左右に広がった濁った紫の頭部は、コブラ種の蛇を彷彿とさせ、左手と一体化した鞭は蛇の尾、あるいは蛇腹を連想させる。
その紫の異形は、体の骨、関節など無いかの様な柔軟な動きで自分に向けて放たれる銃弾の雨、更には砲弾の雨を掻い潜っていた。
紫の異形に銃弾をばら撒くのは、相反する見た目の持ち主であった。
分厚い緑色の装甲を体の各部に装着させ、両肩に一つずつ砲門が付いている。右手にはグリップとトリガーの前に弾倉が備わった銃身の短い片手銃。左手には、それと対照的な長い砲身と口径を持ったキャノン砲をぶら下げる様にして持っている。その姿は二足歩行の重戦車そのもの。
紫の異形は『OUJA』、緑の重戦車は『ZOLDA』の名を胸部に刻んである。
アナザー王蛇は、アナザーゾルダが射ち込んでくる弾丸に逃げる隙間が無いと分かると、右手の鞭によってそれを次々と打ち落とす。
荒々しい鞭捌きによって、弾丸は弾かれて床、あるいは近くの壁に着弾する。
「きゃあああああ!」
着弾と同時に上がる女性の悲鳴。それが上がるのも仕方の無いことである。彼らが戦っているのは人気の無い場所では無く、人々が買い物を楽しむ為のデパートの中であったのだ。
アナザー王蛇とアナザーゾルダが暴れたせいで、商品などは全て壊され、殆ど人も居ない。悲鳴を上げたのは二人のアナザーライダーに怯えて逃げ遅れた数人の客のものである。
悲痛な叫び声を浴びせられても、二人のアナザーライダーが争うことを止める気配は無い。逆にここから戦いはより激しさを増していく。
アナザーゾルダが、左手のキャノン砲の砲口をアナザー王蛇の動きを追って調整していく。その間にも右手の銃は弾丸を吐き続けていた。
銃による牽制でアナザー王蛇の動きを鈍らせる、もしくは止めるという策である。そして、アナザーゾルダの狙い通り、アナザー王蛇は足を止めて銃の弾丸を打ち落とし始めた。
すかさずキャノン砲からその砲口に見合った巨大な弾が発射された。撃ち出したアナザーゾルダが反動で後方に数メートルも下がるほど。
当たれば必殺の威力が込められている。
アナザー王蛇は、銃の弾丸を落としながらもアナザーゾルダの動きも見ていた。故に、キャノン砲が照準を定めていたことも知っていた。
全ての弾丸を打ち落とすと、アナザー王蛇は左腕を素早く振る。すると、鞭は瞬時に縮まって硬質化し、突撃剣へと変化する。
アナザー王蛇は、アナザーゾルダの弾をその突撃剣によって下からの上へ斬り上げる。
轟音と共にアナザー王蛇は後ろへ弾き飛ばされ、弾は天井を突き破る。そのまま威力と速度を下げずにデパートの屋上まで突き抜けていった。
転倒しているアナザー王蛇に、アナザーゾルダは両肩の砲門から追い打ちの光弾を放つ。
仰向けに倒れ、普通ならば咄嗟に動くことは出来ない。しかし、アナザー王蛇は、手足を使わず、体をくねらせるのみで床の上を動く。その動きは蛇そのもの。しかも、速度は走る速度と変わらない。
文字通り、床を蛇行して光弾を避けていく。狙いを外された光弾は床を砕き、棚を砕き、そして──
「いやあああ!」
──身を隠していた客をも砕こうとする。
そのとき、客を守る様に立ち塞がる二人の人物。騒ぎを聞き付け急いでやってきたジオウとゲイツであった。
二人は、ジカンギレードとジカンザックスで迫る光弾を弾き飛ばす。
「今のうちに!」
後ろにいる客に逃げるよう促す。
「あ、あ、ありがとうございます!」
客は震えた声で礼を言い、恐怖で上手く動かない足を必死に動かして逃げていく。
「何だこいつらは……?」
反転した文字と数字を持つ二体のアナザーライダーに、ゲイツは訝しむ。
一方で、ジオウは初めて見る筈なのに妙な既視感を覚えていた。
「ねえ、ゲイツ。あのアナザーライダーと戦ったことない?」
「まだ寝ぼけているのか! 今、初めて会っただろうが!」
ジオウの問いをふざけていると思ったのか、ゲイツはジオウに怒気と怒声で返す。
ゲイツが言っていることは間違っていない。間違っていないが、ジオウは違和感を拭い切ることが出来なかった。
「話は後だ! まずはこいつらをどうにかするぞ!」
「──うん。分かった」
武器を構えるジオウとゲイツ。争っていたアナザーライダーたちもジオウたちを敵と認識したのか、武器の矛先をジオウたちに向ける。
低く唸りながらアナザー王蛇は首をゆっくり回す。戦う前の準備運動に見える、と同時に獲物に襲い掛かる前に前動作にも見えた。
隙間から抜ける様な呼吸音、あるいは鳴き声を出しながらアナザー王蛇が駆け出す。床の上を滑る様に蛇行し、ジオウたちの目を惑わす。
左右に大きく動くことでどちらを狙うか察し難くし、相手を撹乱させながら距離を詰めていく。
ジオウかゲイツか。武器を構える二人の緊張が増していく。
アナザー王蛇が左に動く。そこに居るのはゲイツ。アナザー王蛇の狙いが自分だと分かり、ゲイツはアナザー王蛇の接近と共にジカンザックスを振り下ろそうとする。
「何っ!」
だが、直前になってアナザー王蛇は右に動いた。その直後、アナザー王蛇が居た場所を通過するアナザーゾルダの砲弾。アナザー王蛇が壁になっていたことで、ゲイツは射線から逃げ遅れる。
咄嗟にジカンザックスを翳す。コンマ数秒後に着弾と爆発がほぼ同時に起こり、ゲイツは背中から崩れた商品棚の山へと突っ込んでいった。
「ゲイツ! うわっ!」
吹っ飛ばされたゲイツに気を取られている隙に、接近したアナザー王蛇の剣がジオウの肩を強打した。
痛みと衝撃で膝が折れる。無防備に曝け出されたジオウの背中に、容赦も情けも無い二発目、三発目が打ち込まれ、ジオウの膝を床に着けようとする。
「うっ! ぐっ!」
背中を何度も打たれても立ち上がろうとするジオウ。そのジオウに向けて、アナザーゾルダが銃口を向ける。
『キワキワ撃ち!』
崩れた棚の山を突き破って、『ゆみ』という文字型のエネルギーがアナザーゾルダの頭部に当たり、大きな火花を散らす。不意の一撃でアナザーゾルダの体勢が傾き、銃口が下がった。
文字型エネルギーが飛び出した穴から、瓦礫を蹴り飛ばしてゲイツが出てくる。その手には弓モードとなっているジカンザックスを握って。
ゲイツはすぐにジカンザックスの射出口をアナザー王蛇に向け、引いていた引き金を離す。
『キワキワ撃ち!』
文字型エネルギーがアナザー王蛇の腕に命中し、怯む。
怯んでいる内にジオウは立ち上がりながら、ジカンギレードでアナザー王蛇を斬り上げた。
胸を斬られて後退するアナザー王蛇。二体のアナザーライダーたちが体勢を崩している間にジオウたちは一気に決める。
ジカンギレードとジカンザックスに填め込まれるライドウォッチ。
『フィニッシュタァァイム!』
『オーズ!』
『バース!』
弓モードのジカンザックスの射出口に赤く輝くエネルギーが収束され、ジカンギレードには銀色の三つの円形の光が連なる。
『ギリギリスラッシュ!』
『ギワギワシュート!』
ライドウォッチを今まさに解き放とうとした刹那、アナザーライダーたちを覆う様に黄金の羽が舞う。次の瞬間には、アナザーライダーたちの姿が消えていた。
「なっ!」
「ちょっ!」
寸での所で技が発動するのを止める二人。
「何だ、あの羽は……」
「……」
いきなり現れ、アナザーライダーたちを連れ去った羽にゲイツは戸惑い、ジオウはその羽にも既視感を覚え、ゲイツと違った戸惑いを覚えた。
◇
謎のアナザーライダーたちとの戦いが始まって一週間が経とうとする。ゲイツは、神出鬼没のアナザーライダーたちに苛立ち、ソウゴはますます強まる既視感に不安を覚えていた。
何かを良くないことが起きそうな気がする。その考えが、ソウゴに付き纏う。
「ソウゴ君」
その日の朝、朝食を食べているソウゴに順一郎が話し掛ける。何でも黒ウォズに用があるらしい。
「これ、何なのか聞いておいてくれる?」
順一郎から手渡されたものを見てソウゴは驚いた。それは自分が持つジオウライドウォッチと同じ顔が描かれたライドウォッチ。白のフレームで覆われているのに対し、これは銀のフレームで囲われており、輝きを放っている。
渡されたものが何なのか分からないまま、その日ソウゴとゲイツはアナザーナイトとアナザーシザースと戦おうとしていた。
戦闘直前、ジオウは順一郎経由で黒ウォズから齎された銀のジオウライドウォッチを起動させようとした。
黒ウォズに会い、この銀のジオウライドウォッチがオーマジオウに至る為の物。本来ならば、ジオウが魔王となる逢魔の日に使用することは聞いていた。
最高最善の魔王になる。だが、それにはオーマジオウの力が必要となる。そのことに一抹の不安を覚えながらソウゴはスイッチを押す。
しかし、スイッチを押しても全く反応しない。
予想外のことに戸惑っている内に、アナザーナイトとアナザーシザースは鏡の中へ逃げようとする。
「待て!」
銀のジオウライドウォッチのことは一先ず置き、逃げようとするアナザーライダーたちにしがみつき逃がさない様にするジオウとゲイツ。だが、力負けしてしまいそのまま鏡の中へと引き摺り込まれてしまった。
「ここは……?」
アナザーライダーたちと入った世界は、一切の環境音が消え、あらゆるものが反転している世界。
まさに鏡の中の世界であった。
二人を引き摺り込んだアナザーライダーたちの姿が消えている。
「奴ら何処に……」
「戦え……戦え……」
「誰?」
黄金の羽を巻き上げながら姿を現す、くすんだ金色のアナザーライダー──アナザーオーディン。
「この羽……お前が俺たちの邪魔をしていたのか!」
度重なる妨害の黒幕が現れ、強い剣幕でゲイツが問う。
「戦え……戦え……」
しかし、返ってくるのは譫言の様な言葉だけ。
「貴様、いい加減に──うっ!」
ゲイツの言葉が途中で止まり、息を詰まらせる様な声を発する。ジオウが見ると、ゲイツは後ろに仰け反りながらつま先立ちになっており、首を両手で掴み何かを引き離そうとしている。
「ゲイツ!」
すぐにゲイツを助け出そうとするジオウ。だが、そこに予想だにしなかった人物が現れた。
「ようこそ、鏡の世界へ」
「……俺?」
そこには姿形が全く同じ常盤ソウゴが居た。
「そうだ。俺はお前だ。鏡の中のな」
「とにかく、君は俺ってことだよね! 早くゲイツを!」
混乱するよりも先にゲイツを助けることへの協力を求めるジオウ。しかし──
『ジオウ』
震わす様な音声。鏡の中のソウゴは、その左手にジオウライドウォッチを握っている。描かれた顔は、鏡の中の物と同じく左右が反転していた。
『変身』
『ライダーターイム』
ジクウドライバーの左側に挿し込まれるライドウォッチ。逆巻く時計。反転する円。ソウゴをジオウへと変身させる為の力もまた逆向きに動いている。
『仮面ライダージオウ』
飛び出す『ライダー』の文字。それが何故かジオウを強襲する。
「え! うわっ!」
思ってもいなかったことに、直撃を受けて吹き飛ばされるジオウ。
「な、何で!」
「俺はお前だ。だが、お前は俺では無い」
「どういう──!」
『ジカンギレード ケン』
鏡の中のジオウ──ミラージオウは問答無用と言わんばかりにジカンギレードを取り出す。
一方でゲイツも首を絞める圧迫感に今にも意識が飛びそうになっている。
「く……おおおっ!」
背後に向けてジカンザックスを投げつける。すると、何も無い壁にジカンザックスが当たって火花が散り、壁から見えない何かが落下。同時にゲイツの首への圧迫も消える。
「こいつは……!」
空間の一部が歪み、そこから深緑色のアナザーライダーが姿を見せる。頭部に螺旋状の突起があり先端が三百六十度動く。手足の先は円形に膨らみ吸盤状になっており、口からは長い舌を垂らしていた。
胸に刻まれた文字は『VERDE』。
「げほっ、げほっ……アナザーベルデか!」
咳き込みながら、この一週間の間に一度戦ったことがある相手を睨み付ける。
アナザーベルデは、舌の先を円形に丸めると、それを鈍器の様に振り回してゲイツを攻撃する。
横から迫るそれで腕で防ぐゲイツ。すると、いきなり背中に衝撃が奔った。
「ぐあっ!」
前のめりになるゲイツ。その背後には、鞣した革の鎧を纏い、両肩から獣毛をなびかせるアナザーライダー。頭部には捩じれた二本の角。頭部の角と同じ形をした格闘武器を右手に持ち、右足の脛にはレイヨウの頭蓋骨を模した脚甲を付けている。胸に刻まれた文字は『IMPERER』。
「アナザーインペラー……!」
不意打ちを仕掛けたアナザーライダーの名を思わず呟くゲイツ。
アナザーインペラーは、右手の武器でゲイツを斬り付けて膝を着かせ、その腹を蹴り上げる。
「あぐあっ!」
苦しみながらもゲイツは違和感を覚えていた。アナザーベルデもアナザーインペラーも初めて見たとき戦っていた。だというのに、今はこの様に共闘している。アナザー王蛇とアナザーゾルダの時もそうである。
もしかしたら、彼らには意識というものが無く、誰かの都合の良い様に戦わされていたとしたら。だとしたら全ての元凶は──
アナザーベルデの舌がゲイツの腕に絡みつき、引っ張り上げる。そこにアナザーインペラーの膝蹴り。ゲイツの鳩尾に深々と刺さる。
「があ……」
声も息も詰まるゲイツ。すかさずアナザーインペラーがゲイツの左腕を拘束する。両腕を掴まれ、拘束されるゲイツ。
ガリガリガリと地面を削る音。
音を立てながら、動けないゲイツに近寄ってくる三人目のアナザーライダー。
白の体色に青の縞模様。前屈みとなって垂らされる両腕。腕の太さは常人の倍以上あり手甲で覆われていた。手甲の先には五指に合わせた鋭い爪。その爪が地面を削りながら引き摺られている。鋭く並ぶ牙の向こう側に閉じ込められた唸り声。
そのアナザーライダーの胸の名は『TIGER』──アナザータイガ。
恐怖を煽る様に近付いて来るアナザータイガ。何とかゲイツも逃れようとするが、拘束から脱げ出せない。
そして、アナザータイガはその凶爪を──
「ふぐっ……!」
──ゲイツの胸に突き立て、貫く。
ゲイツの変身は解除され、地面へうつ伏せに倒れる
「ゲイツ!」
ミラージオウのせいでゲイツを助けられなかったジオウが、喉が裂けそう程の悲痛な声を上げた。
「他人の心配をしている場合か?」
『フィニッシュタァァイム』
『ジオウ ギリギリスラッシュ』
ゲイツに意識を取られているジオウに、ミラージオウが放つ必殺の斬撃。
「うああっ!」
斬り付けられたジオウは変身が解除され、ソウゴの姿へ戻る。
「ゲ、ゲイツ……!」
地を這いながらも倒れたゲイツの下へ行こうとするソウゴ。しかし、その為に伸ばされた手は無慈悲に踏み付けられる。
「こうなることは分かっていただろう? 何を悲しんでいるふりをしてしいるんだ?」
ミラージオウが足元のソウゴを嘲る。
「ふり、なんかじゃない! ゲイツは、仲間だ……!」
「仲間? お前が魔王を目指す道を選んだときから、ゲイツはこうなる運命だった。俺がやるか、誰かがやるかの些細な違いだ」
「俺は、そんなことしない!」
「出来るさ。お前はいざとなればゲイツを倒せる。何せ最低最悪の魔王だからなっ!」
「違う! 俺は最高最善の魔王に……!」
「戯言だな。──いっぺん死んで考え直してこい」
ミラージオウはソウゴを宙に向けて放り投げる。
「うあっ!」
『フィニッシュタァァイム』
ソウゴを囲む様に現れる『キック』の文字群。それらが一体と化し、ソウゴの胸に突き刺さる。
『タイムブレーク』
「はあああああ!」
斜め下から跳び上がったミラージオウは、左足を前に出しながら空中を疾走。ソウゴに刺さった文字を押し込む様に、その心臓に左足裏を叩き込んだ。
生身の体には許容出来ない衝撃。
ソウゴは力無く地面に落下し、呻く声すら出せない。
それでも残りの力を振り絞り、ゲイツを見る。ゲイツの体が粒子の様に崩れ始めていた。そして、ソウゴの体もまた同じ様な現象が──
「邪魔者は消えた。──次はお前か?」
ミラージオウは、剣先をアナザーオーディンに向ける。
「修正、が、必要だ……」
ソウゴの意識が黒く塗りつぶされる直前、鏡が砕ける音が聞こえた。
「おい! ジオウ! 起きろ!」
「はっ!」
ゲイツの怒声でソウゴは目を覚ます。いつの間にか眠っていたらしい。
「……どうしたの?」
「寝ぼけている場合か! アナザーライダーが出た!」
「本当! 分かった! ……あれ?」
「どうした?」
「前にもこんなことしなかったっけ?」
彼らは気付かない。時間が一週間巻き戻されたことに。
それを知っているのは唯一人、アナザーオーディンのみ──の筈だった。
「──やっぱり前にも同じ事があった気がする」
逆巻く時の針が少しずつ狂い始める。
やっぱり長くなったので前中後編にしました。最後の後編は盛大にいきたいですね。
生身にライダーキックを放つのは凶キャラの特権。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ