『斬鬼ッ』
アナザーウォッチから、その名が発せられると男──ザンキに向かって雷が落ちる。帯電する雷を振り払うと、ザンキはアナザー斬鬼と成っていた。
「どういうことっスか……!? 何でザンキさんがその姿に……!?」
アナザーライダーへ変身したザンキに、トドロキは混乱した様に叫ぶ。それを側で見ていたソウゴは、トドロキの動揺振りを見て普通では無いことに気付く。まるで幽霊にでも会ったかの様な、ソウゴは直感的にそう思った。
「はっ!」
アナザー斬鬼は駆け出し、順手に握るギター型の剣でヒビキを騙っていた白い鬼に斬りかかる。
「くっ!」
白い鬼は、撥を剣に叩き付ける。シャン、という音と金属音が重なってなる。
アナザー斬鬼は剣を振り抜き、白い鬼はその圧に負けて後退させられる。二撃目、三撃目と剣を振るってくるアナザー斬鬼。それを撥で打ち返そうとする白い鬼。しかし、一撃の重さはアナザー斬鬼が上回っており、打ち合う度に後退させられていく。
「そんなものか? 仮にも響鬼を名乗っていたんだろ?」
「──うるさい!」
アナザー斬鬼の言葉に激昂するが、それで力が増す事無く追い込まれていく。
「ふん!」
上からくる剣を撥二本で受け止める白い鬼。しかし、撥ね退けることが出来ず上からの圧力で膝が震え出し、徐々に折れ曲がっていく。
「ガアアア!」
そこに割り込む様に、金棒で襲い掛かってきたアナザー歌舞鬼。師を助ける為か、それともただ暴れたいだけなのか。
アナザー斬鬼は、金棒が届く前に素早く後退して避ける。空振りした金棒は地面に先端をめり込ませた。
「ツトム……!」
白い鬼が名を呼ぶ。その声に反応し、アナザー歌舞鬼は動きを停めた。師の言葉に失い掛けていた理性を僅かに取り戻している様に見える。
「──ガアアア!」
「うぐっ!」
だが、その理性を振り払うかのようにアナザー歌舞鬼は叫ぶと、白い鬼の胸部を二本の金棒で強打。無防備であった白い鬼は十メートル以上殴り飛ばされ、変身が解除されてしまう。
「京介!」
トドロキが白い鬼の名を叫んだ。ヒビキを騙っていた彼は京介という名だということをソウゴとゲイツは初めて知る。
変身が解除され、ダメージで動くことが出来ない京介にアナザー歌舞鬼が迫ろうとしている。ソウゴは咄嗟にジオウライドウォッチを構えるが、横から伸ばされた手がそれを制した。
隣に立つトドロキを見る。トドロキは小さく首を横に振った後、アナザー斬鬼を凝視する。動き一つ見逃さないという鬼気迫るものが感じられた。
アナザー歌舞鬼が、倒れている京介に金棒を振り下ろす。ガキン、という音と火花が同時に生じた。横から突き出されたアナザー斬鬼の剣が金棒を受け止めている。
「ふん!」
剣が金棒を撥ね、万歳する様にアナザー歌舞鬼は両手が上がる。そこにすかさず飛び込んだアナザー斬鬼が剣を振るう。横振りの斬撃がアナザー歌舞鬼の脇腹を斬り裂き、火花を散らす。
「グウウッ!」
大きなダメージを受けてよろめくアナザー歌舞鬼。そこに向けてアナザー斬鬼は剣を投げ放った。
錐揉みしながら突き進んでくる剣。アナザー歌舞鬼は金棒を傘の様に開き、それを盾にする。
激しい衝突音。アナザー歌舞鬼は剣を防ぐことが出来たが、威力まで防ぐことが出来ず大きく後退させられる。
後退した後、傘の端からアナザー斬鬼を覗き見る。しかし、視線先にはアナザー斬鬼の姿は無い。
「ここだ」
声が頭上から聞こえた。視線を上げるとこちらに足から突っ込んでくるアナザー斬鬼。
「はあっ!」
防御が間に合わず、アナザー歌舞鬼の頭部にアナザー斬鬼の蹴りが炸裂する。それもただの蹴りでは無く、拳の時と同様に雷の力が込められた蹴りであり、直撃と同時に落雷音が鳴り響き、眩い輝きが生じる。
「アガアアア!」
苦悶の声を出しながら蹴り飛ばされるアナザー歌舞鬼。アナザー斬鬼が着地すると共に何かが一緒に地面に落ちる。それは緑色の物体。アナザー斬鬼の一撃でへし折られたアナザー歌舞鬼の片角であった。
折られた箇所を押さえながら身悶えするアナザー歌舞鬼。弾かれた剣を拾い上げ、追撃しようとするアナザー斬鬼であったが、その動きが停止する。
動きが停まったのはアナザー斬鬼だけでなく、周囲にいるソウゴたちも同様であった。
「響鬼じゃないならとんだ無駄骨だ」
ウールによる時間停止。
「行くぞ」
先を行くウールの後を、よろめきながら追うアナザー歌舞鬼。彼らの姿が見えなくなった後に時間停止は解除される。
「厄介な術を使うな」
初めて体験する時間停止をそう評するアナザー斬鬼。
これで戦いが終わった。誰もがそう思った。一人を除いて。
ザン、という突き刺さる音。トドロキが地面にギター型の大剣──音撃弦・烈雷を地面に突き立てた音であった。
「──手合わせ願ってもいいっスか?」
アナザー斬鬼に戦いを申し込むトドロキ。アナザー斬鬼は答える代わりに、持っていた剣を静かに地面に置く。
トドロキは腕に填めた腕輪──変身鬼弦・音錠に備わっている小さな弦を鳴らし、特殊な音波を発生させる。その音波は波紋の様にトドロキの体に広がり、発生する雷と共に彼を鬼の姿──轟鬼へと変身させた。
「はっ!」
「ふん!」
飛び掛かると同時に繰り出される拳。それを迎え撃つアナザー斬鬼の拳。拳同士が触れ合ったとき、雷鳴が響き渡る。
拳を打ち付けた状態で押し合いを始める二人。踏ん張る爪先はどんどんと深く地面に沈んでいき、伸び切った腕は細かく震える。互いにその場から微動だにしないながらもどれだけの力がぶつかり合っているのかが察せてしまう。
ソウゴは二人が戦い始めたのを見て反射的にライドウォッチを構えたが、すぐにその手を下ろした。戦いというには二人から殺気立ったものが感じられない。何よりも互いに武器を手放してから戦いを始めている。限りなく実戦に近い訓練、ソウゴにはそう見えた。
ソウゴと同様のものを感じたのか、ゲイツも変身を解除し生身に戻っている。
似た鬼同士の力比べ。拮抗を崩したのは、アナザー斬鬼の方からであった。
伸ばした腕を脱力させる。急な脱力に反応し切れず轟鬼は前のめりになるが、一歩踏み込んで倒れることだけは阻止する。
アナザー斬鬼は、前のめりになって体勢を崩した轟鬼の腕を両手で掴み、後ろ足で足払いをしながら、その腕を肩に乗せる。背負い投げの形で轟鬼を投げた。
轟鬼は、そのまま地面に背中から叩きつけられるかと思いきや、先に両足を地面に着地させ、投げの衝撃を殺すと共に足を体に対して垂直に上げ、アナザー斬鬼のコメカミに足先を掠らせた。
「くっ」
掠めようとも込められた力は並ではなく、アナザー斬鬼をよろめかせると同時に掴んでいた手の力も弱まる。
すかさず掴まれていた腕を引き抜き、上げていた足を戻す反動で轟鬼は立ち上がった。
「はっ!」
顔目掛けて放たれたる轟鬼の左正拳を、アナザー斬鬼は手刀で叩き落す。今度は右拳による突き上げ。アナザー斬鬼はそれを腕が伸び切る前に掌で押し止めた。
「はあ!」
轟鬼はそこから右肘打ちへと切り替え、アナザー斬鬼の脇腹に肘を打ち込む。一手先を行った轟鬼の攻撃を、アナザー斬鬼はまともに受けてしまった。
「うっ」
アナザー斬鬼の動きが、轟鬼の攻撃によって鈍くなる。絶好の追撃のチャンス。轟鬼の左拳が雷を放ち始め、紫電の正拳をアナザー斬鬼に打ち込む──前にその拳を解いてしまった。
「──どうした? やらないのか?」
「俺にザンキさんを倒すのなんて無理っス……」
「俺が、そのザンキの皮を被った偽者かもしれないのにか?」
「もしかしたらって思いました。──でも、こうやって手合わせをして分かったっス。本物のザンキさんだって。弟子の俺が! ザンキさんの動きを忘れる筈が無いっス!」
慟哭の様に轟鬼は叫ぶ。
「──手合わせはここまでだな」
アナザー斬鬼は変身を解き、人間の姿へと戻ると轟鬼に背を向けて歩き始める。
「待って下さいザンキさん! どうして……どうしてザンキさんが……!」
色々と感情が渦巻いているのか言葉を詰まらせる轟鬼。
「……偶々鬼の道を外れようとしている奴を見つけて、それを止める為にこの力を手に入れただけだ。それ以外の理由は無い」
「そんなの嘘っス! きっと俺がいつまで経っても覚悟が出来ずに不甲斐ないから……!」
「──お前は一人前の鬼にはなっているよ、トドロキ」
次の瞬間、そこに居た筈のザンキの姿が無くなる。
「え! 消えた!?」
前触れ無く姿を消したことに、ソウゴもゲイツも驚く。
「ザンキさん……」
◇
消えたザンキのことも気になるが、ヒビキを名乗っていた京介のこと。彼の弟子でありアナザー歌舞鬼であったツトムのことも気になり、そちらを優先することとなった。
京介こと桐谷京介は、アナザー歌舞鬼の正体がツトムであることを既に知っており、ソウゴらとアナザー歌舞鬼を接触させない為に、ライドウォッチの件を餌に特訓という名の時間稼ぎをさせていた。
しかし、それがばれてしまった今、京介に不信感を向けられる。特に、ゲイツのそれは一際強かった。
ザンキのことで意気消沈しながらも、それを表向きには出さずにトドロキは忠告としてこれ以上アナザー歌舞鬼を放っておくと、トドロキ、京介が所属する組織が動き出すことを告げる。
弟子の不始末は師匠が着ける。それが鬼の掟であると。その言葉を吐くトドロキの顔は苦いもの含んだ様な顔をしていた。
京介が出来ないのなら自分がアナザー歌舞鬼を倒すとだけ言葉を残し、トドロキは去っていく。しかし、その背には京介以上に背負うものが感じられた。
◇
ソウゴたちの間で不穏な空気が流れ始めていた。一方でウォズはと言うと──
「……」
鬼の特訓をしていた場所で燃え尽きていた。体の力が完全に抜け、立っていられない程に、完璧に燃え尽き果てていた。
「祝えとは……祝福とは一体……」
ソウゴの誕生日を祝う為に前代未聞の祝福を行う為に試行錯誤してきたウォズ。鬼の説明の中で祝福の言葉が出た時、これだと確信した。
『祝福の鬼だッ!』
言葉通りまさに祝福の鬼となって一心不乱に太鼓の特訓に挑んでいたウォズ。太鼓の鼓動、派手さ、どれもがソウゴの誕生日を祝うのに相応しいと思った。思っていた──
『ウォズは人を祝うことが何にも分かっていない。そんなの貴方が楽しいだけ』
そのツクヨミの言葉が祝うことで積み重ねられてきたウォズの自尊心を完膚なきまでに破壊する。
尤も、ツクヨミがウォズにそんなことを言ったのは、アナザーライダーが現れて、ソウゴとゲイツが向かったというのに、それを無視して太鼓の特訓を優先したウォズに原因がある。
祝うべき、仕えるべきソウゴが戦いに赴いたというのに、臣下を自称するウォズが自分のことしか考えていないことに、視野が極端に狭くなっているウォズへツクヨミが冷静になるよう冷や水を浴びせたと言っていい。
問題なのは、その冷や水がウォズにとって少々キツ過ぎたということだろう。
「そんな筈は無い……! 私は……! 私こそが……!」
自分こそが祝福の権化だと自負するウォズは四肢に力を込めて立ち上がった。
「祝え! ……祝え! ……祝、え」
いつもなら滑り落ちる様に出てくる祝福の言葉が続かない。
「ば、馬鹿な……!」
今まで無かった事態にウォズは打ち震え、アイデンティティを見失ってしまった現実を目の当たりにして再び崩れ落ちた。
◇
クジゴジ堂に戻ってきたソウゴたち。京介にことの真相を尋ねるが腕を組んで顔を背けた態度から答える気は無い様子。
ゲイツはそんな彼に苛立ちを覚えていたが、ソウゴは特に気にした様子も無く卒業文集に載っていたツトムが尊敬していたヒビキが京介のことであるか聞いてみる。
その言葉に僅かに反応して見せたが、答える気は変わらず。
仕方なく京介がヒビキを名乗っていた事情を、トドロキに聞きに行くこととなった。アナザー斬鬼へと変身したザンキという人についても知りたかったので。
京介のことをゲイツに任せ、ソウゴはツクヨミを連れてトドロキの下へ向かおうとする。
クジゴジ堂から出ようとするとふらつきながら入ってきたウォズとぶつかる。
「え? どうしたの?」
病人の様な顔色で、力なく側に置いてある椅子に座るウォズ。ソウゴに会っても生気が全く無い。
「……」
「もういいよ。行こ」
トドロキに会うことの方が先決だとツクヨミがソウゴを急かす。ソウゴはウォズの態度に戸惑っていたが、すぐにニッと笑うとウォズの腕を取る。
「ウォズも行こっか?」
「いや、私は……」
断ろうとするが、ソウゴは半ば強引にウォズを立たせる。
「いいから、いいから。ほら、行くよ!」
そうして彼をクジゴジ堂の外へと引っ張っていく。
◇
トドロキに会いに行く途中、ソウゴはウォズに何故そんなにも元気が無いか聞いてみた。
しかし、ウォズは事情を話すことが出来ない。何故ならば、彼が悩んでいるのはソウゴの誕生日をどう祝うかについてである。サプライズを計画しているのに本人に内容を話すなど出来る訳がない。
「放っておいてくれないか? これは己との戦いなんだ……!」
妙に鬼気迫るものを感じ、ソウゴはそれ以上深く聞くことが出来なかった。事情を知っているツクヨミは、あまりに思い悩んでいるウォズの姿に少し呆れていた。
トドロキの下へ着くと、ソウゴは京介の事情を聞く。
ヒビキとは、元々京介の師匠の鬼としての名であること。
京介は、そのヒビキを襲名せずに勝手に名乗り、更には鬼としての名を授かる前に弟子をとるという勝手な行動をしていたことを知る。
ベテランの鬼であるトドロキですら弟子をとる覚悟に至っていないという。
「そう言えば、あのザンキっていう人、誰なの?」
「あの人は……俺の鬼の師匠でした」
「師匠? でもさっきの話だと師匠の名は弟子が継ぐんじゃ……?」
「──俺は我儘な弟子でしたから、ザンキさんにはずっとザンキさんと名乗っていて欲しかったんっス。代わりにトドロキって名付けて貰ったっス」
遠くを見ながらトドロキは過去を振り返る様に語った。
「でも、どうしてアナザーライダーなんかに……?」
そのことについてトドロキは一旦口を開けるが、すぐに閉じ、言う言葉を吞み込んでしまう。
「きっと、俺がまだまだ未熟だからっス。あの人は一人前の鬼だって言ってくれたっスけど、俺は鍛え方がまだ足りないっス。己を鍛え、己に打ち勝つ。それが鬼の生き方っス」
ザンキについて何か重要なことを隠しているとソウゴは見抜くが、そのことについて深く聞くのを止めた。直感的に安易に聞いてはいけないことだと思ったからだ。代わりにトドロキの言葉からあることを思い付く。
「己に打ち勝つ──そうだ。ウォズ、一日だけトドロキさんの弟子にしてもらったら?」
その提案にウォズは勿論のことトドロキも驚いた。
「我が魔王、突然何を……」
「いやいや! 俺は弟子をとるつもりは無いっスよ!」
「そこを何とか! 一日だけ!」
「いや、だから!」
「お願いします!」
「でも──」
「お願いします!」
「いや──」
「お願いします!」
「……」
お人好しのトドロキにとって、何度も頭を下げてお願いするソウゴの頼みを断ることは出来ず、折れる形で渋々トドロキはソウゴの頼みを引き受けるのであった。
◇
「何で私がこんなことを……」
トドロキの一日弟子となったウォズは愚痴りながらも川辺で洗濯物を洗っていく。
トドロキの方はというと、何枚もの光沢を放つディスクを取り出し、それに向けて音錠の弦を鳴らす。
音錠の音波によってディスクはカエルの形に変形し、四方へ跳ねて行った。
カエルたちを放ったトドロキにウォズが洗濯籠を持って近寄る。
「洗濯は終わったっスか?」
「今のは?」
「ああ、あれは鬼の仕事で。気にしなくてもいいっスよ。あれは弟子の仕事では無いので」
「──次は何をすれば?」
「さっき釣った魚があるんで飯にします。竃を作るんで石、集めてきて下さい」
「──了解した」
若干ウンザリした表情をしながらも、言われた通りにウォズは石を集める。
石を集め終わり、ウォズは疲れた表情をしながら、魚に下味を付けているトドロキの側に腰を下ろす。
「こんなことをしている場合ではないのに……」
「じゃあ、何がしたいんスか?」
「私は……祝福がしたい。だが、どうやったらいいのか分からなくなってしまった……」
かなり頓珍漢な返事であったが、トドロキは笑いもせず真面目に答える。
「簡単なことッスよ」
「簡単? 我が魔王の生誕を祝福することが簡単な筈が無い」
「それだけ強く思って傍にいるって、とても凄いことじゃないですか。君の存在そのものが祝福そのものっスよ」
「私の存在が……」
その考えは今まで無いものであったのか、嚙み締める様に呟く。
「──俺の師匠は、本当に最期の最期まで俺の側に居てくれようとしたんスよ」
「君の師匠──ザンキか」
「ええ。それがどれだけの覚悟が必要か。俺にとって師匠っていうのはザンキさんみたいな人っス。だからこそ、そこに至っていない俺には弟子は──」
「そう言う割には結構様になっているじゃないか、トドロキ」
声に反応し、トドロキとウォズは揃って振り向く。近くの岩に腰を下ろして座っているザンキがそこに居た。
「いつの間に……」
「ザンキさん!」
「よお」
気軽な挨拶を返すザンキ。しかし、トドロキの顔は深刻なものへと変わる。一瞬だけ泣きそうな顔に崩れかけるトドロキであったが、すぐにその表情を消す。
「──俺に弟子なんてまだ早いっスよ」
「早いって言うがな、お前は今いくつだ?」
「……四十一っス」
「いい歳じゃねえか。寧ろ、遅いぐらいだ」
そこで言葉を区切り、ザンキは小さく笑う。
「気付けば俺よりも年上になっちまったな」
「例えそうでも、ザンキさんの方が上っス!」
「そういう意味じゃない。──俺がお前の師匠だった時にはとっくにガタが来ていた。まだお前は現役で行けるな。目立った怪我も無いし」
「ザンキさんに鍛えて貰ったお陰です!」
「違う。それはお前が鍛え続けた結果だ。自分自身の成果だ」
「でも、ザンキさんが……!」
「ちょっといいかな」
二人の会話にウォズが割り込む。
「君は間違いなく彼の師匠なんだね?」
「ああ」
ザンキ、トドロキを交互に見る。明らかに歳の差があった。ザンキの方が若く見える。それに会話の中でも気になる点もあった。俺よりも年上になったとはどういう意味なのか。
「師匠と弟子なのに見た目と年齢が合わないか? 当たりだ。俺自身、とっくの昔に死んでいるからな」
「何だって……?」
自分が死人であることを告白するザンキ。衝撃を受けるウォズであったが、すぐに納得した。
「──成程。つまり君は、そのアナザーライダーの力で仮初め肉体を得ているということか」
「理解が早いな。そのアナザーライダーって言うのが何なのか詳しくは知らんが、その通りだ」
幽霊がライダーに変身するというのは、既に仮面ライダーゴーストという前例がある。前例があるのなら不可能ということでは無い。
「大胆なことをするね」
アナザーライダーになった者は大なり小なり情緒不安定になっているものだが、それを微塵に感じさせない辺り、トドロキが言う様に鬼は己に打ち勝つものだということが良く分かる。
「そんなことよりも、やっぱりザンキさんが蘇った理由は──」
そこでトドロキの言葉が中断された。視界の端に先程放ったディスクアニマルの青磁蛙が戻って来ているのを捉えたこと。そして、もう一つ。自分たちに向けられる視線を感じたこと。
「──ザンキさん」
「──ああ。話は後だ」
トドロキはごく自然な動きで停車していた車に向かい、バックドアを開く。
「すみませんが、弟子はここまでっス」
「ここから先は鬼の仕事かい? ……今居る連中を退治しに?」
「……気付いてたんですか」
「勿論」
ウォズもまた絡みつく様な視線を感じていた。こちらに対し、明確な敵意を向けた視線を。
「──来るぞ」
ザンキの言葉の直後、近くの林から姿を現す一組の男女。男は緑の法被を羽織り、左眼下に薄緑の刺青を入れ、女の方は薄い白布をストールの様に巻き、右眼下に薄緑の刺青を入れてある。
「鬼か」
男から発せられるのは女の声。
「鬼だ」
女から発せられるのは男の声。
「ちょっと騒がしいから来てみれば」
「ちょっと鬱陶しいのが居たな」
林の中から出て、トドロキたちの方に歩いて来る。
「お前、鬼か?」
女の方がザンキを見て首を傾げる。
「鬼だよ」
「お前も鬼か?」
男の方がウォズを見て首を傾げる。
「今の私は一応鬼の弟子ではある」
ウォズの返答に男と女は顔を見合わせる。
「じゃあ、鬼か」
「じゃあ、鬼だな」
「そして祝福の鬼でもある!」
再び男と女は顔を見合わせた。
「ちょっと!」
言い切ったウォズにトドロキが慌てて駆け寄る。その手に二つの武器を持って。
「ここから先は俺たちの仕事です! 危険っス!」
「鬼の力は無いが、自分の身を守れる力ぐらいはあるつもりさ」
『ビヨンドライバー!』
取り出したビヨンドライバーを腹部に装着させるウォズ。
「やらせてやれ。見た所、それなりにやれるみたいだ」
「──ええ……分かりました。あと、ザンキさん。これを」
「うん?」
トドロキは二本の持っている武器の内、音撃弦・烈雷とは似て異なる武器を手渡す。
ギター型の大剣ではあるが刃は黒、刃先が鋸状になっている。
音撃真弦・烈斬。かつて、ザンキが使っていた武器である。
「お前……」
「ザンキさんには、そっちの方が似合います!」
「──そうか。そうかもな」
ザンキは烈斬を地面に置き、トドロキは烈雷を地面に突き立てる。
トドロキたちの動きを見て、男女にも変化があった。
纏っていた衣服が解ける様に消え、肉体は緑みがかった甲殻へと変わる。男の左腕は巨大な蟹のハサミとなり、女の方も同じ様な変化をするが、左腕のハサミが男に比べて少々小ぶりとなっており、後頭部から金色の体毛を生やしている。
蟹。そう評するしかない姿へとなる。
蟹の怪物たちは、ハサミを振り上げてトドロキたちに襲い掛かろうとする。だが──
『斬鬼ッ』
『ウォズ!』
鳴り響く弦の音と叫ばれる二つの名。
『アクション!』
「変身」
ビヨンドライバーへとウォズミライドウォッチが挿し込まれ、レバーを起こす。
『投影! フューチャータイム!』
ライダー
飛び出した文字が蟹女に直撃し、吹き飛ばす。
蟹男の方も、トドロキとザンキから発生した雷によって弾き飛ばされ、元居た位置まで後退させられた。
凄
時代
未来
仮面ライダーウォズ
轟
烈雷
鬼
仮面ライダー轟鬼
蘇
烈斬
雷
アナザー斬鬼。
姿形は異なれど、紛うこと無き三人の仮面ライダーが並び立つ。
最後だけちょっと響鬼っぽく。
先にどちらが見たいですか?
-
IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
-
IFゲイツ、マジェスティ