常磐ソウゴを圧倒し、そして計画の発動と共に異空間へと吸い込まれていく平成の世に生まれた人々を眺めがならバールクスは勝利の余韻に浸っていた。
だが、その余韻を打ち消す駆け寄って来る足音が聞こえてきたのでバールクスはゆっくりと振り返る。
水を差されて少々不機嫌となったバールクスの視線が向けられた先には、身構えているBLACKが居た。
「その姿……! お前が常磐SOUGO! いや! バールクスか!」
「ふん。南光太郎か。まだ仮面ライダーに変身する力が残っていたか……やはり、キングストーンは厄介な代物だな」
BLACKにとって常磐SOUGOことバールクスと会うのはこれが初めてであった。
事前にソウゴからバールクスの特徴を聞いていたが、目の当たりにしてやはり驚いてしまう。何せ自分が最もよく知るRXの姿に加えて宿敵であったシャドームーンの意匠もある。これを見て動揺しない筈が無い。
そして、動揺の後には強い怒りを覚える。一つの時代をリセットし、今も罪無き人々が何処へ繋がるかも分からない異空間へと吸い込まれていく。この惨状を生み出すのに自分の力が使われていると知れば、真っ赤な怒りが燃え上がって来る。
しかし、BLACKはその怒りに呑まれることはせず、腹の奥で抑え込みながら視線を左右に向ける。
ここに来たのはソウゴに手を貸す為であったが、ソウゴの姿が見えない。だが、周辺には戦闘を行った痕跡がある。BLACKは背中に冷たい汗が伝うのを感じた。
「替え玉を探しているのか?」
BLACKの視線の動きで彼が何を考えているのか言い当てる。
「ソウゴを何処へやった!」
バールクスは無言で空を指差す。そこにあるのは今も人々を吸い上げている異空間。
「まあ、その前にくたばっているかもしれないがな」
バールクスの嘲りにBLACKは軋む音が鳴る程に拳を握り締める。
「罪無き人々だけでなくソウゴまでも……俺はお前を許さんっ!」
「許さないんだったら、どうするんだ? んん?」
「とおっ!」
その答えは言葉ではなく自らの行動で示すと言わんばかりにBLACKは跳躍し、空中で拳を構える。
バールクスは飛び掛かって来るBLACKの姿を嘲笑し、手に持っていた長剣を地面に突き刺した。素手で十分というBLACKへの挑発である。
「たあっ!」
降下と同時に突き出されるBLACKの拳。バールクスは手刀で軽々と叩き、逆に自分の拳をBLACKへ返す。
「はあっ!」
バールクスの拳の圧に片手では防げないと判断したBLACKは、両手をバールクスの腕に打ち込み、軌道を変えようとする。
BLACKの狙い通りに拳は逸れていったが、完全に軌道を外すこと出来ず、BLACKの頬を掠めていくと、その摩擦によって発生した熱でBLACKの頬から白煙が上がる。
直撃は避けられたが、両腕を使用したことで無防備となったBLACKの腹部にバールクスの膝蹴りが入る。
「ぐあっ!」
BLACKの体が数メートルも飛ばされるが、BLACKは転倒することなく無事に着地してすぐさま臨戦態勢へ入った。
数メートルも蹴り飛ばされた後とは思えない迅速な動き。それはBLACKがバールクスの膝蹴りに合わせて後ろへ飛んだからであり、ダメージを最小限に抑えたからである。しかし──
(何という凄まじいパワーだ……!)
BLACKは蹴られた腹部に手を当てる。ダメージを最小に抑えていても突き抜ける様な痛みが今も続いている。そして、当てている手も微かに震えていた。バールクスのパンチを逸らしただけで手が痺れてしまっていたのだ。
少し戦っただけでバールクスの力の凄まじさを理解してしまう。
RXの力を基にしている筈だが、それ以上のものを感じられる。仮にRXの力を取り戻したとしても勝てるがどうかも分からない強敵であった。
「良い判断だ、と褒めておこう。流石は歴戦のライダーと言ったところか?」
バールクスはBLACKの動きを上からの目線で讃える。
RXに比べると数段落ちるBLACKの性能。しかし、それを経験でカバーしており中々の動きを見せた。
それに加えてBLACKは平成ライダーではない。バールクスの『創世』が定めたルールは『平成ライダーたちは無意味』というものなのでBLACKは対象外となり、バールクスにダメージを与えることが出来る。
「だが、どう足掻いても勝つのは俺だ!」
ただし、それだけのこと。バールクスの力はBLACKの全てを上回っている。無力化されないであれば力で捻じ伏せればいい、というシンプルでありながら覆すことの難しい選択。
「ふんっ!」
「っ! ──とお!」
バールクスが跳躍するとBLACKもまた迎え撃つ為にジャンプする。
空中で交差しようとする二つの黒影。
「はあっ!」
先制したのはBLACK。赤色に輝くライダーチョップをバールクスへ水平に振るう。
「遅い!」
バールクスが左肘を振り下ろす。BLACKのチョップは下ろされた肘にあるブレードに挟まれて止まられると、今度はバールクスが右腕を振り抜いた。
空中で交差したBLACKとバールクスが位置を逆転させて着地する。
「ぐああ……!」
着地直後にBLACKは片膝を突く。BLACKの胸部にはバールクスのブレードにより横に真っ直ぐ伸びた切創が出来ていた。
『シャドームーン!』
シャドームーンライドウォッチのスイッチが自動的に押されると、バールクスの両手が帯電した様な緑色の光を放つ。
シャドームーンの音声が聞こえ、バールクスの方に視線を向けていたBLACKはそれを見てバールクスが何をしようとしているのかに気付き、負傷を押してその場から横っ飛びで移動。
その直後にバールクスの右手から電撃の様な緑の光線が放たれ、BLACKが居た場所に命中し、地面を一瞬で赤熱化する。
(やはりシャドームーンの力も!)
バールクスが今放ったのはシャドームーンが扱うシャドービーム。BLACKにとっては、もう活かされることの無いシャドームーンとの戦闘経験が皮肉にもこの戦いで生かされたことに心中で怒りと悔しさを覚える。
BLACKは着地するとすぐさま前転して体勢を変え、動きの流れを途切れさせないまま跳躍。バールクスの左手から発射されたシャドービームがBLACKのすぐ後ろを通過していった。
着地と同時にまた跳ねるBLACK。見た目の通りバッタの如き俊敏さと跳躍力を生かす。
跳んだ先に待つのはバールクス。敵わぬ相手だと分かっていても恐れることなく果敢に挑む。
「たああああっ!」
跳躍と降下の勢いを加えた飛び蹴り。しかし、その攻撃も御粗末と言わんばかりに一笑し、バールクスは掌を向ける。
三度放たれるシャドービームがBLACKの体を縄状に覆う。
「うあああああっ!」
攻撃を中断されただけでなく全身に巻き付いたシャドービームがBLACKの体を焼き、バールクスが指を下に向けると地面が陥没する勢いで叩き付けられる。
「がはっ……!」
BLACKは全身を焼かれ、焦げ臭いニオイと共に白煙が上がる。しかし、BLACKの心は未だに折れてはおらず、ぎこちない動きながらも立ち上がろうとしていた。
そんなBLACKの姿を見て、バールクスは心底理解出来ないといった態度で話し掛ける。
「まだやるつもりなのか?」
「当たり前だ……!」
さも当然の様に言い放つBLACKに、バールクスは呆れて溜息を吐く。
「いい加減に現実を見たらどうだ? ここまでやって敵わないならさっさと俺の軍門に下るのが懸命だというのに……抹殺命令を出したが正直な話、時代の狭間に立つお前を消すのは気が乗らん。……色々と面倒だからな」
ここがバールクスにとっての最大の恩情と言えた。別にBLACKが死ぬことを惜しんでいる訳では無い。言葉通りバールクスにとって面倒ごとが増えるからという個人的な事情。
何処までも傲慢さに満ちた台詞であった。
「それともまだ俺を倒せると思っているのか?」
「勘違いを……するな……!」
「ああ?」
BLACKは傷だらけになりながらも立ち上がる。
「お前を倒すのは……俺じゃない……!」
「ほう……? なら誰だと言うんだ?」
「ソウゴだ……!」
「はあ?」
ソウゴの名前を出され、バールクスは心底困惑した声を出す。
「何を言っている? あの替え玉は俺に負けた。そして、奴は今は向こう側だ」
異空間の穴を指差すバールクス。
「彼は必ず戻って来る……! お前を倒す為に……! 俺の役目は……お前をここで足止めすることだ……!」
BLACKはバールクスを倒す可能性を秘めているのはソウゴであると確信していた。明確な根拠がある訳では無い。強いて言うならば仮面ライダーとしての直感が、それがソウゴの役目であると告げていた。
だからこそ今のBLACKに出来ることはこの場所でバールクスを引き留めること。そして、バールクスが他に害を為さない為に命懸けで他を守ること。
BLACKとソウゴと出会い、そしてこの地に来た時にそれが自らの役目であると悟った。
「それで? お前はそんな叶いもしないことを信じ続けるのか?」
「信じることが、信じ抜くことが俺の正義だ……!」
一切の迷いも無く言い切って見せるBLACKにバールクスはミシリと音が立つ程の強さで拳を握る。
折角掛けてやった恩情を、そんな詰まらない理由で一蹴されたことに王としてバールクスの怒りが煮え滾る。
「……どうやらお前の頭の中身は平成の代わりに夢が詰まっているらしいな。それともファンタジーか? ……もういい。お前はここで死んでいけ」
バールクスは見せつける様にベルトの前で両拳を突き合わせる。何をするのかと察したBLACKもまたバールクスと同じポーズをとる。
「キング──」
「ストーン──」
『フラッシュ!』
ジクウドライバー、エナジーリアクターから強烈な閃光が解き放たれた。内蔵されているキングストーンの力を放つ仮面ライダーBLACKの技が撃ち合いになる。
互いの光波が衝突し合い太陽がこの場に出現した様な光が発生し、あまりにも光が強過ぎるせいで周囲が白一色に塗り潰され、何も見えなくなる白い夜が訪れる。
こ自分たちの王の戦いを目に焼き付ける様に観戦していたクォーツァーのメンバーらも、これには目を背けてしまう。これ程光量、焼き付けるどころか灼けて失明しかねない。
いつ終わるか分からない白い夜だと思われたが、終わりは唐突であった。
「ぐあああああっ!」
先に沈んだのは黒い太陽。白い夜を訪れさせていた地上の太陽から苦悶の声を上げながら転がり出て来る。
同時に全てのものが輪郭すら失う程の白光が収まる。
「ぐっ……がはっ……!」
BLACKの姿は無惨の一言に尽きる。シャドービームによって焼かれていた体は更に重傷になっており、外骨格が溶解している箇所も見られた。
「はあ……はあ……はあ……!」
「どうした? その程度か? 世紀王の名が泣くぞ?」
キングストーンフラッシュの閃光に焼かれて苦しむBLACKを嘲るバールクスの冷めた声。言外に『あれだけの大口を叩いたのなら立って足搔いて見せろ』とBLACKを挑発する。
それが伝わったのかは分からないが、BLACKは重傷の体を動かしバールクスに向かって構える。赤い複眼の輝きは全く鈍ってはおらず、傷だらけの肉体に反してその精神は全くと言っていい程衰えていない。
BLACKがエナジーリアクター上部で拳を打ち合わせる。キングストーン内のエネルギーを全身に循環させる為の予備動作。
深手を負って尚BLACKは攻める。
「とおっ!」
BLACKが跳ぶ。ダメージなど無いかの様なブレ一つ無い動きで全身全霊で仕掛ける。
「ライダーパンチ!」
急降下しながら赤熱発光する拳を突き出すBLACK。
「ふん!」
それを迎え撃つのは同じく赤熱発光するバールクスの拳。
拳と拳が衝突し、爆音に匹敵する衝突音を立てながらBLACKが宙を舞う。
「──っ! ライダーキック!」
その状態から続け放たれる蹴撃。真っ赤に燃える右足がバールクスを狙うが──
『BLACK RX!』
RXライドウォッチの音声と共にバールクスもまた跳躍。BLACKのライダーキックに対し、バールクスは両足を赤熱させて突っ込んでいく。
再び衝突する技と技。今度は蹴りと蹴りの競り合い。拳以上の破壊力を秘めており、衝突と共に一瞬空間がたわむんで見える程の衝撃波が発生。空気を伝って四方に破壊の余波を広げていく。幸い空中での衝突だったので被害は最小で済んだ。
「ぐあああああっ!」
ライダーキックのせめぎ合いに勝利したのはバールクスであった。バールクスは真下に降り立ったがBLACKは弾き飛ばされた後、背中から地面に落ちて何度も跳ねていく。
「くっ……!」
BLACKの右手と右足はバールクスとの衝突による激しく損傷していた。外骨格が罅割れており、一目でまともに動かないと分かる。
まだ動く左手と左脚を動かして何とか立ち上がろうとするBLACKであったが、跪いた体勢までしか行けず完全に立ち上がることが出来ない。
そんなBLACKの前にバールクスが立つ。
BLACKは分かっていた。バールクスは実力差を見せつける為に敢えてBLACKと同じ技を使用したことに。確かにBLACKの心は少なからずショックを受けている。しかし、相手の目論見通りに折れるつもりは無い。
BLACKは毅然とした態度で目の前のバールクスを睨む。すると、バールクスが右手を虚空へ伸ばす。地面に突き立てられた長剣が飛んできてその手に収まった。
「ここまで足搔いてきた褒美だ」
バールクスの手の中で長剣はリボルケインとサタンサーベルへ分かれる。
「止めを刺されるならどちらが良い? 特別に選ばせてやる」
処刑方法を相手に選択させるという無慈悲。だが、バールクスの中では最大の慈悲なのかもしれない。
「俺は……お前には……負けん……!」
「そうか──」
バールクスは間を置いた後、BLACKの両肩に得物を振り下ろした。
「うああああああっ!」
「両方が良いとは贅沢な奴だっ!」
リボルケインの光が左肩を焼き斬っていき、サタンサーベルの鋭利な刃が右肩へゆっくりと沈み込んでいく。
裂かれていく痛みに絶叫しながらBLACKはバールクスの腕を掴み、押し上げようとする。だが、バールクスの力はBLACKを上回っているので押し返すことが出来ず、逆に入り込んで来る。
「ぐああああああっ!」
「楽に死ねると思うなっ!」
その気になれば一気に引き裂くことも可能だが、バールクスはBLACKを嬲る為にわざと時間を掛ける。その思い上がりを正す為に。
「ぐあああ! うあああああっ!」
「はははははははは!」
絶叫と哄笑が響き渡る。BLACKの命はこのまま尽きるのを待つのみ。彼は絶体絶命の中にいた。
その時、不思議なことが起こった!
『シャドームーン!』
「ははは……何っ?」
バールクスの意志とは関係無くシャドームーンライドウォッチが独りでに起動したのだ。
シャドームーンライドウォッチから緑の光球が飛び出し、BLACKのエナジーリアクターへ吸い込まれていく。
その瞬間、BLACKの全身から凄まじい光が放たれる。
「何だと!?」
その光自体に力があり、バールクスは光によって吹き飛ばされてしまう。
「くっ! 何が起こっている……!」
予想外の出来事にバールクスも動揺を隠せない。
激しい光の中で立てられない程のダメージを受けていたBLACKがゆっくりと立ち上がる。あれだけの重傷が光の中で瞬く間に修復されていく。
「シャドームーン……それとも信彦なのか……?」
ライドウォッチはその中に能力と歴史を内包する。シャドームーンの力を取り込んだことで変身者であり南光太郎の親友であった秋月信彦の歴史もまた取り込んでいた。
追い込まれたBLACKを助けたのは親友が苦しむ姿を見たくない信彦の意志か、自分以外の誰かにBLACKが倒されるのを許せないシャドームーンの意志かはBLACKにも判別出来ない。
「いや……どちらでも構わない……ありがとう……!」
共に戦ってくれる。その事実だけがBLACKに無限に等しい力を与えてくれる。
そして、今ならば出来る。
光が消え、そこには無傷のBLACKが立っていた。
彼は右手を腰部横に付け、左腕を真上に向ける。
「変……!」
左手を腹部に添えながら右腕を真っ直ぐ上に伸ばし、ゆっくりと下ろした後水平に薙ぐ。
「身……!」
右腕を振り切った後に今度は左腕を水平に薙ぎ、最初のポーズへと戻る。
エナジーリアクターが変化し、新たな形へと生まれ変わる。楕円形から長方形となり、輝く二つの円があるベルト──サンライザーとなった。
光のオーロラとも言うべき眩い光がBLACKの姿を覆うとその姿を変える。
黒いボディの胸部、腹部、腕部、大腿部は濃い緑色へと変化。鳩尾部分には六角形のシャッター状の銀の部位も新たに出来ていた。胸にあったゴルゴムの紋章も形を変え、RとXに見える様になる。
頭部は円形からやや楕円形となり首回りには襟の様な装甲が追加されていた。
「馬鹿な……!」
バールクスはその姿を見て信じ難い思いであった。もう成れない筈の姿にBLACKが成っているのである。
だが、本来の姿とは若干異なる部分も見られる。
本来ならばサンライザーの両円形は赤で複眼もまた両方とも赤である。しかし、どちらも左側だけで緑となっていた。
それは、シャドームーンの複眼とキングストーンの色であり、力を貰ったことによる影響と思われる。
失われた力と姿を取り戻したBLACKはその姿の名を叫ぶ。心の中で感謝の言葉を捧げながら。
「俺は太陽の子っ!」
不思議なことが起こったと先述したが、ここで訂正しておく必要がある。
「仮面ライダーBLACKッ!」
「RXッ!」
タトバコンボパープルアイやグレートクローズ、アメイジングマイティなどの配色違いフォームをイメージしたRXの劇場版限定フォームとなります。
仮名としては仮面ライダーBLACKRXシャドーアイという感じで。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ