ジオウトリニティと仮面ライダーディエンド。アナザーカリスたちを相手するにはまだ足りない。だが、それよりも優先すべきことがある。
アナザーディエンドの側で気を失っている天音の存在だ。何とかしなければ、アナザーディエンド、もしくはアナザーカリスたちの餌食となる。
そんな葛藤を知ってか知らずか、アナザーディエンドは一笑すると、二枚のカードを取り出した次々に装填する。
『カメンライドォ・バロン』
『カメンライドォ・ブレイブ』
召喚されたのは、アナザーバロンとアナザーブレイブ。現れた二体のアナザーライダーは、アナザーカリスたちと同様に獣の唸り声を上げながら、アナザーカリスたちに襲い掛かった。
アナザーバロンの槍がアナザーカリスたちをまとめて貫き、アナザーブレイブの剣が一度に数体のアナザーカリスを斬り裂く。
その行動にジオウトリニティ内のソウゴたちは驚く。
「何を驚いているんだい? ここから先は、私と君たちとの戦いの筈だ。それ以外は邪魔でしかない。連れていくんならさっさと連れていくがいいさ」
助けるつもりは無いが、巻き込むつもりは無いという態度のアナザーディエンド。
「天音ちゃん!」
アナザーカリスたちが足止めをしている中で真っ先に動いたのは始であった。剣崎も始とほぼ変わらないタイミングで走り出している。
天音の下へ駆け付けた二人は、すぐに彼女を守ろうとする。そこに迫ってくるアナザーカリスたち。
「危ない!」
ジオウトリニティの胸部の顔が輝き、『ジュウ』の文字が出ると、それが銃モードのジカンギレードとなる。それを掴み、アナザーカリスたちにエネルギー弾を射ち込むジオウ。
本来のアナザーライダーとは違い、射ち抜かれたアナザーカリスたちは蒸発する様に黒い靄へと変わる。
一体一体の強さは大したものでは無い。おまけに武器も持っておらず素手のみ。完全な劣化コピーである。しかし、石板からは次々にアナザーカリスたちが生み出されており、無限に湧き続けている。
更には──
「余所見していてもいいのかい?」
アナザーディエンドの光弾がジオウトリニティを狙う。
「くっ!」
横っ飛びでそれを避け、地面を転がりながら次々に来る光弾から逃げる。剣崎たちを助けたいのに、これでは助けに行けない。
「そういう君も余所見をしていていいのかな?」
『アタックライド・ブラスト』
ディエンドがカードを装填し、トリガーを引く。ネオディエンドライバーの銃口から放たれた無数に分裂した青い光弾が、様々な方向からアナザーディエンドを撃とうとする。
アナザーディエンドの白い目がギョロリと動く。右手の指を真上に向けると、濁った青い光弾が、ディエンドが放った様に無数に分かれて発射され、ディエンドの光弾を次々と相殺していく。
「余所見をしたつもりは無いが?」
「成程。ますます気に入らないね」
その言葉の直後、ディエンドは姿が霞む程の速度で動き出す。ディエンドの高速移動に対し、アナザーディエンドも同じ速度で動く。
どこまでも同じ能力で対抗してくる。
ディエンドとアナザーディエンドは接近すると、最初に仕掛けたのはディエンドの方であり、左拳を放つ。手の甲で弾くアナザーディエンド。その脇腹に中段蹴りが刺さる。だが、すぐさま反撃の肘打ちがディエンドの顔を殴打した。
一瞬の怯みを見せる両者。だが、同時に好機と思いディエンドはネオディエンドライバーを、アナザーディエンドは右手を突き出す。
お互いの額に突き付け合う銃口。それを目で捉えると二人とも頭部を傾けて射線から外れると共に前進。額を打ち付け合いそうな程距離を詰め、肩に相手の右腕を乗せる様な形となる。
二人のディエンドが戦う様子を、傍から見ていたジオウトリニティは──
「あれだけ近いと巻き添えになっちゃうな」
剣崎たちを守りつつ、ディエンドの援護をしようとする。
『ジオウ──二人とも撃ってしまえ』
「ええ……。でも、一応味方みたいだし……」
『我が魔王──ここはゲイツ君の言う通りだ』
「黒ウォズまで……」
ディエンドに苦い思いをさせられたゲイツと黒ウォズは、味方として現れたディエンドを全く信用しておらず、ほぼ敵と変わらない扱いであった。
ディエンドたちの間合いは、既に銃の間合いでは無い。ならば選ばれる選択肢は一つだけ。
二人の胸部に左拳が打ち込まれたのは同時であった。
「くっ」
「うっ」
呻く声を出しながら後退させられる両者。その間にも二人は新たなライダーを呼ぶ出す為のカードを引き抜く。
『カメンライド──』
『カメンライドォ──』
装填は同時、そして引き金を引くのも同じ。
『ビースト』
『ビーストォ』
選んだライダーも同じ。
ネオディエンドライバーから召喚されるは、右肩に獅子の装飾、頭部には鬣の意匠。金色の仮面ライダー──仮面ライダービースト。
アナザーディエンドが召喚するのは、風に靡く鬣を生やし、鋭い牙と緑の目の奥に鋭い眼光を宿す、獅子と人を合わせた様な顔。腹部には肉食獣の頭骨。右肩には水牛の頭部、左肩には隼の頭部、右脚の付け根にイルカの頭部、反対の左にはカメレオンの頭部が付けられ、開かれた口から四肢が出ている。
右肩に『BEAST』、左胸に『2012』の文字が焼印の様に刻まれていた。
無機質な見た目のビーストとは正反対の、生々しい生物感溢れるアナザービーストが召喚と共に吼える。
ビーストは獅子のレリーフのベルトから細剣──ダイスサーベルを取り出し、構える。アナザービーストは、腰を落としながら右に体を傾け、右腕を右に伸ばし、左腕も右に伸ばす。顎を開くライオンの横顔を思わせるポーズの後、指先から鋭い爪が飛び出す。
ディエンドたちが見ている前で、ビーストとアナザービーストのサーベルと爪が火花を散らす。
ディエンドたちの戦いが過熱していくのを見て、手を貸す余地も無いと判断したジオウトリニティは、剣崎たちの手助けに向かおうとする。
「うあっ!」
しかし、その行く手をアナザーバロンとアナザーブレイブ、そしてアナザーカリスたちが阻む。正確に言えば、彼らの乱戦が偶然ジオウトリニティを巻き込んだ形となったのだが、ジオウトリニティたちにしてみれば迷惑極まりない。
「ちょっとどいて!」
ジカンギレードを銃から剣へと変え、更に右肩のゲイツの顔から斧モードのジカンザックスを呼び出す。
剣と斧の二刀流で立ち塞がるアナザーカリスたちを斬っていくが、数が多過ぎるせいで斬った場所を埋める様に後続が出てくる。
このままでは剣崎たちを助けることが出来ない。更に事態を悪化させる様に、アナザーカリスたちと戦っていたアナザーバロン、アナザーブレイブがジオウトリニティに矛先を変え、襲い掛かってきた。
◇
「くっ!」
襲ってきたアナザーカリスの胴体を剣崎が蹴り、後退させる。後退するだけで倒すには至らず、後方のアナザーカリスたちを連れて倍以上の数で戻って来る。
始は気絶している天音の前に立ち、彼女の壁となっていた。
徐々に追い詰められて剣崎たち。背後は断崖、周囲は囲まれ逃げ道は無し。変身しようにも剣崎は変身アイテムのブレイバックルを失い、始もカリスラウザーを出現させることが出来ない。
天音のアナザーカリスにジョーカーの力を奪われたのが理由であることは分かっていた。流れ出る血が緑では無く赤であることに喜びを覚えないと言えば嘘になるが、今の状況ではその喜びも薄れてしまう。
アンデッドの力が今ここにあれば身を削ってでも天音を守ることが出来たのに、限りある命を持つ人間では彼女を守り切ることが出来ない。
運命の皮肉さを呪いたくなる。
アナザーカリスたちの後ろで高みの見物をしていたアナザーワイルドカリスは、痺れを切らしたのか、片手を上げる。
それを合図に周囲全てのアナザーカリスたちが一斉に動き出す。
「──始。俺が何とかして逃げ道を作る。だから、お前は天音ちゃんを──」
「それ以上言ったら、俺はお前をぶっ飛ばす」
自らを犠牲にしようとする剣崎に、始は静かな怒りを込めて言う。かつて、剣崎の自己犠牲によって始は救われた。二度も同じことを見ることも、させる訳にもいかない。
「始……」
剣崎もそれが伝わったのか、悲愴な顔付きとなる。しかし、彼らの心境など無視してアナザーカリスたちは迫る。
次の瞬間、重なる様に鳴り響く銃音と共に、複数のアナザーカリスたちから火花が上がった。
撃ったのはジオウトリニティでは無い。彼は今、アナザーライダーたちに手こずらされている。
ならば誰が撃ったのか、答えは銃撃した本人が教えてくれた。
「大丈夫か!? 剣崎! 始!」
「橘さん!」
頭上から聞こえてきたのは、共に戦った彼らの戦友の声。上を見上げると日の光を背に受けて飛び降りてくる影。しかも、その影は一つでは無い。
もう一つの影は先に降り立つと共に、手に持っている錫杖でアナザーカリスたちを横薙ぎに払う。
「無事ですか!? 剣崎さん! 相川さん!」
「睦月!」
四角い形状の頭部に蜘蛛を模した装飾の仮面に紫の目。金の装甲にモスグリーンのスーツ。胸部には三つ葉のクローバーの飾り、アナザーカリスたちを斬り裂いた錫杖型の武器の先端にもクローバーを模した三枚の刃が施されていた。
共に戦った青年、上城睦月が変身した仮面ライダー、レンゲルが剣崎たちに頼もしい背を見せる。
少し遅れて剣崎たちのすぐ側に降り立つ影。着地と同時に発砲し、アナザーカリスたちを牽制する。
緑の目に、額の左右から伸びるクワガタムシの大顎を彷彿させるヘッドパーツ。赤のスーツに銀の装甲に胸のダイヤのマーク、手には銃を持ち、ブレイドとは色も装備も対照的な姿であった。
ライダーとして剣崎の先輩である橘朔也が変身した仮面ライダーギャレンは、剣崎たちを一瞥する。
「アンデッドの反応があって来てみたら、一体何が……」
アナザーワイルドカリスに、それが率いるアナザーカリスの大群。離れた場所で戦う見たこともない仮面ライダーたち。気絶している天音。そして、何よりも知りたいのは彼らから流れ出るアンデッドではなく人の血。
「あとで説明してもらうぞ!」
聞きたいことは山ほどある。だが、それよりまずは優先すべきことがある。ギャレンは、剣崎たちを助ける為にアナザーカリスたちへ銃撃を行う。
二人が自分たちの為に戦う姿に、剣崎は歯嚙みする。変身能力を失ってしまったせいで見ていることしか出来ない。今すぐにでも彼らと共に戦いたいというのに。
「二人とも!」
剣崎と始は、声の方を反射的に見る。ジオウトリニティが、アナザーバロンとアナザーブレイブと戦いながら、何かを伝えようとしている。
「それ! それ!」
両手がアナザーライダーたちの攻撃を捌いているせいで、顎で何かを指す。
指した方向には、二つのライドウォッチ。ブレイドライドウォッチとカリスライドウォッチである。
剣崎と始は、ジオウトリニティに導かれるままにウォッチを拾う。
「スイッチを押して!」
言われるがままライドウォッチのスイッチを押した。
『ブレイド!』
『カリス!』
ライドウォッチが輝き、手の中から消えると、剣崎の腹部にブレイバックルが、始にはカリスラウザーが現れる。
「これは!」
「どうなっているんだ……?」
原理の分からない現象に驚かされるが、すぐにその驚きも奮える戦意に変わる。
これでまた戦える。
「始!」
「いくぞ、剣崎」
剣崎はブレイバックルのレバーを握り、始はカードを構える。
『変身!』
『TURN UP』
『CHANGE』
剣崎は光の壁を通り抜けてブレイドに、始の体が波打つ様に変化しカリスとなる。
ブレイドは走りながら腰のホルダーに下げている両刃剣──ブレイラウザーを引き抜くと、前線へと向かい、レンゲルの隣に並びながらアナザーカリスたちを斬り付ける。
「待たせた!」
ブレイドの剣とレンゲルの錫杖──レンゲルラウザーが敵を裂き、ギャレンとカリスの弾丸と矢が貫く。
四人しかいない彼らだが、その強さは数をものともせず、逆にアナザーカリスたちを押し返していく。
しかし、その快進撃を良く思わないものがいた。
「ウ゛ウ゛ウ゛……!」
アナザーワイルドカリスである。後退するアナザーカリスの一体が、背後に気付かずにぶつかってしまう。その途端、アナザーワイルドカリスは裏拳で頭を吹き飛ばした。
その蛮行に、ブレイドたちも驚く。
彼らが見ている前で頭を失い、緑の体液を流しながら痙攣しているアナザーカリスに、何処からか取り出したカードを投げつける。カードが触れると、そのアナザーカリスはカードの中へと吸い込まれていき、アナザーワイルドカリスの手の中に戻る。
戻ったカードには、先程まで無かった歪なハートの絵柄が浮かんでいた。
「まさか、封印したのか?」
ギャレンの疑問に答える様に、アナザーワイルドカリスは、後退しているアナザーカリスたちに次々とカードを投げつけ、その中に封印していく。
「ウ゛ウ゛ウ゛!」
道を阻んでいたアナザーカリスたちを全て封じると、両腕の鎌を見せる様にして垂らしながら走る。
ブレイド、レンゲルに接近し、腕の鎌を一閃。武器で防御する二人だったが、その場で耐えることが出来ず、地面の上を勢いよく滑っていき、ギャレンたちの側にまで下がらされる。
すると、アナザーワイルドカリスはアナザーカリスたちを封じたカードをばら撒く。ばら撒かれたそれらは、アナザーワイルドカリスの胸部に吸い込まれていく。
撒いたカードを全て取り込むと、アナザーワイルドカリスは両腕を前に突き出す。両拳を揃えたそれは、腕そのものを弓と矢に見立てていた。
その動きで相手が何をしようかブレイドたちは察する。
彼らが見ている前で、アナザーワイルドカリスの両腕から、赤と緑の光が混じった矢が撃ち出され、ブレイドたちに襲い掛かる。
爆発、炎上し、その中にブレイドたちは呑み込まれた。
爆発が収まった後には、体から白煙を立ち昇らせ膝を突いているブレイドたちの姿があった。矢から逃れることは出来た。しかし、天音にまで被害が及ぶと分かり、その身を盾にした為に直撃を受けてしまった。
苦しむブレイドたちを更に追い込む様に、石板からアナザーカリスたちが湧いてくる。
しかし、その様な絶体絶命の状況で諦める様な者はこの場には居ない。痛みがあろうが、苦しみがあろうが、必ず立ち上がる者しか居ない。今のブレイドたちの様に。
仮面の中で歯を食い縛りながらブレイドたちは立った。人として、仮面ライダーとしての意思が彼らの芯となって、立ち上がらせる。
「……橘さん。それを貸してもらえますか?」
ブレイドが言うそれは、ギャレンの左腕に装備された籠手の様なツール。名をラウズアブゾーバーと言い、彼らに更なる力を与えるものである。
「剣崎、だが……」
ギャレンは躊躇した。これによって剣崎に齎された悲劇を彼は知っている。同じことを繰り返すかもしれないという恐れが、渡すのを躊躇わせる。
「俺を信じて下さい!」
意を決しているブレイド。その意思をもう曲げられないことを悟り、ギャレンもまた覚悟を以ってブレイドにラウズアブゾーバーを渡す。
「信じるぞ、お前を」
それに不穏なものを察したのか、アナザーワイルドカリスが止めようと動く。しかし、それよりも先に動く者が居た。
『RUSH』
『BLIZZARD』
『POISON』
サイ、ホッキョクグマ、サソリの絵柄があるカードが浮かび上がり、レンゲルの中へと吸い込まれる。
『BLIZZARD VENOM』
レンゲルが跳び上がり、レンゲルラウザーをアナザーワイルドカリスに向ける。そこから強烈な冷気が発生し、アナザーワイルドカリスを凍結させて身動きを封じる。アナザーワイルドカリスの側に着地と共にレンゲルラウザーを突き刺す。
刺したレンゲルラウザーから注ぎ込まれる猛毒。肉体も精神も蝕むそれを受け、アナザーワイルドカリスは悶え苦しむ。
「今です! 早く!」
レンゲルが時間稼ぎをしている内に、ブレイドは左腕にラウズアブゾーバーを装備し、一枚カードを挿し込む。
『ABSORB QUEEN』
吸収、融合を意味するカード。そして、もう一枚挿し込もうとしたとき──カリスもまた一枚のカードを出す。ハートと金の蟷螂、変身する際に使っていたカードとは似て異なる。
「始……」
「お前だけに任せるつもりは無い」
「──ああ! 行くぞ!」
共に戦う決意と共に、切り札が切られる。
『EVOLUTION KING』
『EVOLUTION』
王の力が、今ここに顕現する。
長くなりそうなので一旦ここまでとします。続きは近いうちに。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ