内容次第では、また来年にでも投稿するかもしれません。
(どうしてこうなるんだよ! 何でここにあのライダーが居るんだよ!)
アナザーアクセルは自分の身に降りかかる不幸にそう叫びたくなった。
与えられた仕事は至極簡単なこと。今も屋台の陰で震えている子供を捕まえるだけでいい。
子供の身体能力とライダーの身体能力。どちらが優れているかなど考えるまでもない。
なのに、アナザーアクセルの前に現れた邪魔者がそれを妨害する。
仮面ライダージオウと仮面ライダーアクセル。
ジオウだけなら、最悪アナザーアクセルの切り札を使えばいい。だが、アクセルだけはダメだ。
アナザーアクセルは仮面ライダーアクセルと同等の能力を持っている。そう、能力は同等。ならば次に比べるのは使い手の技量。
一目でアクセルが歴戦の強者であることが、アナザーアクセルには分かった。戦えば只では済まない。アナザーアクセルは賭けには出たくなかった。
ジオウに負けたとしても次はある。しかし、アクセルに負けると次は無い。アナザーライダーを倒せるのは、同じ力の仮面ライダーだけである。
既にアナザーアクセルは一度失敗している。ビルドたちのせいであの子供を見失ってしまった。
二度目の失敗。それもアナザーアクセルの力を失う様なことがあれば、今度こそ命が無い。
彼に殺される。
アナザーアクセルは、ここに来る前のことを思い出す
◇
「くそっ! 見失った!」
あと一歩で捕まえることが出来る筈だったが、邪魔が入ったせいで見失ってしまった。
生憎、アナザーアクセルには痕跡を探す様な能力は無い。子供の足ではそう遠くには行けないが、それでもそれなりの範囲を虱潰しに探さないと行けない。
「くそ! くそ……! 手間をかけさせやがって……! これがバレたら──」
「バレたら? 何だ?」
背後からの声にビクリと体を震わせ、慌てて振り返る。しかし、そこには誰にも居ない。
「俺にバレたら何か不味いのか?」
再び背後から声が聞こえる。向き直るやはり誰も居ない。
「──こんな所で呑気に何をしているんだ? んん?」
背後からアナザーアクセルの肩に腕を回される。それだけでアナザーアクセルは微動だに出来なくなる。耳元で声を掛けてくるその人物への純粋な恐怖故に。
「ティ、ティード……」
恐れと共にその名を呼ぶ。
黒髪に白いメッシュが入った黒い革製のコートを纏う青年──ティードは、名を呼ばれたことに応える様に笑みを見せるが、その目は笑っていなかった。
「あの子はどうした?」
「に、逃げられた……」
「へえ。逃げられたのか。子供相手にアナザーライダーが」
笑顔だがそれとは裏腹に感情を感じさせない平坦な口調。アナザーアクセルは心臓を握られている様な心境になる。
「もしかして遊んでいるのか? 鬼ごっこが趣味だったか? お前?」
耳元で囁く掠れ声。生きた心地がしない。
「お前は俺の力になるって約束だったよな? そして、俺はお前に力も与えた。話が違うなぁ。それ忘れて遊んでいるのか?」
「ち、違う! ちゃ、ちゃんと俺は
「何が違うんだ?」
「は、話が違うのはお前の方だ、ティード!」
恐怖を押し殺して言うべきことを言う。でなければ、ティードに何をされるか分からない。
「2018年以降の時間は、俺たちの自由に出来るって話だったじゃないか! なのに邪魔が入った! 仮面ライダーの邪魔が!」
「仮面ライダー……電王かゼロノスか?」
「違う! そいつらとは別のライダーだ!」
その瞬間、肩に掛かっていた重さが消え、真正面にティードが現れる。輝きの見えない漆黒の目が真っ向からアナザーアクセルに向けられる。
「詳しく教えろ。どんなライダーだ?」
「名前は知らないが赤と青の混じったライダーだ。跳ねたり、足の裏にキャタピラを仕込んでいた。それと群青色のドラゴンみたいなライダーも一緒にいた。金色のライダー、紫のライダーも後から来た」
「ビルド、クローズ、グリスにローグか……どいつもこいつも平成ライダーか」
張り付いていた様な笑みが消える。途端にティードの見えざる圧が増した様に感じた。自分に向けられているのではないと分かっていても生きた心地がしない。
「詳しく調べる必要があるなぁ。分かった。行っていいぞ。そして、あの子を早く見つけろ。俺たちの計画の要はあの子だからな」
「──分かってる」
ティードがアナザーアクセルに背を向け、何処かに向かって歩き去っていく。ようやく恐怖から解放されたアナザーアクセルは、重い溜息を吐こうとする。
「──ああ、そうだ」
ティードの足が止まる。振り返ったティードは己の左眼を左手で覆い隠していた。左手の甲に描かれる黒い円。それが妖しく輝き円の中央に──
「あ?」
アナザーアクセルは気の抜けた声を出していた。突然視界がグルグルと回転していく。上下左右激しく入れ替わっていく光景。何でこうなっているのか、と思った時に打ち付けられる衝撃。そして誰かの足元が見えた。
見覚えがある。鼓動が早まる。体が動かない。何故か。視界が動く。下から見上げる。見上げたのは自分の体。何故自分で自分の体を見上げているのか。体には首から上が無──
「はっ!」
アナザーアクセルは焦燥に満ちた声を上げる。先程まで下から見上げていた筈なのに、視界が元に戻っている。反射的に首に手を当てる。間違いなくそこに在った。
「く、くくく、はははははははは!」
アナザーアクセルの焦った姿に、全身を使ってティードは哄笑する。
「冗談だよ。冗談。俺が大事な仲間にそんなことをする筈が無い。あっちゃいけない。だからさ──」
揶揄われた──などという生易しいものではない。
「させるなよ? 俺に」
これは警告である。同じ失敗を繰り返す様であれば、先程の幻覚が現実になるというティードからの警告。
ティードはアナザーアクセルからの返答を聞かずに姿を消した。答えなど聞くまでも無いと言わんばかりに。
緊張が解け、膝から力が抜けそうになるのを堪える。
与える側と与える側。どちらの力が上かなど比べるまでも無い。明確に突き付けられた力の差にアナザーアクセルは恐怖を覚える。──覚えるが、同時にその力に魅せられる。
(あいつが居れば勝てる……!)
そう思ってしまう。
力は恐怖であり、力は魅力である。
どちらを強く感じるかにせよ、アナザーアクセルにはティードに屈するという選択肢しか無かった。
◇
(なのに! なのによぉぉ!)
仮面ライダーアクセルがこちらに向かって歩いて来る。その手にエンジン機構を模した大型の片刃剣──エンジンブレードを構えて。
敵対しているからこそ分かるアクセルの威圧感。多くの戦いを熟してきた強者のものであった。
まともに戦うのはアナザーアクセルにとってデメリットでしかない。ここは一旦退こうと考えた時、アナザーアクセルの頬に衝撃が奔る。
「あがっ!」
ドライブアーマーを纏ったジオウによる拳がアナザーアクセルの頬を殴っていた。アクセルの存在に気を取られていたせいもあるが、ドライブアーマーの急加速により反応することが出来なかった。
怯むアナザーアクセルに、アクセルから強烈な斬撃が与えられる。
肩から腹部に掛けての灼熱に似た痛み。逃げなければならないという思考に反して、体の動きが止まった。
アクセルはエンジンブレードの刀身を上から押す。刀身は中折式になっており、刀身が折れるとスロット部分が現れる。
『エンジン!』
そのスロットに挿し込まれる別のメモリ。アクセルは刀身を戻し、柄にあるトリガーを引く。
『エレクトリック!』
音声の後に、刀身が電気を帯びる。青白い電流を纏ったエンジンブレードで、アナザーアクセルに二撃目を与える。
「ぐあっ!」
咄嗟に身を引き、剣先が掠る程度で済ませたというのに触れただけで強力な電気が体内に流れ込み、感電する。
ギギギ、と鳴る程に歯を食い縛りながらアナザーアクセルはアクセルに向けて剣を突き出す。
アナザーアクセルの反撃を後退し空振りにさせるアクセル。
『ジェットォ』
しかし、剣先から放たれた衝撃波が剣の射程を超えてアクセルを狙う。
「ちっ!」
アクセルは咄嗟にエンジンブレードを盾にして防いでみせる。だが、数メートル程後ろに下げられた。
「見た目だけじゃなく、アクセルの能力まで使えるのか……」
アナザーライダーがただの偽者では無いことをアクセルが認識し始める。
厄介なアクセルとは距離を置けたアナザーアクセル。残すのは──
「はあっ!」
「鬱陶しい!」
──間を埋める様にして仕掛けて来たジオウ。一秒でも早くここから去りたいというのに、ジオウがそれの邪魔をする。
「邪魔だぁ!」
アナザーアクセルの大振りの斬撃。横から来るそれをジオウは身を屈めて避け、勢い余って回転するアナザーアクセルに拳を打ち込もうとする。
キュルルと響くタイヤのスキール音。聞こえたのはアナザーアクセルの足元。
すると、アナザーアクセルは急回転し、ジオウが拳を放つ前に一回転して外した斬撃を今度は直撃させる。
胴体を横薙ぎにされ、火花を散らしてよろめくジオウ。アナザーアクセルは回転を加速させ、すぐに追撃しようとする。
今度狙うのは胴体ではなく、ジオウの首。ギザ刃の剣がジオウの首に喰らい付こうとし、突然軌道が斜め上に変わってジオウの頭上を通過する。
「なんだっ!」
刃の腹に何かがぶつかり、そのせいで大きく逸れることとなった。原因を探すアナザーアクセルだったが、その背中に衝撃が走る。
「がはっ!」
仰け反るアナザーアクセル。次に鳩尾にも衝撃。仰け反った体がくの字に折れた。
「こ、これは……!」
二度の衝撃で正体が分かる。空中を縦横無尽に疾走する二台のミニカー。ジオウドライブアーマーのブレスレットに収納されていたシフトスピードスピードである。
小さいながらも衝突時の衝撃はかなりのものであり、アナザーアクセルは身をもってそれを表していた。
「くそっ! こんな!」
剣を振るうが二台のシフトスピードスピードには当たらない。そこそこのダメージを与えられ、更に的としては小さいせいで簡単には打ち落とせない。
『フィニッシュタァァイム!』
『ドライブ!』
その状態から発生するジオウの必殺技。縦横無尽に走っていたシフトスピードスピード二台が並走し、アナザーアクセルの周囲を疾走し始める。
『ヒッサツ! タイムブレーク!』
そこへ蹴りの態勢で飛び込んでくるジオウ。
「ぬうっ!」
初撃は身を捻ることで掠らせる程度で済ませられた。だが、蹴りを外したジオウは旋回しているシフトスピードスピードたちを足場にして跳ね返る様に再び蹴りを繰り出す。
「があっ!」
態勢が整っていない状態であった為に二撃目を受けてしまう。ジオウはまたもシフトスピードスピードを足場にし、連続して蹴りを放ち続ける。
四方八方から浴びせられる蹴りでアナザーアクセルは棒立ちとなり、それを狙ってアクセルもまた動く。
アクセルドライバーに備わっているクラッチレバーを引き、グリップを回す。
『アクセル! マキシマムドライブ!』
赤熱化する程の熱量を全身から放ち、青の単眼が輝く。
アクセルは駆け出し、速度が限界にまで達すると跳ぶ。その跳躍は旋回しているシフトスピードスピードの上を跳び越える。
空中で体を捻り、一回転しながら右足を振り上げる後ろ飛び回し蹴り。蹴りの軌跡にはタイヤ痕の様なエネルギーの残像が残る。
アナザーアクセルはダメージを受けながらも咄嗟に片刃剣を翳す。しかし、アクセルの蹴りはそれを容易く砕き、そのままアナザーアクセルの頭部も砕く。
「あぐあっ!」
「絶望がお前のゴールだ」
倒れ伏すアナザーアクセル。だが、ジオウは違和感を覚えた。適応するライダーがアナザーライダーを倒したのなら爆発が生じ、契約者は解放されアナザーウォッチが破壊される筈である。なのにそれが起こっていないということは──
「まだ倒せていないよ!」
「何っ!」
アナザーアクセルは倒れ伏せたままの状態から折れた剣でアクセルの足を狙う。アクセルはジャンプして回避しつつアナザーアクセルから離れた。
「やって……くれたな……!」
アナザーアクセルは砕けた顔を押えながら立ち上がる。ボロボロと手の隙間から零れていく破片。
そして彼らは見た。砕けた青の単眼の向こうに憎悪で輝く橙色の眼を。
「貴様、まさか……!」
「ちっ!」
『スチームゥ』
折れた剣を突き立てると大量の蒸気が発生してアナザーアクセルの姿を隠す。
『ジェット!』
アクセルはエンジンブレードから衝撃波を撃ち出し蒸気を掻き消すが、既にアナザーアクセルは居なくなっていた。
「どうなっている……あの敵も、この世界も」
「ありがとう。助かった」
変身を解いた照井に、同じく変身を解いたソウゴが近付き、礼を言う。
「お前は──」
「イヤー! アナタタチスゴイヨー! タスカッタヨー! コノ街マモッテクレタ! ショウサンガイッテタコトタダシカッタヨ! ア、コレアズカッテタヨ!」
興奮気味な風麵の店主が片言で捲し立てながらある物をソウゴに渡す。
緑の外装に緑と黒の二色に分かれた仮面ライダーの顔が描かれたライドウォッチ。
「ライドウォッチ!」
手渡された物に興奮するソウゴだったが、横から伸びた手がそれを奪い取る。
「何だこれは?
ライドウォッチに対し不審な目を向ける照井。
「ちょ、ちょっと返してよ!」
「あのアクセル擬きは何だ? この街は何処だ? これは何だ? 何か知っているな?」
「というか、あんた、誰?」
「俺に質問するな」
「ええ……理不尽……」
◇
アナザーアクセルを撃退したビルドたち。参戦してくれたグリスとローグが変身を解く。
モッズコートを着た猿渡一海。革ジャンを着た氷室幻徳。間違いない彼らが知っている二人であった。
しかし、本来ならば二人が仮面ライダーに変身することは不可能な筈である。そうならないようにした戦兎本人が一番理解していた。
慌ててその場から離れ、なるべく高いビルへと昇り、周囲を見る。そこには何も無かった。
戦兎たちが居た日本はかつてスカイウォールという壁によって三つに分かれていた。それを起こしたのは火星で発見されたパンドラボックス。
戦兎たちは数々の犠牲を払って、パンドラボックスの力を利用し世界を再構築した。再構築した世界では戦兎と万丈以外は元の世界の記憶は無い。犠牲となり蘇った一海と幻徳に記憶があってはおかしいのだ。
戦兎は推測する。変わったのは自分たちではなく世界の方が何か変質したのでは無いかと。
その考えに至った時、唐突に思い出してしまった。あのアナザーアクセルに追われている子供のことを。
どう考えても何かしらの事情がある筈だというのに、一海や幻徳のことですっかり忘れてしまった。
戦兎は思い出すと同時にすぐに探し始める、事情が飲み込めないていない一海と幻徳、その二人を巻き込んで転倒した万丈を置いて。
◇
「まったく何なんだ……」
氷室幻徳は不機嫌そうな声を出しながらビルから降りていた。いつの間にかここに来ていたのかすら分からない。
頭に強い衝撃を受けたかと思えば見知らぬ二人の男が居り、いきなり『ヒゲ』呼ばわりをされた。
「それに何だ? この格好は……?」
自分の趣味では無い革ジャンをいつの間にか着ていたことに不気味さすら覚える。
「仮面ライダーローグの氷室幻徳か……」
「誰だ!」
いきなり名前を呼ばれ、幻徳は声の方を見た。
そこには影から浮き出た様に立つティードが、幻徳を見ていた。
「仮面ライダーローグ……? 何を言っている?」
「記憶が無い……? ますますどういうことだ? 俺たちを倒す為に存在している訳じゃ無いということか?」
「おい!」
「まあ、そっちの方が都合が良いか。手駒が簡単に手に入る」
「さっきから何を言っている!」
ティードに詰め寄る幻徳だったが、ティードの姿が消え、幻徳の背後に移動していた。
「な、何をした……」
「記憶が無ければ、仮面ライダーも一般人か」
幻徳に右手を突き出す。すると、幻徳の動きが停止し指一本動かせなくなる。
「なあ? どっちがいい?」
ティードは幻徳の前に二つのウォッチを見せる。片方は鰐に顔を下から喰われている様な紫の顔。もう片方はどす黒い仮面の下から赤い目を輝かせる顔。
「こっちか? それともこっちか? こっちでいいな」
アナザーウォッチが幻徳の体内に埋め込まれる。最初から幻徳への選択肢など無い。全てはティードの気分次第。
「うあああああああああああ!」
「今からお前は俺の道具だ」
『グリィス』
という訳で追加アナザーライダーの一人はアナザーグリスです。先に作中でも出ましたが、劇場版の話で出そうかなと思って考えていたアナザーサブライダーです。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ