時間は少し遡る。
指差した方向へ取り敢えず向かうミハルと、彼に手を引かれる子供。爆発、黒煙と嫌な予感しかしなかったが、子供が行くと言って聞かなかったのでミハルの方が折れた。
何故そこに子供の父親が居ると思ったのかはミハルも分からない。しかし、黒煙が上がる場所を指差した彼には確信を感じられた。
暫く向かっていると、ミハルたちの方に向かって走って来る人が見える。一人ならば特に気にしなかったかもしれないが、それが老若男女問わず何十人、何かから逃げてくるのが見えると異常事態が起きているのが嫌でも分かる。
「こっちへ!」
ミハルは子供の手を引っ張って道の脇へと移動する。このまま行くと集団に巻き込まれて子供とはぐれる、怪我をするというのを危惧してのことであった。
その十数秒後に側を逃げる人々が通り抜けていく。
走って生じる足音。何十人もの足音は地響きの様であり騒がしい。しかし、その足音に混じって声も聞こえてくる。
「何だったんだ、あの怪物は……!」
「早く逃げろ! 巻き込まれる!」
「怖いよ! 怖いよ!」
「走って! 安全な場所に行けば怖くないから!」
「何か変な二人が怪人に向かって行ったよな?」
「そんなの見ている余裕は無いよ!」
怯える声の他に聞き捨てならない言葉が混じっている。怪物、変な二人。その二つの言葉がミハルは引っ掛かった。
ミハルは体を低くし、子供の目線に合わせる。
「いいかい? 君はここで待っているんだ。危ないからね」
「え? でも、お父さんが……」
「キミのお父さんは俺が探してくる。だからここで俺がお父さんを連れて帰ってくるまで待っているんだ」
「……うん」
渋々という様子で頷く子供。
「いい子だね。──ところでキミはお父さんの写真を持ってない?」
探すと言ったが、ミハルは子供の父親の顔を知らない。手掛かりが無ければ流石に見つけることは出来ない。
「ううん」
子供は首を横に振る。
「そっか……」
未来だったら子供は皆携帯端末を持っているので、それを調べれば家の住所や迷子だった場合親の現在位置を調べたり、報せたりすることが出来たが、現代ではそこまで行き渡っていないらしい。
そこで思い付く。もっと簡単な方法があった。
「キミの名前は?」
子供の名前を使い父親を探すことなら今のミハルでも出来る。
「……みはる」
「……えっ?」
「僕の名前、みはる」
「えっ!」
自分と同じ名前という偶然にミハルは二度驚く。三十年の時を超えて自分と同じ名前の子供と行動するのはどれほどの確立なのだろうか。
「そっか……みはる君か。俺の名前もね、ミハルっていうんだ」
「同じ……」
「そう。湊ミハル。同じ名前だ」
この偶然をみはるもまた不思議に思えたらしく、最初に会ってから今までしていた泣き顔が僅かに緩む。
「──じゃあ、行ってくるよ。みはる君。絶対に戻って来るから。キミのお父さんを連れて」
「……うん。いってらっしゃい」
小さく手を振りながら見送ろうとする姿に、ミハルは必ずこの子の父親を見つけようと決意を固くし、人の流れに逆らって黒煙の下へと向かう。
黒煙が近くなるにつれて人の姿も少なくなっていく。道中でみはるの名を出しながら彼の父親を呼んでみたが、やはり皆逃げるのに夢中でミハルの声は届かなかった。
やがて逃げる人々の姿が消えた時、ミハルの耳に逃げ惑う声以外の音が入ってくる。
それを聞いた瞬間、ミハルは足を速める。それはミハルが数え切れない程聞いてきた音。
確信を持って言える。今聞こえた音が、戦闘音であると。
「あ、あれは……!」
音の下へと辿り着いたとき、ミハルの足は驚きで止まる。
似た様な姿で戦っている二人は、間違いなく自分と同じ仮面ライダー。顔に『ライダー』と『らいだー』の文字を張り付け、これでもかと主張する奇抜な姿で仮面ライダーでなければ、ミハルはこれから先どんな正統派な姿の仮面ライダーと会っても疑りから入るだろう。
そして、もう一人見過ごすことが出来ない存在がいる。細部は違えど自分が変身した酷似した恐らくは仮面ライダーらしき者。しかし、その姿は生々しさがあり、仮面ライダーよりも怪人に近い印象を受ける。
この時代の仮面ライダー二人と、自分と似ている仮面ライダー。両者は何かを理由に戦っていた。
二対一だが自分と似ている方が押している。やがて、『らいだー』の文字が付いたライダーの首を掴み上げ、その頭を噛み砕こうと──
色々と疑問が尽きない。だが、襲われ様としている姿を見たとき、ミハルはそれらの疑問を全て忘れて飛び出していた。
「ま、待て!」
◇
そして、時間は現在に戻る。
ミハルが変身した仮面ライダーポセイドンは、怪人──アナザーポセイドンと相対していた。
「はあっ!」
ポセイドンは主武装である槍──ディーペストハープーンを構えると同時にアナザーポセイドンへと飛び掛かる。
狙いはゲイツの首を掴んでいるアナザーポセイドンの腕。
アナザーポセイドンは槍の穂先が届く前にゲイツから手を放し、反撃させない為にゲイツの腹部を蹴り付けながら後退する。
ポセイドンは突くのを止め、そのまま地面に降りると、膝を突いているゲイツを守る様に彼の前に立つ。
「大丈夫?」
「ごほっ、ごほっ。……ああ」
咳き込みながらもゲイツは無事を告げる為に返事をする。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
唸りながらポセイドンを睨むアナザーポセイドン。半透明な面越しに見える円形の白い目は不気味そのものであった。
「あ゛ー!」
アナザーポセイドンがジオウを襲っている槍に手を向ける。槍は尾鰭の様な柄頭でジオウの頬を強打。
「うあっ!」
ジオウが倒れてうちに空中を泳いでアナザーポセイドンの手に戻る。
見れば見るほど自分によく似たライダーらしき存在。ポセイドンの心が緊張で覆われていく。
アナザーポセイドンが槍を振ろうとする。ポセイドンもまた同じ槍を振るう為の溜めに入る。
振り抜かれる二本の槍。発生する渦巻く二つの衝撃。水色の衝撃と衝撃は、両者の中間に位置する場所で衝突し爆発、同じ威力だったせいで相殺されるが、余波でジオウとゲイツは地面を転がっていってしまう。
衝撃波が届かなかったことを見るや、二人のポセイドンは走り出していた。
ポセイドンは槍を上段に構え、アナザーポセイドンは槍を薙ぐ構えをとる。
数秒も掛かることなく互いの間合いが触れ合ったとき、アナザーポセイドンが先に槍を払っていた。
しかし、ポセイドンはそれを跳躍して躱し、アナザーポセイドンの頭上を跳び越えると、前方宙返りをしながらアナザーポセイドンの背に斬りかかる。
散る火花。それはアナザーポセイドンのものではなく、紙一重の差で背後に回された槍の柄から生じたものであった。
今の一撃を防がれたことに内心驚きながらも体を捻ってアナザーポセイドンが正面になるように着地する。
向き直ったアナザーポセイドンの胸の三つの紋章のうち、鯨の紋章が蒼く輝く。何をしてくるのか、同じ能力を持つポセイドンは即座に分かり地に伏せる様に体勢を低くする。
アナザーポセイドンの左肩にある鯨の尾鰭が巨大化し、実物と変わらない程の大きさになると体を振るって尾鰭で薙ぎ払う。
事前に身を低くしていたので、尾鰭は頭上を通過。すぐに立ち上がるポセイドンであったが、その間にアナザーポセイドンは接近しており、ポセイドンがアナザーポセイドンを視界に収めるタイミングで槍を振り下ろす。
掲げた槍の柄で間一髪それを防ぐポセイドン。アナザーポセイドンはそこに容赦なく何度も槍を振り下ろす。
打ち付けられる衝撃でポセイドンの膝が徐々に曲がっていく。いずれは耐え切れなくなってしまう。
そうなる前に離れようと、打撃と打撃の僅か間を狙いポセイドンは後ろに向かって跳ぼうとする。
「あっ!」
跳躍と同時に何かに足を引っ張られて背中から地面に落下する。ポセイドンは視線を自分の足に向けると、そこで見たのは足に噛み付くアナザーポセイドンの足。
アナザーポセイドンは馬乗りになってポセイドンに突きを繰り出す。
ポセイドンは穂先の腹で切っ先を受け止めるが、アナザーポセイドンが体重を掛けることで押されていく。
上と下。どちらの方が力を込めることが出来るかなど子供でも分かる。
抵抗するポセイドンの両腕は、アナザーポセイドンの力に抗い切れず震え始める。
(強いっ! どうする! どうする! このままじゃ……!)
押されるポセイドンの心の中にあったのは、焦りと恐怖であった。しかし、それは自分が死ぬかもしれない、というものから来るのでは無い。
(俺が負けたら……! 残された人たちが……!)
自分が負けた後に、守れなかった人々がどんな目に遭うのか。ポセイドン――ミハルにとってそれが恐怖であった。
(俺は……! 俺は……!)
『だったら変われ』
脳裏にその声が響いたとき、ミハルの意識はそこで途絶えた。同時にポセイドンの目が一瞬だけ青く輝く。
「あ゛がっ!」
アナザーポセイドンは突如として苦鳴を上げる。理由は、ポセイドンの手がアナザーポセイドンの喉にその指を突き立て、絞めているからである。
先程まで押されていた筈だが、アナザーポセイドンの槍を片手で耐えており、もう片方の手は自由になっていた。
ポセイドンは首を絞めたままアナザーポセイドンの顔を引き寄せる。
「調子に乗るなよ?」
同一人物かと疑わしい程の低い声を発しながら、ポセイドンはアナザーポセイドンの顔に頭突きを炸裂させる。
顔を押さえるアナザーポセイドン。ポセイドンは自分の上からアナザーポセイドンを撥ね退ける。
地面に倒れるアナザーポセイドン。そこに容赦なく突き刺さるポセイドンの蹴り。アナザーポセイドンは数度地面をバウンドしなから転がっていく。
ポセイドンは槍の柄頭を地面に着け、穂先の背に手を掛けてもたれかかる様な姿勢で槍を斜めに持つ。
「言葉が通じるか通じ無いか分からんが、最初に警告しておいてやる」
その声には絶対的自信と傲慢さに満ちている。
「命乞いだけはするな。時間の無駄だ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛……!」
アナザーポセイドンは蹴られた脇腹を押さえながら立ち上がる。
「遅い」
既にポセイドンはアナザーポセイドンの前にまで移動していた。
振り上げられる右足。すると右足からオオカミウオの頭部を模したエネルギーが発生し、それが牙を剥く。
喰らい付くオオカミウオの牙。嚙まれた箇所に火花が飛ぶ。
「あ゛あ゛っ!」
振り下ろされる右足。その勢いのまま今度は左の後ろ回し蹴りがアナザーポセイドンを狙い、オオカミウオの牙が再びアナザーポセイドンに噛み付く。
「あ゛がっ!」
後退させられるアナザーポセイドン。そこに向かってポセイドンは跳躍し、アナザーポセイドンの胸元に飛び蹴りを入れる。
右足から発せられるオオカミウオの牙がアナザーポセイドンの胸元を噛む。
「はあっ!」
ポセイドンは叩き込んだ右足を軸にして体を捻る。当然突き立てられた牙も回転し、傷を大きく抉る。
続けてその状態からポセイドンはアナザーポセイドンを足場にして右足一本で後方に跳ぶ。
「おまけだ」
その際に槍から衝撃波を放ちながら。
アナザーポセイドンは咄嗟に槍を前に翳す。槍を盾にして衝撃波の直撃は避けられたが、アナザーポセイドンは数メートルほど吹き飛ばされた。
「はっ、手応えの無い奴だ」
相手を見下しながらそう吐き捨てるポセイドン。
「何か……第一印象と違う気がする……」
「まるで別人だな……」
ポセイドンの戦いぶりを見ていたジオウとゲイツは、その荒々しい戦い方と変身前のミハルの印象を比べ、その差に困惑していた。
すると、ポセイドンはジオウたちの視線に気付き、彼らに穂先を向ける。
「お前らは、こいつよりも楽しませてくれるか……?」
ポセイドンの好戦的な態度にジオウたちは思わず武器を構える。
一触即発の状況。しかし、ここで思わぬ乱入者が現れる。
「お兄ちゃん、どこ……?」
幼い子供の声。全員の視線がその声に向けられる。
ミハルが待っている様に言い聞かせていた筈のみはるがこの場に来ていた。恐らくは孤独と不安に耐え切れなくなってミハルを探しに来たのだろう。
「逃げろ!」
「ここに来ちゃダメだ!」
ジオウとゲイツは、みはるに逃げる様に叫ぶ。アナザーポセイドンに、何をするか分からないポセイドン。無力な子供にとってここは危険地帯でしかない。
「え? え? な、なに?」
仮面ライダーという存在を初めて目の当たりにして、みはるは戸惑いの声を上げる。
「お前……ぐっ!」
ポセイドンが何かを言い掛けるが、途端頭を押さえる。
「全く……こういうときだけは、元気な奴だ……!」
それだけ言うと、ガクリとポセイドンの頭が下がる。少し間を置いて、ポセイドンは顔を上げると、一瞬驚いた様に周囲をキョロキョロと確認する。
「もしかして、
「お兄ちゃん?」
「って、みはる君! どうしてここに!」
再び驚き慌てふためくポセイドン。先程までと様子が違い、ジオウたちも混乱するしかなかった。
「う゛う゛……」
呻きながらアナザーポセイドンが体を起こす。ジオウ、ゲイツ、ポセイドンは武器を構えて警戒。
顔を上げるアナザーポセイドン。その目はある一点に集中していた。
「み、は、る……」
「えっ!」
自分の名を呼ばれて驚くポセイドンだったが、すぐにアナザーポセイドンの目がみはるに向けられていることに気付く。
「まさか、貴方がみはる君の……?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
アナザーポセイドンは地面に槍を突き立てる。爆発が起こり、その中にアナザーポセイドンの姿が隠れる。
爆発と煙が消え去ったとき、アナザーポセイドンの姿も消えていた。
「逃げたか……」
ゲイツは言葉に僅かな苛立ちを混ぜる。
「あ、あの……」
恐る恐るといった態度でポセイドンはジオウたちに声を掛ける。
「君たちも、仮面ライダーなの?」
「うん。そうだよ」
ポセイドンに質問に、ジオウはあっさりと答えると巻いていたドライバーを外し、ジオウからソウゴへ戻る。
「あ、あー! 君って!」
ゲイツもまたドライバーを外し、元の姿に戻る。
「やっぱり! あの時計屋にいた!」
「取り敢えず、ここから離れようか。話をするのはその後で。俺たち、色々と聞きたいことがあるし、そっちも聞きたいことあるでしょ?」
「う、うん」
現在と未来が交じり始める。
何かが足りない心! コアメダル! ベストマッチ! 深海のバーサーカー! 仮面ライダーポセイドン! イエーイ!
ってな感じで映画とは違う理由でポセイドンに意思を持たせています。
どういうポジションになるかは今後のお楽しみに。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ