仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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今回から劇場版の話となります。長くなりそうです。


アナザーゼロノス2007&アナザーアクセル2009 その1

「うーん……」

 

 クジゴジ堂内で常磐ソウゴは、ライドウォッチが収納されたライドウォッチダイザーを、首を傾げながら眺めていた。

 

「どうしたの?」

 

 その態度が気になり、ツクヨミは声を掛ける。

 

「いやあ、ちょっと気になることがあって」

「気になること?」

「これとこれのことなんだけど」

 

 ライドウォッチダイザーから二つのライドウォッチを外す。手に取ってツクヨミに見せたのは、クウガライドウォッチとダブルライドウォッチ。

 

「そのライドウォッチがどうした?」

 

 自己鍛錬をしていたゲイツも話が気になったのか、会話に混ざってくる。

 

「あのさ、これを手に入れた時のことで、何か忘れていることない?」

「忘れていること?」

「あれ程の事件を忘れることなどないだろ」

「いや、俺も大体は覚えているけど、何か忘れている様なことがあるような、無い様な……」

 

 二つのライドウォッチを見比べながら、ソウゴは眉間に皺を寄せて再び首を傾げる。

 

「大事なことを忘れている様な……ねえ、ウォズは何か覚えていない?」

 

 部屋の隅で壁に背を預けながら逢魔降臨暦と書かれた本に目を通しているウォズに話し掛ける。

 

「いや、私も何も」

 

 逢魔降臨暦を閉じ、ウォズは首を横に振る。

 

「そっかぁ。ううん……本当に何を忘れてるんだろう……」

 

 ソウゴはライドウォッチを見ながら過去の記憶を振り返る。虚構と本物、それらが曖昧となり平成ライダーという存在が消えかけたあの時の事件のことを。

 誰もが時が停められたかの様に動かなくなり、光は消え、暗闇と化す。その中でウォズだけに光が降り注がれる。

 その光の中で、ウォズは閉じていた本を開いた。

 

「この本によれば、普通の高校生常磐ソウゴ、彼には魔王にして時の王者オーマジオウとなる未来が待っていた。オーマジオウに至るには全てのライドウォッチをライダーから継承しなければならないが、その中でも既に彼が継承しているクウガ、ダブルのウォッチ。それを手に入れる為に彼がどんな事件に巻き込まれたのか、我が魔王の記憶と一緒に少し過去に遡ってみよう」

 

 

 ◇

 

 

 常磐ソウゴ十八才。彼の人生は、一言で表せば順風満帆である。

 友に恵まれ、学業も怠りは無く常に上位。あらゆる選択が彼の未来の中に広がっていた。

 だからこそ、露程にも思っていなかっただろう。そんな自分が謎のロボットに追い回される時が来るなど。

 

「えええええええええええ!」

 

 ソウゴは絶叫を上げながら愛用の自転車で全力疾走する。その後を追って来るのは、赤い体に円形の頭部を持つ謎の巨大ロボット。

 そんな物に追い掛けられる心当たりなど当然無い。そもそも、現代でそんなロボットが存在することすら知らなかった。

 とにかく自転車で走って、走って、走り続けた結果、苦労の甲斐も無くロボットに先回りをされて逃げ道を塞がれてしまう。

 絶体絶命。その時、ロボットからけたたましい警告音の様なサイレンが鳴り響き、ロボットは警戒しながら、周囲を見渡される高い場所に移動する。

 すると、宙に虹色に輝く空間の揺れが出現。

 

「な、何なの一体……?」

 

 前触れも無く現れた空間の揺れに対し、事態に付いて行けずに涙声のソウゴ。

 そんなソウゴに追い打ちを掛ける様に空間の揺れら何かが飛び出す。

 宙に次々と並べられていくマクラギ。その上を走り抜けていく異形の黒い電車。

 

「うええええええええ!」

 

 意味不明。突拍子も無く空間から飛び出し走行する電車にソウゴは悲鳴染みた声を上げ、その声が終わる前にロボットと電車が接触事故を起こす。

 

「えええええええ!」

 

 この先、まず見ることの無い交通事故に声は止まらず延長する。

 電車は接触のせいでコントロールがおかしくなり、マクラギが地面に向かって伸びていき、そのまま地面に叩き付けられる様に落下した。

 地面を抉りながら派手に転倒する電車。各部から煙が出ている。

 横転した電車をポカンとした顔で眺めるソウゴ。見れば見るほどその電車は異形と言えた。

 電車は二両編成であり、先頭の車両は新幹線の様な流線型では無く、先端が牛の頭骨によく似た形をしており、捩じれた角が一対前に突き出ている。後ろの車両は鳥の頭骨を思わせる先端が、嘴を突き刺す様に前の車両と繋がっている。車両の側面には骨が無数に張り付けられており、不気味さを醸し出す。

 混乱する頭で電車を呆然と見ていると、電車の中から人型の何かが飛び出し、ソウゴの前に降り立った。

 ソウゴは、十八年生きてきた中で初めて怪人と遭遇する。

 黒味を帯びた緑の体。胸部には左半分が欠けた頭蓋骨の飾り。右肩にボロボロの黒いマントを纏っており、白骨の手が肩止めとなっている。

 腹部には長方形の黒いバックル。そのバックルの幅一杯に緑と黄の二色でNと描かれているが、よく見るAとVのアルファベットを繋げて描かれたものであった。

 額の左半分に牡牛に似た禍々しい角が二本生え、右半分には三角状の鋭利な物体が頭部に三本も突き立てられている。

 左目に当たる部位からは上向きに伸びる緑の角。右目からは真っ直ぐと前に突き出て伸びる螺旋状の赤い突起物。

 口から見える鋭い牙をギリギリと噛み鳴らし、不快音を放つ。

 バランスが整っていない歪な見た目は、みる者に悪魔という印象を与えさせる。

 風が吹き、肩の襤褸切れの如きマントが揺れる。そのマントには白い文字で『2007』のマーク。そして、反対側の左腕には『ZERONOS』と刻印されていた。

 怪人の眼の無い目がソウゴを見る。ソウゴは睨まれた様に思え、恐怖で膝から力が抜けていく。

 

「常磐ソウゴか。──お前は潰す」

 

 追い打ちを掛ける様に、怪人からの直々の死刑宣告。膝から力が抜けるのを通り越して腰が抜ける。

 怪人が一歩踏み込んだとソウゴが認識した時、既に怪人は目の前に来ており、怪人の姿を両目で認識した時には顔を殴られ、地面に倒れ伏していた。

 動きが速過ぎてソウゴは反応し切れない。顔に留まる熱に似た痛みに泣きそうな表情になってしまっていた。

 

「ソウゴ! 大丈夫!?」

 

 ロボットとか降りた白いワンピースにマントの様なストールを羽織った黒髪長髪の女性と、黒地に赤いラインが入った長袖のシャツとロングパンツに首回りもハーネスを付けた短髪の男性が、ソウゴに駆け寄って来る。

 

「アナザーライダーか……!」

 

 短髪の男が怪人をそう呼び、目を鋭くさせる。

 

「あ、あれ、何!?」

 

 痛みで上手く回らない舌を動かしながら、怪人ことアナザーゼロノスについて問うが、すぐに別の疑問が生じる。

 

「ていうか、君たち誰!?」

「何を言っているの?」

 

 ソウゴにとっては見知らぬ男女。しかし、言われた女性の方はその言葉に困惑する。ソウゴの方が意味不明な言動をしているかの様に。

 その隙にアナザーゼロノスが接近し、男女を突き飛ばすと倒れているソウゴの首を掴み上げる。

「や、やめろよ……!」

 

 苦しさと情けなさを合せた声を出しながら、ソウゴは精一杯の抵抗で両手を駄々っ子の様に振り回す。

 それが何度かアナザーゼロノスの顔に当たる。ダメージは全く与えられない。

 

「鬱陶しい!」

 

 だが、苛立ちは与えられたらしく、ソウゴは投げ飛ばされた。

 またも地面に打ち付けられる体。すると、ソウゴの衣服から何かが転がり落ちていく

 

「うう……うん?」

 

 転がり落ちたそれは時計の様な形をしており、『ライダー』という文字を填め込んだ顔が描かれている。

 無意識にその時計に手を伸ばし、掴み取る。

 

 常磐ソウゴ。仮面ライダージオウ。

 

 知らない声が聞こえた瞬間、ソウゴは頭の中で何かが弾けると共にあらゆる記憶を思い出す。

 短髪の男はゲイツ。白い服の女性はツクヨミ。どちらもソウゴの仲間。そして、ソウゴ自身も──

 

「そうだ。俺はジオウだった……何で忘れてたんだ?」

 

 重要なことの筈なのに意識出来ないぐらい完全に忘却していた。

 ソウゴは立ち上がり、腰にジクウドライバーを装着。ゲイツもソウゴの隣に並び。ジクウドライバーを装着した。

 

『ジオウ!』

『ゲイツ!』

 

 スイッチを押される二つのライドウォッチ。流れる様な動作でジクウドライバーの右側スロット──D’9スロットへ挿し込まれ、ドライバー中央にあるスイッチを叩き、ドライバーを傾かせる。

 

『変身!』

 

 ソウゴは片手で払う様にしてドライバーを回転させ、ゲイツは両手でドライバーを掴んで回転させる。

 

『ライダーターイム!』

 

 ライドウォッチ、ジクウドライバーによって開放されたエネルギーは、二人の背後で時計盤の様な形となり、そこから発せられる力が彼らに纏うべき力を与える。

 

『仮面ライダージオウ!』

『仮面ライダーゲイツ!』

 

 黒と白に『ライダー』の文字を顔に填める仮面ライダージオウ。

 黒と赤、顔に現された『らいだー』の文字を見せつける仮面ライダーゲイツ。

 アナザーゼロノスの前に二人のライダーが降臨する。

 変身した二人の姿を見て、アナザーゼロノスは気怠そうな態度で二人を指差す。

 

「最初に言っておく。俺はかなり強い」

 

 言葉とは裏腹に、その声はやる気の無いものであった。

 

 

 ◇

 

 

 仮面ライダービルド。桐生戦兎。

 仮面ライダークローズ。万丈龍我。

 

『ん?』

 

 ベージュ色のトレンチコートを着た青年──桐生戦兎と青いスカジャンを羽織った青年──万丈龍我は揃って足を止めた。

 

「何か言ったか? 戦兎」

「何も言っていない。言ったのはお前じゃないのか? 万丈」

「いや、俺も何も言ってねえよ!」

「ホントか? お前のことだから言ったのもすぐに忘れそうだけど」

「そこまで馬鹿じゃねえよ! 大体──はぐおっ!」

「うあっ!」

 

 万丈は悶絶した声を出して体を折る。万丈の足元には尻餅を突いている子供。万丈が腹を押さえていることから、余所見をしていた子供の頭が見事に万丈の腹部に突き刺さった様子。

 

「大袈裟だぞ、万丈。その年齢の子供の平均体重、平均移動速度を掛け合わせて威力を想定しても充分耐え切れる筈だ。あ、筋力でも落ちたか?」

「んな訳ねえだろ! 毎日鍛えているってーの!」

 

 戦兎は痛がる万丈を揶揄いながら、子供に手を差し出す。

 

「大丈夫?」

「俺から離れて!」

 

 しかし、子供の口から出たのは拒絶の言葉。──というよりも何かに怯えたものを感じる。

 

「あいつが来る!」

 

 俄かに人々が騒がしくなる。往来を歩く人たちの話し声。どれも困惑しているが、中には驚き、喜びを含むものがあった。

 

「どういうことだ……?」

「何だあれ……?」

 

 子供が走ってきた方向からこちらに向かって来る者。その姿は明らかに人とは異なるものであった。

 乾いた血の様な赤黒いボディ。そのボディには至る所に罅が入っており、痛々しくも見える。

 バイクのヘルメットを彷彿させる頭部には長く伸びた角が生えており、先端が割れて二又となっていた。

 顔半分程の大きさがある青の単眼。その下にある口は歪んだ形をしており、その奥に見える歯は、食い縛る様に真っ直ぐ並ぶ。

 その手には片刃の剣を握っているが、その剣の刃は欠けており鋸状になっている。更には鍔辺りからコードが垂れ下がり、先端がバチバチと電気の火花を散らしていた。

 怪人の登場に驚くが、もう一つ別の驚きもあった。とある理由で戦兎は世界を創り直し、怪人の居ない世界を創った。だというのに、目の前にいない筈の怪人が存在している。それも戦兎や万丈が一度も見たことの無い怪人が。

 動揺もあるが、戦兎は観察する様に怪人を見る。そして、気付く。怪人の右胸、左肩に何か描かれていることに。

 

「『ACCEL』? 『2009』?」

 

 それがどういう意味を示すのか、判断材料不足なので分からない。しかし、怯える子供。敵意に満ちた怪人を見れば、するべきことは分かる。

 

「あいつってのはあいつか……」

「この子を迎えに来た保護者って訳でも無さそうだ」

 

 戦兎と万丈は示し合わせることなくあるものを取り出す。長方形型に何かを挿し込む二つ分の溝。そして側面に付けられたハンドル。

 彼らが変身する為のツール──ビルドドライバー。そして、もう一つの変身アイテムを取り出す。

 戦兎は赤と青のボトル。万丈は群青色のボトルと四角い体の小型ドラゴン。ボトルの側面には赤は兎、青は戦車、群青にはドラゴンのマークが浮かんでいる。

 ボトルを振った後、戦兎は二色のボトルをドライバーに挿し込み、万丈は小型ドラゴン──クローズドラゴンにボトルを装填した後に、ドライバーに挿す。

 

『ラビット! タンク! ベストマッチ!』

『クローズドラゴン!』

 

 起動音と共にハンドルを回す。すると、ドライバーから透明のチューブが伸び、その中にボトルと同じ色の液体が流れ込んでいく。

 流れた先で液体は形を変え、装甲となる。

 様々なもの成分を入ったボトル──フルボトルの成分が、彼らに戦う為の装備を創り出す。

 

『Are You Ready?』

『変身!』

 

 形成された装甲が前後から二人を挟み込む。

 

『鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェーイ!』

『ウェイクアップバーニング! ゲットクローズドラゴン! イエーイ!』

 

 左頭部、右上半身、左下半身は赤で右頭部、左上半身、右下半身は青の二色の体。兎と戦車の側面を模した複眼。仮面ライダービルド。

 群青の体。上半身に纏う白のラインが入ったボディーアーマー。向き合うドラゴンの形をした複眼と、額で黄金に輝きながら正面を見るのはこちらもドラゴン。仮面ライダークローズ。

 二人の仮面ライダーが、怪人──アナザーアクセルを対峙する。

 アナザーアクセルは、腹部に装着されたベルトに手を伸ばす。バイクのグリップとメーターを模した形をしているが、メーターには亀裂が入り、グリップと一緒にあるブレーキレバーとクラッチレバーは半ばで折れていた。

 右側のグリップを掴み、回す。エンジンが轟くと共にアナザーアクセルの体にある罅から炎が噴き出し始める。

 二人を威嚇する様に何度もグリップを回す。

 

「さあ……振り切るぜ」

 

 

 

 こうして別の場所で二組のライダーが、異なるアナザーライダーたちとの戦闘を開始する。だが、彼らはまだ気付いていない。

 今居るこの世界が、自分たちの知る世界と大きく異なっていることに。

 その混乱の元凶たる男は、煙立ち上がる異形の電車から降り立つ。

 金の輪が幾つも施された革製の黒いコートを纏う冷めた表情の青年。

 青年が左手を掲げる。その手の甲には、波立つ線で黒い円が描かれており、太陽を連想させる形をしていた。

 異形の電車──アナザーゼロライナーの二両目が、青年の手の動きを合図に咆哮を上げると、側面に張り付いていた骨は翼の様に広げられ、横転している一両目に嘴を突き刺すと、そのまま持ち上げて何処かへと運んで行く。

 

「仮面ライダークウガから始まった平成ライダーの歴史が、今……終わりを告げる……」

 

 暗躍する影。だが、その青年すらも想定していなかった新たな来訪者たちがこの世界に招かれる。

 

 人気の無い場所で空間が揺らぎ、そこから黒い電車が現れて急停車する。

 中から急いで降りる茶髪の男と、黒い頭巾を被り、同じく黒い衣装を纏う鳥を模した金色の仮面を被った異形。

 

「くそ! 大分あいつらから離された! デネブ! 早くあいつらを見つけるぞ!」

「ああ! 待ってくれ、侑斗!」

 

 仮面ライダーゼロノス。桜井侑斗。

 

「……何か言ったか? デネブ」

「いや、俺は何も?」

 

 

 

「──風都タワーが無い、だと……」

 

 自分の置かれている状況が普通では無いことを察し、険しい表情を見せるのは、赤のレザージャケットとレザーパンツを着た男。

 

「一体いつの間にここへ……」

 仮面ライダーアクセル。照井竜。

「ッ! 誰だ!」

 

 鋭い声を飛ばすが返事は無い。赤いジャケットの男──照井は自分の身に起こったことを調べる為に動き始める。

 




アナザーゼロノスとアナザーアクセルは、バリーさんから頂いたアイディアと自分のアイディアを混ぜ合わせたものとなっています。
バリーさん。ありがとうございます。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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