仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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アナザーディケイドVE その23

 ソニックアローから射られたツクヨミの光刃もとい光矢。桃色の軌跡を残しながら一直線に飛んで行く。

 アナザーサイドバッシャーは本能のままにツクヨミに向かって直進をしていた。しかし、自分へ放たれた光矢を見て、本能が直進から危機回避へと切り替わる。

 操縦者を持たないアナザーサイドバッシャーであるが、これを召喚したアナザーディケイドVEの精神に影響を及ぼされており、それにより初見であったとしてもツクヨミの攻撃に対して敏感な反応を示す。

 アナザーサイドバッシャーはその場で急停止。蹄型の脚甲で地面を砕きながら止まると即座に横へ跳んだ。だが、光矢の速度はアナザーサイドバッシャーが完全に回避することを許さず、アナザーサイドバッシャーの右腕を射抜く。

 車輪で出来た大型の爪がその一射で破壊され、車輪の破片が地面に散らばって行く。

 痛覚があるのか、それとも攻撃を受けた痛みによるのか判断は付かないが右腕を使い物にならなくされたアナザーサイドバッシャーは大きく嘶く。

 そして、箱状の左腕をツクヨミに向けると、側面部分がスライドして丸い穴が現れる。穴から爆発音と共に砲丸が撃ち出された。

 当たれば体がひしゃげる威力が込められたそれをツクヨミは地面を蹴って側方宙返りをする。砲丸はツクヨミが立っていた場所に着弾。頭が逆さまになった状態でツクヨミはソニックアローを構え、回避動作の中で光矢を射る。

 攻撃直後で硬直しているアナザーサイドバッシャーの脇腹にツクヨミの光矢が突き刺さる。が、それだけであった。アナザーサイドバッシャーの装甲を貫くには威力が足りていない。だからこそ、アナザーサイドバッシャーも避けることはせずに受けたのだ。防御よりも攻撃を優先して。

 ツクヨミが地面に着地するタイミングに合わせた二発目の砲丸を発射。通常ならば命中していてもおかしくはない悪意あるタイミングでの攻撃。しかし、ツクヨミは地面に足裏が僅かに触れた瞬間に前方に向かって宙返りをしていた。

 マリカアーマーを纏って得たのはソニックアローだけではない。ツクヨミは自分の体を今まで体験したことが無い程完璧にコントロールすることが出来ていた。全身が意のままに動く感覚は、ツクヨミがやったことの無い側方宙返りや前方宙返りを難無く成功させる。

 推測であるが仮面ライダーマリカの力を持っていた変身者はずば抜けた身体能力の持ち主なのだろう。ツクヨミはアーマーを通じてその身体能力を借りている状態である。

 前方宙返りという態勢の途中でまたソニックアローを射る。視界が回転する不安定な状態の中で光矢が正確にアナザーサイドバッシャーの左腕に命中した。

 狙うべき方向からずれた左腕から砲丸が発射される。身体能力だけでなく動体視力も向上しているツクヨミには撃ち出された砲丸も集中すればコマ送りの様に見える。

 射線は先程の攻撃でずれている。自分に当たることは無い。だからこそ、ツクヨミは砲丸から目を離して攻撃に専念しようとしていた。

 視線を離す間際、砲丸が膨れ上がる。

 

(え?)

 

 それを見落とさなかったツクヨミは離そうとしていた視線を再び砲丸へと向けた。

 一瞬で倍以上に膨れ上がったかと思えば、砲丸が破裂。凄まじい音と共に砲丸内に仕込まれていた鏃が爆発の勢いで周囲にばら撒かれた。

 全方向を無差別に狙う数え切れない鏃の雨。その内の数十本がツクヨミに直撃するコースで飛んでくる。

 

『フィニッシュタァァイム! マリカ!』

 

 ソニックアローの弓部分が桃色の輝きを発する。

 

『ピーチエナジー! タイムジャック!』

 

 着地と同時に振り抜かれたソニックアローから発する弧状の斬撃。その一撃により飛翔してきた鏃が斬り裂かれる。だが、一部打ち洩らした鏃も有り、それがツクヨミのスカートの一部を貫いて穴を開けた。

 光矢で軌道を逸らした状態でこれである。もしも、しっかりと狙いを定められて撃たれていたらどうなっていたか分からない。

 攻撃を全て払ったツクヨミは素早くソニックアローをアナザーサイドバッシャーへ向ける。

 

「あ……」

 

 アナザーサイドバッシャーは砲撃地点からかなり離れた場所に移動していた。そこまで移動されるとソニックアローで狙っても余裕を以って回避されてしまう。

 過剰なまでの警戒にツクヨミはある推測をする。それはツクヨミがアナザーサイドバッシャーの右腕を破壊したことにより、ある種の恐怖心を植え付けてしまったのかもしれない。

 ツクヨミは試しにツクヨミライドウォッチのスイッチを押してみる。

 

『フィニッシュタァァイム!』

 

 その音声が響き渡ると同時にアナザーサイドバッシャーは即座にその場から移動してしまった。ツクヨミの推測が間違っていないことの照明である。

 

「どうしよう……」

 

 現状アナザーサイドバッシャーを倒せるのは必殺技しかない。通常攻撃の光矢では浅く刺さるのがせいぜいで攻撃力が足りない。

 機械なら恐怖心も感じずに攻め続けるであろうが、殆ど生物である為に痛みや恐怖を無視した戦いをしてこない。

 時間停止で相手の動きを止めるのも考えたが、この場にアナザーディケイドVEが近くにいるせいで発動を共に解除されるのは分かり切っている。

 ツクヨミが思考している間に充分な間合いからアナザーサイドバッシャーが砲撃を行う。

 しかし、相手が見切れる距離に居るということは、ツクヨミも見切れる距離に居るのに等しい。ただの砲丸か仕込み砲丸かを見極めながら射線状から離れるツクヨミ。

 砲丸は破裂することなく地面に命中し、地表面を砕く。既にツクヨミは射線状にはいない為無意味に終わった──と思われた時、地面にめり込んでいた砲丸が膨れて破裂。

 油断していたツクヨミはすぐに身を翻すが撒かれた鏃の一つがツクヨミの腕を掠っていった。

 

「うっ!」

 

 掠めた箇所を手で押さえる。時間差による攻撃にツクヨミはすっかりと騙されてしまった。アナザーサイドバッシャーには召喚者によく似た嫌らしい思考を持っているのが分かる。

 熱に似た痛みを感じるもののツクヨミは傷から手を離す。幸いマリカアーマーのおかげで掠り傷程度で済ませられたが何度も避け続けることは出来ない。いずれは避け切れずに致命傷を受けるかもしれない。

 それでなくとも余計な消耗はしたくない。まだアナザーディケイドVEとの戦いが残っているのだ。

 早く決着を付けねばとツクヨミが思うが、アナザーサイドバッシャーが時間を掛ける戦い方をしているせいでそれも叶わない。

 

(どうにかしないと……時間を掛けたらさっきみたいに……)

 

 そこでツクヨミは一つの天啓を得る。アナザーサイドバッシャーに警戒されずに致命傷を与える方法を思いついたのだ。

 攻撃方法自体はさほど難しいものではない。問題なのはアナザーサイドバッシャーの動きを誘導すること。それには相応の覚悟が必要となる。

 ツクヨミは深く深呼吸をし、覚悟を決める。未来でレジスタンスとして耐え忍んできた自分なら大丈夫だと内心で自らを鼓舞する。

 覚悟が完了すると共にソニックアローから一矢放つ。アナザーサイドバッシャーの膝を狙ったものだが、アナザーサイドバッシャーは逃げる素振りも見せなかった。

 案の定、光矢はアナザーサイドバッシャーの脚甲に当たって跳ね返る。分かっていたことなのでツクヨミも動揺しない。そして、ソニックアローを構えたままその場から移動しない。

 これは攻撃の為の一矢ではない。相手の攻撃を誘う為の一矢なのだ。

 ツクヨミの狙い通りにアナザーサイドバッシャーは左腕の砲をツクヨミに向ける。

 射線から離れるツクヨミ。アナザーサイドバッシャーは構わずに砲丸が発射。

 砲丸がさっきまでツクヨミが居た地点を通過しようとした時破裂し中身の鏃が飛び出す。

 

「ううっ!」

 

 ツクヨミは避け切れず、せめてもの抵抗で身を丸くした防御。無数の鏃に襲われて地面へと転倒してしまう。怪我をしたのかすぐには起きられない様子であった。

 地面に横たわるツクヨミに、アナザーサイドバッシャーは好機と思ったのか嘶きを上げて大きく跳躍する。その重量でツクヨミを踏み潰す気なのである。

 跳躍の最高点に達し、後はツクヨミ目掛けて落下するだけのアナザーサイドバッシャー。

 その瞬間、身を丸めていたツクヨミが怪我人とは思えない動きでソニックアローを上空に向けて構える。

 実際にツクヨミは怪我を負っていない。あの無数の鏃の中でも全て見極めて的確な防御をしたので最小限のダメージで済ませた。

 優秀なアーマーに内心で感謝しながらソニックアローから光矢を放つ。

 もし、ライドウォッチで力を上げていた光矢ならばアナザーサイドバッシャーは装甲内部に仕込んでいた噴射孔を使い、空中で動いていただろう。しかし、ツクヨミが放ったのはただの光矢。自分の装甲を貫くことはないとアナザーサイドバッシャーは知っている。

 アナザーサイドバッシャーはツクヨミの攻撃に構うことなくそのまま押し潰そうとする。

 光矢がアナザーサイドバッシャーの胸部装甲に当たる。そのまま弾き返す──と思いきや。

 

「──許して、とは言わない」

 

 光矢が装甲を貫き、アナザーサイドバッシャーの体を突き抜ける。

 驚くアナザーサイドバッシャー。同じ攻撃の筈なのに自分の体を貫いていったことが信じられない。

 ツクヨミがその場から数歩移動する。直後にアナザーサイドバッシャーの巨体が地面に叩き付けられた。

 アナザーサイドバッシャーを中心に割れる地面。そこにアナザーサイドバッシャーから染み出した赤い血が流れて行く。

 ツクヨミは空を見上げる。そこにはアナザーサイドバッシャーを貫いた光矢が空中に止まっている。

 これがツクヨミの光矢がアナザーサイドバッシャーを貫いた仕掛け。アナザーサイドバッシャーに命中する間際に光矢の時間を停止させた。

 時間停止させられた光矢は固定された杭に等しい。そこに落下速度とアナザーサイドバッシャーの自重が加われば強固な装甲であろうと貫ける。

 光矢がアナザーサイドバッシャーを突き抜けたのではない。アナザーサイドバッシャーが光矢を突き抜けたのだ。

 勝てたが達成感や喜びは感じられない。今にも息絶えそうなアナザーサイドバッシャーを見ているとそんな気になどなれなかった。生物感が強いアナザーサイドバッシャーの見た目のせいで、命を奪ったという実感が強まる。いっその事全てが機械で出来ていたらどれだけましだったか。

 生物的な見た目なのは偶然なのかもしれないが、スウォルツの嫌がらせの様な気がしてならない。

 やがて、アナザーサイドバッシャーがその目を閉じる。アナザーサイドバッシャーの体にノイズの様な光が走ると粒子となって跡形も無く消滅してしまった。

 

 

 ◇

 

 

 アナザーディケイドVEとアナザーゲイツマジェスティ。その戦いは一切の小細工を捨てた力同士の衝突であった。

 

「スウォルツゥゥゥ!」

 

 アナザーゲイツマジェスティが憎悪の言葉を吐けば──

 

「加古川飛流ゥゥゥゥ!」

 

 ──アナザーディケイドVEが怒りの言葉で返す。

 足を止め、拳を互いに打ち込み続けるという原始的且つ狂気の戦い。防御などしないし考えもしない。身を守ることよりも内に溜め込まれた憎悪と怒りを暴力として相手に叩き込めねば気が狂いそうになる。

 

「消え失せろ!」

 

 アナザーディケイドVEの拳がアナザーゲイツマジェスティの顔面に命中し、その仮面に罅を入れる。

 

「死ねっ!」

 

 顔面に拳を受けたままアナザーゲイツマジェスティはアナザーディケイドVEの側頭部を殴りつけ、その角に亀裂を入れた。

 アナザーディケイドVEの怒りがアナザーゲイツマジェスティの憎悪を掻き立て、アナザーゲイツマジェスティの憎悪がアナザーディケイドVEの怒りを沸き立たせる。

 怒りと憎悪が彼らにとっての力の源。

 

「がああああああ!」

「あああああああ!」

 

 アナザーディケイドVEの手刀が胴体を斬り裂く。アナザーゲイツマジェスティの膝蹴りが脇腹を抉る。アナザーディケイドVEの押し当てた五指から放たれる光弾が炸裂し、掴んだ腕から射られるアナザーゲイツマジェスティの矢が肩を射抜く。

 相手の存在そのものを否定するかの様な正義無き暴力の応酬。吐き出せば吐き出す度に互いの力を際限無く高めていくという負の連鎖。

 それによりアナザーディケイドVEの体は穿たれ、殴られ、傷付いた端から治っていき、攻撃の苛烈さが増す。

 一方でアナザーゲイツマジェスティは傷が増えるが治る気配を見せない。その代わりに力と速度が増していく。

 能力が高まるのは同じだが、異なる向上の仕方を見せる両者。

 戦いが過熱していく毎にアナザーゲイツマジェスティの体が深く傷付いていく。しかし、アナザーゲイツマジェスティ自身は傷など一切気にせずに戦いを続ける。

 いずれは取り返しがつかないダメージを負ってしまうのにブレーキを掛けることなく破滅に向かう戦いを全速力で行う。

 アナザーディケイドVEの足が上がる。アナザーゲイツマジェスティの足も上がる。相手の首を刈る為に繰り出された上段蹴りが交差。踏み止まって戦っていた二人もその衝撃によって後退させられた。

 戦いが始まってから初めて二人の間に距離が出来る。だが、その距離をすぐに零にしようと詰め合う為に動く。その直前──

 

『アーマーターイム!』

 

 その音声の後に二人の間を光が通り抜けていく。思わず足を止めて光の行く先を見てしまう二人。

 光は間を通り抜けてすぐに広がり、空中に浮かび長方形の画面となる。

 

『TOKI MEKI CRISIS』

 

 そう描かれた映し出された画面にピンク色のボブカットの少女の絵がこちらに向かって微笑み掛けている。

 

『……』

 

 あまりに場違いなもののせいで高まっていた怒りも憎悪も萎え、後には困惑が残る。

 意味が分からないせいで思わず画面を凝視してしまう二人の前で画面から沢山の星とハートが飛び出して来る。二人はそれを目で追う。

 飛び出した星とハートが向かう先にはツクヨミが立っていた。

 星がツクヨミの両肩に触れる。星は光となってライダーガシャット型の装甲へ変わり、ハートと星が胸に腰部に接触すると胸部にはボタンとゲージが配置されたアーマーと黄色いスカートに変わった。

 ハートが頭部に当たると広がってピンクのボブカットのヘッドパーツとなりハートのカチューシャまで付く。

 そして、両腕にハートと星を纏うと両腕をガシャコンバグヴァイザー(ツヴァイ)を模したチェーンソーとビームガンが覆う。

 

『バグルアップ! ポッピー!』

 

 ツクヨミの仮面に填まり込む『ポッピー』の文字。ツクヨミはポッピーアーマーを装着完了するとすぐさまライドウォッチを操作。チェーンソーの右手ではボタンを押せないので一旦解除する。

 

『フィニッシュタァァイム! ポッピー!』

 

 ツクヨミが両手を上げるとそこに楽譜の形をした光が発生する。

 

『ときめき! タイムジャック!』

 

 ツクヨミが両手を前に突き出すと、楽譜がアナザーディケイドVEとアナザーゲイツマジェスティに向かって伸びていく。

 楽譜には音符の代わりに星とハートが描かれており、アナザーディケイドVEの周りを星の楽譜が囲い、アナザーゲイツマジェスティの周囲をハートの楽譜が囲う。

 

「こんなもの!」

 

 アナザーディケイドVEは纏わりつく楽譜を引き千切ろうとし、楽譜に触れた瞬間並んでいる星が一斉に爆発した。

 

「がっ!」

 

 爆音を奏でる楽譜によりアナザーディケイドVEは全方向から爆破される。

 アナザーゲイツマジェスティはというと、彼にも楽譜が触れる。すると、ハートが輝きを発して弾け、ハートが消える度にアナザーゲイツマジェスティの傷が癒えていく。

 攻撃と回復。そのどちらも使用することが出来るポッピーアーマーの能力。

 

「大丈夫?」

 

 ツクヨミがアナザーゲイツマジェスティに尋ねる。アナザーゲイツマジェスティは無言のままで礼すら言わない。寧ろ不機嫌さが増した様に感じられた。

 アナザーゲイツマジェスティの礼を欠いた態度に対してツクヨミは特に腹を立てることは無かった。こういう性格であることは既に知っているし、アナザーゲイツマジェスティの目が既にアナザーディケイドVEに向けられているのを見ると、まだ大丈夫なことが伝わってくる。

 

「つくづく鬱陶しいな……! アルピナ……!」

 

 爆煙の中から放たれる血の繋がる妹へ向けるべきではない暴力の様な怒気と殺意。アナザーディケイドVEにとって血縁など何の枷にもならないことが伝わって来る。

 それがよく伝わって来るからこそツクヨミも実兄を攻撃することに迷いが無い。

 煙が晴れた時、アナザーディケイドVEが見たのはこちらへ向かって跳んできたツクヨミの姿。

 

「はあ!」

 

 アナザーディケイドVEが状況確認をするよりも早く右手のチェーンソーがアナザーディケイドVEの肩口に当たる。

 駆動音と火花を散らしてアナザーディケイドVEの身体を斬るのではなく削る。

 

「ぐ、お、お、お、お、お、お、お!」

 

 アナザーディケイドVEは痙攣を起こした様にガクガクと震える。チェーンソーの超振動を直に体内へ送り込まれているせいであった。

 斬る様な一瞬の動作ではなく時間を掛けて削り取っていく作業の為、アナザーディケイドVEの体に凄まじい負荷を与える。

 

「なめ、る、なっ!」

 

 体を細かく震わしながらもアナザーディケイドVEは押し当てられているチェーンソーを素手で掴み、引き離そうとする。

 

「やあっ!」

 

 腹部に当てられる左のビームガンの銃口。密着状態で発射される二連の光弾がアナザーディケイドVEを跳ねる様に震わした。

 

「がはっ!」

 

 チェーンソーとビームガンという可愛らしい外見には不釣り合いな凶悪な武器によりアナザーディケイドVEを攻めるツクヨミ。

 連射されるビームガンによりチェーンソーを止める手が緩み、チェーンソーの刃が更に肩へ食い込んでいきアナザーディケイドVEの内部に振動を伝わらせる。

 

「が、ぐ、ぐ、ぐっ!」

 

 憤怒に歪んでいるアナザーディケイドVEの口角に白い泡が溜まり始める。内臓をかき回されている様な強烈な不快感を体験していてもアナザーディケイドVEの意識はまだ維持されたまま。ある意味では生き地獄を味わっている状態である。

 ツクヨミとて人を苦しめるつもりは無く一気に決めてしまいたいが、アナザーディケイドVEの生命力がそれを許さない。

 

「どけっ!」

 

 アナザーゲイツマジェスティの怒声が背中に浴びせられる。視線だけ背後に向けるとアナザーゲイツマジェスティの隣に金の三本角に青い隈取りをして鬼に似た仮面を付けたアナザーライダーが立っている。

 鬼ことアナザー威吹鬼にアナザーゲイツマジェスティが触れるとアナザー威吹鬼の体は捻じれて細まり、鏃が三又に分かれた矢へと変形。

 右手首に赤、黒、金の光三色で形成された弓が張られ、そこにアナザー威吹鬼が変形した矢を番える。

 

「──死ね」

 

 殺意と共に射られ様とする矢。ツクヨミは射られるギリギリのタイミングまでアナザーディケイドVEを惹き付けて射線を隠していた。

 アナザーゲイツマジェスティの膨れ上がる殺意を感じ取り、ツクヨミは素早くアナザーディケイドVEから離れる。

 突然ツクヨミが離れたことを不審に思う間もなくアナザーゲイツマジェスティの矢がアナザーディケイドVEの肩に突き刺さった。

 鏃部分が赤く輝くと共に矢全体が外気を吸い込み、甲高い音を鳴らす。それによって発生する高音が鏃に干渉し、アナザーディケイドVEの体内を激しく揺さぶった。

 

「ぐ、あ、あ、ぐ、お、お!」

 

 ツクヨミのチェーンソーの振動で痛めつけられていた体内にもっと強烈な振動が流し込まれる。口から体内にあるもの全てを吐き出してしまいそうな苦しみがアナザーディケイドVEを襲う。

 背骨が折れるのではないかと仰け反り、両眼から血涙が流れ出し、口角泡も血泡と化す。見ている方も苦痛を感じてしまう程の姿。現にツクヨミも仮面の下で顔を顰めていた。

 

「あはははははははっ!」

 

 その様子を見て笑っていられるのは、恐らくこの世界でアナザーゲイツマジェスティぐらいであろう。

 このまま耐え切れなくなって意識を失うことを願うツクヨミ。

 しかし、その願いが叶う程現実は甘くはない。

 

「く、かか、ぎぎぎっ!」

 

 体が内側から壊れていく音を聞きながらアナザーディケイドVEはただ激怒する。

 誰が悪い? 何が悪い? 誰のせいだ? 何のせいだ? 何故こうなる? 何故そうなる? 誰が誰が誰が誰が──

 怒りが飽和し過ぎて思考が定まらなくなる。全ての原因は、とそこまで考えた時、赤く染まる視界に映る二人の姿。

 ツクヨミとアナザーゲイツマジェスティ。二人を認識すると飽和していた怒りは一つに纏まり、その身を突き破っていく激情となる。

 

「お前、らかぁぁぁぁぁ!」

 

 獣染みた叫びと共にその場で突き出されるアナザーディケイドVEの拳。本来ならば届く筈の無い拳であった。

 

「えっ!?」

「なっ!?」

 

 その拳は二人の視界一杯に広がる巨大な拳となり、二人を纏めて殴り飛ばす。

 

「きゃあっ!」

「うぐっ!」

 

 地面を転がっていく二人。ツクヨミのアーマーが解除される。アーマーのおかげでダメージをある程度抑えることが出来たが、アナザーゲイツマジェスティの方はまともに受けてしまい転がり終えた後も暫くの間立つことが出来ずにいた。

 ツクヨミがアナザーディケイドVEを見る。アナザーディケイドVEはあの場から一歩も動いていないし、拳も普通の大きさであった。幻、という言葉で片付けることは出来ない。実際に触れた感触があり、何よりも体に残る痛みが本物であると訴えている。

 

「お、お、お、お、おっ!」

 

 アナザーディケイドVEは崩壊しそうな体からアナザー威吹鬼の矢を引き抜く。肉体を苦しめていた振動が止まった。

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

 天へ吼えるアナザーディケイドVE。その体に異変が起こる。

 宙に体が浮いたかと思えば、手足に装甲が追加されながら有り得ない形に折れ曲がり、内側へ収納されていく。そして、せり出してくる赤い宝玉。

 アナザーディケイドVEは彼が腹部に付けてあるドライバーと同じ姿と化す。ただし、その大きさは比べ物にならないが。

 アナザーディケイドVEが変形したドライバーが空へ昇って行き、ある程度の高さまで移動すると、ドライバーから上下に光の線が伸びる。

 光の線はワイヤーフレームの様に形を創り上げていく。出来上がっていくものにツクヨミとアナザーゲイツマジェスティは絶句した。

 光の線が全て繋がった時、激しい閃光が放たれると線に肉体が宿る。

 それは約40メートルもあるアナザーディケイドVEであった。

 溢れ出る怒りは彼を人の姿に留めることを許さず、矮小な肉体を突き破って巨人へ変貌させる。

 あまりのことに啞然としてしまう二人。だが、アナザーディケイドVEは二人が正気になるのを待つ筈が無い。

 地面を這う虫を潰す様にその巨大な足を持ち上げる。

 不味い、と思いアナザーゲイツマジェスティはすぐにその場を移動しようとし──足を縺れさせて転倒した。

 

「な、に……!?」

 

 どれだけ力が高まろうともそれを扱う肉体がいつまでもそれに付いて来られる筈が無い。彼の精神力がなまじ肉体を凌駕していたことで感覚が麻痺してしまっており、先程の巨拳の一撃でついに限界を超えてしまった。

 足に力が入らず立ち上がることが出来ない。影がアナザーゲイツマジェスティに掛かる。

 その時、強い衝撃と共にアナザーゲイツマジェスティは影の外に突き飛ばされた。

 彼は見た。自分を助ける為に身を呈して突き飛ばしたツクヨミの姿を。

 

「何で……!?」

 

 アナザーゲイツマジェスティは疑問を持つのも仕方のないこと。二人の関係はアナザーディケイドVEを倒す為、利害が一致しただけの関係に過ぎないと思っていた。それにアナザーゲイツマジェスティ自身も全てが終わればソウゴとツクヨミの命を狙うと宣言している。

 互いの戦力が目的のドライな関係。そう思っていた。

 ツクヨミもそう割り切ればもっと楽だったであろう。だが、彼女はそう割り切れなかった。

 理由はどうあれ彼女にとってアナザーゲイツマジェスティ──加古川飛流は自分の命を助けてくれた。そんな彼が死の危機に瀕した時、体が勝手に動いてしまったのだ。

 

(ソウゴ、ゲイツ、ウォズ……ごめんなさい)

 

 我儘な真似をしてしまったことを心の中で詫びる。その直後、巨大な足がツクヨミを踏み付け、地面へ埋め込む。

 

「何で……何故……どうして……」

 

 ツクヨミが踏み潰れた光景を見て困惑しか湧かない。命を懸けてまで自分を助けてくれた理由が分からない。

 

「ふざけるなよ……! チクショウっ! お前は、俺が……!」

 

 踏み潰していた足が持ち上がり、一定の高さで止まる。もう一度踏み潰す気であった。

 

「止めろぉぉぉぉぉぉ!」

 

 アナザーゲイツマジェスティは叫び、地を這う様に両手を動かし全力で軸足の方に体当たりをする。

 ほんの小さな衝撃だが、バランスを崩すのには十分であり、アナザーディケイドVEの巨体がよろめいて後退する。

 アナザーゲイツマジェスティは急いで陥没した地面を見る。そこには変身解除され横たわっているツクヨミ。生きているかどうかすら分からない。

 

「く、ぐ、あああ、ああああああああ!」

 

 アナザーゲイツマジェスティは咆哮しながらベルトに手を翳す。アナザーゲイツマジェスティウォッチがどす黒い光を放つ。

 

「うあああああああ!」

 

 跳躍するアナザーゲイツマジェスティ。その周囲に彼が今まで呼びだしてきたアナザーライダーたちの幻影が召喚され、アナザーゲイツマジェスティに重なって行く。

 赤い輝きを右足に宿し、金と黒の光を双翼の様に噴き出しながらアナザーディケイドVEに突進する。

 アナザーディケイドVEは拳を握る。その拳に黒とマゼンタの輝きが灯るとアナザーゲイツマジェスティへ突き出した。

 巨人の一撃と復讐者の一撃。二つが交わった時、巨大な爆発が生じる。それは、アナザーディケイドVEの巨体が思わず転倒してしまう程のものであった。

 建物を破壊し、道路を押し潰しながら大の字に倒れるアナザーディケイドVE。すぐに体を起こす。

 そこにアナザーゲイツマジェスティの姿は無かった。

 

 

 ◇

 

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

 荒い息を吐き、血の跡を点々と残しながら歩いていく飛流。同じく負傷して意識を失っているツクヨミを肩に担いでいた。

 

「げほっ! げほっ!」

 

 飛流が咳き込む。その口から血が飛沫となって地面に飛び散った。

 

「くそっ! くそ……!」

 

 最後に攻撃がアナザーディケイドVEに完全に打ち負けてしまって。それにより負傷し、気絶したツクヨミを連れて銀色のオーロラに逃げ込むのが精一杯であった。

 

「何でだ……! 何でだ……!」

 

 最後の一撃が予想よりも遥かに力が出なかったことに困惑する。今までのアナザーゲイツマジェスティならば互角まで行けた筈なのに。

 理解出来ない。弱くなってしまったことが。尻尾を巻いて逃げてしまったことが。見捨てればいいツクヨミをこうやって連れていることが、何もかも理解出来ない。

 加古川飛流の原動力は復讐心と恨み。それはアナザーゲイツマジェスティの強い糧となる。

 飛流は気付いていない。

 あの時、あの瞬間、飛流は復讐の為に攻撃したのではない。()()()()()()()()()攻撃してしまったのだ。

 皮肉なことに(マイナス)に振り切れてしまっている飛流が(プラス)の行動をしてしまった為にアナザーゲイツマジェスティは著しく弱体化してしまった。

 飛流が初めて守る為に戦い、そして負けた。

 この先、彼がそれに気付くことも認めることも無いであろう。

 




取り敢えずアナザーディケイドVEは劇中でディケイドがやったことを全部出来る感じで。
もう一つアーマーを出したかったですが、話の展開上これ以上は出すのが無理と思って止めました。
ファムアーマー、ラルクアーマーがこの先出るかどうかは、まあ、その時までの楽しみにしておいて下さい。

先にどちらが見たいですか?

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