成程、剛烈はキカイの力、疾風はシノビの力という訳か……あれ? クイズは? クイズの要素は? まさか剛烈、疾風の二択を選ぶところ?
「う、く……」
「はぁ……はぁ……」
ジオウ、ゲイツはそれぞれポセイドン、アナザーアクアによって窮地に追いやられていた。
二人の変身はまだ解除はされていなかったが、大きなダメージを肉体に受けてしまったせいですぐに動けない状態になる。このまま一撃でも受ければ彼らの変身は解除され、無力な生身を敵の前に晒すこととなる。
「ふっ」
動けないジオウの姿を一笑し、ポセイドンはその首元に向けて手を伸ばす。
空気を震わす音の後、ポセイドンの伸ばした手が見えない何かによって弾かれる。
「ん?」
手に衝撃を受けたポセイドンは、ダメージを受けた素振りは見せず、自分のことよりも衝撃波を放った人物の方に意識を向ける。
ミハルが気絶をしている場所で手をポセイドンに向けて突き出している黒ウォズ。ジオウの危機を察してこの場に現れた。
「お前か」
「我が魔王への狼藉、見過ごす訳にはいかない」
「確か黒ウォズだったか……? ふん。センスの無い名だな」
「事実でも、我が魔王が私に与えた名を侮辱するのは許されないことだ」
ポセイドンの足元でジオウが小声で『そう思ってたんだ……』と洩らしショックを受けていたが、二人の耳には届かない。
「我が魔王、ここは一旦退くのが賢明だ」
黒ウォズが巻いていたストールが何倍もの長さに伸び、ポセイドンの側で仰向けになっているジオウの胴体に巻き付く。
そのままストールによって引っ張られるジオウ。黒ウォズの予想に反し、ポセイドンは何もせずジオウが救出されるのを黙って見ていた。
黒ウォズは知る由も無いが、ジオウが黒ウォズに助け出された時点で彼の中で勝敗は決まった。
即ち自分の勝利である。
戦いへの飢えは確かにあるが、それでも戦いに関して気に入る、気に入らないという考えもある。挑んでくるのなら相手の命を散らすまで戦い合うつもりだが、逃げる相手を追いかけて戦う程ポセイドンは暇では無いし、時間の無駄だと思っていた。
それが理由の一つ。もう一つは──
離れていくジオウを、ポセイドンは槍に持たれながら眺める。
ポセイドンの視線の中で、ジオウは無事黒ウォズの下まで行く。
「黒ウォズ! ゲイツも!」
「──我が魔王は、注文が多い」
言葉に少しの不満があったが、断ることはせずにゲイツにもストールを伸ばす。ゲイツの腕に巻き付き、勢い良く引っ張られると、ゲイツに足を乗せていたアナザーアクアは、足をすくわれ背中から転倒した。
アナザーライダーから別のアナザーライダーに変えられた影響のせいか、アナザーポセイドンのとき以上に理性を感じず、また知性もあまり感じられなくなっている。
ゲイツを引き寄せた黒ウォズは、ストールで自身らを包み込む。巻かれたストールは球状になり、中心に向かって収縮し始め、最後には中のジオウたちごと消えてしまった。
ジオウたちが消えたのを見て、ポセイドンはアナザーアクアの様子を見る。
大の字になっていた筈のアナザーアクアは居なくなっており、地面ある人型の濡れた跡がついさっきまで居た名残としてあった。
気付けばスウォルツの姿も無い。彼の指示によってアナザーアクアは去っていったのかもしれない。戦う以外の自主性が欠如している様相だったので。
「どいつもこいつもせっかちだな」
取り残されたポセイドンがせせら笑う。が、同時にはぶられたことへの愚痴にも聞こえた。
「──で、お前はゆっくり出来るのか?」
自分を監視している視線に気付き、その視線の主に問い掛ける。
「まさか、こんな事態になるとは予想外だよ」
ポセイドンの問いに応じる形で、物影から姿を現したのはもう一人のウォズ──白ウォズであった。
白ウォズの登場に、ポセイドンは暫しの間凝視する。
「……双子か?」
「まあ、似た様なものさ。詳細な説明は省かせて貰うよ。君に対してそんな義理は無いからね」
白ウォズは、喋りながら右手の指先を何かを描く様に動かす。黒ウォズとは違い、言動に芝居がかった大仰なものをポセイドンは感じた。
「本当なら干渉するつもりは無かった」
「その割には随分と刺々しい目で見てたよな?」
監視と言いながらも、白ウォズの隠れる気の無い殺気を帯びた視線にポセイドンは気付いており、その殺気の強さに興味を持った。ポセイドンがジオウたちを見逃したもう一つの理由がこれである。
「君が彼に対して言ったことを聞き過ごすことは出来ないなあ」
「彼?」
「我が救世主に『弱い』と言ったことだよ」
白ウォズの言葉で、ポセイドンの中で『彼』と『ゲイツ』が結びつく。同時に、新たに出た救世主という言葉に疑問を抱く。
「事実を言っただけだ。それが悪いことか?」
「彼はいずれ魔王を倒し、未来を救う救世主となる。君如きが下に見ていい存在じゃない」
「はっ。御立派な将来に、御大層な肩書きだな。あー」
そこでポセイドンは何か思い至る。
「あいつの余裕の無さと焦りはそれが理由か。いや、それともそれを押し付けるお前か?」
「そんなことはどうでもいい。彼への侮辱は、ひいては私への侮辱に等しい」
「それで? ──戦るつもりか?」
槍にもたれるを止め、柄を足で払い、穂先を突き付ける様に構え直す。
「君の力は、ここで奪っておいた方が賢明かもしれないね」
「俺の力を奪う? 止めておけ。後悔することになるぞ?」
ポセイドンの忠告を一笑し、白ウォズは虚空に手を伸ばす。
緑の光が何処からともなく放たれ、その光が線を描く。線は枠を描き、半透明の像を宙に浮かび上がらせる。光がその像を描き終えたとき、それは質量を持つ物体へと変わった。
黒色の長円形で中央は出っ張った造りになっており、若緑色の枠で囲まれ透明の板が填め込まれている。
右端には挿し込む為の溝が作られた円形のスロットとハンドルが一体と化した装置が付けられており、左右非対称の見た目であった。
「ほう?」
その物体を見たポセイドンが関心を含んだ声を洩らす。形の詳細は違えどポセイドンにとって見覚えのある物であり、同時にあることの証明でもあった。
「お前も仮面ライダーか」
白ウォズはニヤリと笑い、虚空から出した物体──ドライバーを下腹部に当てる。
『ビヨンドライバー!』
ドライバーそのものが何物であるかを告げ、ビヨンドライバーから射出された若緑色のベルトがドライバーを固定する。
続けて取り出すのはライドウォッチ。だが、ソウゴたちが使用していたものとは各部が違っている。ソウゴたちのライドウォッチは、外輪を九十度回転させることでライダーも顔となるが、白ウォズのライドウォッチは最初からライダーの顔となっている。また、円形の中にライダーの顔が収まっておらず、白ウォズのライドウォッチは長方形の中にライダーの顔が描かれていた。
過去、現在のライダーの力を宿すのが、ソウゴたちのライドウォッチ。しかし、ウォズのライドウォッチは違う。異なるもう一つの未来のライダーの力を宿したミライドウォッチと呼ばれる代物である。
白ウォズは左手に持つウォッチ上部にあるスイッチを押し、ミライドウォッチを起動させる。
『ウォズ!』
同じ名を持つライダーの名をウォッチが叫ぶ。
白ウォズはそのミライドウォッチ、設けられたスロットに挿し込む。
『アクション!』
スロットにミライドウォッチがセットされることで、ドライバー中央にある顔の無い鏡像が浮かび上がる。
白ウォズは、再びウォッチのスイッチを押す。ミライドウォッチが左右に開閉され、その内部から仮面ライダーの胸像が現れる。
すると、白ウォズの背後に正方形の薄緑色の光で作られたパネルの様なものが出現。そのパネルから光の線が幾つも伸びる
「変身」
掛け声と共に、スロットと一体となっているハンドルを前に倒す。ミライドウォッチ内部の仮面ライダーの胸像が、ドライバー中央側面に填め込まれる。
『投影!』
その声が示す通り、ミライドウォッチ内部の情報が光となってドライバー内部に送られ、ドライバー中央に浮かんでいた顔の無い胸像に、ミライドウォッチ内の胸像が重なる。
『フューチャータイム!』
背部パネルから飛び出す文字。同時に、情報となった光の帯が幾つも重なって白ウォズを包み込み、その情報を物体化させ、白ウォズの体を銀のスーツで覆う。
更に各角度から薄緑の光が白ウォズに向かって放たれ、その光は途中で形を変え、装甲を形成する。
『スゴイ! ジダイ! ミライ!』
装甲がスーツに装着され、飛び出し文字『ライダー』が白ウォズの顔に収まったとき、彼の仮面ライダーとしての姿が完成する。
『仮面ライダーウォズ! ウォズ!』
両肩には薄緑で縁取られた正方形の黒い装甲。装甲中央には『カメン』という文字がマークとして刻まれている。手、足、胸部にも同配色の装甲を纏っている。
額には『カメン』のマークを中心にして長針、短針の形のヘッドパーツが備わっており、また、顔もそのマークを中央に黒い円が同心円状に広がり、その曲線に合わせて水色の『ライダー』の文字が填め込まれている。
もう一つの未来からやって来た仮面ライダー、仮面ライダーウォズが同じく未来から来た仮面ライダーポセイドンの前に立ち塞がる。
ウォズが右手を上げる。ドライバーが輝き、光が具現化し形を得る。
『ジカンデスピア!』
黒い柄に四つのタッチパネル式の入力装置が付き、柄の先端は円形となっており、そこから金属とは違う物質で出来た若緑色の刃が出ている。円形の部分には文字が描かれており、その文字は『ヤリ』の二文字。
『ヤリスギ!』
「──面白い!」
自分と同じ得物を構えるウォズを見てポセイドンは愉し気に言った後、自分もまた武器を構え直す。
「お前は楽しませてくれるよな?」
「そんな心配よりも、自分の心配をした方がいいんじゃないか?」
「良い答えだ!」
ポセイドンが駆け出し、ウォズはそれを迎え撃とうとする。
最初に仕掛けたのはポセイドンだった。槍の間合いに入れると同時に槍を横薙ぎに振るう。身を低くし、それを躱したウォズは、ポセイドンの足を狙い反撃の下段払い。
火花が散り、甲高い音が鳴る。
ウォズの刃が斬ったのはポセイドンの足ではなく、彼の槍の穂先であった。ウォズはポセイドンの両足が地面から消えていることに気付く。
ポセイドンは槍の穂先を地面に突き刺し、柄の上で倒立をしていた。ウォズが穂先を払ったことで、その反動を利用し、空中で体勢を変えながらウォズの頭上に倒れ込む様に斬りかかる。
しかし、その一撃もウォズは視線を向けることなく柄で受け止めた。防いだ後にウォズはポセイドンを見る。
「まだ愉しむ余裕はあるかい?」
「はははは! 当たり前だ!」
槍と槍が三度衝突し合う。力と力が衝突し、戦いの熱気は加速していく。
未来の仮面ライダー同士の戦いは、まだ始まったばかりである。
◇
クジゴジ堂でツクヨミは預かったみはるをあやしていた。順一郎には迷子を保護し、ソウゴたちが親を探している最中だと、一応本当のことを説明している。
ツクヨミも順一郎も悲し気なみはるの気を何とか紛らわせようと色々とやったが、みはるの表情一つ変えることが出来なかった。
順一郎はみはるに何かお菓子でも食べさせ様とクジゴジ堂奥に入っている。既製品ではなく、手作りのお菓子を作るつもりらしい。
「みはる君、ジュースでも飲む?」
「ううん……」
みはるは首を横に振って項垂れるだけ。みはるのこちらに対する警戒をツクヨミは感じていた。年端も行かない子供が、父親が行方不明になり、見知らぬ人、場所という環境に置かれれば無理も無いと考える。
ツクヨミも何とか機嫌を直したいと思っているが、如何せん子守りなど得意ではないので、上手い方法が思い付かない。
暗いみはるに対し、ツクヨミはただ見守ることしか出来なかった。
突然、クジゴジ堂の入口が勢い良く開く。そこから傷を負ったソウゴ、ゲイツが気を失ったミハルに肩を貸した状態で入ってきた。
「ソウゴ! ゲイツ!」
「た、ただいま……」
「……今、戻った」
ツクヨミは慌てて三人に駆け寄る。みはるもた駆け寄っていた。
「二人ともその怪我! ──この人、大丈夫なの!?」
「お兄ちゃん? お兄ちゃん!」
みはるが心配そうにミハルの服を引っ張る。
「大丈夫。ちょっと気を失っているだけだから」
「──何があったの?」
「今から説明する。──大分、面倒なことになったからな」
「あれ? 帰って来たの?」
入口の騒ぎに気付き、順一郎がクジゴジ堂奥から出てくる。菓子作りの最中なのか、エプロン姿で片手に小麦粉の入ったボウルを持っていた。
「おかえり、ソウゴ君──ってどうしたのその傷!」
ソウゴの傷に驚き、慌てて近付く。
「ちょっと、階段で転んで……」
「階段で? ゲイツ君も怪我してるじゃない!?」
「……少し階段で、な」
「ゲイツ君も!? ってその子、今朝うちの店に来た子だよね? どうしたの?」
「んん、まあ階段で……」
「その子も!? 三人とも階段で一体何してたの!?」
ソウゴたちの下手な言い訳を真に受け、順一郎はひたすら困惑し続けていた。
感想にもありましたが、この作中ではアナザーライダーの改変は、対象となったライダーが主人公として活躍した時間としています。正直、どこまで過去改変の影響あるか分からないので。
先代クウガや先代オーズが消えたら、タイムパラドックスが起きて主役ライダーもろともアナザーライダーも消えるんじゃないかと思いました。
最初はゲイツが救世主になって、ジオウのライドウォッチを破壊して中途半端に修正された歴史という設定にしようとしましたが、本編の話を見てダメそうと思い、上述の様に考えました。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ