青年──湊ミハルは全力で走っていた。
何気なく入った時計屋。自分の現状を信じられなかったミハルは、そこで改めて今が西暦何年か尋ねようとした。
そこで彼は耳にする。
『未来から来た仮面ライダー』
それが聞こえた途端全身が凍り付く様な気持ちになり、思わず時計屋から逃げ出していた。
「何で……! 何で分かったんだ……!」
自分が未来から来たこと、そして、自分が仮面ライダーであることを。
「とにかく……とにかく何処かに……!」
逃げ場所を探す様にしきりに周囲を確認するが、ふとあるものが目に入り、走る速度が落ち始め、やがて歩みになり、その歩みも止まる。
「何処かに行って……どうするんだよ……」
自分の現状を思い出し、ミハルは心細そうに言葉を洩らす。
立ち止まったミハルの目に映るのは一枚のポスター。新作の映画を宣伝する為のものであり、そこには大きな文字で『2019年公開』と描かれている。
「本当に……ここは2019年なのか……」
ミハルは不可思議な渦に呑み込まれ、気付けば全てが一昔以上前の物で溢れた場所に居た。
そして知る。自分が2051年から2019年にタイムスリップしてしまったことを。
自分が存在しない時代。そして、誰もが彼の存在を知らない時代。
力の無い足取りで近くに備えてあったベンチに脱力しながら座る。
「この時代で一人ぼっちか……いや」
弱々しく呟いた直後に、自嘲しながら反語を入れる。
「元の時代でも一人ぼっちだったか……」
自分で言っておいて泣きたくなってきた。泣いてはダメだと分かっているが、涙が出そうになっている自分が惨めに思い、更に悲しくなってくる。
ミハルはあまり前向きな性格ではなかったが、それでも暗い性格では無かった。しかし、仮面ライダーとして戦い、その中で色々と事情があったせいで後ろ向きな性格へと変わってしまった。
今も自分で作ってしまった負の連鎖から抜け出せなくなっている。
「これからどうしよう……」
何も宛てが無い現状。誰にも頼ることが出来ない。
「はあ……」
「うう、ぐすっ……」
すすり泣く声。その声に沈んでいたミハルは顔を上げる。目の前を泣いている子供が通り過ぎ様としていた。
「お父さん……」
涙に濡れた声で父を呼ぶ。その儚く、幼い子供の背を見てしまったとき、ミハルは無意識に行動していた。
「き、キミ! どうしたの?」
ベンチから立ち上がり、泣いて子供の前に移動すると、目線を合わせる為にしゃがみながら声を掛ける。
(何やってるんだろ……俺)
言った直後に自らの行動を避難する。泣きたいのは自分であり、他人の心配をしている場合では無いというのに。
見知らぬ人に声を掛けられ、少年は少し戸惑っていたが、心細さが勝ったのかミハルに事情を話し始める。
「あのね……今日、お父さんと一緒に、公園に行こうとしたの……そしたら、バーンって来たのが、すぐにガシャンとなっちゃって、それでお父さんが、変になって、どっかに行っちゃったの……」
要領を得ない説明。子供らしいというべきだが、聞かされたミハルはいまいち把握出来ず、取り敢えず目の前の子供は迷子で父親を探していると解釈した。
「キミのお父さんが何処に行ったのか心当たりはあるかい?」
子供は首を横に振る。
「分かんない」
「そうか……」
手掛かりが無いのならこの子を近くの交番に出も連れて行こうと考えたが、そこでミハルの悪い癖である後ろ向きな考えが過ぎる。
(この子を連れて交番に行ったら、俺も事情を聞かれるかも……。そしたら、今の時代の俺には何も個人情報が無いし、それがバレたら……不審者な上に下手したら逮捕されるかも……! そうなったら不味い! ……でも、この子を放っておくわけにも行かないし……どうすれば)
後ろ向きな考えと、目の前の子供を見過ごせないという気持ちがミハルを葛藤させる。
その時、ミハルたちの背後で大きな爆発音が聞こえた。
振り返ると黒い煙が空に向かって伸びている。
「事故……?」
「あそこ……」
「え?」
子供が黒い煙を指差す。
「あそこにお父さんがいるかも」
「え? ええ……?」
子供の言葉に、ミハルは困惑した声を上げることしか出来なかった。
◇
車が連なる渋滞。いつもならばスムーズに走り抜けることが出来る道路が、今ではアイドリングの音が重なり合い唸り声の様になっている。
何か大きな爆発音の後、急に車の流れが止まったのだ。
道路工事の案内看板も無く一向に進まないことに苛立ったのか、止まっている車の一台がクラクションを鳴らした。
「──たく早く行けっつーの」
運転席で苛立つ運転手。彼は後詰めで来たため爆発が起こったことなど知らない。直後、ボンネットに何かが降り、その衝撃で後輪が一瞬浮き上がる。
「な、なっ……!」
驚きで言葉が詰まる運転手。衝撃の正体は、車のボンネットに突き刺さって槍であった。その槍には魚の様な鰭が付いており、ボンネットに突き刺さったまま体を震わせている。
「何だこれ……!」
ようやく言葉が出たとき、第二の衝撃が車の屋根を襲う。
「うわっ!」
凹んで低くなる天井。罅割れるフロントガラス。そして、それを突き破って伸びてくる異形の手。
手は運転手の襟元を掴み、運転席から引っ張り出す。
「ひいっ!」
引き摺り出された運転手は、手の主を見て悲鳴を上げる。鮫の頭、鯨の胴体、魚の脚という異形に恐怖する。
「何だあれ!」
「うわああ! 化け物!」
怪人の存在に気付き、停めてある車の中から次々と人々が逃げて行く。
「大きな……」
「……え?」
怪人の鮫の歯の隙間から小さな声が洩れる。
「大きな、音を、出すな! 子供が、怯える!」
「いやああああああ!」
鮫の口が開き、異形の面が現れたことで男は女性の様な悲鳴を出す。その声が異形の勘に触ったのか、男の顔にゆっくりと鮫の牙が迫る。
「やめろ!」
勇ましい声と共に、怪人の背中に飛び蹴りを放った青年──ゲイツ。怪人は倒れることは無かったが、意識が男からゲイツに向けられる。
その隙を狙いもう一人の青年――ソウゴが怪人の手が緩まっているうちに男に飛び掛かる様にして怪人の手から救い出す。
「大丈夫ですか!? 早く逃げて!」
「あ、ああ!」
ソウゴの言葉に従い、足をもつれさせながら男は逃げる。
殆どの人々は逃げ出し、この場には怪人とソウゴたちしか残されていない。
ソウゴとゲイツは、怪人を挟む様に前後に立つ。
逃げ出した青年を探していたが、先にアナザーライダーを見つけてしまった。
「まさか、また未来のアナザーライダーか?」
「うん。らしいよ」
ゲイツは後ろ姿で見えなかったが、正面に立っているソウゴには怪人の両肩に描かれた刻印『POSEIDON』と『2051』が見えている。
「止めるよ、ゲイツ」
「言われるまでも無い」
ソウゴ、ゲイツは同時にジクウドライバーを腰に巻き、変身の為のアイテム──ライドウォッチを取り出す。
ライドウォッチを半回転させライダーの顔にすると、スイッチを押し起動させると共にそれをジクウドライバーのスロットに挿し込む。
『ジオウ!』
『ゲイツ!』
ジクウドライバー中央にあるロックを外し、ドライバーを傾かせると、ソウゴは右腕を左斜め上に掲げ、ゲイツはドライバーを両手で挟み込む。
『変身!』
ソウゴは手首を返し、人差し指と親指で時計の長針と短針を模す様な形にしてから、その手を引っ掛ける様にしてドライバーを回し、ゲイツは両手の力で一気にドライバーを回転させる。
『ライダーターイム!』
ジクウドライバーによりライドウォッチ内部の力が解放され、二人の背後に浮かび上がる時計盤状のエネルギーが浮かび上がる。
ソウゴ、ゲイツを中心にリング状の力が幾重に重なり、その中でソウゴたちの姿を変えていく。
ソウゴは黒のスーツと銀の装甲で。ゲイツは赤スーツと紅の装甲で身を包む。
最後に時計盤から『ライダー』と『らいだー』の文字が、怪人──アナザーポセイドンへ飛んで行く。
アナザーポセイドンはボンネットに突き刺していた槍を引き抜き、一回転しながら振り回し迫る文字を打ち返す。
跳ね返された文字はそのままソウゴとゲイツの顔面へと収まり、マゼンタの複眼、黄色の複眼と化す。
『仮面ライダージオウ!』
『仮面ライダーゲイツ!』
文字が填め込まれることによって二人の変身は完了し、ソウゴは仮面ライダージオウに、ゲイツは仮面ライダーゲイツへとなる。
『ジカンギレード! ケン!』
『ジカンザックス! Oh! No!』
ドライバーから愛用の武器を召喚し、構える二人のライダー。二人が武器を取り出すのを見て、アナザーポセイドンは車の屋根から降りる。
「そんな……」
「ん?」
「そんな……危険な、ものを、出すな……! 子供が、怪我を、する!」
刃物を出した二人に怒りを見せながら、自分は槍を振りかざすアナザーポセイドン。至極真っ当なことを言っているが、やっていることの嚙み合わなさに二人は面食らう。
「何だこいつは……!」
「しゃああああ!」
「うわ!」
アナザーポセイドンは声を上げながら先に襲い掛かったのはジオウであった。上段から振り下ろされる槍をジカンギレードで受け止める。槍を弾き、アナザーポセイドンの胴体を斬ろうとすると、槍の柄がそれを防ぐ。
その間にゲイツが背後から迫るが、アナザーポセイドンは背後に後ろ蹴りを放った。
後ろ蹴りをジカンザックスの側面で止める。すると、アナザーポセイドンの足の踵から脹脛に掛けて裂け目ができ、そこが開くと連なる牙。まるで口の様になっている。
「何っ!」
アナザーポセイドンの足が、ジカンザックスに噛み付き、ジカンザックスごとゲイツを振り回す。
「え! 何それ!」
驚くジオウの前でアナザーポセイドンはジオウに右肩を突き出す構えを取る。右肩の鯨の頭部が口を開き、そこからジオウの顔に水の塊を吐き出した。
「うあっ!」
「ぐっ!」
その衝撃で後方に倒れ込むジオウ。ゲイツもまたアナザーポセイドンに足に投げ飛ばされる。
ゲイツは地面を転がりながらジカンザックスを斧から弓の形態に変化。
『You! Me!』
すかさずストリンガーを引いてエネルギーを充填させ、引き金を引き射出口から光弾を放つ。
一発目は外れ、二発目がアナザーポセイドンの肩を掠める。三発目が着弾する前にアナザーポセイドンは振り返り、槍で光弾を撃ち落とした。
アナザーポセイドンがゲイツに向けて槍を振るう。槍から水色の衝撃波が放たれ、ゲイツに直撃。
「ぐああ!」
その衝撃でゲイツの手からジカンザックスが離れる。そこに追い打ちの二発目が放たれ、ゲイツを更に吹き飛ばす。
「ゲイツ!」
『ジュウ!』
これ以上の攻撃は危険だと思い、ジカンギレードを銃モードにすると、自分に引き付ける為に銃撃しようとする。しかし、その考えは読まれていたのか、アナザーポセイドンはジオウの方を見向きもせずに槍だけを後ろに放った。
宙を舞うアナザーポセイドンの槍。すると、槍に付いていた鰭が開き、同時に閉ざされていた目も開く。穂先にジグザグ状の裂け目が出来ると穂先が上下に割れ、ジグザグの形は牙となる。
「槍が泳いでる!」
ジオウの言葉通り、槍は空中で身をくねらせ、鰭を動かして泳ぎ、ジオウに向かって牙を見せながら突進する。
生きた槍がジオウの相手をしている間にアナザーポセイドンは、倒れているゲイツの側まで移動していた。
倒れているゲイツの両肩を掴み、無理矢理立たせる。
「くっ……!」
ダメージで体が上手く動かないゲイツの目の前で、アナザーポセイドンは鮫の牙でゲイツの頭を噛み砕こうと、ゆっくりと近付けていく。
「ま、待て!」
しかし、それを止める声があった。
ゲイツは目だけを声の方に向ける。
「お前は……」
クジゴジ堂から逃げ出した青年──ミハルであった。
「あ゛あ゛あ゛……」
アナザーポセイドンの唸り声に顔を青ざめさせるミハル。腰も引けている。明らかに怯えている。だが、逃げ出そうとする意志だけは見えなかった。
「な、何で似ているのか知らないけど、それ以上は暴れさせない!」
ミハルはジャケットの内からある物を取り出す。
縁に曲線を帯びた突起が円形に並び、中には逆三角形状に丸い窪みがある。これこそが彼を仮面ライダーへと変身させるツールの一つポセイドンドライバーである。
ミハルはそれを腰に当てる。ポセイドンドライバーからベルトが射出され、腰を一周してドライバーを固定する。
ミハルは右手に鮫が描かれた水色のメダル。左手に鯨が描かれた蒼色のメダルを握り、それをドライバーの窪みに填め込むと、再び右手にもう一枚、赤いメダルを握る。
右手をドライバーの前を滑らす様にしながら最後の一枚を填め込み、叫ぶ。
「変身!」
『サメ! クジラ! オオカミウオ!』
ドライバーから飛び出すメダル状の三色のエネルギー。それがミハルの前で逆三角形状に並び、ミハルの体に接触する。
水色、蒼色、赤色の三色の光が放たれ、ミハルの全身を覆い、それが消えた時、彼は湊ミハルから仮面ライダーへと姿を変えていた。
水色の頭部には、吊り目の黄色い複眼。前頭部、両側頭部から突起が出ており、横から見ればそれが後ろ向きになった鮫の背鰭、胸鰭であることが分かる。
右肩に鯨の頭部、左肩に尾鰭を模した装甲。胸甲には鮫、鯨、狼魚が紋章。
腰は鰭の形の赤の装甲で覆われ、両脚は同じく赤を主とし、黒い溝が彫られて、それが魚の鱗を表現していた。
右手を突き出す。宙に泡の様なエネルギーが発生し、それが具現化して側面から見た魚の形をした槍に変わる。
愛用する槍──ディーペストハープーンの柄を握り締める。武器の感触、重さがその手に掛かる度に、内心でミハルはこれから戦いが始まるのだと実感させられる。
いつだって戦いは怖い。いつも必死だ。しかし、いくら怖くてもミハルは逃げることだけは無かった。
「お、俺が相手だっ!」
2051年の仮面ライダー、その名もポセイドン。2019年での戦いが始まる。
ゲイツとクイズの攻撃でアナザークイズが倒れなかったのって
1 実は同時攻撃はダメで同じ系統のライダーで攻撃しないとダメだから
2 実は主水が無意識に手加減してしまったから
3 ゲイツへの嫌がらせで白ウォズが妨害したから
のどれでしょうね。個人的には話の流れ的に3と思っています。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ