暗い空間。大きな時計盤を背にし、一人の青年──黒ウォズが椅子に腰掛け、表紙に幾つもの歯車があしらわれた本を読んでいた。その本には『逢魔降臨暦』という名が書かれている。
「この本によれば、普通の高校生・常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者・オーマジオウとなる未来が待っていた。彼は2051年から来た青年──湊ミハルこと仮面ライダーポセイドンと出会い、同じく現れたアナザーポセイドンを倒す。しかし、アナザーポセイドンを倒したことで新たな敵アナザーアクアともう一人の仮面ライダーポセイドンを出現させる破目に──おっと、ここから先はみなさんには未来の話でしたね」
◇
事態は最悪な状況であった。
アナザーポセイドンを一時的に戦闘不能状態にしたかと思えば、新たなアナザーウォッチを埋め込められて、アナザーポセイドンからアナザーアクアへと姿を変え、そのアナザーポセイドンのアナザーウォッチをミハルが使い、どういう理由かアナザーポセイドンを体から生み出した後に、そのアナザーポセイドンが本物の仮面ライダーポセイドンに変身したのである。
アナザーライダーは同じライダーの力でしか倒せない。アナザーポセイドンは、同じ力である仮面ライダーポセイドンという鎧を纏うことで、誰にも倒せない存在と成った。
唯一アナザーアクアならば倒せる可能性があったが、その力の持ち主であるミハル自身の口から、変身不可能という事実を聞かされ、どちらも倒す手段を失った。
「あ゛あ゛あ゛……」
アナザーアクアが唸り声を出しながら首を回す様に動かし左右を見る。ポセイドン、ジオウ、ゲイツ、誰が敵か見定めている様であった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
誰が敵かアナザーアクアが決める。ヒレの様な手を伸ばす先に居るのは、よりにもよって変身不能なミハルであった。
ピチャピチャと水溜りの上を歩いている様な足音を鳴らし、ミハルに近付こうとする。ミハルの方はというと、さっきから俯いたまま動かない。アナザーアクアの接近にも気付いていない様子であった。
ミハルを守ろうと、ジオウとゲイツが救出に向かおうとする。すると、彼らよりも先に動く者がいた。
「お前は強いのか?」
槍の穂先をアナザーアクアに突き付けながら、ポセイドンが問う。
武器を向けられたことで、アナザーポセイドンを危険と判断したのか、ターゲットをミハルからポセイドンへと切り替え、叫び声を上げながらアナザーアクアがポセイドンに飛び掛かる。
「はっ!」
その反応のポセイドンは鼻で笑い、飛び掛かってきたアナザーアクアは防ぐこともせずに簡単に腹部へ前蹴りを打ち込まれ、飛び掛かってきた時の速度以上で蹴り飛ばされた。
更にポセイドンは、アナザーアクアが宙にいる内に槍を投擲。放たれた槍はアナザーアクアの腹部を貫く。
そのままアナザーアクアは背中から地面に落ち、大の字で地面に縫い付けられる。
そんなアナザーアクアを一瞥した後、ポセイドンは俯いているミハルの襟元を掴み、無理矢理立たせる。
「くあっ!」
「無様だなぁ……」
辛うじて爪先が地面に着く高さまで持ち上げられたミハルは、苦しそうな声を出す。ポセイドンは、苦痛で顔を歪ませるミハルに顔を近付けて嘲る。
ジオウ、ゲイツはミハルを助ける為に駆け出そうとするが、それを牽制する様にポセイドンは襟元を締め上げる。下手な真似をすればミハルの命は無いと暗に告げていた。
「お前の今考えていることは手に取る様に分かるぞ。震える程怖いんだろ? 唯一戦える手段を失ったんだからなぁ? もうお前に誰も守れないなぁ?」
「キミは、誰、何だ……!?」
アナザーライダーの力でミハルの体から現れ、ポセイドンドライバーとメダルを奪い変身し、しかもミハルの内面を正確に見抜いている謎の存在に疑問をぶつける。
「俺はお前の中にずっといたんだよ。弱くて臆病なお前が、これを使って変身したときからな」
ポセイドンは、ドライバーに填め込まれているメダルを指先で叩く。
「ま、さか……!」
「俺は、このコアメダルとお前の精神が合わさって生まれた存在だ。そして、俺こそが真の仮面ライダーポセイドンだ。お前の様な弱々しい紛い物とは違う」
その事実を側で聞かされたジオウたちも驚く。ポセイドンの話を信じるならば、変身する為のツールに自我が芽生えたのだ。ジオウたちからすれば、ライドウォッチが自らの意思を持つことである。
「少しずつ表に出ることが出来たが、やっと自由の身だ。自分の体というのは存外良いもんだな」
ポセイドンの言葉に心当たりがあるのか、ミハルの目が見開かれる。
「感謝しろよ? 俺に。もうお前に戦う力は無い。良かったじゃないか、もう怖い思いはせずに済むぞ? 震えながら戦う必要は無い」
ポセイドンはミハルの目を覗き込みながら言い放った。
「お前はもう用無しだ」
ポセイドンはミハルを投げ捨てる。数メートルほど宙を飛び、地面に落ちると共にそこから更に数メートル地面をバウンドしていく。合わせて十数メートルほど移動させられた後に、動かなくなった。
「ミハル!」
ジオウが名を呼ぶが返事は無い。ミハルは気絶している様子であった。
二人がミハルに駆け寄ろうとするが、ポセイドンが先回りをしてそれを妨げる。
ポセイドンが水平に手を伸ばす。すると、投げ放った槍が吸い込まれる様にその手に戻ると柄を地面に着け、もたれ掛かる体勢となる。
「それで? どっちが強いんだ?」
ジオウとゲイツを値踏みする様に見る。
「何だって?」
「同じ質問をさせるな。時間の無駄だ」
思わず聞き返すジオウに、ポセイドンは冷たく返す。
「──俺の方が強い」
ゲイツが一歩前に出て、そう宣言する。ジオウよりも強いと発言した意図は、プライドからか、それとも敢えて自分に矛先を向けさせようとするゲイツなりの優しさなのかは、ゲイツ自身にしか分からない。
「……そうか。なら」
ポセイドンは柄を地面から離し、穂先を向ける。
「お前の方が強そうだ」
穂先が向けられたのはジオウであった。
「どういうつもりだ!」
「お前から余裕を感じないんだよ。今もそうだ、声に焦りしかない。そういう奴は弱いってのが俺の中では決まっている」
ポセイドンの『弱い』という発言に、ゲイツは仮面の下で強く奥歯を噛み絞めた。否定したい、否定したいが言葉が出ない。心の何処かでポセイドンの言葉を認めている自分に気付き、なお怒りが増す。
「お前と戦うのは時間の無駄だ。だからそいつとでも遊んでいろ」
ポセイドンがアナザーアクアを顎で指す。
ゲイツはアナザーアクアの方を反射的に見る。すると、大の字になって横たわっていたアナザーアクアの姿が無い。
「どうやら新しい力を理解したみたいだ」
アナザーアクアの姿を探し、ゲイツが一歩前に出る。ピチャ、という水の音が足元から聞こえた。視線を落とすといつの間にかゲイツの足元に水溜りが広がっている。
どういうことだ、と考えるよりも先に水溜りの中からヒレ状の足が飛び出し、ゲイツの腹部を蹴り上げる。
「ゲイツ!」
蹴り飛ばされた仲間に、ジオウは声を上げる。
「お前の相手は俺だろ?」
「はっ!」
目を離した一瞬の隙に眼前にまで移動しているポセイドン。ジオウは反射的にライドヘイセイバーとジカンギレードを横に振るう。
「おっと」
二本の剣を槍の柄で受け止めるポセイドン。すると、返す様にポセイドンはジオウの胸部に足を置く。威力など無く、本当に添える様なほど軽い。その軽さに困惑するが、次の時には文字通りポセイドンの足が牙を剥いた。
オオカミウオの形をしたエネルギーが、ジオウの胸部に牙を突き立て、喰らい付く。
「うあっ!」
後ろに下がらせられるジオウに、すぐさまポセイドンは槍で斬りかかる。頭上から迫るそれを交差させた剣で受け止めるが、開いた横腹にポセイドンの膝が刺さった。
「くぅ!」
アーマーのおかげでダメージを押さえることが出来たが、それでも体が一瞬強張る。
「ふん!」
振り抜かれる槍。それに合わせて放たれる水色の衝撃波。零距離で放たれた衝撃波を、剣を盾にして耐えるが、水の泡が爆ぜる様に衝撃波は弾け、内包していたエネルギーを拡散させる。
足元の舗装が崩れ、踏ん張ることが出来なくなり、後転する形で飛ばされるジオウ。数メートル距離が開いた後に体勢を直す。
体勢を立て直した直後にジオウが見たものは、ポセイドンの胸部にある逆三角形に並ぶプレート。その中の鮫の紋章の強い輝き。
水色の光が頭部へと伝わると、ポセイドンの頭頂部、両側頭部から突き出た突起の先端から同色の光線が放たれ、ポセイドンの眼前で交差。交差した線は集まり、水色の球体を形成していく。
ジオウは危険を察し、動いていた。ライドヘイセイバーに備わっている時計型の選択装置──ハンドセレクターの長針を、ジカンギレードの柄で回す。
『ヘイ! ウィザード!』
力を選択すると同時に、ライドヘイセイバーのトリガーを引く。
『ウィザード! デュアルタイムブレーク!』
ライドヘイセイバーの剣身が燃え上がる。燃え上がった剣身に、ジカンギレードを触れさせると、その炎がジカンギレードにも燃え移った。
「ふん!」
ポセイドンが目の前に出来た水色の球を頭突きによって飛ばす。球は変化し、大口を開ける鮫へと変化する。
ジオウは、その鮫に向けて交差させていた剣を振るう。剣の軌道に合わせて、×の字を描く炎の斬撃が、水色の鮫に向けて放たれた。
鮫と炎が衝突。途端、揺さぶられる程の衝撃と、視界が全て白く覆われる閃光が発生する。
視界を僅かの間、閉じてしまったジオウ。閃光が収まり、ポセイドンを見るが、さっきまで居た場所にポセイドンの姿は無い。
慌てて探すジオウ。
「ここだ」
ポセイドンの声。聞こえたのは頭上。急ぎ見上げるジオウ。両足を揃えた体勢のポセイドンがそこに居た。
プレート内のオオカミウオの紋章が輝き、その光が両脚へと伝わる。すると、両脚がオオカミウオの頭部へと形を変える。エネルギーで出来た半透明のものでは無い。実体化したオオカミウオの頭部である。
迫ってくるオオカミウオの牙。逃げる猶予は無く、ジオウは剣でそれから身を守ろうとする。
「足りないなぁ!」
オオカミウオの口が開かれ、ジオウの上半身を剣ごと呑み込む。ポセイドンが言う通り、剣では小さすぎた。
「うああああ!」
オオカミウオの顎が何度も開閉し、その度に火花が散る。呑み込まれたジオウに為す術は無い。
繰り返し受けるダメージに立っていられなくなり、ジオウは前のめりに倒れ込もうとする。
「まだだ!」
倒れ込もうとしたとき、ポセイドンが槍で地面を叩く。すると、ジオウの体ごとポセイドンが宙を舞う。
両足を伸ばした伸身宙返り。空中で一回転し、勢いをつけた状態でオオカミウオの頭部を地面に、ジオウにとっては背中から地面に叩き付けられた。
舗装が粉砕され、隆起する。
オオカミウオの頭部が、元の両足へと戻る。解除された両足は、ジオウの首を挟む様な形となっていた。
「う、くう……!」
背中と首にダメージを受け、呻くジオウ。ポセイドンは立ち上がってそれを見下ろす。
「俺の勝ち、だな」
◇
ジオウとポセイドンが戦う中で、ゲイツもアナザーアクアとの戦闘も始まっていた。
蹴り飛ばされた腹部を押さえながら、先程の水溜りを見る。水溜りの中から突き出た一本の足。すると、そこから両手が出て地面に指を立て、這い上がる様にしてアナザーアクアが姿を見せる。
アナザーアクアの登場と共に、水溜りは消えていた。
「そういうことか……!」
アナザーアクアの能力の一端を見た気がした。体を水の様に変化させる。それがアナザーアクアの能力なのだろう。
ゲイツは距離をとった状態で、タジャスピナスピナーから炎弾を放つ。
体を捻り、それを回避してみせるアナザーアクア。だが、体勢がおかしい。下半身は垂直のまま、上半身が捩じれて真横になっている。
通常の人体では在り得ない体勢。アナザーアクアはその在り得ない体勢のまま全速力で走り出す。
「くっ!」
続け様に炎弾を放つが、アナザーアクアは体の一部を凹ませ、伸ばし、縮め、埋めるなどという不規則な動きで全て回避し、あっという間にゲイツとの距離を縮める。
接近されたゲイツ。仕掛けられる前に、ゲイツはアナザーアクアに拳を放つ。アナザーアクアもゲイツから少し遅れて掌打を放った。
「があっ!」
ゲイツは顎にアナザーアクアの掌打を受ける。ゲイツの方が動いたのは早かった。しかし、先に届いたのはアナザーアクアの掌打。
見ると、アナザーアクアの肘の部分が液体状態となっており、それによって腕を伸ばしていた。これによってゲイツよりも先に攻撃を当てられてのだ。
「あ゛あ゛!」
アナザーアクアがよろめくゲイツに上段蹴りを撃つ。咄嗟に腕を突き出してガードしようとするゲイツ。
ゲイツの腕にアナザーアクアの足が触れた瞬間、グニャリと膝に関節が無い様に変化、ゲイツの腕を支点にして曲がり、ゲイツの後頭部を蹴り付ける。
死角からの不意を突いた一撃に、ゲイツは目の奥から火花が散るのを感じた。
倒れそうになるのを必死に踏み止まり、ゲイツは翼を羽ばたかせて上空に飛び上がる。
「あ゛あ゛あ゛……」
空に飛んで行くゲイツを見上げるアナザーアクア。すると、右手で左腕を掴み、何を思ったのか左腕を引き千切る。
「何っ!」
それを見ていたゲイツも驚くしかない。ゲイツが驚いている隙に、アナザーアクアはその左腕をゲイツに向けて投げ付けた。
回避に間に合わず、左腕がゲイツに接触。触れると同時に左腕は水風船の様に割れ、割れた左腕は水となってゲイツの全身を濡らす。
「これは……?」
水浸しとなる己の全身を見た後、地面にいるアナザーアクアを見る。すると、アナザーアクアの全身が水滴状に変わり、ゲイツに向かって飛ぶ。
上から下に向かって降る雨ではなく、天に向かって返っていく雨。
下からの集中豪雨を浴びせられるゲイツ。
雨が止んだ瞬間、ゲイツは耳元で聞く──
「あ゛あ゛あ゛」
「なっ!」
──アナザーアクアの声を。
アナザーアクアは、ゲイツの両腕ごとタジャドルアーマーの翼を背後で拘束し、羽ばたけない状態にする。
当然落ちていくゲイツ。アナザーアクアは逃げられないゲイツの背中に右膝を押し当てる。
地面への落下。その衝撃を挟み込む様にして背部から抉り込む膝。
窪んだ舗装の上には横たわるゲイツとそれを踏み付けて立つアナザーアクアの姿があった。
初戦回ということで、敵側を強く描写してみました。変身は解除されていないからまだ負けじゃない、ということで。
因みに本作のポセイドンは、メダル一つにつき必殺技も一つという設定になっています。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ