仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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Over Quartzer その10

 頭の中で無数の声が聞こえて来る。

 

『お前ら作るの大変だったんだよなァ……だからさ、可愛いんだよ。……本当だぞ』

 

 創造物に対し本物の愛情を抱きながらも、その存在を完璧に葬り去ろうとする殺意。矛盾した感情を抱きながら戦い続ける野生の男の記憶。

 

『守りたい物は守る。人でもアマゾンでも。僕が狩るのは、アマゾンだけとは限らないって事だっ!』

 

 守ること、狩ること。己の声、己のエゴに従い果てなく戦うかつて養殖であった男の記憶。

 

『アンタは五手で詰む……』

 

 生を奪われ、死して尚その死すら奪われ、生物兵器と成れ果てた男の記憶。

 

『草食の肉は、やめられねぇぜ!』

 

 人を超えた存在でありながら、醜さと傲慢さも人を超えた或いは畜生となった男の記憶。

 

『俺は最後まで生きるよ!』

 

 その生は望まれず、その死を望まれたが最期の瞬間まで愛する者と生きることを諦めなかった少年の記憶。

 ライドウォッチを通じてザモナスへ入り込んで来る歴史。膨大な量の歴史はザモナスの頭の中に無理矢理入り込んで来る。

 歴史の一つ一つに色に例えたとすると、混ざれば混ざる程の元の色から遠ざかっていく。赤、緑、銀、深緑、青を全て混ぜ合わせればどす黒い色にしかならない。

 そのどす黒い色は確実にザモナスの人格を塗り潰していく。時が経てば全てが黒く塗り潰され、廃人と化す。SOUGOが五個目のライドウォッチを同時使用させることを禁じた理由がこれである。

 

「ああぁ……」

 

 鬼気迫る様子で宣言するゲイツを前にして、ザモナスは気の抜けた声が上げられた。

 彼の脳内ではライドウォッチの同時使用が深刻な影響を与えており、まるで走馬灯の様にライドウォッチに宿ったライダーたちの記録を流されていく。ただ記憶を流すだけではない。その記録の中で起こった全てのことが五感全てのを刺激してザモナスに伝えて来る。

 今の彼は五人の仮面ライダーたちが実際に味わった記憶を体感しているのだ。

 現実の時間にすれば刹那のこと。しかし、彼の頭の中では年単位の時間が進んでいた。

 全てを経験し終えたザモナスは、ケタケタと笑う。ライドウォッチの膨大な記憶によって狂気に陥った──

 

「やっぱり、これぐらい頭の中がぐちゃぐちゃにならないとねぇ……じゃないと歴史を背負った重みが感じられない」

 

 ──訳では無い。人格の崩壊に抗いながら、それを楽しんでいる様子さえある。それはライドウォッチの使用によって生じた狂気なのか、それとも元からザモナスに備わっていた狂気なのかは分からない。

 ただ、確実に言えるのはこの戦いの最中にザモナスが壊れることは無い、ということである。

 一度は我を忘れて人を食べたいという衝動に駆られる程の空腹感、飢餓感に襲われたが、今はそれほど感じない。空腹感、飢餓感が完全に消えた訳では無い。死人に等しい体と成るシグマライドウォッチの影響もあるが、それを超える戦いへの高揚、好敵手との死闘が心を満たされ、それらを紛らわせてくれる。

 限界は近い筈なのに心を折らすことなくファイティングポーズをとり続けるゲイツにザモナスは指招きをする。

 

「来なよ。時間、あんまりないよね?」

 

 言われるまでも無い、と言わんばかりにゲイツは行動を開始。赤い粒子を散らして高速移動による不可視状態へ入る。

 表面上は分からないが、ザモナスの複眼は消えたゲイツを追って目まぐるしく動いていた。

 四個のライドウォッチ同時使用の時よりも感覚が鋭敏になっており、追うことも反応することも出来なかったゲイツの動きを朧気ながらも把握することが出来ている。

 だが、ザモナスは突如として両腕をだらりと下げ、ノーガード状態となる。明らかに攻撃を誘う為の構え。しかし、完全に反応し切れていない今そんなことをするのは無謀な試みであった。

 ゲイツの方も警戒しているのか、ノーガード状態のザモナスに中々攻撃して来ない。

 ザモナスの方は攻撃して来ないゲイツを挑発する様に、『スーパーのこ切斬』によって出来た胸部装甲に薄っすらと残る傷を指先で掻く。

 ゲイツもあまり時間を掛けられる状態では無い。死に等しい状態から瞬時に復活したザモナスは脅威かもしれないが、攻撃しなければ何も始まらない。

 意を決したゲイツはザモナスの側面へ回り込み、丸鋸を顔側面目掛けて突き出す。丸鋸がザモナスへ触れる刹那、ザモナスの目線が横に向けられたのをゲイツは感じた。

 見えている、とゲイツは感じたがその予想に反してジカンジャックローの丸鋸は簡単にザモナスの頬へ突き刺さった。

 このまま殴り抜ける、と思ったがザモナスは首のみの力でジカンジャックローの一撃を受け切り、それどころか止めていた。

 頬の装甲が削られようともお構いなしに耐えるザモナス。

 ゲイツの見立てでは今のザモナスはゲイツの動きをある程度見えていると思っていた。しかし、現実は呆気無く攻撃が突き刺さっている。

 ゲイツはこの事に違和感を覚えた。

 

(何故耐える? 何故受ける? 何が狙いなんだ……?)

 

 ザモナスの反応速度を考えれば、遅くとも頬に僅かでも触れた瞬間には首を回すなどしてゲイツの攻撃を受け流すことが出来た筈。それなのにザモナスは真逆の行いをしている。

 何か危うい。直感でそう判断したゲイツは殴り抜けるのを中断し、ゲイツから離れようとする。その瞬間、ボキリという嫌な音が響いた。

 ゲイツの攻撃の重みで負荷が掛けられていたザモナスの頸椎が折れる音だというのがゲイツには一瞬分からなかった。人生に於いて他人の首が折れる音を聞くことなど一度あるだけでも稀。ましてや、それが自分の行いによって起きたことだとすれば更に稀である。

 どんなに覚悟を決めていようとも未知なる感触と経験には一瞬動きが止まってしまう。

 

「がはっ!」

 

 ゲイツはこめかみに衝撃と痛みを感じ、高速移動が解けて地面へ倒れ伏す。

 ズキズキと痛む側頭部。脳が揺らされ視界が回り、吐き気と眩暈を覚える。

 殴られた、とゲイツは感じた。何がどうなり、どう攻撃されたのかが分からずゲイツは視線をザモナスの方へ向ける。

 ザモナスの顔は正面を向けられたままであったが、その体は百八十度向きが変わっており、顔のすぐ下が背中になっている。

 頸椎が折れた状態でザモナスは鉤の様に曲げた左腕を持ち上げていた。その体勢でザモナスが何をしたのかが推測出来る。

 この男、避けられる攻撃を敢えて受けることでほんの僅かでもゲイツの動きを鈍らせながら、その打撃によって生じる力を溜め込み、頸椎が折れることによって溜め込んだ力を解き放ち、相手の力と自分の力を合わせたカウンターの肘をゲイツに叩き込んだのだ。

 攻撃直後のタイミング。更にゲイツがザモナスの首を折ったことで生じた動揺。その二つが合わさり、完璧に入ってしまった。

 だが、これをゲイツの油断を責めるのは酷というもの。どの世界に自分の首をへし折って反撃する者が居るだろうか。

 ほぼ限界を迎えているゲイツにとって、先程のザモナスのカウンターは重く響く。立ち上がろうするが、膝が笑って中々立ち上がれない。この間にもゲイツに残された時間は消費されているというのに。

 

「いい一撃だったろ?」

 

 立ち上がろうとするゲイツを見下ろしながらザモナスが言う。首が百八十度向きが変わっているせいで声が掠れている。

 ザモナスは両手で頭を掴むと、折れた首を捻って元の位置へ戻す。

 

「これで元通り……あれ?」

 

 体の向きと顔の位置は合っているのにザモナスの声は変わらず掠れている。よく見るとザモナスの首に捩じれが生じ、皺が段々となっている。

 ザモナスは百八十度向きが変わった首を直したのではない。そこから更に百八十度捩じって三百六十度にしたのだ。だから元に戻っている様で戻っていない。

 

「間違えちゃった」

 

 ザモナスが頬を叩くとグルンと首が一回転し、今度こそ元に戻る。ゲイツはその異常な光景を終始無言で見ていた。

 間違えたと言っていたが、白々しく誰がどう見てもわざとやったのだと分かる。ならば、何故ザモナスはそんな真似をしたのか。

 答えは一つ。ゲイツに見せつける為である。自分の体がここまでの再生が可能であるということを、不死身に近い体を持つことを身を以って証明したのだ。

 それは、ゲイツへの挑発とプレッシャーを与えるという二つの意味を持つ。

 悔しいことだが、それは少々なりとも焦りを生じさせたのを認めざるを得ない。

 

「……つまらん冗談だな」

 

 ゲイツは吐き捨てながらやっと立ち上がる。体が酷く重い。時間が経過していく毎に手足に重石を付けられていっている気分である。

 

「そうかい? 結構受けそうだと──」

 

 ザモナスの無駄話に付き合うつもりは無かったゲイツは、会話の途中で既に動いていた。

 真紅の残像で軌跡を描き、立っているザモナスにジカンジャックローの爪を振るうが──

 

「なっ!?」

 

 攻撃は空振り。そこに立っている筈のザモナスが居ない。何処にいるのか探す前にゲイツの鳩尾に衝撃が突き抜け、ゲイツは真上に飛ぶ。

 呼吸が出来ない状態でゲイツは見た。真下で右足を高々と上げているザモナスを。

 ザモナスはゲイツを仰向けで見上げている。片足のみで地面と平行になっている体を支え、尚且つゲイツの体を数十メートルも蹴り上げた。

 ゲイツを追ってザモナスも跳躍する。

 

「ぐるおああああああああ!」

 

 理性を全て捨て去った様な野生の叫びを上げ、最高点から落下してくるゲイツに手刀を伸ばす。

 

「おおおおっ!」

 

 ゲイツもその叫びを打ち消す様な声を上げ、背部の翼によって空中を水平移動して手刀を躱し、そのまま突っ込んで来るザモナスの顔に反撃の丸鋸を叩き込む。

 

「がっ!?」

 

 だが、苦鳴を上げたのはゲイツであった。ゲイツの脇腹には深々とザモナスの拳がめり込んでいる。攻撃を受けた直後のザモナスの更なる攻撃に今度は躱すどころか完全に意識の外であった。

 攻撃した瞬間、攻撃側の防御は最も疎かになる。それを狙ってのザモナスのカウンター。

 通常ならば痛みに反応して肉体が委縮し、コンマ数秒だろうと動きが鈍る。しかし、今のザモナスには痛みへの恐れなど皆無。簡単には死なないという特性が攻撃を受けた直後の反撃を可能とさせた。

 しかし、今のゲイツもそれが分かっていても攻撃の手は緩めない。彼には勝つという明確な意思がある。ここで臆する男ではない。

 落下から着地までの十秒にも満たない間。ゲイツとザモナスは落ちながら攻防──ではなく防御を完全に捨てた壮絶な攻撃の応酬を始める。

 

「うおおおおおっ!」

「るああああああああっ!」

 

 殴れば殴られ、蹴れば蹴られ、斬り裂けば斬り裂かれる。相手に刻んだ傷が自分へと刻まれていく。

 ただ、ゲイツに刻まれた傷はそのまま。ザモナスの傷は別の傷が生じる前に治ってしまう。どちらが有利かは明白であった。

 生の限界、死の底が見えないザモナスの体。それでもゲイツは止まることなく攻撃を続ける。

 ジカンジャックローの爪をザモナスの喉元目掛けて突き出す。爪が貫くかと思いきや、ザモナスの掌がその前に翳され、爪はザモナスの喉の代わりに掌を貫いた。

 ザモナスはジカンジャックローを掴むと同時に手首を捻る。掴まれているジカンジャックローに連動してゲイツの手首も強引に捻られた。

 ザモナスの手の甲から伸びるジカンジャックローの爪先がゲイツの方へ向けられるとザモナスは手を前に出し、爪先をゲイツの肩へ突き刺す。

 

「気付いてる?」

 

 野生を抑え、理性を戻したザモナスの声。

 

「君のパワーとスピード、最初の時から落ちてるよ?」

 

 ゲイツを下にした状態で地面に着地。その際にザモナスは膝を胸部に押し当てていたのでゲイツは呼吸が出来なくなる。刺さっていた爪も落下の衝撃でより深く刺さる。

 

「力っていうか命が尽き懸けているのかな? なら──」

 

 上手く動けないゲイツに馬乗りになっているザモナスが拳を振り上げる。

 

「その前に俺が殺してあげるよっ!」

 

 マウントポジションから振り下ろされるザモナスの拳がゲイツの顔面に叩く。攻撃は一度では止まらない。拳、鉄槌、掌打。殴る手の形を変えながらゲイツの顔を何度も何度も繰り返し殴打する。

 一撃でも頭の原形が変わりそうな衝撃だというのに、それが何度もゲイツの頭部を襲う。

 最初のうちは痛みを感じていたゲイツであったが、段々と痛みを感じなくなっていく。それどころか意識が遠のいていくのが分かった。

 

(これは……不味い……)

 

 このまま何もしなければザモナスに殺される。だが、ゲイツの意志に反して体は動かない。

 剛烈疾風の消耗、怪我、ダメージ。それらがゲイツから抗う力を奪ってしまう。

 殴られ続けながらまだ動ける箇所を探るゲイツ。左腕は爪が刺さったことで動かない。両足も落下の衝撃のせいで力が入らない。

 右腕は──右腕は動く。

 それだけ確認出来た時、衝撃の後に強い圧迫感が胸へ圧し掛かる。馬乗りになっていたザモナスが片足でゲイツの胸を踏み付け、地面へ固定している。

 止めを刺そうとしているのが分かった。

 

「これで終わり。さよなら、ゲイツ君」

 

 惜別の言葉を送った後、ザモナスはジクウドライバーにセットされたライドウォッチのスイッチを押す。

 

『フィニッシュタァァイム! ザモナス!』

 

 ザモナスが徐に右腕を持ち上げる。腕には三つ連なるヒレ状のカッター。それに罅が入り、先端が独りでに欠けると欠けた部分から大量の黒い液体が噴射する。

 ザモナスにとって血液に等しいそれだが、今の彼はそれを無限に生み出すことが可能なので失血による死は無い。

 数メートルの高さまで噴射した黒い液体は硬化。それによりザモナスは右腕に長大な刃が生える形となる。

 

『タイムブレーク!』

「楽しかったよ」

 

 長大な刃はゲイツの首を斬り落とす処刑剣となって振り下ろされる。

 この瞬間、ゲイツは唯一動かせる右腕を使い、ジカンジャックローのスイッチを押す。

 

『のこ切斬!』

 

 回転する丸鋸を地面に押し当て、それを車輪代わりにしてザモナスの足元から疾走する。

 ザモナスはゲイツの咄嗟の行動に驚かされるが、外れると分かっている攻撃を中断することは出来なかった。

 せめてその両脚を切断しようとするがゲイツの動きの方が一歩早く、ゲイツの足底に僅かに刃が掠る程度であった。

 空振りした刃は、地面を横にも縦にも深々と裂き、どれだけの威力があったのかを物語るが裂くべき相手がいなければ何の意味も無い。

 止めの一撃であり、確実に刎ねる為に大振りになってしまったことでゲイツが脱する機会をみすみす与えてしまった。

 これはザモナスの失敗であると同時にゲイツの執念が噛み合ったことでの回避である。

 

「うっ……! ぐっ……! 動、け……!」

 

 ザモナスから数十メートル離れた位置でゲイツは止まり、立とうとする。全身に力が入らない。剛烈疾風の際に放っていた赤い輝きは大分薄れ、体の各部から放出される赤い粒子の量も減っている。

 ゲイツの時間も終わりが見えてきた。それにより無理矢理引き出していた力も速度も出せなくなっている。正確にはこれ以上の消耗は危険と判断したゲイツの生存本能が無意識に制限を掛けている状態であった。

 見えない鎖を全身に巻かれ、地面に引き摺り倒されそうになっている気分である。そうなれば楽なのかもしれない。だが、ゲイツはそんな解放など望んでいない。

 

「おおおおおっ!」

 

 真っ直ぐ立つことが出来たのは、ゲイツの並外れた精神力によるもの。しかし、フラフラと体は揺れており、今にも倒れそうな状態である。

 肉体は膨大な時間を消費したことでまともな状態では無い。戦えるとしてもあと数秒程度。ゲイツの体はボロボロであったが、それに反して頭の中は冷静であった。

 

(生半可な攻撃は、奴に通用しない……)

 

 ジカンジャックローの必殺技二連撃を浴びせてもザモナスは復活している。通常ならば致命傷に至る傷も無意味。

 ザモナスを倒すとなるとそれ以上の力が必要となる。

 

(中途半端な攻撃はダメだ……なら……!)

 

 ゲイツの中で一つの案が浮かぶ。自分でも正気を疑い、まともな状態であったのなら無謀過ぎて思いつくことも無かっただろう。

 だが、この極限状態の中でゲイツはそれを思いついてしまった。

 ゲイツは両手に持っているジカンジャックローから手を離す。

 ザモナスはその様子を見て怪訝に思う。降参、などとは微塵も思っていない。そんなことをする相手では無いことは戦いの中で理解している。

 ならば、両手を自由にしてゲイツは一体何をするのか。

 ゲイツはその両手でドライバーのライドウォッチを同時に押す。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『剛烈疾風!』

 

 ザモナスからすれば拍子抜けの行動であった。恐らくはザモナスの再生を上回る一撃を与え、倒そうとしているのであろうが、いくら必殺の一撃とはいえその程度で倒すことは出来ないとザモナスは言い切れる。

 無駄に警戒をしたと思ったザモナス。だが、そこで我が耳を疑う様なことが起きる。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『剛烈疾風!』

 

 ゲイツは技を発動せずにもう一度ジクウドライバーにライドウォッチのエネルギーを充填させた。

 二度エネルギーを充填されたジクウドライバーから電流の様な光が生じており、過負荷が掛かっているのが見て分かる。

 その行為に啞然とさせられるザモナス。しかし、ゲイツは更に両手をライドウォッチに伸ばしており、ザモナスは驚愕する。

 

「ゲイツ君……君、死ぬ気?」

 

 三度目のエネルギーの充填。そんなことをすればどうなるのか安易に想像が付く。ゲイツ自身も分かっており、伸ばされる両手は震えていた。

 震える両手を見て、ゲイツは自分が死を恐れていることを改めて実感する。そして、死への恐れは裏を返せば生への執着と言える。

 ゲイツにとって生に執着する理由は何か。頭を過るのはソウゴ、ツクヨミ、ウォズたちの顔を。

 仲間と一緒に新しい未来を共に生きたい。それがゲイツの生きる理由。

 

(安心した……俺はまだ生きることを諦めていない……!)

 

 無様に震える両手からゲイツは自分がまだ命を投げ出していないことが分かった。

 命懸け、命を賭すというのは決して死ぬことを意味しない。死という危険の中に敢えて突っ込むことで、その中になる生への活路を見つけること。

 ゲイツは震える手のままライドウォッチのスイッチを押す。

 燃え尽きる前に、自ら燃え上がらせる。

 

「……最初に言った筈だ。生きるとっ!」

『フィニッシュタァァイム!』

『剛烈疾風!』

 

 三度目のフィニッシュタイム。発生したエネルギーはオーバーロードを引き起こし、処理し切れなかったエネルギーがゲイツの全身を駆け巡る。

 背部の翼は一回り以上巨大化し、全身から噴き出していた赤い粒子は今までにない量となる。

 全身に満たされる輝きによってゲイツが自らを燃やしている様に見え、噴き出す粒子は焼き尽くされたことで零れ落ちる灰を思わせた。

 ゲイツの命知らずの行為に、死から最も遠のいた存在となっている筈のザモナスは戦慄するしかなかった。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

 ゲイツから溢れ出る時間は空間に干渉し始め、世界そのものを揺れ動かす。事情を知らぬ者からすれば突然地震が発生したことに恐怖し、強い地震なのに物が一切落ちず、建物も倒壊しないという不可思議で奇妙な現象を目の当たりにするだろう。

 過剰なエネルギーを充填されたジクウドライバーに罅が生じる。装甲も剥離し出し、自己崩壊が始まっていた。

 ゲイツが一歩踏み出す。その瞬間、世界を塗り潰す程の赤い閃光が発せられた。

 

 

 ◇

 

 

 何処だ。何処だ。何処だ。

 ゲイツは白い闇の中を彷徨う。倒すべき敵がいる筈なのに、それが見つからない。目の前に広がるのは果てしなく広がる白一色の光景。

 何処にザモナスが居るのか分からず、ゲイツはただ歩き続ける。

 このまま見つからずに彷徨い続けるのかと思った時、白い闇の中で黄金と赤の光が生まれる。

 その光は形を変え、仮面ライダーの姿となった。その姿はゲイツも良く知っている。

 

「俺……なのか?」

 

 黄金の装甲に加え、体の各部に二号ライダーのライドウォッチを付け、黄金のマントを羽織り、ジクウドライバーにはグランドジオウライドウォッチに酷似したライドウォッチがセットされたゲイツ自身も見たことの無い仮面ライダーゲイツの形態。

 そのゲイツは何も言わずにある方向を指差す。

 

「あそこに、奴がいるのか?」

 

 言葉を発せず、ただ頷くだけ。

 

「──分かった」

 

 ゲイツは疑うことなく示された方へ進む。何もない道だが不安は無かった。自分自身を信じられない筈が無いのだ。

 

 

 ◇

 

 

 ジョウゲンもまた白い闇の中にいた。だが、彼は彷徨うこともせず、ただその場所に立ち、何かを見下ろしている。

 

「そっか……」

 

 それを見下ろしながら、ジョウゲンは一人納得しながら呟く。

 

「俺は──」

 

 白い闇に今にも壊れそうな亀裂が生じる。

 ジョウゲンが見下ろすのは、倒れ伏したザモナスの姿。

 ゲイツから零れ出た時間が時と空間を歪めて、未来の姿を二人に見せさせていた。

 白い闇が砕け散り、そこから飛び出して来るのは両足に赤い光を纏わせたゲイツ剛烈疾風。

 

 百 撃!

 

「──負けるのか」

 

 タ イ ム バ ー ス ト ! 

 

 

 ◇

 

 

 それがどんな技だったのか受けたザモナス本人には分からない。赤い閃光が走ったと思った時にはザモナスの全身に赤い『きっく』の文字が浮かび上がり、同時に爆ぜた。

 百の攻撃を一に集束させた攻撃。回避不能、防御不能のそれは光の速さ打ち込まれ、攻撃されたことも理解出来ないままザモナスは倒れ伏す。

 不死身の源であったライドウォッチは、その攻撃によって全て破壊され、最早再生は望めない。それによりザモナスの変身が解ける。

 ジョウゲンの後方、少し離れた場所にてゲイツは手を見上げながら立ち尽くす。全てを振り絞った最後の一撃を放ったゲイツは、ジョウゲンと同じく地面に倒れ伏して変身が解除される。

 相打ちかと思いきや、倒れたゲイツの指が微かに動き、やがて地面に指を突き立てながら身を起こす。

 

「まだだ……俺は……まだ……」

 

 燃え尽きたかと思われたゲイツの時間は、ほんの一握り程度だが残っていた。

 あの死力を尽くす間際、ゲイツは絶妙な力のコントロールを発揮し、辛うじて命を繋いだ。

 もう戦う力は残されていないが、それでも仲間に会いたい一心で彼は立ち上がる。

 

「俺は……仲間に……一緒に未来を……」

 

 自らが生きる理由を呟きながら、ゲイツは死に掛けの体を動かし、仲間の許へ向かう。

 命を限界まで消耗させ、それでも生き様としたゲイツ。

 生も死も己の力の一部とし、最後まで戦い続けたジョウゲン。

 どちらが正しいなど無く、二人の実力に差など無い。

 そう、()()()()()()()

 

「……ッ!」

 

 ゲイツの体が一瞬震え、立ち止まる。視線をゆっくりと下ろしていくゲイツ。その視線が止まった先には、脇腹を貫く光の矢。

 ゲイツが後ろを振り返る。倒した筈のジョウゲンがうつ伏せのままザモナス専用のボウガンを構えていた。

 

「俺の……負けだよ……ゲイツ君……でも」

 

 ジョウゲンの手からボウガンが落ち、ボウガンは光の粒となって消滅する。

 

「勝たせては……あげない……」

 

 ジョウゲンは死に体であった。だが、シグマライドウォッチの力の残滓を使い、無理矢理体を動かし、ゲイツを射った。

 しかし、ここまでがジョウゲンの限界。

 

(ああ……ここまでか……新しい時代は……見えないなぁ……ごめん。でも……)

 

 もう共に歩むことが出来ないSOUGOとカゲンに心の中で詫びる。

 

「まあ……最期が楽しかったから……いっか……」

 

 彼らしい言葉を残し、今度こそジョウゲンは動かなくなった。

 

「ぐっ……がはっ……!」

 

 射られたゲイツは仰向けに倒れ、空を見上げる。

 狭まっていく空。彼の眼にはもう色すら映らない。

 

「ツクヨミ……ウォズ……ソウゴ……すまない。俺は……ここまでだ……」

 

 その言葉を最後にゲイツの瞼は閉じられる。そして、もう二度と開くことは無い。

 勝者無き決着。それがこの戦いの結末であった。

 




個人的には片足キックの強化が両足キックだと思っている派なので必殺キックの体勢を変化させました。
片足キックと両足キックどちらが好きかは五分五分になりそうですね。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ
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