仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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アナザーグリス2017&アナザーローグ2017

 ゲイツとツクヨミの応急処置が施された二体のタイムマジーン。時間跳躍と短時間の飛行、戦闘は可能であったが、あくまで応急処置なので何時壊れるか分からない為、負担を最小限にするのを目的として侑斗が操縦するゼロライナーの屋根にタイムマジーンがロボモードでしがみつき、その状態で2000年から2018年へと帰還する。

 2000年にはかなり長い時間滞在していたが、時間跳躍すれば出発してすぐ後の時間に戻ることが出来る。

 2018年に戻ってきたソウゴたちは、変わらず怪人たちに蹂躙されていく街の光景に心を痛める。

 その時、ゼロライナーが突如として軌道を急転換し、タイムマジーン内のソウゴらは激しく揺さぶられる。

 

「どうしたの!?」

「来たぞ!」

「来た? あっ!」

 

 外部をモニターで確認すると、ゼロライナーの後方から追い掛けてくる物体が存在した。異形の列車アナザーゼロライナーである。

 ゼロライナーが現れることを予期し、待ち伏せをしていたらしく、背後から迫るアナザーゼロライナーは、ゼロライナーを墜落させる為にその長く伸びた両角をドリルの様に回転させる。

 操縦しているのは、恐らくアナザーゼロノスと化したアタルと思われた。

 

「アタル……」

 

 ゼロライナーに乗っているフータロスは、悔しそうにその名を呟く。

 シンゴを救う為に、フータロスはアタルを利用していると言っていい。だが、ティードの目的の為に兄を失い、それ故に孤独が付き纏う人生を送ってきたアタルに対し、フータロスも同情し不憫に思っている。加えて記憶の中だけだが、何度も繰り返して契約し共に行動した相手、自然と愛着も湧く。

 

「絶対戻してやるからな……!」

 

 静かに決意するフータロスであったが、ゼロライナーが急旋回したことで壁へ叩き付けられた。

 

「あいったー!」

 

 額を強く打ち付けたフータロス。痛む額を押さえながら操縦席へ文句を言いに行く。

 

「どんな運転してんだ! 下手くそ!」

「うるせぇ! 集中してんだから横から口出しすんな!」

「ちょっと落ち着いてくれ」

 

 怒鳴り込んでくるフータロス。マシンゼロホーンに跨りながらアナザーゼロライナーの追撃を必死になって躱している侑斗が怒鳴り返す。デネブはそれを宥めようとする。

 

「くそっ! 離れねぇ!」

 

 モニターに映し出されるアナザーゼロライナー。左右に移動しようともぴったりと後ろに張り付いて来る。

 速度を出して引き離そうにもタイムマジーンを二体も運んでいるので最高速度に達しない。

 アナザーゼロライナーが、角のドリルを向けて突っ込んでくるのが見える。

 

「全員しっかり掴まっていろ!」

 

 ゼロライナーが走るレールが捩じれ、螺旋を描く様な形で置かれていく。その上を走ることで、ゼロライナーは列車なのにバレルロールを敢行する。

 ゼロライナーの咄嗟の動きにアナザーゼロライナーは反応出来ず、突進は空振りし螺旋状のレールの中心を走らされることとなる。

 バレルロール途中のゼロライナーの下をアナザーゼロライナーが通過していく形となるが、これは侑斗たちにとって反撃のチャンス。

 アナザーゼロライナーは真上を攻撃する術が無い。ゼロライナーもまた真上──この状態では真下を攻撃する術が無い。だが、今のゼロライナーには二体のタイムマジーンが載せられている。

 

「今だぁ!」

 

 ソウゴのタイムマジーンとゲイツのタイムマジーンが、真下に向けて片腕を伸ばす。そこから放たれるレーザーとミサイル。撃ち出された兵器が生物染みた外観を持つアナザーゼロライナーの装甲を焼き、爆破させていく。

 

「おいおいおい! 中にアタルが乗っているんだから手加減してくれよなぁ!」

 

 レーザーとミサイルを連発され、目の前で破壊されていくアナザーゼロライナーの姿にフータロスは不安そうな声を上げる。

 

「あいつらだって手加減するだろう」

「──そうか。そうだよな……あっ」

「あっ?」

「侑斗! ゼロライナーの偽物が!」

 

 モニターを確認すると、アナザーゼロライナーが蛇行し始め車体を激しく左右に揺さぶり始める。

 操縦の自由が効かなくなったのかかなり危うい運転であった。

 誰もがそう思った途端、アナザーゼロライナーの車輪の片側が浮き上がり、車体が斜めになる。

 そこから上手く操縦すれば恐らくは立て直すことが出来ただろう。しかし、操縦しているのは、今まで自転車しか乗ったことがないアタルである。アナザーゼロノスにされたことで最低限の操縦知識を得られたが経験は皆無。その為、車体が傾いた時点で軽くパニックを起こし、誤った操縦をしてしまった。

 その結果、アナザーゼロライナーの車体は更に傾き、レールの上から外れる。

 誰もがその光景を絶句して見ていた。牽制目的で放った攻撃が、ここまでの事態を引き起こすとは全く思ってもみなかった。幸いにも道路のど真ん中に落下しているので一般市民の被害は無い。代わりに道路中央で跋扈している怪人たちが頭上から落下してきたアナザーゼロライナーの犠牲となった。

 

「アタルー!」

 

 地面に落ちて横転するアナザーゼロライナーを見て正気に戻ったフータロスが、侑斗から強引に操縦を奪うと地面目掛けてゼロライナーを走らせる。

 

「おい、馬鹿! 危ないことするな!」

 

 殆ど落下に近い形でアナザーゼロライナーの下へ向かわされるゼロライナー。それに振り回されるタイムマジーンたちは必死にしがみついている。

 

「こ、の!」

 

 フータロスから無理矢理操縦を取り戻す。その時には目の前に地面が迫っていた。急いで急降下するゼロライナーを急上昇させようとする侑斗。先頭車両が上向きになる。

 が、僅かに時間が足らず、頭から地面に突っ込むことは避けられがゼロライナーの車軸部分が地面に接触し衝撃でゼロライナー全体が跳ね、屋根からタイムマジーンが跳ね飛んでしまった。

 波打つ車体を上手くコントロールし、辛うじて停車することが出来たゼロライナー。ソウゴらのタイムマジーンは地面に横たわっている。

 無茶な操縦をしたフータロスに文句を言おうとしたが、言う前にゼロライナーから降りてしまう。

 

「ああ、もう! 行くぞ! デネブ!」

「分かった!」

 

 フータロスを放っておくことも出来ず、侑斗自身もアタルの安否が気になっていたので後を追う。

 侑斗たちがゼロライナーから降りるとソウゴたちもタイムマジーンから降りていた。ソウゴ、ゲイツ、ツクヨミは落ちた時に打ったのか頭や腕を擦っている。

 

「アタルは?」

 

 頭を擦りながらソウゴはアタルの無事を確認する。侑斗はアナザーゼロライナーの方を見る。派手に横転しているが、アナザーライダーに変身しているアタルなら恐らくは無事だと思われる。

 

「アタルー!」

 

 アナザーゼロライナーの前でフータロスが叫ぶ。無事かどうかを確認する為に。いくら中身がアタルであったもアナザーライダーに変身している今、洗脳状態であり安易な行動は自らの危険を招く。しかし、フータロスは危険を承知の上でアタルと呼び掛け続けた。

 ガタン、という音が鳴り、上向きになっているアナザーゼロライナーの扉が開く。

 

「無事か! アタル!」

 

 フータロスの心配する声に対する返事は、扉から飛び出してきた光矢という無慈悲なものであった。

 

「うあっ!」

 

 光矢がフータロスに命中し、彼は地面に仰向きなって倒れる。

 扉から伸びた手がアナザーゼロノスの武器を握っており、武器の先端をフータロスに向け続けている。

 

「フータロス!」

 

 ソウゴたちがすぐに彼へと駆け寄ると、それを待っていたかの様に光矢が連射された。しかし、光矢はソウゴたちには命中せず、その手前の地面へ着弾し、地面の破片や土煙を撒き上げる。

 土煙によって視界が閉ざされてしまうソウゴたち。何時攻撃されるか分からずに身構える。だが、予想に反して追撃が来なかった。

 漂う土煙が風によって吹き消され、視界が開く。アナザーゼロライナーの方を見ると扉から出ていたアナザーゼロノスの腕が消えていた。

 何処かへ移動したのか、再びアナザーゼロライナーの中へと戻ったのか二つの可能性が出てくる。

 アナザーゼロノスに対し、ソウゴとゲイツはジクウドライバーとライドウォッチを構える。侑斗もまたゼロノスベルトとゼロノスカードを取り出した。

 そのままいざ変身かと思いきや、ソウゴとゲイツはライドウォッチを構えたまま動かない。

 

「──おい! ボーっとすんな!」

 

 敵が近くにいるかもしれないのに緊張感の無い態度の二人に侑斗が声を飛ばす。すると、二人は困惑した表情で侑斗の方を見た。

 

「俺たち……何をしてたんだっけ?」

「どうしてライドウォッチを取り出しているんだ……?」

 

 二人はアナザーゼロライナーの特殊能力である記憶の消去の影響を受けていた。少しの間、アナザーゼロノスの姿が見えなくなると影響を及ぼされるらしい。

 被害は二人だけ出ない。

 銃モードにしたファイズフォンXを構えるツクヨミ。指先の銃口を向けるデネブ。

 

「……あれ? 何で私、構えてるの?」

「俺、ここで何を?」

 

 ソウゴたちと同じくアナザーゼロノスの記憶を失っている。

 何かをしなければならないという使命感は有った。だが、肝心の『何か』が分からず頭の中が混乱するソウゴたち。

 ゼロノスカードの力でアナザーゼロノスの能力に干渉されない侑斗だけがアナザーゼロノスの能力の厄介さを痛感させられていた。

 そして、アナザーゼロノスはソウゴたちの隙を逃さない。隠れている建物の影から狙い、光矢を放つ。

 

「伏せろ!」

 

 侑斗はソウゴとゲイツに覆い被さる様にして倒れ込む。侑斗の行動といきなり攻撃されたことに驚く二人。

 そして、もう一つ彼らを驚かせることが起きていた。

 

「くっ……!」

「侑斗!」

 

 侑斗の袖が裂け、そこから赤い血が流れ出ている。二人を庇った時に光矢が右腕を掠り、腕を負傷していた。侑斗の傷を見て、慌ててデネブが介抱しようとするが侑斗は左手を突き出してそれを制する。

 

「今から言うことだけ覚えておけ。すぐにここから離れろ。あのアナザーライダーの相手は俺がする」

 

 一人残り、アナザーゼロノス相手をすることを一方的に告げる。

 

「アナザーライダー……そうだ! アナザーライダーが居て、それで……」

 

 存在することは知っているのに、それ以上のことが思い出せない。

 

「そうなっているから俺が相手するしかないだろ。全員、早く行け!」

 

 ソウゴは一瞬だけ黙ったが、侑斗の決断を無下にすることが出来ず、後ろ髪を引かれる思いながらもそれを尊重する。

 

「──分かった。後で絶対会おう! ゲイツ、ツクヨミ、行くよ!」

 

 ソウゴが城を目指して走り出す。ゲイツ、ツクヨミもソウゴと似た様な心境なのが表情から分かるが、後を侑斗に任せてソウゴに続く。

 タイムマジーンをこの場に置いて行くことは痛い戦力低下だが、アナザーゼロノスが大人しく搭乗させる筈が無く、結果的に見れば正しい判断だと言える。それにいざとなれば遠隔操作で呼び寄せることも出来る。尤も、アナザーゼロノスによって破壊されなかったならばの話だが。

 

「侑斗……」

「デネブ、お前も行け。ここにいたら足手纏いだ」

 

 厳しい言葉でデネブを突き放す。しかし、それが思いやりの裏返しであることをデネブは理解していた。彼もまた一緒に残って戦いたいと思っていたが、侑斗が言う通りアナザーゼロノスの能力に対抗出来ない自分は足手纏いにしかならない。自分のせいで侑斗が危機に陥らない様にこの場は引く。

 

「侑斗、無事でいてくれ!」

「──分かったよ。あいつらのことを頼んだぞ」

 

 デネブもまたソウゴたちの後を追う。

 アナザーゼロノスの妨害を予想していた侑斗であったが、予想に反して沈黙を保っていた。

 

「──で? 何でお前は残ってるんだよ」

「うるせぇな。アタルも怪我人も放っておけるか」

「こんな傷、大したことない。というかお前は影響を受けてないのかよ?」

「おお。どういう訳かな」

 

 フータロスはアナザーゼロノスの存在を認識している。アタルと契約していた為か、それとも何周もループした記憶を保持している為か、理由は定かではない。

 

「常磐たちに付いて行かなくいいのか? シンゴを助けるのが目的だろ?」

「違う。俺の目的はシンゴとアタルの二人を助けることだ」

 

 どちらか一方を救うだけではダメなのだ。兄弟二人を揃って助けなければ意味が無い。

 

「──まあいい」

 

 それ以上何かを言うことはせず、侑斗はどこかに隠れているアナザーゼロノスに大声を浴びせる。

 

「隠れていても無駄だ! 俺にはお前の力は効かない!」

『知ってるよ。ゼロノスカードのおかげだろ?』

 

 アナザーゼロノスは姿を見せず、声だけを発する。声に妙な効果が加えられており、そのせいで位置が特定出来ない。

 

「ふん。随分と詳しいみたいだな」

『ああ。仮面ライダーの大ファンだからね。よーく知っているよ。ゼロノスも好きなライダーだ。変身の度に起こるリスクには心底同情したね』

 

 リスクという言葉に、侑斗は顔を顰める。

 

『誰かのために自分の存在を削って戦うヒーロー! 凄い! カッコいい! ……でもさぁ、もういいんじゃないかな?』

「何が言いたいんだよ?」

『何の縁も無いこの世界を元に戻す為に体を張るなんて馬鹿らしいよ。そんなことよりもこっち側に付けばいい。そうすればもう誰かに忘れられることなんて無くなる』

「おい。アタルの奴、何を言って──」

「黙ってろ」

「──はい」

 

 ゼロノスの変身のリスクを知らないフータロスが尋ねてくるが、侑斗は一蹴する。その真剣な態度に食い下がることが出来ず、言われた通りに黙る。

 戦うのではなく自分の陣営に勧誘してくるのは侑斗にとっては予想外であった。侑斗が黙っているとアナザーゼロノスは勝手に喋り続ける。

 

『皆、桜井侑斗のことを知っているんだ。ここに居れば孤独じゃなくなる。ゼロノスのリスクを怖がる心配も無い。だから──』

「それがどうした? 言いたいことはそれだけか? なら話は終わりだ」

 

 侑斗は一笑してアナザーゼロノスの誘いを途中で蹴る。

 

『ああ?』

「話は終わりだっていったんだ。そんなつまらない話にいつまでも耳を貸すと思っているのか?」

 

 アナザーゼロノスの揺さぶり如きでは侑斗の心に波紋一つ立てることなど出来なかった。

 侑斗はゼロノスへ変身する度に決意を試される。自分の存在を懸けて戦う決意を。

 何度も歯を食い縛る様な思いをしながらも侑斗は逃げずに自分の選択を受け入れて戦ってきた。

 そんな侑斗にしてみれば、アナザーゼロノスの誘いなど戯言。変身への決意を鈍らせる障害にもならない。

 

『何でだよ! 辛かったら逃げればいいだろ!? 嫌なら逃げればいいだろ!? 報われないことに何の意味があるんだよ!?』

 

 アナザーライダーと化したことで負の感情が増幅されたのか喚き出すアナザーゼロノスであったが、侑斗やフータロスの耳には泣き叫ぶ子供の声にしか聞こえない。

 

「確かに意味なんて無いかもな。──でも、ここで逃げたらお前を助けられない」

 

 侑斗はゼロノスカードをベルトに装填する。

 

「変身」

『ALTAIR FORM』

 

 緑の装甲を纏い、二頭の牛が顔面にあるレールを走って仮面へと変形し、侑斗は仮面ライダーゼロノスと化す。

 

『助ける……助けるだって……?』

 

 建物の影からフラフラとした足取りでアナザーゼロノスが出て来た。全身から凶器の様な殺気を放ちながら。

 

「仮面ライダーなんて虚構の存在なんだ……! どんなに願っても兄さんを助けてくれなかった! 嘘だ! 嘘なんだ!」

 

 アタルの幼少期の孤独は仮面ライダーによって救われた。しかし、成長していくにつれて仮面ライダーは作品であり虚構であることを受け入れる様になる。

 受け入れた筈なのに今になって本物が目の前に現れた。

 

「どうしてもっと早く来てくれなかったんだ……! そうすれば兄さんは!」

 

 理不尽な怒りをアナザーゼロノスが吐き出す。アナザーライダーの影響で精神が不安になりつつある。

 

「ああ。遅くなった。だから絶対に救ってみせる。お前も、お前の兄さんも」

 

 ゼロノスはアナザーゼロノスの怒りを受け止め、その上で誓う。必ず救うと。

 

「俺たちがな」

「う……うあああああああああああああ!」

 

 何が正しいのか間違っているのか、何を信じるべきか分からなくなり、混乱するアナザーゼロノスは、体が突き動かされるがままゼロノスに斬りかかる。

 振り下ろされた斬撃を、ゼロノスはゼロガッシャーで防ぐ。

 本物と偽物との最後の戦いが始まる。

 

 

 ◇

 

 

 アナザーグリスとアナザーローグの拳を同時に胸部へ受けたクローズ。そのまま殴り飛ばされるが、転倒はせず両足でしっかりと地面に着地した。

 戦う相手が洗脳状態にある仲間だと知ったクローズ。攻撃にダメージが気にならなくなる程の怒りが胸中に渦巻く。

 指先がめり込む程拳を握り、込めた力が強過ぎるせいでクローズの体が震える。

 そんなクローズの怒りなど気にする様子も無く、アナザーグリスたちは機械の様に淡々と攻撃を開始する。

 アナザーグリスの両肩のパイプから流れ出る黒い液体。大量に放出されたそれは、棒立ちになっているクローズの足元まで一瞬で広がった。自分たちにとって有利なフィールドを創り出すアナザーグリス。しかし、クローズは特に意を介した様子は無く徐にアナザーグリスたちの方を見る。

 アナザーグリスの隣に立っていた筈のアナザーローグの姿が無い。周囲に身を隠す様な場所は無いというのに。

 クローズが一歩踏み出す。すると、目の前に黒い水柱が立つとその中からアナザーローグが飛び出す。

 黒い液体はおよそ身を隠す程溜まっている筈が無いのに、沼を泳ぐ鰐の如く音と気配を殺してクローズを強襲する。

 左右に大きく開かれたアナザーローグの脚がクローズを挟む。その両脚から発生する鰐の顎を模したエネルギー。牙を持つそれがクローズを締め上げる。

 攻撃はそれだけに終わらず、挟み込む鰐の顎が高速で回転し始めた。鰐が獲物を仕留める為に行うデスロールがクローズを襲う。

 クローズの体を捻じ切り、黒い沼へと引きずり込もうとする。が──

 

「効か、ねえぞ……!」

 

 クローズはその場でアナザーローグの攻撃に耐えていた。一歩も動かず身を削る様な技を受けても怯まない。

 アナザーローグの攻撃を受け、クローズの怒りは更に高まっていく。ローグだとしてもこの一撃に重みを感じない。ローグの一撃一撃には自ら命を込めて放つ重さがあった。

 中身が一海だとしてこの一撃に響くものを感じない。心の火を燃やして放つ心火の一撃とは程遠い性能だけの中身の無い攻撃であった。

 

「こんなの効かねぇぇぇぇぇ!」

 

 クローズはデスロールを受けながらドライバーのハンドルを怒りのまま回す。クローズの怒りに応じる様にドラゴンフルボトルの力は活性化し、溢れる蒼炎となってクローズの全身から噴き上げる。

 

「おおおおおおおおお!」

 

 蒼炎とクローズの力によってアナザーローグの両脚が外される。そのまま上空に舞うアナザーローグ。地面に着地するタイミングを狙い──

 

『Ready Go!』

『ドラゴニックフィニッシュ!』

 

 蒼炎はドラゴンと化し、そのドラゴンを纏わせて右ストレートが、アナザーローグの胸部へと炸裂する。

 最も装甲が厚い筈のアナザーローグの胸部に亀裂が生じる程の一撃。捻じり込む様にして打ち出された拳が、アナザーローグを弾丸の様に飛ばし立っているアナザーグリスを巻き添えにする。

 

「お前らっ!」

 

 のっそり立ち上がるアナザーグリスたちに、クローズは怒声を浴びせた。

 

「何だその情けねぇ姿は! あんな訳の分からない奴にいい様に使われやがって!」

 

 クローズは怒っていた。二人を操るティードにではなく、まんまと操り人形と化している一海と幻徳にである。

 尊厳を奪われ、力も仮初。肩を並べて戦ってきたクローズには、戦う為に操られる二人が心底憐れで、情けなく映る。

 

「気合いが足んねぇんだよ! 気合いが!」

 

 飛び出す根性論。戦兎が居ればその非合理的で無茶苦茶な台詞に呆れていただろう。

 

「今から俺が気合いを入れてやるよ!」

 

 クローズが取り出すのは、ブラスナックル型のアイテム。拳の形に似た橙色の打撃ユニットに、構える為のグリップが付けられている。

 クローズマグマナックル──それがこのアイテムの名である。通常時でも見た目通り打撃武器として使用出来るが、これの本当の使用方法はそれではない。

 真っ黒なフルボトル──ドラゴンマグマフルボトルを振ってクローズマグマナックルに装填。

 

『ボトルバーン!』

 

 グリップ部分を前に倒すと、ドライバーのクローズドラゴンを抜き、マグマナックルを挿す。

 

『クローズマグマ!』

 

 挿し込むと同時に打撃ユニットが左右に開き、装填されていたドラゴンマグマフルボトルが露出し、黒いフルボトルに橙色の光が宿る。

 クローズがハンドルを回すと背後にマグマナックルに似た坩堝型のビルダーが出現する。

 

『Are You Ready?』

「変身!」

 

 クローズの頭上にビルダー内で煮えたぎる高熱の橙色の流体が浴びせられる。マグマにも溶鉄にも見て取れるそれは、足元に広がっていたアナザーグリスの黒い液体を瞬時に燃やして尽くし、冷えて黒く変色する。

 

『極熱筋肉!』

 

 冷え固まった流体を弾き飛ばし、灼熱のドラゴンが新生する。

 

『クローズマグマ! アーチャチャチャチャチャ チャチャチャチャアチャー!』

 

 高熱を発し続ける灼熱の肉体と黒曜石を思わせる黒い装甲。両肩、両腕、両脚、胸部、額に施されるドラゴンの意匠。背中に付けられた一対の翼。動く度に空気が燃え上がる程の熱量を見せる極熱のドラゴン──クローズマグマ。

 

「力が漲る……!」

 

 立つだけで地面が赤熱化し、融解し始める。

 

「魂が燃える……!」

 

 紅蓮の炎がプロミネンスの様にクローズマグマの体表を走る。

 

「俺のマグマが迸る……!」

 

 クローズマグマの気迫に応じて橙色のボディが更なる熱気を放つ。

 その熱気と気迫に、意識を奪われている筈のアナザーグリスとアナザーローグは一歩後退する。アナザーライダーの力そのものがクローズマグマを忌避している様に見える。もし、仮にこれが本物のグリスとローグなら下がることは無かっただろう。

 

「おおおおおおおおお!」

 

 クローズマグマは背部の翼で飛翔する。低空を高速で駆けるクローズマグマ。アナザーグリスは、黒い液体を操り何重もの防壁を作り出す。

 

「止まるかぁぁぁ!」

 

 クローズマグマを減速させるどころか、触れる前にクローズマグマの熱によって防壁は蒸発してしまう。

 最高速度を維持したまま、二人に接近するとすれ違い様にアナザーグリスへ拳を打ち込む。

 アナザーグリスはその場で一回転をし、背中から地面に落ちる。腹部を殴られており、その箇所は拳の形に凹みつつ赤熱化していた。

 そのまま空中で反転し、アナザーローグを目指すクローズマグマ。

 アナザーローグはベルトの折れたレンチを押し、力を充填させるとタイミングを見計らって下から蹴り上げるサマーソルトキックをクローズマグマに繰り出した。

 クローズマグマの鳩尾にアナザーローグの爪先が刺さる。だが、それを受け止めたままクローズマグマはアナザーローグの顔面を殴りつけた。

 地面に一回バウンドする勢いで打ち落とされるアナザーローグ。

 圧倒的な力で二人を一撃で立てなくする。

 しかし、これで終わりでは無い。

 クローズマグマの本当の『気合いの入れ方』はここから始まる。

 二人の肩を掴み、無理矢理立たせるクローズマグマ。

 

「アナザーライダーとか何とか言う訳の分かんねぇ姿にされやがって……!」

 

 途端、アナザーローグとアナザーグリスの額に己の額を打ち付ける。

 

「お前らは! こんな姿にされて! 腹が立たねぇのかよ!」

 

 容赦無く額を打ち続けるクローズマグマ。アナザーグリスたちも抵抗して拳を放つが、それを受けたまま頭突きを繰り返す。

 

「お前らはこんなんじゃねぇだろ! こんな仮面ライダー擬きじゃねぇだろうが!」

 

 次第にアナザーグリスたちの抵抗が弱まっていく。

 

「愛と平和の為に戦う本物の仮面ライダーだろうがっ!」

 

 火の粉が散る頭突き。アナザーグリスたちの仮面に亀裂が生じる。

 

「いい加減目を覚ませ! この馬鹿!」

 

 何度目かの頭突きを放とうとしたとき、アナザーグリスとアナザーローグの手がそれを受け止める。

 

「誰が、馬鹿、だ! 馬鹿……!」

「お前に、馬鹿と、言われたら、お終い、だ!」

 

 アナザーライダーから発せられるのは間違いなく理性の宿った声。

 

「やっと正気に戻ったのかよ……!」

「おかげ、さまでな……!」

「くそ、頭が、ガンガン、する……!」

 

 一時的に正気へ戻る二人。しかし、すぐにアナザーライダーの力が二人の意識を取り込もうとする。二人は残された意識の中でアナザーライダーを追い出す方法を考え、一つの答えを導き出す。

 それは、自らがアナザーライダーではなく仮面ライダーであることの証明。

 

『スクラッシュドライバー!』

 

 取り出すはスクラッシュドライバー。それを装着し、ロボットスクラッシュゼリーとクロコダイルクラックフルボトルをセットする。

 

『変、身!』

 

 アナザーライダーから仮面ライダーへの再変身。似て非なる力が、二人の体内にあるアナザーウォッチと反発しあう。

 

「ぐああああああああああ!」

「うおおおおおおおおおお!」

 

 当然ながらその反発は痛みとなって二人を襲う。だが、二人はその痛みに屈せず、変身を続行する。

 

『潰れる! 流れる! 溢れ出る! ロボットイングリス! ブルルルァァァァ!!』

『割れる! 食われる! 砕け散る! クロコダイルインローグ! オーラァ!』

 

 姿を変える二人。すると、それに押し出される様にアナザーローグとアナザーグリスが背部から弾き出される。

 何かを媒体にして変身するアナザーライダーだが、どうやら二人の変身した際に発生したエネルギーを利用し、形を維持している様子であった。

 一方で無理矢理アナザーライダーの変身を解除したグリスとローグは、疲労した様に片膝を突いている。

 

「おい! 大丈夫か!」

「大丈夫だから喚くな……頭に響く……」

「まだ頭がズキズキする……この石頭め」

 

 強制解除よりも頭突きのダメージが残っていると言う二人。だが、そんなことを言えるだけまだ余裕が残っていると言えた。

 

「ううう……」

「あああ……」

 

 のっそりと立ち上がるアナザーグリスとアナザーローグ。その口からは理性を感じさせない獣の唸り声が発せられる。

 

「龍我……お前は戦兎の所へ行け……」

「俺たちはこいつの後始末をする……」

 

 二人は立ち上がり、グリスはアナザーローグを睨み、ローグはアナザーグリスを睨む。

 

「でもよ──」

「理由はどうあれ、アレを生み出したのは俺たちだ」

「アレを倒す責任は俺たちにある」

 

 二人の意思の固さが伝わってくる。悪党に利用され、手駒として操られた屈辱。二人の腹の中でその怒りが渦巻いているのが分かった。

 

「分かった! 後でちゃんと来いよ!」

 

 クローズマグマはビルドが向かったティードの城目掛けて飛んで行く。

 残されたグリスとローグ。自らを取り戻した二人は、偽者たちに告げる。

 

「心火を燃やして──ぶっ潰す!」

「大義の為の犠牲となれ……!」

 

 




各キャラクターに見せ場を作りたいせいでもう少し話が長くなりそうです。

先にどちらが見たいですか?

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