせられていると考えていた。
「今は……言えない。ごめんなさい……」
ツクヨミの口から出たのは拒否。それを聞いてソウゴたちは虚を衝かれた表情となる。まさか、仲間であるツクヨミも断るとは思っていなかった。
三人の表情を見て、ツクヨミは申し訳なさそうにするが、それでも答える気は無い様子。
今の状況で言える筈が無かった。スウォルツを倒した後に自分の命を好きにしていい、などという約束など。
言えばソウゴたちは必ずそれを止める為に飛流と敵対する。ただでさえ薄氷の様な協力関係である。それを切っ掛けにしてソウゴたちと飛流は争い合う可能性が高い。戦闘不能状態にならないまでも深いダメージを負うかもしれない。そうなって得するのはスウォルツ一人である。
完全な味方では無いが、辛うじて敵では無い。改めて加古川飛流の今のポジションの危うさを痛感させられる。
スウォルツのアナザーディケイドVEの力と時間を操る力は強力である。彼を倒すには今の戦力を欠かすことは出来ない。
「本当にごめんなさい……」
仲間に言うべきことを言えないことを心苦しく感じる。それが皆の為、などと恩着せがましい思いを抱くことすら厚かましい。それでもツクヨミは今のこの戦力がスウォルツに勝つ為の希望であった。
深々と頭を下げるツクヨミにソウゴたちは複雑な心境になる。強く知りたいと思う一方で、ツクヨミの並々ならぬ覚悟も伝わり、その覚悟を慮るべきだとも思ってしまう。
沈黙し悩む四人に対し、飛流はその光景を愉しむかの様に出された紅茶を飲みながら薄ら笑いを浮かべていた。苦渋を舐めさせられたソウゴらの苦悩は、飛流にとって茶請け代わりに丁度いい。
「──分かった。今は聞かないことにする」
ソウゴの決断にツクヨミは俯かせた顔を上げ、動揺する目でソウゴを見る。
「言いたくないってことは、きっとそれだけの理由がある筈だ。ツクヨミだからね」
「ソウゴ……」
「だから待つよ。ツクヨミが自分から言ってくれるまで」
秘密を告白するか否かはツクヨミの気持ちに任せる。ソウゴはそれで納得した。ゲイツは溜息を吐き、ソウゴを横目で少し睨むがそれ以上追究しようとはしない。ウォズもゲイツと同様である。二人もツクヨミを信じて待つことを選んだ。
「皆……ありがとう」
三人の気遣いに感謝し、ツクヨミは頭を下げる。問題を先延ばしにしただけかもしれないが、ツクヨミは心の整理をする時間を得られた。
四人で過ごしてきた日常の空気が戻りつつあるのか、それを面白く思わないのが飛流である。
「言えない秘密を抱えて仲間か。ふん、随分とお優しい、いや甘えた関係だな」
和気藹々としていた四人に水を差す飛流。
茶々を入れられたことに対し、ソウゴはそれを自覚した上で受け流し、ツクヨミは立場から強く言えることが出来ず甘んじてその言葉を受け入れ、ウォズは雑音としてさっさと聞き流す。が──
「……もう一度言ってみろ」
──各々が対応する中で、このメンバーの中で最も情に厚いと言えるゲイツだけは飛流の発言を黙っていることが出来なかった。
椅子から立ち上がり、向かいに座る飛流を鋭い目つきで見下ろす。
「図星を突かれて怒ったか?」
「仲間すら居ない奴に知ったような口を利かれれば誰だって腹が立つ!」
「何だと……?」
ゲイツに痛い所を突かれ、飛流は笑みを消し、こちらも椅子を押し退けながら立ち上がる。
殺気立った両者が至近距離で睨み合う。まさに一触即発の空気。
「表に出ろ……! お前とは一度決着を付けるべきだ!」
「面白い……やってみろ!」
ソウゴたちが止める間もなくゲイツと飛流がクジゴジ堂外へ出ようとする。丁度、そのタイミングで──
「あれ? 出かけちゃうの?」
──トレイを持って現れる順一郎。置かれている四枚の皿にはショートケーキが乗っていた。
「折角、ケーキを用意したのに……これさぁ、店にテレビの修理の依頼をしてきたお客さんからお礼で貰ったんだよねー。何でも凄い人が並ぶ店のケーキなんだって! しかも限定品!」
相変わらず時計屋なのに家電の修理ばかりを頼まれている順一郎は、目を輝かせてケーキの紹介をする。自身も料理だけでなく菓子作りにも興味を持っている為、自然と紹介に熱が入っていた。
「生菓子だから賞味期限が短いし、早く食べないと」
「叔父さん、ごめん。今はそういう状況じゃ……」
「そうなの? あ、そっちの君は食べてく?」
机の上にケーキを置く。すると、即座にケーキへフォークが突き刺さり、一口サイズに切り取られる。そのフォークを振るうのはさっきまで殺気立っていた筈の飛流であった。
『えっ』
ソウゴ、ゲイツ、ウォズは飛流のあまりに早い切り替えに驚く。
ソウゴたちの反応を無視して飛流は黙々とケーキを咀嚼する。
「美味しい? そういえば、名前を聞いていなかったけど……」
「……加古川飛流だ」
「加古川飛流? どっかで聞いたような……ああ、前にツクヨミちゃんとソウゴ君が言ってた! 何だ、やっぱりソウゴ君のお友達だったのかー!」
一人で納得する順一郎。ソウゴと友達と言われて飛流は苦いものを嚙んだ様に顔を顰めるが、それを中和する様にケーキを口に放り入れる。
「何だあいつ……」
机から少し離れ、飛流の変わり身の早さを不気味に思うゲイツ。
「あんなんだったけ……?」
悪意と復讐心に満ちた面しか見ていないが、食べ物に対して貪欲なことを知り、違和感を覚えるソウゴ。
「どうもスウォルツに別世界に飛ばされた影響みたいなの」
ツクヨミが言うに、元の世界に戻って来た飛流がツクヨミを連れて真っ先に向かったのはファーストフードのチェーン店であった。そこで大量のハンバーガーやポテトなどを貪る様に食していたという──ツクヨミの支払いで。
あまりに勢い良く食べるのでツクヨミは思わず訊いてしまった。『どうしてそんなに勢い良く食べるの?』と。
飛流曰く『今まで人がまず食べない様なものを食べてきたからだ』とのこと。
飢えを一応は満たすことが出来たが、精神的な部分までは満たせず、その反動のせいでまともな食事に飢えた結果らしい。
自分たちを無視してケーキを喰らう飛流に、ゲイツも戦う気が失せてしまう。
机に戻ろうとすると、パキリという何かが罅割れた音が聞こえた。
「うん?」
ソウゴがその音が何処から発したのか探そうとした時、大きな揺れがクジゴジ堂を襲う。
「地震!?」
だが、明らかにおかしい。揺れている感覚はあるのに周りの物は一切動いておらず、物が落ちてくる、倒れるなどのことが起きていない。
「一旦外に出よう!」
順一郎が叫ぶ。異質な揺れに気持の悪い感覚を覚えながらソウゴたちはクジゴジ堂の外に出て、そして言葉を失った。
「あれは……!」
ソウゴたちの位置からも見える巨大な石造りの壁。赤い光を放つそれは途切れることなく視界の端から端まで伸びている。
「あれは2017年で見た壁……!」
かつてビルドに会う為に2017年にタイムスリップした時に見た光景が、何故か2019年に出現していた。
「この本によれば、あれはスカイウォール……ビルドの歴史に存在した壁だ」
ビルドの歴史はビルドライドウォッチを手にした時点で無かったことになっている筈である。それが復活したということは──
「まさか!」
ソウゴは急いでクジゴジ堂へ戻り、ライドウォッチダイザーを見る。填められているビルドライドウォッチに亀裂が生じている。あの時に聞こえた音はビルドライドウォッチが壊れる音だったのだ。
ソウゴを追ってきたゲイツらも罅割れたビルドライドウォッチに気付く。
「ライドウォッチが……!」
ゲイツも急いで自身が持っているクローズライドウォッチを確認する。クローズライドウォッチにも同じく亀裂が入っていた。
「どうなっているの……?」
「分からない……だが、良くないことが起きる。それだけは間違いないと言える」
自壊し始めるライドウォッチ。それによって何かしらの影響が起こる。そんな気がしてならない。
そして、その予感は的中する。
外から聞こえる連続した爆発音。人々の悲鳴。スカイウォールの出現による影響が早くも起こっていた。
「行こう、皆!」
人々の悲鳴を聞いて何もしない訳も無くソウゴは声を掛ける。
「そうだな。だが、かなり大規模な被害が出ているみたいだぞ?」
「二手に分かれよう。そうすれば少しでも多くの人々が助けられる。人選は我が魔王に任せよう」
「分かった。じゃあ、ゲイツとウォズと。ツクヨミは俺と、そして飛流は……」
ソウゴは飛流の方を見る。飛流は外の被害も全く興味がない様子で相変わらずケーキを食べていた。しかも、ソウゴたちの分まで。
「俺と一緒に来て」
「ふん。俺を利用出来るだなんて考えるなよ?」
忠告をしながら飛流は椅子から立つ。
やるべき事は決まった。ソウゴたちはクジゴジ堂から飛び出していく。
クジゴジ堂に戻ったらまた出ていくソウゴたちに順一郎は目を丸くしながらも、離れていく背中に声を掛ける。
「あ、あれ? 出掛ける? いってらっしゃーい!」
◇
ゲイツたちと分かれたソウゴたちがスカイウォール付近に近付くと、惨状が広がっていた。
無機質な見た目の怪人と機械作りの兵士たちが無差別に人々を襲っている。恐らくはどちらもビルドの歴史に存在に存在する者たち。
怪人はスマッシュ。機械兵はガーディアンと呼ばれている。
握り拳の様な見た目のスマッシュが車を殴り飛ばし、その車に巻き込まれた人々が弾き飛ばされる。
銃剣が付いたライフルを構えたガーディアンたちが一斉に銃撃。逃げ惑う人々は阿鼻叫喚となる。
「これは……」
「酷い……」
無軌道な無差別攻撃。その無惨な光景に腹の底から怒りが湧いて来る。
飛流の方も目の前の光景に顔を顰めていた。何故か既視感を覚え、言い様の無い不快感が胸の中に湧いてくる。
「きゃあああ!」
近くで悲鳴が聞こえる。見れば今まさにガーディアンの凶刃が幼い子供へ振り下ろされようとしている。
「やめろぉぉ!」
ソウゴが駆け出すが間に合わない。ツクヨミも時間を停めようとするが、それも間に合わない。
「ふんっ!」
横から伸びてきた長い脚がガーディアンの顔を蹴り飛ばし、凶刃から子供を救う。現れたのは──
『門矢士!』
「よお」
羽織っているジャケットを整えながら軽い挨拶をすると、士は腰を抜かしている子供に手を差し伸べる。
「ここは危険だ。早く逃げろ」
「う、うん……」
士に引っ張り上げられた子供は急いで安全な場所へ逃げていく。
「随分と面倒なことになったな、魔王。──そして、珍しい奴も連れている」
士の目が飛流に向けられると、飛流は射殺す様な眼差しで睨み返す。士も飛流から見れば邪魔者の一人であった。
「ここは危険よ! ディケイドの力を失った今の貴方じゃ……」
「だからこそ魔王に会いに来たんだ」
「俺に?」
「俺のウォッチを渡せ」
「え? これ?」
ソウゴは言われるがままディケイドライドウォッチを取り出す。士はそれを受け取ると、ディケイドライドウォッチのスイッチを押す。
『ディ、ディ、ディ、ディケイド!』
起動するとディケイドライドウォッチは光と化し、ネオディケイドライバーへと変換され、士の腹部に装着される。
「おい。いつまで見ているつもりだ?」
士が誰かに呼び掛ける。
「へえ、気付いてたんだ」
建物の陰から出て来たのは海東大樹。ネオディエンドライバーを肩に当てながらいつもの様な微笑と共に現れる。
「うわっ、出た」
「海東大樹……!」
「お前っ……!」
飛流は恨みを込めた目で海東を睨む。アナザージオウⅡライドウォッチを奪われたことへの怒りはまだ冷めていない。
「士、ライダーの力を取られた筈だけど?」
「こんなこともあろうかと力の半分をウォッチに託しておいたんだ」
「流石だね。でも、半分程度の力じゃこの数はキツイんじゃない?」
「だったら手伝え。そうしたら、お前がやらかしたことはチャラにしてやる」
「まあ、偶には士の頼みも聞いてあげるよ」
士と海東は共にカードを構える。
『変身!』
ネオディケイドライバーとネオディエンドライバーに挿入されるカード。
『カメンライド・ディケイド』
『カメンライド・ディエンド』
仮面ライダーディケイドとディエンドに変身した二人。すると、ディケイドはソウゴを一瞥する。
「力を返して貰った礼に面白いものを見せてやる」
「面白いもの?」
ディケイドはカードを一枚ライドブッカーから出し、ネオディケイドライバーへ挿す。
『カメンライド・ジオウ』
『えっ』
告げられた名にソウゴとツクヨミだけでなく飛流も驚きの声を洩らす。
『仮面ライダージオウ!』
ジオウの変身と同じく、ディケイドの背後に文字盤型の、周囲は環状体のエネルギーが囲み、環状体のエネルギーがディケイドの姿を変え、文字盤からは『ライダー』の文字が飛び出し、それが顔面に収まるとドライバー以外ジオウと全く同じへと変身するディケイド──改めディケイドジオウ。
「へえ。じゃあ、僕も面白いものを見せてあげようかな」
ディエンドもまたネオディエンドライバーにカードを挿入し、引き金を引く。
『カメンライド・ゲイツ』
その名の通り三原色の光が重なり合い、仮面ライダーゲイツが召喚される。
「ええ……何それ……」
自分以外の仮面ライダージオウ、ゲイツ以外の仮面ライダーゲイツを前にソウゴはそれしか言うことが出来なかった。
◇
ソウゴらと分かれたゲイツとウォズは、ゲイツリバイブとウォズギンガファイナリーに変身して出現したスマッシュとガーディアンを一掃していた。
数で勝っていても実力でそれを圧倒するゲイツリバイブたちであったが、スマッシュたちは際限なく湧き続けキリがない。
ゲイツリバイブ剛烈が突き出したジカンジャックローがスマッシュを粉砕。それによりこの辺りのスマッシュたちは全滅する。
その時、パキンという音が鳴る。それはゲイツリバイブの方から聞こえた。
「この音は……!」
「まさか……!」
ゲイツリバイブは急いでライドウォッチを出す。出したのはマッハライドウォッチ。ビルドライドウォッチ、クローズライドウォッチと同じく亀裂が入っている。
「こうなると次に現れるのは──」
その瞬間、ゲイツリバイブとウォズの動きが非常に緩慢になる。それだけでなく周囲の動き全てがゆっくりになっていた。自分たちの身に起こった現象に二人は心当たりがある。
(重加速……!)
時が引き延ばしにされる世界の中で、骸骨の様な見た目をしたロボットたちが闊歩する。
(ロイミュード!)
ドライブの歴史に存在する怪人たちがライドウォッチの破損と共に出現。ゲイツリバイブたちの方へ向かって来る。
ゲイツリバイブはゆっくりとしか進まない時間の中で歯を食い縛りながらマッハライドウォッチのスイッチを押そうとする。
一秒もかからずに出来るそれが、今は何十倍もの時間を掛けた行為になっていた。
ロイミュードたちの銃口がゲイツリバイブたちへと向けられる。急がなければ無防備のまま撃たれ続け羽目になる。
(おおおおお!)
重く纏わりつく見えない何かを引き千切る様にゲイツリバイブはスイッチを押す。
『マッハ!』
破損していてもマッハライドウォッチは機能を発揮。その影響によって重加速が中和され、ゲイツリバイブとウォズは通常の動きを取り戻す。
重加速の影響から抜け出した二人は、目の前に並び立つロイミュードを薙ぎ倒していく。
「ん?」
ロイミュードの群を掻き分けて誰かがこちらへ向かって来る。上下の服を紫の色で統一し、更に濃い紫のスカーフを巻いた男性。
まるで酔っ払っているかの様にフラフラとした足取りであった。
「おい! ここは危険だ! 逃げろ!」
ゲイツリバイブが声を飛ばすと、男はゲイツリバイブたちを睨み、苦痛に耐える様に頭を押さえる。
「仮面ライダー……! 仮面ライダーは……俺の……俺の……敵だっ!」
男は拳銃型の武器。男はその銃口を押し込む。
『BREAK UP』
光が男を包み込むと同時にタイヤ型のパーツが出現。それが分解され、装甲となって男に装着される。
紫と黒の重厚感のある装甲。銀の頭部はエンジンを模した左右対称に形をし、その下に橙色の隻眼が輝く。
「俺は、死神……! 魔進チェイサー……!」
その名を示すかの様に左肩の装甲には髑髏の紋章が描かれていた。
変身した男──魔進チェイサーの姿に二人は動揺する。
「こいつもダークライダーなのか!」
「仮面ライダーなど、俺の世界に、存在しない!」
言っていることがさっきと真逆なことを叫びながら魔進チェイサーは変身に用いた拳銃──ブレイクガンナーの銃口を押し込む。
『GUN』
ガンモードとなったブレイクガンナーから発射される光弾。ゲイツリバイブは剛烈の装甲を以ってそれを身体で受け切る。
「言っていることが矛盾しているぞ! 仮面ライダーは居ない筈なのに何故知っている!」
「どうやら彼らは仮面ライダードライブが存在しない歴史から来たみたいだ。だが──」
ウォズはロイミュードたちを掌打で吹き飛ばしながら、これまでの情報を繋ぎ合わせて推測を語る。
「──同時に存在している歴史も重なり合って不安定な状態になっている様子だ。恐らくはライドウォッチが完全に機能を失っていない影響だ」
「なら、もしかしたら奴は本来の記憶を取り戻せるかもしれないのか?」
「仮にそうだとしても、味方になるとは限らないがね」
「──試してみる価値はある」
ゲイツリバイブは周囲に湧いたロイミュードたちを薙ぎ払いながら叫んだ。
「魔進チェイサー! お前にとって仮面ライダーとは何だ!?」
「俺は、仮面ライダーを倒す……倒す? 俺は仮面ライダー……くっ!」
二つの記憶で混乱しているのか魔進チェイサーは頭を抱え、苦痛に耐える様な動きを見せる。
「お前は仮面ライダーを知っている筈だ! よく思い出せ!」
「俺はロイミュード……! 俺は……番人! 仮面ライダーは……敵だっ!」
『BREAK』
苦痛を振り切るかの様に、自分に言い聞かせる様に大声を上げ、魔進チェイサーは再び銃口を押し込み、ブレイクガンナーを握り締めて走り出す。
「おおおおお!」
「はああああ!」
ナックルダスターとなっているグリップを突き出す魔進チェイサー。それを迎え撃つのはジカンジャックローの刃。
喰らい合う拳と刃。巻き起こされる衝撃と衝撃。互いに一歩も退かない。
「魔進チェイサー! お前は何者だっ!」
「俺は……死神! チェイス……!」
「チェイスだと!?」
知った名が出たことに驚くと同時に両者とも吹き飛ぶ。
数メートル後退して止まったゲイツリバイブは、再び魔進チェイサーに問う。
「お前は仮面ライダーマッハを、詩島剛を知っているか?」
「仮面ライダーマッハ……? 仮面ライダーなど……剛……? うぐっ!」
魔進チェイサーを揺さぶる記憶の混雑。一際大きいのか片膝を突く。
「お前は知っている筈だ! その名を!」
「俺は……! 俺は……!」
「思い出せ! 友の名を!」
「黙、れっ!」
魔進チェイサーはブレイクガンナーに銀色のミニカー──チェイサーバイラルコアを装填。
『TUNE・CHASER SPIDER』
銀色のエネルギー体が現れ、魔進チェイサーの右腕を包み込む。背部のパーツとそれが銀色のコードで結び付くと蜘蛛を模した大型クローが魔進チェイサーの右腕に装着された。
魔進チェイサーはすかさずブレイクガンナーの銃口を押す。
『EXECUTION FULL BREAK SPIDER』
大型クロー──ファングスパイディーの先端に紫のエネルギーが集束していく。
「はあっ!」
魔進チェイサーは跳躍し、ゲイツリバイブに向けてそれを振り下ろす。しかし、ゲイツリバイブは避ける動作どころか構えることすらしない。
「ゲイツ君!」
叫ぶウォズの前で魔進チェイサーの大爪がゲイツリバイブの肩へ叩き付けられた。四散するエネルギーが周囲のロイミュードたちを吹き飛ばす。
死神の名に相応しい処刑の一撃。だが、ゲイツリバイブは膝を折ることなくそれに耐え切ってみせる。
「馬鹿な……」
「チェイス……これを受け取れ……!」
ゲイツリバイブはファングスパイディーを押さえつけたまま、罅割れたマッハライドウォッチを魔進チェイサーに差し出す。
「これは……!」
「手に取れ! お前の答えはここにある!」
魔進チェイサーの手が自然にマッハライドウォッチへ伸びていく。敵である筈の仮面ライダーから物を受け取るなど言語道断。しかし、魔進チェイサーはその手を止めることが出来なかった。
魔進チェイサーはマッハライドウォッチを手にし、スイッチを押す。
『マッハ!』
「うっ!」
ライドウォッチを通じて魔進チェイサーへと流れ込む仮面ライダーマッハの歴史。長い様でいて、その名の通りマッハで通り過ぎて行く。
「……俺をダチと呼んでくれるか、剛」
魔進チェイサーの変身が解除され、チェイスの姿へ戻る。
「記憶は、戻ったか?」
「ああ。礼を言う」
チェイスが再びマッハライドウォッチのスイッチを押すと、チェイスの腹部にマッハドライバー炎が装着された。
本来ならば正式な力の持ち主では無い筈なのに、マッハライドウォッチに剛の意思が有るかの様にチェイスへライダーの力を与える。
「剛。お前の力を借りるぞ」
チェイスの手に握られるのはシグナルマッハ。マッハドライバー炎のスロットを上げ、その中にシグナルマッハを装填。
『シグナルバイク! ライダー!』
マッハドライバー炎が声高くその名を上げる。
「変身!」
『マッハ!』
チェイスが光に包まれると前後にタイヤ型のパーツが出現。無数に分解された、細かいパーツに分けられるとそれらが装甲へ変換されてチェイスに装着される。
魔進チェイサーとは異なるスリムな紫の線が入った銀色のボディ。頭部の右半分は紫に染色され、左半分には魔進チェイサーの名残であるエンジン型の銀のパーツが埋め込まれている。
そして、胸部のみ白色であり仮面ライダーマッハと同じ赤いラインが走り、右肩にはタイヤ型のパーツが装着されている。
「俺は、生きとし生ける全ての命を守る戦士……仮面ライダーチェイサーだ!」
仮面ライダーチェイサーと仮面ライダーマッハ。二人の友情が結び合うことで生まれた戦士仮面ライダーチェイサーマッハがここに再誕する。
チェイスとマッハライドウォッチと組み合わせとくればやらずにはいられませんでした。仮面ライダーチェイサーマッハ・チェイスVerを。
あとダークライダーの帰還編は今回はお休みです。この展開の続きで書くと蛇足になりそうだったので。
先にどちらが見たいですか?
-
IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
-
IFゲイツ、マジェスティ