仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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一話に一変身もしくは一戦闘をノルマにしています。
12/10ちょっとだけ加筆しました。


アナザーディケイドVE その13

 銀色のオーロラを通り抜け、ソウゴ、ツクヨミ、飛流はクジゴジ堂近くまで移動していた。

 

「門矢士は!?」

 

 ここへ移動する前にソウゴたちは、士の背後に出現した銀色のオーロラを確かに見た。ソウゴは急いで周囲を確認するが、士の姿は見えない。

 

「あのオーロラ……もしかして、スウォルツが?」

 

 あの状況で考えられる可能性で最も高いのがスウォルツの関与である。

 

「もしかして、私たちが2058年に行っていたことに気付いて……」

 

 時間を操る能力を持つスウォルツである。時間移動を察知してもおかしくはない。

 

「はん。居なくなった奴の心配をしている場合か? そもそもそんな余裕がお前にあるのか?」

 

 飛流は士が居なくなったことに動揺せず、寧ろそのことで落ち着かない様子のソウゴを嘲る。

 

「貴方ねぇ──!」

 

 飛流の態度にツクヨミが憤るが、そんなツクヨミを止めたのはソウゴであった。

 

「──いや、飛流の言う通りだよ。今の俺たちに門矢士を心配している余裕も時間も無い」

「でも……」

「信じるしかないよ、門矢士を。それに俺は門矢士の、ディケイドの強さを知っているから。簡単にやられる筈が無い」

 

 言い切ってみせるソウゴ。その態度はツクヨミの不安も和らげる強さがあった。飛流はそんな二人の様子を面白くなさそうに見た後、視線を逸らし──あるものが目に入る。

 

「あれは……」

 

 飛流の呟きにソウゴとツクヨミは彼の方を見て、飛流の向いている方向に視線を辿らせる。

 クジゴジ堂がある場所から煙が立ち昇っているのが見えた。

 その瞬間、ソウゴの心臓はかつてない程の鼓動で動き、全身の汗腺が開いて冷たい汗が噴き出す。隣にいるツクヨミもソウゴと似たような心境であり、目を見開いて言葉を失っていた。

 

「叔父さん……!」

 

 ソウゴは一気に走り出す。ツクヨミもそれを止めることはせず同じタイミングで走り出していた。

 

「おい!」

 

 置いて行かれた飛流の怒声が背中に浴びせられるが、今の二人はそれで止まる筈など無い。

 歴史改変の影響で現れた怪人たちの襲撃。或いは、ソウゴたちを追い詰める為のスウォルツによる襲撃。どちらの可能性もあるが、そんなことよりも順一郎の安否の方が大事であった。

 クジゴジ堂までたった数メートルの距離。だが、そのたった数メートルですらもどかしく思えてしまう。一秒でも、コンマ一秒でも早くクジゴジ堂に辿り着きたかった。

 間もなくしてクジゴジ堂前に飛び出る二人。

 

「叔父さん!」

「順一郎さん!」

 

 そこに広がる光景は、二人にとって想像を絶するものであった。

 

「……ん?」

 

 何故かクジゴジ堂側でテントを張り、焚き火でバーベキューをする見知らぬ男。焼かれている網の上では串刺しになった野菜が置かれてある。立ち昇っていた煙は、そのバーベキューのものであった。

 

「だ、誰!?」

 

 慌てて駆け付けたら家の前で見知らぬ男がキャンプをしているなど予想出来ず、混乱してしまう。ツクヨミも啞然とした表情をしていた。

 

「俺? 俺の名前は仁藤攻介」

 

 あっさりと名乗りながら野菜串の焼き加減を確かめる。

 

「いや、それも大事だけど。何でここで──」

「皆まで言うな。分かっている」

 

 仁藤はソウゴの台詞を途中で遮り、何を思ったのか野菜串の一本をソウゴに差し出す。

 

「腹減ってんだろ? この美味そうなニオイにつられて走り寄ってきたもんなぁ。特別に一本だけだぞ?」

 

 盛大に勘違いをしている仁藤にソウゴは言葉を失ってしまう。

 

「おっと仕上げを忘れてた」

 

 仁藤はマヨネーズの容器を取り出すと、野菜串の上から下までマヨネーズをかける。そうしたら今度は下から上にまでマヨネーズ。一往復させテカテカとしたマヨネーズをこれでもかとかけられた野菜串。

 

「ええ……」

「うっ……」

 

 尋常じゃないマヨネーズの量にソウゴは引き、ツクヨミはそのくどそうな見た目に顔色を悪くする。

 

「おい! って誰だお前は!?」

 

 追い付いた飛流が仁藤を見つけてソウゴと似た様な反応をした。

 

「何だよ、お前もかぁー?」

 

 仁藤はまた勘違いをして二本目の野菜串にマヨネーズをかけ始める。

 何が何やら分からないまま、取り敢えずクジゴジ堂に入れば順一郎かゲイツとウォズに説明されると思い、ソウゴとツクヨミは野菜串を渡されようとしている飛流を放ってクジゴジ堂に入る。

 クジゴジ堂内では──

 

「おい! デネブ! いい加減料理に椎茸を混ぜるの止めろ!」

 

 怒鳴る男改め桜井侑斗が目の前に置かれた料理に文句を言い──

 

「お前もさぁ、いい歳なんだから好き嫌いを無くせよぉ」

 

 その隣に座って頬杖を突いている悪魔の様な見た目をした赤い怪人──フータロスに呆れられている。

 

「ご、ごめん侑斗! でも、やっぱり好き嫌いは良くない! 戒斗みたいに何でも食べられるのは偉い!」

 

 不似合いなエプロンを付けた巨漢デネブは、一応謝りながらも侑斗の向かい側に座って文句を言わずに料理を頬張っている戒斗を讃える。

 褒められた戒斗は手を止め、鼻を鳴らす。

 

「当たり前だ。強くなりたいのであれば好き嫌いなど論外だ。強者とは全てを喰らう者のことを言う。嫌いな食べ物があるという時点で己の心に屈している様なものだ」

 

 独自の理論を展開しながら椎茸を食べられないと言っていた侑斗を煽る戒斗。

 

「この野郎……!」

「んで、どうすんの? あんだけ言われて引き下がるのかよ?」

「こんなもの!」

 

 勢いのまま料理を一口食す侑斗。数度咀嚼し後は嚥下するだけなのだが、その顔色が見る見るうちに変わっていく。

 

「ふん。情けない奴め」

 

 侑斗の顔面変色を見ながら、戒斗は堂々とした態度で食事を続ける。

 

「へぇー。チェイス君って、そのロイミュードっていうやつなんだ……よく分からないけど。人種みたいなもの?」

「詳しい説明は省くが、似た様なものだ」

「じゃあ、何か苦手なものがあったら言ってね。苦手なものを抜きにした料理に作り直すからさ」

 

 同じテーブルではチェイスと順一郎が会話している。チェイスの前にはハム、目玉焼き、サラダが時計を模した形で並べた料理が置かれていた。

 

「いや。ロイミュードの俺に好き嫌いなど無い」

 

 チェイスは丁寧、というよりも機械的な印象を受ける無駄のない動きでフォークとナイフを扱い、目の前の料理を食べる。

 

「どう? 口に合うかな?」

「……俺には料理を正確に評価出来る程の機能は無い。だが、この料理を食べることで強い『喜び』を覚える」

「それって美味しってこといいのかな? なら良かったー」

 

 チェイスの素直な感想に安堵する順一郎。

 

「誰この人たち……?」

 

 三名程顔見知りが居るが、それ以外の見た事も無い男たちに戸惑った様子のソウゴとツクヨミ。

 

「あれ? ソウゴ君にツクヨミちゃん! 帰ってきたんだね!」

 

 二人の帰りを喜ぶ順一郎。

 

「うん。ただいま。叔父さん、この人たちは……?」

「ああ、ゲイツ君たちが避難させてきた人たちだよ。何か外ではトラブルが行っているらしいからね。色々と不安だろうし、僕の料理でも食べて元気になって貰おうと思ってね! あ、そこのデネブ君にも手伝って貰ったんだよ。あの人、料理が凄い上手なんだよ!」

 

 イマジンであるデネブやフータロスの姿に特に疑問を抱かず普通に接している所を見ると、その大物っぷりにソウゴと順一郎の血の繋がりを強く感じさせる。

 

「外の人も?」

「ああ。攻介君ね。彼にも食べて貰いたかったけど、前に貰った野菜が痛みそうだからってバーベキューをしているんだよね。いやぁ、律儀だよねー。ああ、そうだ! ソウゴ君たちの分もあるからちょっと待っててね!」

 

 キッチンへ向かう順一郎。

 

「ジオウ。無事だったか」

「我が魔王。戻って来るのを待ちわびていたよ」

 

 それに入れ替わってゲイツとウォズが二人に近寄ってくる。

 

「ゲイツとウォズも無事で良かった。……それで、この人たちは? それに何で侑斗たちもここに?」

「ちゃんと説明しよう。色々と情報を整理する必要があるからね」

「うん。そうしよう。俺たちも話すことがあるし」

 

 

 ◇

 

 

 クジゴジ堂のテーブルに座って顔を合わせるソウゴたち一行。仁藤とチェイスは近くのソファーに座り、戒斗は壁に背を預け、侑斗たちはテーブル側に立っている。飛流は全員から少し離れた場所で睨む様にソウゴたちを眺めていた。

 因みに順一郎は席を外している。今後のトラブルに備えての準備を色々とする為に。

 ゲイツたちによりチェイスたちがライドウォッチの力によって仮面ライダーの力と記憶を取り戻していること、そして彼らの存在によって歴史改変が僅かにだが食い止められていることを説明される。

 怪人たちの集団と戦っていた所を侑斗たちとゼロライナーによって救出されたという。

 

「侑斗は何でここに?」

 

 ゲイツたちの説明の後、ソウゴは侑斗たちが来た理由を尋ねる。

 

「大規模な歴史改変が起こっているのが分かってここに来た。そしたら案の定、時間改変のせいで滅茶苦茶なことが起きていやがる。あと、そいつらを拾ったのは偶然だ」

「違うんだ、皆! 本当は少しでも助けられる人たちを必死になって探していた時に見つけたんだ! 侑斗は照れ屋だから隠しているけど!」

「お前さぁ、変な所で嘘吐くなよ。偶には素直になろうぜぇ?」

「いちいち要らないことを言うな! お前らはっ!」

 

 デネブとフータロスの補足に侑斗は怒り、二人の首に腕を回して締め上げる。

 

「モモタロスたちは?」

「……あいつらはもしものことがあった場合に備えてこの時間の外で待たせてある。待たせておいて正解だったかもしれない」

 

 二人を締め上げるのを止め、ソウゴの質問に答える侑斗。

 

「それってどういうこと?」

「今の俺たちはこの時間の外に出ることが出来ない。少なくともゼロライナーではな。時間の流れが激しく変わるせいで呑み込まれそうになる」

 

 一度はゲイツたちを連れてこの時間の外に出ようとしたが、時間の歪みに巻き込まれそうになり、危うく別の時間へ跳ばされる所だったと言う。

 そのせいでゼロライナーを時間の外に隠しておくことも出来ず、近くにある人の寄り付かない廃工場に今は隠してあるらしい。以前デンライナーが事故を起こして停車した場所でもある。

 

「それで? そっちは何か掴んだのか?」

 

 今度はゲイツたちがソウゴたちの話を聞く番になる。

 

「……スウォルツの目的が分かった」

「何!?」

 

 全ての元凶の目的。この場にいる全員の視線がソウゴに集中する。

 

「あいつは──」

 

 2058年の別の時間軸の未来で知った真実。

 滅び行く世界を救う為にそれ以外の全ての世界を滅ぼし、最後はスウォルツ自身が王として君臨すること。

 聞き終えたゲイツはテーブルに拳を叩き付ける。

 

「奴め……!」

 

 溢れ出る怒りをギリギリまで抑え込んだが、それでも漏れ出てしまう。

 滅び行く別の時間軸の世界を救いたい。その動機自体は否定しない。何故ならゲイツも荒廃した2068年を救済することが最初の目的であった。だが、それに至るまでの方法はゲイツにとって許せることではない。

 アナザーライダーの力によって多くの者たちの人生を狂わせようとし、あまつさえ同じタイムジャッカーの仲間であるウールとオーラすらも冷酷に切り捨てた。その事に多少なりとも罪悪感を覚えるならまだしも、自分のしたことを一切悪びれていない。

 そして、そんな奴の片棒を担ぐ様な真似をしていたことを知ったとくればゲイツはもう許すことが出来ない。

 腕を組んでいた飛流は密かに自身の腕を強く握り締める。その為に自分を利用したスウォルツへの怒りと復讐心が滲み出ていた。

 

「それと……」

 

 ソウゴは一瞬言い淀む。スウォルツを倒すことは重要なことだが、倒してしまえば別の時間軸の世界は完全に滅びることになり、その世界の住人であるツクヨミも共に消滅してしまう。それを皆にはなすべきかどうかソウゴは苦悩する。

 すると、見えない角度でツクヨミがソウゴの服の裾を引っ張る。ツクヨミの方を見ると、ツクヨミは小さく首を振った。

『今は話さないで欲しい』。それがツクヨミの意志であった。

 ソウゴ自身もまだ答えを出していない。故にソウゴは出そうとしていた言葉を喉の奥に押し返す。

 

「それとどうした?」

 

 間を置くソウゴにゲイツは少し不審な様子で見ている。

 

「それと……門矢士に何か策があるみたいなんだ。この状況を打破する為の」

「何だと? 門矢士が?」

「その肝心の彼の姿は見えないが……?」

「門矢士は、俺たちをここに送った時に──」

「俺を呼んだか?」

 

 しれっとした態度でクジゴジ堂内に入って来る士。別れた時と変わらない姿を見ると、何事も無かったと錯覚させられる。

 

「門矢士! 無事だったの!?」

「当たり前だ」

「スウォルツに襲われたんじゃ……」

「今、ここに俺が居ることこそが答えだ」

 

 そのふてぶてしい態度に寧ろ安心感を覚えてしまう。

 

「にしても──」

 

 士はクジゴジ堂に集まったメンツ一瞥する。

 

「随分と個性的な連中を集めたもんだ」

「あんたに言われたくないと思うんだけど……」

 

 置かれてある椅子に腰を下ろす士。

 

「それで? どうしようというんだ? 何か策があるんだろう?」

「魔王から聞いていないのか? この世界を破壊する」

 

 その言葉に皆の顔付きが変わる。士はそれを気にすることなく話を続ける。

 

「この世界はもうおしまいだ。後は滅びるのを待つだけだ。外の連中も誰がこの世界を終わらせるのか頑張っているしな」

 

 歴史改変で溢れ出た怪人や怪物たちは人々を襲うだけでなく互いに争いあっていた。所詮は敵と敵の関係。種族も思想も全く異なるそれらが仲良く出来る筈も無い。暴力と凶暴を煮詰めていく蟲毒の様な状態。

 皮肉なことにその争いが結果的に一般人の被害を抑えることに繋がっていた。

 

「尤も、その頑張りで世界が終わるのかもな」

 

 士は面白くなさそうに呟く。

 

「──だが、世界を捨てても人々だけは助けないとな」

 

 士には、崩壊する世界から人々を救出するビジョンが見えている様子。

 

「……分かった。あんたの作戦に乗るよ」

 

 世界を救うことは出来なくともせめて人々だけは救う。その意志を以ってソウゴは決断した。

 

「スウォルツは俺に選択を突き付けた。──でも、俺はスウォルツの示した道は選ばない。もしも、スウォルツが出した選択以外の道があるなら……俺はそれに賭けてみたい」

 

 与えられた道筋ではなく自ら道を切り拓くことをソウゴは選択する。

 

「お前たちの命だけじゃない。世界の運命を賭けることになるぞ?」

 

 人一人では到底支えることの出来ない巨大なもの。だが、この場にいる誰もがそれに臆することは無かった。

 その表情を見た士は微笑を見せ、すぐに表情を引き締める。

 

「よし。作戦はこうだ」

 

 そして、士の口から語られるその作戦は──

 

 

 ◇

 

 

 静けさに満たされたクジゴジ堂。飾られた時計の秒針が動く音だけがハッキリと聞こえる。

 士の作戦を成功させる為、ゲイツたちは今外で動いている。

 ふと目線を動かすと、ライドウォッチダイザーの壊れかけたライドウォッチが見えた。全てのライドウォッチに罅が入り、今にも壊れそうな外見となっている。しかし、まだソウゴの手の中にはグランドジオウライドウォッチが存在している。それは、まだ辛うじてライドウォッチの力が残っていることを意味していた。

 ソウゴはライドウォッチダイザーの前に立つ。これまでの戦いで色々と助けてくれたライドウォッチを労う様に指先で触れる。

 その瞬間──

 

「うっ!」

 

 ──ソウゴの頭の中に突如として起こる見た事も無い映像。

 それは仮面ライダークウガから始まる戦いの歴史。怪人との戦いの中にある痛み、葛藤、願い、苦しみ、悲しみ、怒り。それらがソウゴの脳髄へと叩き込まれていく。

 

「ううっ!」

 

 脳が熱を帯び、激しく脈打つ様な感触。内側から叩き割られる様な情報の奔流にソウゴは膝を突く。

 だが、決して『止めてくれ』という言葉がソウゴの口から出ることは無かった。積み重ねられてきた仮面ライダーの歴史をソウゴはただ受け止める。

 やがて、ビルドの戦いも終わるとソウゴの頭に流れ込んできた映像が消えた。

 長い時間が過ぎた様な感覚であったが、実際には数十秒程経過しただけである。

 

「今のは……」

「何か見たのか?」

 

 いつの間にか背後に立っていた士がソウゴに声を掛ける。

 

「……ライドウォッチに触ったら、頭の中にライダーの歴史が……」

「──成程。完全に消滅する前に、少しでも自分たちの歴史をお前の中に刻み込みたかったのかもな」

「俺の中にライダーの歴史が……?」

 

 ふと、その時ソウゴはある言葉を思い出す。

 

『お前は……ライドウォッチを、平成ライダーの力を、ただの力としてか見ていないのか、愚か者っ!』

 

 グランドジオウの力を得た直後に戦ったオーマジオウの言葉。もしかして、オーマジオウの言葉はこのことを指していたのかもしれない。

 力だけでなく記憶と記録の継承。それこそがライドウォッチを継承する真の意味。

 ソウゴは傷付いたライドウォッチをもう一度見た後、決意に満ちた表情をする。

 

「……俺もそろそろ行くよ」

「待て」

 

 そんなソウゴを士は呼び止める。

 

「さっき連中には言わなかったが……俺の作戦には一つ落とし穴がある。お前は──」

「俺だけ、生き残れないって言うんだろ」

 

 士に最後まで言わさず、自分の声を重ねる。

 ソウゴの自己犠牲の上に成り立つ士の作戦。作戦を聞いていた時からソウゴは勘付き、そして覚悟していた。

 今までふてぶてしい態度であった士が、表情を曇らせるのを見てソウゴは苦笑する。

 

「いいって。ベルトを受け取った時から覚悟は出来てる。……いや、もしかしたら生まれた時から」

 

 世界を良くする王様になりたい。その願いは道半ばで断たれることになるが、それでも人々が救えるならソウゴはそれも良しとした。

 ソウゴの覚悟を感じ、士はこれ以上言うのは野暮だと分かっていた。しかし、どうしても一言言わずにはいられない。仮面ライダーの先輩として。

 

「今から言うことは大体で聞いておけ」

「え?」

「何もかも一人で背負うのも間違ってはいない。大切な者たちを傷付けられたり、重荷を背負わせるより遥かにマシだ。だが、そうやって何でもかんでも一人でやろうとすると、返って傷付けることもある」

「それって……経験談?」

「さあな」

 

 士は視線を逸らしてはぐらかす。

 

「──悪いな。お前の決意を鈍らせる様なことを言って」

「ううん。覚えておくよ、その言葉」

「大体でいいって言っただろ?」

 

 二人は顔を見合わせて静かに笑う。

 

「楽しそうだね。士に魔王君」

 

 それを茶化す様な声。いつの間にかクジゴジ堂内に海東が立っていた。

 

「海東」

「いつの間に……」

 

 海東の神出鬼没さに驚くよりも呆れてしまう。

 

「コソコソなにをしていたんだ?」

「好きでしていないさ。ちょっと面倒な彼に顔を合わせたくなかったんでね」

 

 彼とは飛流のことを指しているのだろう。一度追い掛け回されたことで少し苦手意識を覚えている様子。

 

「何しに来た?」

「これから戦場に赴く魔王君にプレゼントをね」

 

 海東はそう言ってある二つの物をソウゴへ差し出す。

 

「これって……!?」

「持っていきたまえ。きっと役に立つ筈だ」

 

 海東はソウゴにとって士と同じくらい何を考えているのか分からない人物である。しかし、今の海東の行動に悪意は感じられず、ソウゴは素直にそれを受け取った。

 

「──ありがとう」

「どういたしまして」

 

 それらを仕舞い込み、ソウゴがクジゴジ堂を出ようとした時──

 

()()()

 

 名を呼ばれて振り返ると、シャッター音。士が首からぶら下げているカメラでソウゴを撮っていた。

 カメラから出て来た写真を士は投げ渡す。

 

「記念に持ってけ」

 

 士に写して貰った自身の写真を見て、ソウゴは吹き出す。振り返ったソウゴに変な光が入って歪んで映っている。正直、上手とは言えない一枚であった。

 

「変な写真」

「ほっとけ」

「うん。貰っておくよ。ありがとう、()

 

 渡された写真も仕舞うとソウゴはクジゴジ堂を出ていく。

 残されるのは士と海東のみ。

 

「どういう風の吹き回しだ? お前が自分のお宝を人にくれてやるなんて」

「どっちも今の僕には必要無い物だからさ。片や揉め事を呼び寄せるし、もう片方は次の戦いには多分使えないしね。それより、君があんなアドバイスを送るなんてビックリだよ。ああいう一人で決めて、周りのことなんか気にせずに黙って全部一人でやろうとするのは、君の得意分野だと思っていたからね」

「嫌味な奴め……まだ根に持っているのか?」

「さあね?」

 

 士は顔を顰めるが海東は飄々としている。

 

「それに、そんな体で世界を破壊出来るのかい?」

 

 海東が士の胸を軽く小突く。途端、士は冷や汗をかいてうずくまった。今まで瘦せ我慢をしていたが、もう一人の士に受けた傷はかなり深い。

 

「そう、いう、お前もな……!」

 

 体を起こして海東の胸を軽く押す。すると、海東も士を同じ反応をし、二人揃って悶え苦しみ出す。

 

「うぐ……君が、そこまでやられるなんて……随分な相手、みたいだね……!」

「スウォルツの奴が、別の時間軸から、破壊者に、成り果てた、もう一人の俺を、連れて来た……!」

「それは、厄介どころ、じゃ、ないね……!」

「そういう、お前こそ、誰にやられ、たんだ……!」

「君と、同じさ……! 身も心も、怪物になって、しまった、僕の兄さんさ……!」

「お互い、面倒な、相手だな……!」

「でも、二人を、倒さなければ、士の、作戦も成功、しないんだろう……!」

 

 不安にさせない為に敢えて伏せていたが、士の作戦を成功させるにはもう一人の士、海東純一、スウォルツの三名を足止め、もしくは倒さなければならない。

 ソウゴが覚悟を決めた様に、士と海東も密かに覚悟を決めていた。因縁ある二人を自らが相手し、そして刺し違えても倒すという覚悟を。

 

 

 ◇

 

 

 黙々と我が道を歩くのは、この世界に呼び出されたもう一人の士。辺りに怪人らの咆哮が響き渡り、人々の悲鳴が上げられる中でもその足は怪人にも人々にも向けられることなく淡々と進んで行く。

 だが、突然もう一人の士の足が止まる。彼は溜息を吐きながら気怠い動作でディケイドライバーにカードを挿し込み、装着。

 次の瞬間には響き渡る金属音。行き成り現れた怪人がもう一人の士に爪を突き立て様としていたが、白と黒の装甲で覆われた腕がそれを防ぐ。

 

『カメンライド・ディケイド』

 

 全身ではなく体の一部から優先して変身するという熟練した変身を披露しながら、攻撃を仕掛けてきた怪人の腹部を爪先で蹴り付ける。

 蹴られた怪人は後退するが、すぐにその姿を消してしまう。

 

「ワーム共か……」

 

 クロックアップという特殊能力によって目視出来ない速度で動き回るワーム。ディケイド激情態は一体ではなく複数のワームたちが動き回っているのを感知していた。

 

「だからどうした?」

 

 しかし、ワームのクロックアップなどディケイド激情態にすれば児戯に等しい。

 周囲のワームたちが一斉にディケイド激情態に攻撃に掛かるが──

 

『アタックライド・インビジブル』

 

 ディケイド激情態の姿がその場から消え、ワームたちの攻撃は全て空振りに終わってしまう。透明化による不可視と攻撃無効で難なくワームたちの一斉攻撃を躱す。

 消えたディケイド激情態を探す様に動き回り続けるワームたち。ディケイド激情態も同じ能力を使用出来るが、相手に合わせる必要など無い。

 ディケイド激情態は二枚のカードを取り出す。一枚に青雷を纏う仮面ライダーブレイドが描かれ、もう一枚には翼を生やした緑のウィザード──仮面ライダーウィザードハリケーンドラゴンが魔法陣から雷を放つ絵が描かれている。

 

『アタックライド・サンダー』

『アタックライド・サンダー』

 

 読み上げられる効果は同じ。だが、片や生物の始祖であるアンデッドの力。片や魔法によって生み出される力。異なる力を根源とするものが交わり、相乗効果で威力を跳ね上げさせる。

 

「ふん!」

 

 ディケイド激情態が地面に指先を突き立てる。

 電撃発火。鳴り響く雷鳴。天へと逆昇る雷。そして、後に残されるのは雷によってその身を焼かれて炎上するワームたち。

 クロックアップを以てしても雷の速度を振り切ることなど出来なかった。

 その場から一歩も動くことなくワームたちを撃破してみせたディケイド激情態。その視線がゆっくりと別方向に向けられる。

 

「──次から次へと湧いてくる。まるで害虫だな」

 

 視線の先に立つのは、真っ白な体を持った怪人ジョーカー。ジョーカーが呻くとその影から無数の怪人たちが生まれる。

 ジョーカーと同じ白い体を持ち、爪先のみ赤い。ゴキブリに似た姿を持つそれはジョーカーが生み出す尖兵──アルビローチ。

 

「本当に害虫だな」

 

 ディケイド激情態はそう吐き捨て、ライドブッカーに手を伸ばして──止める。

 ジョーカーの背後から飛来した黄金刃がジョーカーの頭部を貫き、爆散させる。それに伴ってアルビローチたちも白炎を上げ、内側から溶ける様に消滅してしまった。

 

「大変申し訳ございません。先程生まれたばかりなのでちゃんと躾出来ていなくて」

 

 爆散したジョーカーの後ろから現れたのは仮面ライダーグレイブ。その背後にはついさっき爆散した筈のジョーカーが大量に蠢いている。

 ディケイド激情態は無言でカードを取り出す。その姿にジョーカーたちがざわめくが、グレイブが手を上げると一斉に静まり返る。

 

『アタックライド・アドベント』

 

 発動されるカードの効果。だが、この場に変化は起きない。そう思った矢先、近くのガラスを突き破る様にハイドラグーンが飛び出す。しかし、ハイドラグーンを追うようにして巨大なコブラがガラスから現れ、ハイドラグーンの尾に噛みつくとガラスの中へ引きずり込んでしまう。

 

「これはこれは」

 

 グレイブが建物のガラスを見るとその向こう側では阿鼻叫喚の図が広がっている。

 逃げ惑うシアゴーストとレイドラグーン。それに浴びせられる黒い龍の黒炎。その黒炎を浴びたシアゴースト、レイドラグーンは石化したように動きを止める。

 そこに出現するのは牡牛の様な角の生やしたロボットの様な生命体。胸部が左右に開き、ミサイルの弾倉を露出させると一斉発射。それに加えて右手の大砲、左手のガトリング砲、額、両脚からの光線を撃ち出す。

 重火器の暴力によってシアゴーストたちを屠ると、その衝撃の余波でガラスが内側から砕け散る。

 邪魔者を葬ったディケイド激情態は、改めてグレイブの方を見た。

 

「海東純一か……」

「おや? 私のことをご存知なのですか?」

「別の世界のお前だがな」

「そうですか。少し興味のある話ですね」

「……お前も俺とやるのか?」

「いえ。滅相も無い」

 

 グレイブはあっさりとベルトを外して変身を解除してしまう。

 

「私に貴方と戦う意志などありません」

 

 相変わらず張り付けた笑みを浮かべる純一。少しの間、それを凝視していたディケイド激情態であったが、彼もまた変身を解く。

 

「お前もこの世界を破壊するつもりか?」

「ええ。暇潰しに」

「そうか」

 

 それだけ言うともう一人の士はまた歩き始める。そして、純一もまたそれ以上何も言わず、ジョーカーたちを引き連れて歩き出す。

 もし、純一が多少なりとももう一人の士に敵意や戦意を見せたのであれば容赦無く潰すつもりであった。これまで辿って来た仮面ライダーたちの様に。

 しかし、それをしなかった。何故ならば純一はもう一人の士に対して全く興味が無かったのだ。ガラス玉の様な目にただ映すだけであり、丁寧な言葉には一切の感情を乗せず、機械の様に定型文を話すだけ。

 それが、もう一人の士にとって少しだけ新鮮に感じたので、この場では見逃すことにした。

 やがて、すれ違う両者。互いの顔を見ることも無く、会話も無く、関心も無い。

 世界を破壊出来る者同士の邂逅と別れは、非常に呆気無いものであった。

 

 




段々と終わりが近付いてきました来年には完結させたいですね。

先にどちらが見たいですか?

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