仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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あと二話で話を終わらせる予定です。


アナザーアクア2051 その7

 六人に分身したことで、ゲイツも仮面の下で瞠目する。以前にもディケイドライドウォッチとエグゼイドライドウォッチの力を組み合わせて、二人になったのを見た事があったが、それ以上の数になれることを初めて知る。

 

「まさか、そんなことが出来るとはな……」

『うん。俺もびっくりした!』

 

 六人全員が声を揃えて答える。

 

「な! 根拠があってやった訳じゃないのか!」

『何か見た時に出来そうな気がして、実際にやってみたらいけそうだったから』

「お前……というか六人全員で喋るな! 一人で十分だ!」

「じゃあ、俺が代表で」

 

 ガタキリバフォームのジオウが主張する様に手を挙げる。

 

「──まあ、いい。兎に角、こいつらの数を減らすぞ。必ずどこかに本体が混じっている筈だ。それを倒さなければ、他を倒しても意味が無い」

「分かった! じゃあ、行くぞー!」

 

 その声を合図にして最初に動き出したのは、サゴーゾフォームのジオウであった。分厚く巨大なガントレットを装備した両腕で、自らの胸部を激しく叩き始める。

 建物や聞く者を震わす大音量。空気が波打っている様に錯覚してしまう。

 

「おおおおおおおおお!」

 

 ゴリラのドラミングを連想させる行動。その行動が何を意味するのかは、すぐに示された。

 周囲を囲んでいるアナザーアクアたちの足が、地面から離れ宙に浮かび上がっていく。地上から二メートル程の高さでもがくアナザーアクアたちであったが、どんなにもがいても足が地に着かせることが出来ない。

 サゴーゾフォームのドラミング。その効果は重力操作。鳴らし続ける限り、アナザーアクアたちの重力は軽くなる。

 サゴーゾフォームが動きを止めている間に、二人のジオウが動く。ガタキリバフォームのジオウとラトラーターフォームのジオウである。

重力操作の影響を受けないギリギリの位置にまで移動すると、ガタキリバフォームの頭頂部から緑の電気が走り、ラトラーターフォームの顔は輝き始める。

 次の瞬間、緑の雷がアナザーアクアたちを貫き、目を覆う程の閃光がアナザーアクアたちを熱する。

 ガタキリバの電撃を受けたアナザーアクアは、全身を緑の電気によって蝕まれ、電気分解によって体を維持することが困難となり元の液体へと戻ってしまう。

 ラトラーターの光で炙られたアナザーアクアは、水分を瞬時に蒸発され、見る見るうちに貧相な体躯へと変わっていき、最後には跡形も無く蒸発してしまった。

 倒したアナザーアクアたちの中に本体は居なかったが、ガタキリバ、ラトラーター、サゴーゾの能力によってアナザーアクアたちを一気に半数まで減らす。

 ここでサゴーゾがドラミングを止めて重力操作を解除する。重力操作が続く限り仲間の攻撃方法に制限が掛かるのも理由だが、ドラミングを止めたサゴーゾフォームのジオウは肩で息をしている様子から、かなりの体力を消費しているのが分かり、疲労回復と体力温存という理由もある。

 重力操作を止めた途端、宙に浮いていたアナザーアクアたちは一斉に地面に叩き付けられ、水風船を割った様な音が廃屋内へとこだました。

 アナザーアクアたちが起き上がっている間に、ジオウたちは動く。

 ガタキリバフォームは、腕に折り畳まれた刃を展開し、それを逆手に握り蟷螂の様に構え、ラトラーターフォームも腕に折り畳まれていた爪を展開し、爪の先をアナザーアクアたちに向け、威嚇する様に構えた。

 シャウタフォームは両肩に装着されている鞭を抜いて装備し、サゴーゾフォームは両腕を突き出す。

 ブラカワニフォームは手甲が付いた両腕を揃えて一枚の巨大な盾にし、頭頂部から半透明の橙色をしたコブラを実体化させ、タジャドルフォームは、背部から六枚の赤い翼を出す。

 ジオウたちが構える中で、ゲイツもウィザードライドウォッチの力で二刀流となったジカンザックスを握り締める。

 アナザーアクアたちが立ち上がるタイミングで、ジオウたちは一斉に駆け出した。

 先陣を切ったのは、ラトラーターフォーム。チーターの脚を持つそのフォームは、俊足によって詰め寄り、すれ違い様にトラの爪で胴体をX字に斬り裂く。爪自体に宿る高熱によって断面は蒸発し、そのアナザーアクアはただの水へと還った。

 ガタキリバフォームは、バッタの脚力を生かして跳躍し、狙いのアナザーアクアに接近すると共にカマキリの刃を以て両腕を斬り、防御出来ないうちにアナザーアクアを横薙ぎに斬る。胴体の三分の二が切断され、上半身が後ろに垂れ下がるが、そこから元の形に復元しようとする。しかし、そこに驚異的な跳躍を生み出す脚からの追撃の蹴りが入りアナザーアクアの体は四散した。

 シャウタフォームは手に持つ鞭を振るう。ウナギを模した二本の鞭に、数体のアナザーアクアたちが巻き取られ、身動き出来なくなる。逃れようともがくが、鞭の元となったウナギはウナギでも電気ウナギである。巻き付く鞭から電気が流れ込み、アナザーアクアたちは痙攣しながら体をピンと伸ばしてしまう。

 そこに、サゴーゾフォームの両腕から発射されたガントレットが襲う。砲弾と化したガントレットは、拘束されているアナザーアクアたち頭部を纏めて粉砕してみせる。

 ブラカワニは、頭部の半透明のコブラを操り、一番近くにいるアナザーアクアに仕掛けさせる。コブラは口を百八十度開き、その口でアナザーアクアの頭を丸吞みにする。丸吞みの状態でアナザーアクアを振り回すコブラ。勢いをつけて他のアナザーアクアたちに向かって吐き出し、吐き出されたアナザーアクアにぶつかり数体巻き込まれて転倒する。

 そこに追撃を行うのはタジャドルフォーム。翼で上に向かって飛翔し、転倒しているアナザーアクアたちの真上に飛翔すると、クジャクの羽を模したエネルギーの弾を、足元に転がるアナザーアクアたちに降らせた。

 ジオウたちが凄まじい勢いでアナザーアクアたちを減らしていく一方で、ゲイツもまたアナザーアクアたちを一体、また一体と倒し水へと還していく。

 力は本体と変わらないものの動きはかなりの単調になっており躱し易く、捌き易い。複数相手でも戦闘経験が富んだゲイツの相手では無い。

 ゲイツは、二本のジカンザックスで二体のアナザーアクアを斬りつけて後退させると、ジクウドライバーのライドウォッチを素早く押す。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『ブレイブ!』

「はああああ!」

 

 ゲイツは時計回りにジカンザックスを振るう。すると、ジカンザックスから氷柱が複数放たれ、それがアナザーアクアたちに刺さる。刺さった箇所からアナザーアクアの体は凍り始め、瞬く間に全身を凍結させた。

 

『クリティカル! タイムバースト!』

 

 一回転し終えたゲイツは、今度は反時計回りにジカンザックスを振る。ジカンザックスからは氷柱では無く炎弾が放たれ、着弾したアナザーアクアたちはその極低温と高熱の温度差に耐え切れず、体が粉々に砕け散った。

 アナザーアクアの数の残りは片手で数えられる程度。すると、何体かのアナザーアクアたちが護る様にあるアナザーアクアの前にまで移動する。

 

「ジオウ! あの奥にいるのが本体だ!」

 

 その動きを見逃さなかったゲイツが、ジオウに伝える。

 

「分かった!」

 

 ゲイツの声に応じたのは、頭上を飛んでいるタジャドルフォームのジオウであった。そのタカの目が狙うべき相手に照準を定めると、ディケイドライドウォッチのスイッチを押す。

 

『オ、オ、オ、オーズ!』

『ファイナルアタック! タイムブレーク!』

 

 タジャドルフォームは高速で飛翔した後、本体のアナザーアクアに向かって斜めに急降下していく。その際に空中で体勢を変え、両足を突き出した構えとなる。その両足からは炎が噴き出し、炎は巨大な猛禽の爪を形作った。

 

「せいやぁぁぁぁ!」

 

 壁として立ち塞がるアナザーアクアたちを纏めて粉砕し、本命へと一気に詰め寄る。

 炎の爪が、アナザーアクアの両肩を鷲掴みにし、業火の熱によってアナザーアクア本体を沸騰させる。

 

「あ゛あ゛あ゛っ!」

 

 絶叫し、爪から逃れようともがくが炎の爪は簡単には外れない。

 このまま一気に倒す為に力を込めるジオウであったが、異変に気付く。

 掴んでアナザーアクアの腹部が急激に膨れ上がっていた。何をするか分からない、分からない筈だが、まるでそれ破裂する前の風船に──

 

「やばっ!」

 

 そこまで考えて相手が何をするのか察知し、ジオウは爪を離すと同時に壁に向かってアナザーアクアを蹴り飛ばす。

 蹴られて壁に背中から張り付くアナザーアクア。腹部はまだ膨らみ続け、やがて──

 

「ゲイツ! 伏せて!」

「これは!」

 

 

 ◇

 

 

 ポセイドンの核となっているメダルは、数百年前にとある錬金術師たちが生み出したメダルを2051年の科学技術で再現したものである。

 コアメダルと呼ばれたそれは、十枚で一組のものであったが、その内の一枚を抜くことで、足りないものを埋めようとする意志あるいは欲望が生まれ、それによってコアメダルはグリードと呼ばれる自立し、自我を持った怪人となった。

 ポセイドンは本来ならば自我は生まれない。ポセイドンのコアメダルは最初から三枚であり、最初から欠けている故にグリードとはならなかった。

 しかし、ここである偶然が起きる。ポセイドンの力を宿した湊ミハル、彼には自分の中に足りないものを感じていた。その足りないという心にポセイドンのコアメダルが反応したのだ。

 足りない故に満たす、それがグリードと呼ばれる者たちの習性であり意思。その意思とミハルの精神が混ぜ合わせられ、三枚のコアメダルに自我が宿った。

 このとき、ミハルの中にポセイドンが生まれる。

 ミハルは己の弱さを嘆いていた。すぐに怯えてしまう自分、どうにかしてこの弱さを克服したいと。

 ポセイドンは、その嘆きを知り、一つの考えに至った。

 

『誰かに怯えるのならば、誰も怖くなくなるぐらい強くなればいい』

 

 弱いから怖がり、怯える。ならば最強になればいい。そうなれば二度と恐怖せずに済む。

 戦闘狂とも呼べるポセイドンの人格は、この考えによって確固たるものとなった。

 ポセイドンは戦った。ミハルの代わりに何度も。戦っているときは、常につきまとっていた、足りないという欲望が消えた。

 だが、それは結局一時的なもの。戦いが終われば消えたものは甦る。

 いつまで続くのか? 最強となっても果たしてこの欲望は消えるのか?

 答えは永遠に出ないと思っていた。

 足りないものを自ら埋めてきたミハルと戦う前までは。

 

 

 ◇

 

 

 強烈な一撃を側頭部に受けたポセイドンは、地面を何度もバウンドし、最後に仰向けになって倒れる。

 

「やった!」

 

 アクアの必殺技が直撃したことでツクヨミはアクアの勝利を確信した。直後に、カランという二つの音が響く。

 ツクヨミがその音の方を見ると、地面に折れたポセイドンの槍が転がっていた。一体どのタイミングで折れたのか、そう思ったとき仰向けなったポセイドンが立ち上がる。

 

「ぐ、うう……!」

「そんなっ!」

 

 ツクヨミはポセイドンが立ったことに驚いたが、アクアは驚かなかった。彼はアクアヴォルテクスが当たる直前に、咄嗟に槍を間に入れて防御していたのを見ていたのだ。それによりアクアヴォルテクスの威力は減らされ、仕留め切れ無かった。

 ポセイドンは折れた槍を横目で見る。

 

「おかげで、身軽になった……!」

 

 明らかに強がりであった。ポセイドンはダメージが抜けきらずに左右に体が揺れている。だが、アクアはそれに油断することなく隙の無い構えをとる。

 

「それで、いい……!」

 

 最後まで全力で戦おうとするアクアを、ポセイドンは褒め、負傷した体を無理矢理動かし、走り出す。

 

「おおおおおおおおお!」

 

 手負い故に鬼気迫る迫力。遠目で見ているツクヨミもポセイドンの鬼気に呑まれそうになる。

 それを真っ向から浴びせられるアクア。だが、その心が恐怖で揺れることは無い。

 ポセイドンが振り上げた拳を、アクアの顔目掛けて放つ。

 アクアは左手をその拳に沿え、軌道を変える。空振りさせられたポセイドンは、前のめりになる。

 己の力によって崩れる体勢。それを立て直す間にアクアは攻める。

 右掌をポセイドンの心臓、鳩尾に連続して打ち込みポセイドンの動きを止めると、左掌で側頭部と頬を掌打。

 すかさず左右の掌による連続の掌打がポセイドンの胴体に炸裂。ポセイドンの体がくの字に折れる。

 

「はあっ!」

 

 折れた体を真っ直ぐにする様に右掌がポセイドンの顎を下から打ち上げた。

 視界一杯に広がる空を見て、ポセイドンは自分が殴られたことを理解させられる。

 すぐにアクアを視界に収める為に、殴られた顎を力尽く引く。

 が、いない。ポセイドンの視界にアクアが映らない。

 

(何処に──!)

「オーシャニック──」

 

 答えは視界の下。自らが発生させたエネルギーの波に乗り、地面を滑ってくるアクア。

 

「ブレイクッ!」

 

 足元を狙うスライディングキックは、最後に蹴りの軌道を変え、斜め上に向かって放たれた。

 アクア渾身の一撃、オーシャニックブレイクがポセイドンのドライバーに炸裂する。

 

「……はっ」

 

 ポセイドンは笑う。自然と笑いがこみ上げてきた。

 

「お前の足りないものは、満たされたみたいだな」

 

 ポセイドンドライバーに亀裂が入る。亀裂と亀裂が結びあったとき、ポセイドンからドライバーが外れ、ガシャンという音と共に地面に落ちた。

 ドライバーが外れたポセイドンは、アナザーポセイドンの姿に戻る。

 

「……お前の勝ちだ」

 

 そう言うと、アナザーポセイドンは自らの体の中に手を入れ、中からアナザーウォッチを取り出した。

 

「敗者は敗者らしく、責任を取らないとな」

 

 アナザーポセイドンはアナザーウォッチを握り締める。アナザーウォッチに罅が入っていく。

 

「な、何でそこまで! 折角、自分の体を手に入れたのに!」

 

 アクアは何故かアナザーポセイドンを止める様な台詞を言っていた。間違っていると分かっていても言わずにはいられない。

 

「何でだろうな……俺も満足したからかもしれない」

「ま、待ってくれ!」

 

 アナザーポセイドンは一瞬だけ笑い、その手に更に力を籠める。アナザーポセイドンの手の中でアナザーウォッチは砕け、同時にアナザーポセイドンの姿も消える。

 消えたアナザーポセイドンが居た場所を、アクアはじっと見ていた。ツクヨミにはその背が寂し気に見える。

 

「……ツクヨミ。俺、あいつのことがどうしても嫌いになれなかった。敵なのに、こんな事を言うのはおかしいかもしれないけど……」

「……別におかしくないわよ」

 

 ツクヨミは否定しない。ツクヨミもまた未来で怨敵になる筈のソウゴを憎むことが出来ずにいた。何人もの仲間を葬った相手だというのに。きっと、ゲイツもまた──

 

「私も──ミハルッ!」

「え?」

 

 ツクヨミは思わず叫んだ。アクアの前にいつの間にか立つ人物──白ウォズが現れたことで。

 

「『ウォズ、湊ミハルから仮面ライダーの力を奪う』、と」

 

 白ウォズはタブレット型ノートにそう書き記した後、ブランクミライドウォッチをアクアに押し当てる。

 

「うああああああああああ!」

 

 アクアは叫び声上げた。ブランクミライドウォッチの中に未来の仮面ライダーの力が取り込まれていく。

 取り込み終えると、白ウォズはウォッチを離す。

 

「ようやく、手に入れられたよ。……ん?」

 

 ミライドウォッチを見て、白ウォズは僅かに表情を変える。何か想定していないことが起きたかの様に。

 

「──まあいいとしよう。それよりも、もう一つ君の力を貰えるかな?」

「誰、が……!」

 

 白ウォズが薄く笑うが、アクアは構えてそれを拒否する。

 

「仕方ない。なら、少し手荒い方法でいかせてもらおう」

『ビヨンドライバー!』

 

 白ウォズが腰にドライバーを装着する。

 

「早速使わせてもらうよ」

 

 ドライバーに装填するのは、ウォズミライドウォッチでは無く、今しがた手に入れた新たな力。

 ウォズは、それを見せつける様にアクアの前で起動させる。

 

『ポセイドン!』

 

 

 




アナザーアギトがアナザーアギトを生み出す絵図は、平成初期の仮面ライダーを彷彿とさせませね。
ああいう生々しい見た目のライダーはいいですよね。アナザーアギトとオルタナティブ・ゼロは今でも好きなデザインです。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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