無数の数字が浮かび上がる空間。それらは時を示したものであり、数字はバラバラであったが、時を刻む速度は同じであった。
その中で佇む一人の青年。白のベレー帽を被り、灰と白を基調とした衣服を纏っている。
「この本によれば、普通の高校生・常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者・オーマジオウとなる未来が待っていた」
青年が持っていたノート型のタブレットを開く。そこに浮かび上がる様に文字が描かれていく。
「しかし、私の目的はオーマの日にジオウを倒すこととなるゲイツリバイブを最強の救世主へと導き、オーマジオウの歴史を変えようとすること。その為に必要な未来の仮面ライダーシノビと仮面ライダークイズの力は手に入れることが出来た」
青年は口の端を歪めて笑う。
「そして、今まさに新たな未来の仮面ライダーが現れようとしている。海と水、二つの異なる力をその身に宿す仮面ライダー。本来の歴史ならば彼が現れることは無い。現れるとしたら数万分の一の確率。ならその可能性を引き寄せたのは、魔王かあるいは我が救世主か……」
◇
夜空に輝く星々。都会の夜は明るくその輝きは少々失せていたが、それでも完全に消えることは無かった。
すると、その星の一つが徐々に輝きを大きくさせていく。眩しく輝く光はやがて赤く輝く炎の色となった。
それを見れば、誰もが口を揃え『隕石』と叫ぶことだろう。
炎の中で隕石は熱と摩擦によって小さくなっていく。やがて子供の拳よりも小さくなった隕石は、海へと落下する。
着水の衝撃で隕石は砕け、海に大きな波紋と小さな波を生み出が、波紋の方は静かに消えてく。
目撃者も居ない小さな出来事。だが、この隕石が生み出す波紋は海だけに止まらなかった。
小さな波が波止場へと辿り着いたとき、空間に波紋様な歪みが起こると、それが裂け、渦の様な穴が空間に出来る。
その渦の中から何かが飛び出してきた。
「いったー……」
飛び出してきたのは、まだ青年と呼べる男性であった。その青年が飛び出した後に渦は消えてしまう。
勢いよく渦から飛び出てきたせいで擦ったり、打った箇所をさすりながら青年は立ち上がり、そして啞然とする。
「何処? ここ……?」
◇
クジゴジ堂。その中では、最早日常と化した一同揃っての朝食が行われていた。
「……」
「……」
「……」
朝だから。まだ眠気が取れていないから、という理由では説明出来ない程の重い空気が朝食の場に流れている。
ソウゴ、ツクヨミは何時もの通りだが、ゲイツだけが妙に張り詰めた空気を纏っている。
ある物を手にしてからゲイツの様子はこうなってしまっていた。
「どうしたの? ゲイツ君? あんまり朝食が進んでないね。あ、もしかして不味かった」
「いや……そんなことは」
ソウゴの大叔父である順一郎が、箸が進まないゲイツを心配し話し掛ける。食事や居住を提供されている手前ゲイツも順一郎を邪険に出来ず、眉間に深い皺を刻んだまま朝食を食べ始める。
「ねえ、ソウゴ君」
「何? 叔父さん」
順一郎がソウゴに小声で話し掛ける。
「ゲイツ君、何か嫌なことでもあったの? ずっとあの調子じゃない?」
「──うん。でも、そのうち元気になるよ。そんな気がする」
「ソウゴ君がそう言うなら信じるけど……」
それでも心配なのか、順一郎はもう一度ゲイツを見る。ゲイツの箸は、目玉焼きの黄身に触れたまま止まっていた。
「す、すいませーん……」
誰かがクジゴジ堂に入って来る。恐る恐るといった感じの弱々しい声であった。
「はーい! ちょっと待ってねー!」
順一郎が急いで店の受付机の方に向かう。
ソウゴたちは、その来客を不思議に思った。まだ店は開店前なのである。だからこそソウゴたちは朝食を食べているのだが。
ソウゴとツクヨミはコッソリと店側を覗く。ゲイツは独り黙考しているらしく来客の存在に気付かなかった。
順一郎と青年が話している。青年は青地のジャケットを羽織り、その下に灰色のシャツ。ジャケットと同色のハーフパンツ。茶色の髪が中央で二つに分かれ、垂れた前髪の片方には青のメッシュが入っている。顔付きは、優し気なものだが今は眉が下がり情けない印象を受ける表情となっている。
「ごめんねー。まだ開店前なんだよねー」
「え! そ、そうだったんですか! ご、ごめんなさい!」
「いいのいいの。少し待っててくれる。今、こんな格好しているから」
順一郎は笑いながら掛けてあるエプロンを指先で引っ張る。
「いや、そんな!」
「うち時計屋だけど家電の修理とかもやっているから。それで何を修理したいの?」
「ほんと、大したことじゃないんです! 今が『いつ』か知りたいだけで……」
「いつ? 時計屋だけど時間を尋ねられるのは何か斬新だなー。えーと今は──」
「あの、出来れば西暦の方も……?」
「え? そんなに詳細に?」
他人が聞けば青年が変なことを尋ねているだけに思えるかもしれない。しかし、とある事情を知っているソウゴたちにはある可能性が見えていた。
「もしかして……」
「また未来から来た仮面ライダー?」
そのソウゴの呟きが青年の耳に届いたのか、弾かれた様に青年はソウゴたちの方を見て顔を青ざめさせたかと思えば、背を向けて逃げ出す。
青年の行動が答えであった。
「あ、ちょっと!」
順一郎の制止も聞かず一目散にクジゴジ堂から出て行く。
「ソウゴ!」
「分かってる!」
「ゲイツ!」
「──何かあったのか?」
考えに没頭していた為か全く気が付いていない。
「ボーっとしない! 未来からまた仮面ライダーが来たかもしれないの!」
「……何だと!」
一瞬の間の後、ゲイツは椅子を飛ばす勢いで立ち上がる。
「叔父さん! ちょっと出かけてくる!」
「え? あ、いってらっしゃい」
「私たちも!」
「あ、ツクヨミちゃんとゲイツ君もいってらっしゃい」
逃げる青年を追って、クジゴジ堂から飛び出ていくソウゴたちを、展開についていけないのか少し呆けた様子で順一郎は見送くった。
◇
クジゴジ堂から出て青年を探すが、近くに姿は無い。
「何処へ行った……」
「手分けして探す?」
「うん。そうしよう──」
『やあ』
分かれて探そうとしていた三人を呼び止める声。その声は一つでは無く二つ重なっている。
ソウゴたちの前に黒をイメージさせる衣服に長いストールを巻いた青年──自らを預言者と名乗り、未来のソウゴことオーマジオウを信奉するウォズ。
ソウゴたちの後ろに白をイメージさせる衣服に白いベレー帽を被った青年──ウォズと全く同じ容姿をした彼は、オーマの日に魔王を倒し救世主となったゲイツが創り出した、可能性の未来からやって来たもう一人のウォズ。
黒ウォズ、白ウォズと分けられている二人である。
「黒ウォズ……それに白ウォズも」
「止めてくれるかな、魔王。人をヤギみたいに言うのは」
もう一人のウォズ──白ウォズがそう呼ばれ不快感を示す。
「何か黒ウォズと同じこと言っているね」
「まあ、もう一人のウォズだし」
ソウゴが少し笑いを含くませた小声でツクヨミに言う。
「それよりもだ。あの男はお前の仕業か?」
「流石、我が救世主。察しが早い」
ゲイツの問いに対し、白ウォズは大仰に褒めるが、見ようによっては小馬鹿にしている様にもとれた。
「……また未来から連れて来たのか?」
白ウォズは以前、ライドウォッチをゲイツに手に入れさせる為に未来から仮面ライダーを連れてきた前歴がある。
「確かにあの青年は未来から来た仮面ライダーだ。だが、今回私の仕業では無い。私がやったことは彼を君に引き合わせただけだ」
白ウォズがノート型のタブレットを見せる。彼は、そのタブレットに文章を書き込むことで未来に干渉しその通りに事を進めることが出来る。
『未来から来た仮面ライダー、クジゴジ堂へ向かう』
とタブレットに書き込んだのだろう。でなければ都合よく出会う筈が無い。
「ならあいつはどうやって未来から来た!」
「そのことだが、まあ、偶然としか言えないね」
「偶然だと……?」
「黒ウォズは何か知ってる?」
「──恐らくはこれが原因だろうね」
ソウゴが黒ウォズに尋ねると、彼は新聞を一部取り出し、ソウゴたちに渡す。
渡された新聞に目を通す。やがてあるニュースに目が止まる。
「──海に隕石が落下?」
「これが原因なの? 黒ウォズ?」
「多分ね」
「でも、かなり小さな隕石だったらしいんだけど?」
「我が魔王。通常ならば問題は無かった。だが、今は二つの未来が重なった状態なんだ。隕石という宇宙から来た小さな刺激が、不安定な現在を揺るがし、やがて未来で大きな波紋となって過去と未来を繋げた──と私は考えている」
「そんな偶然が……」
「確かに偶然だね。いや、奇跡と言ってもいい」
困惑する一同に白ウォズが口を挟む。
「本来の歴史ならこの日、隕石が降って来ることは無かった。いや、分岐するもしもの未来の中に確かに隕石が落ちてくる未来も存在はするが、それは何万分の一の確率の未来だ」
「その何万分の一の未来に現になっているが? まさか……」
「流石に宇宙の理までは操れないさ。これは私にとっても予想外の事態だ。何かしら行動がその奇跡を引き寄せたのかもしれないね。だが、場合によっては都合が良いとも言える」
白ウォズがタブレットを開く。
「彼は2051年から来た仮面ライダー。荒海の様な怒涛の戦いをする仮面ライダー。そして、水の様に流麗な戦いをする仮面ライダー。二つの異なる力を持つ仮面ライダーだ」
「2051年から……」
「二つの異なる力を持った仮面ライダー?」
「この予想外の事態を上手く使い、彼から仮面ライダーの力を奪えば、君が救世主となる道は盤石となる。そうは思わないかい? ゲイツリバイブ?」
救世主となるゲイツの名を呼ぶ白ウォズ。それに対しゲイツは口を閉じたままである。
「まあ、賢明な判断をすることを願っているよ。我が救世主。ははははは」
白ウォズは笑いながら立ち去っていく。ゲイツを信奉しているようで、その言動からは得体の知れないものを感じさせる。
「──君も賢明な判断をすることを祈っているよ。我が魔王」
白ウォズとは対照的に険しい表情で忠告を残して去る黒ウォズ。本来辿る未来からかけ離れてきていることへの焦りを感じさせた。
「……取り敢えず彼を探そう」
「……そうだな」
まず彼に接触しなければ何も始まらない。そう考え、ソウゴたちは青年の捜索を再開した。
◇
「お父さーん! 早く早くー!」
先を走る子供が後から歩いて追い掛ける父を急かす。
「おいおい。そんなに急ぐと転ぶぞー」
注意する父親であったが、無邪気な我が子の姿にその表情は自然と微笑んでいた。
「早く行こうよ!」
「走らなくても公園は何処にも行かないぞー」
子供の頭の中では、既に父と一緒に公園で遊び、砂場で山や城を作り、疲れるまで遊び続ける光景が思い描かれている。それを考えるだけで逸る心を押さえ切れ無い。
「前を見ないと──」
父親は気付く。自動車がブレーキも掛けずに歩道へと入っていくのを。
「危ない!」
慌てて駆け出すが、自動車は我が子の目の前にまで来ていた。
どう足掻こうと間に合わない。
「止まれぇぇぇぇ!」
無意味と分かっても叫んでしまう。
その瞬間、本当に車が止まった。
「……え?」
それだけではない。我が子も、周囲の光景も、空を飛ぶ鳥も、全てが静止していた。
「な、何だこれは……」
「子供を助けたいか?」
「なっ!」
すぐ側に前髪を後ろに流した巨漢の男が立っている。
「俺と契約をすれば子供を助けることが出来る」
「契約……?」
巨漢の男──スウォルツはそう言って手にムーブメントが剥き出しとなった時計を握る。
「意見は──」
「あ、あの子が助かるなら契約でも何でもする! 早く!」
「──求めんが、早い決断なら歓迎しよう」
スウォルツは口の端を歪めながら時計のスイッチを押す。
時計は輝き、ムーブメント部分に異形の顔が描かれる。
『ポセイドン……』
「このイレギュラー、利用させてもらう」
スウォルツは起動した時計──アナザーウォッチを父親の体に埋め込む。
「うああああああああ!」
父親は絶叫を上げながら、その身を変えられていく。
ドン、という大きな音が聞こえた。子供は何が起きたのか分からず呆然とする。
さっきまで自動車が目の前にまで来ていたのに、消えて無くなっていた。
次の瞬間、今まで聞いたことが無い大きな音が聞こえ、子供はその音に思わず縮こまる。
「お父さん! お父さん!」
怖くなり父の名を呼ぶ。しかし、返事は無い。呼べば必ず来てくれる筈なのに。
ひたひたと湿った足音が近付いて来る。
「……お父さん?」
伏せていた顔を上げる。
「うああああああ!」
子供はそれを見て叫んだ。
閉ざされた口には見せつける様に鋭い牙が並び、側頭部からが腹鰭、頭頂部には尾鰭、髪を垂らす様に背に掛かる尾鰭、鮫そのもの乗っかっている様な水色の頭部。
右肩には蒼色の鯨の頭部が付き、左肩には尾鰭が付いているが飾りでなく生きている様で鯨の目が周囲を確認する様にギョロギョロと動き、尾鰭も上下に動いている。右肩には『POSEIDON』、左肩には『2051』の刻印がある。
肩から伸びる手には一本の赤い槍が握られており、その槍は生きているのか、陸に上がった魚の様に時折槍身を震わす。
脚部は赤色をし、魚の鰭が付いており、これもまた生きている様に動く。そして、両足にも目が二つずつ備わっており、丸形の感情の読み取れない目であった。
胸部には逆三角形のレリーフ。サメ、クジラ、オオカミウオの姿が描かれている。
腰には丸鋸状のベルトに水色、蒼、赤の色が付いた丸が填まっていた。
怪人は子供に顔を近付ける。あまりの恐ろしさから目を背けることも出来ない。
鮫の口が開く。すると中から現れる半透明の面。そこから薄っすらと円形の白い目と歯が真一文字に結ばれた唇の無い口が見える。
「あ゛あ゛あ゛……」
呻きながら鮫の中の顔の目。鯨の目。両足の目が子供をじっと見る。
やがて何か満足したのか、鮫の口を閉じ、子供から離れていく。
「誰にも……この子を……傷付けさせない……」
譫言の様な言葉を吐きながら、怪人は何処かへと去って行く。
去って行く怪人の後姿を見て、子供は思わず呟いた。
「……お父さんなの?」
この作品内では、ゲイツがジオウを倒した際に出来た未来から来た湊ミハルという設定です。
アナザーライダーが生まれた以前のことなので、コアメダルは消えずに存在しているという作中設定にしました。
まあ、割と適当な設定で書いているので色々とおかしな点があるかもしれません。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ