突如として現れたゼロノスに、アクセルとグリスは戸惑う。アナザーライダーたちを追っていることから敵では無いみたいだが、だからといって味方とも言い難い。
「こいつの相手は俺がする! そいつの方はお前たちがやれ!」
アナザーゼロノスの方を見てゼロノスが宣言するが、それを面白く思わない者が居た。
「おうコラ。いきなり現れた癖に指図すんじゃねえ」
グリスが喧嘩腰で応じる。
「いいから言う通りにしろ!」
「だから指図すんじゃねえ!」
初対面で、どちらも我が強いせいか反発し始める二人。
「お前たち、いい加減にしろ」
アクセルの方もアナザーライダーを放って言い争いを始める二人に苛立ちを覚え始める。しかし、ヒートアップし始めている二人の耳には届かない。
当のアナザーライダーたちはというと、こちらの様子を窺っていた。あわよくば内輪揉めが起こるのを待っているらしい。
それを見ているアタルとシンゴは、アナザーライダーよりも、ゼロノスとグリスがいつ衝突するかハラハラしていた。
すると、黙って見ていたデネブがゼロノスの前に立ち、グリスをじっと見る。威圧感のある見た目のデネブに、グリスは僅かに身構える。
「誰だ、お前? ……誰だで合っているよな?」
デネブの姿は、グリスに機械兵のガーディアンを彷彿とさせ念を押して尋ねさせる。
「ごめん!」
「──え?」
深々と頭を下げたデネブに、グリスは不意を衝かれて気の抜けた声を出してしまう。
「気を悪くしたのなら代わりに謝る! この通りだ! ただ誤解しないで欲しい! 侑斗は優しい子なんだ! 本当は皆とも友達になりたいと思っている!」
「おい!」
「侑斗、いきなり喧嘩腰は良くない! ちゃんとお願いをしよう! そうすれば分かってくれる!」
「おい! 止めろ!」
デネブが懸命に擁護するのに対し、ゼロノスは勝手なことを言うデネブに怒声を上げる。
「だから──!」
「分かった分かった。十分伝わった」
グリスは最後まで言わさず途中で遮ると、ゼロノスの方を見る。最初よりも幾分視線が優し気なものとなっていた。
「格好は変だが、息子思いの良い親父さんじゃねえか」
デネブの過保護な様子を見て、グリスはデネブがゼロノスの親だと勘違いをする。
反抗期の息子の様な扱いをされ、ゼロノスは今にも地団駄を踏み出しそうな程苛立ちを覚える。
「誰が!」
駆け出すゼロノス。
「誰の!」
最高速度に達すると同時に両足で踏み切り、そのまま地面と平行になるまで両足を持ち上げる。
「親父だっ!」
加速と重量を載せた両足での蹴り。即ちドロップキックがアナザーゼロノスへと炸裂する。
八つ当たり同然に放たれたドロップキックを、マントで受けるアナザーゼロノス。しかし、完全に威力を殺し切れず数メートル蹴り飛ばされた。
それが戦いの開始の合図となる。
「このっ!」
いきなり仕掛けてきたゼロノスにアナザーアクセルは剣を構え、襲い掛かろうとする。だが、横から眼前に突き出された刃──エンジンブレードによって踏み止まらされる。
「お前の相手は──」
「俺たちがしてやるよ」
左右から挟む様にして立つアクセルとグリス。アナザーアクセルは突き出された剣を咄嗟に上に弾くが、それによってがら空きとなった胴体にグリスの気迫の叫びと共に拳が突き刺さる。
「おらぁ!」
「ぐふっ!」
体を前のめりにしながらアナザーアクセルは一撃で殴り飛ばされる。
「お前の親父さんに免じて、こいつは引き受けてやる」
「だから違う──」
「ありがとう! やっぱり良い人たちだ! きっと侑斗とも仲良くなれる!」
「ああもう! その話はいい! 今はあいつに集中するぞ!」
これ以上話がややこしくなるのを嫌がり、ゼロノスは一方的に話を打ち切ると、デネブと一緒に立ち上がろうとしているアナザーゼロノスに意識を向ける。
ゼロノスは、ベルトの左右に付いてあるパーツを取る。ナックルガードの付いたグリップとAの形をした刃。二つのパーツを連結させることで両刃の大型剣──ゼロガッシャーとなる。
完成した武器を構え、アナザーゼロノスに向かって駆け出すゼロノス。
自分に向かって来ているのが見えたアナザーゼロノスは、光矢を何発もゼロノスに射つが、ゼロノスはゼロガッシャーで巧みに操りそれらを撃ち落とす。
ゼロノスが接近する速度は光矢程度では落ちず、すぐに二人の距離は縮まる。
アナザーゼロノスは遠距離戦から近距離戦へと切り替え、ゼロノスが間合い入った瞬間に大剣を払う。
だが、ゼロノスは斬撃が来ることを読んでおり、跳躍によって回避。アナザーゼロノスの頭上を超え、背後に着地しながらゼロガッシャーで背部を斬り付けた。
「うあっ!」
身軽な動きで、アナザーゼロノスに一撃を入れる。
「くう!」
アナザーゼロノスは後ろに向けて武器を振り回す。ゼロノスは身を低くし、武器の下に潜りつつ、アナザーゼロノスの横を通り抜け、その際に胴体に斬撃を入れた。
「デネブ!」
「分かった!」
デネブは、円筒状の指をアナザーゼロノスに向ける。各指から弾丸が発射され、アナザーゼロノスを撃つ。
連続して撃ち込まれる銃弾に、アナザーゼロノスは後退させられていく。
ゼロノスたちが戦っている一方で、アクセルとグリスは横並びになって腹部を押さえて苦し気にしているアナザーアクセルに鋭い眼光を放っていた。
グリスの左手がゲル状の物質に包まれると、ゲルは形を変えて物体と化す。
『ツインブレイカー!』
金色の
「心火を燃やして、ぶっ潰す!」
彼にとって戦いに挑む為の台詞を口に出し、戦闘への気合を加熱させる。
戦う前は少しヒヤリとしたが、もう問題は起こらないだろうと思う。それと、何故あのアナザーライダーたちがシンゴを狙うのか気になるが、一旦その考えは仕舞い気持ちを切り替え──
「さあ、振り切るぜ」
──戦いに集中する。
アクセルとグリスは同時に駆け出す。並走して接近してくるアクセルたちに、アナザーアクセルは視線を右往左往し忙しなくしていた。どちらが先に仕掛けてくるのか分からず、焦っている模様。
「っらぁ!」
並走から一歩踏み出してグリスが飛び掛かる。
ツインブレイカーが唸る。パイルが高速回転している音であった。
跳躍しながら繰り出されるツインブレイカーによる突き。アナザーアクセルは剣で防いで次の動きに繋げようとするが、パイルが剣に触れた瞬間に地面から足が浮いた。
「なっ!」
予想以上に重い一撃に、アナザーアクセルは戸惑う。だが、グリスはそこへ容赦無く追撃する。
「渾身!」
「あがっ!」
もう一度突き出されるツインブレイカー。今度は防御が間に合わずパイルがアナザーアクセルの胸部に刺さる。
呻く暇なく今度はツインブレイカーが振り下ろされ、パイル先端がアナザーアクセルの体を斜めに裂く。
突けば穿ち。振るえば削る。そこにグリスの力が加わって情け無用の武器と化す。
「──このっ!」
斬られた箇所を押さえつつドライバーのグリップを捻る。全身から高熱が放たれ、攻めようとしていたグリスの足を止めさせる。
『ジェット!』
しかし、その反撃もアクセルの攻撃によって中断させられた。衝撃波を胸に受け、アナザーアクセルは吹き飛ばされる。
「ぐぐっ! ちくしょう──はっ!」
立ち上がったアナザーアクセルは、眼前に二人が既に立っていることに気付く。慌てて構えようとするが、遅い。
「燃焼!」
グリスの右拳がアナザーアクセルの頬を打ち抜き、罅割れた仮面の罅を更に大きくさせる。
「ふん!」
グリスが左腕を引く動作の間にアクセルのエンジンブレードを横薙ぎに振るう。胸に真一文字の傷ができ、そこへアクセルの横蹴りが打ち込まれた。
「あがはっ!」
「猛烈!」
二字熟語を叫びながら間髪入れずに入るツインブレイカーの突き。
「はあっ!」
『エレクトリック!』
帯電したエンジンブレードの突きも同じくタイミングで繰り出される。
「おぐえ!」
アクセル、グリスの連続攻撃に手も足も出ず、一方的に攻められたアナザーアクセルは地面を無様に転がっていく。
「うぐぐ……!」
それでも頑丈さは本物らしくすぐに立ち上がろうとしていた。
アクセルはさりげなくグリスを横目で見る。グリスとの共闘は思った以上に戦い易いものであった。かなりの場数を踏んだ動きであり、他人との動きの合わせ方を知っている戦い方であった。第一印象がチンピラであったが、その認識を改める必要がある。
グリスもまたアクセルと同じ様なことを思っていた。出会った間もないというのに不具合も無く噛み合った連携が出来たことに内心驚く。誰かと共に戦う経験を何度もしている経験故のものだとグリスは考える。近寄り難く、友達が居なさそうというのが第一印象であったが違った様子。
グリスはツインブレイカーのパイルを押し込む。すると八の字に広がっていた円筒が角度を変えて二門の砲身と化す。
『ビームモード!』
パイルによる接近戦を目的としたアタックモードから遠距離戦の為のビームモードに切り替わる。
ビームモードになったツインブレイカーのスロットにスクラッシュドライバーから抜いたロボットスクラッシュゼリーを挿し込む。
『シングル!』
グリスはグリップに備わったトリガーを引き、アクセルもまたエンジンブレードのトリガーを引く。
『シングルフィニッシュ!』
『エンジン! マキシマムドライブ!』
ツインブレイカーから発射される黄色い巨大な光弾が、飛沫の様なエネルギーの余波を出し、真っ直ぐと突き出されたエンジンブレードからAの字を模したエネルギーを放つ。
積み重なったダメージで咄嗟に動くことが出来なかったアナザーアクセルに、二つの必殺技が直撃。爆発、炎上を起こす。
その時、戦いの最中であるのに何故かゼロノスもまた手を止め、炎の方を見ていた。何かを察した様子であったが、アナザーゼロノスによって戦いに引き戻される。
構えを解くグリス。エンジンブレードから排莢されたエンジンメモリを受け止めながら、アクセルは爆炎を見ていた。
「どうした?」
その様子にグリスが尋ねる。
「──いや、思い過ごしだったみたいだ」
アクセルは、燃え盛る炎に視線を固定させたままだったが、やがてその視線を外し──
『トライアルゥ』
──青い閃光が轟々と燃える炎が吹き飛ばす。炎が消えると同時にグリス、アクセルもまた何かによって飛ばされた。
「くっ!」
「何だっ!?」
戦いで培われた反射神経で不可視の攻撃を辛うじて防御して見せた二人。飛ばされながらもすぐに体勢を立て直す。
「図に乗るなよ、お前ら……!」
縦横無尽に動いていた青い光が止まる。そこには別のアナザーライダーが立っていた。
胸骨の様な形の銀色の胸部装甲。肩、腕、足などは青いスーツによって覆われているが、所々が剥げ落ちて銀色になっている。背部には円形に組まれた骨の装飾がある。
オフロードバイクヘルメットに似た頭部だが、額から伸びる角は折れ、バイザー部分は橙、口部を覆うマスクも備わっている──半分だけ。残りの顔半分は破損した状態であり、バイザー下の白い目、歯を剥いた口が露出していた。
アナザーアクセルが事故車だとしたら、こちらは事故者である。
「やはり、トライアルの力も……!」
あの時、破損したメットの下が見えたことで疑いを持っていたが、その疑いも確信となる。
アクセルの言葉に、見せつける様に片足を前に出す。そこには『TRIAL』と描かれていた。
「何だぁ? あの姿も知ってんのか?」
「──ああ」
「そうか。盛り上がって来たな!」
アナザートライアルの能力の一端を見ても、グリスは臆せず逆に闘志を高める。それはアクセルも同様のこと。自分の力を歪められ、悪用されようとしているのを見れば自然と戦意が高まる。
ライダーとアナザーライダーの戦いが更に過熱していく中、離れた場所でそれを見ていたシンゴとアタルはそれに目を奪われていた。
シンゴは見たことも無い仮面ライダーたちが、見たこともない力で戦う姿に。
アタルは自分が知っている仮面ライダーたちが、思い描いて通りの姿で戦っていることに。
だからこそ気付かなかった。背後から迫っているその存在に。
「うあああああああ!」
「やめろ! 離せ!」
シンゴとアタルの声に、ライダーたちの動きが止まる。
声の方を急いで見ると、二人が新たに現れたアナザーライダ──―アナザーグリスによって後ろから拘束されていた。
「何だありゃ? ──グリスの偽者か?」
グリスはアナザーグリスを目の当たりし、少し戸惑った声を出す。
「そのまま押さえとけ! その内にこいつらを……!」
アナザートライアルはシンゴたちを人質にし、アクセルたちに脅しをかけて抵抗出来ない様にするつもりであった。
だが、アナザーグリスはアナザートライアルの声を無視し、両肩のパイプから黒い液体を噴出させ、空に昇っていく。
それを待っていたかの様に何も無い空間からアナザーゼロライナーが出現した。
「何だありゃ……!」
グリスはアナザーゼロライナーの出現に驚く。アクセルも声には出さないが心の中では同じ心境であった。
アナザーグリスはアナザーゼロライナーの中に入って行く。
「一方的にやられて、このまま戻れっていうのかよ……!」
アナザートライアルは全身を震わせ、行き場の無い怒りを露わにしていた。
「──チクショウ!」
だが、それ以上の抵抗はせず、姿が消える程の高速移動で周囲の建物を伝い、アナザーゼロライナーの中へ飛び込んでいく。
アナザーゼロノスも傷を押さえながら、跳躍してアナザーゼロライナーへと逃げ込む様に去る。
アナザーライダーたちが全員搭乗するとアナザーゼロライナーが走り出す。
「待て!」
ゼロノスが叫ぶと、またも空間が歪みそこからゼロライナーが走り出てきた。
「また出た!」
同じ様な列車の出現に、グリスはまたも驚く。その間にゼロノスとデネブはゼロライナーに乗ってアナザーゼロライナーの後を追う。
「──しまった! 乗り遅れた!」
ゼロノスと一緒にゼロライナーに乗ればよかったのだが、驚きが強過ぎて出遅れてしまう。その結果、どんどん離れていくゼロライナーたちを見送ることになってしまった。
すると、アクセルは腹部に付けていたアクセルドライバーを外す。
その場で宙返りをすると、背部にあったタイヤが前方に展開。両足側面に付いていた半円のタイヤパーツが合体し後輪に、そして両手で構えたアクセルドライバーが自らを操るハンドルとなる。
「お前も何だそりゃあ!」
バイクに変身したアクセルにグリスは三度驚く。仮面ライダーなのに自らがバイクになるのは予想外の展開であった。
「俺はこれから奴らを──おい!」
突然掛かる重みに怒鳴る。アクセルの背にグリスが跨っていた。
「しゃあ! 行くぜ!」
「降りろ!」
「早くしないと見失うぞ!」
「──くっ! 振り落とされるなよ!」
言い争いをするよりもシンゴたちを助けることを優先し、仕方なくグリスを乗せたままアクセルは走り出す。
「おお! 速ぇぇ!」
グリスはアクセルの首元にあるハンドルパーツを掴み、全身に浴びせられる風圧を感じながらバイク形態のアクセルのスピードを楽しむ余裕すら見せる。
走る二両の列車を、アクセルたちは追従する。
◇
アナザーゼロライナーをゼロライナーで追うゼロノスたち。見失うなうことは無かったが、攻撃することも出来ずにいた。
下手に攻撃をすれば中に捕らえられているシンゴたちがどうなるか分からない。
ゼロライナーの操縦席であり、自身のバイクであるマシンゼロホーンの上でゼロノスは歯嚙みする。
このまま追いかけっこしていても埒が明かない。
だが、その考えも杞憂に終わる。事態が大きく変わるからだ。ただし、ゼロノスたちにとって望むべきではない方向に。
突如としてセロライナーに衝撃が襲い掛かる。危うく脱線してしまいそうなほど強烈なものであった。
「何だ!?」
「侑斗! 外に何か居る!」
「何だと!?」
再び来る衝撃。ゼロライナーの操作が狂い、アナザーゼロライナーから離れてしまう。
「一体何だ!」
外の様子を確認したゼロノス。そこに映し出された光景に息を呑んだ。
湾曲しながら刺々しい見た目も大顎。黒の甲殻に血管の様に走る赤い模様。爛々と輝く赤い目。
巨大なクワガタムシが羽を震わせて空を飛び、尚且つゼロライナーを襲っていたのだ。
「こいつ!」
体当たりをしてくる巨大クワガタムシに、ゼロライナーも負けじと体当たりをし返すが、機動力の方はクワガタムシの方が上であり、容易く避けられてしまう。
空振るゼロライナーの攻撃。それによりクワガタムシを見失ってしまう。
「どこ行った! ──うお!」
上からの衝撃。ゼロライナーの上部に見失っていたクワガタムシが張り付いている。
「離れろ!」
左右に揺さぶるがクワガタムシは離れない。すると、クワガタムシはその鋭利な顎でゼロライナーを挟む。バキバキという音の後にグチャグチャという音が何度も頭上から響いてくる。
「こいつ! ゼロライナーを喰ってやがる!」
破壊音ではなく咀嚼音であることに気付き、何度も振り払おうとするがクワガタムシは離れない。
ゼロライナーの兵装を全開にしようかと考えたが、その前にデネブが止める。
「侑斗! ここで戦うのは不味い! 下には家が沢山ある!」
デネブが言う通り、ゼロライナーが通過している場所には住宅街が広がっている。ここで戦えば一般市民に大きな被害が出る。
「くそっ!」
ゼロライナーは大きく方向を変える。なるべく被害が出ない場所を探す為に。シンゴたちを追っているゼロノスたちにとっては苦渋の決断であった。
「おい! 襲われているぞ! あの列車!」
グリスたちも、巨大クワガタムシに襲われ離れていくゼロライナーが見えていた。
「このままでは追い付けなくなる!」
いくらバイク形態のアクセルが速かろうと所詮は地面の上でだけ。空を走るアナザーゼロライナーには届かない。高いビルなどがあればその壁面を走って届くことが出来るかもしれないが、周囲に都合よく建っていない。
「おいおい、諦めるのか?」
「そう簡単に諦めてたまるか!」
「だよな? 安心しな。俺に任せろ」
「何?」
グリスはスクラッシュドライバーのレバーを押す。ゼリーパウチが潰され、ドライバーを伝わってグリスにエネルギーが充填される。
『スクラップフィニッシュ!』
ドライバーから音声が鳴ると、グリスは前方に右手を突き出す。掌には円形の機構があり、そこからゲル状の物質──ヴァリアブルゼリーが噴射される。
「道っていうのはなぁ」
ゲルは瞬時に硬化する。その強度はアクセルたちが乗っても壊れない。
「いつだって自分で作るもんだろう!」
ヴァリアブルゼリーによって瞬時に足場を作りながら、それをアナザーゼロライナーに向かってどんどんと伸ばしていく。
空中に架かる即席の道をアクセルは恐れることなく全力疾走する。
「成程、これなら!」
アナザーゼロライナーの後部車両が見えてきた。
「このまま突っ込むぞ!」
「遠慮すんな! 派手に行け!」
アクセルは、ドライバーにエンジンメモリを挿し込む。
『エンジン! マキシマムドライブ!』
アクセルの全身が炎に包まれ、加速する。
「いいな! 燃えるじゃねえか!」
言葉通り跨っているグリスもまた炎に包まれるが、熱がる様子は無い。
「俺も行くぜぇぇ!」
アタックモードにしたツインブレイカーにロボットスクラッシュゼリーを挿す。『シングル!』の音に合わせ、パイルが黄色いを光を巻き上げる様に回転する。事前にドライバーで全身にエネルギーを送っているので威力も底上げされている。
『シングルブレイク!』
◇
「シンゴー。ようやく俺の所に戻って来たな」
アナザーゼロライナーの中でティードが戻ってきたシンゴを歓迎する。
その態度にシンゴは怯えた様に肩を震わす。隣に並ぶアタルも同じであった。
ティードの眼がアタルに向けられる。
「誰だこいつは邪魔だ捨てろ」
あまりにあっさりと言われたので一瞬何を言っているのか理解出来なかった。アナザーグリスが襟首を掴み上げたことで内容に思考が追い付く。
「や、止め──」
「アタルに手を出すな!」
アタルを庇ったのはシンゴであった。アナザーグリスの手にシンゴがしがみつく。
「待て」
ティードの言葉でアナザーグリスは動かなくなる。
「──アタルって言ったか?」
「……そうだよ」
「そうか! そうか! お前がアタルか! はははははははははははは! 運命ってのは面白いな!」
何が可笑しいのかティードは哄笑する。アタルは何故シンゴが自分を庇うのか、ティードが自分の名を知っているのか混乱する。
「──まあいい。重要なのはシンゴだけだ。適当な所で放ってやる。優しいお兄ちゃんで良かったな? アタル」
「ど、どういう意味だよ?」
ティードは笑って答えず、勿体ぶる様にアタルの肩に手を置く。その瞬間、ティードから笑顔が消えた。
『不味い。ばれた』
「え?」
「
「な、何が……?」
「もしかして、消えた筈の平成ライダーたちが存在するのはシンゴだけじゃなくお前も原因か?」
すると、ティードはアナザートライアルを見て一言。
「役立たずが」
罵声を浴びせられ、屈辱と怒りで体が震えるが、逆らえることが出来ず俯くアナザートライアル。
「うるせぇよ。この空っぽ野郎」
ティードに聞こえない声で言い返すことだけが精一杯の反抗であった。
「事情が変わった。このままアタルも連れて行く」
「やめろ! アタルは関係ない!」
ティードにシンゴが食い下がろうとしたとき、爆発音と共にアナザーゼロライナーが揺れる。
「な、何だ! 停めろ!」
慌てるアナザートライアル。彼に指示され、アナザーゼロノスがアナザーゼロライナーを停車させる。
『おおおおおおお!』
車内扉を突き破り、アクセルとグリスが飛び出る。
「アクセル! グリス!」
グリスはアナザーゼロノスを殴りつけ、転倒させる。アナザートライアルもそれに巻き込まれた。
アクセルはアナザーグリスを斬り付け、彼の側にいたアタルを救い出す。
「どいつもこいつもしつこいな平成ライダーは」
ティードは戦う態度は見せず、シンゴの肩に手を置いたまま座席に座っている。
「やれ」
ティードの指示で三人のアナザーライダーたちがアクセルたちに襲い掛かる。
それほど広くないアナザーゼロライナー内。戦いは混戦となる。三対二、またアタルという守る対象がいるのでアクセルたちが不利なものの、狭い車内ということでアナザーライダーたちも能力が発揮させることが出来ず、肉弾戦となる。
「おい!」
「何だ!」
戦いの中でグリスがアクセルに呼び掛ける。
「お前だけそいつ連れて先にここから出ろ!」
「何だと!」
グリスはアクセルにアタルを連れて逃げる様指示を出す。
「お前の速さなら逃げられる!」
「だが、あの子が……」
まだシンゴを救出出来ていない。
「あの子は俺が助ける! このままじゃあ誰も助けられねーぞ!」
悩むアクセル。そこへ──
「俺のことはいいから! アタルを!」
シンゴ本人がアタルをここから逃すことを願う。
アクセルにとっては苦い選択であった。しかし、選ばなければならない。
「──行くぞ」
アタルの手を引き、入っていた場所へ向かう。
後を追おうとするアナザーライダーたちであったが、その前にグリスが立ち塞がる。
「なあ」
グリスはアクセルに声を掛けた。
「お前、名前なんだったけ?」
「──照井竜だ」
「そうか。ちゃんと逃げろよ、照井!」
「すまない──猿渡」
遅れた自己紹介をした後、アクセルが離れていく。
「たった一人で何が出来るって言うんだ?」
一人立ち塞がるグリスを滑稽だと言わんばかりにアナザートライアルが嘲る。
「馬鹿野郎。こういうのが燃えるんじゃねぇか」
グリスはロボットスクラッシュゼリーを外し、別のスクラッシュゼリーを挿す。そのパウチには水色のドラゴンの横顔が描かれていた。
『ドラゴンゼリー!』
左手同様に右手にもツインブレイカーが装着される。
「さあ! 祭りの時間だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
グリスの大咆哮にアナザーライダーたちは一瞬呑まれ、その隙にグリスが飛び掛かる。
「突貫!」
右のツインブレイカーのパイルがアナザーグリスの顔面を殴り飛ばす。横にいたアナザーゼロノスが、グリスの胴体に刃を叩き込むがグリスは怯まない。
「不屈!」
刃を受けたまま、アナザーゼロノスの胸部に左のパイルで叩く。
「この!」
残像が見える程の速度で動いたアナザートライアルは、グリスの首を回し蹴りで打つ。
「不倒!」
『ビームモード!』
左右のツインブレイカーをビームモードにし、アナザートライアルへ銃口を押し当てて光弾を放つ。
「うがっ!」
三対一だというのにその気合で一歩も退かないグリス。
「心火を燃やして──ぶっ潰す!」
まだやれることを全身から発する気迫で見せるグリス。
「──ぶっ潰すか」
観戦していたティードがその言葉を繰り返した後、アナザーグリスを見た。
アナザーグリスは徐にグリスへと近付いていき、自分の顎下を掴む。
その奇行を意に介さず、二刀流のツインブレイカースクラッシュゼリーを装填し、先端にエネルギーを集束させて貫こうとする。
「それはお前の仲間も入っているのか?」
アナザーグリスが仮面を引き剥がす。その下の顔を見て、グリスの動きが止まった。
「ひ、げ……!」
アナザーグリスから出た氷室幻徳の顔。アナザーグリスの正体を知ってしまい、グリスは衝撃を受ける。
『ロォォグ』
その隙を狙い、アナザーグリスはアナザーウォッチを起動させ、グリスへと埋め込む。
「うあああああああ!」
グリスの変身は解除され、その姿がアナザーライダーへと変わっていく。
「おめでとう。これでお前も俺の道具だ」
ティードはそれを笑い、シンゴは変わり果てていくヒーローの姿に怯えた。
ティードとアナザーアクセルもとい劇場版のアナザーWの正体については、ジオウの設定を参考にして独自設定で書く予定です。
先にどちらが見たいですか?
-
IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
-
IFゲイツ、マジェスティ