仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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アナザーディケイドVE その21

 互いの拳と本音をぶつけ合い、最後の瞬間まで共に戦うことを誓い合ったソウゴとゲイツ。殴り合ったせいで顔面は腫れ、青痣になっている箇所があり、服も地面を転げ回ったせいで土で汚れていた。

 

「酷い顔だな」

「はは、ゲイツもね」

 

 ボロボロになったお互いの顔を見て、痛みで顔を引き攣らせながらも笑う。

 

「笑うのはいいが、まずはその顔をどうにかするべきじゃないかな? 我が魔王」

 

 いつの間にか傍に立っていたウォズがソウゴにハンカチを差し出す。

 

「ウォズ、居たんだ」

 

 特に驚くことはせずにハンカチを受け取るソウゴ。ハンカチは濡らされており、それで顔の汚れを拭いながら腫れた箇所を冷やす。

 

「ゲイツ君も」

 

 ウォズが二枚目のハンカチをゲイツに差し出す。そのハンカチも水で濡らされていた。

 

「ふん。見ていたのか。相変わらず覗き見が得意だな」

 

 ゲイツは少し嫌味を言いながら、ウォズのハンカチを取り、ソウゴと同じことをする。

 

「状況が状況なだけに止めようかと思ったが、杞憂で済んで良かったよ。もしかしたら、私も君たちの殴り合いに巻き込まれていたかもしれないしね」

「何なら今からでも遅くはないぞ?」

「ああいう泥臭いのは嫌いじゃないが、見ているだけで十分だよ。それに、私はとっくの昔から我が魔王に忠誠を誓っている」

 

 ウォズは『逢魔降臨暦』を胸に当てながらソウゴに頭を下げる。

 

「私も最後の時まで付き従おう。我が魔王の忠臣として」

「──いいの?」

 

 自らを犠牲にするかもしれないソウゴの行動を肯定するかの様なウォズに、ソウゴは改めて確認する。

 

「……私も私なりに考えているつもりさ。でも、最も優先すべきは我が魔王の御意思。──ただ気が変わったのなら早めに言ってくれると助かる。その時は全力を尽くすつもりだ」

 

 その答えを導き出す為にどれ程の葛藤があったのかはウォズ自身しか知らない。ソウゴは苦悩の果てに出したウォズの答えに感謝を示す。

 

「──ありがとう、ウォズ」

「……礼を言う必要なんて無い。先程も言った様に私は君の忠実なる僕だからね。ただ……」

「ただ?」

「君が最後に出す結果が最高最善であることを願っているよ」

「──うん」

 

 ウォズにとってはささやかな希望であったが、ソウゴはそれを真剣な表情で頷く。

 

「──さて。そろそろ戻るぞ。ツクヨミともキチンと話し合わないとな」

「もうツクヨミには……?」

「言った。言う必要があると思ったからだ。だが、加古川飛流にはまだ教えていない。あいつに教えたらどんな真似をするか分からないからな」

 

 ゲイツは戦力としては強力だが性格面に関しては全く信用していない。それは今も変わっていない。

 

「ツクヨミにもキチンと話しておかないとね……それに飛流とも」

「止めておけ。ツクヨミはともかく加古川飛流と話し合っても碌なことにはならん」

「私もゲイツ君に賛成だ。今は偶々敵が共通しているだけで、彼の存在は我々にとって不発弾の様なものだ」

 

 ゲイツとウォズが口を揃えて反対の意を示す。二人の言っていることは正しい。しかし、それでもソウゴは首を横に振る。

 

「分かってる。でも、飛流とも憎み合うだけじゃなくて、いつかはちゃんと分かり合いたいんだ」

 

 難しいことと理解しているが、それでも理想を捨てる気の無いソウゴにウォズはやれやれといった表情をし、ゲイツは溜息を吐く。

 

「お前も加古川飛流とは別の意味で話を聞かない奴だからな……好きにしろ」

「まあ、いざという時は我々が加古川飛流を止めればいいことさ」

 

 ソウゴの性格を良く知っているゲイツは早々にソウゴの説得を諦める。ソウゴはゲイツとウォズにありがとうと言いながらクジゴジ堂へ帰る。

 クジゴジ堂へ着くと彼らを出迎えたのは順一郎であった。

 

「ソウゴくーん! 出掛けるなら出掛けるって言ってよー! 外がとんでもないことになっているから心配したよー!」

 

 慌てて出て来たのでエプロン姿のままで、心配と安堵を混ぜた表情をしていた。

 

「ごめん、叔父さん」

「ってどうしたのその恰好!? 土だらけじゃない! それに何か顔も腫れているし!?」

「えーと階段転んで……」

「階段でってまた!? 前にもソウゴ君、そんなこと言ってなかった!?」

 

 ソウゴの下手な言い訳を真面目に捉える順一郎。

 

「ってよく見たらゲイツ君もソウゴ君と同じ様になっているじゃない!? まさか、ゲイツ君も……?」

「……ああ、階段で転んだ」

「やっぱり!? 階段で何かするのが流行っているの!? それより怪我の手当てを──」

 

 順一郎は急いで怪我の為の救急箱を探しに行こうとするが、その前にソウゴが止める。

 

「叔父さん。それよりもツクヨミは?」

 

 クジゴジ堂に帰ればすぐに姿を見せると思っていたが、まだツクヨミは出て来ない。ついでに飛流も視界に収まる範囲に居なかった。

 ソウゴの問いに順一郎は気不味そうな表情となる。

 

「ツクヨミちゃんは……飛流君と用事が有るって言って出掛けちゃった」

 

 ソウゴたちの顔色が一気に変わる。

 

「ごめん! 本当にごめん! こんな状況だし僕も考え直す様に言ったんだよ! でも、ツクヨミちゃんが物凄く真剣な表情でお願いしてくるし、頭まで下げてくるから……」

 

 言葉が尻すぼみになっていく。順一郎も自分の行いが正しいとは思っていない。正しさ以上のツクヨミの気迫に押し負けてしまったことに負い目を感じていた。

 聞き終わると同時にゲイツは反転してクジゴジ堂外へ向かう。

 

「落ち着きたまえ、ゲイツ君」

「落ち着いていられるか! 加古川飛流はともかくツクヨミが心配だ! ツクヨミを俺たちの作戦が成功するか否かの重要人物なんだぞ! いつスウォルツに襲われるか……!」

「スウォルツは君たちによって負傷している。彼のことだ、傷が癒えるまではツクヨミ君には──」

 

 ウォズはそこで何かに気付く。今のツクヨミの状況とスウォルツの状況、そしてツクヨミの性格を合わせて一つの推測が生まれる。

 

「ツクヨミ、飛流、一体何をするつもりなの……?」

 

 ソウゴが消えた二人を思い、不安げな言葉を零す。

 

 

 ◇

 

 

「ぐ、ぐうううう……!」

 

 人気の無いビルの屋上でスウォルツは腹部を押さえて苦しんでいた。消え行く筈のライダーたちとゲイツにより予想外のダメージを受けてしまった。

 肉体的なダメージは勿論だが、精神的なダメージも計り知れない。自分の勝利を疑っていなかったスウォルツに泥を付け、プライドを大きく傷付けられた。

 

「おのれぇぇ……!」

 

 絶対的な力を持ち、王となる自分が他の襲撃を恐れて身を隠す様な真似をしていることに強い屈辱感を覚え、それが黒く濁った怒りに変わっていく。

 強い負の感情はアナザーディケイドVEの原動力となり、糧となる。変身者であるスウォルツにもその効果を及ぼし、怒りが昂れば昂る程に傷が回復する速度が上がっていく。

 

「うん……?」

 

 怒りに没頭していたスウォルツがある感覚を捉える。それはスウォルツも良く知る時間操作の時に起こる感覚であった。

 

「アルピナか……」

 

 正確な位置は把握することが出来なかったが、かなり離れた位置で能力を使用したのは分かる。ただ、時間操作範囲外である為にスウォルツやその周りに影響を及ぼしていない。

 

「この期に及んで人命救助でもやっているのか? 我が妹ながら愚かな……。待っていろ、この傷が癒えればお前をすぐに葬ってやる……!」

 

 スウォルツには既に肉親への情は無い。強いて言うなら力を奪った後に生かしておいたのが残滓の様な肉親の感情と言うべきだろう。

 そう遠く無い未来にソウゴたちの計画を潰す自分を想像し、スウォルツは喉の奥で笑う。

 暫くして──

 

「またか……」

 

 ツクヨミがまた能力を使用したのが分かった。今度は先程よりも近くに感じる。かなりの広範囲に能力を行使しているのが分かったが、同時に不審にも思った。

 自分の視覚範囲内なら分かるが、自分の手が届かない場所も時間停止させて一体何の意味があるというのか。そんなことをしても無駄に消耗するだけである。

 

「それとも、何かをすれば誰かが助かるとでも思っているのか? 下らん」

 

 ツクヨミの行為を愚行と嘲り、スウォルツは体力の回復に専念しようとする。

 

「──むっ」

 

 ツクヨミが懲りずに時間操作を行ったのが分かった。今度はその範囲にスウォルツも捉えている。しかし、余程広範囲で能力を使用している為かスウォルツの時間を完全に停止することは出来ず、時間を何十倍に引き延ばした動きにさせる程度の効果しか無かった。

 

(──鬱陶しい!)

 

 時間が纏わりつく様に鈍くなる感覚に不快感を覚え、スウォルツは自らの時間操作能力を使用して、その不快感を掻き消した。

 

「一体何のつもりだ……?」

 

 ツクヨミの意図が分からず、得体の知れない行動に気持ち悪さを感じるスウォルツ。

 落ち着いて休息することも出来ないと内心で愚痴りながら体を休めようとした時──

 

「──何だ?」

 

 ──スウォルツが身を隠している建物が突如として激しい揺れに襲われる。

 振動が起きたのは最下階。だが、次々と揺れは起こり続けている。それは階を突き破りながら何者がこちらに向かっている証拠であった。

 

「チィっ! 怪人共か!」

 

 歴史改変で発生した怪人がスウォルツの存在に気付いて襲いに来たのだと最初は思った。だが、屋上の床を突き破って現れたそれを見た時、その考えが間違いであったと知る。

 屋上に降り立つ異形の光沢の無い黄の体色。頭部は航空ヘルメットに似た形をしており、シャッターの様なバイザーが両眼を隠し、口元を覆うマスクかに繋がったホースが背中に向かって伸びている。

 上半身や体の各部を覆う罅の入った装甲は鎖で繋がり、簡素な鎧となっている。

 いきなり現れた異形は首を動かし、スウォルツを視界に入れた。そして、異形は右手に持つ破損したエンジンに片刃を挿し込んだ様な武器を突き付ける。

 

 見 つ け た

 

 声を発していないのにもかかわらず目の前の異形がそう発している様に聞こえた。

 スウォルツは言葉を失う。ただの怪人が襲ってきたのならこうまで驚かない。驚く理由はただ一つ。スウォルツの目は異形の両肩に釘付けになる。

 そこには『ACCEL BOOSTER』と『2009』の刻印。

 

「アナザーライダーだと!?」

 

 かつて己が意のままに操っていた者が己に牙を剝いてきたのだ。

 アナザーライダー改めアナザーアクセルブースターは、全身の罅から炎が噴き出し体を浮かせる。そして、噴射する炎の調整することでスウォルツに向かって剣を振り上げて特攻してきた。

 スウォルツは舌打ちをするとアナザーアクセルブースターに向けて波動を放つ。時間操作の波動を浴びせられたアナザーアクセルブースターは空中で固定されてしまった。

 

「このアナザーライダー……加古川飛流の仕業か……!」

 

 現時点で自由自在にアナザーライダーを生み出すことが出来るのは加古川飛流しかいない。時間改変の影響を受けて召喚出来なくなってもおかしくはない筈だが、加古川飛流が持つアナザーゲイツマジェスティ自体がこの世界に存在しないアナザーライダーである。それが召喚するアナザーライダーも何かしらの影響を受けているのかもしれないとスウォルツは推測する。

 どうやって潜伏している場所を見つけたのかは分からないが、スウォルツは無駄に消耗することを嫌がり時間停止させたアクセルブースターを放置してこの場から離れようとする。

 しかし、それは甘い考えであった。

 スウォルツが移動しようとした時、床を撃ち抜く無数の弾丸がそれを阻む。

 

「ぬうっ!?」

 

 あと一歩踏み込んでいたら蜂の巣になっていたスウォルツ。床に刻まれた弾痕からすぐに離れる。

 吐かれ続ける弾丸がスウォルツを探して床を貫き続ける。徐々に逃げ場を制限されていくスウォルツであったが、すぐに逃げる必要が無くなった。

 弾丸が屋上を滅茶苦茶に撃ち抜いた結果、崩落したのだ。

 

「くっ!」

 

 ガクンと体が下がり、崩壊する床に巻き込まれそうになるスウォルツ。仕方なく時間操作を自らに施すことにより、体を空中に固定。床だけが先に落ちていく。

 屋上が完全に崩落したタイミングで時間停止を解除。土煙がまだ舞う下層に降り立つ。

 埃のニオイ混じる土煙が鼻に付く。アナザーアクセルブースターのこともあり一刻も早くこの建物から離れたい。

 だが、襲撃者はそう簡単には許さない。

 

「ふん!」

 

 スウォルツが手を翳す。掌から発せられた力が土煙を突き破って現れた弾丸を全て弾き飛ばす。

 土煙のせいでハッキリとした姿は見えないが、ぼんやりとした形だけは分かる。二つ並ぶ人影。屋上を崩壊させた襲撃者は二人いる。

 

「姿を見せろ!」

 

 防御に使っていた力をそのまま放ち、周囲の土煙を吹き飛ばす。それにより襲撃者たちの姿が露わとなった。

 赤錆色の装甲を纏い、その上に弾が込められたベルトを両肩に襷掛けにしていた。一定間隔で並んだ弾丸がレールの様にも見える。

 頭部の左右には牛に似た角が生え、頭部中央には二本の角を束ねて一本にした一回り大きな角が生えているが先端部分が欠けている。目には赤錆色のバイザーで覆われているがかつての名残の様に一部に緑色が残っていた。

 首筋に描かれた『ZERONOS ZERO』の文字。しかし、生まれた年代を表す刻印は何処にも見当たらない。

 一方でアナザーライダーの隣に立つのは全身を襤褸切れの様な黒衣で覆う巨漢。顔すら布で覆い隠しており、露出補正しているのは手のみ。しかも、その手は常人の倍以上の大きさになっており、指全てが銃口となっている。屋上を崩落させた弾丸を放ったのはこの黒衣の巨漢であることに間違いない。

 スウォルツはアナザーライダーたちを見て一つ勘違いをしていたことに気付く。

 黒衣の巨漢の腰から下が急に細くなり始めている──そもそも黒衣の巨漢は地面に立っていない──細くなり続け、腕ぐらいの細さになった下半身はアナザーライダーの右腕と繋がっている──というよりもアナザーライダーの右腕が黒衣の巨漢なのである。

 二人ではなく最初から一人。右腕が怪人となっているアナザーライダー。その証拠に黒衣の裾に『2007』の刻印があった。

 アナザーゼロノスゼロは怪人もとい右腕の銃口をスウォルツに向ける。

 十ある銃口から何十倍もの弾丸が撃ち出された。

 一目見て先程の防御では弾き切れないと察したスウォルツは、時間操作によって撃ち出された弾丸全てを空中で停止させる。

 体力を消耗してしまうが、これ以上攻撃されるのを厄介と思い、アナザーゼロノスゼロの攻撃を全て防ぎ切った間にアナザーディケイドVEウォッチを起動しようとする。

 スイッチを押す直前、何かが開く音が聞こえて指が止まる。

 音の方を見ると宙にファスナーが縫い付けられ、空間を衣服の様に開いてあった。

 クラックと呼ばれるそれから新たなアナザーライダーが飛び出す。

 ウサギの形に切ったリンゴを彷彿とさせる大小異なる装甲を上半身に着け、手にも同じ飾り切りをされた左右が不揃いのリンゴを模した盾。

 頭部両側面からは角の様な白い突起が生え、顔面は茶色い枝が幾重にも巻き付いており、その隙間から白い眼球を覗かせる。

 全身の色は赤黒く、腐り掛けの果実を連想させる色合いをしていた。

 盾には『2013』の文字。そして、アナザーライダーが盾中央にある果梗に似た突起を引っ張ると両刃の剣が引き抜かれる。

 その剣の剣身に描かれた文字は『BARON RINGO ARMS』。

 

「ぐっ……!」

 

 その名を見た瞬間、スウォルツは反射的に腹部に触れる。駆紋戒斗によって受けた傷が強く疼く。

 瞬間的にアナザーバロンリンゴアームズへ意識を集中させてしまったせいで時間停止の持続出来なくなり停止していた弾丸が一斉に動き出す。しかし、既にスウォルツは射線状から外れていたので弾丸は壁を突き破るだけで終わってしまった。

 そして、弾丸だけでなくアナザーアクセルブースターも時間停止が解除され、噴炎と共に上から降りて来る。

 

「不快な真似を……!」

 

 心身の傷を抉る行為にウォッチを握る手に自然と力が入りミシミシと音が鳴る。

 

「加古川飛流……!」

『ディケイド激情態ッ!』

 

 怒りを吐き出しながらスウォルツはアナザーディケイドVEへその身を変えた。

 

 

 

 ◇

 

 

「くくくく。始まったな」

 

 スウォルツと放ったアナザーライダーたちとの戦闘が開始されたのを感じ取り、飛流は口の端を吊り上げて邪な笑みを浮かべる。

 その様子を複雑な表情で見ているツクヨミ。

 当初はツクヨミと飛流が協力してスウォルツをアナザーライダーの力を残したまま無力化する予定であった。しかし、それに異を唱えたのが飛流である。

 

『ただ戦うだけじゃ詰まらない。奴を苦しめてとことん追い込んでやる』

 

 飛流はスウォルツが負傷していることを聞いていた。そこで思いついたのが召喚したアナザーライダーたちを使い、スウォルツを徹底的に消耗させるという作戦である。

 治療も睡眠も食事も出来ないぐらいに追い込んで追い込んで休む暇を与えない人海戦術。

 飛流の陰湿なやり方にツクヨミも引いてしまうが、考え自体は間違っていないと思ってしまう。

 スウォルツは強力な力を有している。勝率を少しでも上げるにはスウォルツの力を削ぐことが一番である。

 ただし、この作戦は時間が掛かる。その間に人々が怪人たちに襲われ、多くの人命が危機に晒されてしまう。

 そこでツクヨミは飛流に頼んだ。

 

『貴方の作戦で行くから、可能な限り人を助けるのを手伝って』

 

 その条件に飛流は険しい顔をしたが、ツクヨミがすぐにスウォルツを見つけることが出来るという言葉を聞いて渋々了承した。いくらアナザーライダーたちの数が多くても手掛かり無しで探すのは時間を食う。その間に回復されるかもしれない。

 ツクヨミが最初に行ったのは限りなく効果を弱めた時間操作を出来る限り広範囲で使用すること。

 スウォルツがツクヨミの力を感じ取れる様にツクヨミもスウォルツの力を感じ取れる。なるべく効果を弱めることで射程を限界寸前まで広げ、範囲内にスウォルツが居るかどうかを調べる。時間操作能力をソナーの様にして使用したのだ。

 数度の能力使用後、反応があった。おまけにスウォルツ自らが能力を使い、ツクヨミの力を打ち消したことでより正確な場所を把握。後はそこに飛流がアナザーライダーたちを送り込むだけである。

 その間に約束通り残しておいたアナザーライダーたちで怪人たちを撃破し、ツクヨミは人々を避難させる。

 青、赤、金、白のパーツをステンドグラスの様に全身に張り巡らせた姿。絵を浮かばせる為の配置ではなく素人が適当に作り上げた様な見た目をしており、どこが目のなのか口なのか言葉では表せない姿となっている。

 胸部中央には脈打ちながら燃え盛る心臓が露出しており、そこから伸びる幾本の血管が全身に灼熱の血を脈々と送り込む。

 左手には等身大の十字架。右手には体を伝った血管が巻き付いた拳銃を握り締めていた。

 そのアナザーライダーはミイラ男の様な怪人──屑ヤミーの腹を十字架で突き刺す。十字架は燃え上がり、屑ヤミーの体も炎上。拳銃を撃てば着弾と共に屑ヤミーたちの体は燃え盛る。

 罪人を罰する処刑人を想像させるアナザーライジングイクサが次々と怪人たちを断罪していく中でもう一体のアナザーライダーも怪人たちを蹂躙していく。

 青と金の長い体毛を生やし、額に青い宝石を填め込んだ獅子の顔を持っている。人と獣の中間というべき姿。それが咆哮を上げると声が二重になる。

 もう一つの咆哮を発したのはこの半獣の下半身。金色の体毛の獅子を基礎とし、背中には隼の羽、尻尾はイルカの尾鰭、頭部から水牛の角を生やし、開いた口には丸められたカメレオンの舌。

 複数の動物を混ぜ合わせたキマイラの頭頂部からアナザーライダーの上半身が生えている。

 アナザービーストハイパーの第二の口から鞭の様に伸びる舌。それが石像の様な怪人──グールの腹部に巻き付き、引き寄せて頭から嚙み砕いてしまう。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」

 

 グールに襲われていた所を間一髪で助けられた女性は、アナザービーストハイパーを見て悲鳴を上げる。彼女からすれば異形が共食いをして次の獲物が自分になるかもしれないという恐怖しかない。アナザーライジングイクサに助けられた者たちも似た様な反応を示していた。

 人々からすれば怪人たちとアナザーライダーたちの区別など付かない。

 

「さあ! 早く立って! 安全な所へ!」

 

 そこにツクヨミの張りのある声が飛び、正気に返されて急いで逃げ出す。

 ツクヨミには感謝を、飛流たちには悲鳴を。その差に流石のツクヨミも心苦しさを感じるが、当の本人は毛ほども気にしていない。

 

「……ちっ。やられたか」

 

 送り出したアナザーアクセルブースター、ゼロノスゼロ、バロンリンゴアームズがアナザーディケイドVEの力で撃破されたのが感覚で分かり、舌打ちをする。しかし、すぐに加虐的な笑みでそれを消し去る。

 

「だが場所は分かっている! 一秒たりとも安息があると思うなよ!」

 

 すぐに次のアナザーライダーたちを向かわせた。スウォルツは休む暇もなく連戦することになるだろう。

 そして飛流は、倒されて還って来たアナザーライダーたちを再び召喚し、スウォルツの許へ向かわせる。

 アナザーライダーを召喚すること自体飛流を消耗させるが、飛流の力の原動力は恨みと復讐心である。現状、常盤ソウゴよりも憎んでいるスウォルツが己の力で苦しんでいると分かると復讐心が満たされていき、力が尽きることなく湧き上がってくる。

 ツクヨミは救助する傍らでその様子を痛ましげに見ている。あれだけ強い力を持っているのに歪んだ形でしか使うことが出来ない。

 ソウゴと肩を並べられる存在になりえたのに対極の位置に立つ飛流に同情に近い感情を覚えた。

 

 

 ◇

 

 

 段々と日が落ち始める。空は夕日の赤さと夜の暗さがグラデーションとなっている。

 無限に湧くかと思っていた怪人たちだが徐々に数を減らしていき、最終的にツクヨミたちの周囲に現れなくなった。湧く度に潰され続けたことで発生するポイントと変わってしまったのかもしれない。

 二人しかいない荒廃した街。ツクヨミは半壊したベンチに腰を下ろす。

 

「飛流。貴方も座ったら」

 

 飛流は返事をせず、視線だけを向ける。ツクヨミの膝の上には物を包んだ花柄の風呂敷が置かれている。

 

「いくら貴方でもお腹ぐらいは空くでしょ?」

 

 ツクヨミが風呂敷を解くと、中にはラップを巻かれた沢山のおにぎりがあった。

 ツクヨミが順一郎に出掛けると行った際に渡されたものである。

 

『まだご飯を食べてないでしょ? ちょっと待ってて!』

 

 そう言って急いで作ったものであり大きさは異なり、海苔の巻き方も統一感が無い。

 飛流は無言でツクヨミの隣に座り、一番大きなおにぎりを取ると無言で食べ始める。飛流が食べるのを見て、ツクヨミもおにぎりを食べ始めた。

 適量に振られた塩。急いで作ったので中身の具は無いが、どういう訳かパクパクと食べれてしまう。

 ツクヨミが一個目を食べ終わった時には、飛流は三個目のおにぎりを食べていた。

 おにぎりを頬張る横顔を見た時だけ、飛流はソウゴとそう変わらない青年に見えた。それ故にツクヨミはつい思ったことを口に出してしまう。

 

「スウォルツのことが終わったら……貴方はソウゴと戦うの?」

 

 言った後に口を滑らせてしまったと思うツクヨミ。飛流がおにぎりを食べる手を止める。

 

「この味……」

「え?」

「あいつにとって、この味が家庭の味なんだよな?」

 

 順一郎がソウゴを引き取って約十年。両親の手料理よりも順一郎の手料理を食べている方が多い。飛流の言う通り、それがソウゴにとっての当たり前の味。

 

「この十年で忘れたよ、俺は。家庭の味ってやつを」

 

 食べ掛けのおにぎりを握り潰す。同じ境遇でも天と地との差がある。それが飛流にとってソウゴを憎み続ける理由となる。

 ツクヨミは最早その固まり切った考えを変えることが出来ないと悟り、二個目のおにぎりを手に取る。

 

「私も……家庭の味っていうのを知らない」

 

 ツクヨミは今もまだ記憶を失っている。事情は違うが家族の間にある当たり前の味を知らない。

 

「でも……」

 

 おにぎりを齧る。

 

「私にとって思い出の味があるのなら……こんな味だったら嬉しい」

 

 飛流はその言葉に何か言うことはせず、ただ握り潰したおにぎりを口の中へ押し入れた。そして、四個目へ手を伸ばす。

 理解し合った訳でも仲が深まった訳でもない。だが、二人の間に流れる空気は夜になっていく街に相応しい静かなものであった。

 

 

 ◇

 

 

 日が昇る。それと同時にツクヨミは跳ね起きた。傍らでは既に飛流も目覚めている。

 

「──来るわ」

 

 告げられた一言。飛流は凶悪な笑みを浮かべる。

 

「痺れを切らしたか」

 

 ツクヨミの目線が移動する。飛流もまたその視線を辿る。ツクヨミが見た方角からスウォルツがこちらに向かって歩いて来ている。

 スウォルツの有り様は酷いものであった。衣服の何箇所が破れ、或いは焼け焦げており、目の下には隈ができ、顔色も悪い。後ろに撫でつけられた髪も乱れて額から何房か垂れている。

 不眠不休でアナザーライダーたちと戦い続けてきたことによる疲労が見事に出ている。

 スウォルツの姿を一目見た瞬間、飛流は腹を抱えて笑い始めた。

 

「あはははははははあ! 何だその無様な姿は! どんな気分だ? 今まで自分が利用してきたアナザーライダーたちに追い掛け回された気分は! ざまあないなぁ!」

 

 スウォルツの顔が憤怒に染まる。

 

「アルピナ……! 加古川飛流……!」

 

 地の底から響き渡る様な声。しかし、飛流はそれを鼻で笑う。

 

「許さん……! 許さんぞ……! よくもこの俺にふざけた真似を……!」

『ディケイド激情態ッ!』

 

 沸騰する怒りのままスウォルツはアナザーディケイドVEに変身。飛流もアナザーゲイツマジェスティに変身する──と思いきや。

 

「まずはお手並み拝見だな」

 

 飛流は横に移動し、ツクヨミに正面を譲る。

 

「──スウォルツ! 今度こそ貴方の野望を終わらせる!」

 

 ツクヨミが取り出したそれにアナザーディケイドVEは動揺する。

 

「それは!」

『ジクウドライバー!』

 

 ツクヨミが装着するのはジクウドライバー。事前にウォズから与えられていた物である。そして、ジクウドライバーを持っているのなら当然アレもまた持っている。

 両手で囲う様にして構える白いライドウォッチ。上部を回転させることで顔が浮かび上がり、スイッチが押される。

 

『ツクヨミ!』

 

 自身の名を冠するライドウォッチをジクウドライバーに装填。

 ツクヨミの背後に三日月をあしらえた時計盤が出現する。

 

「変身!」

『ライダーターイム!』

 

 ジクウドライバーの回転と共に時計盤から飛び出す文字。そして、時計盤はエネルギーになってリボンの様にツクヨミに巻き付き、再変換。白いプロテクター、スカート、マントへと変わる。

 仮面の額部分から伸びる長針と短針。長針は十二時を、短針は二時を指している。そして三日月型のバイザーに金の『ライダー』の文字が填め込まれる。

 

『仮面ライダーツクヨミ! ツ・ク・ヨ・ミ!』

 

 全ての工程を終え新たな仮面ライダーである仮面ライダーツクヨミがこの世界に誕生する。

 

「お前が、仮面ライダーだと……!」

 

 アナザーディケイドVEはすぐさま手から時間停止の波動を放つ。

 

「はあ!」

 

 だが、ツクヨミもまた同じ波動を放ち、アナザーディケイドVEの力を相殺する。

 

「時間を操れなくとも!」

 

 アナザーディケイドVEは手刀から光刃を伸ばす。ツクヨミも同じく手から白い光刃を伸ばす。

 同時に走り出し、互いの刃をぶつけ合う。初撃の打ち合い、勝ったのはアナザーディケイドVEであった。

 

「ううっ」

 

 アナザーディケイドVEの攻撃に押され、ツクヨミは二、三歩後退させられる。

 

「力ならば俺の方が上だ!」

 

 バランスが崩れた所にアナザーディケイドVEの二撃目。それは防ぐが、ツクヨミは大きく後退させられる。

 

「もらった!」

 

 アナザーディケイドVEは手の形を変え、無数の光弾をツクヨミへ発射。たちまちツクヨミは爆炎の中に消える。

 

「ははははは!」

 

 笑いながら撃ち続けるアナザーディケイドVE。だが、違和感を覚え始める。撃っても撃っても手応えを感じない。

 銃撃を止めるアナザーディケイドVE。すると、爆炎の中から浮かび上がる琥珀色の魔法陣。それがアナザーディケイドVEの光弾を全て防ぎ切っていた。

 

「馬鹿なっ!」

 

 アナザーディケイドVEの目がツクヨミのジクウドライバーに向けられる。ツクヨミライドウォッチ以外にもう一つのライドウォッチが装填されているだ。

 既に歴史改変が進みジオウたち以外のライドウォッチはまともに機能しない。なのにまだライドウォッチが残っていることに対し、アナザーディケイドVEは馬鹿なと叫んだのだ。

 アナザーディケイドVEは知る由も無いだろう。そのライドウォッチはソウゴが海東から渡されたカードの内の一枚が変化して出来た物だということに。そして、オーマジオウが密かに助力したことにより歴史改変の影響が及んでないことを。

 

『アーマーターイム!』

『チェーンジナウ! メイジ!』

 

 魔法陣が変化し、装甲へと変わるとツクヨミに装着される。両肩には研磨されていない緑と青の宝石を埋めこまれた指輪型のアーマー。胸部には両肩のアーマーと繋がる呪文が描かれた胸飾り。左手には手の甲中央に指輪が埋め込まれた巨大な鉤爪。

 ツクヨミのバイザーに琥珀色の『メイジ』の文字が収まる。

 それと同時にアナザーディケイドVEの周囲に無数の魔法陣が展開され、そこから鎖が伸びてアナザーディケイドVEを縛り付ける。

 

「ぬうううっ!」

 

 身動きがとれなくなるアナザーディケイドVEに対し、今度はツクヨミの周囲に魔法陣が展開され、そこから魔法の矢の先端が無数に飛び出て来る。

 飛流はその光景を愉快そうに見ている。

 

「──ふん。やるな」

 

 撃たれた時以上の量の矢を身動き出来ないアナザーディケイドVEに対し、一斉に射られる。

 




敵の敵という立場だからこそ主人公側がやらない手段をやる加古川飛流の復讐回となっております。
そして、仮面ライダーツクヨミを出しました。予想していた方もいるかもしれませんが、女性ライダーのアーマータイムをやっていきます。流石に全員は出せませんが。
因みに仮面ライダーなでしこは女性ライダー扱いでいいですよね? 変身前が性別不明の宇宙生命体ですけど。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ
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