仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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タイトルに偽り有り


アナザースペクター2015(中編)

 黒を帯びた紅色の肉体。銀色の装甲。翼を広げた形に見える黄色の複眼。蝙蝠、或いは吸血鬼を思わせる仮面ライダー。前に立つこの仮面ライダーのことをゲイツは知っていた。

 五十年後の未来に、石像として建てられている姿を見たことがある。

 名は仮面ライダーキバ。偶然か意図してはか分からないが、ゲイツが纏っているウィザードアーマーと同じ赤い仮面ライダーである。

 仮面ライダーアギトと同じく過去に存在した仮面ライダー。過去がゲイツの前に敵として立ち塞がる。

 

「ふっ」

 

 キバは跳躍し、一気にゲイツとの距離を縮めると、着地と同時にゲイツの胸部に拳を打ち込む。

 

「があっ!」

 

 重い拳は一撃では止まらず、ゲイツが後方へ飛ばされる間に十を超える拳を浴びせた。

 地面を数回跳ねた後、ゲイツは打撃を受けた箇所を押さえながら立ち上がる。だが、既にキバはゲイツの目の前に立っていた。

 

「はあっ!」

 

 キバの前蹴りがゲイツの腹部に突き刺さる。いっそのこと内臓が吐き出せたのならどれだけ楽かと思える衝撃と痛み。

 しかし、ゲイツはその痛みに屈することなく頭と体を動かし、腹部に爪先を埋めた足を掴もうとする。

 

「甘いな」

 

 その動きすら予想の内だったキバは、地面に付けている足を勢い良く蹴り上げる。

 顎下を狙う蹴りに反応し、上体を仰け反らせるゲイツ。その蹴りは空を切ったが、キバはその蹴りの勢いに乗じて宙に跳び上がり空中で一回転し、戻る勢いを利用して無防備になっているゲイツの顔を蹴り飛ばした。

 

「ぐはあっ!」

 

 蹴られて地面を勢いよく転がりながらも、ゲイツはその中でジカンザックスを現出させ、刃を開いて弓モードにすると、キバに向かって撃つ。

 ダメージを受けた直後且つ不安定な体勢からの射撃であったが、光弾はキバの頭部目掛けて正確に放たれていた。

 迫る光弾。腕を反射的に立てるキバ。光弾はキバの腕に当たり軌道を変えられる。

 

「やるな」

 

 白煙が上がる腕を見ながらゲイツの射撃の腕を褒めるキバ。しかし、どうにも上からものを言っている様にしか聞こえず、ゲイツはそれを挑発と受け取った。

 

「黙ってろ!」

 

 ゲイツは痛みを押し殺してすぐに立ち上がると、ジカンザックスの刃を一枚に畳み、弓から斧モードに変える。

 

『Oh! No!』

 

 まだ揺れる視点。もつれそうになる足。それらを気力によって捻じ伏せ、キバに向かって斬りかかる。

 上段からの振り下ろし。後方に下がられて避けられる。

 続けて下から斜め上に向かう斬り上げ。ゲイツの腕が振り上がる前にキバの足がそれを押さえ、そのまま曲芸の様にゲイツの腕に乗り、反対の足から放たれる横蹴りでゲイツの側頭部を狙う。

 足と頭の間に腕を挟み、蹴りを防ごうとするゲイツ。キバの蹴りは腕ごとゲイツの頭を蹴るが、防御が入ったせいで威力は殺され、ゲイツは倒れることなく横に数歩移動するだけに止められる。

 だが、その数歩だけの時間もキバの次なる手段までの時間稼ぎとして充分であった。

 

『フォームライド・キバガルル』

 

 バックルにカードを挿し込み、その姿が変わる。

 紅色の肉体と黄色の目は深青色へ変色。左肩の銀の装甲が鋭角な山が連なった深青の装甲に変わる。左腕もまた同色に変化し、その手の中に波打つ刀身に狼の頭部を模した鍔が飾られた剣を握っていた。

 

「刃には刃を、ってか」

 

 軽口を言うとキバは刀身を沿う様に指先で撫でた後、ゲイツへと剣を振り上げる。

 初撃を辛うじて受け止めるゲイツ。先程の姿のときよりもスピードが上がっている。

 一撃目が防がれてもその次に続く二撃目がゲイツの胴体へ向かい、間に合わず斬られる。

 

「があっ!」

 

 装甲から火花が散り、衝撃と苦痛がゲイツを貫く。

 三撃目の袈裟切り。ジカンザックスを盾にしてそれを防ぎ、反撃の前蹴りでキバの胸部を蹴る。

 数歩後退するキバ。そこに追撃のジカンザックスが振るわれた。

 横振りのジカンザックスが、キバの首にその刃を立てようとする。しかし、その刃に嚙みつく刃によってそれを防がれる。

 キバの持つ剣が、ジカンザックスと交差し火花が散ったかと思えば、キバはジカンザックスの刃の上に剣を滑らせ、刃同士が生み出した火花の散らしながらゲイツに迫る。

 斬られる。そう判断したゲイツの行動は迅速であり、的確であった。

 キバの剣が振り抜かれる前に、自ら距離を詰める。これによりゲイツは鍔を肩で受け止め、斬撃を阻止する。

 危険に向かって敢えて自分から向かい、逆に身を守る。並以上の度胸が無ければ出来ない行動である。

 しかし──

 

「惜しいな」

 

 ──それだけではまだ足りない。

 鍔にある狼の口が開かれる。そこから発せられた咆哮。それはすぐさま凶器へと転じ、ゲイツの肩に衝撃が貫いていく。

 

「なっ!」

 

 後ろに下がってしまうゲイツ。そこに狼の口から更なる衝撃波が放たれ、胸を撃たれる。ゲイツはまたもや後ろに下げられる。

 痛みはあるが、幸い致命傷には遠いダメージだった。だが、ゲイツに動揺を、キバに次なるカードを握らせる猶予を与えるには十分な攻撃であった。

 これ以上相手の好きにはさせない。そう考えたゲイツは流れを変える為に、ドライバーのライドウォッチに手を伸ばす。

 

『フィニッシュタァァイム!』

 

 最大の一撃を放つ為にゲイツはその場で跳び上がり、最高点に達した時ドライバーを回転させ、溜められた力を解き放つ。

 

『ウィザード!』

『ストライク! タイムバースト!』

 

 ゲイツの前に出現する赤い魔法陣。その中に右足を入れる。魔法陣を通り抜けたゲイツの右足は何十倍もの大きさに変わっていた。

 『きっく』と描かれた足裏がキバを押し潰すそうとする。

 

「でかさで勝負か?」

『フォームライド・キバドッガ』

 

 キバの胸、両肩に鎖が巻き付き、砕けて消えると鎖の下から、岩を削り出された様な武骨な紫の胸甲と両肩の装甲に変わり、複眼も青から紫に変化。

 武器も剣に変わり、槌の部分が拳の形をしたハンマーが握られている。

 

「ふん!」

 

 巨大な足に向けて、両手で振り回したハンマーを打ち付ける。共に人の部位を何倍もの大きさに変えたもの。

 衝突の衝撃で、地面に転がる小石などが一斉に吹き飛ばされていく。

 

「おおおおおお!」

 

 叫ぶゲイツ。その声が蹴りに上乗せされたかの様にキバが押されていく。地面に根を張る様に踏ん張っているが、石造りの地面はその圧に耐え切れず割れ、粉砕されていく。

 しかし──

 

「ふぅうん!」

 

 キバは爪先を立てる様に地面を踏み付ける。地面の抉れは更に深くなったものの、キバが後退していく速度は落ちていく。

 やがて勢いは無くなり、キバは後ろに下がることは無くなった。

 ゲイツは少なからずキバにダメージは与えたが、倒す為に放った一撃を完全に受け止められてしまった。

 

「はあっ!」

 

 キバは自分の身長よりも大きい足を押し返すと、その踵をハンマーで打ち上げる。高々と上がる足。その動きに連動して空中にいるゲイツも後方に一回転。魔法陣から右足が離れると、大きさも元へ戻る。

 キバはゲイツの足を弾くと、ハンマーを引き摺りながらゆったりと余裕を持った歩みで距離を詰めていく。引き摺られるハンマーは、その重量故かもしくは秘められた力のせいか地面を擦る度に火花を飛ばしていた。

 バランスを崩しながらも地面に着地したゲイツは、ウィザードライドウォッチをジカンザックスに填める。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『ウィザード!』

 

 ジカンザックスの刃に火が灯り、刃が赤く赤熱する。

 燃える刃を振り上げ、キバに自分から向かって行く。

 キバの肩から脇腹を狙い、斜めに斬り下ろされる斬撃。刃に宿る熱で空気が燃え、火の軌跡が残る。

 高熱の斬撃を、ハンマーの柄で防ぐキバ。

 

「火のマジックか?」

 

 ゲイツの二撃目がくるよりも早く、キバの掌打がゲイツの胸を打つ。

 

「ならこっちは水芸だ」

『フォームライド・キババッシャー』

 

 素早く装填されるカード。バックルが九十度回転すると三度キバの姿が変わる。

 頑強な紫の鎧は無くなって、複眼と体が深緑色となる。両肩の装甲も消え、右肩にヒレの形をした肩当てとなり、深緑に染められた右手には三枚のフィンが付いた銃が握り締められている。

 

「これは……!」

 

 緑のキバに変化した瞬間から、足元が急速に濡れ始める。最初は地面の色を変色する程度であったが、やがて水に膜が張り、短時間で膝下までの水位となる。囲むものが無い場所でも水が流れ出ることなく一定の範囲に固められていた。

 キバはその水に足を濡らすことなく水面に立っている。

 

『ザックリカッティング!』

 

 ゲイツはジカンザックスに込められた力を全開放して斬りかかるが、刃が届く前にキバは後ろに下がる。上下しない体勢。キバは水面を滑走していた。

 キバは下がりながらも手に持つ銃から弾丸を放つ。咄嗟にジカンザックスで守るゲイツ。弾丸がジカンザックスに触れたとき、ジュウッという爆ぜる音が聞こえる。

 実弾ではなく水の弾丸は発射されていることにこの時気付く。

 キバは防がれたことを気にすることなく水面を自由自在に動き周り、あらゆる方向からゲイツを銃撃する。

 右からの水の弾丸。背後からの弾丸。斜め右、斜め左、正面と撃ち込まれ続ける。

 それをジカンザックスで何とか防ぐゲイツ。

 視界の端でキバが左に動くのが見えた。素早く体勢を変えて防御しようとし──脇腹に弾丸が命中する。

 

「くっ!」

 

 キバの動きに追い付くことが出来なかった。原因は足元に溜まる水。水の抵抗がゲイツの足捌きの枷になり続け、ついに隙を生み出させてしまう。

 一度でもダメージを受けたのならばもう遅い。水の弾丸は、一発一発の破壊力は高くは無い。だが、相手の動きを鈍らせるには十分。

 隙が新たな隙を生み、そこに容赦なく水の弾丸が撃ち込まれる。

 

「がああっ!」

 

 キバの銃は、空気中に水分がある限り何千、何万もの弾を撃ち出すことが出来る。故に弾丸の雨が途切れることなくゲイツの全身を撃つ。

 

 

 ◇

 

 

 ゲイツがキバと戦っている同時刻。ジオウもまた見たことも無い仮面ライダーと対峙していた。

 全身は光沢のある青紫。顔は目や鼻、口は無く、隈取りの様な赤い縁取り、額には異形の顔の紋章。頭から二本の角が突き出ている。

 

「鬼……?」

 

 その仮面ライダーの第一印象がそれだった。

 ジオウは知らない。前に立つライダーが過去に存在した仮面ライダーだということを。その名を響鬼ということを。

 響鬼は詰め寄ると同時に前蹴りをジオウに放つ。鳩尾を狙ったそれを横に移動しながら叩き落すジオウ。すると、移動先を狙ってアナザースペクターがジオウを背後から羽交い締めにする。ジオウが今纏っているゴーストアーマーに同系統の力を感じ危機感を覚えたのか、アナザースペクターは明らかにジオウに狙いを絞っている。

 背後から拘束され、ジオウは体を捩って逃れようとする。力の差でジオウはアナザースペクターを振り解くが、突然後頭部に衝撃を受ける。

 いきなりのことで何が起きたのか認識出来ない。その為、アナザースペクターの背から大きく弧を描いて伸びた第三の腕が後ろから殴りつけたことに気付けない。

 それを考える暇も与えずに代わる様に響鬼がジオウの胸部を殴打。

 

「ううっ!」

 

 一発目、二発目は防ぐ余裕が無く無防備で貰ってしまう。三発目の拳が胸を打つ。息が詰まりながらもジオウはその拳を両手で掴み取る。

 すると、拳頭から爪が伸び、ジオウの胸を更に突く。

 

「うっ!」

 

 この一撃で掴んでいる手の力が緩む。

 

「ふんっ!」

 

 そこに響鬼は拳を下から上に突き上げ、ジオウの手を解くと共にジオウの装甲に裂傷を刻む。

 後ろに下がるジオウ。響鬼が距離を詰めようとすると、アナザースペクターが響鬼を押しのけて怯んでいるジオウを殴りつける。

 二対一という状況であるが、響鬼とアナザースペクターは上手く連携出来ていない。

 顔目掛けて放たれた拳をジオウは腕で防ぎ、アナザースペクターの胴体に拳を打つ。

 殴られた箇所を押さえてよろめくアナザースペクター。追撃を加えようとすると、響鬼がそれを阻む。

 ジオウの手を掴んで引き寄せ、ジオウがその手を振り払うと顎、胸、腹に響鬼の連打が入る。

 痛みで動きが止まるジオウの前で響鬼はカードを取り出し、それをバックルに装填。

 カードそのものに何か力があると分かっていたジオウは、痛みを堪えながら響鬼に接近。ジオウの前でバックルが回転するが、咄嗟に響鬼の両腕を掴み取り、何もさせないようにする。

 しかし──

 

『アタックライド・オニビ』

 

 部位が無い響鬼の顔に円形の口らしき器官が開いたかと思えば、そこから吹かれる紫炎がジオウを焼く。

 

「あっつ!」

 

 その熱に手を放し、体に点いた火を払い消すジオウ。火はすぐに消え去った。

 

「火を吹くのは反則でしょ!」

「何せ、鬼だからな」

 

 抗議するジオウ。さらっと言い除ける響鬼。そこに空気を読まずにアナザースペクターがジオウを殴る。

 

「いった!」

 

 情けない声を出しながらも、崩れた体勢のままアナザースペクターの脇腹を蹴り、反撃するジオウ。アナザースペクターもうめき声を出しながらよろよろと後退する。

 

「はあ!」

 

 ジオウは胸の前で指を組む。すると、ゴーストアーマーの両肩──巨大な目の形をした装甲から飛び出す複数のもの。宙を飛ぶそれは上半身だけでフード付きのパーカーを被っており、パーカーの中身は黒い影が収まっている。被せられたフードの中も黒い影で埋められているが、そこに吊り上がった眼が二つ輝いている。

 英雄(パーカー)ゴーストと呼ばれるそれは、ジオウの意思に従い響鬼やアナザースペクターに体当たりをしてくる。

 よろめいていたアナザースペクターはパーカーゴーストたちの攻撃を受け転倒。響鬼は避けるかあるいは手でパーカーゴーストたちを捌いている。

 

「こっちも援軍だ」

『アタックライド・ディスクアニマル』

 

 バックルから次々と飛び出てくる赤い円盤。円盤は空中で変形し、鳥に変わる。

 鳥たちは群れとなってパーカーゴーストたちに襲い掛かり、空中で激しく争う両者。パーカーゴーストたちが何匹も鳥を落とすも数が劣っているせいで、振り払うことが出来ない。

 サポート同士で争っているその下で、ジオウたちの戦いが続く。

 響鬼の攻撃を何とか躱すジオウ。すると横からいきなり襲ってくるアナザースペクター。

 強引に割って入り、響鬼から獲物を奪う様にジオウに組み付く。

 互いに手足が上手く使えない状況。だが、アナザースペクターにとっては何の意味も無い。

 アナザースペクターの胸部にある眼から伸びる第三の手。その手が人差し指だけを伸ばした形になる。

 何をするのか察し、アナザースペクターから逃れようとするが間に合わない。

 人差し指から放たれる人魂の様な光弾が、ジオウの胸を撃つ。

 

「うあ!」

 

 直撃を受けて吹っ飛ばされるジオウ。アナザースペクターから十数メートル程飛ばされた後、足を震わせながらも何とか立ち上がる。

 だが、そこに容赦の無い追い打ちが迫る。

 

『ファイナルアタックライド・ヒ、ヒ、ヒ、ヒビキ!』

 

 バックルから現れたのは、赤い縁取りがされ、中央に渦巻こうとしている三つの炎の模様。鼓を思わせるそれは、バックルから飛び出るとジオウに張り付き、両手に収まるぐらいの大きさから、ジオウの上半身が隠れる程まで大きくなる。

 鼓が張り付かれたジオウは動くことが出来なくなる。そんなジオウを前にして、響鬼は背部から鬼の顔を模した赤い石が先端に付けられた撥を取り出し、ゆっくりと近づいていく。

 同時にもう一つの戦いもまた終わりを迎えようとしていた。

 度重なる銃撃についに膝を突いてしまうゲイツ。深緑のキバから紅のキバに戻ると、カードをバックルに挿し込む。

 

『ファイナルアタックライド・キ、キ、キ、キバ!』

 

 キバの右足首に鎖が巻き付き、それが砕け散ると右足首を覆っていた鉄甲が外れ、紅の双羽が解き放たれる。

 キバはその右足で弧を描きながら高々と振り上げ、左脚一本の力で数十メートルも跳び上がる。

 最高点に達したキバは、そこから最高速で落下する。高さと速さが掛け合わさり破壊の力と化すと、それが込められた右足をゲイツに叩き込む。

 ジカンザックスで咄嗟に防御するが、僅かに威力を削いだだけに過ぎず、地面に蹴り倒される。破壊の力はゲイツを貫き、彼が倒れた地面にキバの顔を同じ紋章を刻み込んだ。

 

「ぐ、う……」

 

 許容を超えた力に耐え切れず、ゲイツの変身が解ける。彼の上に足を乗せていたキバの姿はそれを見て、二重、三重と姿がブレ始め、最後には消えてしまった。

 

「ゲイツ!」

「他人の心配をしている場合か?」

 

 気付けば眼前に立つ響鬼が、ジオウを拘束する鼓に二本の撥を叩き込む。

 鼓から響く音が空気を震わす。離れた場所で戦いを見守っているツクヨミとタケルの腹の奥底に染み込んでいく様な重音。それを直接打ち込まれているジオウの体内にどれほどの音が流れ込んでいくのか想像するだけでも恐ろしい。

 左右の撥が絶え間なく鼓を叩く。荒々しい音の奏。原始的な様で、確かな技術も感じさせる。

 やがて響鬼は、両腕を同時に振り上げる。締める為の前動作。

 

「はあっ!」

 

 右と左の撥が鼓を叩き、締めに相応しい大音が場を満たす。

 

「うあああ!」

 

 最後の一撃でジオウは吹き飛ばされ、地面を転がりながらその変身が解かれる。戦いに敗れ、変身が解けたのはこれが初めてであった。

 

「魔王とはそんなものか?」

 

 負けたソウゴを見下ろし、響鬼は敗者を煽る。

 

 

 ◇

 

 

 戦いに破れた二人。アナザースペクターによってソウゴの魂が奪われようとしたが、タケルの不可思議な力によって間一髪体から魂が抜けるという状態で一応助かった。

 しかし、ソウゴの今の状態にういてゲイツもツクヨミも分かって居なかったが、眠り続けるソウゴを目覚めさせる為に、ゲイツはアナザースペクターがうまれた2015年に時間跳躍する。

 ゴーストアーマーの力でアナザースペクターを追い詰めるゲイツであったが、そこにあの謎の仮面ライダーの妨害が入る。

 

「この前の仮面ライダーか……」

 

 格子状の仮面の下に見える赤い目、額には龍の紋章。赤を主としたスーツに銀色の装甲が装備している。アギト、キバ、響鬼とは違う姿であったが、声は同じなのですぐに気が付いた。

 

「お前とやるには、こいつの方が良さそうだ」

 

 取り出されるカード。そこに描かれているのは、ゲイツが持つゴーストライドウォッチと同じ顔。

 

『カメンライド・ゴースト』

『レッツゴー! 覚悟! ゴゴゴ、ゴースト!』

 

 バックルから黒い布にオレンジの縁取りがされたパーカーゴーストが現れ、それを羽織る。龍の仮面ライダーから姿が変わり、橙の仮面に楕円形の大きな黒い目。額から伸びる一本角。

 パーカーについたフードを取る。

 ゲイツは知っている。目の前仮面ライダーの名を。纏うアーマーと同じ名を持つライダー。

 仮面ライダーゴースト。

 

「ゴーストが三人。中々粋な計らいだろ?」

 

 そこでゴーストは少しの間、アナザースペクターを見る。

 

「──まあ、大体同じ様なもんだろう」

『ガンガンセイバー!』

 

 ゴーストは虚空から両刃の大剣を取り出すとゲイツに斬りかかる。

 初撃を躱すゲイツであったが、避けることを見込したゴーストが、ゲイツの逃れた先に後ろ蹴りを放つ。

 それを受け、よろめくゲイツにアナザースペクターが掴みかかり、ゲイツの両肩を押さえると、手刀の形をした第三の手をゲイツの首筋に叩き込む。

 

「ぐう!」

 

 首が曲がりそうな衝撃に耐えるゲイツ。そこに大剣を構えて走り寄って来るゴーストの姿。

 斬られる前にゲイツはジカンザックスを横に振るう。すると、ゴーストは体を大きく仰け反らせる。地面とほぼ平行になる体勢となったゴーストの眼前を通過していくジカンザックス。通過し切ると同時に、重力を感じさせない様な軽やかな動きで膝から上を立たせると無防備となったゲイツの背を斬り付けた。

 

「ぐあっ!」

 

 火花を散らしながら前のめりになって数歩進むゲイツ。すぐに体勢を立て直そうとするゲイツは、ゴーストとアナザースペクターが並んで立っているのを見た。

 

「ここから幽霊らしくいくか。お前もちょっと付き合え」

「うう……」

 

 肯定とも否定とも分からないアナザースペクターのうめき声。そもそも言葉が通じているのも分からない。

 ゴーストがバックルにカードを挿し、その力を自分の身に宿す。

 

『アタックライド・インビジブル』

 

 ゴースト、アナザースペクターの姿が同時に消えた。

 

「なっ!」

 

 ゴーストアーマーの力でも二人を見つけることが出来ない。完全に存在が消失している。

 

『フォームライド・ゴーストムサシ』

『決闘! ズバット! 超剣豪!』

 

 音だけが彼らが完全に消えた訳はでないと告げる。だが、それはゲイツにとって不気味にしか思えなかった。

 直後、衝撃がゲイツを襲う。

 

「うあっ!」

 

 肩から腰に掛けての袈裟切り。しかも、斬撃は一つでは無なく二つ。見えないが二本の刃で斬られたことは理解した。

 前方にジカンザックスを振るうが手応えは無い。途端、背中を誰かに殴りつけられる。

 背後を見る。当然誰も居ない。瞬間、胴体を斬り抜かれた。

 

「くああっ!」

 

 地面を転がるゲイツ。だが、そこで止まればすぐに追撃が来る。ゲイツは片膝を突いた体勢で体を起こし、眼前で人差し指、中指を立てた。

 ゴーストアーマーから飛び出てくるパーカーゴーストたち。見えない相手の牽制の為に周囲を守らせる。

 

『フォームライド・ゴーストエジソン』

『エレキ! ヒラメキ! 発明王!』

 

 不可視の状態でまた姿が変わったのが分かる。すると何も無い空間から稲妻の様な輝きを放つ光弾が放たれ、パーカーゴーストの一体を撃ち抜いた。

 続けて青白い人魂の様な光弾も放たれ、ゲイツを守るパーカーゴーストを撃ち落とし、消し去る。

 周囲から自分を守るものが消えていく。しかし、ゲイツに焦りは無い。次の攻撃でゲイツは仕掛けるつもりであった。

 最後の一体となったパーカーゴーストが光弾で消滅すると同じくタイミングでゲイツは駆け出した。

 攻撃が放たれた場所は見えた。後は逃れられない範囲の攻撃で仕掛けるまで。

 走りながらゲイツはライドウォッチに手を伸ばす。

 

『フォームライド・ゴーストニュートン』

『リンゴが落下! 引き寄せまっか!』

 

 新たな音声。その途端、ゲイツの体が前に進まなくなる。意志とは反対に何か反発する力で体が動かない。

 場に留まらせられるだけに終わらず、ゲイツの足が地面から離れ、空中に向かって浮かび上がっていく。

 

「何だと!」

 

 空中でもがくが空を切るだけで抵抗出来ない。地面が遠くに感じ始めたそのとき──

 

『ファイナルアタックライド・ゴ、ゴ、ゴ、ゴースト!』

 

 ゲイツよりも更に上にゴーストが姿を現す。その姿は消える前と同じ姿であった。

 ゴーストの背に橙に輝く巨大な眼の紋章が浮かび上がり、その紋章の光はゴーストの右足に宿る。

 

「これで終わりだ」

 

 ゲイツの背にゴーストの右足が直撃する。そのまま落下する両者。

 ゲイツは見た。落下地点に幽鬼の様に立つアナザースペクターの姿を。

 アナザースペクターの足元に、ゴーストと似た紋章が青と黒の混じった輝きを放つ。

 その光もまたアナザースペクターの右足へと宿ると、アナザースペクターは落ちてくるゲイツを迎撃する為に、右足を上空目掛けで振るう。

 上と下からくる力に挟み込まれるゲイツ。合わさった力は爆発となり、ゲイツを容赦なく蹂躙する。

 

「ぐあああああああ!」

 

 変身が解除され、地面を無様に転がっていくゲイツ。

 

「魔王とやらを助けたいというお前の気持ちはそんなものか?」

 

 否定したい言葉であったが、今のゲイツにはそれに噛み付く程の力は残されていなかった。

 

 

 ◇

 

 

 何の気紛れか、ゲイツは命だけは助かった。しかし、代償としてゴーストによってゴーストライドウォッチは力を失い、ブランクウォッチに戻ってしまった。これによりアナザースペクターを倒す手段も無くなった。

 代わりと言って得体の知れないライドウォッチを渡されたが、ゲイツにとっては何の慰めにもならない。

 傷付いた体を引き摺りながらタイムマジーンの下へ戻ろうとする。

 

「早く、2018年に……!」

 

 気力で体を動かしていたゲイツだが、それも限界を迎え、意識を失う。

 ゲイツは気付かなかった。すぐ近く人の気配があったことを。

 

「2018年?」

 

 目を覚ますとゲイツはベンチの上で寝かされていた。体を見ると最低限の治療が施されている。

 一体誰が、と考えながら上体を起こす。

 

「起きたか」

 

 声の方に目をやる。青と黒のレザージャケットを着たどこか気難しそうな青年が腕を組み、街灯に背を預けて立っている。

 

「お前がこれを?」

「成り行きだ。偶然お前を見つけた、な」

「そうか」

 

 すぐにこの場から立ち去ろうとするゲイツ。この時代の人間との接触は最低限にしておかなければ、未来にどんな影響を与えるか分からない。

 

「せめて最低限の礼儀は払っておいたらどうだ?」

 

 怒っているという訳でなく道理や筋を通すべきだと諭す様な冷徹さを感じさせる声。

 

「──治療してくれたことには礼を言う。悪いが急いでいる」

 

 片足を引き摺りながらも足早に去って行くゲイツの背を、青年は少し呆れた態度で見ていた。

 ふと、ゲイツが寝ていたベンチを見る。そこにはブランクウォッチが置かれていた。

 忘れ物だと思い手に取り、ゲイツを見る。

 

「おい──」

 

 既にゲイツの姿は消えていた。

 

「この時計といい。2018年という言葉といい。何だったんだ? あいつは?」

 

 青年──深海マコトはブランクウォッチを握りながら言葉を零す。

 その疑問が解けるのは、三年後のことであった。

 




書きたいことが多過ぎて三分割にしました。
最近のジオウの展開を見て、当分アナザーライダーは出なさそうですね。
アナザーサブライダーというタイトルなので、アナザーライダーが出てこない回は飛ばしていきます。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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