仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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捏造過去回となります。


Over Quartzer その19

 バールクスに完敗したソウゴがクォーツァーの計画に用意された異空間へ吸い込まれていく。平成生まれの人々、それに巻き込まれた建物などが為す術無く異空間の向こうへ消えていく。

 自分もまたあの様に消えて行くのかとソウゴはぼんやりとした意識の中で思った。バールクスの必殺技の連撃によって大きなダメージを負っているソウゴは、意識が闇に落ちる中、そのまま異空間の中へと──

 

「……え?」

 

 気付くとソウゴは横たわって寝ていた。頬や体をくすぐる青々とした草の感触。異空間に吸い込まれる間際であった彼は、全く違う光景に戸惑いを覚えながら体を起こす。

 

「何だここは……?」

 

 知らない場所──と最初は思ったが既視感があった。一度、何処かで見た様な朧げな記憶がある。

 

「……治ってる」

 

 ソウゴは腹を擦る。バールクスの長剣によって刺し貫かれて重傷を負っていた筈だが、綺麗に無くなっていた。

 摩訶不思議な現象に困惑しながら周りを見回すソウゴであったが、その視線が一点で止まった。

 三輪車に乗る幼子。それを後ろから押す眼鏡を掛けた男性とそれを幸せそうに見ているセミロングの女性。

 二人の顔を見た時、ソウゴは呆然としながらも言葉が滑り落ちる様に出て来る。

 

「父さん……? 母さん……?」

 

 その顔を忘れる筈など無い。その男女はソウゴと死に分かれた両親であった。

 

「俺……?」

 

 そうなると三輪車に乗っているのは幼い頃のソウゴとなる。

 三人はソウゴのすぐそばを通って行くがソウゴの存在に気付かない。ソウゴが試しに手を伸ばして両親に触れてみると、手がすり抜けてしまった。それにより今見ているのが過去の光景であることを理解する。

 仲睦まじく絵に描いた様な幸せな家族。ソウゴにとってもう二度と戻る事の無い幸福の形。だが、それでもその光景を見ていると自然と口角が上がってきてしまう。

 幸せなものを見て、ソウゴもまた少しだけ幸せな気分になれる。

 やがて、ソウゴの母が幼いソウゴの前で目線を合わせる為にしゃがむ。

 

「ソウゴは、将来何になるの?」

「僕ね、王様になる。絶対」

「あっ……」

 

 幼い子供の無邪気で無謀な願い。それでも両親はその夢を笑うことはせず、嬉しそうに幼いソウゴを抱き上げた。

 あれこそがソウゴの原点にして最初の夢。そして、今に至るまで忘れず、掲げ続けてきた目標。

 

「俺の夢……」

「思い出したか──」

 

 厳かな声と共に世界が塗り替えられる。

 青々とした草原は草の根一つ無い不毛の大地と化し、見上げる程の大きさがある十九の平成ライダーの石像と変身の構えをとるソウゴの石像が置かれてある。ソウゴが2068年の未来に行った時に見た石像と全く同じ物であった。

 そして、その石像の前に立つのはオーマジオウ。

 

「──若き日の私よ」

「オーマジオウ……」

 

 嘗ての自分とこれからの自分が相対する。

 

「お前は……生まれながらの王では無い」

 

 王になる為に生まれてきた。それはソウゴを影武者にしようとしたSOUGOの策略と自らが王になろうとしたスウォルツの陰謀による与えられた役目であり戯言であった。

 ソウゴもそれは否定しない。

 

「──しかし、王になろうと望んだのは……お前自身だ」

 

 最初は幼き頃の儚い夢だったのかもしれない。だが、それは時を経てソウゴの確かな夢となっていた。

 誰かに誘導されたものではなく心の底から願った確かな夢。

 

「お前は何の為に王になりたかったのだ?」

「俺が王様になりたかったのは……」

 

 ソウゴにとって王と成るのは方法の一つであった。何故、王になりたかったのか、理由は一つしかない。

 

「俺は世界を良くしたかった……! 皆に幸せで居て欲しいんだっ!」

 

 ずっと変わらぬ願い。その為にソウゴは王を目指してきたのだ。

 最初はきっと幸せそうな両親の顔を見て、自分が幸せを感じたのが願いの原形だったのかもしれない。それが自然と両親だけでなく周りの人達も含まれる様になっていた。

 

「例え特別でなくともか?」

「そんなの関係無い!」

 

 特別な星の下で生まれてこなかったとしても掲げる夢は変わらない。

 

「例え……その願いの為に犠牲となった者が居てもか?」

「犠牲って……俺はそんなの──」

「望んでいない、と言うつもりか? 甘いな、若き日の私よ。望む、望まないの問題では無い」

 

 オーマジオウの眼光がソウゴを貫く。ソウゴは不思議に思った。いつもの威圧する様な眼光では無い。強いて言うのなら憐みの眼差しであった。

 

「お前は既に犠牲を払っている」

「何を言って……」

 

 ソウゴの言葉はそこで止まった。全身から冷たい汗が噴き出し、味わった事の無い寒気を覚える。気付いてはいけないことに気付いてしまったソウゴの表情は死人よりも蒼褪めていた。

 

「明光院ゲイツとウォズ……その二人はお前が王になる為の道を切り拓き……そして、死んだ」

 

 ソウゴは『嘘だっ!』と声の限り叫んで否定したかった。しかし、喉も舌もソウゴの意思から切り離されたかの様に動かなかった。心の何処かでオーマジオウが言っていることが真実であるのを認めてしまっているからである。

 嫌な予感はしていた。前触れも無く感じ取った友らの気配。それは喪失感を伴うものであった。気のせいと思い、見て見ぬふりをしていたが、オーマジオウによってソウゴが感じ取ったものが正しかったことを突き付けられる。

 

「ゲイツ、ウォズ……」

 

 膝から力が抜ける。立っていられない。背中に背負い切れない程の重荷を背負った様に体が沈んでいく。

 それに抗う気すら起きない。自分のせいでかけがえのない仲間が死んだ。その現実がソウゴからありとあらゆる力を奪っていく様であった。

 

「誰かの幸福の為に自分が犠牲になることは良しとしても、自分の為に誰かが犠牲になることはそんなに重いか?」

 

 ソウゴは返答することすら出来ない。

 

「──その気持ち嫌という程に理解出来る。苦しかろう? 自責の念で潰されていくことは? 耐え難いであろう? 己の無力さによって心が裂かれることは?」

 

 全てを見通すオーマジオウの言葉。まるで、自らも経験したことがあるかの様な口振りであった。

 

「苦痛と絶望の果て……最早堕ちる事の無い地の底、最低最悪の極致に至ることでお前は得ることが出来る──」

 

 ソウゴの腹部に黄金の輝きが灯る。その黄金の光が形となっていく。物体化したそれは、オーマジオウが装着しているのと同じオーマジオウドライバーであった。

 

「オーマジオウの力を」

「俺は……」

 

 即答出来なかった。オーマジオウにはならない、と。オーマジオウの力は身を以って知っている。それが有れば守りたい人達を守れると思ってしまった。

 

「独りであるからこそ強大な力が必要だ! 何事も屈する事の無い絶対的な力が……!」

 

 オーマジオウの全身から放出される覇気。そこには決して折れる事の無い鋼の意思が感じ取れる。

 

「オーマジオウ……何でそこまで……うっ!」

 

 ソウゴは呻き、四つん這いになる。

 

「お前も知るが良い。私が魔王となった日を。そして思い知ると良い。力無き理想が如何に無力かを!」

「う、うあああああああっ!」

 

 オーマジオウドライバーを通じ、ソウゴの頭の中に記憶が奔流となって注ぎ込まれていく。

 それは、オーマジオウがまだ常磐ソウゴであった時の記憶。

 王では無く魔王となった時の記憶。

 

 

 ◇

 

 

「はあっ……! はあっ……! たあああああっ!」

 

 切羽詰まった声と共に振るわれる二刀。ジカンギレードとサイキョーギレードが立ち塞がるカッシーンたちをジオウⅡが次々と斬り倒していく。

 

『覇王斬り!』

 

 七色の文字盤型の斬撃が飛び、十を超えるカッシーンたちを纏めて斬り飛ばす。

 

『ライダー斬り!』

『ギリギリスラッシュ!』

 

 マゼンタに輝く二刀が連続して斬り払われ、二十体以上のカッシーン達が爆散する。

 爆発が消えた後、ジオウⅡの視界に映るのは列を成す数え切れない程のカッシーンたち。

 ジオウⅡは既に百体以上のカッシーンたちを倒したが、それもカッシーンの大軍のほんの一握りの数に過ぎない。

 絶望的なまでの数の暴力。そこに追い打ちを掛ける様にダイマジーンまで現れる。

 

「何なんだこいつらは……!」

 

 ソウゴが全てのライドウォッチを継承し、ジオウからジオウⅡへと至った日を境に世界は激変した。

 目的も何処から送られてくるのかも分からず、謎の機械兵士カッシーン。

 たった一体で都市を平地へと変えてしまう巨大兵器ダイマジーン。

 謎の勢力によってソウゴの世界は今まさに蹂躙されていた。

 王と成るのを目指すソウゴは当然ながらこれを見過ごせる筈も無く新たに手に入れたジオウⅡの力でそれらを返り討ちにする。

 しかし、所詮は多勢に無勢。ジオウⅡの力が如何に強大であってしてもジオウⅡは独りで戦っている。そして、カッシーンやダイマジーンは幾ら倒しても尽きる事は無く、数が減れば何処からか送られてくる始末。

 孤軍奮闘ではどう足掻いても救えない者達がいた。その現実がソウゴの精神を容赦無く抉って行く

 そして、もう一つ。ソウゴ自身の性が彼を追い込んでいた。

 

『サイキョー! フィニッシュタァァイム!』

 

 二本の剣が一つとなり、その剣身から巨大な光の刃が伸びる。ジオウⅡが中段に構えていたので、切っ先が伸びた方向に立つカッシーンたちが光の刃に消し飛ばされ、ひしめき合っていた列に隙間が出来る。

 その状態からサイキョージカンギレードを振り上げる。動きに巻き込まれたカッシーンが何十体も居たが、サイキョージカンギレードの切れ味の前では霞を斬るに等しい。

 

『キング! ギリギリスラッシュ!』

「やあああああああっ!」

 

 気迫に満ちた声と共に上段に構えていたサイキョージカンギレードを振り下ろす。長く伸びた光の刃は、ダイマジーンを頭頂部から股下まで一刀両断。

 ダイマジーンはゆっくりと左右に開かれていき、赤熱した断面と中身を外気に晒す。

 倒れたダイマジーンの巨体に圧し潰され、何百ものカッシーンが破壊された。

 ジオウⅡの一撃によって周囲の敵が一掃される。

 

「これで……ここは大丈夫……次に……ッ!?」

 

 次の場所へ向かおうとしていたジオウⅡは見てしまった。

 

「ママ! ママ! 起きて! 起きて!」

 

 頭から血を流し、動かない母親とそれに縋って泣く子供を。

 見てしまった。知ってしまった。もう、ソウゴは自身を止めることが出来ない。

 ジオウⅡはジオウⅡライドウォッチに触れる。その瞬間、世界がガラスの様に砕け、そして──

 

「えっ? 私……」

「ママァァ!」

 

 血を流して倒れていた筈の母親は自分が無傷になっていることに驚き、子供は母親が助かったことを戸惑うよりも先に喜ぶ。

 しかし、それも束の間──

 

「ひっ!」

 

 群れ為すカッシーンたちが足を揃えて親子へ迫り、喜びをすぐに絶望へと塗り替える。

 

『覇王斬り!』

 

 飛んで来た七色の斬撃が最前列のカッシーンたちを纏めて破壊。爆発が起き、身を縮ませる親子。顔を上げた時、親子の前にはジオウⅡが立っていた。

 

「早く逃げて!」

「は、はい! あ、ああ、ありがとうございますっ!」

 

 震える声で礼を言い、母親は子供を抱き上げてこの場から逃げて行く。

 

「良かった……」

 

 母親が助かったこと、子供の哀しみが消えた事に安堵するジオウⅡ。だが、その代償は決して小さくない。

 時間逆行の能力により母親が攻撃される前の時間まで戻したせいで、ジオウⅡが必死になって倒したカッシーンたちやダイマジーンも復活してしまった。

 時間逆行の力を手に入れて日が浅いので、親子だけの時間を巻き戻すなどという範囲を限定することはまだ出来ず、敵を倒したことも無かったことにしてしまう。

 これこそがソウゴを追い込んでいるもう一つの理由である。自分の目や手が届く位置に救える命があるのなら、自分のことを顧みずに救おうとする。結果としてソウゴは同じ戦いを何度も繰り返していた。

 時間を巻き戻せてもそれは自分以外を対象にしている。消耗した体力も時間逆行で戻せることは出来ない。一つの戦いで何倍もの疲労が積もるが、ソウゴは自分の行いに後悔はしていなかった。

 ソウゴが目指す王は世界を良くし、皆を幸せにすること。それ故に彼は割り切れなかった。

 

「はああああっ!」

 

 彼はもう一度カッシーン、ダイマジーンと戦う。その戦いが終われば次の戦いへ向かう。そして、そこに倒れた人々が居れば躊躇い無く時を戻す。

 零れ落ちそうな命を救う為に。何度も、何度も、何度も。

 

 

 ◇

 

 

「……」

 

 一体どれだけ戦ってきたのか。何日戦ったのか、何体倒したのか、どれだけ救ってきたのか、全ての感覚が朧気になる程ソウゴは戦い続けてきた。

 ただ戦うだけでなく時間逆行も繰り返していたので、その密度は掛かった時間よりも遥かに濃い。

 限界は超えるもの、壊すものという言葉があるが今のソウゴはまさにその限界を突き抜けてしまった状態であった。

 肉体的だけではない精神的にも限界を超え、半ば屍の様な状態である。

 ソウゴがどれだけ頑張ったとしてもその手から零れ落ちていく命は必ずある。それを割り切れず、自らの罪として背負ってしまい、彼の肩には数え切れない程の死が圧し掛かっていた。

 ただ人を救うだけの存在に成り果て様としているソウゴだったが、どう足搔いても彼は人間であった。

 糸が切れた様にソウゴは前触れも無く倒れる。限界をとっくに超えていた肉体が強制的に体を休ませたのだ。寧ろ、今まで動けていたのが奇跡に等しい。

 ソウゴは人知れず深く、暗い、夢すら見えない眠りにつく。目覚めた時、更なる過酷な現実が待っていることも知らずに。

 

 

 ◇

 

 

 暗い中にぼんやりとして見える光。それが瞼越しに見える光だと気付き、自分がいつの間にか意識を失っていることに気が付いたソウゴは慌てて体を起こす。

 

「ここは……! ううっ!」

 

 全身に痛みが走る。酷使され続けてきた体の悲鳴であった。全身の筋肉が硬直したかの様に動かすだけでズキズキとした痛みを感じながらソウゴは周囲を見回す。

 窓が無く電灯が僅かに照らす薄暗い空間内には大人、子供達が身を寄せ合っていた。

 恐らくは地下に備えられた避難場所と思われる。倒れたソウゴを偶然見つけた誰かが運んで来てくれたのだろう。

 ソウゴは避難している人達の顔を見る。彼らの表情は二通りしかない。全てを諦め、死んだ目をしている者と恐怖で顔を引き攣らせている者。

 それを見たソウゴは、少しでも彼らの絶望と恐怖を薄れさせる為に再びカッシーンたちに戦いを挑もうとし──

 

「──ッ!」

 

 ──頭を押さえる。

 

「あっ、あああっ! あああああああああっ!」

 

 耐え切れなくなって叫び出すソウゴ。それを聞いて周りの人達が心配になって話し掛けるがソウゴの耳には届かない。そんな余裕が無かった。

 

「う、うわあああああああああっ!」

 

 ソウゴの頭の中にはある記憶が濁流となって押し寄せて来ていた。

 

「そんなっ! そんなぁぁぁ!」

 

 それは平成ライダーたちだった者達の記憶。

 ソウゴは彼らからライドウォッチを継承した。ライドウォッチには各平成ライダーらの歴史が入っている。平成ライダーたちの歴史の始まり──そして、始まりがあれば終わりがある。

 ソウゴは継承したライドウォッチを通じ、平成ライダーであった者たちの終わりの歴史を見せられていた。

 

「ああああああっ!」

 

 ライダーの力や記憶を失った彼らは一般人と変わらない。この惨事の中、逃げ惑う──ことなどしなかった。彼らは力も記憶も無かったとしてライダーとしての在り方を続けていた。

 仮面ライダーの力があるから仮面ライダーに成れるのではない。それに相応しい心があるからこそ仮面ライダーと成れるのである。

 彼らは生身で助けを求める人達を助け続け、カッシーン達から身を呈して人々を逃がすという行為を躊躇いも無くしていた。

 しかし、残酷なことにその優しさが彼らの命を奪うこととなる。

 ある者は崩壊する建物に巻き込まれ、ある者はカッシーンの三又槍に貫かれ、ある者はダイマジーンの襲来により命を落とした。

 誰もが人を救っていた。だが、自分の命を救うことは出来なかった。

 本当なら戦える力があったのに。

 本当なら救える力があったのに。

 彼らには夢や希望や仲間が在った。

 力を奪ったのは誰だ? 

 夢を奪ったのは誰だ? 

 希望を奪ったのは誰だ? 

 彼らを仲間から奪ったのは誰だ? 

 

「全部……! 全部……俺のせいで……!」

 

 そうだ。常磐ソウゴ()が全て奪った。

 心が壊れそうになる罪悪感。今までにない罪の意識を背負った。しかし、哀しいことにソウゴはそれを背負って尚壊れることも無く、進むことの出来る器を持っている。

 双眸から涙を流しながらソウゴは立ち上がる。その手にジオウⅡライドウォッチを持って。

 

「まだ間に合う……!」

 

 時間逆行を使えば死んでいった彼らを救えるかもしれない。そう決意をし、避難場所から出ようとするが──

 

「そんな急に動いたら危ないよぉ! 三日も眠っていたんだから!」

 

 親切な女性がソウゴに安静するよう促す。

 

「……えっ?」

 

 気遣いに感謝するよりも先に、聞き捨てならない台詞があったことに気付く。

 

「今、何て……? 

「だから、三日も眠っていたんだから」

「三日……」

 

 ソウゴは膝から崩れ落ちる。幾ら時間逆行が出来るとしても逆行出来る時間は限られている。数秒から数十秒、それが今のソウゴの可能な範囲。日を戻すなどソウゴには不可能なこと。

 彼は自分を信じて力を譲ってくれた平成ライダーたちを救う方法を失った。

 

「そんな……」

 

 心が急速に乾いていく。痛みすら感じなくなってきた。危険な状態であるのに、それを自覚すら出来ない。

 

 絶望しているソウゴを見兼ねて親切な女性が声を掛ける。

 

「一体何があったのかは知らないけど、取り敢えず休んだ方がいいよ? ……ここも何時危険になるか分からないしね……身内の方は一緒じゃないの?」

 

 その瞬間、死に掛けていたソウゴの心が一気に目を覚ます。

 

「叔父さん……!」

 

 今の今まで順一郎のことを忘れていた。カッシーンたちの襲撃があり、クジゴジ堂を飛び出してから会っておらず、安否すらも分からない。

 気付けばソウゴは走り出していた。制止する声や手を振り切って。

 

(俺の馬鹿っ!)

 

 何故、順一郎のことを忘れていた自分の愚かしさを罵る。考える余裕が無かったなど言い訳にならない。

 ソウゴは走る。クジゴジ堂を目指して。途中、カッシーンやダイマジーンが道を阻むがジオウⅡに変身すれば蹴散らせる。その反面、彼が間違いなく足を止めるだろう助けを求める人々は現れなかった。

 それがどういう意味かソウゴも分かっている。その結果、殆ど立ち止まることなくクジゴジ堂に着いたのは皮肉でしかなかった。

 

「ああ……」

 

 クジゴジ堂前でソウゴは立ち尽くす。そこにあるべき古びた建物は無かった。無惨に破壊され、廃墟と化している。

 幼い頃から暮らしてきた大切な場所が無くなっていた。

 嫌な予感がソウゴの頭を過る。

 

「大丈夫……! きっと叔父さんなら大丈夫な気がする……!」

 

 いつもの口癖であったが、そこには言い聞かせる様な、縋る様な響きがあった。

 ソウゴにとって唯一の理解者であり、唯一の身内である順一郎に何かがあったら、正気を保てる自信が無い。

 危険が迫る前に何処かへ避難をしている。きっとしていると思いながら視線を動かす。

 

「あっ……」

 

 地面に落ちているソレを見た時、ソウゴは心臓が凍り付く。

 見間違う筈など無い。それは順一郎がいつも掛けていた眼鏡。だが、その眼鏡はレンズが罅割れ、そして赤黒い液体が付着していた。

 眼鏡に向けていた視線をゆっくりと動かす。見るな、見るなと心が叫んでいるが止めることが出来なかった。

 視線の先、そこに映るものは──

 

「────!」

 

 声を上げることすら出来なかった。涙を流すことも出来なかった。

 自分を呪う。無力な自分を。奪うだけの自分を。理想の王になれなかった自分を。

 最低最悪な自分を呪う。

 もっと力があれば。誰かに何も奪わせない力があれば。力が、力が、力が、力が。

 絶望の果てに生まれる力への渇望。その力によってソウゴが今まで手にしてきたライドウォッチが彼の周囲に集まる。

 

「俺は……もう、王様にはなれない……」

 

 全てが零れ落ちていった。最早、理想の王を目指す資格は自分には無い。

 

「俺は……魔王だ……!」

 

 犠牲の上に降臨する魔王が相応しい。

 ライドウォッチがソウゴへ取り込まれていく。ジクウドライバーはオーマジオウドライバーへと変化し、彼はそれを装着する。

 

「変、身……!」

 

 一人の青年の絶望と引き換えに世界の救済は約束された。

 後に『オーマの日』と呼ばれる日の誕生である。

 

 

 ◇

 

 

 言葉にならなかった。オーマジオウ誕生の日の記憶にソウゴは絶句するしかない。

 

「私は間に合わなかった──しかし、お前ならまだ間に合う」

 

 そして、ソウゴは分かった。ソウゴをオーマジオウとして目覚めさせようとしているのは、オーマジオウからの慈悲なのだと。

 全てを失う前に最強の力を手にすれば防ぐことが出来る。苦しみの過去を背負うオーマジオウの教訓であった。

 

「俺は……」

「これ以上の犠牲を望まないのであれば、その力、躊躇いも無く手に入れられる筈だ」

 

 オーマジオウの言っていることが全て間違っているとはソウゴも思っていない。ゲイツとウォズの様な犠牲者をこれ以上出さない為には力が必要である。

 

「お前は私だ。受け入れろ! オーマジオウを!」

 

 ソウゴとオーマジオウは同一人物。経験の差があるとはいえ思考も思想も似通った部分も多くある。

 しかし、ソウゴとオーマジオウには決定的な違いがあった。

 

「俺は……!」

『俯くな。顔を上げろ』

『情けない顔は君には似合わないよ、我が魔王』

「えっ……!」

 

 良く知る声。もう失ったと思っていた声。

 顔を上げたソウゴが見たのは、自分の左右に立つゲイツとウォズ。しかし、その姿は半透明であった。

 

「そんな姿になっても、か……見上げた忠誠心だな」

 

 半透明になっている二人の中心に浮かんでいるのはゲイツライドウォッチとウォズライドウォッチ。自身の全てをライドウォッチに記憶させ、ソウゴがライドウォッチを引き寄せられるのを利用してここまで飛んで来ていた。

 

『お前が俺達を犠牲、犠牲と言うのが気に食わなかったからな』

『ちょっと訂正し来たよ』

 

 これがソウゴとオーマジオウの決定的な違い。

 ソウゴには窮地を救う仲間が居る。

 




セイバーも終わって新しい令和ライダーが始まりますね。
バイスが終わるまでには、この話を完結させます。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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