オーマジオウの前でグランドジオウが急速に色褪せていく。鎧に付けられたライダーたちのレリーフが罅割れ、能力と共に色を失う。
オーマジオウはその様子を黙って見ていた。手を出せばすぐにでも倒せるだろう。しかし、何もせずにグランドジオウを見続ける。
何を考えているのか。それはオーマジオウ自身にしか分からない。
「うわあああああああ!」
グランドジオウは金色ではなく朽ちた銅色へ変色し、全てのレリーフに亀裂が生まれると、グランドジオウの全身に放電の様な光が走る。
ジクウドライバーに装填されていたグランドジオウライドウォッチが消滅。それにより、グランドジオウの鎧もまた塵の様に崩れて跡形も無くなり、後に残されるのはジオウだけ。
「……失ったか。平成ライダーたちの力を」
その声には幾分かの憐憫が含まれている。
「タイムジャッカー共も中々やる。平成ライダーたちの歴史を完全に消し去──」
「まだだっ!」
オーマジオウの声を遮ってジオウが叫ぶ。
「力や能力を失っても、俺の世界から平成ライダーたちの歴史が消えてしまっても、まだ残っている! 俺の中で!」
常磐ソウゴがいた世界で、もう仮面ライダーを知る者は居ない。しかし、彼の記憶の中には平成ライダーたちが歩んできた歴史が確かに存在していた。
「──そうだったな。しかし──」
オーマジオウの姿が消える。次にジオウがオーマジオウを見つけたのは眼前。視界に入れると同時にオーマジオウの掌がジオウの胸に押し当てられ、そこから放たれる金と黒の波動によって吹き飛ばされる。
「その程度の実力では、平成ライダーたちの歴史を守ることすら叶わない!」
体を地面に激しく打ち付けながら転がっていくジオウ。うつ伏せの体勢となった彼は腕を震わせながら上体を起こす。
視線に先にはオーマジオウが全身から覇気を放ちながら立っている。あちらは今だに平成ライダーたちの力を持ち、こちらはそれを全て失った。しかし、オーマジオウがそのことで手加減するつもりは一切無い。
絶体絶命の状況。だが、ジオウに残された力はまだある。ジオウⅡではオーマジオウには届かないのを感じていた。
ならば残された選択肢は二つ。しかし、その内の片方は強い不安を覚えるもの。今ここで一か八かで使うのは躊躇われる。
そうなれば必然的に残された選択肢が選ばれるが、こちらもまたある種の不安があった。
「行けるか……?」
ジオウが選んだのはジオウトリニティライドウォッチ。ジオウトリニティへの変身を選んだが、ウォズとゲイツが未来まで呼び寄せられるかに一抹の不安を覚える。アナザーワールドへ呼び寄せられた時は異空間だが同じ時間軸ではあった。果たして異なる時間軸まで呼び寄せられるのか。
失敗をすれば──
「──いや! なんか行ける気がする!」
『ジオウトリニティ!』
いつもの曖昧なポジティブさ──ではなく自らを鼓舞する為にそれを使う。
ジオウトリニティライドウォッチをジクウドライバーへ。そして、流れる動きでドライバーを回転させる。
『トリニティターイム!』
ジオウの周囲に同心円状の黄金の輪が重なり合う。
『三つの力!』
空間が歪み、そこから腕時計型に変化した仮面ライダーゲイツとウォズが飛び出し、ジオウの左右に並ぶ。
『仮面ライダージオウ! ゲイツ! ウォズ!』
それらとジオウが一つになり、ジオウトリニティへ融合変身する。
『トーリーニーティー! トリニティ!』
ジオウトリニティの精神世界。そこでソウゴはゲイツとウォズと顔を合わせる。時間を跳躍してのジオウトリニティへの変身成功に一先ず安堵した後、ソウゴは戦いの前にゲイツにどうしても訊いておかなければならないことがあった。
「──ゲイツ、侑斗たちはどうなったの?」
「……あいつらは最後まで戦っていた。そして……消えた」
「……やっぱり」
ゲイツの答えに納得すると同時にソウゴの表情に陰が掛かる
「消えただって? 時空の歪みの影響がそこまで……となると我が魔王! まさかグランドジオウの力は!?」
「──うん。さっき失った」
「成程……」
グランドジオウの力の消失は予想出来ていたこと。その現実を納得しようとしているウォズであったが、眉間に深い皺が寄っている。現状、スウォルツに対抗出来る力を失ったとなれば深刻になるのもおかしくはない。
「そして俺たちはオーマジオウを相手にする、という訳か」
ゲイツは気持ちを切り替えてジオウトリニティの目越しにオーマジオウを睨む。否、切り替えざるを得かった。何故ならば目の前にオーマジオウがいるからだ。
2068年の未来にて散々苦渋を舐めさせられた相手であるが、こうやって面と向かい合うのは初めてのことであった。今までは仲間がオーマジオウに蹂躙がされる様を遠巻きに眺めることしか出来なかった。だが、やっと手の届く場所に立てた。
向こうからすれば自分など路傍の石ころ程度の認識でしかないだろうが、言わずにはいられない。
「ようやく会えたな……!」
既に闘志に満ち満ちているゲイツ。ソウゴは静かにウォズへ訊く。
「ウォズは大丈夫なの?」
「……いつかはこんな日が来ると思っていた。我が魔王──オーマジオウもまた想定していた筈だ。──遠慮することは無い。私は君と共に戦うよ」
ウォズもまた既に覚悟を決めていた。主であるオーマジオウと戦う覚悟を。
「その姿──」
ジオウトリニティを見ていたオーマジオウが口を開く。三人に緊張が走る。
「私が若かりし頃には無かったものだ」
その言葉に含まれている感情は果たしてどんなものか。羨望か期待か嫉妬か歓喜か、それとも感情を揺るがす程でもない他愛の無いものか、オーマジオウの内心を量るには三人はまだ若かった。
「二人とも! 一気に行くよ!」
「おう!」
「ああ!」
精神世界での会話が終わり、ジオウトリニティは動き出す。
『ジカンデスピア! ヤリスギ!』
鎗モードのジカンデスピアを取り出すと、すかさずパネル部分を触れる。
『フィニッシュタイム!』
ジカンデスピアの刃に緑のエネルギーが満ち行く。その最中にジオウトリニティはジオウライドウォッチとトリニティライドウォッチのボタンを一度ずつ押した。
『フィニッシュタァァイム!』
『ジオウ!』
ジオウの名が呼ばれるとジクウドライバーを一回転。
『ソロ! タイムブレーク!』
『爆裂DEランス!』
ジカンデスピアから手を離す。落下するジカンデスピアだったが、地面に着く前にその柄頭にジオウトリニティの足の甲が打ち付けられ、音を置き去りにする速度で蹴り飛ばされる。
マゼンタ色に輝く『キック』の文字が鎖の様に連なり、ジカンデスピアを覆う。
二重の力が加わったジカンデスピアに対し、オーマジオウはその場から一歩も退くことはしなかった。
「ふんっ!」
眼前まで来たジカンデスピアにオーマジオウは左掌を突き出す。放たれる黄金と黒の波動がジカンデスピアに放たれる。
「むう……!」
オーマジオウが放つ波動は攻防一体の性質を持つ。だが、オーマジオウはジカンデスピアを弾き飛ばすつもりで使用していた。しかし、現実はジカンデスピアの穂先を止めるだけになっており、オーマジオウの力で以ってしても容易に弾き返すことが出来ない。
一方でジオウトリニティはジカンデスピアを蹴り飛ばした直後に動く。その手にのこモードのジカンジャックローを握り締めて。
オーマジオウとの距離を詰めながらジカンジャックローのスイッチを連続して押す。充填されるエネルギーでジカンジャックローが自壊寸前になるまでそれを繰り返す。
蓄積されたエネルギーでジカンジャックロー全体が輝き、機構部分から不穏な音が鳴り始めた時にはジオウトリニティは絶好の位置に到達していた。
『フィニッシュタァァイム!』
『ジオウ! ゲイツ!』
ライドウォッチが叫び、ジクウドライバーが鳴り響く。
『デュオ! タイムブレーク! バースト!』
『のこ切斬!』
突き出されるジカンジャックロー。そこにトリニティの力も重ねられ、マゼンタ、黄、橙の色を交互に発しながらジカンジャックローの丸鋸が回る。
「させん!」
オーマジオウは右掌を翳す。そこへ打ち込まれるジカンジャックロー。オーマジオウの波動とジカンジャックローが放つ光が衝突し合い、天に向かって多色の光が伸びていく。
左掌でジカンデスピアを押さえ、右掌でジカンジャックローを押さえるオーマジオウ。ジオウトリニティにより両手を塞がれてしまう。
そして、ジオウトリニティはオーマジオウとは違い、まだ片手が空いていた。
『サイキョー! フィニッシュタァァイム!』
オーマジオウは見た。己の胸元に突き付けられるサイキョージカンギレードの切っ先を。
『キング! ギリギリスラッシュ!』
切っ先から伸びる『ジオウサイキョウ』と側面に描かれた光刃。それが無防備になっているオーマジオウの胸を突く。
「ぬうううううっ!」
流石のオーマジオウもその一撃に呻きながら、伸びて行く光刃に押され、近くの岩壁へ叩き付けられた。
サイキョージカンギレードの光刃が消え、砕けた岩壁からずり落ちていくオーマジオウ。
地面に足が付き、ジオウトリニティらを睨みながら一歩踏み出そうとした瞬間、オーマジオウの膝が折れ、地面を突く。
『オーマジオウが……!?』
『膝を……!?』
内にいるゲイツとウォズが驚愕の声を上げる。絶対的存在であるオーマジオウに大きなダメージを与えた。喜びよりも先に驚きの方が来てしまう。それ程までに彼らの中ではオーマジオウは無敵の存在として在るからだ。
「よし……!」
ソウゴはようやく感じた手応えに思わず声を上げる。オーマジオウにようやく一泡吹かせた瞬間であった。
しかし、ここで手を緩める訳にはいかない。膝を突かせたが、オーマジオウの鎧には傷一つ付いてはいない。あくまでキングギリギリスラッシュの衝撃が内部に多少通っただけである。
ソウゴはジオウトリニティ内にてジオウⅡライドウォッチを起動。その効果はジオウトリニティにも反映される。
ジオウトリニティの額にあるずれて重なる黄の短針とマゼンタの長針。それがジオウⅡの未来予測の時の様に数回転する。
ソウゴらの頭の中に浮かび上がる未来の光景。そこでは立ち上がったオーマジオウがジオウトリニティに対し、両手から波動を放っている。
「見えた!」
ジオウトリニティはサイキョージカンギレードをきつく握り締める。そして、ジオウトリニティ内のソウゴたちがそれぞれのライドウォッチを起動。
『ジオウⅡ!』
『ゲイツリバイブ!』
『ギンガ!』
いつかのアナザージオウトリニティを倒した時の様にサイキョージカンギレードに全ての力を集結させる。
『フィニッシュタァァイム!』
そして最後に加えられるのはジオウトリニティの力。
『ジオウ! ゲイツ! ウォズ!』
光刃の長さは果てしなく伸び、側面に描かれた文字も変化していく。
オーマジオウが未来予測通りに立ち上がり、こちらに向けて両手を伸ばそうとしているのが見える。
『トリニティ! タイムブレーク! バースト! エクスプロージョン!』
『キング! ギリギリスラッシュ!』
オーマジオウが攻撃を放つ瞬間に合わせ振るう。
『ジオウゲイツウォズ剛烈疾風銀河サイキョウ』
その名が示す通り、ジオウトリニティは最強の一撃。オーマジオウの波動を以ってしても防ぐことなど出来ない。
オーマジオウは迫る光刃に対し両手を──自らのドライバーに向けた。
『ジオウの刻!』
「なっ!?」
オーマジオウの体から『ケン』と『ジュウ』の文字が飛び出し、キングギリギリスラッシュの盾となって防御する。
予測した未来とは違うオーマジオウの動きと光景にジオウトリニティは激しく動揺する。
その動揺からかキングギリギリスラッシュが『ケン』と『ジュウ』に弾かれてしまう。
すぐに斬り返すジオウトリニティだったが──
『タイムブレーク!』
光刃が離れた間にオーマジオウは右手に『ケン』の文字を、左手に『ジュウ』の文字を纏わせる。
左手を銃に見立てて構えると、指先からマゼンタの光弾が発射され光刃と衝突。更に右手から伸びるマゼンタの光刃を振るうと刃が飛び出した。
ジオウトリニティの光刃はオーマジオウの刃と弾を斬り飛ばそうとするが、出来ずに拮抗。それでも押し返そうとした結果、オーマジオウの刃と弾は爆ぜ、ジオウトリニティの光刃は砕け散る。
「そんな……」
全員の力を集めて放った一撃が、オーマジオウの数ある技の一つ、それも自身のジオウの力で引き分けにされたことに強いショックを受ける。
だが、それよりも分からないことがある。何故、オーマジオウが未来予測と違った動きをしたのか。
「お前の見た未来と違い、驚いたか?」
ジオウトリニティの心境を見抜く言葉を放つオーマジオウ。
「お前に出来て、私に出来ないと思っているのか? お前が見た未来は私が見せたもの! そして、その未来は私が握り潰した!」
未来予測で相手に都合の良い未来を見せ、油断した所でその未来を自身の力で消し去る。時の王者に相応しい誰に真似することが出来ない力業。
『……流石は我が魔王。見事なまでに圧倒的な力だ』
『褒めている場合か……!』
『いや、これは褒めていないさ……恐れているのだよ。改めてオーマジオウの持つ底知れぬ力を』
『っ……!』
内にいるウォズが語るオーマジオウへの戦慄。ゲイツもそれを理解してしまったのか否定の言葉を吐くことすら出来なかった。
分かっていたことだが、オーマジオウは強い。否、強過ぎた。
「私が若き頃には……」
オーマジオウは、先程サイキョージカンギレードで突かれた箇所を触れる。
「そこまでの力は無かった」
オーマジオウにとってジオウトリニティは未知なる力。単純な力や多様性ならばグランドジオウの方が上であろう。しかし、この戦いでオーマジオウに最もダメージを与えたのはジオウトリニティであった。
「──俺の力じゃない。仲間の力だ」
オーマジオウを前にしてもこれだけは胸を張って言い切れる。
「あんたは未来の俺かもしれないけど、一つだけ違う所がある。──俺には仲間がいる!」
孤高の王者は今だに遥か高みに存在する。ソウゴ一人でその高みに挑むのは無謀かもしれない。だが、共に戦ってくれる仲間の存在がいるだけで恐怖は感じなくなる。
「──ふっ、成程。確かに今の私には無い力だ」
オーマジオウが微かな笑いを零す。そこには自嘲が含まれている気がした。
「そしてお前は、その仲間の為に自らを犠牲にしようという訳か」
オーマジオウから告げられた言葉に衝撃を受けたのは、ジオウトリニティの中にいるゲイツとウォズであった。
『どういうことだ!?』
『聞いていないぞ、我が魔王!?』
真意を問い質そうとする二人であったが、その前にジオウトリニティはジクウドライバーを外し、変身を解除してしまう。
そのせいでゲイツとウォズは強制的に元の時代へ帰還させられてしまった。
「仲間には聞かせたくない話だったか? その為に私を倒し得る力を放棄しあまつさえ生身の体を晒すとは愚かな……」
「挑発したって無駄だよ。あんたには最初から俺を倒すつもりなんて無かった」
オーマジオウの攻撃には相手を圧倒する苛烈さがあった。しかし、殺意は感じられなかった。それはソウゴを倒すつもりが無い証。何故倒すつもりが無いのか、その答えは至って単純なもの。
「お前は、私だからな」
時の王者であり最高最善の魔王だとしても過去の自分を消し去ることは出来ない。それは今の自分を消し去ることに等しい。
「ねえ、あんたも未来が見えるって言ったよね」
「ああ」
「あんたには俺がどんな未来を行くのかも見えているの?」
「無論」
「教えて、って言ったら教えてくれるの?」
「お前が望むのならば」
ソウゴは少しだけ考えた後、口を開く。
「なら……少し教えてくれる?」
「──お前はスウォルツとの戦いで二つの選択を迫られる」
「二つの選択? それって何?」
「お前自身がオーマジオウに成るか否かだ」
「俺がオーマジオウに……!?」
スウォルツに同じ事を言われた。しかし、オーマジオウという存在を否定した自分がオーマジオウに自ら成ることに信じられない様子のソウゴ。
「スウォルツの狙いはオーマジオウの力。オーマジオウの力を以って自らを王へ押し上げるつもりだ。奴の全ての謀はお前をオーマジオウにさせる為のもの」
「俺は、オーマジオウには──」
「その考えは無意味。既にその選択は運命に組み込まれている。逃れることは出来ない」
「でも、オーマジオウになったら全部スウォルツの企み通りになるじゃないか!」
「然り。だが、全てを覆すのにはオーマジオウの力もまた必要なのだ!」
「全てを覆すのに……?」
「スウォルツごときの企みなどオーマジオウの力が有れば容易く打ち砕ける。だが、それには相応の対価を払うことになるだろう」
対価。その不穏な言葉にソウゴは険しい表情となる。
「対価って何?」
「強さを得るには苦しみと哀しみが付き纏うものだ、とだけ言っておこう」
オーマジオウはハッキリと答えることはしなかった。
「あんたには……俺の結末までが見えているの?」
「さて、どうかな?」
オーマジオウは手を翳す。ソウゴの背後に周囲に無数の時計盤で囲まれた歪みが生じる。その歪みの向こうには2019年の光景が映っていた。
「最後に選ぶのはお前自身だ」
その言葉の後、歪みがソウゴを覆い、彼を2019年へ返す。
「……少し助けてやるとするか」
残されたオーマジオウは天に向けて手を掲げる。そこから放たれる金色の粒子。オーマジオウから放たれたそれは何処かへ飛んで行ってしまった。
「無意味かもしれないが……まあ、行けそうな気もする」
無意識に呟いた後、自分の言葉に気付いてオーマジオウは苦笑する。
「ふっ、何十年振りだろうな……この台詞を言うのは」
◇
2069年から現代へ戻って来たソウゴ。そこにすぐさまゲイツからの連絡が入る。
『話したいことがある』
そう言われ、ソウゴは重い足取りでクジゴジ堂へと戻る。
クジゴジ堂内に入るとそこにはゲイツとウォズ、そしてツクヨミと飛流がソウゴを待っていた。
「……叔父さんは?」
「順一郎さんは今私たちの為に料理を作ってくれてる」
順一郎の姿が見えないことに少し驚いたが、ツクヨミから理由を聞いて安心した。
「士は……?」
安心してすぐに士の姿も見えない事に気付く。予定ではゲイツと合流している筈なのだが。
「……あいつは姿を見せなかった。何かトラブルに巻き込まれたのかもしれない」
「ディケイドとあろう者がかい?」
ウォズは信じられないという様子である。士の強さを知るゲイツも同じ気持ちであった。
「はっ。尻尾を巻いて逃げたんじゃないのか?」
士に対して悪感情を持つ飛流だけは士に対して嫌味を飛ばす。
「止めてくれないかな……何も知らない癖に好き勝手言うのは……」
そこに介入してくる新たな声。全員がクジゴジ堂入口を見ると傷だらけの海東が立っている。
「お前ぇぇぇ!」
海東の姿を見た途端、飛流は飛び掛かろうとする。それを慌ててツクヨミが止める。
「止めて! 怪我をしているわ!」
「だからどうした!」
飛流にしてみればそんなことなど止める理由にはならない。
「俺のウォッチを!」
「ああ、あれのこと? 残念だけど今僕の手元には無いよ」
「噓を吐くな!」
「本当さ。僕を殴り倒して探しても絶対に見つからないよ」
逃げる素振りを見せない海東を見て、噓は言っていないと感じたのか飛流は取り敢えず殴り掛かるのは止めた。
「何処にある……?」
「さあね」
「この──」
飛流が再び襲い掛かろうとする前にウォズのストールが伸び、飛流を拘束してしまう。
「いい加減にしたまえ。まずは彼の話を聞くのが先だ」
「海東大樹、士はどうしたの?」
ソウゴが訊くと海東は無言で二枚のカードを見せる。そこにはディケイドの姿が写っていた。
「これって……!?」
「はあ……スウォルツにはまんまとやられたよ」
ソウゴたちは海東から士がスウォルツが呼び出したもう一人の自分と戦っていたこと。そして、海東もまた自分の兄と戦っていたことを教えられる。
「このカードを運良く回収出来て良かったよ……」
そこで限界を迎えたのか、海東は気を失ってしまう。
「急いで手当てを!」
海東を急いで二階に運び、そこで怪我の治療を行うツクヨミとウォズ。ウォズに拘束されている飛流も引きずられて必然的に付き合わされることになった。
残されたソウゴとゲイツ。両者の間に沈黙が流れる。
「……ジオウ」
「……何?」
「少し顔を貸せ」
ゲイツはそう言ってクジゴジ堂の外へ出ていく。ソウゴはその後を黙って着いていく。
「ソウゴ君。もしかして帰って来た?」
エプロン姿の順一郎が出て来るが入れ違いになってしまったせいで、声を掛けた時にはソウゴたちは居なくなっている。
「あれ……?」
首を傾げて料理の続きに戻ろうとする順一郎だったが、足が止まる。立ち止まった彼が見つめる先には、壊れたライドウォッチが飾られるライドウォッチダイザーが在った。
◇
「オーマジオウが言っていたことは本当なのか?」
人気の無い場所に連れてこられたソウゴは、開口一番に訊かれた。
「……」
ソウゴはその問いに口を開くことは出来ない。
「黙っているということは……本当なんだな……!」
ゲイツはソウゴの胸倉を掴み上げる。
「それで……みんなが救えるなら……」
「ふざけるな!」
ゲイツの拳がソウゴの頬を殴りつけ、ソウゴの体が地面に倒れる。
「お前は、それで良いと本当に思っているのか!」
ソウゴの服を掴んで無理矢理起こしながらゲイツは怒鳴る。
「最高最善の魔王に! 王様になるのがお前の夢なんだろう!」
「分かっている……分かっているけど……」
「お前が犠牲になるなら、俺がその役目をやってやる!」
「そんなのはダメだ!」
ソウゴはゲイツを突き飛ばす。
「俺は、仲間を犠牲になんて出来ない……!」
「そうだろうな! それと同じ様に俺たちもお前を犠牲に出来ないんだ!」
ゲイツはソウゴに飛び掛かり、二人は地面を転がっていく。
「でも、それしか方法が無い!」
「知ってしまった以上許すと思うのか!」
土に塗れながら争う二人。互いに互いを思いやる故に答えが出せない。
「魔王なら魔王らしく死んで来い、と言ってみろ!」
立ち上がったゲイツがソウゴの頬を殴る。
「言える訳、無いだろう!」
ソウゴは殴られながらもゲイツの顔面を殴り返す。
「大体いつもいつも勝手に決めるのはなんだ! この我儘魔王が!」
「ゲイツこそ人の話を聞かない時があるじゃん! 短気!」
日頃不満に思っていることをぶちまけながら殴り合う両者。
「何が王様だ! 今のお前なんてニートと変わらん!」
「そう言うゲイツだって似た様なものじゃん!」
段々と子供の口喧嘩の様になっていき、殴り合いも疲れからか掴み合いに変わっていく。
散々と罵りあっていたが、今は疲れて荒い呼吸音しか発せられない。互いの肩を掴み、休憩でもするかの様に動きを止める。
「俺は……」
ゲイツは途切れ途切れに本年を洩らす。
「お前が、創る……未来が、見たいんだ……でも、それが無理だとお前自身が言うのなら……」
頬を腫らしたゲイツは真っ直ぐソウゴを見つめる。
「俺も、一緒に死んでやる」
その覚悟にソウゴは言葉を詰まらせ、顔を伏せる。二人の足元に黒い染みが点々と作られていく。
「俺は……まだ、ちゃんと答えが出せていない……! 迷ってばっかりだ……! ゲイツたちを傷付ける答えを選ぶかもしれない……! でも、それでも……」
士の言葉が頭を過る。
『何もかも一人で背負うのも間違ってはいない。大切な者たちを傷付けられたり、重荷を背負わせるより遥かにマシだ。だが、そうやって何でもかんでも一人でやろうとすると、返って傷付けることもある』
都合が良いのは分かっている。でも、常盤ソウゴは必ず選ばなければならない。しかし、その時が来るまでは──
「ゲイツ……俺と最後まで一緒に戦ってくれ……!」
「──ああ」
──共に戦う友が傍にいることを願った。
「ひとまずは安心、と言ったところかな」
遠くから眺めていたウォズは安堵の溜息を吐く。ツクヨミに頼まれて様子見に来たのはいいが、殴り合いを始めた時はひやひやとした。
状況はまだ何とも言えないものであった。士と海東は戦闘不能状態。侑斗たちは歴史の歪みによって消滅。平成ライダーたちのライドウォッチも使用不能状態によりグランドジオウにも成れない。
こちらの状況だけ見ると絶望的だが、ゲイツから聞いた話では侑斗たちの健闘によりスウォルツに大きなダメージを与えたという。
スウォルツの性格から考えて傷がある程度癒えるまでは行動しないと思える。スウォルツは良く言えば慎重、悪く言えば臆病な面がある。リスクがある時は積極的に動く様には思えない。
その間に作戦の要であるツクヨミから朗報が入るのを期待しているのだが──
「ツクヨミ君。まだ君の力は形にならないのかい?」
◇
治療を終えた海東はベッドの上で静かな寝息を立てている。その横でツクヨミが音も無く立っている。
「──ごめんなさい」
ツクヨミが海東へ手を翳す。すると、海東の体からオーロラの様な光が発せられ、ツクヨミの手の中に吸収されていく。
以前、スウォルツが海東に与えた時間操作の力をツクヨミが意識の無い内に吸収しているのだ。
今は少しでも力が欲しい。
「中々姑息なことをするな」
入口付近で飛流がニヤニヤと笑いながら立っている。それはツクヨミに向けられたものではなく本人の知らない内に力を奪われている海東へのもの。その事実が海東への溜飲を下げる。
「──丁度良かったわ。飛流、私に力を貸して」
「……何をするつもりだ?」
「兄と……スウォルツと戦うのよ。私と貴方で」
ツクヨミはそう言って取り出したのは、飛流の知らないライダーの顔が浮かぶライドウォッチ。しかも、一つだけでなく複数持っている。
「お前、このことを黙っていたのか?」
そう、これこそが今回の作戦の目的である。ツクヨミにライダーの力を持たせ、ツクヨミの世界とこの世界を二つのライダーの力を共振させて結び付けることにより、この世界の人々をツクヨミの世界に移動させるものである。
「スウォルツには私たちの世界ではなく、この世界の人々を救ってもらうわ」
「お前、まさか……」
「アナザーライダーでもライダーの力であることは間違いないわ。それに私とスウォルツは兄妹。力を共振することも出来る」
ツクヨミはゲイツから密かにソウゴが自分を犠牲にしようとしているのを聞かされていた。そんなことをさせる訳にはいかない。
ソウゴが犠牲になるぐらいなら──
「スウォルツの力を私が全て奪い、この世界に縫い止める」
──ツクヨミは
主人公は迷いながらも突き進み、ヒロインが覚悟完了する回となります。
本編の最終話にやっと突入しました。
先にどちらが見たいですか?
-
IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
-
IFゲイツ、マジェスティ