四肢を縛る鎖。視界限界まで展開される矢。アナザーディケイドVEは第三者から見れば絶体絶命の状況となっていた。
(舐めるなっ!)
しかし、アナザーディケイドVEからすればこの程度は窮地でもない。仮面ライダーメイジのライダーアーマーをツクヨミが装着したことに驚いたが、一足す一が二になったに過ぎない。
アナザーディケイドVEの破壊の力を使えば、四肢に力を込めれば縛っている魔法の鎖を砕き、魔法の矢も一蹴出来る。アナザーディケイドVEの力はライダーの能力の天敵なのだから。
四肢に力を込める。これで魔法の鎖は破壊される──筈であった。
(何っ!?)
力を込めても鎖が破壊出来ない。その事実にアナザーディケイドVEは驚く。
一晩中連戦に継ぐ連戦により疲弊してしまった思考がある事実を見逃していた。メイジの力を使っているのはツクヨミである。
魔法で発生した鎖は、アナザーディケイドVEに巻き付くと同時にツクヨミの時間操作能力により、時間停止を受けていた。時間操作能力はライダー由来の力では無い。ツクヨミ自身の力である。故にアナザーディケイドVEの破壊の力が不発になってしまった。
(しまった!)
アナザーディケイドVEは少し遅れて理由に気付き、自分もまた時間操作によって魔法の鎖に掛けられていた時間停止を解除。そして、すぐさま魔法の鎖を砕いて手足の自由を取り戻す。
しかし、魔法の矢は既に眼前にまで迫っている。
(この俺が! アルピナ如きに遅れをとる筈など無いっ!)
男尊女卑でも年功序列から来る思想ではない。唯我独尊と言うべき傲慢なプライドが他者に、それも血の繋がった妹に劣るのを許すことも認めることも出来ないのだ。
拘束を解いたアナザーディケイドVEは、間髪入れずに高速移動能力を使用。黒とマゼンタの閃光が放たれ、魔法の矢が一斉に砕かれる。
高速の状態からアナザーディケイドVEは蹴りを放った。雷光を思わせる速度で繰り出された蹴りは、至近距離まで来ていた魔法の矢を蹴り払ってみせた。
ツクヨミの上を行く力を見せつけるアナザーディケイドVE。だが、ツクヨミからすればそれは想定の範囲内のこと。ツクヨミは最初からアナザーディケイドVEを甘く見ていない。
だからこそ、ありとあらゆる攻撃に全力を出す。
ツクヨミの攻撃を全て蹴り飛ばした、とアナザーディケイドVEが思った直後、魔法の矢がアナザーディケイドVEの肩に命中。
「何だと!?」
痛みや衝撃よりも何故だ、という疑問が頭の中に広がる。
「これは……!」
答えはすぐ目の前にあった。蹴り払った魔法の矢の後ろに並ぶ数十の魔法の矢。ツクヨミは魔法の矢を一斉に発射した様に見せかけて半分を時間停止で止め、半分をわざと防御させた後、油断した所に残りの半分を射るという時間差攻撃を仕掛けていたのだ。
アナザーディケイドVEが弾く間もなく残りの魔法の矢が続けて命中していく。
「ぐっ!」
ダメージ自体は軽微。だが、それを補う程の数がある。針で刺されたぐらいの痛みも同じ箇所に何度も刺さればそれなりの痛みに変わる。
嫌でも意識がツクヨミに向けられる中であの男が密かに動いた。
魔法の矢を撃ち尽くした直後、アナザーディケイドVEの左右の腕にしがみつくX字形とU字型の仮面を持つアナザーライダー。
「ちょっと手伝ってやるよ」
飛流によって召喚されたアナザーカイザとアナザーバースがアナザーディケイドVEを拘束しようとする。
「その程度で!」
アナザーディケイドVEは全身から波動を放ち、二体のアナザーライダーを吹き飛ばそうとする。だが、アナザーカイザたちは零距離がそれを受けようとも掴む力を弱めない。体の表層部分が吹き飛ぼうと、仮面が破損しようとアナザーディケイドVEに必死でしがみつく。
そもそも飛流の傀儡であるアナザーカイザとアナザーバースに死の恐怖は無い。その為、死も痛みも恐れることなく最期まで与えられた命令を全うする。
アナザーカイザは銃と剣が一体と化した手を、アナザーバースはクレーンの形になった右腕を、アナザーディケイドVEに向ける。
銃口となっている指先から発射された光弾がアナザーディケイドVEに着弾。網目状になって自分ごとアナザーディケイドVEを拘束。更にアナザーバースはクレーンを振るうことでフック部分が伸び、それと繋がるワイヤーによって自分とアナザーディケイドVEを縛り付けた。
「今だ。やれ」
「彼らごと!? 正気なの!?」
飛流の淡々とした言い方にツクヨミは思わず声を上げてしまう。
「見た目や動きで勘違いをしているかもしれないが、奴らは俺の力で呼び出したただの人形だ」
それは分かっているが、ツクヨミの理性はそれを納得し切れていない。例え人形であろうとも人の様に動く物を犠牲にすることに強い抵抗感と嫌悪感を覚える。当然ながら犠牲を強いる飛流にも同様の感情を覚えた。
「早くしろ。じゃないと折角のチャンスが潰れるぞ?」
アナザーディケイドVEの力によりアナザーカイザとアナザーバースの拘束が破られ始める。迷っている暇は与えられない。
「──ごめんなさい」
魂と命無き人形たちに謝罪の言葉を零すと共にツクヨミはライドウォッチのスイッチを連続して押す。
『フィニッシュタァァイム! メイジ!』
回転したジクウドライバーにより二つのライドウォッチの力がツクヨミへ流れ込んでいく。
『スペシャル! タイムジャック!』
ツクヨミは鉤爪となっている左腕を下から上へ振り上げる。五指の指先を覆う黄色の水晶の爪に魔力の輝きが灯る。
「はあ!」
振り上げられていた鉤爪が掬い上げる様な軌跡で振り抜かれる。五指に灯っていた魔力が三日月状の刃になって飛ばされ、アナザーディケイドVEに直撃。
「ぬうっ!」
呻くアナザーディケイドVE。ツクヨミは流れる様な動作で振り抜いた勢いのまま反転。腰部から竜の尾が実体化し、竜の尾でアナザーディケイドVEの腹部を強打。拘束しているアナザーカイザたちごと宙へ打ち上げる。
ツクヨミの背中に竜の翼が生え、両翼を羽ばたかせて飛翔し打ち上げられたアナザーディケイドVEを追う。
追い付いたツクヨミはアナザーディケイドVEたちの周囲を旋回し始める。動きは段々と加速していき、ツクヨミの姿が視認出来なくなるとアナザーディケイドVEたちを中心に巨大な竜巻が発生する。
竜巻の中央で身動きがとれなくなるアナザーディケイドVE。滞空するツクヨミの前方に魔法陣が出現。ツクヨミが両手を広げると魔法陣から炎が噴き出し、炎は竜巻へと吸い込まれ、灼熱の竜巻となり内部のアナザーディケイドVEを焼き尽くそうとする。
「おおおおおお!」
燃え盛る音と風が唸る音。その二つを合わせた業火の竜巻内部からその二つの音を掻き消す程の咆哮が響き渡る。
業火の竜巻の一部が膨れ上がったかと思えば、その箇所を突き破ってアナザーディケイドVEが飛び出してきた。
アナザーディケイドVEを拘束していたアナザーカイザとアナザーバースは、高温の竜巻の中でアナザーディケイドVEよりも先に限界を迎えて消滅してしまい、それによりアナザーディケイドVEは自由を取り戻して竜巻の外へ脱出が出来た。
「ぐっ! くっ……!」
アナザーディケイドVEが膝を突く。その体からは炎の竜巻に焼かれたことで焼け焦げ、煙が上がっていた。
現在のアナザーディケイドVEの体調は最悪と言える。常時緊張状態を強いられていたことで神経や脳は疲れ、戦い続けていたせいで食物を摂取することも出来ず、水も一滴も飲めていない。肉体的にも酷使されていた状態で更なる戦闘。
アナザーディケイドVEの心身はこれ以上無い程に消耗していた。
しかし──
「傷が……!」
──そんな状態でもアナザーディケイドVEの体は回復していく。だが、それにスウォルツの意志は無い。彼は疲れ切りながらもツクヨミや飛流にいい様にやられている現状に怒りを抱いたに過ぎない。
その怒りにアナザーディケイドVEの力が反応し、彼に力を与える。どんなに疲弊し切ろうとどんなに消耗しようとスウォルツの怒り──否、怒りだけではない彼の内に生じる激情があれば戦い続けることが出来る。だが、逆に言えば激情がある限り戦いを止めることが出来ない。
「……厄介だな」
元の状態に戻っているアナザーディケイドVEを見ながら飛流が洩らした言葉にツクヨミも同意する。
ツクヨミたちの目的は、アナザーディケイドVEから時間操作能力を全て奪った後にアナザーライダーの力を残したまま戦闘不能状態にすることである。今の様に与えた傷を片っ端から治されてはそれも難しくなる。
「──ここからは俺も行く」
『ゲイツマジェスティ……』
アナザーゲイツマジェスティウォッチが起動され、怨霊の如き力をその身に受けると飛流はアナザーゲイツマジェスティへ変身する。
「何か策はあるの?」
「治る以上のダメージを与える。それ以外の方法はあるか?」
単純な解決策だが、ツクヨミにはそれ以外の方法が思い付かなかった。
アナザーゲイツマジェスティの言う通りにアナザーディケイドVEが動けなくなる程のダメージを与える。それには今のメイジアーマーでは力不足に思え、メイジライドウォッチを外して新たなライドウォッチを起動しながらジクウドライバーに挿し込む。
『なでしこ!』
なでしこライドウォッチを付けたジクウドライバーが回転する。
『アーマーターイム!』
空に煌めく一つの星。それが段々と大きくなっていき、やがて轟音を鳴らす。ツクヨミたちに近付くそれは星では無く空から地上へ飛翔する銀色のロケット。
ツクヨミに接近する銀色のロケットはその途中で機体が分解され、形の異なるアーマーとなる。
『ROCKET ON な・で・し・こ!』
ツクヨミの右手に装着されるロケットの形をした銀のモジュール。胸部を強調する水色のライン。腰回りに付けられた銀のスカートにも同じく水色と赤紫のラインが入っていた。
頭部には猫の耳に似た水色のヘッドパーツが追加。そして、仮面に『なでしこ』の文字が噴射煙で軌跡を描いた後に填め込まれる。
仮面ライダーツクヨミなでしこアーマーへの変身が完了。すると、ツクヨミはいきなり両手を突き上げながら片足を膝で曲げ、可愛らしいポーズをとりながら叫ぶ。
「宇宙きたぁぁ!」
「……何やっているんだお前?」
「か、体が勝手に……」
そんなツクヨミを白眼視するアナザーゲイツマジェスティ。彼からすれば似合わないポーズで似合わない台詞を言っているせいでおかしくなったという印象しかなかった。ツクヨミも自覚しているのか恥ずかしそうに俯く。
「ふざけていないで行くぞ!」
「ふざけてないわよ!」
同時に駆け出し、速度が乗ると同じタイミングで跳躍する。
「ふん!」
アナザーディケイドVEから時間停止の波動が繰り出される。
「はあ!」
しかし、それが来ると分かっていたツクヨミもまた同じ力を放つ。力と力は互いに干渉し合った結果、打ち消される。
互角──だが、戦いに於いてはツクヨミの方が有利。何故ならばアナザーゲイツマジェスティが着地と共にアナザーディケイドVEの顔面を殴りつけていた。
「スウォルツ! 俺を利用したことを後悔させてやる!」
恨みの言葉を吐き捨てながらアナザーゲイツマジェスティは顔面を打ち抜いた拳で今度は胴体を打ち抜こうとするが、アナザーディケイドVEの掌打を顎に受けて中断させられる。
「ただの道化が王に勝てると思うなっ!」
憎しみと見下しの言葉を吐き掛け合い、アナザーディケイドVEは手刀の光刃を振り下ろし、アナザーゲイツマジェスティは掌外沿から光の斧刃を出してそれを迎え撃とうとする。
このまま行けば相打ち。しかし、忘れてはいけない。これは一対一の戦いでは無い。二対一の戦いなのだ。
「はあああ!」
ロケットの先端がアナザーディケイドVEの頬にめり込む。ツクヨミはロケットの噴射孔から炎が噴き出させ、その加速によってアナザーディケイドVEは殴り飛ばされた。
降り立ったツクヨミの傍では斬るべき相手を失い固まっているアナザーゲイツマジェスティ。
「何をやっているの貴方?」
先程の意趣返しをすると、アナザーゲイツマジェスティは苛立った様子で斧刃を消す。
「──うるさい」
ロケットモジュールで殴られたアナザーディケイドVEは口元を拭うジェスチャーをしながらツクヨミたちを睨みつける。
「おのれっ!」
両手の指先が二人に向けられる。その瞬間、ツクヨミは天へ跳躍しアナザーゲイツマジェスティは地を駆ける。アナザーディケイドVEの指先から大量の光弾がばら撒かれたのはそのすぐ後であった。
ツクヨミは手足や背に設けられた噴射孔から炎を噴き出させ、空中で上昇下降、そこに急旋回や直角に曲がるなどの動きを加えるなどをして光弾を回避していく。
一方でアナザーゲイツマジェスティは避けることなく最短距離である直線を突き進む。当然ながら無数の光弾がアナザーゲイツマジェスティを襲うが、アナザーゲイツマジェスティは顔面に来ている光弾のみを弾き、後は体に当たろうとも手足に当たろうとも構うことなく前進する。
こうなるとアナザーディケイドVEが優先するのはアナザーゲイツマジェスティになり、ツクヨミへの牽制をしつつアナザーゲイツマジェスティへの攻撃の量を増やそうとする。
アナザーディケイドVEの両手がアナザーゲイツマジェスティに向けられる──その時、何者かがアナザーディケイドVEを羽交い締めにした。
「なっ!?」
ツクヨミ、アナザーゲイツマジェスティ以外の誰かが突然襲って来たことにアナザーディケイドVEは驚き、すぐに背後を見る。
白いスーツを覆う焼け焦げた胸部の装甲。そこにはタイヤチューブが裂けてホイールのみになったタイヤがめり込んでおり、右肩にも同じくホイールが埋め込まれている。
頭部は下顎部分のみ黒焦げた装甲を付け、両眼に罅割れたゴーグルを付けており罅の隙間からアナザーライダー特有の白い目が見えていた。
アナザーディケイドVEの目が向けられると、そのアナザーライダーは嗤った様な仕草を見せ、焼け焦げた装甲から煙が立ち昇り、赤熱化した後に炎上。胸部と顔面が炎で覆われる。
体から炎を噴き出させるアナザーライダー──アナザーデッドヒートマッハの地獄の業火がアナザーディケイドVEを零距離で炙る。
「小賢しい真似をぉぉぉ!」
アナザーゲイツマジェスティが不意打ちで召喚してきたアナザーライダーを吹き飛ばそうとするアナザーディケイドVEだったが、その際に生まれる隙をこの場に居る者たちは見過ごさない。
「余所見か! 余裕だなぁ!」
嫌味と共にアナザーゲイツマジェスティの拳が鳩尾に突き刺さる。息が一瞬止まるアナザーディケイドVE目掛けてツクヨミが急降下。
「はあああ!」
ツクヨミの蹴りがアナザーディケイドVEの顔面に命中。すかさずアナザーデッドヒートマッハが離れると、丁度そのタイミングでツクヨミはロケットモジュールと全身の噴射孔を噴射させ、その勢いによりアナザーディケイドVEを地面に蹴り伏せる。そして、そのまま止まらずに炎を噴き出させ続けることでアナザーディケイドVEを地面に押し当てたまま地面を削りながら滑っていく。
「があっ!」
だが、アナザーディケイドVEはその状態からツクヨミの足を掴み、腕力のみで引き離して投げ飛ばす。
地面を抉っていたアナザーディケイドVEは止まり立ち上がるが、その目に映るのは次なる攻撃であった。
「スウォルツゥゥ!」
アナザーゲイツマジェスティが接近と同時にその両手に持つ異形の武器で襲う。
二又に分かれた白い柄。鋏の様な形状で交差して伸びるその先には二つのホイール。それはアナザーデッドヒートマッハが変形したもの。
ホイールがアナザーディケイドVEの胴体を挟むとホイールが高速回転し出し、噴き出した炎をタイヤの代わりに纏う。
「ぐうおおおおっ!」
胴体が切断されそうな程の圧迫に苦鳴を上げるアナザーディケイドVE。攻撃の手はそれだけに終わらない。
『フィニッシュタァァイム! なでしこ!』
上空から聞こえる音声。アナザーディケイドVEが思わず見上げると空中でツクヨミが姿を変えている。
右腕を頭上に突き出した構えをとるとスカート部分が水銀の様に形を変え、ツクヨミの体を覆い、ロケットの姿となる。
『なでしこ! タイムジャック!』
噴射孔の向きを全て揃え、同時に噴射することで今までに無い加速を得たツクヨミがアナザーディケイドVEに突撃。動けないアナザーディケイドVEの顔面中央をロケット先端で突く。
そこから噴射孔の角度を微妙に変えることでアナザーディケイドVEの顔面を穿つ勢いで回転する。
一歩間違えばアナザーディケイドVEを倒してしまうかもしれない同時攻撃。しかし、生半可な攻撃が通用しないアナザーディケイドVEにはこれしかない。
アナザーディケイドVEよりも中のスウォルツが音を上げることを願い、攻撃し続ける。
「が、ああ、ああああ」
体が軋み、顔面が熱い。最強の力を持っている筈の自分がこんな目に合っている。湧き上がる、湧き上がる。黒く、熱く、粘り付く様な感情が湧き上がって来る。
王になる自分に逆らう者、苦しめる者、抗う者全てが許せない。
(俺の前から消えろ! 滅びろ! 失せろ! 誰も何もかも破壊されてしまえっ!)
追い詰めれば追い詰める程に激情を抱きアナザーディケイドVEの力は開花する。そして、開花した力はツクヨミに剥く牙となる。
バキリ、という音と共にアナザーディケイドVEの肩の装甲が弾け飛ぶ。その下から露出する赤黒い肉。それが盛り上がり、膨れ上がり、形を変え長方形の箱状となる。
そして、その箱状の肉から突き出る血管の浮き出た四つの突起。グロテスクで有機的な見た目をしているが、ミサイルランチャーと呼ばれるものに似た形をしている。
『っ!?』
二人が理解すると同時にミサイルランチャーから生体ミサイルが発射。攻撃最中の二人は避ける間もなく、そして撃ち出した当人も逃げる間もなく自爆同然の零距離爆撃を敢行。当然のことながら発射と同時にミサイルは爆発し、三人はその爆発に巻き込まれた。
「きゃあっ!」
「ぐっ!」
爆発の中から吹っ飛ばされたツクヨミとアナザーゲイツマジェスティが飛び出してくる。ツクヨミのなでしこアーマーにより軽微で済んだが代償としてアーマーが大きく破損し、強制的になでしこアーマーを解除されてしまう。また、アナザーゲイツマジェスティも咄嗟にマントで防御したお陰でダメージを抑えることが出来たが、ボロボロになったマントを見るに二度同じ手は使えない。
「ふー……ふー……」
爆発の中心では荒い息を吐きながらもアナザーディケイドVEが仁王立ちをしていた。彼もまた大きなダメージを負っており、先程の爆風でミサイルランチャーも千切れ飛んでいた。しかし、その傷や全身もすぐに治っていく
「ふー……ふははは……はははははは!」
アナザーディケイドVEは哄笑する。傷を負い、痛みを感じ、抑えきれない怒りを抱く度に新たな力が目覚めていく。それはスウォルツ自身も知らない力であった。
未だに乾き、飢え、不快感が体に纏わりつく。しかし、力の覚醒は披露した心身に活力と興奮を与えてくれる。
「もっとだ、もっと来い! お前たちが足掻けば俺の力が高まっていく! 俺をより高みに押し上げていく!」
高揚のまま叫ぶアナザーディケイドVE。
「ほざけ!」
それに反発する様に声を荒げるアナザーゲイツマジェスティ。ツクヨミもまたアナザーディケイドVEを睨んでいる。
「分かるぞ……俺の力が覚醒していく感覚が……!」
ツクヨミたちの背後で銀色のオーロラが出現する。そこから響き渡るは嘶きと蹄鉄の音。
その音に気付いて振り返った二人が見たのは、見上げるぐらいに巨大な黒い馬がオーロラから飛び出して来る光景であった。
咄嗟に馬の進路上から退く二人。黒い馬はそのまま駆け抜けていくかと思いきや進路を変える。すると、黒い馬が引いていた馬車がオーロラから出現しスキール音を上げながら車体の側面を二人に衝突させた。
「ううっ!」
「ぐうっ!」
地面を転がっていく二人。体を起こした二人は黒い馬がアナザーディケイドVEに寄り添っているのを目撃する。
「はっ!」
アナザーディケイドVEが馬車に飛び乗り馬の手綱を握る。馬車は馬車でも古代の戦争で使われていた戦闘用馬車、つまり戦車そのものである。
アナザーディケイドVEが手綱を動かすと馬はアナザーディケイドVEの意のままに走り出し、二人を踏み潰すか轢き潰そうと疾走する。
左右に分かれて飛び退くツクヨミたち。狙いが分断されればどちらか一人にターゲットを絞り込むことになり、もう片方がアナザーディケイドVEを狙うことが出来ると考えていた。
しかし、現実はそう易々と二人の思った通りに事を運ばせない。
攻撃が回避されるとアナザーディケイドVEはあっさりと馬車から降り、アナザーゲイツマジェスティの方に向き直る。そして、御者を失った黒い馬はツクヨミの方を向く。
この時になってツクヨミは黒い馬を注意深く観察することが出来た。黒一色ではなく額中央にX字型に黄色い体毛が生えており、瞳も紫色をしている。
黒い馬は荒い鼻息を出しながらツクヨミを睨み付ける。尋常ではない怒気。アナザーディケイドVEの怒りがそのまま宿った様に思える。
黒い馬が嘶く。また突進してくるのかと思い身構えるツクヨミ。その程度のことであるのならどれだけ楽であったか。
嘶きの後に黒い馬は高々と前脚を上げる。すると、引いていた馬車が分解され、馬の各部へ装着されていく。
「ええっ!?」
巨体を支える後ろ脚を補強する脚甲。前脚は折り畳まれ、その上に上半身を覆う装甲が付けられる。車輪部分が変形し、二つの車輪が爪の形になり右腕となり、荷台部分が折り畳まれて箱状になり左腕と化す。
馬が鎧を纏い更に二足歩行する姿になったことにツクヨミは驚愕する。
黒い馬と馬車。それは、アナザーディケイドVEが呼び出した己の為に戦う下僕──アナザーサイドバッシャー。他人を信じないスウォルツだからこそ人でもライダーでもない存在を呼び出したのだ。
アナザーサイドバッシャーは馬らしく嘶いて跳躍。そして、ツクヨミ目掛けて落下。
「くっ!」
急いで落下地点から離れるツクヨミ。アナザーサイドバッシャーが地面に着地すると、その重量で地面が砕け散り、破片がツクヨミに飛んで来る。
思わずその破片を叩き落すツクヨミ。それにより足が止まってしまい、そこにアナザーサイドバッシャーの右腕が振るわれる。
「きゃあっ!」
横殴りの一撃でツクヨミは軽々と殴り飛ばされる。地面に落ちても勢いは止まることなく数度跳ねる。
見た目通りの重い一撃にツクヨミの視界は溶ける様に回転していた。だが、アナザーサイドバッシャーからすればツクヨミの状態などどうでもいいこと。地響きの様な蹄鉄を鳴らし、ツクヨミへと迫る。
振動と殺気に満ちた嘶きがツクヨミに命の危機が迫っていることを告げる。内臓が偏ったのかと思える吐き気を堪えながら、次なるライドウォッチのスイッチを押した。
『マリカ!』
よろめきながら立ち上がり、マリカライドウォッチをジクウドライバーにセット。震える手でそれを回転させる。
『アーマーターイム!』
クラックが発生し、その中から巨大な桃が出現。それがツクヨミの──ではなく走ってくるアナザーサイドバッシャーの頭に落下し、その衝撃で動きを一時的に止める。
跳ね返った巨大な桃はツクヨミの頭上にまで飛んで行き、そのままツクヨミの頭部に被さる。
『ソーダ! マリカ!』
桃が展開すると内部から液体状のエネルギーが飛沫の様に飛び出してツクヨミの体に掛かる。
右肩に掛かった液状エネルギーは、桃をあしらえたピーチエナジーロックシードの形をした肩装甲となり、展開した装甲は桃色の胸当てと左肩から腕を覆う装甲へと変化。腰回りにも桃色でアラビア風に飾られたスカートが巻かれている。
頭部も桃の形に変形し、『マリカ』の文字が三日月の仮面に沿って填め込まれて金色に輝く。
装着完了と共に怯んでいたアナザーサイドバッシャーが再び動き出し、ツクヨミへ向かって来る。
マリカアーマーを纏うツクヨミが右手を開くと、そこにソニックアローが召喚される。
アナザーサイドバッシャーの巨大爪がツクヨミへ振り下ろされる。ツクヨミはソニックアローと左手から出した光刃を交差させることでその一撃を受け止めた。
「──ったああああ!」
ツクヨミはソニックアローと光刃を横に動かす。押し返すことは出来ないが、軌道を逸らすことが出来る。ツクヨミの目論見通りアナザーサイドバッシャーは力の流れをずらされたことで前のめりになり、爪を地面に突き立てる。
「やあっ!」
アナザーサイドバッシャーの胴体に刻み込まれるソニックアローと光刃による斬撃。胴体の装甲にX字の傷を与えたが、アナザーサイドバッシャーを倒すには浅い。
アナザーサイドバッシャーは突き立てていた爪を抜き、ツクヨミを攻撃しようとするが既にツクヨミの姿は無い。
ツクヨミを探すアナザーサイドバッシャーの耳に飛び込んで寒気立つ音声。
『フィニッシュタァァイム! マリカ!』
声は後方。アナザーサイドバッシャーは巨体を素早く反転させる。
数メートル離れた場所でツクヨミがソニックアローを構えていた。弦を引き絞っているが番えているのは矢では無い。ツクヨミの左手から発生している光刃を矢の代わりとしていた。
『ピーチエナジー!』
番えていた白色の光刃が桃色に染まっていく。
『タイムジャック!』
アナザーサイドバッシャーの額に照準を定めたソニックアローから桃色の光刃が射られる。
描写の関係上どうしてもスウォルツを何度も攻撃する展開となるので、こうもやられているとラスボス弱いのでは? と思われそうなのでちょっとした強化も入れました。
一対一だと強いんですよ。強いせいでどうしても多対一の構図になってしまうんです――という言い訳。
先にどちらが見たいですか?
-
IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
-
IFゲイツ、マジェスティ