仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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タイトルはこれなのにアナザーアクアは全く出ません。次回で出ると思います。
やっぱり自我の無い怪人はキャラが薄くなりますね。


アナザーアクア2051 その3

『……』

 

 クジゴジ堂入口付近に置かれている待合用のテーブルで、ソウゴたちは顔を突き合わせて黙っていた。

 当事者であるソウゴとゲイツは勿論のこと、ソウゴたちから別れた後の事情を聞かされたツクヨミも、事の深刻さが分かっており現状をどう打破するべきか考え込んでしまっている。

 そして、四人の中で最も落ち込んでいるのはミハルであった。

 仮面ライダーポセイドンへの変身能力を失ったことも彼にとって気落ちする理由の一つだが、それと同等以上のショックが、ミハルが気絶から目を覚ましたときにあったのだ。

 ミハルが目を開け、自分がいきなりクジゴジ堂に居ることに驚き、周囲を見回し、すぐ側にみはるが居たことにもう一度驚いた。

 

『み、みはる君……』

『……お父さんは?』

『ご、ごめん……』

 

 ミハルが言えたのはそれだけであった。

 今でも彼の目に焼き付いている。父が帰って来ないと分かったとき、みはるの顔が悲しみの色に染まった瞬間を。

 みはるは責めることはせず、そのまま黙ってしまった。その丸まった背は、ミハルには子供が背負うには重すぎる程の悲しみが圧し掛かって見えた。

 現在、ソウゴたちがわざわざ店側のテーブルを使っているのもミハルに気を使っている為である。クジゴジ堂奥のソファーに座っているみはると合わす顔が無いらしい。

 

「……本当に変身出来ないの?」

 

 意を決してツクヨミがミハルに問う。ミハルの力が無ければアナザーライダーを倒せない。彼の事情を詳しく聞かなければ解決の方法も見つからない。

 ミハルは、ジャケットの内側からある物を取り出し、テーブルの上に置く。

 楕円型の銀の外装。その中心部は、スクリューの羽とそれを囲む渦を模した円という機構になっていた。

 

「これは?」

「……アクアドライバー。これで水の力で戦う仮面ライダーアクアに変身出来る、筈だったんだ……」

「でも、変身出来なかった?」

 

 ミハルは無言で頷く。

 

「何か変身出来ない理由があるのか?」

「俺……」

 

 心当たりがあるのか、ミハルが口を開くと、次の言葉に皆が耳を傾ける。

 

「水、苦手なんだ……」

「水、ダメなの?」

「カナヅチなんだ……」

「誰だ! それをお前に渡した奴は!?」

 

 ゲイツの至極真っ当な指摘が飛ぶ。

 

「……アクアドライバーを作った人」

「何でお前に渡した!?」

「分かんないよ。『君なら使いこなせる』って言って渡してくれただけだし……」

「貴方が水が苦手だって知らなかったの?」

「これを渡された時に初めて会った人だし、渡された後に怪人が襲ってきて、その後会ってないんだ」

 

 思ったよりも深刻な事情であった為、それ以上の追求は出来ず、ゲイツはばつの悪そうな表情をして黙る。

 

「変身して何とかしようと思ったけど、アクアドライバーを付けても何の反応もしなくて、結局俺、怪人から逃げることしか出来なかった……」

 

 当時の無力だったときの記憶が蘇り、ミハルはテーブルの下で強く手を握る。

 

「じゃあ、あのポセイドンの力はどうしたの?」

「変身出来なくて途方に暮れていた時に、変なおじいさんがくれたんだ。何でも昔の錬金術師の技術を、現代科学で再現したのが、あのメダルとドライバーなんだとか。確か名前はコウガミだった気がする」

「……よくそんな怪しい奴から、怪しい物を受け取ったな」

「俺だって最初は疑ってたよ。でも、試しに使ってみたら本当に変身出来たから、それ以来ずっとポセイドンの力で戦ってたんだ」

「その結果、あれが生まれた訳か……」

 

 ゲイツの言葉に、ミハルは気まずそうに視線を逸らす。

 

「……本当は、予兆みたいなものがあったんだ。戦っている最中に記憶が飛んでたり、気付いたら怪人を倒していたりって」

「それでも使い続けたんでしょ?」

「俺だって変だと思う時はあったよ。でも、それしか怪人と戦う方法は無かったんだ。それに記憶が無かったときでも無関係の人を傷付けたり、物を壊したりなんてことは無かったし……結局は、自分に言い訳して都合の悪いことから目を背けていただけだった」

 

 自分の内にあのような存在が住んでいたことを知り、過去の自分を嫌でも振り返ってしまう。

 

「──しかし、どうする? ポセイドンの方は何とかなるかもしれないが、こいつが変身出来ないとあのアナザーライダーは倒せないぞ?」

 

 ポセイドンに対して一つの勝算はあった。あのポセイドンは、アナザーポセイドンの体を媒体として変身している。媒体となるアナザーライダーは、別のライダーの力でも破壊することは出来ないが、機能を一時的に停止させることは可能である。アナザーウォッチを機能停止させればアナザーポセイドンは消え、ポセイドンも変身を維持出来なくなるかもしれない、というのがソウゴたちの考えであった。尤も希望的観測に過ぎないが。

 

「でも、そのポセイドンは放っておいて大丈夫なの? ソウゴたちを襲って来た危ない奴なんでしょ?」

「好戦的な奴なのは間違いないが、どうも破壊よりも戦いを求めている様子だった。こいつの話を聞く限りだと、無意味な破壊や一般人を襲う様な真似はしないらしい。──あくまで印象だがな」

「俺もゲイツに賛成かな。戦いにしか興味が無い、そんな気がする」

 

 闇雲に暴れず、ジオウとゲイツどちらと戦うかを選んだりなど行動の端々に理性的なものを感じられた。とは言っても確信は無く、ソウゴもゲイツもあくまでそういう風に見えたというだけだが。

 

「戦いを求めている……もしかしたら、またソウゴたちの前に現れるかも」

「どうだろう。俺とは決着はついてないけど、向こうは自分の勝ちだと思っていたみたいだし、ゲイツには興味無かったし……」

「ちっ」

 

 対戦相手として弾かれたときの屈辱を思い出し、ゲイツは舌打ちをする。

 

「──となると、次に狙うとしたらアナザーライダーか」

「白ウォズかもね」

 

 ポセイドンと同じ力を持つ存在は限られている。ソウゴたちを除けば候補は二人。もしかしたら、既に戦っているかもしれない。

 

「じゃあ」

 

 ソウゴが二つのウォッチを取り出し、同時に起動させる。

 

『タカウォッチロイドー! タカ!』

『スイカアームズ! コダマ!』

 

 ウォッチは鳥の形と小型のロボへと変形する。

 

「頼んだよ」

『サーチモード! 探したタカ! タカー!』

 

 コダマスイカアームズが出入口の扉を開け、その隙間からタカウォッチロイドが飛んで行く。

 これで何か異変があればあの二体がソウゴたちに報せてくれる。

 

「あ、あの……」

 

 今後についての話し合いを再開しようとしたソウゴたちに、ミハルの気弱な声が飛ぶ。

 

「どうしたの?」

「思い出したんだけど……君たち、仮面ライダーの力を奪えるんだよね?」

 

 ミハルは黒ウォズが言っていたことを思い出していた。あの時は恐れを抱いたが、今は妙案にすら思えてくる。

 

「君たちが俺の力を奪って、それを使えば……!」

「本気で言ってるの?」

 

 真っ直ぐ見つめてくるソウゴの目に気圧され、ミハルは逃げる様に視線を下げる。

 

「俺のせいで、俺の弱さのせいで過去の世界に迷惑を掛けたんだ。俺は……仮面ライダーになるべきじゃなかった……」

 

 

 ◇

 

 

 赤の斬撃と緑の斬撃。それらが時に交差し、時に衝突し、時に火花を散らす。

 ポセイドンが突きを放てば、ウォズが柄でそれを逸らし、逆にウォズが払えば、ポセイドンがそれを撃ち落とす。

 

「ふっ!」

 

 ポセイドンの右足が足元の影を置き去りにする勢いで跳ね上がり、ウォズの顔に襲い掛かる。

 ポセイドンの右足から凶悪な牙を持つオオカミウオのエネルギーが飛び出す。しかし、ウォズはその間合いすら把握し、一歩分後退しながら上体を後ろに傾ける。

 ウォズの眼前でオオカミウオが上下の牙を打ち付け合い音を鳴らした。

 紙一重で今の攻撃を回避したウォズに、ポセイドンは高揚し、戦意が高まる。強敵との一進一退の攻防。ポセイドンが望むものであった。

 

 チャリーン……チャリーン……

 

「ん?」

 

 ポセイドンの頭に過る、降り注ぐ銀貨とそれが積もっていく音。ジオウとの戦いの中でもあったそのイメージに、ポセイドンの動きが僅か鈍る。

 

「はっ!」

 

 その一瞬の隙を衝かれ、ウォズの槍がポセイドンの肩を斬り付けた。

 

「ちっ!」

 

 咄嗟に反応して後ろに下がるが、少し遅れてしまいポセイドンの右肩に小さく、浅いが裂傷が刻まれる。

 

「何か考え事かい? 随分と余裕じゃないか? その様で」

 

 ウォズの憎まれ口が飛ぶ。

 

「ふん。やっと一撃入れたぐらいでいい気になるな」

 

 傷自体、戦いに支障をきたすものではない。が、先に貰ったという事実はポセイドンに屈辱感を与える。

 

(さっきから何だ? あのイメージは……?)

 

 ポセイドンは戦いの中で過るあの銀貨のイメージに戸惑う。だが、何故かその銀貨には既視感を覚える。

 

(――ん?)

 

 積み上がった銀貨の山を掴み取るイメージをしたとき、ポセイドンはあることに気付く。

 一方でウォズも少しずつ違和感を覚えていた。

 

(強くなっている……?)

 

 徐々にだがポセイドンの速度、力が増しているのを戦っていてウォズは感じていた。先程の一撃も、ウォズは手応えのある一撃が入っていた筈であった。しかし、現実は即座に反応されかすり傷に抑えられてしまった。

 

(時間を掛けるのは厄介かもしれないな)

 

 さっさと決着をつけようとある物を取り出そうとし、気が付いた。ポセイドンが手の中に銀貨を握っていることを。

 

「──それは何だい?」

「さあ? 俺も分からん。分からんが……使い方は分かる」

 

 ポセイドンは手の中に何枚もの銀貨を握り締め、砕く。幾つもの破片となったそれを宙に放ると、破片の一つ一つが、黒い体に薄汚れた布を巻き付けた顔の無い怪人と化す。

 ポセイドンは知らないが、屑ヤミーと呼ばれるそれらの怪人たちはフラフラと体を揺らしながらも、全員がウォズに目の無い顔を向けている。

 

「ほう? そんなことも出来るのかい?」

「ああ、俺も今知った」

 

 ポセイドンの言う通り、体が自然に動き屑ヤミーを生み出した。

 

「しかし、数で攻めてくるとは。君は考え無しに前線で戦うタイプだと思っていたよ」

「戦い方なんて一つとは限らない。狭い了見だな」

 

 ウォズの皮肉を、ポセイドンは嘲りで返す。槍という同じ武器で戦うが、性格の反りが合わない。

 

「確かに、戦い方は一つとは限らない」

 

 ウォズの手に新たなミライドウォッチが握られる。紫の面。黄色の目。額と顔には手裏剣。それは忍者を連想させる。

 ウォズはそのミライドウォッチのスイッチを押す。

 

『シノビ!』

 

 2022年に於いて、忍者の力で戦う未来の仮面ライダー、仮面ライダーシノビの力を宿したミライドウォッチである。

 これはウォズがゲイツに覚醒を促す為に渡した物だが、まだ迷うゲイツの姿を見て、血迷って愚かな真似をすることを懸念し、密かに回収していた。回収したのはゲイツがアナザーポセイドンと戦う前。実は、あの時ノートにもう一つ書き込んでいた文章がある。

 

『ウォズ、ゲイツに気付かれる事無くミライドウォッチを回収』、と。

 

 ウォズミライドウォッチを外し、勝手に回収したシノビミライドウォッチを挿し込む。

 

『アクション!』

 

 もう一度シノビミライドウォッチのスイッチを押す。ウォッチが開き、中から新たなライダーの胸像が現れる。

 

『投影!』

 

 ハンドルを前に倒し、ドライバー中央にその胸像部分を填め込む。

 

『フューチャータイム!』

『誰じゃ? 俺じゃ! 忍者!?』

 

 ウォズの両肩、胸部の装甲と顔の『ライダー』の文字が消え、四方から伸びる紫の光がウォズの周囲に新たな装備を作り出す。

 

『フューチャーリングシノビ! シノビ!』

 

 光が実体となり、ウォズへと装着される。

 両肩の正方形の紫の装甲は、角に鋭利な刃が突き、装甲の中心には手裏剣のマーク。胸部装甲中央にも大きな手裏剣が付けられている。

 首には長く伸びた紫の布をマフラーの様に巻き付け、額に手裏剣型のパーツを付け、顔の文字は『シノビ』へと変わる。

 仮面ライダーウォズフューチャーリングシノビ。未来のライダーが未来のライダーの力を纏った姿である。

 ウォズはジカンデスピアの柄にある入力装置を指で押す。すると、刃が九十度倒れ、『ヤリ』の文字が『カマ』に変わる。

 

『カマシスギ!』

 

 別の姿となったウォズに、ポセイドンは関心する様な声を出す。

 

「ほう? ──行け」

 

 その実力を確かめる為に、ポセイドンは屑ヤミーたちに指示出し、屑ヤミーはそれに従って、両手を伸ばしながらフラフラとウォズに近付いていく。

 ウォズは屑ヤミーたちの鈍重さを鼻で笑うと、ベルトのハンドルを引き、再び前に倒す。

 

『ビヨンド・ザ・タイム!』

 

 ドライバーで発生した力がウォズの手を通じてカマモードのジカンデスピアに流れていく。

 

『忍法! 時間縛りの術!』

 

 ウォズがジカンデスピアの刃を地面に突き立てる。紫の光が蜘蛛の巣の様に広がっていき、その上に立つ屑ヤミーたちの動きは時間が止まったかの様に動かなくなる。

 動きが止まった相手など簡単に料理出来る。

 ウォズの体がぶれ、そこから何体ものウォズたちが飛び出し、止まった屑ヤミーたちへと向かう。

 

『ストロング忍法ッ!』

 

 分身の一体が紫炎を生み出し、敵を焼く。

 

『メガトン忍法ッ!』

 

 分身の一体が鎌を切り上げると竜巻が発生し、敵を捩じ切る。

 

『フィニッシュ忍法ッ!』

 

 紫の光を纏った蹴りが屑ヤミーの頸部を砕き、同じ光を纏った手刀が頭蓋を砕く。

 屑ヤミーたちが爆発四散し、元の欠片へと戻ったとき、最初にいた屑ヤミーたちの数は三分の一となっていた。

 散っていた分身たちが、元のウォズの下へと戻るとパチパチと拍手が鳴る。送っていたのはポセイドンだった。

 

「面白い忍者ショーだ。中々有意義な時間だった」

 

 ウォズの力を目の当たりにしても不遜な態度は崩れない。

 

「なら次は、クイズショーでもどうかな?」

 

 取り出したミライドウォッチ。額に大きなクエスチョンマーク。両眼もまたクエスチョンマークの形をしていた。

 

『クイズ!』

 

 クイズミライドウォッチ。宿す力はクイズの力で戦う2040年のライダー、仮面ライダークイズ。

 

『アクション!』

『投影!』

 

 シノビの力を外し、クイズの力をドライバーへ投影させる。

 

『フューチャータイム!』

 

 シノビの力が外され、黄色の光が新しい力を具現化させる。

 

『ファッション! パッション! クエスチョン!』

 

 右肩は赤。左肩は青の装甲。胸部装甲赤と青のラインで縁取られ、中央にクエスチョンマークが縦に連なっている。

 額には大きなクエスチョンマーク。顔に填め込まれた文字は『クイズ』。

 

『フューチャーリングクイズ! クイズ!』

 

 仮面ライダークイズの力を纏ったウォズは右手の人差し指を立て、ポセイドンに向かって言う。

 

「問題、君との勝負は私の方が勝つ。〇か? ×か?」

 

 

 




ポセイドン対ウォズは次回で一応決着します。
それにしてもジオウのスピンオフは豪華ですね。
ハッタリと全サバイブ装填のオーディンが気になってしょうがないです。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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