仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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最近のライダーの恒例になっているイベント回となります。


アナザーディケイドVE その25

「ぐおっ!」

 

 アナザーディケイドVEの胸に刻まれる×の字の傷。予期せぬ一撃に怯んでいる内にジオウⅡはサイキョージカンギレードと両剣を横薙ぎに振るい、×の字の傷の上に平行した二本線の傷を加える。

 

「ぐうっ!」

 

 傷を抉る一撃に声を上げるアナザーディケイドVE。だが、二撃目は怯むことはせず踏み止まってジオウⅡの肩目掛けて手刀を振り下ろす。

 ジオウⅡは最初からその攻撃を予測していたらしく、手刀が振り下ろされるよりも先に体勢を半身にする。

 アナザーディケイドVEも動きを予測されていたことに気付くがジオウⅡの回避行動のタイミングが絶妙であったせいで手刀を止めることが出来なかった。

 空を切るアナザーディケイドVEの手刀。回避したジオウⅡはサイキョージカンギレードと両剣をアナザーディケイドVEの両肩に当て、一気に振り下ろす。

 

「くっ!」

 

 アナザーディケイドVEの両肩から血飛沫代わりの火花が散る。頑強な肉体が削り取られた証である。

 しかし、アナザーディケイドVEもやられているだけでなくジオウⅡが攻撃した直後に前蹴りを繰り出した。

 ジオウⅡは武器を交差させ盾にしてその前蹴りを防ぐ。未来が予測出来ても回避するタイミングがなければ受けざるを得ない。

 アナザーディケイドVEの蹴りを受けて、ジオウⅡは数メートル程蹴り飛ばされた。

 交差していた武器を解くジオウⅡ。その眼前にはアナザーディケイドVEが拳を溜めた構えで既にいる。

 高速移動能力を駆使した瞬時の反撃。未来予測をするジオウⅡだが、その攻撃を回避する未来を視るには時間が足りなかった。

 

「ふん!」

「ぐあっ!」

 

 心臓へ打ち込まれるアナザーディケイドVEの拳。命中と共に黒とマゼンタの閃光が爆ぜる。

 前蹴りを受けた時以上の距離を倍以上速度で殴り飛ばされるジオウⅡ。

 アナザーディケイドVEはそこから追撃すると思いきや、先にジオウⅡから受けた傷が開き、そのせいで動きが止まってしまう。

 

「うう、ううう……」

 

 心臓を押さえながら立ち上がるジオウⅡ。胸には拳の跡が深く残っていた。今までにない衝撃を与えられてせいで心臓の鼓動がおかしくなる。

 

「アナザージオウの力を纏った時と先程の攻撃には驚いたが、結果はこれだ……!」

 

 アナザーディケイドVEは自分の方が上であると高らかに言う。そして、ジオウⅡに更なる絶望を与えようとした。

 

「そして、お前からもらった傷も……!」

 

 傷に意識を集中させ、サイキョージカンギレードと両剣で斬られた時に屈辱を思い出す。その屈辱はアナザーディケイドVEの怒りを刺激し、アナザーディケイドVEの胸にある傷が瞬く間に治っていく。

 

「傷が……」

「見たか! 裏のライダーの王でも俺の力の前には無力!」

「それは、どうかな……?」

「何?」

 

 ジオウⅡの額にある針が回ると身体が光に包まれる。すると、胸にあった拳型の凹みが逆回しの様に膨らんでいき、最後には拳の跡が綺麗になくなってしまった。

 

「それは……まさか貴様、時間を巻き戻して……!」

 

 アナザーディケイドVEの指摘は正しかった。ジオウⅡは自分を限定にして時間を巻き戻すことで受けた傷を無かったことにして疑似的な回復を可能とする。

 ジオウⅡも傷を回復させることが可能となれば、アナザーディケイドVEが有利となる持久戦は意味が無くなる。相手を倒すにはお互いに回復する暇すら与えない必殺の一撃を叩き込むしかなくなった。

 

(だが、それでも勝つのは俺だ!)

 

 アナザーディケイドVEの肩装甲が剥がれ落ち、その下から肉が盛り上がってミサイルランチャーを形作る。

 四つの穴から飛び出る四本の生体ミサイル。全ての照準をジオウⅡに定め、ミサイルランチャーからミサイルを発射──することが出来なかった。

 

「またか!?」

 

 ジオウⅡが未来予測をし、不都合な未来を視たことでそれを書き換えたのだ。進むべき未来が無くなったことで本人の意思とは関係無く攻撃を強制的にキャンセルさせられ、アナザーディケイドVEに隙が生まれ、ジオウⅡに攻撃する余裕が生まれる。

 ジオウⅡは左腕を振り上げる。両剣の刃にマゼンタの輝きが灯る。

 

「たあっ!」

 

 投げ放たれる両剣。回転しながら飛んで行きマゼンタの輝きが時計盤を描く。

 アナザーディケイドVEは咄嗟にしゃがみ込むことによりそれを回避。間に合うかどうか際どいタイミングであったが、アナザーディケイドVEの能力の高さがそれを成功に導いた。

 頭上を通過していった両剣。だが、アナザーディケイドVEに安堵する暇など与えない。

 

『サイキョー! フィニッシュタァァイム!』

 

 その音声にアナザーディケイドVEはすぐさま顔を上げる。ジオウⅡが掲げる両手。その手には天を突く光刃を伸ばしたサイキョージカンギレード。

 

『キング! ギリギリスラッシュ!』

 

 アナザーディケイドVEの目掛けて振り下ろされる必殺の斬撃。

 

「させん!」

 

 ジオウⅡの最強の一撃に対しアナザーディケイドVEが行ったことは、素手によって光刃を受け止める真剣白刃取りという荒業。

 

「ぐうううううっ!」

「はああああ!」

 

 当然のことながら光刃に触れるアナザーディケイドVEの両手は焼けて溶け始める。しかし、それでもジオウⅡの光刃はそこから一ミリも押し込めずにいた。

 敵から与えられた痛みはアナザーディケイドVEの怒りへと昇華される。怒れば焼けていく掌も絶え間なく再生し続け、両腕に込められる力も増す。

 

「ふうううう……!」

 

 アナザーディケイドVEの両手が彼の激情を表すマゼンタと黒の光を発する。すると、サイキョージカンギレードの光刃に罅が生じ出す。

 アナザーディケイドVEの怒りが破壊者の力を増大させ、技ごとサイキョージカンギレードを破壊しようとしていた。

 

(このまま破壊してくれる!)

 

 両手により力を込めようとした時、アナザーディケイドVEは背中に強い衝撃と痛みを受けた。

 

「がはっ!」

 

 痛みで力が抜ける。その瞬間を狙ってジオウⅡがサイキョージカンギレードを押し込む。

 

「はあっ!」

「ぬうっ!?」

 

 それに押し負けたアナザーディケイドVEは、膝が曲がり片膝を地面に着けた体勢となる。

 

(一体何が起こった!?)

 

 背中に受けた攻撃は誰が放ったものか、それを調べる為にサイキョージカンギレードを斬撃を耐えながらアナザーディケイドVEは後ろを向く。

 

「こ、これは……!?」

 

 アナザーディケイドVEは背中に突き刺さる両剣を見て瞠目した。それは先程避けた筈のもの。しかし、アナザーディケイドVEはすぐに攻撃のからくりに気付く。

 

(しまった……! 時間を巻き戻せるのは奴自身だけでは無かったのか……!)

 

 アナザーディケイドVEの考えた通りである。ジオウⅡは両剣の攻撃が外れると同時に両剣の時間を巻き戻し、ブーメランの様に手元へ戻していた。しかもそれだけでなく、敢えて巻き戻す時間を遅くすることでサイキョージカンギレードとの連携をも行ってみせたのだ。それによりアナザーディケイドVEは無防備な背中を晒すこととなった。

 時間差攻撃によって体勢を崩されたアナザーディケイドVE。一度崩れたものを立て直せる程ジオウⅡは容易い相手では無い。このチャンスを逃すことなるサイキョージカンギレードを握る両手に全力を注ぐ。

 

「おおおおっ!」

 

 雄々しい叫びと共に今まで微動だにしなかったサイキョージカンギレードが押し込まれる。その覇気に呼応して光刃の輝きも増していく。

 

「ぐ、おおお……!」

 

 白刃取りする両手で押し返そうとするが、今度はアナザーディケイドVEの方が光刃を押し返すことが出来ない。斬撃の圧力によってアナザーディケイドVEの足元は割れ、砕け、地面に埋め込まれていく。

 一度決壊すれば後はどうしようもない。アナザーディケイドVEの両膝が折れた瞬間、地面に打ち込む様にサイキョージカンギレードの光刃が振り抜かれた。

 爆発と共に舗装の破片や大小様々な石、土が舞い上がり、サイキョージカンギレードが振り下ろされた地面には大きなクレーターが出来ていた。

 

「はあ……はあ……!」

 

 ジオウⅡはサイキョージカンギレードを杖にして体を支えながら片手を伸ばす。いつの間にかアナザーディケイドVEから抜け落ちていた両剣が時間逆行によってジオウⅡの手の中へと戻る。

 

「うう……」

 

 疲労感はまだ無い。体の痛みも無い。まだ戦える。しかし、それとは別のものがジオウⅡを苦しめる。

 ジオウⅡが苦しそうに呻くと、ジオウⅡの身体の黒い箇所が白い部分に侵食されて、白に塗り替えられていく。アナザージオウⅡアーマーも変化し、白く変色した箇所に装甲が追加される。

 アナザージオウⅡアーマーを纏う時間、そして能力を発動する度に中のソウゴの心に憎悪が湧いて来る。

 

『あいつは多くの人達を苦しめた……!』

『あいつはもっと苦しむべきだ……!』

『スウォルツを殺せ! 殺すんだ! その最期が相応しい!』

 

 自分の声をした幻聴が聞こえ出す。どれもこれもがソウゴなら絶対に言わない台詞ばかり。

 心を強く保とうとするが、その幻聴を振り払うことが出来ない。

 白く染まる体とは反対にその心はどす黒く染め上げられていく。

 

「俺は……!」

 

 正気を奪おうとするアナザージオウⅡの力にジオウⅡは振り払おうとする。しかし、それがいけなかった。そのせいでジオウⅡはアナザーディケイドVEから意識を離してしまう。

 不意にジオウⅡは足首に圧迫感を覚えた。視線を下ろすと地面から出た手がジオウⅡの足首を掴んでいる。その手は見間違うことなくアナザーディケイドVEのもの。

 

「しまっ──」

 

 地面を突き破ってアナザーディケイドVEが現れ、ジオウⅡは片足を持たれて逆さ吊りにされる。

 

「油断したなぁ!」

 

 サイキョージカンギレードによって地面へ埋め込まれたかと思われた。しかし、アナザーディケイドVEは地中に埋め込まれた状態で密かに穴を掘り、ジオウⅡの足元まで掘り進めていた。

 アナザージオウⅡの干渉を振り払うことに意識を向けていたジオウⅡは、未来予測を行ってしまった為にまんまとアナザーディケイドVEに掴まってしまう。この状態では未来改変も出来ない。変えられるのは未来予測をした範囲内、既に起こったことは変えられないのだ。

 ジオウⅡはすぐにアナザーディケイドVEの次なる行動を予測しようとする。

 

「うっ!」

 

 しかし、その途端頭の中でノイズと痛みが走り、未来予測で視えるべき未来を消し飛ばす。アナザーディケイドVEが触れていることで彼の破壊の力が未来予測を妨害していた。

 

「ふん!」

 

 アナザーディケイドVEはジオウⅡをものの様に地面へ叩き付ける。

 

「がはっ!」

 

 背中から凄まじい勢いで叩き付けられたジオウⅡ。臓器が貫かれる痛みを覚え、肺が衝撃を受けて息を絞り出さされる。

 

「はあ!」

 

 持ち上げてもう一度地面へ叩き付けるアナザーディケイドVE。

 

「ぐあっ!」

 

 二度目の衝撃でジオウⅡは、サイキョージカンギレードと両剣を手放してしまう。

 

「まだだ」

 

 加虐心に満ちた声と共にジオウⅡの胸に五指を当てるアナザーディケイドVE。指先に黒が混ぜられたマゼンタ色の輝きが放たれると、同時に五指から光弾が発射された。

 

「うああああっ!」

 

 密着状態で撃ち込まれる光弾。ジオウⅡの身体を容赦無く傷付け、痛めつける。

 

「ふはははははは!」

 

 その叫びを心地良く感じながら先程やられた鬱憤を晴らすアナザーディケイドVE。

 掴んでいる手を振り解こうとするが、アナザーディケイドVEの指が食い込んで離れない。

 絶え間なく撃ち込まれる光弾によってジオウⅡの意識がどんどんと薄れていく。

 アナザーディケイドVEの笑い声も攻撃の音も遠くの様に聞こえる。攻撃の激しさとは裏腹にジオウⅡは静寂を感じていた。

 しかし、不思議なことに身近な音が遠くなる一方で段々と聞こえて来るものがある。

 

『嫌だ! 嫌だぁぁぁ! 誰か助けてぇぇぇ!』

『お父さん! お母さん! どこ! どこなの!』

『助けて……助けて……』

『頼む! 誰か手伝ってくれ! 子供が!』

『止めてくれ! 止めてくれぇぇぇ!』

 

 人々の悲痛な叫び。助けを求める声。理不尽な現実に絶望する声。十人、二十人で済む数では無い。何百、何千もの声が哀しみに染まっていた。それだけではない。今日に至るまでに彼が見て来た人々の苦しむ姿や犠牲者の姿が頭の中で浮かび上がっていく。

 常磐ソウゴが王様になろうとしたのは、全ての人々に幸せになってほしいからである。皆に幸せでいてほしい、その為に王様になって皆の幸せを守ろうとしていた。

 しかし、今起こっているのはそれとは真逆の事態。全ての人々が不幸によって嘆いている。

 一体誰が人々を傷付ける。一体誰が人々を悲しませる。一体誰が人々を不幸にする。

 答えは、すぐ目の前にある。

 

「──お前か」

「うん?」

 

 アナザーディケイドVEは最初、第三者がこの場に現れたのかと思った。だが、違っていた。

 

「お前のせいか……!」

 

 憤怒と憎悪に染まる声がジオウⅡから発せられと知った時、心底驚いた。

 その直後、ゴキリという音が鳴り少し遅れてアナザーディケイドVEの顔面に衝撃が走る。

 蹴られた、と感じると同時に手の力が緩んでジオウⅡを放してしまった。

 

「くっ……! まだ抵抗を──」

 

 アナザーディケイドVEの言葉はそこで中断される。目に入った光景に思わず言葉を詰まらせてしまったからだ。

 幽鬼を彷彿とさせるジオウⅡの体勢。脱力感すら覚える程に力無き構えであった。注目すべきは先程までアナザーディケイドVEが掴んでいたジオウⅡの足。向きが百八十度変わっており踵が正面を向いている。

 可動域を完全に超え、足首の骨が破壊されているのが一目で分かる。同時にあの時に聞こえた音は足首の破壊音であり、ジオウⅡが自らそれを行い、骨折も厭わずにアナザーディケイドVEを蹴り付けたことを理解した。

 

「スウォルツ……!」

 

 ジオウⅡから発せられる声にアナザーディケイドVEは背筋が凍り付くのを感じた。今までの人生で浴びせられたことの無い凝縮された殺意。

 ジオウⅡが足のことなど気にせずに一歩踏み出す。脚を上げ、足裏が地面に着く間に時間を巻き戻して傷を無かったことにしてしまう。

 

「スウォルツゥゥ……!」

 

 憎しみに満ちた声で名を吐かれる度にアナザーディケイドVEは寒気を覚え、足が後ろに下がりそうになる。加古川飛流の憎悪と復讐に満ちた声よりもジオウⅡの声の方が恐ろしく感じていた。

 ある意味では当然なのかもしれない。ソウゴはこの期に及んでもスウォルツを倒すつもりだけで死に至らしめることは考えていなかった。スウォルツのしでかしたことを考えれば甘すぎる判断である。しかし、彼の中の理性が一線を超えない様にブレーキを掛けていた。だが、そのブレーキもアナザージオウⅡウォッチによって緩み、スウォルツの所業を目の当たりにして完全に壊れてしまう。

 全ての人々の幸福を願う青年の心が反転し、たった一人の男の死と絶望を願う。

 常磐ソウゴという青年が初めて抱く殺意。アナザーディケイドVEはそれに気圧されていた。

 

「そんな馬鹿なことが……!」

 

 自分がジオウⅡを恐れていることなど認めず、自らを奮い立たせる様に拳を握ると、ゆっくりと近付いて来るジオウⅡへそれを放つ。

 ジオウⅡは自分から踏み込み、拳の側面へ移動する。未来予測による先読みで簡単に回避した。アナザーディケイドVEもそれを想定しており、ジオウⅡが避けると同時にもう一つの拳を固める。

 だからこそ、次のジオウⅡの行動はアナザーディケイドVEにとって予想外のことであった。

 拳の側面へ移動したジオウⅡはその手を掴まない。口部を覆う歯牙型のマスクが開き、アナザーディケイドVEの手首に噛み付く。

 

「──なっ」

 

 何が起こったのか理解するまでの反応が遅れた。現実を認識出来たのは腕から脳へ肉と骨が噛み潰される痛みが伝わった時であった。

 

「ぐあああああっ!」

 

 ジオウⅡを振り払おうとするがジオウⅡの歯はしっかりと食い込んで離れない。肉食獣の持つ牙の様な鋭さは無く、人と同じ形をした歯である為ギリギリと肉と骨を押し潰していく。

 

「離せ! 離せぇぇ!」

 

 アナザーディケイドVEがジオウⅡの顔面を殴打するがジオウⅡの咬合力は弱ることは無い。寧ろ強くなっていく。

 何度も何度も殴りつけるがその度に時間が遡ってジオウⅡは殴打の跡を治してしまう。

 次第に肉が潰れる音から骨に罅割れる音へ変わっていく。

 

「ぐううううう!」

 

 ジオウⅡの頭を鷲掴みにし、押し放そうとする。しかし、ジオウⅡの力はアナザーディケイドVEと互角以上でありビクともしない。

 ジオウⅡは鷲掴みにされる中、左眼に収まっている『ZIーOⅡ』を眼球の様にギョロギョロと動かす。

 動く『ZIーOⅡ』とアナザーディケイドVEの目が合う。蛇に睨まれた蛙の様に体が硬直する。アナザーディケイドVEはこんなことはあってはならないと思った。王になる運命を持つ自分が、偽りの王として祭り上げたジオウⅡに恐れを抱くことなど断じて間違っている。

 しかし、その思いとは裏腹にアナザーディケイドVEの体は動かない。そして──

 

「ぐああああああっ!」

 

 骨の砕ける音と重なる様にアナザーディケイドVEが絶叫を上げる。ジオウⅡが噛み付いている手首から先が力無く垂れる。ついにジオウⅡがアナザーディケイドVEの手首を嚙み砕いてしまった。

 アナザーディケイドVEを襲うのは紛れも無い苦痛だろう。その証拠にアナザーディケイドVEは喉が裂けそうな程の声を上げている。しかし、ジオウⅡは許さない。そんな程度でアナザーディケイドVEの罪は許されない。こんなものは罰にもならない。

 ジオウⅡはアナザーディケイドVEの手首を嚙んだまま首を動かす。

 

「なっ!?」

 

 首の力だけでアナザーディケイドVEの足は地面から離れ、そのまま地面へ叩き付けられた。

 

「がはっ!」

 

 背中を突き抜ける衝撃。それにも痛みを覚えるが、折れた手首を振り回される激痛がそれを塗り潰してしまう。

 ジオウⅡは首を振ってまたアナザーディケイドVEを地面に叩き付けた。自分がやられたことをやり返す様に。ただし、アナザーディケイドVEが行ったことよりも遥かに容赦が無い。

 

「ぐあっ!」

 

 三度目の衝撃。手首が捻じれ、元とはかけ離れた形に変形する。痛みも激し過ぎるせいか逆に感覚が麻痺してきた。

 ジオウⅡが首を回す。アナザーディケイドVEは四度目の叩き付けを覚悟したが、ジオウⅡは首を下から上に向けて振るうと歯を離す。

 地面ではなく宙へ投げ放たれるアナザーディケイドVE。ジオウⅡはそれを射殺す様な目で睨みながらジクウドライバーとウォッチを操作。

 

『ライダーフィニッシュタァァイム!』

『ジオウⅡ』

 

 ジオウⅡがアナザーディケイドVEを追って跳躍。アナザーディケイドVEへと追い付くとその喉に左足を打ち込む。

 

「ぐっ──」

 

 喉への蹴撃で苦鳴すら上げることが出来ないアナザーディケイドVE。ジオウⅡの攻撃はそこで終わらない。

 

『アナザー!』

 

 金、マゼンタ、黒、白が混じり合った光がジオウⅡの右足から放たれる。ジオウⅡは振り上げていた右足をアナザーディケイドVEの首裏目掛けて振り下ろす。

 

「──ッ!」

 

 両足で前後から挟まれ、アナザーディケイドVEは声一つ発することが出来ない。

 ジオウⅡは足でアナザーディケイドVEの首を挟んだまま落下。アナザーディケイドVEはジオウⅡが何をしようとしているのか察して藻掻くが、足が外れることは無かった。

 罪人を裁く方法は古来より決まっている。それはアナザーディケイドVEの為に用意された断頭台。王すら屠る処刑の一撃。

 

『トゥワイスタイムブレーク!』

 

 ジオウⅡが左足の踵から地面に衝突。アナザーディケイドVEは、首を両断されかねない衝撃を受ける。

 陥没した地面の上で横たわるアナザーディケイドVE。致命的な一撃のせいで体が上手く動かない。

 ジオウⅡは物の様にアナザーディケイドVEを蹴り飛ばし、仰向けにさせる。

 アナザーディケイドVEは勘違いをしていた。本当の罰はここからである。

 

『ライダーフィニッシュタァァイム! ジオウⅡ』

 

 動けないアナザーディケイドVEを見下ろしながらジオウⅡは無慈悲にその音声を鳴らすと──

 

『アナザー! トゥワイスタイムブレーク!』

 

 ──アナザーディケイドVEの顔面を容赦無く踏み砕いた。

 

『ライダーフィニッシュタァァイム! ジオウⅡ』

「──ッ!?」

 

 アナザーディケイドVEは目の前の光景に驚いた。確かに頭部を踏み砕かれたかと思ったら、その前の光景に戻っていたからだ。

 幻──などでは断じてない。頭蓋がひしゃげる感覚も、中身が潰れていく感覚も鮮明に覚えている。

 幻でないとしたら──

 

『アナザー! トゥワイスタイムブレーク!』

 

 アナザーディケイドVEの顔面がまた踏み砕かれた。

 

『ライダーフィニッシュタァァイム! ジオウⅡ』

 

 またも巻き戻される光景。アナザーディケイドVEは確信する。踏む砕くと同時にジオウⅡが時間を巻き戻していることに。

 何故そんなことを──

 

『アナザー! トゥワイスタイムブレーク!』

 

 アナザーディケイドVEの顔面は──

 何度も何度もそれは繰り返される。

 

『この男のせいでこの国の人たちが苦しんだ。一億回死ね』

『いや、この男のせいで世界の人たちが苦しんだ。七十億回死ね』

『違う。この男のせいで異なる二十の世界の人たちも苦しんだ。一千四百億回死ね』

 

 一度などでは済ませない。数え切れない程の時間を掛けてアナザーディケイドVEの肉体も精神も磨り潰していく。

 そこには無慈悲な蹂躙を繰り返す覇王の姿があった。

 

 

 ◇

 

 

「──何だ?」

 

 タイムマジーンの中でゲイツリバイブは寒気を感じる。まるで、オーマジオウと対面した時の様な感覚であった。

 

「ジオウ……!」

 

 すぐにソウゴの身に何かがあったのを察し、ゲイツリバイブはタイムマジーンを駆ってソウゴの許へ飛ぶ。

 ほぼ同時刻。ツクヨミと飛流の手当てを終えたウォズも異様な気配を感じ取っていた。

 

「この気配は……我が魔王?」

 

 恐ろしさと冷たさを感じさせる覇気にウォズは冷や汗を流す。間違いなくソウゴの身に何かが起きている。

 

「ウォズ……」

 

 目を覚ましたツクヨミがウォズへ声を掛ける。

 

「ツクヨミ君! 意識を──」

「私を……ソウゴの所へ……!」

「馬鹿なことを……君の怪我は浅くは無いんだ」

「お願い、ウォズ……! 私は後悔したくないの……!」

 

 ツクヨミの必死の懇願にウォズは──

 

 

 ◇

 

 

 不意に踏み下ろされる足が止まる。数え切れない程の死を経験したアナザーディケイドVEは突然のことに解放感よりも戸惑いを覚えた。

 ジオウⅡが何故か離れていく。アナザーディケイドVEはその隙に立ち上がるが体が思う様に動かない。

 体の治りも遅い。それはアナザーディケイドVEの内に激情が無いことを意味する。要するにアナザーディケイドVEは度重なるジオウⅡの暴行によってトラウマを抱き、恐れが怒りの感情を上回っている状態なのだ。

 

「ここから、早く──」

 

 アナザーディケイドVEの体が一瞬震える。目線を下げるとアナザーディケイドVEの両大腿に時計の針を模した剣が突き刺さっている。それがアナザージオウⅡの両剣を分割した物であり、今さっきジオウⅡが投擲した。

 

「がっ!?」

 

 脚に力が入らなくなりアナザーディケイドVEは前のめりの体勢になる。首を垂れるその姿は処刑前の罪人を彷彿とさせた。

 ジオウⅡのサイキョージカンギレードを引きずりながらアナザーディケイドVEへ近付いていく。

 最強の王者の剣が断罪の処刑剣へと成り下がろうとしていた。

 ジオウⅡがアナザーディケイドVEの傍に着くと徐にサイキョージカンギレードを振り上げる。

 狙うはその首。何度でも何度でも断つ為の最初の一撃。

 

「ジオウ!」

 

 叫びが頭上から聞こえ、振り下ろす手を止めてジオウⅡは空を見上げる。タイムマジーンが通り過ぎて行く間際、中からゲイツリバイブが飛び出してジオウⅡへ飛び掛かる。

 

「止めろ!」

 

 ジオウⅡに組み付いて地面を転がっていき、ゲイツリバイブが上に乗った状態で止まる。

 ジオウⅡはサイキョージカンギレードでゲイツリバイブを引き離す──ことはしなかった。ジオウⅡの憎悪の矛先はあくまでアナザーディケイドVEのみ。他者へ向けることはしない。

 

「お前の気持ちが分からない訳でもない! だが違うだろ! こんなのはお前じゃないだろう!」

 

 ゲイツリバイブは叫ぶ。ジオウⅡの正気を取り戻させる為に。

 

「お前が目指す王は、こんなつまらないことをしない!」

 

 常磐ソウゴが王になると信じているからこそゲイツリバイブは止める。間違った道を進もうとする彼を正すことが自分の使命だからだ。

 

「ゲイ、ツ……」

 

 ジオウⅡはサイキョージカンギレードから手を離し、ジクウドライバーに触れる。そのままジクウドライバーを外して変身を解除した。

 

「ごめん……ありがとう」

「……それでいい」

 

 ゲイツリバイブはソウゴから離れ、ソウゴが立ち上がろうとするがふらついて尻餅を突いてしまう。アナザージオウⅡアーマーの反動は思っていた以上に凄まじくソウゴはかなりの消耗をしていた。

 

「少しそこで休んでいろ。休む時間くらいは──俺が稼いでやる」

 

 ゲイツリバイブはのこモードのジカンジャックローを構えながらアナザーディケイドVEを睨む。

 

「く、くく、馬鹿な、奴め……! あのままでいたら俺に勝っていたかも、しれないというのに……!」

 

 ジオウⅡが居なくなったことで調子を取り戻したのかアナザーディケイドVEは傷を修復しながら立ち上がる。

 相手もゲイツリバイブのみ。立場が逆転したことで燻っていた感情に火が灯り出す。

 

「お前らなど──ぬうっ!?」

 

 突然、アナザーディケイドVEの目の前に大量の白い羽根が舞う。振り払っても振り払っても纏わり付き、アナザーディケイドVEの視界を奪う。

 

『アーマーターイム!』

『ADVENT ファム!』

 

 アナザーディケイドVEの視界を飛ばしていた羽根が消えるとゲイツリバイブの隣にツクヨミが立っていた。しかし、その姿は今まで見た事のないアーマーを纏っている。

 右肩に白鳥の頭部を模した肩装甲。左肩には白い外套が付けられた肩装甲を纏っている。西洋騎士の甲冑を彷彿とさせる白い装甲を装着し、三日月の仮面に『ファム』の文字が填め込まれた姿──仮面ライダーツクヨミファムアーマー。

 

『ツクヨミ!』

「ソウゴ、ゲイツ……後でちゃんと謝るわ。でも、今だけは一緒に戦わせて……ウォズ、ソウゴのことをお願い」

「……ああ。任せてくれ」

 

 ソウゴの隣にはいつの間にかウォズが立っている。その肩に飛流を担いだ状態で。

 

「ひ、飛流!? どういうこと!?」

 

 説明を求めるソウゴであったが、ウォズがそれを止める。

 

「我が魔王、今は休むことに集中してくれ……そして、覚悟をしておいてくれ。この先、君にとって大きな選択が待っている」

「選択……?」

「その時が来れば分かるさ……」

 

ウォズの言葉で未来の世界で告げられたオーマジオウの言葉が過る。

 

(俺は……)

 

 

 ◇

 

 

「出来た!」

 

 順一郎は思わず叫んだ。やっと全てのライドウォッチの修理が終わったのだ。

 後はこれをソウゴに届けるだけ。そう、怪人たちや怪物たちが跋扈する街の中でソウゴを探すのだ。

 順一郎は唾を呑み込む。だが、すぐに覚悟を決めて全てのライドウォッチをケースの中に仕舞い込み、勢いのままクジゴジ堂から出ていく。

 静かになるクジゴジ堂内。すると、軋む音と共に誰かが階段を下りて来る。

 

「全く無謀だね……」

 

 順一郎の行動に呆れた表情を浮かべるのは怪我で今まで意識を失っていた海東であった。

 しかし、このまま放っても目覚めが悪いし、一応怪我を治療してもらったという借りがある。

 海東は溜息を吐くと白ウォズの未来ノートを取り出してそこに文字を書き込む。

 

「これで貸し借り無しだ。──この世界で僕がやることも終わりかな?」

 

 未来ノートをひらひらと振る。そこに書き込まれた文章はこうであった。

 

『常磐順一郎、怪人や怪物に襲われることなくライドウォッチを無事に常磐ソウゴへ送り届ける』

 

 

 




暴走させ過ぎたかなと思いましたが、ソウゴの慈悲深さの反動とそれだけスウォルツが罪深いことをしたということで。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ
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