仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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一番長い話となりました。今週のジオウの予告を見て、再登場があって安心しました。


アナザー✕✕✕✕✕✕✕2019(後編)

 ゲイツリバイブの表皮を剝がした様な見た目のアナザーゲイツリバイブは、見た目通りに剝き出しの憎悪を二人に向ける。

 両親が奪われるきっかけとなったソウゴ。そのソウゴを守ろうとするゲイツ。彼らは憎むべき存在であり、同時に倒すべき存在であると飛流の中で決定付けられる。

 アナザーゲイツリバイブは、五指を等間隔に開き、指先を軽く曲げる。指を形成する輪が、全て回転し強烈な切削力を生み出しているせいで拳を作ることが出来ない。その手の形は、丁度ジカンジャックローを持つ構えに似ていた。

 ゲイツリバイブに向けて右手を突き出す。それをジカンジャックローの丸鋸で受け止められた。回転と回転。切削と切削が衝突し合い、空気が震える程の大音量が場に響き渡る。耳の奥が音で蹂躙され、全身に鳥肌が立ちそうな不快音であった。

 アナザーゲイツの時は、ゲイツリバイブの腕力に歯が立たなかった。だが、アナザーゲイツリバイブとなった今、ゲイツリバイブの力と拮抗出来ている。互いに押そうが、二人の足がその場から離れることは無かった。

 ゲイツリバイブとアナザーゲイツリバイブが拮抗する一方で、ジオウⅡもそれを黙って見ている筈も無く、サイキョーギレードをアナザーゲイツリバイブで斬りかかった。

 アナザーゲイツリバイブは、それを見向きもせず迫る刃に指先を当てる。虫でも払うかの様な軽い仕草だというのに、両手で振り下ろしたサイキョーギレードは弾かれた。

 痺れる様な衝撃がジオウⅡの両腕に走る。直後に、アナザーゲイツリバイブは、ゲイツリバイブの顔に裏拳を当てて怯ませ、返す手でジオウⅡの胸部に掌を押し当てる。

 ジオウⅡの装甲を、火花を上げて削り上げると共に、体中が痙攣でも起こしたかの様な振動がジオウⅡを襲った。

 

「うああああああ!」

 

 筋肉という筋肉が細かに、そして強制的に震えさせられ肉体に激しい痛みが生じる。視界も揺れ、脳も揺さぶられ、骨や臓器も震わせられる。これ以上受け続ける体がバラバラになるか、内臓が破裂するのではないかと思ったとき、アナザーゲイツリバイブの脇腹がジカンジャックローで殴りつけられる。

 その攻撃で手が離れ、アナザーゲイツリバイブも数メートル程横へ飛ぶ。

 

「大丈夫か!? ジオウ!」

「だ、大丈夫。ありがとう、ゲイツ」

 

 痛みや吐き気は残るものの、それを悟らせない様にジオウⅡは礼を言う。

 

「倒す、倒すと大口叩いていたお前が、魔王相手に友情ごっこか?」

 

 アナザーゲイツリバイブが憎まれ口をきく。無防備な所をジカンジャックローで思いっ切り殴打されたというのに痛がる素振りも、ダメージを受けた様子も無い。アナザーゲイツリバイブの骨の様な装甲も、本物と同じくらいの防御力を持っているのが分かる。

 

「……こいつを倒すのは俺だ。だが、今はこいつを倒す必要は無い」

 

 ゲイツがジオウを倒すとき、それは彼が進むべき道を間違えたと確信したときのみ。ジオウは魔王にならないと確信したゲイツにとっては、最早無いに等しいことだが。

 

「──笑わせてくれるぜ」

 

 飛流のその言葉は、ジオウを守る発言をするゲイツに対して。そして、その発言に失望を覚えた自分に対して向けられたものである。

 ゲイツとは誰がジオウを倒すかで争った間柄であるが、ジオウを倒すという共通の目的を持っている点に関しては関心があった。自分と同じ選択をした者がいるということは、少なからず飛流がその道を進むことへの後押しとなった。

 だが、今の現実は真逆である。倒すと言っていた者が、その倒すべき存在を守っている。自分の邪魔をしている。両親の無念を晴らす機会を奪っている。

 常盤ソウゴに向ける憎悪と同じくらいの怒りをゲイツに対して覚える。一度言葉にしたが、胸中でもう一度誓う。

 必ず二人とも倒す、と。

 アナザーゲイツリバイブが掌を突き出す。それが、ゲイツリバイブの胸甲へと当たった。

 ジオウⅡをも苦しめた超振動と切削がゲイツリバイブを襲うが、アナザーゲイツリバイブの力を以てしても表面を削るのが精一杯であった。

 両者の力は全くの互角。アナザーゲイツリバイブを倒せる確率が最も高いのはゲイツリバイブだろう。しかし、裏を返せばゲイツリバイブを倒すことが出来るのもアナザーゲイツリバイブである。

 触れていた手を跳ね除け、ジカンジャックローでアナザーゲイツリバイブの頬を殴る。傾く体。しかし、踏み止まり、お返しと言わんばかりにゲイツリバイブの額に突きを入れる。

 仰け反り僅かに後退するもすぐに体勢を立て直し、ジカンジャックローで心臓、鳩尾、腹を三連続で打つ。アナザーゲイツリバイブはそれに耐えながら、腹に攻撃を受けると同時にゲイツリバイブの肩に手刀を落とす。

 互いの攻撃を受け、ゲイツリバイブの体が斜めに傾き、アナザーゲイツリバイブは前のめりとなった。

 ゲイツリバイブは硬い防御を貫く重い攻撃に肩が外れそうな痛みを覚え、アナザーゲイツリバイブはこみ上げてくる吐き気を無理矢理押し止める。

 無言で苦しむ中、ゲイツリバイブとアナザーゲイツリバイブの視線が衝突し合う。ほぼ同じタイミングで二人は中段蹴りを放ち、お互いの脇腹を抉る様に蹴りつけた。

 剛力を持つ肉体から放たれた蹴りは、上半身と下半身が分かれてもおかしくはない威力を秘めている。ただし、それを受けるのがゲイツリバイブとアナザーゲイツリバイブならば、必殺も息が詰まる程の痛み程度で抑えられる。

 よろける様に移動し、距離を開ける両者。力と防御力は同じであり、このまま戦い続けても埒が明かない。

 それならば戦い方を別の方法に移す。ゲイツリバイブは、ドライバーのゲイツリバイブライドウォッチを回転させる。

 

『スピードターイム!』

『リバイ・リバイ・リバイ! リバイ・リバイ・リバイ! リバ・イ・ブ・疾風!』

『疾風!』

 

 重装甲が展開して両翼となり、仮面の色も青へと変わる。力の剛烈から速さの疾風に形態変化した。

 しかし、ゲイツリバイブが形態を変えると同時にアナザーゲイツリバイブもまたドライバーに付けられた壊れた砂時計を回転させ、上下を入れ替えていた。

 胸骨の様な装甲が開き、骨の翼と成り、その翼に透明な飛膜が張られる。体中を巡る赤い血管は静脈の様な青色へと色を変えた。

 指の輪の回転が止まる。拳を作り、強く握り締めると拳頭を突き破って一対の爪が左右の手に生えた。

 ゲイツリバイブのアナザーライダーである以上、剛烈だけでなく疾風の力もまた備わっていた。

 二人のゲイツリバイブ疾風が眼光を飛ばす。

 

「力比べの次は、速さ比べか?」

「どこまで俺の力を真似出来るか試してやる」

「試されるのはどっちかな?」

 

 二人の姿が消える。正確に言えば、消えている様に見える速度で二人が動き出したのだ。

 限られた者にしか踏み込むことが出来ない超高速の世界の中で、ゲイツリバイブとアナザーゲイツリバイブの戦いが始める。

『つめモード』にしたジカンジャックローの刃と、アナザーゲイツリバイブから直接生えた刃がぶつかり合う。

 上から下に向けて振られたジカンジャックローを、アナザーゲイツリバイブは右手の爪で受け止め、左手の爪でゲイツリバイブの胴を裂こうとする。だが、爪が届く前にゲイツリバイブが相手の左手首を掴み、止めてしまう。

 互いの両手が塞がると同時に、前蹴りを繰り出し。お互いの腹部を蹴り合う。

 吹き飛ばされる二人。数十メートル以上飛ばされた後、空中で姿勢を反転させ、そのまま空中戦へと移行する。

 真っ直ぐに飛びながら爪を突き出すアナザーゲイツリバイブ。その手を肘で打ち落とし、ジカンジャックローを顎下から突き上げるゲイツリバイブ。横から伸ばした爪がジカンジャックローを絡み取り、刃が届かない。

 音速以上の速度で飛翔しながら、刃と爪が互いを削り合う。十の攻防。現実世界ではほぼ刹那の間にそれが行われている。

 そのまま縺れ合う様に地面に着地し、再び同じ様な戦いを繰り返す。

 両者の速度は全くの互角であった。

 

「ゲイツ……!」

 

 一人取り残されるジオウⅡ。未来予知で何とかゲイツリバイブの手助けを出来ないかと試してみたが、二人は絶えず高速で動き続けており、それどころか残像も残しながら戦い合っているせいで、数秒後の光景にはゲイツリバイブとアナザーゲイツリバイブが様々な場所で十組以上見える。

 ゲイツリバイブと戦った際に未来予知を上回る動きを見せつけられたが、それでもまだ加減をされていたらしい。同じ能力を持つ同士の戦いのせいで互いが全力以上を出し合っている。

 しかし、ジオウⅡも黙って二人の戦いを見学しているつもりは無い。高速の世界についていけないのなら、ついて行ける様にすればいい。

 幸いにも、その方法がジオウⅡにはある。

 ジオウⅡは、今装填しているジオウライドウォッチⅡを抜き、代わりにジオウライドウォッチとディケイドライドウォッチを挿す。

 

『ジオウ!』

『ディ、ディ、ディ、ディケイド!』

 

 二つのライドウォッチを起動させながらドライバーも一回転させ、ジオウⅡからジオウとなり、更にディケイドアーマーを召喚する。

 

『アーマーターイム!』

『カメンライド・ワーオ! ディケーイ! ディケーイド! ディーケーイードー!』

 

 ディケイドアーマーを装着すると、すぐに別のライドウォッチを、ディケイドライドウォッチのスロットへと挿し込んだ。

 

『ファイナルフォームターイム!』

『ファ、ファ、ファ、ファイズ!』

 

 挿したライドウォッチはファイズライドウォッチ。ディケイドライドウォッチの力によって一段階上の力が引き出される。

 右肩に『ファイズ』、胸部に『アクセル』の文字が描かれ、両腕両脚には銀のラインが走る。顔面のディスプレイ状の顔にはφの文字を模した赤目の仮面が映し出された。

 ジオウディケイドアーマーファイズフォーム。この姿になることで、ジオウは高速世界に踏み込んでいく権利を得られる。

 ジオウは左腕を翳す。腕にはリストウォッチ型のツール──ファイズアクセルが付けられている。

 ファイズアクセルのスイッチを押す。

 

「行くよ!」

『Start Up』

 

 デジタルカウンターに表示させられる数字。動けるのは十秒間。その十秒に全力を掛ける。

 アナザーゲイツリバイブは、戦っている最中に視界の端で赤い光が動くのを捉えた。何かが迫っている。そう判断するのと手が出るのは同時であった。

 爪で防いだのは、赤い光を放つ刃。アナザーゲイツリバイブは知らないがファイズエッジと呼ばれる仮面ライダーファイズの専用武器である。

 

「常盤ソウゴッ!」

 

 その存在を無視していた訳では無い。ジオウⅡよりもゲイツリバイブの方が手こずると判断し、後回しにしていただけである。だが、自分からこの戦いに入って来るなら容赦などしない。

 青く輝くアナザーゲイツリバイブの爪と、赤く輝くファイズエッジが交差する。

 

「はあっ!」

「たあっ!」

 

 速度はほぼ互角。しかし、力はアナザーゲイツリバイブの方に分があり、数度の打ち合いでジオウがよろめく。

 すかさず追い打ちを掛けようとするが、耳に入る風切り音に振り返ってそちらの方に爪を振るった。

 

「俺を忘れていないか?」

「邪魔だ!」

 

 高速の世界には、ゲイツリバイブも居る。ジカンジャックローとの鎬を削るアナザーゲイツリバイブ。そこに体勢を立て直したジオウも加わる。

 二対一。状況がジオウたちに傾く。

 右から来るファイズエッジを弾き、左から振られるジカンジャックローを防ぎ、突き出された剣身を逸らし、斬り上げられる刃を避ける。

 

「おおおおおお!」

 

 左右からの連撃を一人で捌くアナザーゲイツリバイブ。数の不利も、鬼気迫る勢いで互角、否、それどころか押し返し始めていた。

 アナザーゲイツリバイブがファイズエッジを受け止め、がら空きとなったジオウの胴体に横蹴りを入れる。

 蹴り飛ばされるジオウ。だが、その途中で手に持っていたファイズエッジをアナザーゲイツリバイブ目掛けて投げ放った。

 旋回し、赤い円を描くファイズエッジ。その苦し紛れの行為を鼻で笑いながら爪で弾き飛ばす。

 

『ファ、ファ、ファ、ファイズ!』

『ファイナルアタック! タイムブレーク!』

 

 赤い閃光が眼前に迫り、展開して円錐となる。ファイズエッジの陰に隠れて反応が遅れてしまった。

 円錐の中に、ジオウが飛び蹴りの体勢で突っ込んでくるのが見える。

 

「悪足搔きだっ!」

 

 アナザーゲイツリバイブの爪が青く強い輝きに包まれると、目の前で展開している赤い円錐を下から突き上げた。

 

「うあああああ!」

 

 円錐ごと真上に上げられるジオウ。

 

「ふんっ」

 

 それを無様と笑うアナザーゲイツリバイブ。だが、仮面の下の笑顔もすぐに凍り付く。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『リバイブ!』

「はっ!?」

 

 音の方を急いで見ると『きっく』という文字が宙に浮かんでいる。それを視認した瞬間、ゲイツリバイブの足底が『きっく』の文字を収めながら、アナザーゲイツリバイブの胸部を打ち抜く。

 

「がはっ!」

 

 一直線に飛ばされるアナザーゲイツリバイブ。その飛んで行った先にも『きっく』の文字。

 

「ぐあっ!」

 

 先回りしていたゲイツリバイブがその背を蹴り飛ばす。

 宙へと打ち上げられたアナザーゲイツリバイブ。それを囲む様にして浮かび上がる無数の『きっく』の文字群。

 

『百烈! タイムバースト!』

 

『きっく』の数だけゲイツリバイブの蹴りがアナザーゲイツリバイブへと叩き込まれる。腕、胸、背中、頭、脚、腹、と余すことなく。

 防御しようにも回避しようにも追い付かない。ゲイツリバイブとアナザーゲイツリバイブの速度が互角である。裏を返せば、一手遅れれば永久に追い付けないことを意味する。ジオウによって遅らされた一手。それがアナザーゲイツリバイブの致命的な隙を与えた。

 

「うあああああああ!」

 

 文字通り百の蹴りを一瞬にして打ち込まれたアナザーゲイツリバイブが、空中で爆発する。

 

『Three……Two……One……Time Out』

 

 カウントダウンが終わり、ジオウの動きは元へと戻る。ゲイツリバイブもた地面に着地するが、その場で膝を着き、変身が解除されてしまう。

 

「く、う……!」

「ゲイツ!」

 

 目や鼻から流血する様子は、明らかに異常であり、ゲイツリバイブのリスクを始めてみたジオウは慌ててゲイツに駆け寄ろうとしていた。

 

「はは……はははは!」

 

 笑い声。喜びの他に戸惑いと驚きが混じっている。

 ゲイツリバイブのタイムバーストを受け、空中で爆発した筈のゲイツリバイブ。しかし、地に立つ彼はウォッチを破壊されておらず、アナザーライダーの姿のままだった。

 

「どうして……!?」

 

 ウォッチを破壊するには十分な威力であった。完全撃破の条件も整っている。だが、何故か倒すに至っていない。

 

「……俺も正直予想外だったよ」

 

 アナザーゲイツリバイブが視線を下に落とす。つられてジオウもそこを見る。アナザーゲイツリバイブの足元には、砕けたアナザーウォッチが散らばっていた。

 

「まさか……!」

 

 ジオウは、それが何を意味するのか瞬時に悟る。

 

「こいつが俺の身代わりになってくれた」

 

 アナザーゲイツウォッチが壊れる代わりに、飛流が今まで入手していたアナザーウォッチが壊れた。

 先に言う様に、彼にとってもこれは思ってもいないことであった。ゲイツリバイブの技を受けたときは、ダメかと思っていたぐらいである。

 だが、運命は飛流から復讐の機会を奪わなかった。最初は、全ての運命が常盤ソウゴの味方だと思っていた。だが、それは違うと今なら思える。

 加古川飛流を勝たそうとする運命もまた存在すると確信する。

 飛流が手に入れたアナザーウォッチは、全部で十一。未来のアナザーライダーの力はアナザーゲイツウォッチに吸収され、ゲイツリバイブによって既に三つ破壊されている。残されたウォッチの数は五。アナザーゲイツウォッチを含めれば、ジオウたちは後六回もアナザーゲイツリバイブを倒さなければならない。

 

「そんな……」

 

 突き付けてられた事実に、ジオウは動揺する。動揺するがすぐに構えた。

 

「お前は俺に勝てない。その事実を知ってもまだ戦うのか?」

「──諦めたらそこで終わりなんだ。だから俺は信じる。十秒先も、一分先も、一時間先の未来の自分を。絶対に勝つって!」

「そんな未来はお前に無い!」

 

 疾風から剛烈へ形態を変え、両掌を翳して疾走し出すアナザーゲイツリバイブ。

 

「問題。リバイブの語源は、ラテン語からである。〇か×か?」

 

 突然の介入者の声に、アナザーゲイツリバイブの足が止まる。

 

「時間切れだ。正解は〇」

 

 アナザーゲイツリバイブの頭上に黒雲が現れ、そこから落雷が発生しアナザーゲイツリバイブを貫いた。

 

「ぐっ!」

 

 落雷の衝撃で膝が折れ曲がるアナザーゲイツリバイブ。

 その間にジオウとゲイツに近寄る者。

 

「大丈夫かい? 我が魔王。それにゲイツ君も」

 

 仮面ライダーウォズが、フューチャーリングクイズの姿で現れた。

 

「え? もしかして黒ウォズ? 何で仮面ライダーに?」

「その説明は後でしよう。今はあのアナザーゲイツを倒すことが先決だ」

「黒ウォズ……何をしに……!」

「あのアナザーライダーを生み出した責任の一端は私にもある。その責任を果たしに来ただけさ。ところで──」

 

 ウォズがゲイツを見下ろす。

 

「いつまでそうやっているつもりだい? まさか後は全部私たちに任せるつもりなのかい?」

「何だと……!」

「いや、黒ウォズ! これ以上ゲイツに無理を……」

「こんなもの! 少し休めばすぐにでも……!」

「分かった。なら五分だけ私が時間を稼ぐ。我が魔王、その間ゲイツ君の側に」

「側って……一人で戦う気!」

「心配ご無用。──少し試したいことがあるからね」

 

 そう言ってウォズがアナザーゲイツリバイブへと一人で歩み寄っていく。

 頭を左右に振っているアナザーゲイツリバイブは、近付いてくるウォズに気付いた。

 

「今度は、お前か……」

 

 ジオウに味方をする者が増え、アナザーゲイツリバイブは、ウンザリした声を出す。

 

「我が魔王の危機に、臣下が駆け付けるのは当然のこと」

「なら魔王共々ここでくたばれ」

 

 構えるアナザーゲイツリバイブ。

 

「なら問──」

 

 題と言い終える前に、アナザーゲイツリバイブの姿がウォズの視界から消える。

 

「俺から問題だ。この距離でお前は、さっきの能力を使えるか?」

 

 声は背後。疾風形態となってウォズの背後に回ったのだ。

 

「その答えは──×だ!」

 

 しかし、この動きを予測していたウォズは、ツエモードのジカンデスピアを振り返らなずに、後ろへ突き出す。

 硬い音が響く。疾風から剛烈となりジカンデスピアをその身で受け止めていた。

 

「これだけか?」

「まさか」

 

 既にウォズの手はキカイミライドウォッチとクイズミライドウォッチを交換していた。

 

『デカイ! ハカイ! ゴーカイ!』

『フューチャーリングキカイ! キカイ!』

『ヤリスギ!』

 

 フューチャーリングキカイとなり、ヤリモードにしたジカンデスピアで振り向き様にアナザーゲイツリバイブを斬り付ける。だが、その一撃を肩で受けられた挙句、ジカンデスピアを握られてしまう。

 

「こんなものか?」

 

 アナザーゲイツリバイブの掌打が、ウォズの鳩尾に入る。

 

「うっ!」

 

 追撃が側頭部を打ち、更に顎を突き上げる。

 

「うあっ!」

 

 腕力。摩擦。振動。どれも超が付く程に強力であり、たった三発でウォズに大きなダメージを与える。

 まだ一分程しか経っていないというのに。

 

「お前なんかに構っている暇は無い」

 

 アナザーゲイツリバイブがドライバーをなぞる。光が走り、それが全身へ伝わっていく。

 

「はあっ!」

 

 高々と振り上げられたアナザーゲイツリバイブの右脚。それが踵落としとなってウォズを狙う。

 咄嗟にジカンデスピアの柄で受け止めた。その威力にウォズの膝が折れていく。だが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 両掌の振動が、アナザーゲイツリバイブの全身から発せられる様になり、ジカンデスピア越しにウォズへも伝わり、その肉体を激しく揺さぶる。

 

「う、あああ!」

 

 苦痛に耐えるウォズ。しかし、耐える力は確実に弱まっていき──

 

「ふん!」

 

 ──アナザーゲイツリバイブが右脚に力を込めると地面へと押し潰された。

 振動で地面は砕け、細かい砂粒にまで分解される。その砂の中で埋まるウォズ。

 

「次はお前たちだな」

 

 ウォズを倒したアナザーゲイツリバイブは、今度こそ狙いをジオウたちに向ける。

 

「待ち……たまえ……」

 

 砂からウォズが這い出てくる。今にも倒れそうな姿に、アナザーゲイツリバイブは嘲笑を向けた。

 

「往生際の悪い」

「まだ……約束は、果たしていないんでね……」

 

 ボロボロの体でウォズが立ち上がる。フューチャーリングキカイの防御力が無ければ、とっくに意識を失っているところであった。

 

「もう少し……付き合ってもらうよ……」

『シノビ!』

 

 キカイミライドウォッチからシノビミライドウォッチへ換え、姿も変える。

 

『誰じゃ? 俺じゃ! 忍者!?』

『フューチャーリングシノビ! シノビ!』

 

 素早さを重視したフューチャーリングシノビとなったウォズを見て、アナザーゲイツリバイブはつまらなそうに鼻を鳴らす。

 

「はっ。やっぱり無駄な足搔きだ。あいつの時にもそれじゃあ追い付けなかったのは分かっている筈だ」

「それは……どうかな……?」

 

 弱々しい声を出すウォズに、呆れた視線を向ける。

 ウォズが動き出そうとしたとき、剛烈から疾風に変形したアナザーゲイツリバイブは、ウォズの首を掴み、その動きを事前に潰す。

 

「ぐぅ……」

「やっぱり無駄だったな。はははは──うっ!」

 

 突然胸を押さえるアナザーゲイツリバイブ。すると、胸からアナザーウォッチが抜け落ち、地面に落ちる前に砕ける。

 

「何故……! 攻撃を受けてもいないのに……!」

「ふふふふ……どうやら、私の思った通りだ……」

「お前! どういう意味だ!」

 

 ウォズの首を強く締め上げる。それに苦しむが、ウォズから笑い声が途切れることは無かった。

 

「ふふふ。君の、アナザーライダーの力は、ゲイツリバイブの能力を、完全に再現している。パワーもスピードも……そして、()()()()

「リスクだと……!」

「ゲイツ君を見たまえ……。短時間でもあれだけボロボロになっているんだ……。君は、気付いていないだけで……肉体の限界が来ている。いや……既に超えているかもしれない」

「馬鹿な……!」

 

 ウォズの言葉を完全に否定することが出来ず動揺する。変身が解除される程のダメージをアナザーウォッチが身代りとなるが、体力が元に戻る訳では無い。ならば今のアナザーゲイツリバイブの体は、激しく動くだけでも僅かなダメージでも限界の達する紙の如き耐久となっている。

 動揺するアナザーゲイツリバイブ。すると、ウォズが小声で何かを喋る。

 

「──だ。──う」

「何だ? 何を言っている?」

 

 聞き取れず、耳を寄せる。

 

「今だ! 我が魔王!」

 

 ウォズの体が白い煙に包まれてアナザーゲイツリバイブの手から消える。

 

「なっ!」

『キング! ギリギリスラッシュ!』

 

 直後に柱の様な光の刃がアナザーゲイツリバイブを両断した。ジオウからジオウⅡへといつの間にか変身していたソウゴが、未来予知によって絶妙なタイミングで一撃を入れる。

 

「うあああああああ!」

 

 地面を転がっていくアナザーゲイツリバイブ。体からアナザーウォッチが落ちて砕けた。

 残りは四。一気に決めに掛かる。

 

「はああああ!」

 

 サイキョージカンギレードを構え、飛び掛かるジオウⅡ。

 

「くそっ!」

 

 アナザーゲイツリバイブはすぐさま剛烈になりながら立ち上がり、振り下ろされた大剣を両掌で白刃取りをしてみせる。

 だが、ジオウⅡは躊躇うことなく剣から手を放し、ドライバーを回転させる。

 

『トゥワイスタイムブレーク!』

 

 閃光を放つ正拳が、アナザーゲイツリバイブの胸部に打ち込まれた。通常ならば耐えられる一撃も、今のアナザーゲイツリバイブにとっては致命傷に至る。

 

「うぐあ!」

 

 再び砕け散るアナザーウォッチ。これで残りは三。

 

「まだまだ!」

『ライダーフィニッシュタァァイム!』

 

 アナザーゲイツリバイブの周囲を囲むマゼンタと金色の『キック』の文字。逃れられない様に並ぶそれは、跳び上がり、右足を突き出したジオウⅡの足裏目掛けて収束していく。

 

『トゥワイスタイムブレーク!』

 

 直前まで逃げ道を断たれていたアナザーゲイツリバイブは、避けることも形態変化することも間に合わず、跳び込んできたジオウⅡのキックの直撃を受け、大きく飛ばされていく。

 砕けるウォッチ。残り二。

 

「俺は! 俺は!」

 

 気力で立ち上がり、剛烈から疾風に変わる。残された時間もウォッチも少ない。ならば一気に。そう思った矢先──

 

『疾風! ギワギワシュート!』

「うっ!」

 

 超高速の光弾がアナザーゲイツリバイブを貫いた。

 放ったのはゲイツ。ゲイツリバイブではなく仮面ライダーゲイツへと変身しており、弓モードにしたジカンザックにゲイツリバイブライドウォッチが填められ、その力でアナザーゲイツリバイブも反応出来ない速度の光弾を撃ち込んだのだ。

 残り一。もうアナザーゲイツリバイブに残されたライフは無い。

 

「お前だけでも……! お前だけでも……!」

 

 よろよろと動くアナザーゲイツリバイブ。

 その姿は二重にぶれ、アナザーゲイツと何度も入れ替わっていた。

 既にゲイツリバイブの力を維持することも困難であるらしい、だが、ジオウⅡもまた限界に近かった。

 体力を殆ど消耗しており、あと一回動けるかどうかである。

 

「お前だけは……!」

 

 アナザーゲイツリバイブが、ジオウⅡの前に立つ。その姿は殆どアナザーゲイツとなっており、両手で斧を構え、振り下ろそうとしている。

 

「ジオウ!」

 

 ゲイツが叫ぶ。すると、ジオウⅡは自然と声の方に手を伸ばしていた。未来を予知しての行動では無い。ゲイツならば、という信頼からくる動きであった。

 

「消えろ!」

 

 アナザーゲイツが斧を振り下ろす。ジオウⅡの手に伝わる重い感触。下から振り上げ、アナザーゲイツの斧を弾いたそれは、ゲイツのジカンザックス。

 振り上げられたジカンザックスを切り返し、アナザーゲイツの肩に斬り付ける。

 

「がっ!」

「決めろ! ジオウ!」

 

 そして引かれる必殺のトリガー。

 

『剛烈! ザックリカッティング!』

 

 肩から脇腹に掛けての袈裟切り。文字通りの剛烈なる最後の一撃は、アナザーゲイツのウォッチをも斬り裂いた。

 

「う、あああああああああああ!」

 

 アナザーゲイツは絶叫を上げ爆発する。

 変身と解かれ、飛流の姿へ戻す。その体からアナザーゲイツウォッチが落ち、音を立てて壊れた。

 ジオウⅡとゲイツもまた変身を解く。そして、ソウゴはゆっくりと飛流に近付いていく。

 

「お前さえ……お前さえ居なかったら……!」

 

 倒されても尚飛流の憎悪は消えず、ソウゴへ怨嗟の言葉を吐く。

 

「俺がいなかったら、事故がなくなって、家族は生き残ってた?」

 

 問い返され、飛流は言葉を詰まらせる。

 

「──そうかもしれない。でも、ごめん」

 

 ソウゴは飛流に頭を下げる。

 

「俺にはどうすることもできない」

 

 飛流にとってもソウゴにとってもどうしようもない事実であった。

 

「ただ、思うんだ。きっと、俺と飛流なら乗り越えられるって。──あの過去の日から」

 

 受けた心の傷は二人とも同じであった。ただ、ソウゴには順一郎が居た。だが、飛流には支えてくれる人が居なかった。互いになっていたかもしれない紙一重の関係。だからこそ、ソウゴは飛流の気持ちが分かる気がした。

 

「だから……過去のためじゃなく、今のために生きようよ!」

 

 自分にも飛流にも向けられるその言葉に、飛流は顔を俯かせる。その目が涙で滲み始める。

 一方的な憎悪を向けた自分にさえ励ます言葉を、立ち直らせようとする言葉を送るソウゴに、心身ともに完敗した気分であった。

 俯き、肩を震わせる飛流を支える様にして立ち上がらせようとするソウゴ。だが、飛流はその手を払い除ける。

 

「俺は……一人でちゃんと立てるし、歩いてもいける……!」

 

 涙を拭いながら飛流は立ち上がり、ソウゴたちに背を向ける。決別の言葉では無い。今を、未来を生きようとする言葉にソウゴは聞こえた。

 

「……うん」

 

 飛流は足を引き摺りながら去って行く。

 

「どうやら……終わったみたいだね……」

 

 左右にフラフラと揺れながら、黒ウォズが出てくる。

 

「……生きていたか」

「悪いかい? せめて礼の言葉ぐらいあってもいいと思うが?」

「誰がお前なんかに礼を言うか」

「まあ、私も期待はしていないよ」

 

 憎まれ口を叩き合う二人であったが、糸が切れた様に崩れ落ちる。ソウゴもまた同じであった。

 

「本当に……疲れた……」

「全くだ……」

「私も……限界だ……」

 

 ダメージと疲労で体は碌に動こうとしない。

 

「だが、それでも……!」

 

 ゲイツは体を起こそうとする。ゲイツがソウゴと決着を付ける決意をしたのは、ツクヨミの犠牲があったからだ。その犠牲を無駄には──

 すると、突然銀色のオーロラが現れ、そこから死んだと思っていたツクヨミが出て来た。

 三人はツクヨミの急な登場に驚き、ツクヨミも三人がボロボロな状態であることに驚く。

 

「ソウゴ、ゲイツ、ウォズ、やめて!」

 

 ツクヨミは声を上げて三人を引き離そうとする。

 

「戦う必要なんてないかもしれないの! まだ何もわかってないけど、これには深いわけがあって……!」

 

 どうやらツクヨミは三人が戦い合った結果傷だらけになったと早とちりをしているらしい。必死に三人を説得し、何とか止めさせようとする。

 その空回りする姿が可笑しくて、戦いの緊張から解き放たれたこともあって、ソウゴもゲイツも黒ウォズも思わず噴き出し、笑い出してしまった。

 急に三人が笑い出し、ツクヨミは訳が分からずオロオロとしてしまう。

 戦いが終わり、束の間の平和が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 三人が笑い、一人が戸惑う中、壊れた筈のアナザーゲイツウォッチが独りでに修復される。

 それは、戦いがまだ終わっていないことを暗示していた。

 

 




アナザーゲイツ
身長:194.5cm
体重:92.0kg
特色/能力:アナザーサブライダーまたはIFアナザサブライダーへの変化/未来予知妨害


アナザーゲイツリバイブ
身長:198.2cm
体重:114.3kg
特色/能力:剛力と重装甲/超高速での戦闘

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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