あと三、四話でアナザーポセイドン&アナザーアクア編は終わりです。
「ああ?」
仮面ライダーウォズフューチャーリングクイズからいきなり出されたクイズに、ポセイドンは訝しむ声を出す。
名前がクイズであり、その名の通りクイズを出すことにおかしい点は無いが、それを戦いの最中に出してくるとなると流石に疑問を持たざるを得ない。
「あと五秒」
答えないポセイドンに、ウォズは挑発する様に開いた五指を見せる。
「あと四秒」
ウォズの指が一本曲がる。
答えるべきか、答えないべきか。短い時間の中でポセイドンは考える。仮に答えるとしたらポセイドンの答えは×である。自分が勝つと思っているからだ。
が、そもそもこのクイズに正解があるのかという疑問が同時に生まれる。
「あと三秒」
ウォズにしてみれば、ポセイドンが答えようが答えまいがどちらでも良かった。寧ろ答えない方がウォズにとっても良い。フューチャーリングクイズの能力は、不正解、そして無回答でも発動する。無回答の方がウォズにとってリスクは少ない。
「あと二秒」
ポセイドンは未だに答える気配は無い。フューチャーリングクイズの能力に警戒し過ぎている。
「あと一秒」
ポセイドンはまだ答えない。ウォズの最後の指が曲げられようとする。
「ゼ──」
「だとさ」
「──ロ?」
突然、ポセイドンは近くにいた屑ヤミーの肩を叩く。まるで、屑ヤミーがウォズにクイズを出されたかの様に。
ポセイドンはクイズに答えず、別の相手にそれを放り投げた。
ピンポーン!
音と共にウォズの右肩の装甲が開く。装甲の裏には〇が描かれていた。
屑ヤミーの頭上に突如として黒雲が生まれる。それに気付いたポセイドンはすぐさま屑ヤミーから離れる。
その直後に黒雲から雷が発生し、それが屑ヤミーの頭上に落ちる。
頭から足元まで雷は駆け抜く、屑ヤミーを白く発光させる。屑ヤミーの体は落雷の衝撃に耐え切れず爆発し、銀貨の破片へと戻る。
仮面ライダークイズの力は、文字通りクイズに依存する。必ず〇か×で答えられる質問でなければならないし、ウォズが〇だと思っていても、フューチャーリングクイズが×と判定することもある。強力な能力故に使用者にも同じく強い縛りもあるのだ。
ポセイドンが行ったことは至極簡単なこと。自分の解答権を、他者に譲渡しただけである。そのせいでクイズの能力の対象がポセイドンから屑ヤミーへと移った。効果的な逃れ方に見えるが、結局は他人を犠牲に自分が生き延びるということであり、少なくとも善人には真似出来ない方法である。
「──成程。そういう能力か」
ポセイドンの声には笑いが含まれていた。先程の一撃を回避出来たのは、全くの偶然である。気まぐれでした行動だが、それによってほぼ間違いなく受ける筈であった攻撃を回避し、無傷で相手の能力を知ることが出来た。
雷の衝撃で倒れ、その様を笑うウォズを下から見上げていたかもしれない、もしもの未来にあった屈辱。だが、今の立場は逆。
能力を空振りさせられ歯噛みするウォズを、ポセイドンが笑う優越の現実。
「運の良い……」
「実力の内、だな」
ポセイドンが槍を振るう。その槍から放たれた衝撃波が、ウォズを襲う。
飛び退いてそれを避けると、ウォズはすかさず第二問を出す。
「問題、チンパンジーの血液型は全てA型である。〇か×か?」
「またか。おい、お前が答えろ」
すぐに近くの屑ヤミーに声を掛ける。解答を放り投げられた屑ヤミーは、困っているかの様にウォズとポセイドンを交互に見る。
ブブー。
「正解は×だ」
ウォズの左肩が開き、×印が現れると、その屑ヤミーの上に黒雲が発生し、雷を落として屑ヤミーを破壊する。
ポセイドンは地を蹴って跳躍し、槍を突き出しながらウォズに飛び掛かる。
ウォズはジカンデスピアの入力装置のボタンを指先で触れる。
『ツエスギ!』
刃の部分が円形部分に折り畳まれ、『カマ』の文字は『ツエ』という文字に代わり、鉤状の刀身が先端となる。
ウォズは、ツエモードとなったジカンデスピアで突き出されたポセイドンの槍を受け止める。
「問題」
「しつこい奴だ」
鍔迫り合い状態でも口は動くので、容赦なく問題を出す。ポセイドンもいい加減苛立ちを覚えていた。
「君の槍は、私に当たる? 〇か? ×か?」
「今度は──」
別の屑ヤミーにまた解答を丸投げしようとしたポセイドンであったが、ふと気付く。出された問題が、槍を持っている相手を対象としたものであることに。
仮に屑ヤミーに解答権を譲ったとしても、ウォズが解答者として指定したのは槍を持っている人物、つまりポセイドンである。その場合、無回答と同じであり雷はポセイドンへと降り注ぐだろう。
そこまで見抜くと同時に、クイズの対象にならない方法は一つだけ思い付く。しかし、それもウォズにとって狙いであることはすぐに察することが出来た、出来たが、ポセイドンにとって選択肢は一つしかない。
「ちっ」
ポセイドンは悔し気に舌打ちをし、手に持つ槍を近くに居る屑ヤミーに放る。
「取れ!」
ポセイドンの命令が飛び、屑ヤミーがポセイドンの槍を受け取った。
「中々賢い。賢いが──」
ウォズが笑うと同時に、左肩の装甲が開く。
ブブー。
「×だ」
槍を受け取った屑ヤミーに落雷を受けるのと、丸腰になったポセイドンがウォズの突きを肩に受けるのはほぼ同じタイミングであった。
「ッ!」
ポセイドンの口から洩れる僅かな声。本当ならば声一つ洩らす気は無かったが、突きの衝撃で息が押し出され、それが微かな声と化した。
橙色の軌跡を宙に描き残すウォズの突きが体に触れると同時に、腰を半回転させ突きの力を受け流してみせてが、刀身に込められたエネルギーまで受け流すことは不可能であり、鯨の頭がある右肩装甲の一部が溶解する。
二、三歩後退するポセイドンに、ウォズがもう一度突きを繰り出そうとする。しかし、ポセイドンも二撃目を許すほど甘くは無く、受けた一撃目への怒りは軽くない。
鯨の尾がある左肩装甲が青く輝く。すると、その輝きはエネルギーとなって左肩から溢れ出し、半透明の巨大な鯨の尾鰭を作り出す。
脚部のオオカミウオの頭と同じく、鯨の尾鰭を実体化させてみせた。
目の前に現れた鯨の尾に、ウォズも踏み込む筈だった足を急停止させる。その止まった一瞬を狙い、鯨の尾がしなり、ウォズに巨大な一撃を打ち込む。
横から迫る尾に対し、ウォズはジカンデスピアを縦に構えてそれを受ける。しかし、威力を押し殺すことが出来ず、ウォズは足底で地面を削りながら数メートルほど移動させられた。
振り抜かれる鯨の尾。巨大なエネルギーの塊をその身に受けたウォズだが、両脚は折れることなくしっかりとウォズを支えている。
ポセイドンは受け切ったウォズに短く舌打ちをしながら、受けた傷を見た。白い煙が燻っており、それが傷の具合を表している。
ポセイドンの本体はメダルであり、ポセイドンの体はアナザーポセイドンを芯にして変身していることで存在出来ていた。今の仮面ライダーポセイドンは、メダルの力によって作られた鎧であると同時に、ポセイドンの肉体に等しい。その鎧に損傷を受けるということは、肉体が傷付くことを意味している。
ようやく手に入れた自分だけの体である。それを傷付けられたことで、ポセイドンは怒りを覚える。
「やってくれたな……!」
怒気が籠った声で、静かにウォズを威嚇する。ウォズの方は、汚れを払う仕草をしながら杖を突き付ける。
「それはこちらの台詞だと思うが?」
防いだとはいえそれなりのダメージを受けたウォズもまた表面上は冷静だが、内心ではポセイドンに苛立ちを覚えていた。
今すぐにでも目の前の敵を倒したい。
互いを気に入られない両者の考えが、皮肉にもここで一致した。
投げ渡した槍を回収せず、ポセイドンはウォズに向けて両手を組む。胸のプレートにある鯨の紋章が青く輝き、その光はポセイドンの両肩、両腕へと伝わっていく。
ウォズもジカンデスピアの入力装置にある『カメン』と描かれた文字を指で触れる。
『フィニッシュタイム!』
必殺を告げる音声の後、入力装置を指でスワイプする。
『不可思議マジック!』
杖の先端から無数に飛び出すクエスチョンマーク型のエネルギー。
「ふん!」
「はあ!」
ポセイドンは、組んだ両手を突き出すと共にその両手を開く。そこから放たれる青の力は鯨の姿となり、敵を呑み込む為に大口を開ける。
ウォズが杖を振るうことで、宙に浮かぶクエスチョンマークたちはウォズの前方へ移動し、鯨を遮る壁となる。
鯨の大口がクエスチョンマークを呑み込む。呑み込まれたクエスチョンマークは輝き始め、やがて鯨の閉ざされた口が倍以上に膨張し──
「くっ!」
「うっ!」
ポセイドン、ウォズを巻き込む大爆発となった。
その爆発によって残りの屑ヤミーたちは全て破壊され、ポセイドンたちも爆発の衝撃で吹き飛ばされる。
「おおおおっ!」
爆風で飛ばされるポセイドン。何とか空中で体勢を立て直し、地面に足から着地する。しかし、着地と同時にポセイドンは膝を突く。その全身には大小傷が出来ており、爆発の熱に炙らせたせいで白煙が立ち昇っていた。
「──流石に効いたか」
互いの必殺技を近距離で衝突し合ったのは体に堪えた様子。元居た場所が見えなくなる程の飛ばされた爆発を、その身に受けて無事である方がおかしい。ウォズの姿は見えないが似た様な状態になっているのは想像が出来た。
尤も爆発一つで闘争心も爆破される様なやわな精神をポセイドンは持っておらず、すぐにでもウォズを見つけて再戦を挑みたいという気持ちはある。
しかし、状況がそれを許さない。
「何だ? 何が起こったんだ?」
「爆発よ! 爆発! 向こうで!」
「ガス事故でもあったのか?」
爆発の騒音を聞き付け、一般人たちが集まり始めていた。野次馬に自分の姿を見られるのは不味いと考えたポセイドンは、身を隠す為に動く。
(ちっ。俺がコソコソと逃げる様な真似をするとはな)
この行為自体、ポセイドンにとって屈辱的だが、だからといって戦う力の無い一般人と戦う気も倒す気も湧かない。その甘い考え方が宿主であったミハルを連想させ、ポセイドンはますます不機嫌になりながらも野次馬の目が届かない場所を目指す。
◇
「断わる」
「え!?」
ゲイツの口から出たのは了承の言葉では無く、拒否の言葉であった。
「な、何で!?」
「白ウォズならお前の提案に飛びつくかもしれないが……」
「さっきも聞いたけどシロウォズって誰?」
「うーん。もう一人のウォズかな」
ソウゴの答えに、ミハルの疑問は深まるばかりである。
「兎に角、俺は奴を信用していない。お前の力を奪うことは、奴の思惑に乗るのに等しい。何を考えているか分からない奴の思惑通りに動くなどごめんだ」
それだけ言うとゲイツは腕を組んでそっぽを向いてしまう。
「……ソウゴは?」
「うん。俺もゲイツと同じ。ミハルから力を奪うつもりは無いよ」
「じゃ、じゃあ、どうやってアナザーライダーを?」
「ミハルが倒せば大丈夫!」
「だ、だから、俺、変身が出来ないから……」
「なら変身が出来る様に特訓しよう」
「と、特訓?」
──数分後。
「二人とも用意はいい?」
ストップウォッチを構えるツクヨミが、ミハルとソウゴに確認する。
「いつでもどうぞ!」
「だ、大丈夫」
向かい合うソウゴとミハル。テーブルの上には、何故か水で満たされた洗面器が二つ置かれている。
「よーい──スタート!」
ツクヨミの合図と共にソウゴたちは洗面器に顔を付ける。
その状態で十秒経過。二十秒、三十秒と時間が過ぎていく。ストップウォッチの時間が四十秒台に入ろうとしたとき、ミハルの体がプルプルと震え出し、五十秒に到達する前にミハルは洗面器から顔を上げた。
「ぷはー! ダメだ……。目を開けられない……」
顔から滴を垂らしながら息苦しそうにミハルは言う。
「はーっ!」
ソウゴも一分台になった時に洗面器から顔を上げる。
「俺の勝ちー!」
「うう……」
「勝負じゃなくて、特訓なんでしょ? ソウゴ」
子供っぽく勝ち誇るソウゴに、ツクヨミは呆れた様な表情となった。
水が怖いなら、少しでも慣れさせようとソウゴが用意したのがこれである。こんなことで水への恐怖がすぐに消える訳は無いが、ミハルも純真なのかソウゴが出した特訓を真面目にやっている。
「ゲイツもやらない?」
腕を組んで特訓の様子を眺めていたゲイツも誘う。
「馬鹿馬鹿しい」
しかし、ゲイツはにべもなく断り、二階の自室へ戻ろうとする。そんなとき──
「ねえ、ツクヨミ。実はゲイツもカナヅチってことは無い?」
「そんなこと──ああ、でもゲイツが泳いでいる所は見たこと無いかも」
ひそひそと聞こえてくる聞き捨てならない言葉。ゲイツが振り返ると、ソウゴとツクヨミは小声で何か話しており、ミハルの方は同士でも見つけた様な目でゲイツを見ている。
「誰がカナヅチだ!」
「じゃあ、俺たちと勝負してみない?」
「そんな我慢比べで俺が負けるか!」
真面目且つ一本気な性格なせいで勝負に乗せられるゲイツ。
三人で行う息止め対決は、日が暮れるまで続いた。
◇
深夜、ミハルは眠れなくて起き上がる。彼が寝ていたのは、クジゴジ堂のソファーの上である。
ミハルとみはるは、クジゴジ堂で一夜を過ごすこととなっていた。順一郎への言い訳として、実はミハルとみはるは遠縁の親戚であり、みはるの父が急な仕事が入り、面倒を見てもらう為にミハルを呼んだが、ミハルはみはるの家の鍵を無くしてしまい家に入れず、更にはみはるの父と連絡が取れないという嘘の設定で誤魔化した。
すぐにばれそうな嘘だが、みはるは父が行方不明になっているせいで殆ど喋らない。ならば母親の方が心配するかもしれないが、その可能は無い。
みはるは父子家庭であり、みはるが生まれて間も無くして母親は無くなったらしい。ミハルが父親を探しているときに、みはるから聞いたことである。
唯一の家族は父親だけ。だからこそみはるはあれほどまでに落ち込んでいた。
ミハルはソファーから体を起こし、二階を見上げる。みはるはツクヨミと同じ部屋で寝ている。せめて夢の中だけは安息であって欲しいと願ってしまう。
「はあ……」
ポセイドンを見つけて倒すこと。アナザーライダーを倒すこと。自身が変身すること。やることは山積みだが、何一つ解決していない。考えれば考える程恐怖を覚える。
「眠れないの?」
「ソウゴ……」
いつの間にかパジャマ姿のソウゴが立っていた。
「そうだね、眠れない。不安なことばっかりだから」
「そっか」
ソウゴもソファーに座る。
「──ソウゴって凄いよね」
「え? どうしたの? 急に?」
「王様になりたい、って夢を堂々と言えるし、それに向かって真っ直ぐな所が」
ミハルは、アナザーライダーを探しているときにソウゴの夢を聞き、何故叶えたいか理由も知った。
世界を良くしたい。皆に幸せになって欲しいから王様になる。
誇大妄想と言えばそれまでだが、ソウゴの言葉は不思議と説得力があった。実際、それを聞いたミハルは少し感動した。
「……俺にはそんなことを言う勇気は無いし、怖がってばかりだ……」
「──怖いっていうのは、別に悪いことじゃない気がする」
「え?」
「だって、怖いっていうのは、何を背負っているとか、何を失うのかきちんと分かっているからこそ怖いと思うんだ」
「分かっているから……怖い?」
「……俺も最高最善の魔王になるつもりが、未来で最低最悪の魔王になるって分かったとき怖かったから」
「未来で? それってどういうこと……?」
ソウゴの脳裏に未来の自分と対峙したときの光景が蘇る。自分の行き付く先がこれだと知ったとき、ソウゴはその未来を恐れて自らの手でその道を閉ざそうとした。
「まあ、細かいことはまた今度説明するとして、ミハルは怖がりなんかじゃないよ。誰よりも責任を背負っている優しい奴なんだ」
「俺は、そんなんじゃ……」
「悪い所ばっか見ないで、偶には自分の良い所を見たら?」
「自分の、良い所か……」
その言葉を噛み締める様に呟く。
「ソウゴは、その怖いことからどうやって立ち直ったんだ?」
「……俺が最高最善の魔王になるってことを信じてくれる仲間がいたから。もし、道を間違えてもきっと俺を止めてくれる仲間のおかげ、かな」
言っていて少し照れ臭くなったのか、ソウゴは半笑いの表情となる。
「……羨ましいな。そんな仲間が居て」
未来で一人戦っていたミハルは、ソウゴに羨望と少しの嫉妬を覚える。
「俺には居ないから」
「いるじゃん」
「え?」
「俺もゲイツもミハルと同じ仮面ライダーだし、一緒に戦ったじゃん仲間」
「いや、でも、会ったばかりだし……」
「でも、もう俺はミハルを仲間だと思っているよ?」
「お、俺は……」
「だから、仲間としてミハルに言う」
「……何を?」
ソウゴは真っ直ぐなミハルを見る。ミハルはその目から視線を逸らすことは出来なかった。
「ミハルが仮面ライダーになったことは、絶対に間違いじゃ無い」
真っ向から放たれる自分を肯定してくれる言葉。胸の奥が熱くなり、目頭も熱くなってくる。今の顔をソウゴに見せる訳にもいかず、ミハルは俯き、肩を震わす。
「──ふん」
その様子を壁の影から窺っていたゲイツは、静かに自分の部屋に戻っていく。
もう心配することは無い、と言わんばかりに。
作中のフューチャーリングクイズは完全に独自設定です。本編で白ウォズの思った通りに能力が発動しなかった描写を参考にして、妄想を膨らませた結果です。
29話の予告を見て、色々と隠れ蓑にするのが上手だと思いました。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ