「ふう……」
ソウゴはクジゴジ堂前で顎に伝う汗を拭い取る。
ツクヨミと飛流がクジゴジ堂から姿を消してから全員で二人を探していたが、思った様な捜索は出来なかった。
何せ二人が何処に行ったのかという手掛かりが全く無い。その上、外では怪人たちが大暴れをしている。
ツクヨミたちを探しながらも人々を襲う怪人を見つければそれを退治し、避難させるというのを何度も繰り返し行った結果、いつの間にか夜が明けていた。
寝不足と連戦による疲労で頭が重く感じる。
ソウゴがクジゴジ堂へ一旦戻って来たのはゲイツとウォズが何らかの情報を持ち帰っていないか、あわよくばツクヨミたちが戻って来ていないかという淡い期待を込めてのもの。
その時、轟音が聞こえて頭上を見上げる。ゲイツがビークルモードのタイムマジーンに乗って帰還して来る。
怪人たちでも厄介だが、中にはタイムマジーンと変わらない大きさの怪物も混じっていることもあった。その度にタイムマジーンで撃破するが時間を置くと怪人たちと一緒に復活してくるのでキリが無い。
タイムマジーンからゲイツが降り、機体をこの時間の外に戻しておく。
降り立ったゲイツの顔は今のソウゴと同じ疲労と寝不足が出た顔色をし、そこに焦燥感が加えられていた。
「ジオウ、ツクヨミは……?」
ゲイツの方から質問をされた段階で彼も有益な情報を得られていないことが分かる。
その問いにソウゴは首を横に振る。ゲイツは『そうか……』と短く呟いた。
「我が魔王、それにゲイツ君も無事に帰って来たみたいだね」
いつの間にか居たウォズ。クジゴジ堂の壁に背を預けた態勢で『逢魔降臨暦』のページを捲っている。
「ウォズ、ツクヨミと飛流は──」
最後まで言うよりも先にウォズは首を横に振る。こちらも収穫無しであった。
「そう……」
空気が一気に重くなる。一晩掛けて成果が全く無いのはやはり精神的に応える。
「……一旦店に入ろう。ここで我々が立ち尽くしていても何の解決にもならない。それにツクヨミ君たちを心配するのはいいが、私たちも心配を掛けている立場なのを忘れてはいけないよ」
クジゴジ堂内で一人皆の帰りを心配している順一郎の姿が頭に浮かぶ。
「──そうだね」
ソウゴはウォズの忠告に従い、クジゴジ堂内へと入る。
「ただいま」
クジゴジ堂奥から勢い良く順一郎が出て来る。
「ソウゴ君! ゲイツ君! ウォズ君! おかえり!」
順一郎は安堵した表情で出迎えてくれた。勝手に出ておいて一晩戻らなかったというのに順一郎は怒ることはせず、ただソウゴたちが無事に帰って来たことを心から喜んでいた。
よく見れば目の下に隈が出来ている。一睡もせずにソウゴたちを待っていたのかと思うと申し訳ない気持ちで一杯になる。
「あ、あとツクヨミちゃんと飛流君は……」
二人の名を出した瞬間に三人の表情に影が差したのを見て察する。
「ともかく! 皆、お腹減っているでしょ? もう作ってあるから暖めてくるね!」
二人の話題をそこで強引に打ち切り、すぐに料理の準備に向かった。
「彼には頭が上がらないね……」
「ああ……」
理由も聞かず、それどころか気遣いされることにウォズは素直に敬意を抱き、ゲイツもそれに同意する。
クジゴジ堂奥へ入って行こうとすると、順一郎が作業をしている机に明かりが付けられていることに気付く。今まで何かの修理を行っていたらしい。
「出来たよー!」
気にはなったが順一郎の声が聞こえてのでキッチンの方へ向かう。
テーブルにはおにぎりや味噌汁、簡単なサラダが置かれていた。しかし、空腹状態のソウゴたちにはご馳走にしか見えない。
『いただきます!』
椅子に座り、手を合わせた後一気に目の前の料理に食らい付く。
「おいしーい!」
おにぎりに齧り付いて思わず声が出るソウゴ。
食べた瞬間、自分がどれだけ空腹であったのかを思い知らされた。
「ゲイツ君! すまないがドレッシングを取ってくれ!」
「それぐらい自分で取れ! 全く……」
文句を言いながらも言われた通りにドレッシングをウォズに渡すゲイツ。
空腹で萎んでいた胃が食べ物によって膨れ、満たされていく。
慌ただしく、騒がしい食卓。しかし、本の一時だが戦いの疲れを忘れることが出来た。
皿に乗った三つのおにぎりをソウゴたちはそれぞれ手を伸ばして掴み、口に運ぶ。最後の一つをしっかりと味わいながら咀嚼し飲み込む。
『ごちそうさまでした』
手を合わせて食事の終わりを告げる。大皿も椀も全て綺麗に空になっていた。
「ゲイツ、ウォズ」
ソウゴが二人の目を見る。二人は黙って頷くと三人は揃って席を立った。
ほんの少しの間の休憩が終わる。助けるべき人々がまだいる。探すべき仲間もいる。そして、倒すべき敵がいる。これ以上は立ち止まっていられない。
順一郎にまた心配を掛けるのを悪く思いながら、ソウゴたちは黙ってクジゴジ堂から出ていこうした。
「ソウゴ君!」
その間際、ソウゴたちは呼び止められる。振り返った三人が見たのは、今までになく真剣な表情をした順一郎であった。
「あのさ……もう、外に出ていくのは止めよう? 凄く危ないことが起こっているし、変なのがあちこちうろついているっていうし……ツクヨミちゃんと飛流君が心配なのは分かるよ! でも、ソウゴ君たちにもしものことがあったらと思うと……」
順一郎の思いやりにソウゴが目の奥が熱くなるのを感じた。こんな時にでさえ優しさに溢れる順一郎の存在に心の底から感謝する。
今思えば自分が王様になる道を真っ直ぐ進むことが出来たのは、理解者である順一郎が今日に至るまで育て、見守ってくれたからだとソウゴは実感した。
だからこそ、そんな恩人に対して言うべき事がある。
「叔父さん、俺……」
ソウゴはポケットからジオウライドウォッチを出した。それを見たゲイツとウォズはソウゴがこれから何を言うのかを察し、同じくゲイツライドウォッチとウォズミライドウォッチを出す。
「いや、俺たちは」
二人がウォッチを出したのを見て言葉を訂正する。
「それってソウゴ君が飾っていた時計……」
順一郎もよく知る時計。しかし、使い方が一切分からない時計。
ソウゴとゲイツはジクウドライバーを装着。そして、ウォズもビヨンドライバーを装着する。
『ジオウ!』
『ゲイツ!』
『ウォズ!』
名を叫ぶウォッチたち。変身という言葉も無くそれらを各ドライバーに挿す。
『ライダーターイム!』
『フューチャータイム!』
叫び続けるウォッチ。一方で変身するソウゴたちは終始無言という静かなものであった。
『仮面ライダージオウ!』
『仮面ライダーゲイツ!』
『仮面ライダーウォズ! ウォズ!』
三色の光がクジゴジ堂内を満たし、それが収まった時三人の仮面ライダーが順一郎の前に立つ。
「あ、ああ……」
順一郎の目も口も限界に開かれ、驚きの余り言葉を発することも出来ない。
「叔父さん……ごめんなさい」
ジオウの姿のまま頭を下げるソウゴ。
「叔父さんにはずっと話してなかったんだけど……実は俺……仮面ライダーなんだ」
仮面ライダー。その存在は順一郎も耳にしたことがある。何処からともなく駆け付けて悪い奴らを倒してくれるヒーロー。そして、自分には縁が無く遠い彼方の存在。それが順一郎の仮面ライダーに対する認識であった。だが、実際はこんなにも身近に仮面ライダーが居た。それも三人も。
「凄い力を手に入れて……悪い奴らと戦って……皆を守れるんだ」
啞然としている順一郎であったが、ジオウのその言葉を聞いて思わず言葉を零す。
「本物の王様みたいだね……」
ジオウは仮面の下で自然と口角が上がっていくのに気付く。順一郎から王様みたいだと言われて嬉しくない筈が無い。場違いだと分かっているがそれでも笑みを抑えることが出来ない。
「──だね。だから俺行かなくちゃいけないんだ。ゲイツとウォズと一緒に。皆を守る為に。叔父さんを一人にして凄い心配掛けちゃうけど……」
「ソウゴ君」
順一郎はジオウの両肩に手を置く。
「行きなさい」
順一郎の顔から困惑は消え、微笑を浮かべながら真っ直ぐジオウを見る。
「僕は時計屋だ。時計屋は時計を修理することが役目だ。ソウゴ君の役目があるんだったらそれを果たさなきゃ。ゲイツ君とウォズ君も同じだ」
順一郎の言葉にゲイツとウォズは頷く。
「だから……いってらっしゃい!」
本音を言えば危険に向かう三人を止めたい。彼らの決意に触れて言葉では止められないことが分かってしまう。ならば順一郎に出来ることは彼らを信じること。
「でも、ちゃんと帰ってきてよね! 叔父さん、ソウゴ君たちが帰って来なかったら泣いちゃうからね! ソウゴ君は皆を幸せにする王様になるんでしょ?」
「──うん。行ってきます!」
口約束でもいい。ただ皆が無事に帰って来ることを祈ってのささやかな約束。
ジオウがクジゴジ堂を出て行く。ゲイツとウォズは順一郎に行って来るという言葉の代わりに頭を下げ、ジオウの後に続いて行った。
残された順一郎は決意に満ちた表情になると、急いで作業机に座り机に並べてある道具を手に取る。
「ちょっと待っててねソウゴ君! あと少しだから!」
一晩中行っていた作業の続きを始める順一郎。修理道具が向けられる先には壊れたライドウォッチが置かれていた。
ソウゴにとって大事なものであるとは知っていた。だが、ソウゴたちが変身する際に使用したのを見て大事の意味合いが変わる。
この時計はきっとソウゴたちの役に立つと確信した順一郎の作業にかつてないほどの熱が入る。
ソウゴたちが自らの役目を果たしに行ったように順一郎もまた時計屋として自ら役目を全うしようとしていた。
◇
クジゴジ堂から出た三人は分かれて行動することとなった。本当ならば三人で固まって行動するのが一番リスクは少ないが、彼らには人々を救う、ツクヨミたちを探す、スウォルツを倒すというやるべき事が多くあり仕方なく別行動をとるしかなかった。
「おおおおおおっ!」
ロボモードとなったタイムマジーンを操り、怪人たちを一掃していくゲイツ。
タイムマジーンの存在に気付き、空を飛び交う無数の怪物たちが群れとなってタイムマジーンに向かって来る。
「お前たちの好きにさせるかぁぁぁぁ!」
タイムマジーンの両腕からレーザーとミサイルが連射され、ある怪物はレーザーによって撃ち抜かれ、別の怪物はミサイルによって爆散する。
撃ち落とされる怪物、バラバラになって落ちていく怪物。だが、相手はそれに怯むことなくタイムマジーンの弾幕を上回る大群で押し寄せてくる。
「だったら!」
ゲイツはタイムマジーン内であることをし始める。しかし、敵は待ってくれる筈も無くタイムマジーンはあっという間に怪物たちの牙や爪により蹂躙される──と思いきや。
タイムマジーンに攻撃していた怪物たちが突然細切れになって地面にばら撒かれた。そして、怪物たちに囲まれている筈のタイムマジーンの姿が無い。
『リバ・イ・ブ! 疾風! 疾風!』
その声に怪物たちの視線が集まる。さっきまで立っていた場所から数十メートル離れた空にタイムマジーンは居た。
姿が変わっており、ライドウォッチ型の頭部にはゲイツリバイブ疾風の顔。背部からはエネルギーで形成された青色の双翼を展開し、左手首から水色の爪を二本伸ばしている。
これがゲイツが先程タイムマジーン内部で行っていたことである。ゲイツからゲイツリバイブ疾風に変身することによりタイムマジーンにその能力を反映させた。初めてやる試みだったが成功である。
ゲイツリバイブ疾風の力を取り込んだタイムマジーンは、空中で文字通り疾風と化す。
動けば目にも止まらぬ速度で怪物たちに接近し、すれ違い様に爪によって斬り裂く。
遠くに離れた敵を見つければ、爪を発光させて振るう。すると、水色の軌跡から爪型の光弾が発射され次々に怪物たちを貫いていく。
空中戦に於いては無敵の強さを見せつけるが、敵は空だけではない。
「うわあああああ!」
「きゃあああああ!」
「いやぁ! いやぁぁぁ!」
下から悲鳴が聞こえる。足元では巨大な蟹や蜘蛛に追い掛け回されている人々。今にも大鋏や毒牙に捕らわれそうになっている。
「させん!」
最高速度で降下しながらコックピット内でゲイツリバイブはゲイツリバイブライドウォッチを操作。
『パワードターイム!』
着地と共に逃げ惑う人々の盾となるタイムマジーン。そのタイムマジーンに巨大蟹──魔化魍バケガニの爪が振り下ろされるが──
『リ・バ・イ・ブ! 剛烈! 剛烈!』
双翼が消え、爪が収納され、タイムマジーンの顔がゲイツリバイブ疾風から剛烈に切り替わるとタイムマジーン全体が橙色の光に覆われる。
バケガニの鋏がタイムマジーンに叩き付けられたがタイムマジーンには届いていない。タイムマジーンを覆う橙の光が巨大蟹の攻撃を防いでいた。
バケガニの背後にいる巨大蜘蛛──魔化魍ツチグモが口から糸を吐き、タイムマジーンの右腕に絡ませる。
そのまま引き寄せようとすると、ツチグモの糸が千切れ飛ぶ。タイムマジーンの右腕から飛び出している光輪が糸を引き裂いたのだ。
「くらえ!」
タイムマジーンが光輪を突き出す。バケガニの頭部にそれを突き立てると剛烈の力が発揮され、背後にいるツチグモにバケガニを叩き付ける。
二体の魔化魍が重なると光輪が回転。回転鋸となって二体の魔化魍を真っ二つに斬り裂き、爆散させる。
ゲイツリバイブはタイムマジーンの中から襲われていた人達の安否を確認する。襲われた恐怖で足を震わせながらも安全な場所を目指して逃げていた。
その様子に一先ず安心するゲイツリバイブ。だが、いつまでもそれに浸っている訳にもいかない。
逃げる人々から目を離せば、まだ大量の怪物、異形、怪人たちが暴れ回っている。
本当の安全を確保し人々を救う為、ゲイツリバイブはタイムマジーンを駆る。
◇
「はっ!」
ギンガファイナリーとなったウォズの掌打が打ち込まれ、後方に立っていた者たちを何体も巻き込んで怪人が突き飛ばされていく。
一撃で数体の怪人を倒す力を見せつけるウォズ。しかし、視界を覆い尽くす数に比べたら些細なことに過ぎなかった。
『ファイナリー! ビヨンド・ザ・タイム!』
ビヨンドライバーを操作することでギンガミライドウォッチの力を十二分に発揮。周囲一帯が星々が輝き、惑星が浮かぶ宇宙空間へ塗り替えられた。
怪人も怪物も大小問わずに無重力に囚われた状態となり自由に動けなくなる。ウォズギンガファイナリーが両手を合わせるとそれに連動して怪人、怪物が一箇所に集まる。
『超ギンガエクスプロージョン!』
自ら創った宇宙を流星の如く疾駆するウォズ。そのまま怪人たちを貫き、纏めて爆発させた。
数十体の怪人たちを一掃してみせたウォズであったが、今も蠢く怪人たちの数を見れば爽快感など無く徒労を感じるのみ。
「キリがないな……」
果ての見えない戦いに思わず愚痴を零してしまう。しかし、全てを解決しようにもそれにはツクヨミの力が必要であり、そしてソウゴに犠牲を強いる事になる。後者だけは何としても避けたいというのがウォズの本音であった。
「この世界の時間や歴史がこれ程までに歪められているというのに、彼らは動かないのか……!」
ウォズにしかその意味を理解出来ない憤りを吐き捨てる。拳も強く握り締めていたが、やがて虚しくなり力無く拳を開く。
「うん……?」
争う音が聞こえた。現時点で戦える力を持っているのは自分たちしかいない。その中で別行動しているソウゴとゲイツは省かれる。
ならば残された可能性は──ウォズはすぐにその場から走り出していた。
前に立ち塞がる怪人たちを薙ぎ倒し、一直線に音の方へ向かう。
「あれは……!?」
仮面ライダーゲイツを反転させた色合い。右手に持つ斧で怪人を切り伏せ、左腕に直接付けた弓で射抜く。
間違いなくアナザーゲイツであり、複数の怪人たちから何かを守る様に戦っていた。
しかし、アナザーゲイツは不調なのか時折姿が薄くなったり、ノイズが走ったかの様にブレを起こしている。
近いうちに変身が解除されると思ったウォズは、両手からエナジープラネットを乱射してアナザーゲイツを囲う怪人たちを吹き飛ばす。
「加古川飛流!」
敵を全て倒したウォズは、急いでアナザーゲイツに近付く。アナザーゲイツはウォズが近くに来た途端限界を迎えたのか消滅してしまった。
飛流本人が変身したものと思っていたが、実際は彼によって召喚されたもの。ならば飛流は何処にいるのか。
「……お前か」
物陰から知っている声が聞こえた。急いで覗き込むとそこには血を流している飛流と意識の無いツクヨミがもたれ掛かっている。
「ツクヨミ君! 加古川飛流!」
探していた二人を見つけたが、二人は予想外の怪我を負っていた。ウォズは意識の無いツクヨミに触れる。幸いまだ生きていることに安堵するが、それでもかなりの怪我を負っている。
それよりも酷い怪我の飛流に何があったのかを問い質す。
「一体何が!?」
「……スウォルツだ。……スウォルツにやられた」
「スウォルツだって? まさか君たち二人でスウォルツを倒すつもりだったのか!?」
「はっ……その結果が……この様だ……」
飛流は自嘲する。
「くそっ……俺は……! 俺はまだ……! うっ……!」
飛流は呻いた後、体が倒れていく。ウォズは地面に着く前に飛流の体を受け止めた。呼吸はある。心身が限界を迎えた様子であった。
「ウォズ……?」
「ツクヨミ君! 気が付いたのか!?」
飛流と入れ替わる様にツクヨミが目を覚ます。
「何故、加古川飛流と一緒にスウォルツを倒そうなどという無茶を! 計画通りやっていればスウォルツを倒さなくとも──」
「それだと……ソウゴが犠牲になるんでしょ……?」
「──ッ! 知っていたのか……」
「だから、私は、スウォルツを……」
「そういう事か……」
最後まで言わなくてもツクヨミがやろうとしていたことをウォズは察する。
「でも、ダメだった……!」
失敗に終わってしまった悔しさからツクヨミは涙を流す。
「ツクヨミ君。君が──」
ウォズが慰めの言葉を言おうとした時、怪人、怪物たちの咆哮がそれを掻き消してしまう。
「はあ……」
この時、ウォズは苛立ちを混ぜた溜息を吐いた。
「不粋にも限度があるんじゃないかい?」
ツクヨミたちから一旦離れ、こちらにワラワラと向かってくる怪人たちの前に立つ。
「今の私は非常に機嫌が悪いんだ。──容赦はしないよ?」
『ジカンデスピア!』
温度の無い言葉を吐きながらジカンデスピアを取り出し、槍から杖へ切り換える。
『ツエスギ!』
杖形態となるとすかさずジカンデスピアの入力装置のボタンを押す。
『フィニッシュタイム!』
すると、進軍してくる怪人たちや怪物たちの頭上に惑星によって作られたクエスチョンマークが浮かび上がる。
『不可思議マジック!』
技の発動と共にそのクエスチョンマークが脳天に吸い込まれた。途端、怪人たちは体を硬直させて前後左右に体を動き回しながら痙攣を起こす。
「君たちの頭の中を宇宙の神秘と謎で満たした」
痙攣していた怪人たちの動きが止まる。すると──
「──ガ」
「──ンガ」
「ギンガ」
『ギンガ、ギンガ、ギンガ、ギンガ』
声を発せられる怪人たちが一斉にギンガ、ギンガと騒ぎ出し、声を出せない怪物も鳴き声で似た様な音を発し出す。
「これで君たちは宇宙の虜。行きたまえ」
ウォズの指示に従い、ギンガと叫び続ける怪人たちが叫んでいない怪人、怪物を襲い同士討ちを始める。
宇宙について解明出来ない謎や計算などを叩き込み思考を宇宙で満たすことによる強制隷属。ソウゴとゲイツに批判されることは間違いなく、そしてウォズ自身も悪趣味と思っていたので使用してこなかったが、今回やむを得ず使用した。
「これで少しの間落ち着いて話が出来る」
ウォズはツクヨミたちの許へ戻っていく。
「ツクヨミ君?」
先程まで会話していたツクヨミは再び気絶していた。
「まずは治療を優先すべきだね……」
取り敢えずの方針を決めたウォズ。目的の一つであるツクヨミたちの捜索は何とか無事に済みそうであった。
だが、この時ウォズはツクヨミに気を取られているあまり気付かなかった。
気絶していると思われていた飛流。その目が薄っすらと開いており、先程のツクヨミとウォズの会話を聞かれていたことに。
◇
ツクヨミと飛流との戦いに勝ったスウォルツが真っ先に行ったことは食事であった。
幸い近くに無人になったコンビニエンスストアがあったので、目に付いた飲料水、弁当、菓子などを貪る様に食した。
渇きが潤い、腹が満たされていくことで限界まで擦り切れていた活力が傷と共に見る見るうちに回復していく。
通常ならば有り得ない現象だが、アナザーディケイドVEの力を手にしているスウォルツにとっては不可能なことなど最早無いに等しい。
どれだけの時間食事に没頭していたのかは分からないが、気付いたら店内から食べる物が全て消えていた。
「ふぅぅぅ……」
全身に漲る力。戦いの疲労は全て消え去り完璧なまでに体調が整ったスウォルツは、体から覇気を発している。
覚醒した力と万全の肉体。今ならば誰にも負ける気がしない。
「──むっ」
スウォルツはある気配を感じ取る。自分と同じく王となろうとするものの覇気。その気配を持っている者をスウォルツは一人しか知らない。
「この世界で最後の決着を付けるか?」
スウォルツはその気配に導かれるまま歩き出す。
一人歩くスウォルツの足音。やがて、その足音にもう一つの足音が重なり、段々と近付いてくる。
「──来たか。常盤ソウゴ!」
「スウォルツ……!」
ジオウとスウォルツ。王と成ろうとする両者が向かい合う。
「ライダー共の歴史は既に消え去った! グランドジオウの力が無いお前に何が出来る?」
「やってみなくちゃ分からないさ」
スウォルツはアナザーディケイドVEウォッチを出し、ジオウはジオウライドウォッチⅡを取り出す。
『ディケイド激情態ッ!』
スウォルツがアナザーディケイドVEへ変身。
『ジオウⅡ!』
「変身!」
ジオウはジオウライドウォッチⅡを金と銀の二つのライドウォッチに分け、それらをジクウドライバーにセットする。
『ライダーターイム!』
ジオウの背後に二つの時計盤が現れ、力を放出する。
『仮面ライダー! ライダー! ジオウ! ジオウ! ジオウⅡ!』
ジオウからジオウⅡへと再変身すると、アナザーディケイドVEはその姿を嘲笑する。
「今更ジオウⅡの力に頼るとは……万策尽きたなぁ! ははは──」
「まだだよ」
「はは、はあ?」
勝ち誇った笑いを上げようとしていたアナザーディケイドVEだが、ジオウⅡの言葉にそれを中断する。
「──これが最後の切り札だ」
ジオウⅡは徐に銀のジオウライドウォッチⅡをジクウドライバーから抜く。その代わりに取り出した物を見て、アナザーディケイドVEは驚愕した。
「馬鹿なっ!? 何故お前がそれを持っている!?」
ジオウⅡがアナザーディケイドVEに見せたのは、スウォルツが飛流へと渡し、飛流が海東によって奪われたアナザージオウⅡウォッチ。
これこそが海東がソウゴに渡したもう一つのアイテム。
『ジオウⅡ』
起動と共に怨念の様な声がアナザージオウⅡウォッチから発せられる。ジオウⅡはそれをジクウドライバーのスロットへ持っていく。
「正気では無いな! 同じ力であってもジオウとアナザージオウは対極の存在! その身を滅ぼすことになるぞ!」
アナザーディケイドVEの指摘など言われなくても分かっている。単純な力ならばジオウⅡ以上のアナザージオウⅡ。もし、その二つの力を合わせればグランドジオウに匹敵する力を得られる。
今のアナザーディケイドVEに勝つ可能性はこれしかない。
アナザージオウⅡをジクウドライバーにセットした瞬間、衝撃が全身を貫く。痛みでは無い。今まで感じたことの無い破壊衝動。意識を手放して目に映る何もかもを破壊したくなる。
「くっ! ぐうぅ!」
それを耐えながらジクウドライバーのロックを解除し、ジクウドライバーに触れるジオウⅡ。
未来でオーマジオウはアナザーライダーの力すらも我が物としていた。例え対極の力であろうともライダーの力。ならばこそ使い熟してみせる。
「うあああああああああっ!」
『アナザーターイム』
叫びと共にジクウドライバーを回転。そして放たれる今までに無かった音声。アナザージオウⅡウォッチから力が呼び覚まされる。
ジオウⅡの前に出現するアナザージオウⅡ。すると、肉体部分が液状となって地面へと広がり、残されたアーマーだけが宙へ残る。
『ジオウⅡ』
アナザージオウⅡの肩装甲がジオウⅡを殴りつける様に装着。と同時に白い根の様なものがジオウⅡの身体を這って行く。
「ぐうっ! があああ!」
肩、脚、胴体に打ち込まれる様にして付けられていく装甲。その度にジオウⅡの黒いボディスーツが白く染まっていく。それは最早装着ではなく浸食であった。
最後のパーツであるアナザージオウⅡの仮面が顔に填め込まれ、その意識すらも乗っ取ろうとしてくる
「ぐ、うああああああ!」
ジオウⅡは両手で仮面を掴み取り、無理矢理引き剥がす。仮面から伸びる白い糸の様なものがブチブチと千切れていく。
「ううう! あああああ!」
更に右肩や胴体に右脚に付けられた装甲も引き剥がし、その度に皮膚を剥がす様な音が響いた。
装着したアーマーを自ら引き剥がすという前代未聞の形態変化。しかし、こうでもしなければジオウⅡの意識はアナザージオウⅡアーマーに取り込まれてしまう。
「はあ……はあ……はあ……」
右半身の装甲を剥がしたことでようやくアナザージオウⅡアーマーを抑えることが出来た。
仮面ライダーとアナザーライダーが一体と化した姿。それは歪な姿であった。
右半身には装甲が無くジオウⅡのまま。左半身にはアナザージオウⅡの装甲が付けられ、ボディスーツの一部が白く染まっており、口部は歯牙型の装甲に覆われていた。
これで装着完了と思いきや、アナザージオウⅡの崩れた体である白い液体から何かが飛び出し、ジオウⅡの顔の左半分を覆う。
それは唯一残っていたアナザージオウⅡの目。白い半開きの目がジオウⅡの顔面に吸着すると同時に限界まで見開かれる。すると、液体の中から飛び出してきた『ZIーOⅡ』の文字が眼球内に収まり、その衝撃でジオウⅡの左側にある時計の針を模したヘッドパーツがずれ、別の時間を指し示す。
この瞬間に正と負、表と裏、善と悪の力が一つとなった仮面ライダージオウⅡアナザージオウⅡアーマーが誕生する。恐らく、この場にウォズが居てもこの誕生を心の底から祝福することはないであろう。
「まさか、アナザーライダーの力すら取り込むとは……!」
「はあ……はあ……。最後の勝負だ……!」
ジオウⅡは右手にサイキョージカンギレード、左手にアナザージオウⅡの武器である時計の針の形をした両剣を装備する。
ジオウⅡがアナザージオウⅡの力を得たのはアナザーディケイドVEにとって予想外のことではあった。しかし、アナザーディケイドVEには時間を操る力がある。どんな相手であろうと時間を止めてしまえば無力。更に言えばそれを無効化するツクヨミもここには存在しない。
「驚かされたが恐れるに足らん! 俺の力の前に屈しろ!」
アナザーディケイドVEは掌をジオウⅡへ向け、時間を停止させ──られなかった。
「何っ!?」
力が発動しないことに驚くアナザーディケイドVE。
「それは、既に俺が視た未来だ!」
気付けばジオウⅡがアナザーディケイドVEの懐に入り込んでおり、サイキョージカンギレードと両剣を押し当てている。
ジオウⅡは未来を予測する。そして、アナザージオウⅡは時間を改変する。
その二つが組み合わさったことで起こるのは未来改変。
アナザーディケイドVEが時間停止を発動しない未来に書き換えた。
「何故──」
という言葉よりも先にジオウⅡの二つの刃がアナザーディケイドVEを斬り裂いた。
アナザーウォッチ内の音声にあるのでやらないといけませんよね。アナザータイムは。
そろそろ二つあるエンディングの内の一つを迎えることになります。
先にどちらが見たいですか?
-
IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
-
IFゲイツ、マジェスティ