建物が並び立つ都市部。しかし、そこは普通とは違っていた。音も無く人気も無い空間。死の世界というものがあれば、このような世界のことを指すのかもしれない。
誰も居ない空間の中で彷徨うただ一つの人影。まるで幽鬼の如くあても無く歩き続けている。
実際にその影は幽鬼なのかもしれない。人の輪郭はあるものの全身はぼやけており、顔の詳細も分からない。
目的も理由も無く幽鬼は彷徨う。何かをしなければならない、そんな欲求はあるがそれが何なのか分からない。彷徨い続ければ、いつか何かを得られると信じているかの様に。
ガシャン、という砕ける音が静寂に満ちた世界に響き渡る。幽鬼がこの世界に閉じ込められてから初めてのことであった。
再び聞こえる音。幽鬼はその音に引き寄せられていく。
ガシャン、ガシャンと何度も音は鳴り続ける。
幽鬼は音が鳴る場へだんだんと近付いていき、そして見つけた。
建物の窓に張られたガラス。そこには、本来ならば建物の中が見える筈なのに全く別の光景が映し出されている。
中性的な容姿の少年が、業者の男たちが持つガラスに何度も石をぶつけてガラスを割っている。不思議なことに業者の男たちは時間を停められたかの様に動かず、更に割れたガラスは、時間を巻き戻されたかの様に元の形に戻っていく。
割っては直し、割っては直すのを何度も繰り返す少年。少し疲れたのか、少年は近くにあったベンチに腰を下ろす。
そして、どこからか時計の様な物を取り出し、それを眺めていた。
幽鬼は何故かその時計に目を奪われる。
『あれが欲しい』と幽鬼は強く思った。すると、手の中に硬い物を持つ感触が生まれる。幽鬼の手の中に少年と同じ時計が握られていた。ただし、少年のとは違い反転した形になっている。まるで鏡に映ったように。
幽鬼はその時計に備わっているボタンを押す。
『オーディン……』
音声が鳴ると同時に黄金の羽が幽鬼の周囲に散り、何も描かれていなかった時計の中央に絵が浮かび上がる。猛禽を彷彿とさせる鋭角な顔。クリアブラックのゴーグル型の目の奥に、空虚な白い瞳を覗かせいる。
「おお……おお……おおお……!」
黄金の羽の中心で幽鬼は、歪な黒い糸を束ねた様な形の謎の力によって体を包み込まれる。
やがて、黒い力を引き裂いて黄金の翼が現れる。
既に幽鬼の姿は無く、色褪せた黄金の翼に同じく彩りの無い黄金の錫杖を持つ鳥類の仮面を被った異形の姿となっていた。
「戦え……戦え……」
姿を変えた途端、何も無かった心の中に一つの言葉が浮かび上がる。
戦い合わせる。
誰と誰を?
ライダー同士を。その為の力は今ここにある。
その言葉に従い幽鬼ことアナザーオーディンは動き始める。だが、彼は戦い合わせる目的を思い出すことは終ぞ無かった。
◇
通りにある昼下がりのカフェ。人々はそこで飲食をしながら恋人や友人と憩いの時間を過ごす。
絵に描いたような平穏な時──誰もがそう思っていた。
「──ん?」
最初に異変に気付いたのはテラス席に座っている男性であった。口を付けようとしていたカップを途中で止め、周りをキョロキョロと見る。
「どうしたの?」
男の様子に、恋人の女性が気になって尋ねる。
「何か……音がしないか?」
「音……?」
男に言われて女は耳を澄ます。雑踏の音や生活音、人々の会話。その中に混じって何かを打ち付け合う音が聞こえる。
「本当だ……」
金属同士で打ち合う様な甲高い音。それが連続して聞こえたかと思えば、数秒の間を置くこともあった。
「だろ? ……というか音近くないか?」
男は最初、工事現場の音と思ったが辺りにそれらしきものは見当たらない。そして、この音、だんだんと大きなってきており近付いてきていることを意味している。
「何だろ、これ……」
よく見ると、このカップルだけでなく他の客も異音に気付いたらしく、音源を探している。
目線を右往左往させる客たち。やがてその視線がある一点に収束される。
カフェ店内が見える一枚の大きなガラス。音はそこから聞こえていた。店内には、その様な音がする物は無く、店内にいる他の客たちは異音など聞こえないかの様に食事を楽しんでいる。
「……んん?」
誰かの戸惑う声。他の客も声に出さないものの同じ気持ちであった。
ガラスの表面が、どういう原理か波打ち始めている。
途端、波打つガラスの中から縺れ合う二体の異形が飛び出し、テラス席を割りながら地面へと転がる。
「うああああああ!」
「きゃあああああ!」
突然の事態に、テラス席の客たちは悲鳴を上げた。その悲鳴を聞き付け、店員が外に出てくる。
「どうしました!? お客──さ、ま?」
店員は途中で言葉を失う。テラス席のど真ん中で睨み合う怪人たち。
片や灰色の乾いた大地の様な罅割れた鎧を纏い、左肩には真紅の角、右手は動物のサイの頭部となっている。顔は角を生やした格子状の仮面から白い目が見え、覆われていない口部は白い歯が剥き出しとなっていた。
もう片方は灰色の怪人と対になる様に、見た目はブヨブヨとした質感の紅色の鎧。右手が巨大なエイの形をしており、そのエイは生きているのかヒレの部分をはためかせ、長い尾を揺らしている。同じ様な存在なのか灰色の怪人と似た仮面を被っている。こちらには角は無いが。
共通しているのはそれだけでなく、右胸、左胸に反転した文字と数字が描かれている。 灰色の怪人は『GAI』、紅色は『RAIA』の文字、数字は同じ『2002』である。
二人の怪人は、周りでパニックを起こす客たちに構うことなく戦い始める。
ガイと描かれた怪人は、威嚇する様に地面を数度後ろに蹴った後、右手を突き出しながら走り出す。
サイの頭部から繰り出される突きを、怪人ライアは右手のエイで受け止めるも、勢いを殺せず後ろに吹き飛ばされる。
「うああああ!」
数人の客が吹き飛ばされたライアに巻き込まれ、地面に一緒に倒れる。
「うう……うっ!」
「痛い……いやっ!」
痛みで悶える客たちを容赦なく踏み付けながら立ち上がるライア。
今度は、ライアが反撃をする。その場で右手を大きく振るった。すると、エイの尾が伸び、鞭の様にガイを叩く。
打撃であり裂く様な一撃を肩にもらい、ガイは後退。すかさず二撃目が飛んでくるが、今度は右手でそれを弾く。
「ぎゃあ!」
弾かれた尾は近くにいた客の背を抉り、客は背中を血だらけにして地面に倒れる。
「うう……」
激痛に呻く客。しかし、誰も助けにいけない。そのすぐ側では怪人たちが争っている。
自分を傷付け、周りも傷付けて戦う怪人たち。一体何が彼らを闘争に駆り立てているのか。
「待て!」
だが、その暴挙を見過ごすことの出来ない者たちが現れる。
ソウゴ、ゲイツは走りながらジクウドライバーを装着し、変身する。
『変身!』
『ライダーターイム!』
ソウゴは黒のスーツ、ゲイツは赤のスーツを纏い、それに装甲が覆われ、最後に現れた文字が怪人たちに衝突し、吹き飛ばす。
『仮面ライダージオウ!』
『仮面ライダーゲイツ!』
変身完了と共に、怪人たちから客を離すことにも成功し、すぐさま負傷している客たちを近くに居た人々に預け、離れる様に告げる。
「
「それも、また別のアナザーライダーだ……」
怪人たちの姿を見て、ゲイツは仮面の下で表情を歪め、ジオウは疑問に満ちた声を出す。
彼らがこのアナザーライダーと戦うのは初めてだが、同じ反転文字の『2002』のアナザーライダーと戦うのは5回目である。
姿は多少異なるが、似た細部、反転した文字、そして何故かアナザーライダー同士戦っているという共通点がある。
どこからともなく現れ、いつの間にか消えているというのを数日間何度も繰り返されており、ジオウもゲイツもそのしつこさと捉えどころの無さに内心辟易していた。
「はあ!」
「たあ!」
ジカンギレード、ジカンザックスを装備しジオウはアナザーガイに、ゲイツはアナザーライアに斬りかかる。
アナザーガイの分厚い装甲は表面だけ削られ、アナザーライアの弾力に富んだ装甲は刃の切れ味を落とす。
両者とも手応えを感じず、続けて攻撃しようとするが、二撃目を受けながらアナザーライダーたちは反撃。ジオウとゲイツの胸部に強烈な殴打と鋭い鞭打が炸裂する。
「ごほっ!」
「ぐっ!」
生半可な攻撃は通用しないことを身を以って知った二人は、攻撃を一段階上に上げる。
ジオウはディケイドライドウォッチを出し、それをジカンギレードに填め込む。
ゲイツはエグゼイドライドウォッチをジクウドライバーへ装填し、アーマーを召喚する。
『ディ、ディ、ディ、ディケイド!』
『フィニッシュタァァイム! ディケイド!』
剣を構えるジオウ。剣を中心にして、幾つもの剣の残像が現れる。
『アーマーターイム!』
『レベルアップ! エグゼイド!』
召喚したエグゼイドアーマーを纏うゲイツ。白を基調とした装甲、頭部には鋭角なくの字が連なったピンクのヘッドパーツ、両腕にハンマーが装着され、顔が『らいだー』に変わって『えぐぜいど』の文字が収まる。
ジオウは、ディケイドライドウォッチを填めたジカンギレードを、アナザーガイへと振り下ろす。実体剣の動きに合わせ、周りの残像もまた振り下ろされる。
一振りで十近い斬撃がアナザーガイに打ち込まれる。残像の剣もまた実体があるようにアナザーガイの体を斬り付けていた。
振り下ろしにより十。そこから切り返しの横薙ぎで十。手首を返し逆袈裟切りで十。合計三十の斬撃を受け、アナザーガイの体にも深い裂傷が生じる。だが、倒すまでには至らない。
『ジュウ!』
『スレスレシューティング!』
ジオウは流れる様にジカンギレードを銃形態にし、その銃口をアナザーガイに定める。剣と同じく周囲に現れる銃口の残像。引き金を引くと、銃口から一斉に弾丸が発射された。
機関銃の如くアナザーガイの全身を埋め尽くす勢いで放たれる弾丸の嵐。傷を負って防御力が著しく低下したアナザーガイは、それを耐え切ることが出来ず、弾丸の嵐の中でその身を爆散させる。
『フィニッシュタァァイム!』
『エグゼイド!』
ジオウと並行してゲイツもまたライドウォッチの力を全開にして必殺の一撃を放とうとする。
『クリティカル! タイムバースト!』
アナザーライアへ跳躍し、着地する直前に右のハンマーをアナザーライアの腹部に打ち込み、着地と同時に左のハンマーを同じ箇所に打ち込む。
『HIT!』というエフェクトが浮かび上がり、殴られたアナザーライアの腹部は波紋状に波打つが、特殊な体のせいで衝撃が散らされていく。
二発では届かない。ならばそれ以上のならば?
再び浮かぶ『HIT!』の文字。すると、打ち込まれた箇所に発生する衝撃。
『HIT!』『HIT!』『HIT!』『HIT!』『HIT!』。文字が浮かぶ度に同じ箇所に衝撃が発生。アナザーライアはその衝撃を逃すことが出来ずに体が折れていく。
『HIT!』『HIT!』『HIT!』『HIT!』『HIT!』。ついには地面にから足が離れ、空中で跳ねる様に殴られ続ける。
『GREAT!』の文字が浮かぶと、アナザーライアの許容範囲を超えたのかアナザーライアの体を空中で爆発する。
二体のアナザーライダーを倒したジオウとゲイツ。二人が爆発の後を見るとそこには契約者であると思われる人たちが横たわっている。
「ん?」
「うん?」
気絶している二人の顔に、ジオウたちは既視感を覚える。会ったことは無いがどこかで見た顔。
「とにかくこの二人から事情を聞くぞ。早くしないと──」
「……ちょっと遅かったみたい」
ゲイツは、自分たちの周りを囲う様にして散る黄金の羽に気付く。
「またか……!」
舞う黄金の羽は、一斉にジオウたちに向かって飛び、刃の様な鋭さでジオウたちの全身を切り刻んでいく。
「くあっ!」
「うあっ!」
堪らず地面を転がっていく二人。すぐに立ち上がりが、そこには黄金の羽もアナザーライダーの契約者たちの姿も消えていた。
「どこのどいつか知らんが、いつもいつも邪魔を……!」
ゲイツが苛立つのも無理は無い。ジオウたちがあのアナザーライダーたちを追い詰めると必ずあの羽が周囲に現れ、ジオウたちを攻撃するかアナザーライダーたちを何処かに連れていってしまう。
ジオウとゲイツは変身を解く。
「これで一週間か……」
先の見えない戦いに、肩を落としながらソウゴは疲労感を込めて呟いた。
◇
神出鬼没であり、複数存在するアナザーライダーたちに悩むソウゴたち。
何か手掛かりは無いかと過去のニュースをツクヨミと調べたとき、ソウゴとゲイツはある新聞記事を見つける。
そこにはアナザーライダーたちが出現し始めた一週間前に一斉に行方不明になった十二名の男女について書かれたものであった。
その中の写真に乗っていた二人こそ、ソウゴたちが倒したアナザーガイとアナザーライアであったのだ。
今回の件は、複数のアナザーライダーによるものでなく黒幕とも呼べるアナザーライダーが、十二名の行方不明者に力を与えて起こしているのではとソウゴたちは推測する。過去にアナザーメイジという実例があったので、有力な説だと思われた。
黒幕を見つけるには、他のアナザーライダーたちを追うしかない。そう考えたソウゴたちは、未来の情報に目を通し、これからアナザーライダーたちが争うだろう場所を特定し、そこで待ち伏せすることに決める。
それらしい記事を見つけ、事前に隠れるソウゴとゲイツ。すると、反射物の中からアナザーライダーたちが飛び出してくる光景を目撃する。
これによって、ソウゴたちは神出鬼没の理由を知る。
そして、黒幕を引き摺り出す為にアナザーライダーたちと戦うのだが──
◇
「くっ!」
ジオウは目の前のアナザーライダーに苦戦していた。
黒を基調とした騎士の様な姿で背中から蝙蝠を彷彿とさせる翼を生やしている。右手に剣、左手に槍を持つ変則的な二刀流に上手く戦えない。
描かれた文字は『KNIGHT』。アナザーナイトである
「たあ!」
剣戟を潜り抜け、斬ろうとすると──
キィアアアアアアア!
「うあああっ!」
牙が並んだ口を開き、そこから超音波を発してジオウの聴覚を苦しめる。
超音波に苦しめられるジオウを援護したいゲイツであったが、別のアナザーライダーのせいで、それも出来ない。
橙色の楕円形の甲殻を背負い、腕は左右大小異なる鋏、蟹の口にあたる部分に顔が埋まっており、胸には『SCISSORS』と描かれている。
アナザーシザースは、ジカンザックスの刃を右の鋏で受け止め、左の鋏でゲイツを斬り付ける。
「うぐあっ!」
負傷しながらもゲイツはアナザーシザースを蹴り付ける。ジオウもまた超音波に苦しめられながらも、銃モードにしたジカンギレードでアナザーナイトを射ち、超音波を止めさせる。
ジオウはディケイドアーマーを、ゲイツはライダーアーマーを呼び出そうとライドウォッチを出したとき、それは現れた。
反射物の中から飛び出す無数の羽。それに包まれて、いつの間にか出現する黄金のアナザーライダー。
猛禽類に似た頭部。羽を前に閉じた様な形をした装甲によって胸から膝まで隠されている。その全身はくすんだ黄金色であり、片手に似た色の錫杖を持っている。
「出た……」
「お前が行方不明事件の首謀者か!」
問い詰めるゲイツに、黄金のアナザーライダーは答えない。
「何か言ったらどうだ!」
「……ようだ」
「何?」
「修正、が、必要だ……」
「え? どういう意味?」
黄金のアナザーライダーの装甲が左右に展開され、翼の様に広がる。
ジオウは見た。その胸に他のアナザーライダーと同様に描かれた『ODIN』『2002』の文字を。
直後、夥しい量の羽に包まれる。
「修正、が、必要だ……」
ジオウはその羽の中で何かが砕ける様な音を聞いた気がした。
「おい! ジオウ! 起きろ!」
「はっ!」
ゲイツの怒声でソウゴは目を覚ます。いつの間にか眠っていたらしい。
「……どうしたの?」
「寝ぼけている場合か! アナザーライダーが出た!」
「本当! 分かった! ……あれ?」
「どうした?」
「前にもこんなことしなかったっけ?」
彼らは気付かない。時間が一週間巻き戻されたことに。
それを知っているのは唯一人、アナザーオーディンのみ。
思い切って、アナザーリュウガ編とは違った内容にしました。
そして、アナザーライダー13人出します。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ