仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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映画特典に因んだ話となっています。


アナザーRクウガ2000

 巨体のアナザークウガTから繰り出される渾身の突き。人の背丈程ある両刃剣が突き出される様は、大気を裂いていく錯覚が見えてしまうぐらいの威圧感があった。

 本物のクウガは、それに名を付けることは無かった。だが、この世界の虚構のクウガには設定として名付けられている。

 カラミティタイタン。災害、不幸というヒーローの技としてはネガティブな印象を与える技名。だが、受ける相手にしてみればこれ以上相応しい名は無いだろう。

 自分に向けて真っ直ぐ突き進んでくる刃など不幸以外の何ものでもない。

 四方を剣で閉ざされたビルドに逃げ込む場所は無い。唯一、頭上が開いているが、それこそ相手にとって想定内の動きであり、思う壺である。

 ビルドが跳び上がった瞬間、突き出された刃は軌道を、下から斬り上げるか、上から斬り落とすか、に変え空中で自由に動けないビルドを真っ二つに両断することだろう。

 コンマ単位で思考を働かせるビルド。絶体絶命の状況で冷静に物事を考えられる彼の精神は尋常ではない。

 しかし、どんなに高速で頭を回転させようとも時間は有限。

 アナザークウガTの大剣が周囲の剣群を突き破り、ビルドへ届く。

 

『ああ?』

 

 大剣から伝わってくる感触にアナザークウガTは違和感を覚えた。貫いたものではなく硬い何かに阻まれ、若干の痺れが手に伝わってくる。

 突かれた剣先。それを止めるのは人の形が浮き上がった真っ黒な鋳型。

 チン、という音の後に鋳型が前後に離れると、中から姿を変えたビルドが現れる。

 

 

『アンコントロールスイッチ! ブラックハザード!』

 

 左右の目は兎と戦車を模した複眼であるのは変わらない。しかし、その全身は真っ黒に染め上げられ、両肩に鋭角名なプロテクターが、頭部左右から伸びる角の様に尖ったヘッドパーツが追加されている。

 

『ヤベーイ!』

 

 その存在が持つ危険性を訴える様にドライバーが叫ぶ様に音声を鳴らす。

 

(間に合った……!)

 

 ビルドは黒い仮面の下に冷や汗を流す。ビルドドライバーに装着したアイテム──ハザードトリガーによってハザードフォームに変身。その過程で出現するパーツを生成する小型ファクトリー───ハザードライドビルダーを盾にすることで辛うじてアナザークウガTの攻撃を防ぐことが出来た。

 ビルドは胸に手を当てる。胸の奥に伝わっていく様な鈍痛がそこで起きている。完全に防ぎ切ることが出来ず、ビルダー越しにダメージを受けていた。本当に紙一重の防御であった。

 とはいえまだ状況は好転していない。ハザードフォームはビルドにとって諸刃の剣。すぐに別フォームに変える為にフルフルラビットタンクボトル取り出すが──

 

『ふん!』

「うおっ!」

 

 フルフルボトルを挿し込む前にアナザークウガTが両刃剣を横に振るう。咄嗟に身を低くして回避するが、しゃがんだビルドをアナザークウガTの逆関節の脚が蹴り飛ばす。

 

「ぐあっ!」

 

 ボールの様に地面と平行して飛ぶビルド。そのまま遠くへ行くのかと思いきや、乗り捨てられた乗用車に背中から衝突。乗用車はめり込んだビルドによって側面部分が半分以上ひしゃげてしまった。

 

「くっ……!」

 

 乗用車から離れるビルド。衝突したダメージよりも、アナザークウガTに蹴られたダメージの方が重かった。

 この時、ビルドはあることに気付く。

 

「──っ無い!」

 

 手の中からフルフルボトルが消えていた。アナザークウガTに蹴られた衝撃か、それとも乗用車にぶつかったときか、気付かない内に手から離れてしまった。

 すぐに探すが、少なくとも視界に収まる範囲では見つけられなかった。

 

「最悪だ……!」

 

 この事態は、ビルドにとって非常に不味い。

 ハザードトリガー内にはビルドの能力を向上させる強化剤が仕込まれている。それが浸透することで今の様な黒い姿へと変わるのだが、この強化剤には脳の特定部位を刺激し、闘争本能を強制的に引き出すという副作用がある。その闘争本能に呑まれてしまうと、理性を失い、破壊衝動に突き動かされて動くもの全てを壊す戦闘マシーンと化してしまう。

 それを制御する為のフルフルボトルなのだが、それが無い。

 

「やるしか、無いのか……!」

 

 幸い周囲にビルドとアナザークウガT以外の姿は無い。ビルドは何時自分が戦闘マシーンになるか分からない状況下でアナザークウガTと戦わなければならない。

 アナザークウガTが跳び上がる。両刃剣を構えての跳躍は、巨体に似つかわしくない身軽さがあった。

 上段からの振り下ろしが、ビルドを狙う。

 耳障りな金属音と共に乗用車が切断され、それだけでは止まらず、刃はコンクリートの地面を深々と埋め込み、それを中心にして一帯のコンクリートが割れ、隆起する。アナザークウガTの余りある腕力によるものであった。

 だが、破壊の後のアナザークウガTに喜びは無い。車を容易く切断しようとも、大地を剛力で割ろうとも、本当に斬りたかった筈のビルドの姿がそこに無ければ意味が無い。

 アナザークウガTの紫色の複眼が、消えたビルドを探そうとし、動いた時、視界の端に何かを捉えた。

 顔を捉えた方向へ向けようとすると、黒い弾丸がアナザークウガTの顔面に突き刺さる。

 弾丸の正体は、飛び込んでアナザークウガTの顔面を殴りつけるビルドであった。

 そのまま殴り抜けようとするビルド。しかし、アナザークウガTの頭部が数度動くだけで終わり、それ以上動かすことが出来なかった。

 ハザードフォームの、それも戦車の成分によって形成された左拳で打ち込んだというのに、アナザークウガTの首だけの力にハザードフォームの腕力が負けていた。

 ビルドが空中にいる内に、アナザークウガTは両刃剣をビルドへ突き出す。

 胴体を狙う剣先。ビルドは、剣が到達する前に左足でアナザークウガTの顔面を素早く蹴り付ける。

 ダメージを与えるのが目的では無い。左足に込められてある兎の力が開放され、アナザークウガTの顔面を足場にして、後方へ跳躍。アナザークウガTの大剣の間合いから離れる。

 そして、地面に着地すると同時にビルドドライバーのハンドルを勢い良く回す。

 

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン! Ready Go!』

 

 ハザードトリガーに充填されていた強化剤が装甲を伝わりビルドの両拳へと流れ込む。

 大量の強化剤が流れ込んだことで可視化され、ビルドの両手は黒いオーラを纏っているかの様な靄を放つ。

 同時にビルドは強烈な衝動に襲われる。見るもの全てを壊してしまいたいという普段ならば絶対に有り得ない衝動であった。

 

「おおおおおおおお!」

 

 持っていかれそうになる意識に気迫を込めた叫びで喝を入れると、ビルドはアナザークウガTを目掛けて跳ぶ。

 形がぶれる程の速度での跳び込み。アナザークウガTは回避出来ないと即座に判断した。

 跳躍と速度の青、索敵と狙撃の緑、力と防御力の紫。本物のクウガの様に各能力を伸ばすことが出来る一方で、その分落ちる能力もある。アナザークウガTになると重量が増すことで速度が下がる。

 今の様にビルドの動きに、アナザークウガTは一歩遅れてしまう。

 アナザークウガTは両刃剣を盾の様にして掲げる。幅も厚みもある大剣であり、盾としての機能は十分あった。

 

『ハザードアタック!』

 

 ビルドの拳が剣の腹に打ち込まれる。金属のたわむ様な音がするが、両刃剣は無事であった。しかし、ビルドの攻撃は一撃では終わらない。そこから一発、もう一発と続けて拳を打ち込み始める。

 左右の拳による連打。その手数の速さと多さは尋常では無く。二本しかない腕が十あるように見える。

 一瞬の間を置かずに突き出され続ける拳の豪打。一発ではびくともしなかったアナザークウガTの両刃剣に亀裂が生じる。

 アナザークウガTもそれを見て余裕が無いと分かったのか盾にした両刃剣を振り抜こうとする。

 だが、その判断は少し遅かった。

 振り抜かれる両刃剣。しかし、異様なまでに軽い。何故ならばビルドによって両刃剣は鍔本から砕かれていた。

 折れた剣と共にビルドも地面に降りる。剣先が地面に突き立つよりも早く片足が地面に接すると再び跳び、がら空きになったアナザークウガTの胴体に左拳を放つ。

 戦車の成分を含む拳から繰り出される砲弾の如き一撃。それがアナザークウガTの胴体に打ち込まれ、打ち込まれ──それだけであった。

 

「ぐっ……!」

 

 殴ったビルドの方が反動で呻く。アナザークウガTの方は、鎧の様な甲殻に拳の凹みが僅かに出来ただけ。

 

『軽いなぁ!』

 

 アナザークウガTは甲殻を貫けないビルドの非力さを嗤い、ビルドを掴み取る。そして、折れた両刃剣の柄を握る手でビルドを殴り飛ばした。

 

「ぐあああ!」

 

 顔面から胴体に掛けてを殴られるビルド。力と重量が加わった一撃は強烈であり、破壊衝動に乗っ取られそうであった思考が、白く塗り潰されそうになる。

 だが、逆に闘争本能に侵され様としていた頭の中がスッキリする。

 ビルドは殴り飛ばされながら状況を冷静に分析していた。アナザークウガTの甲殻を打ち砕くには力が足りない。今のままでは。

 ハザードフォームには更なる力を引き出す手段がある。だが、それを行えば間違いなくビルドは名が示す通り危険な存在と化す。

 

(けどここで全力で行かないと! ──全力?)

 

 その時、ビルドの中である仮説が生まれた。自分にとって大きな賭けであり、失敗すれば大きな被害を齎す。

 思考の途中で地面が見えてきたので、体勢を変え、片膝を突く様に着地するビルド。アナザークウガTに頭を垂れる様な形で止まる。

 

「──あの馬鹿の馬鹿が移ったのかもな」

 

 これからやること無謀に対し、自嘲しながらビルドの指先がハザードトリガーに伸びる。

 

『MAXハザードオン!』

 

 ハザードトリガー上部にあるスイッチを押し込み、ビルドドライバーのハンドルを回す。

 

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン! Ready Go!』

 

 ハザードトリガー内のタンクに貯蔵された強化剤が全身に巡り、ビルドを黒い靄で包み込む。靄によって光が遮られていき、ビルドの両眼が妖しく危険な輝きを放つ。

 

『オーバーフロー! ヤベーイ!』

 

 ハザードフォームの能力を強化する『オーバーフローモード』へ移行するビルド。通常時を上回るスペックを約束されるが、同時に敵味方の区別がつかなくなくなる暴走状態になることも約束される。

 黒いオーラを放つビルドを見て、アナザークウガTを畏怖するのではなく嘲った。

 

『馬鹿な真似を! 知っているぞ! そのフォームのリスクを! 時間が過ぎればお前はただ戦う為だけの生物兵器と化す!』

 

 ハザードフォームの暴走するリスクを把握しているアナザークウガT。それを聞き、ビルドは消えそうになる意識の中で言い放つ。

 

「俺たちを……消したいって、言う割には、良く勉強しているじゃ、ない。もしかして、実は、俺たちファンか?」

 

 ビルドの皮肉に、先程まで嗤いで揺らしていた巨体がピタリと止まる。ビルドは構わず言い続ける。

 

「ファン、だって、言うなら……ファンサービス、してやるよ……! ここから、先は、俺でも知らない、とっておきだ!」

 

 今にも暴れ狂いそうな腕を不屈の意思で押さえ込み、震える指先をハザードトリガーへと向け、意識が保てる限りスイッチを連打する。

 

『な、正気か!』

 

 敵すら驚く愚行とも凶行とも言える行為。それでもビルドは押し続ける。

 

『MAXMAXMAXハザードハザードMAXハザードハザードオンオンハザードオンMAXハザードMAXMAXMAXハザードオン!』

 

 連続して押し続けるせいで、音声も滅茶苦茶になり狂気を帯び始める。

 最後の意識を振り絞り、ビルドはハンドルを回す。

 

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』

『Ready Go! Ready Go! ReadyReady Go! Go! ReadyReady Go!  Go! Go!』 

『オーバーフロー! ヤベーイ! オーバーフロー! ヤベーイヤベーイヤベーイ! オーバーフローオーバーフローヤベーイ! オーバーオーバーオーバーオーバーヤベーイ! オーバーフロー! ヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤベーイ!』

 

 ハザードトリガーのメーターは限界に到達。イレギュラーな使用のせいでドライバーも誤作動して不具合を起こし、聞いているだけで不安に陥る様な音声を連呼する。

 やがて、ビルドの手がハンドルから離れ、だらりと下がる。手だけでは無い。全身から無駄な力が無くなり、脱力した体勢で佇む。

 その途端、全身から強化剤による黒い靄が噴き出した。輪郭がぼやけてしまう程の量であり、今のビルドの異常さを視覚に訴えてくる。

 野生動物などとは違う無機質な威圧感。無駄を一切削ぎ落した感情の無い殺意がアナザークウガTへ向けられる。

 

『その程度で──』

 

 そこから先の言葉を吐くことは無かった。瞬間移動と錯覚させる速度で動いたビルドの蹴りがアナザークウガTの胸部中央へ打たれたせいで。

 

『がっ!』

 

 凹ます程度が限界であったビルドが、今度は甲殻を砕き、アナザークウガTに初めてダメージを与える。

 受けたアナザークウガTも想像以上の威力に呻く。

 

『調子に──』

 

 アナザークウガTがビルドに腕を振るおうとするが、その一動作の間にビルドは五回動く。

 拳による左右の連打。それによって砕かれる部位は広がり、柔らかな内部が見えると爪先を捻じ込む様に蹴り込む。

 アナザークウガTが黄土色の体液は胸部から噴出させる。出来た傷口にビルドは手刀を刺し込み、内部に入ると掴み、引き千切る。

 

『がああああ!』

 

 アナザークウガTが絶叫を上げた。ビルドの一切の情けを排した攻撃。弱まった箇所を徹底的に叩くその冷徹な様は、彼が暴走状態に入ったことを意味する。

 ビルドを振り払う為に腕を振るうアナザークウガTであったが、既にビルドの姿は無い。

 アナザークウガTの複眼がビルドを探す。探すが──

 

『何だと……!』

 

 複眼でビルドを捉えたと思えば、既に移動しており、名残の様に黒い靄が残る。視界に捉えようとする度にビルドは高速で移動し続けて靄を残す。気付けばアナザークウガTを囲む様に人型の靄たちが並んでいた。

 高速移動と残存するハザードの強化剤。それを繰り返すことによって疑似的な分身を生み出し、アナザークウガTを攪乱する。

 アナザークウガPの力で本体を探すことを一瞬考えるがすぐに却下する。五感を極限まで高めることで索敵する能力だが、今の彼は酷く負傷していた。その状態で変身すれば今の痛みが何十、何百倍にまで増幅する。そうなればまともに戦えない。

 足元から脳髄に突き抜けていく様な痛みが昇る。恐らくはビルドがアナザークウガTの脚を蹴り付けたのだろうが、確認する前にビルドは移動しており、黒い靄が残っているだけ。

 次の衝撃は背中。背甲が割れ、中に収められていた羽も損傷する。急いで振り返ると、脇腹に激痛。それにより動きが止まったアナザークウガTの腕に強烈な打撃が襲う。

 一つ動けば先手を打たれ追い込まれていくアナザークウガT。このままではビルドを捕捉することもままならない状態で一方的に攻撃される。

 

『図に乗るなよ……!』

 

 アナザークウガTの色が紫から青へ変わる。

 変化した脚を発条にしてアナザークウガDは跳び上がった。

 これ以上の攻撃を受けない為に上空へと逃れるアナザークウガDであったが──

 

『Ready Go!』

 

 頭上から聞こえてくる筈の無い音声。見上げたアナザークウガDが目にしたのは、アナザークウガDの動きを読んで先回りしていたビルドが、踵を振り上げる姿であった。

 

『ハザードフィニッシュ!』

 

 アナザークウガDの額に叩き込まれるビルドの踵。跳び上がった時以上の速度で地面に落下する。

 受け身を取ることも出来ず、地面に叩き付けられるアナザークウガD。アスファルトは陥没し、車や標識などが激しく揺れる。

 

『あ、ぐああ……』

 

 アナザークウガDは元の赤色に戻っていた。踵を打ち込まれた額が割れ、体液が流れ出ている。

 ダメージは大きくすぐに立ち上がろうとするが、足に力が入らず四つん這いの体勢となってしまうアナザークウガ。

 

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』

 

 死の足音にしては騒がしい音声。

 

『Ready Go!』

 

 死を迎え入れる者に送るには陽気過ぎる掛け声。

 

『ハザードフィニッシュ!』

 

 それは文字通り、終わりを齎す危険な一撃。

 全身に纏っていた黒い靄がビルドの右足に収束し、四つん這いになっているアナザークウガへ向けて横蹴りを放つ。

 アナザークウガの巨体が何度も地面を跳ね、襤褸屑の様に転がっていく。それがアナザークウガの何分の一しかない大きさから放たれたものだとは誰も信じないだろう。

 アナザークウガがどうなるかを最後まで見ずに、容赦なく追撃しようとするビルドであったが、その動きが突然鈍くなる。

 ハザードトリガーのメーターが最低値を示すと、纏って筈の強化剤が消え、浸透していた物も尽き、真っ黒なハザードフォームから元の赤と青のラビットタンクフォームへ戻るビルド。

 その場で崩れ落ちるが、辛うじて膝を突く。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……何とか、なった……」

 

 ビルに背を預け様にして沈黙しているアナザークウガを見て、ビルドは疲労で途切れ途切れなりながらも喋る。

 一か八かの賭け。それはハザードトリガーに貯蔵された強化剤を全て使い切ることによる強制的なフォーム解除であった。

 オーバーフローモードになることで強化剤を短時間で大量に消耗させ、ハザードトリガー内の強化剤を空にしたのだ。

 これは本当に賭けであった。強化剤がどれだけ持つのか分からないし、戦兎にどれだけ負荷が掛かるかも分からない。下手をすれば満身創痍の状態でアナザークウガと戦うことになっていたかもしれない。

 しかし、ビルドはその賭けに勝った。アナザークウガを倒せたし、周囲の被害も最小と言える。とはいえ失った物もある。

 ビルドはドライバーからハザードトリガーを引き抜く。強化剤を完全に使い切ったせいでもうハザードトリガーは使用出来ない。そうなるとフルフルボトルも使用出来なくなり、現時点での最強フォームになれなくなる。

 

「まあ、あれを倒した代償だと思えば──」

 

 再びアナザークウガを見て、ビルドの言葉が途切れた。

 沈黙するアナザークウガ。ビルドの記憶では黒を帯びた赤であった筈。なのに今は灰色となっている。

 ピシリ、とアナザークウガの額に亀裂が生じる。その亀裂は伸びていき、股までいった。

 

『おおおおおおおおおお!』

 

 咆哮と共に灰色のアナザークウガが左右に割れる。すると、中から真っ白なアナザークウガが現れた。

 

「脱皮っ!?」

 

 そうとしか言えない現象。ビルドが驚愕する中で、アナザークウガの色が白から赤へと変わっていく。

 しかし、変化はそれだけではない。赤い甲殻を縁取る様に金色の色が足され、両肩から一本ずつ新たな腕が生え出す。各腕には腕輪が巻かれ、それぞれ赤、青、緑、紫の石が埋め込まれていた。

 腹部の霊石も金色となり、右足の脛部分に金色のアンクレットが追加される。

 本物のクウガが死に瀕した際、そこから蘇り新たな力を得た。アナザークウガも同様に死の淵から新たな力を持って復活する。

 

『礼を言おう。お前のおかげでクウガの力の使い方が、大分理解できた』

 

 強化されたアナザークウガ──アナザー(ライジング)クウガは、血の色に似た目で疲労困憊のビルドを捉える。二度と見逃さない様に。

 




書きたくなったので書きました。
ジオウの話なのにジオウが出ないのは映画版だからという理由でお願いします。

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