空から注がれる太陽の光が、地面に落ちているガラスの破片に反射し、眩く光る。その光が目に入ると、ポセイドンは徐に立ち上がった。
白ウォズとの戦いから一夜が明けた。人気の無い廃墟を見つけ、そこで一晩を過ごしたおかげ白ウォズから受けた傷は既に治っている。
体調も体力も完全であり、いつでも戦える状態であった。
廃墟で人目を避けている中、白ウォズが決着を付ける為に現れることを密かに期待していたが、空振りとなってしまう。戦って感じた白ウォズの性格から、ほぼ無いとは思っていたが、それでも万が一と期待をしていた。
この時代から去る前にきちんと勝敗をつけておきたかったが、現れないのならば仕方が無い。優先すべき目的を果たすまでである。
ポセイドンは廃墟から出る。至る所で鳥が囀る声が聞こえてきた。環境音であるそれに意識を向ける筈も無く、目的の場所に向かい始める。
彼は気付かなかった。鳥たちの囀りの中に甲高い鷹の鳴き声が混じっていることに。
そして、もう一つ。廃墟の上から見下ろす二つの人影に。
「動き出したか」
タイムジャッカーのスウォルツが、行動を開始したポセイドンの背を見下ろし──
「あ゛あ゛あ゛……」
──その隣でアナザーアクアが視線を虚空に向けて低い声で唸る。
「お前には、存分に働いてもらうぞ。──意見は求めん」
傲慢に満ちたスウォルツの言葉。
「あ゛あ゛あ゛……」
しかし、アナザーアクアは言葉の内容が分かっているのか、分かっていないのか唸るだけ。
「まあ、意見を出すことも出来んか」
スウォルツは、アナザーアクアの態度を一笑し、こちらも目的の為に動き出す。
◇
朝。クジゴジ堂のテーブルを皆で囲い、朝食を食べていた。
ミハルは、目の下に少し隈が出来ていたが、陰鬱とした昨日とは違い、少し晴れやかな表情で朝食を食べている。
「おいしい?」
「うん」
「そっか。良かったー」
順一郎が、みはるに朝食の感想を尋ね、みはるは素直に美味しいと評する。味もそうだが、時計を模した手間の掛かった盛り付けが幼いみはるの目も楽しませ、ほんの少しだが表情が明るくなっていた。
朝食が終わり、順一郎が皆の皿を洗っている内にソウゴたちは順一郎やみはるに話を聞かれない様にクジゴジ堂の出入口に集まる。
「これからどうするの?」
「まだ見つかって無いようだし、こっちも動いて探すしかないね」
「それしかないな……」
「……早くみはる君とお父さんを会わせないとね」
タカロイドウォッチとコダマスイカアームズはまだ戻って来ない。いつまでもクジゴジ堂で待っている訳にもいかず、こちらから探す方針に変えようとしたとき──
コンコンコンコン。小さくは無いが、大きくも無い扉を叩く音。出入口付近にいるソウゴたちには聞こえたが、クジゴジ堂奥にいる順一郎には聞こえない絶妙な音量であった。
「もしかして」
ソウゴが扉を開けると、その隙間からタカロイドウォッチが入って来た。タカウォッチロイドの嘴には、緑色の平たく細長い棒状の物が咥えられている。
「見つかった?」
周囲を飛び回るタカウォッチロイドに成果を尋ねると、咥えていた棒をテーブルの上に放り投げる。
最初はそれが何か分からなかったソウゴたちだが、よく観察してみると見覚えがある。そして、気付いた。テーブルの上に置かれたこの棒、コダマスイカアームズの装備であり、コダマスイカアームズはこれをローターとして使用し、空中移動やホバリングを可能とする。
そして、これにはもう一つ機能がある。
テーブルの上に置かれたコダマスイカアームズのローターがひとりでに変形し始め、長方形になると、そのフレームの中に映像が映し出される。
このスクリーン化こそがもう一つの機能であり、コダマスイカアームズを中継ポイントとして、コダマスイカアームズが見ている光景を通信し、スクリーンに投影することが出来る。
スクリーンに映し出されたのは、激しく上下に揺れる映像。段差を飛び越えているらしい。コダマスイカアームズは、かなりの速度で走っており、周りの物が溶ける様に後ろに流されていく。
「どこ? ここ?」
「分からん。見える範囲での情報が少な過ぎる」
「どこかで止まってくれないと分からないわ」
「こっちから指示は出来ないの?」
「試しにやってみよう。おーい、そこが何処だが分かるもの無い?」
ソウゴがスクリーンに向かって呼び掛けてみる。
すると、スクリーンに映し出されて映像の動きが変わる。走るのを止めて、連続して跳躍し始めた。
「どこかに登っているみたい」
次にコンクリート製の壁がスクリーン一杯に映される。壁をよじ登っている様子。
「ここは……」
建物の最上部へと辿り着いたコダマスイカアームズが、ある一点を見つめる。そこには海が広がっており、船なども係留してある何処かの港であった。
「ここってもしかして、新聞にもあった隕石が落ちた場所?」
「あっ!」
コダマスイカアームズが視線を動かした後の映像を見て、ミハルが声を上げる。そこには人気の無い道を歩くポセイドンの姿が映し出されていた。
「奴は何故ここに向かっているんだ?」
「恐らくは、時間の穴を目指しているんだろうね」
「黒ウォズ……!」
ゲイツの疑問に答えたのは、いつの間にか現れた黒ウォズであった。
「あ、黒ウォズ。おはよう」
「おはよう。我が魔王」
神出鬼没の黒ウォズに驚くことなくソウゴは馴れた様子で朝の挨拶。黒ウォズの方も敬う様に頭を下げる。
「時間の穴って……俺がこの時代に来たときにあったあの? でも、もう閉じていた筈じゃあ……」
「表面上はね。だが、完全に閉じたわけじゃない。少し刺激を与えればもう一度開く筈だ」
「奴は、その時間の穴を使ってどうする気だ?」
「そこまでは私にも分からないよ、ゲイツ君。まあ、単純に考えればこの時代から別の時代に跳ぶのが目的だろうね」
「自分の時代に帰る、ような大人しい相手じゃないわよね? ソウゴたちの話を聞く限りだと」
「もしかして、別の時代の仮面ライダーと戦うつもりとか?」
ソウゴが何気なく言った言葉に、全員の視線が集まる。
「可能性は高いな。奴は戦いを求めていた。その相手が居るなら過去でも未来でも何処にでも行くつもりなんだろう。ちっ、俺たちのことは既に眼中に無いみたいだ」
ポセイドンの行動に見下されたものを感じ、ゲイツは苛立つ。
「危険な行為だ。どの時代行くかは分からないが、仮に過去へ跳び、そこで過去の仮面ライダーを倒す様な事態となれば、歴史は大きく変化させられる」
いつもは余裕のある態度をとっている黒ウォズの表情が険しい。とあるアナザーライダーとの戦いで三日後のソウゴが現代に来たとき、黒ウォズは普段からは想像出来ない程激怒した。歴史の変化に対し黒ウォズは敏感となる。
「じゃあ、行こう。ポセイドンを止めに」
「当然だ。……お前はどうする?」
ゲイツの問いの先にはミハル。彼は変身出来ない。足手纏いになることは分かり切っている筈なのに、ゲイツは問う。ミハルの覚悟を試す様に。
「俺は──」
「お兄ちゃんたち……お父さんが見つかったの?」
「み、みはる君!」
ソウゴたちのやりとりを壁の後ろで聞いていたみはるが顔を出し、ソウゴたちの方に近寄っていく。
「お父さんが見つかったなら……僕も行きたい!」
みはるが意を決した様に叫ぶ。
「だ、駄目だよ! みはる君には危ない!」
それを止めたのはミハルであった。どんな激しい戦いが行われるか分からない。そんな場所に幼い子供を連れて行く訳には行かない。
「お父さんね、いっつもお仕事ばっかだったの。でもね、やっと落ち着いた、みはると遊んであげられるって……今日、お父さんと水族館に行くはずだったんだよ……」
みはるの顔が悲しみで歪んだかと思えば、大粒の涙が流れ始める。
その涙を見て、ミハルは今ほど自分が情けないと思ったことはない。この子供の涙を止める術がミハルには無い。そして、幸せになる筈だった今日を取り戻せない。
「でも、お父さんが変なのになっちゃったから、お父さんを助けないと。お父さんが苦しんでいるのは、やだもん。いっつもお父さんが僕を助けてくれるから、今度は僕がお父さんを助けないと……」
「みはる君」
ミハルはしゃがみ、みはるの両肩に手を置く。この子の今日は戻って来ない。ならばせめて――
「君のお父さんは、必ず俺が連れて帰って来る。明日はきっとお父さんと一緒に居られるよ」
──この子の明日は守りたい。これは誓いであり、覚悟であった。己に科す使命。
「一度は君の約束は守れなかった。でも、二度目は絶対に守る。だから、君はここでお父さんが帰って来るのを待っててくれるかな?」
「でも、僕、お父さんを助けたい」
両肩からみはるの震えが伝わってくる。父親が異形の姿になっていると分かっていても尚助けたい言う、恐怖を押し殺して。それは無謀と取られるかもしれない。しかし、ミハルは目の前の恐怖に耐える子供の中に確かな『勇気』を見た。
「──君はここに居るんだ。代わりに、君の勇気は俺が預かっていくよ」
「僕の勇気?」
「ああ、とても大事なもの貸して貰うよ」
ミハルは立ち上がり、ソウゴたちを見る。その目を見ると、ゲイツはクジゴジ堂の扉の前に立つ。
「行くぞ」
「ああ」
先程のミハルへの問いの答えは、既に出ている。これ以上何かを言う必要は無い。
「お兄ちゃん……」
心配でか細くなるみはるの声。それを聞いたミハルは振り返り、笑ってを見せる。
「大丈夫! 俺は仮面ライダーだからね」
「仮面ライダー……?」
「ヒーローの名前だよ」
照れ臭そうな笑みを見せながらミハルはソウゴたちと共にクジゴジ堂を出る。全ての決着をつける為に。
◇
ポセイドンが着いた港は、先日の隕石騒ぎで人だかりが出来ていた。
「邪魔だ」
しかし、ポセイドンが登場し少し威嚇しただけで蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。少し前の騒々しさが嘘の様な静寂が場におりた。
ポセイドンは暫く何かを探して空中に視線を彷徨わせていたが、やがて一点を見つめると、そこに向けて槍を振るう。
槍から放たれた衝撃波が空中で見えない壁の様なものと衝突したかと思えば、そこに亀裂が生じ、空間に穴が開く。
「──何だ? 見送りにでも来てくれたか?」
ポセイドンが振り返った先には、アナザーアクアがだらりと両手を下げた状態で立っている。
「それとも俺と戦いにでも来たのか?」
「あ゛あ゛あ゛……」
「会話も成り立たないか。お前と戦うのは時間の無駄になりそうだ」
そう言いながらも槍を構えるポセイドン。すると、バイクのエンジン音が聞こえ、視線だけそちらに向ける。
「お前たちか」
二台のバイク──ライドストライカーが、二人乗りした状態で現れ急停止する。降りてヘルメットを取る四人。ソウゴ、ゲイツ、ツクヨミ、ミハルの顔が現れる。
「ああ?」
ミハルの登場に、ポセイドンが少しだけ驚いた声を上げた。
「アナザーライダーもここに!」
「どうやら奴からウォッチを取り戻したいらしいな」
ソウゴ、ゲイツがジクウドライバーを装着する。そして、ミハルもまたアクアドライバーを取り出していた。
「ほう……?」
ミハルがアクアドライバーを取り出したのを見て、ポセイドンの目が一瞬輝く。
すると、いきなりアナザーアクアが、ソウゴたちに向けて両手を突き出すと、その両手が伸び、蛇の様に不規則な動きをしながら襲い掛かろうとした。
すぐさま変身し、盾になろうとするソウゴとゲイツ。だが、それよりも先に行動した者が居た。
水色の衝撃波が、アナザーアクアの両腕を吹き飛ばす。飛沫と化すアナザーアクアの腕。
「水を差すなよ」
不機嫌そうに言いながら、ポセイドンはソウゴとゲイツに声を掛けた。
「おい、そこの二人。見逃してやるからこいつをどうにかしろ」
「え! 見逃すって──」
「ふざけるな! どうして俺がお前の──」
「ソウゴ、ゲイツ」
ミハルが遮って二人に言う。
「ごめん。俺からも頼む。あのポセイドンは、俺が倒さなきゃいけないんだ」
気弱だったミハルが、自ら戦いたいと二人に頼む。
「──出来るんだな?」
「うん。俺もその方がいい気がする」
「必ず……必ず後で合流する」
二人は、ミハルが変身出来ないことを知っている。しかし、敢えてミハルに託す。ミハルの決意を信じて。
「行くぞ、ジオウ!」
「分かっているよ、ゲイツ!」
『変身!』
ライドウォッチをジクウドライバーに填め、アナザーアクアに向かって走りながら変身する。
『仮面ライダージオウ!』
『仮面ライダーゲイツ!』
『ライダー』『らいだー』の文字がアナザーアクアに衝突し、怯んだ所へ、変身が完了したジオウとゲイツの両拳が当たり、近くの建物の中へとなだれ込んでいく。
「……ツクヨミ。少し下がってくれ」
「──分かった」
ツクヨミを下がらせ、ミハルはアクアドライバーを下腹部に押し当てる。アクアドライバーからベルトが伸び、腰を一周してドライバーを装着させた。
「ふん。それを取り出したってことは、少しは臆病も治ったか?」
「治ってないよ。今だって怖いさ」
「あん?」
「ずっと、ずっと怖かった。自分のせいで何かを失うのが、失わせるのが。だから、ずっと同じ場所で足踏みばかりしていた」
ゆっくりと、ゆっくりと、羽根は回り始める。
「そうだな。お前は筋金入りの臆病者だ。お前の中で見ていたぜ、ずっと同じことをウジウジと悩んでいる姿をな」
「そのせいで俺はあの子の今日を永遠に失わせた。あの子が楽しく過ごす筈だった今日を!」
羽根の回転が徐々に増していく。
「今日を守れなかった。ならせめてあの子の明日を守りたい! だからこそ俺は戦う! 仮面ライダーとして!」
「そんな資格、お前にあるのか?」
ポセイドンは空気が急速に乾いていくのを感じた。海が近い潮風だというのに。失われた水分は何処に向かうのか。その答えは目の前にあった。
アクアドライバーの中央の機構が渦巻くのに合わせ、周囲の水分が吸い込まれていく。
「前の俺には無かったかもしれない。でも、今の俺にはあの子から預かってきたものがある!」
「預かってきたもの?」
「俺に足りなかったもの、『勇気』だ!」
空気中の水分が、全てアクアドライバーの中へ取り込まれる。ポセイドンにはもう分かっていた。今のミハルならば至れることが出来ると。
「だったら見せてみろ! お前の変身を!」
ミハルは右腕を左斜め上に突き出す。
「変……身!」
掛け声と共にその右腕を右に移動させて垂直に構え直し、真横に突き出した左手の上に肘を乗せた。
アクアドライバー中央から取り込まれた水が、液体状のエネルギーと化しミハルを包み込む。
飛沫を散らす様に纏っていた液体が消え去った後、そこに居たのが仮面を被った戦士が立っていた。
水色のスーツに銀のラインが走る全身。肩、胸部には丸みを帯びた水色の装甲。顔の仮面は銀色であり黄色の複眼、その中央と口部は水色となっていた。
湊ミハルが本来在るべきであった姿。水の力で戦う仮面ライダー、仮面ライダーアクアが時を超えてこの場所に顕現する。
「ははははははははは! ようやく変身出来たか! この時代の最後の相手はお前に決めた!」
哄笑しながら、ポセイドンは槍を振り上げて接近してくる。アクアは拳を作らず、掌を開いたまま構える。
ポセイドンの槍が、アクアの頭蓋を砕く為に振り落とされる。アクアは槍の柄に掌を押し当て、
「何っ!」
槍の軌道が突如として変わる。力そのものの流れを変えられた様に。
自分とは全く異なる戦い方。
「なめるな!」
ならば、自分を押し通すまでのこと。ポセイドンは、力で無理矢理槍の軌道を変え、下から上に振り上げる。
「はっ!」
アクアの掌打が柄に打たれ、槍の動きが止まる。
零距離で睨み合う両者。
全てを呑み込み破壊する怒涛の海神と、破壊すらも包み込み、捌く流水の戦士との戦いが今始まる。
ようやく仮面ライダーアクアに変身出来ました。終わりも近付いてきましたね。
これが終わったらまた本編ダイジェストの話に戻ります。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ