仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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黒ウォズ「しまった! 祝い損ねた!」


アナザー13ライダーズ2002(後編)

「うあっ!」

 

 細剣の切っ先がジオウの装甲を削る。斬り上げられた切っ先が、今度は振り下ろす形となってジオウを襲う。間一髪のところで側面から飛んできた光弾をが、細剣に命中し軌道をずらす。細剣の先端が、勢い良く地面を叩いた。

 

「気を抜くな! ジオウ!」

「──ごめん」

 

 ゲイツの怒声にジオウは素直に謝るが、心ここに非ずという雰囲気であった。

 ゲイツが苛立つのむ無理は無い。ここ最近のジオウの戦いは集中を欠いており、戦いの最中に何かを考えている様子であった。

 今も、ゲイツはとっくにアナザーライダーの一人を撃退したというのに、ジオウの方は苦戦している。

 女性的な体型。それに合わせた丸みのある白い鎧に、背中から白鳥を思わせる同色の翼。右手には細剣、左手には背部の翼を模した盾を装備している。突き出た胸部の装甲には『FEMME』の文字。

 ジオウたちにとって初めての女性の姿をしたアナザーライダー──アナザーファム。

 一見すれば綺麗に見えるかもしれないが、よくよく見ると全身に所々炭を塗った様な黒い汚れがあり、白ではなく灰色という印象を受ける。そして、アナザーライダーに共通してある剝き出しの歯が、第一印象を即座に台無しにする。

 アナザーファムがジオウたちに向けて盾を突き出す。すると、その盾から大量の羽が飛び出して、ジオウたちの視界を塞ぐ。

 

「くっ!」

 

 纏わりついてくる羽を振り払うとするが、羽は次から次へとゲイツを襲う。このままではアナザーファムを見失うと思ったとき──

 

『フィニッシュタァァイム!』

『ダブル!』

『スレスレシューティング!』

 

 仮面ライダーダブルの力を宿した銃モードのジカンギレードから弾丸が放たれる。それは疾風を弾にしたもので、放たれたと同時に羽を一気に吹き飛ばす。

 そして、視界が遮られている状態であったのに風の弾丸は的確にアナザーファムへ命中した。

 撃たれた箇所を押さえよろめくアナザーファム。このまま倒れるかと思いきや、背中の翼を羽ばたかせ空に上がり、逃げてしまった。

 あっという間に姿が見えなくなってしまったので、追うことも出来ず二人は仕方なく変身を解く。

 変身を解いたゲイツは、ソウゴを睨む様に見ている。怒っているのではなく観察の様な注視であった。

 気を抜いているかと思いきや、さっきの様に的確な動きもする。どうにも嚙み合わないソウゴの行動にゲイツは心配──もとい不審に思うのであった。

 

 

 ◇

 

 

 ソウゴは独り外を歩いていた。その手には銀のジオウライドウォッチが握られている。

 謎のアナザーライダーたち。それから感じる既視感にソウゴは焦燥を覚えていた。

 初めての筈なのに知っている。何故知っているのかという理由も分からずに。

 そんなソウゴの悩みを更に深めるのが、今手にしている銀のジオウライドウォッチである。

 既視感に従い、順一郎に『何か自分に渡す物は無いか?』と尋ねたとき、渡されたのがこれである。その結果、ソウゴの既視はほぼ間違い無いものであることが証明された。

 ソウゴはライドウォッチのスイッチを押してみようとする。親指がスイッチと思われる部分に触れ──る直前に親指は離れた。

 後に黒ウォズから、これがオーマの日に使う物であり、オーマジオウになるために必要なものだと聞かされている。

 

「はあ……」

 

 ソウゴは最高最善の王となるのが夢であり、最低最悪の王であるオーマジオウになるつもりはない。しかし、王に至る道でこのウォッチと向き合うことは不可欠。どうするべきかと溜息を吐き、少し歩き疲れたので設けられているベンチに腰を下ろす。

 周囲にはビルが並び、ガラスの向こうで働く人たちの姿が見える。

 謎のアナザーライダーたちと戦い始めてそろそろ一週間が経過しようとしていた。相手の正体は分からず、何故複数居るのかも分からない。そして、アナザーライダーたちが危うくなるとそれを助ける黄金の羽の正体も謎である。

 ここまでの間に、黒ウォズ、白ウォズと接触してあのアナザーライダーたちについて尋ねたが詳細な情報は無く、タイムジャッカーに直接問い質そうとするもこういう時に限って姿を見せない。

 ソウゴは頭を悩ませる。ソウゴがここまで深く悩むのにはもう一つ理由がある。

 ここ数日間、同じ様な夢を見る。それは、ゲイツと自分が死ぬ夢。

 夢は夢は所詮夢──と割り切れない所がある。その夢はあまりに生々しくリアリティに富んだものであった。音もニオイも痛みすらも記憶に残る程に。

 そして、この既視感。只事では無いと嫌でも思わされる。

 

「どんなに悩もうと無駄だ。お前が王を目指す限り、な」

「誰っ!?」

 

 ソウゴの内心を見抜く声に、俯いていたソウゴは慌てて顔を上げ左右を確認する。だが、近くに人の姿は無い。

 

「こっちだ」

「こっちって……ええっ!」

 

 声の方を見るとガラスとそれに反射する自分の姿が見下ろしている。しかし、すぐにおかしいことに気付く。ソウゴは今ベンチに座っている。なのにガラスに映るソウゴは立っているからだ。

 

「お、俺!?」

「そうだ。俺はお前だ。鏡の中の俺だ」

 

 鏡の中のソウゴは、ソウゴがしない様な邪な感情を露わにした笑みを見せる。

 この存在にもまた既視感を覚える。何故か胸の辺りが疼く感じがした。

 

「何で鏡の中の俺が、俺に話し掛けられるの!」

「そんなことはどうでもいい」

「どうでもって……まあ、いいや」

 

 鏡像は重要なことをどうでもいいと蹴り、本物も異常事態をあっさりと受け入れる。

 

「鏡の俺なら、俺に協力してくれるよね?」

「──分かっていたことだが、一部分ぐらいしか記憶は引き継いでいないみたいだな」

「引き継ぐ? どういう意味?」

「お前が知る必要は無い」

 

 鏡の中のソウゴが鼻で笑う。言動の一々が挑発的であった。

 

「何か嫌な感じだなー……結局協力してしれないの?」

「答えはこれだ」

 

 鏡の中のソウゴが、ライドウォッチを突き付ける。回転し、ジオウの顔が浮かぶがその顔は反転していた。

 ソウゴは咄嗟に銀のジオウライドウォッチを同じ様に突き付けていた。ソウゴの反応を見て、鏡の中のソウゴは嘲笑する。

 

「く、ふ、ふふふふ。そういうとこだな」

「な、何が!」

「お前が聖人君子じゃないところだよ。揺れているんだろ? その力に? オーマジオウの力に? 強かったよなぁ? あの最低最悪の王様はさ! 思わず惹かれるぐらいに!」

「違う! 俺はあんな力──」

「最高最善の王になるなんて、お前には無理なんだよ。あれがお前の末路だ」

 

 否定するソウゴに冷たく言い放つ。

 

「俺は、全ての民を救う為に王様に!」

「ゲイツはいいのか?」

「当然ゲイツだって!」

「ゲイツは良い奴だよな? お前がオーマジオウになる為の言い訳になってくれるんだから」

「俺はそんなこと望んじゃいない!」

「ゲイツだって許してくれるさ。自分の命を救う為にオーマジオウになろうとしても。言い訳のだしにされたり、踏み台だと思われても」

 

 どんなに強く否定しても、鏡の中のソウゴは抉り出す様に言葉を並べていく。これこそがソウゴの本音だと言わんばかりに。

 

「俺は……! 俺は……!」

「──偽善者め。お前の中は黒なんだよ、真っ黒。俺はお前。俺の言葉は、お前の言葉だ」

「違、う……」

 

 抜き身の刃の様な言葉がソウゴを追い詰める。最早、ソウゴは鏡の中のソウゴから目を逸らし、か細い言葉で否定することしか出来なかった。

 鏡の中のソウゴは、打ちのめされているソウゴを一笑し、鏡面の奥へと姿を消した。

 

 

 ◇

 

 

 今日で一週間となる。ソウゴの既視感が正しければ、今日中に何とかしないとゲイツもソウゴの命も危うい。

 しかし、今のソウゴにはいつもの明るさは無く陰を背負っていた。

 ツクヨミは言っていた。ソウゴはオーマジオウにはならないと。

 鏡の中のソウゴは言っていた。お前は最低最悪の魔王──オーマジオウになると。

 どれが本当の自分なのだろうか。ソウゴ自身はオーマジオウになるつもりは無い。しかし、心のどこかでは自分がそうなるかもしれないという思いもある。かつて未来の自分自身に出会い、その末路を見て王になる道を断念した程である。

 あの時は、ゲイツの存在があってもう一度王を目指す道を歩めた。だが、現実は再びソウゴに試練を突き付けてくる。

 気付けばソウゴはまたあのベンチに来ていた。ビルのガラスを見る。そこには鏡の中のソウゴは見えない。

 ホッとする自分と、少しだけ不安を感じる自分があった。

 

 キィィィィィィン

 

「うわっ」

 

 耳の中に飛び込んでくる様な甲高い音に、ソウゴは表情を歪めながら反射的に両耳を押さえる。しばらくの間、押さえていたがやがて音は聞こえなくなった。

 

「何だったの、今の……え?」

 

 ソウゴは気付く。いつの間にか隣に誰かが腰掛けている。クリーム色のロングコートを纏った青年だが、見えているのにまるで存在感を感じさせない。その人としての気配の薄さがソウゴの頭の中に『幽霊』という言葉が浮かび上がらせる。

 

「誰……?」

「お前が王になる為に戦っているライダーか」

「何でそれを……」

 

 いきなり自分のことを言われ、ソウゴは驚きと共に男を警戒する。

 

「合わせ鏡が無限の世界を形作る様に、人の運命もまた一つではない。それはお前自身も分かっている筈だ」

 

 全てを知っている様な口振り。だが、男からは殺気立ったものは感じ取れない。

 

「王になるという欲望の為に、今もお前は戦っている」

「欲望って……ただ、俺は皆を幸せにする最高最善の魔王に……」

「欲望も願いも同じだ。叶えたい、それだけのこと。お前の欲望──願いは人が背負うには大き過ぎるな。だからこそ、背負い切れなかったものが零れ落ち、お前に牙を剥くのだろう」

 

 ソウゴは鏡の中のソウゴを思い浮かべる。あれがソウゴが背負い切れ無かったもの、意図せずに零れ落としてしまったものだとすれば。

 

「叶わない願いならば諦めてしまった方が幸せなのかもしれない。叶える為に戦い傷付くのはお前だけではない」

 

 ソウゴは、ゲイツ、ツクヨミ、黒ウォズの姿が脳裏を過る。言葉が突き刺さる、現実が重く圧し掛かる、見て見ぬふりをしていた黒いものが心に牙を立てる。

 だが、それでも──

 

「俺は……世界を良くしたい! 誰もが幸せであってほしい! そんな世界を作る為に俺は王様になりたい! どうしてもこの夢を捨てることなんて出来ない!」

「──なら背負うことだ、全てを。お前が零していったものを。そのときお前は──」

 

 言葉がそこで途切れる。ソウゴが見ると既に男は居なくなっていた。

 

「全てを背負う……」

 

 

 ◇

 

 

 ツクヨミから連絡が入る。ゲイツがアナザーライダーたちと接触したらしい。すぐに繰る様に伝えられるが、ソウゴにはその前にやる事があった。

 ソウゴが鏡の前に立つ。鏡の中のソウゴがそんな彼を見る。

 

「最低最悪の魔王となる自分を受け入れたか」

「いや、俺はやっぱり最高最善の魔王を目指すよ」

「まだ、そんな綺麗事を……」

 

 鏡の中のソウゴは、吐き捨てる様に言うと鏡の中でジクウドライバーを取り出し、それにライドウォッチを填める。

 

『仮面ライダージオウ』

 

 ミラージオウと変身すると、鏡の中からソウゴにジカンギレードを突き付ける。

 

「もう一度死なないと分からないのか?」

「そうじゃない」

 

 ミラージオウがジカンギレードを振るう。鏡から飛び出し、その刃がソウゴの首に触れる直前──刃が止まった。

 

「何故避けようとしない?」

「俺は君と戦う為に来たんじゃない。受け入れる為に来たんだ」

「何……?」

 

 ジカンギレードの刃が離れる。

 

「俺には最高最善の面も、最低最悪の面もある。口で言う綺麗事も、裏腹に心で思っている黒いことも……。でも、両方合わせて俺なんだ」

 

 ソウゴは、全てを背負う為に目を背けてきたものを真っ向から見る。

 

「それを認めなきゃ未来なんて来ない。俺の願いを叶えることなんて出来ない!」

 

 ミラージオウが鏡の中から外に出てくる。

 

「お前は、オーマジオウとなる未来が怖く無いのか?」

「──怖いさ。でも、俺が君なら俺が今思っていることが分かるんじゃない?」

『俺は未来の俺に賭けてみたい』

 

 二人の口から全く同じ言葉が重なって出る。

 

「──そうか。なら真の王になってみろ。光も闇も、過去も未来も統べる王に」

 

 ミラージオウが黄金の輝きを放つ。その輝きに目が眩むソウゴ。光が収まるとミラージオウの姿は無い。代わりに、ソウゴの手の中に黒の地に金のラインで見た事が無いライダーの顔が描かれたウォッチが握られていた。

 

 

 ◇

 

 

 アナザーライダーたちに苦戦するゲイツ。やがて、その凶刃がゲイツを貫き、命を奪う──かと思いきやまるで何事も無かったかのように凶刃が襲う数秒前に戻る。

 事態に困惑しながらもアナザーライダーたちの手から逃れたゲイツ。

 そこにアナザーオーディンが姿を見せた。

 

「修正、が、必要、だ……」

「お前が黒幕か!」

 

 アナザーオーディンが錫杖で地面を突く。ガラスが砕ける音と共に全ての時間が逆行を──

 

「無駄だよ。もう時間を巻き戻させない」

 

 逆巻く時間の中に平然と立つソウゴ。その手の中には金と銀のウォッチが一つとなったライドウォッチが握られている。

 その言葉の通り、逆行していく筈の時間が進み始め、アナザーオーディンが巻き戻す前へと戻される。

 

「ジオウ! いつの間に!」

 

 突然、隣に立っているソウゴにゲイツは驚く。そして、手に持っている新たなウォッチの存在に気付く。

 

「それは──」

「話は後! 追うよ! ゲイツ!」

 

 ソウゴに言われて気付く。アナザーオーディンたちが、鏡の中へ入っていく。

 それを追ってソウゴも鏡へと飛び込む

 

「──仕方ない!」

 

 ゲイツもそれを追って鏡へと入っていく。

 ソウゴが鏡へ入ると、アナザーオーディンが待ち受けていた。

 アナザーオーディンが錫杖で地面を突く。シャン、という音が響くが何も起こらない。もう一度錫杖を突くが、やはり何も起きなかった。

 

「無駄だ。お前のライダーたちはここには来ない」

「あんたは……!」

 

 ソウゴは目を丸くする。見間違いでなければ、あの幽霊の様な男であった。

 

「ようやく会うことが出来たな。俺が零れ落としたものを拾い上げに来た」

 

 幽霊の様な男はカードデッキの様なものを取り出す。カードデッキの中央に不死鳥の紋章があり、それと共に下腹部に金のベルトが装着される。

 男の正体を直感し、ソウゴもまた新たなライドウォッチを起動させる。

 

『ジオウⅡ!』

 

 スイッチを押すのではなく回すことで、一つのウォッチが二つのウォッチへと分かれる。

 

『ジオウ!』

 

 男の手からカードデッキが離れ、宙を移動しベルトに挿し込まれ、ソウゴも二つのライドウォッチをジクウドライバーに装填する。

 

「──変身」

「変身!」

 

 黄金の羽を散らし、無限の力を持つ仮面ライダーオーディン。

 過去も未来も統べ、新たな未来を切り開くジオウを超えたジオウ、仮面ライダージオウⅡ。

 鏡の世界に二人の最強が降臨する。

 

 

 ◇

 

 

「くっ!」

 

 ジオウとは異なる場所に飛ばされたゲイツは苦戦していた。相手が二人掛かりであったからだ。

 片方はアナザーナイト。もう片方は龍を模した赤い鎧に、手と一体化した龍の頭部型の手甲ともう一方の手に青龍刀を持つアナザー龍騎。隙を衝かせない連撃で一方的に追い込まれており、ライダーアーマーを召喚する暇すらない。

 追い詰められていくゲイツ。

 そのとき──

 

「おい! 大丈夫か!」

 

 心配そうな声を出しながら駆け寄ってくる男。水色のジャンパーに長髪の、その顔は整っているがどこか抜けていそうな印象を受ける。

 

「これが俺達の相手か。成程、似ているな」

 

 もう一人現れた男は、長髪の男とは対照的に黒のロングコートを羽織り、短く切った頭髪、冷静そうな印象を受ける顔立ちをしている。

 

「──これで最後なんだな」

「奴の言葉を信じるならな」

 

 ゲイツは二人が何処から来たのか疑問に思う。ここは鏡の世界であり、通常の人間が入ることなど出来はしない。

 ならば彼らは──

 ゲイツが見ている前で、カードデッキを取り出す。長髪の男は龍、短髪の男は蝙蝠の紋章が入っていた。

 

 

 

 アナザーシザースの前に立つはスーツ姿の男。アナザーシザースを不快そうに見る。

 

「その姿、忌々しいですね。──消えてもらえませんか?」

 

 男が取り出すのは蟹の紋章が刻印されたカードデッキ。

 

 

 

 上品なスーツを纏う長身の男は、アナザーゾルダの姿を見た途端顔を顰めた。

 

「何? そのごちゃごちゃした見た目は。俺の趣味じゃないね。さっさと終わらせよう。吾郎ちゃんが美味い料理を作って待っているからさ」

 

 余裕を持った態度で猛牛が刻印されたカードデッキを取り出す。

 

 

 

 

 アナザーガイをにやつきながら見る青年は、見せびらかす様に犀の紋章が刻印されたカードデッキを振る。

 

「同キャラ対決なんて燃えるじゃん。ま、勝つのは俺だけどね」

 

 

 

 アナザーライアの前で、男はコインを指で弾き、それをキャッチして裏か表かを見る。

 

「どうやらお前は負けるようだ。俺の占いは当たる」

 

 運命を予知しながら、エイの姿が刻印されたカードデッキをアナザーライアに突き付ける。

 

 

 

 アナザー王蛇を威嚇するように蛇革のジャケットを着た男が現れる。

 

「丁度イライラしていたところだ。俺と戦え……!」

 

 抑え切れ無い衝動を叩き付ける様に蛇の刻印があるカードデッキを翳す。

 

 

 

 アナザータイガの前に陰気を漂わせる青年が、何を考えているのか分からない深淵の様な眼差しを向ける。

 

「君を倒したら、僕はもっと皆に好かれるのかなぁ……?」

 

 内から滲み出る狂気と共に虎が紋章のカードデッキを懐から取り出した。

 

 

 

「俺さ……待たせている人が居るんだよね」

 

 アナザーインペラーを見る軽薄そうな青年。彼はレイヨウの紋章があるカードデッキを持っていた。

 

「だから早く負けてくんないかな? 俺は帰らなくちゃいけないんだ」

 

 

 

 アナザーベルデは、首に巻き付いた見えない何かを外そうともがいている。そんなアナザーベルデを見下す様に見る壮年の男性。

 

「人は皆ライダーと言ったが、お前みたいな紛い物は邪魔なんだよ!」

 

 傲慢に言い放つと、殴りつける様にカメレオンの刻印があるカードデッキを出した。

 

 

 

「あんたさ……もう少し見た目を気にした方がいいんじゃない?」

 

 アナザーファムの姿を見て、勝ち気そうな女性がアドバイスを送る。

 

「じゃないと男は引っ掛からないよ」

 

 その手の中に持つ白鳥の刻印がされたカードデッキが、光を受けて白く輝く。

 

 

 

 

 アナザー龍騎に酷似したアナザーライダーが独り暗い高架下を歩く。アナザー龍騎との違いは黒い体色と、武器を持つ手が逆というぐらい見分けのつかないアナザーリュウガは、呼ばれてアナザーオーディンの下へ向かっていた。

 そのとき、暗い中で浮かび上がる人影。顔は影によって隠れているが、辛うじて青いジャンパーを着ているのだけが分かる。

 

「目障りだ……失せろ」

 

 影の中から抜き出した様な漆黒のカードデッキ。刻まれた龍の刻印も黒一色に染められている。

 

 

 戦う場所が違う、目的も信念も違う彼ら。だが、発する言葉は唯一つ。

 

『変身!』

 

 

 ◇

 

 

 

 ジオウⅡとオーディンの連携は、アナザーオーディンを圧倒していた。

 瞬間移動で距離を取ろうとも、ジオウⅡに新たに備わった能力──未来予知で場所を特定され、オーディン自身も瞬間移動が出来る為意味を為さない。

 黄金の羽で斬り裂こうにも、オーディンが放つ黄金の羽によって全て打ち落とされてしまう。

 

『SWORD VENT』

 

 オーディンが錫杖にカードを装填すると、一対の双剣がその手に握られる。炎、疾風の力を宿した双剣がアナザーオーディンを切り裂いたかと思えば、ジオウⅡもまた新たに手に入れた武器、ジオウを模した顔が付いた剣サイキョーギレードとジカンギレードの二刀流でアナザーオーディンを斬る。

 アナザーオーディンが自身を羽で包む。ジオウⅡの二対の針が回転すると、数秒後の未来を脳内に投影。

 

「そこだ!」

『ライダー斬り!』

 

 サイキョーギレードのトリガーを引くと、刀身がピンク色の光に覆われ、振り抜くと光が放たれる。

 その光は、瞬間移動した直後のアナザーオーディンに命中し転倒させる。

 

『覇王斬り!』

 

 サイキョーギレードのジオウの顔を動かし『ライダー』を『ジオウサイキョウー』という文字に変えると、刀身が七色の輝きを発し、ジオウⅡがそれを振るうと円状の光刃が離れた位置にいるアナザーオーディンを斬る。

 

「とどめだ!」

 

 サイキョーギレードの顔をジカンギレードのスロットに填め、ジカンギレードの刀身にサイキョーギレードを合体させ大剣にする。

 

『サイキョー! フィニッシュタァァイム!』

 

 オーディンもまた錫杖にカードを挿し込む。

 

『FINAL VENT』

 

 合体させたジカンギレードの刃が、巨大な光の剣となり、刀身には『ジオウサイキョウ』の文字。

 オーディンの頭上に黄金光を纏う不死鳥──ゴルドフェニックスが飛翔する。

 ゴルドフェニックスとオーディンは一体化し、閃光を放つ巨大な不死鳥へとなるとアナザーオーディンに向かって突進する。

 

『キング! ギリギリスラッシュ!』

 

 全てを斬り裂く光の刃と、万物を貫く黄金の不死鳥。

 二つの極光を浴び、アナザーオーディンは爆散する。

 

 

 ◇

 

 

 アナザーオーディンを倒したソウゴ。すると突然地震が起こり、周囲が空間ごと崩れ始める。

 

「何? 何?」

「行け。もうすぐこの鏡の世界は崩壊する」

「嘘っ!」

 

 思いもよらないことにソウゴは動揺する。

 

「反射物に触れればすぐに外に出られる。早く行け──それと」

 

 男がソウゴに何かを放る。受け止めるとそれはライドウォッチであった。

 

「これ──」

「迷惑を掛けたその詫びだ。俺にはもう必要無い」

「あんたも早く出ないと!」

「いい。俺の世界はここだ」

「それって……うあっ!」

 

 ソウゴの視界を隠す様に建物の一部が落下する。こうなると男の姿は見えない。後ろ髪を引かれる思いであったが、ソウゴは近くにある反射物に触れる。

 するとそれに引っ張られてソウゴは鏡の世界から飛び出していた。

 

「ジオウ!」

「ソウゴ!」

 

 鏡の世界の外では、ゲイツとツクヨミが居る。更には行方不明になっていた人たちも。気絶しているが無事であった。

 

「ツクヨミ。ゲイツも無事だったんだね」

「ああ、鏡の中で助けられた」

「ゲイツも?」

「──別れ際にこれを渡された」

 

 ゲイツの手には二つのライドウォッチ。描かれた顔から推測するに龍騎ライドウォッチとナイトライドウォッチ。

 ジオウも渡されたライドウォッチ──オーディンライドウォッチを見る。

 

「何だったんだろうね、あの人たちは」

「さあな。鏡の中のライダー、だったのかもしれないな」

 

 

 ◇

 

 

「う、うう……」

 

 幽鬼は壊れたアナザーウォッチへ手を伸ばそうとする。

 

「もういい」

 

 その言葉に幽鬼の手は止まった。

 

「終わったんだ。全ては。もうライダーバトルは繰り返されない」

 

 見上げる幽鬼。その顔は、見下ろしている男と全く同じ顔であった。

 

「お前は、時間を繰り返したことで零れ落ち、集まった俺の執念、未練、妄執だ」

「俺は……俺は……戦わせる……命……命……」

 

 譫言の様に言うが、肝心なことが抜け落ちていた。

 

「何の為にだ?」

「何の……? 何の……何の……」

 

 目的そのものが欠如しており、答えることが出来ない。

 

 男──神崎士郎が伸ばした手に、神崎士郎の残骸が恐る恐る手を伸ばす。

 

「その答えは俺が教えてやる」

「答、え……?」

「行こう、優衣が待っている」

 

 




アナザーオーディン
身長:205.0cm
体重:100.0kg
特色/能力:時間を操る/一般人をアナザミラーライダーに変える。

変身者:神崎士郎の残骸。
神崎士郎が時間を繰り返す中で零れ落ちた絶望、妄執、後悔などが集まって人の形となったもの。残骸故に神崎士郎の記憶は殆ど無い。
アナザーウォッチの力でライダーバトルをしなければならないという目的は思い出すも、その理由は最後まで思い出せなかった。
倒されなければ、行方不明者たちは永遠に終わりの無いライダーバトルをさせられていた。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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