仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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アナザーゼロノス2007&アナザーアクセル2009 その8

「はああ!」

 

 グリスは気迫を込めた声を共に拳を振り上げ、アナザーローグへと接近。踏み込むと同時に硬く握った正拳をアナザーローグの顔面に打ち込んだ。

 アナザーローグは構えもせずに顔面でそれを受ける。しかし、それだけで終わった。痛みで呻くことも、顔を仰け反らせることも、後退することも無く、グリスの拳は全く効いていないことを態度で証明する。

 

「ふん!」

 

 ローグの左右の拳の連打。アナザーグリスは両肩のノズルを前方に向け、そこから黒い液体を噴出することで即座に拳の間合いから離れる。

 

『ネビュラスチームガン!』

 

 距離が開けられたローグはすぐさま愛用の銃を取り出す。

 紫の外装、側面にはパイプとギアを組み合わせた機構があり、銃口下にはフルボトルを挿すスロットが備わっている。

 ネビュラスチームガンは、仮面ライダーとは別の変身に用いる変身銃であるが、ローグはこれを主に武器として扱っていた。

 ネビュラスチームガンを構え、アナザーグリスに光弾を放つ。しかし、アナザーグリスは既に放出し地面に溜まっている黒い液体を操り、光弾を阻む壁を作り出す。

 光弾が液体に着弾するが、既に黒い液体は性質を固体に変えており、アナザーローグに光弾を届けさせなかった。

 ネビュラスチームガンの火力では不足だと分かり、すぐに走って距離を詰めようと一歩踏み込んだ瞬間、闘志に反して足が前に出ず、もつれてローグの膝が折れる。

 追い付けないローグを嘲笑う様に、アナザーグリスはノズルを下向きにし、液体を噴出することで上空へ移動してみせた。

 

「くっ……! 力が……」

 

 ティードに洗脳されてからほぼ休みの無しの状態で動き続けた挙句、アナザーライダー化を解く為に強制変身。それに伴う反動。アナザーライダーを体内から追い出した際に体力も持っていかれており、ローグは重りの様な疲労感に蝕まれていた。

 ガン、という音と共にグリスがローグの側まで後退してくる。アナザーローグの攻撃を受けてしまったのか胸を押さえていた。

 

「どうした! 足腰立たなくなったか! ヒゲ! もう歳だな!」

「俺はまだ三十五だ! そういうお前も足が震えているぞ!」

 

 グリスの軽口を指摘で返すローグ。彼の言う通り、グリスの脚は小刻みに震えていた。アナザーローグの攻撃が効いたのも原因の一つだが、ローグと同様にグリスもまた疲労困憊の状態であり、普通ならば戦える体調では無い。

 

「こんなもんはなぁ!」

 

 グリスが左右の大腿部を両拳で叩き始める。

 

「こうすりゃあ収まるんだよ……!」

「痩せ我慢を……」

 

 見せつける様に真っ直ぐ立ってみせるグリスに、ローグは呆れながらも震える膝を無理矢理動かし、体勢を立て直してみせた。

 ローグは思考する。アナザーグリス相手にどう戦うべきかを。力は上回っているが、疲労のせいもあるが機動力ではアナザーグリスが上であった。力が在っても相手に触れることが出来なければ意味が無い。

 グリスは考える。アナザーローグへの攻め方を。速度は自分の方に分があることは戦って分かった。しかし、アナザーローグの硬い装甲を突き破るには、今のグリスは力不足であった。拳でも蹴りでもツインブレイカーでも装甲の硬さには無力となる。どんなに速度で翻弄しようともダメージを与えられなければ無意味。

 正解が有るとすれば、互いに戦う相手を交換することである。本物の仮面ライダーとアナザーライダーの関係に加え、グリスならアナザーグリスの動きについていけ、ローグならアナザーローグの装甲を破る力を持つ。

 だが、それをしない。それが正解だと本人たちも気付いているが、自分が生み出した不始末は自分で着ける。汚名を他人に雪がれるなど我慢ならない。その意地が彼らからその選択肢から外させていた。

 アナザーグリスとアナザーローグがじりじりと距離を詰めてくるのを見て、ローグは思考を中断せざるを得なくなる。まだ、これという戦法を考え付いていない。

 その時、こちらに向けて何かが迫って来るのを視界の端に捉え、それを反射的に掴む。

 手の中にあるそれは金色のパウチ──ロボットスクラッシュゼリーであった。

 

「貸してやる」

 

 これで全てが解決する。などとはグリスも思っていない。だが、今ある手持ちでは相手に勝てないことを互いに理解していた。だからこそ、その足りないものを埋める為にお互いの持てる力を貸し与える。

 

「お前──」

「ちゃんと返せよ!」

 

 ローグの話を最後まで聞かずにグリスは前に出ると、アナザーローグの腹に前蹴りを放つ。爪先は食い込むこともなく、腹部の硬さだけでグリスの蹴りを止めて見せると、その足を掴んでグリスを引き寄せ、打ち下ろしの右拳を繰り出す。

 ツインブレイカーを盾にして一撃目は防ぐが、続いて放たれた打ち下ろしの右でツインブレイカーごと顔面を殴られる。

 アナザーローグの力に苦戦する中、ローグの方もアナザーグリスから先制を受けていた。

 黒い液体を両手に纏わせたアナザーグリス。その手を突き出すと、ロボットアーム型のミサイルと化してローグを狙う。

 

「くそ!」

 

 受け取ったロボットスクラッシュゼリーを握り締め、ローグは走る。その背後では次々に撃たれた弾が着弾し、爆発が起きていた。

 ロボットアーム型ミサイル迫るどんどんと迫って来る。弾速が上がっているのではなく、ローグの脚が疲労で遅くなってきていた。

 やがて、ミサイルの一つがローグのすぐ後ろに着弾。爆風で背を押される。

 

「くっ!」

 

 爆風で前のめりになってバランスを崩してしまう。その最中でローグはある行動する。

 スクラッシュドライバーに挿されているクロコダイルクラックフルボトルを抜き、ロボットスクラッシュゼリーを挿す。

 

『ロボットゼリー!』

 

 挿した物が何かをドライバーが認識すると、素早くレバーを倒す。

 スクラッシュゼリー内の成分がドライバーによって変換され、硬質自在のヴァリアブルゼリーへと変化、生成される。

 ローグのクラックフルボトルの成分と合わさって紫色と化したヴァリアブルゼリーがローグの足元から大量放出されると、ローグの意思に反応した様にヴァリアブルゼリーが動き、前のめりになるローグのバランスを、足場を変化させることで整え、尚且つその上を滑走させることでミサイルをも引き離す。

 

「成程。こういうことか!」

 

 ローグはすぐにコツを掴み、ヴァリアブルゼリーを移動させながら自身もその上を滑る様にして移動する。

 ヴァリアブルゼリーごと移動するローグを見て、アナザーグリスは空へと逃げようとする。しかし、そうはさせまいとヴァリアブルゼリーが飛び上がったアナザーグリスを螺旋状に囲む。

 螺旋状のヴァリアブルゼリーをスライダーの様にして高速移動するローグ。もう一度ドライバーのレバーを倒すと、ローグの右腕をヴァリアブルゼリーが覆う。

 

『ツインブレイカー!』

 

 クローズチャージ、グリスが使用する武器を装備したローグは、ツインブレイカーのスロットにクロコダイルクラックフルボトルを装填。

 

『シングル!』

 

 ローグの動きに翻弄されているアナザーグリスに接近すると、ツインブレイカーのトリガーを引いた。

 

『シングルブレイク!』

 

 悲鳴の様に唸るパイルがアナザーグリスの肩に付いているパイプを貫く。そこから紫のエネルギーが鰐の頭部を形成し喰らい付き、パイルに連動して回転。アナザーグリスのパイプを捻じ切る。

 飛翔の為のパイプを片方失いバランスを崩したアナザーグリス。空中で反転し、地面に向かって飛んで行ってしまう。

 ローグは落下するアナザーグリスを見下ろしながら、止めの為にレバーを倒す。

 

「心火を燃やして、か……お前からは微塵も感じられんな」

『スクラップフィニッシュ!』

 

 ローグが跳躍すると運んでいたヴァリアブルゼリーが形を変え、巨大な鰐と化し落下するアナザーグリスを待ち構える。

 鰐は大口を開けて水面下から飛び出す様にアナザーグリスの胴体に噛み付く。

 空に向かって勢い良く跳躍する鰐。それを迎えるのは、蹴りの体勢をとるローグ。

 紫のエネルギーを右足に込め、上空から真っ直ぐ降るローグのキック。そのキックが無防備に晒されるアナザーグリスの腹部へと炸裂。

 持ち上げられる力と打ち落とされる力がアナザーグリス内で交差すると、生み出される破壊力にアナザーグリスの体は限界に達し、その身は爆散した。

 着地したローグの足元に破壊されたアナザーウォッチの破片が散らばる。

 

「ぐおっ!」

 

 グリスの苦鳴。声の方を見れば、グリスがアナザーローグの力に押し負け、拳を好き勝手に打ち込まれている。

 

「──借りたものは返さないとな。ちゃんと利子を付けて」

 

 ローグはソレをグリスに向けて投げる。

 

「受け取れ!」

 

 

 ◇

 

 

「受け取れ!」

 

 何を、と考えるよりも先にグリスは声の方に手を伸ばしていた。手の中に納まったそれの感触に驚きつつ、グリスは仮面の下でニヤリと笑う。

 

「ヒゲめ」

 

 アナザーローグが拳を振り翳す。だが、その大振りの動きではグリスの方が先に仕掛けられる。

 グリスは受け取ったソレをアナザーローグに押し当てた。

 

「これならどうだ?」

『ファンキーブレイク! クロコダイル!』

 

 フルボトルが装填されたネビュラスチームガンの引き金を引くと、アナザーローグを呑み込みそうな程巨大な光弾が撃ち出された。

 エネルギーの塊を受けたアナザーローグは、押し出されて後退。何とかして踏みとどまろうとするが止まらず、足元のアスファルトが摩擦で煙を上げる。

 強烈な一撃を与えることに成功したグリスだが、これで倒し切れたとは微塵も思っていない。完全に倒すにはもっと強力な一撃が必要であった。

 

「おい」

 

 ローグからまた何かが投げられる。受け取ったのは、渡したロボットスクラッシュゼリーであった。

 

「返すぞ。利子付きでな」

「ふっ。なら有り難く使わせてもらうぜ!」

 

 グリスはロボットスクラッシュゼリーをツインブレイカーに挿し、遠距離用の形態へ変える。

 

『シングル!』

『ビームモード!』

 

 グリスの視線の先には、ネビュラスチームガンの弾を受け切ったアナザーローグ。グリスはそこに間髪入れずに追い打ちを入れる。

 

「おおおおおおおお! 激熱!」

『ファンキーブレイク! クロコダイル!』

『シングルフィニッシュ!』

 

 両肩から溜められたヴァリアブルゼリーを噴射し、前方へ疾走しながら構えたネビュラスチームガンとツインブレイカーから光弾を連射する。

 頑丈なアナザーローグも豪雨の如き光弾の連射に身を守ることしか出来なかった。

 接近しつつ撃ち続けるグリス。それに耐え、反撃の機会を待つアナザーローグ。

 一歩二歩と光弾に押されていくアナザーローグ。しかし、防御の姿勢までは解かない。

 何処までも続くかと思われた圧倒する連射。だが、それは唐突に止まった。

 前方からの圧力が無くなり、アナザーローグは思わず構えを解く。広がる視界。その中にグリスの姿は無い。

 

「焦熱!」

 

 咆哮染みたグリスの声。アナザーローグは頭上を見上げる。跳び上がっていたグリスがドライバーのレバーを倒す瞬間の光景。

 時間を引き伸ばされたかのようにアナザーローグには全てがゆっくりに見え、グリスの詳細まではっきり見えた。だからこそ気付く。スクラッシュドライバー中央に挿し込まれた紫のボトルに。

 

『クラックアップフィニッシュ!』

 

 紫と金が混じり合った光がグリスの右足を包み込み、見え上げているアナザーローグの肩に右踵が叩き込む。

 

「爆熱!」

 

 左足一本で着地するグリス。まだ攻撃は終わっていない。最初の一撃は相手を固定する鰐の上顎。次の一撃こそ最後の一撃。

 

「うおりゃああああああ!」

 

 振り上げられたグリスの左足が、前傾姿勢になっていたアナザーローグの顎を蹴り上げる。

 上顎と下顎が嚙み合わさることによって、敵を噛み砕く一撃となる。

 グリスのサマーソルトキックを受け、上空へと蹴り上げられたアナザーローグ。その体は先程の攻撃に耐え切れず、空中にて爆発し、その体を無へと帰す。

 

「大義の為に自分も犠牲に出来ない様じゃ、ヒゲには到底及ばねぇよ」

 

 降り注ぐアナザーウォッチの破片を身に受けながら、グリスは呟く。

 自分たち不始末に決着をつけたグリスたち。その直後に体が崩れ落ちそうになる。

 既に肉体が限界に達しようとしていた。このまま何も考えずに眠ってしまいたい衝動に駆られる。

 だが、そんな二人の耳にあるものが聞こえてくる。

 逃げ惑う人々の叫び、悲鳴、嘆き、助けを求める声。

 それを聞いてしまったら、休んでいる暇など無い。

 

「行くか」

「ああ」

 

 震える膝に力を込め、曲がった背中を真っ直ぐにし、弱音も吐かず次なる戦いへ赴く。愛と平和の為に戦う仮面ライダーとして。

 

 

 ◇

 

 

 ティードの城を目指すソウゴたち。遠くに見えていた城が段々と近付いてくる。だが、あっさりと辿り着くことを許す程敵も甘くは無かった。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちをして足止めるゲイツ。ソウゴたちも同様に止まる。

 ソウゴらを阻む様に道で蠢く怪人たち。

 

「どうする? 迂回して行くか?」

「そんな暇は無いよ」

「なら正面突破しかないな」

 

 一刻も早くティードを倒さなければ人々は救えない。危険だろうと先に進めないのならば強引にでも進むだけ。

 ソウゴとゲイツはライドウォッチとジクウドライバーを出す。

 

『変身!』

『ライダーターイム!』

 

 その音声に無軌道であった怪人たちが一斉にそちらを向いた。

 

『仮面ライダージオウ!』

『仮面ライダーゲイツ!』

 

 変身完了と共に二人はジカンギレードとジカンザックスを召喚し、銃モードと弓モードにすると撃ちながら前進する。

 

「私たちも!」

「分かった!」

 

 ツクヨミとデネブもまたファイズフォンXと銃口のある指を構え、後方から射撃を行いジオウたちを援護する。

 光弾、光矢、レーザー、弾丸が撃ち続けられ向かって来る怪人たちを撃ち倒していく。

 しかし、それでも沢山と言える程の怪人が残る。走るジオウたち。迫る怪人たち。

 

『ジカンギレード! ケン!』

『ジカンザックス! Oh! No!』

 

 両者の距離が詰まると同時に、ジオウとゲイツは武器を接近戦用のモードへ変え、斬りかかる。

 怪人たちの群れに突っ込むと、四方に刃を振るう。密集している状態ではどんなに滅茶苦茶に振り回そうと外れることは無い。

 ジオウとゲイツの斬撃に切り伏せられていく怪人たち。そこにツクヨミたちの援護も加えるが、それでも数が減っていく気にならない。

 

「はあっ!」

 

 ゲイツが怪人の一体を踏み台にして上空へ跳ぶ。そして、すかさず腕のホルダーからバイクライドウォッチを外し、空中でライドストライカーへと変形させる。

 落下したライドストライカーに怪人数体が巻き込まれ、ゲイツはライドストライカーの上に着地。すかさずベルトを一回転させる。

 

『タイムバースト!』

 

 アクセルターンでその場で一回転するライドストライカー。タイヤのスリップ痕の代わりに赤い光が地面に残り、時計盤の様になる。

 ゲイツのタイムバーストによって更に数体の怪人たちが倒され、爆散する。

 

「よし! なら俺も──」

 

 ジオウがホルダーに手を伸ばすが、そこにバイクライドウォッチは無かった。

 

「あれ!? 無い!? うっそ! 無くした!?」

 

 この時になってバイクライドウォッチを紛失してしまったことにジオウは気付く。

 ゲイツはライドストライカーに跨ってジカンザックスを振るいながら立ち塞がる怪人たちを轢き倒していく。

 その時、怪人たちが重なり壁の様になってジオウたちへ迫って来た。怪人たちの連携──にしては事情がまるで呑み込めていないかの様にジタバタとしている。

 津波の様に押し寄せてくる怪人たち。ジオウたちのすぐ傍まで来ると急停止する音と共にジオウたちを押し潰す為に頭上から怪人たちが降り注ぐ。

 

「くっ!」

 

 ゲイツは素早く反転した後、急加速。途中に居るジオウの腕を掴むと降り注ぐ怪人たちを避けながら疾走する。

 片手の操作で巧みに回避していくゲイツ。ツクヨミとデネブも銃撃によってゲイツたちの頭上に落ちてくる怪人たちを弾いていく。

 あと少しで範囲から逃れられる──かと思いきや、後部座席に怪人が落下。重さと衝撃で前輪が上がり、バランスを崩して二人ともライドストライカーから投げ出される。

 

「ゲイツ! ソウゴ!」

 

 ツクヨミが悲鳴の様に名を叫ぶ。

 ジオウたちは加速した分勢い良く地面を転がっていく。

 

「くう……大丈夫? ゲイツ……?」

「心配は無用だ……!」

 

 上体を起こす二人。彼らの耳にエンジン音が届く。

 

「惜しいなぁ」

 

 積み重なる怪人たちを踏み付けながら炎の車輪を回すアナザーアクセルが姿を現す。先程の事は、アナザーアクセルが背後から怪人たちを押し出したことで起こったのだと察する。

 

「アナザーアクセル……!」

 

 すぐに起き上がるとアナザーアクセルを睨みつける。

 アナザーアクセルはそれを鼻で笑い、バイク形態から人型へと戻った。

 

「ここから先には行かせねぇ。お前らを通したら、俺がティードに何をされるやら」

 

 口振りからティードへの忠誠心は感じられず、今も踏み躙っている怪人たちを見るにあくまで自分自身の保身の為に行動しているのが伝わってくる。

 

「やってみろ。お前の方から出迎えてきて好都合だ」

 

 ゲイツが語気を強めるが、アナザーアクセルはそれを一笑する。

 

「はっ。仮面ライダーなんてどいつもこいつも同じだ。アクセルみたいにぶっ潰してやる」

「──え?」

 

 アクセルを倒した。アナザーアクセルは間違いなくそう言った。

 

「照井刑事を? 一体何をした!?」

 

 今度はジオウが怒りを露わにすると、アナザーアクセルは調子に乗って語り始める。

 

「言葉通りだよ。潰してやったんだ。ビルの瓦礫でな。馬鹿な奴だ。他人を守る為に自分が潰されるなんてなぁ! 俺には到底出来やしないなぁ! ははははははは!」

 

 アクセルを倒したことで高揚しているのか、その最期を嘲るアナザーアクセル。

 

「──笑うな」

「あん?」

「お前が照井刑事を笑うな!」

 

 怒気と威圧を言葉と共にぶつけられ、アナザーアクセルは思わず笑うのを止めてしまう。

 

「俺には到底出来ない? 違う。お前じゃ絶対に出来ないだけだ! あの人は仮面ライダーとしてやるべき事をやった! 仮面ライダーの力だけしか無いお前には絶対に出来ない事を!」

「所詮、アナザーライダーはアナザーライダーという事か。本物を笑うお前の方が笑い者だ」

 

 アナザーアクセルの存在を強く否定するジオウとゲイツ。アナザーアクセルから先程までの高揚も消え失せ、イラついた声を放つ。

 

「……お前らがどう擁護しようとアクセルは死んだ! 俺の──」

「誰が死んだ?」

 

 全員が驚き、声の方を見る。ジャケットやレザーパンツは破れ、額や口の端から流血し、エンジンブレードを杖の様にして体を支えながらも生きた照井竜がそこに居た。

 

「照井刑事!」

 

 生きていた照井に驚きと喜びを混ぜた声を上げるジオウ。

 

「ば、馬鹿な!? 何で生きている!?」

 

 一方でアナザーアクセルの余裕が一気に剥ぎ取られ、声を震わせながら驚愕する。

 

「知らなかったのか? 俺は不死身だ……!」

「ば、化け物め……!」

 

 照井の生命力に戦慄しながら、アナザーアクセルは周囲の怪人たちに声を荒げて指示を出す。

 

「常磐!」

 

 ジオウの名を呼びながら、照井が何かを投げつける。受け取った物、それは無くしたと思っていたバイクライドウォッチであった。

 

「ああ、これ!」

「それのおかげでここに戻って来られた。もう無くすなよ。あと、俺の為に怒ってくれたことに礼を言う」

 

 その時、バイクライドウォッチが赤い輝きを放つ。ジオウの手の中でライドウォッチからバイクの文字が消え、替わりに仮面ライダーアクセルの顔が浮かび上がった。

 

「え! 変わった!」

 

 初めてのことに驚くジオウ。だが、同時に闘志が漲ってくるのを感じる。

 

「ゲイツ!」

 

 ジオウはゲイツに向けてある物を放る。ゲイツが渡されたソレは──

 

「Wライドウォッチか……」

「これなら何だか行けそうな気がする! でしょ?」

「ふん」

『アクセル!』

『W!』

 

 ジオウとゲイツは、アクセルライドウォッチとWライドウォッチを起動させジクウドライバーの左側のスロットへ挿すと、ドライバーを回転させアーマーを呼び出す。

 

『アーマーターイム!』

 

 ベルトの力で召喚されたライダーアーマー。疾走するバイクの形をした真紅のアーマー。そして、USBメモリに似た形をし、細い手足が付いた二組のロボット。

 バイク型のアーマーとUSBメモリ型のロボットたちが怪人たちを蹴散らした後、ジオウたちの下へ戻って来る。

 

『アクセル! アクセル!』

『サイクロン! ジョーカー! W!』

 

 バイクは分解し各部のパーツとなり、ロボットは変形してアーマーの形となる。

 ジオウは胸部に真紅の装甲を付け、両腕にエンジンの形を模した装甲。脚には二つに分かれた後輪が付いている。右肩に前輪、左肩にはアクセルドライバー型の装甲。顔に収まる文字は『アクセル』。

 ゲイツは左右緑と黒の色が異なる配色をし、両肩にはUSBメモリ型の装甲を付けていた。顔面には換装の完了を告げる様に『だぶる』の文字が填め込まれる。

 

「祝え!」

 

 いつの間にか現れるウォズ。すぐ近くに居た照井は思わず瞠目する。

 

「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウアクセルアーマー! 全てを振り切るライダーの力を継承した瞬間である!」

 

 声高々に祝うウォズに、不審者を見る目を向ける照井。

 

「ウォズ、ウォズ」

 

 ジオウの方は馴れているのか驚きもせず、ウォズの名を呼びながら隣のゲイツを指差す。

 

「──それが我が魔王のお望みなら」

 

 一瞬だけ嫌そうに顔を顰めた後、また叫ぶ。

 

「祝え! ライダーの力を新たに受け継ぎし者! その名も仮面ライダーゲイツWアーマー! 二人で一人のライダーの力を継承した瞬間である!」

「──あまり大声を出すな。傷に響く」

 

 よく分からないウォズに対し、照井は冷めた態度で接する。

 

「さぁ──振り切っていい?」

「俺に質問するなぁぁぁ!」

 

 ジオウたちに怪人たちをけしかけるアナザーアクセル。

 ジオウは両腕を振るう。するとエンジン型の装甲から一対の刃──エンジンブレードブレードが飛び出した。

 

「はあ!」

 

 エンジンブレードブレードを振るうと赤い衝撃波が飛び出し、怪人たちを撃つ。倒れた怪人たちを踏み込めて次の怪人が現れるが、電気を宿したブレードで次々と斬っていく。

 ゲイツもまた囲んでくる怪人たちを素手で打ちのめす。緑の右半身が蹴りを放てば風が発生し、それが蹴りのキレと速度を底上げし、黒い左半身が殴れば紫色のエネルギーが生まれ、怪人の急所に突き刺さる。

 ジオウとゲイツのコンビを前に、怪人たちは有象無象と化し軽々と薙ぎ倒されていく。

 

「こ、この……!」

 

 焦りと苛立ちに身を震わせたアナザーアクセルは、バイク形態となると敵に気を取られているジオウへ突撃する。

 

「よっと!」

 

 しかし、しっかりとそれを把握していたジオウは突撃してくるアナザーアクセルをジャンプして躱し、左肩のアクセルドライバー型の装甲を外して両手で握る。

 右肩の前輪がスライドして前方に。両足を揃えることで分割されていた後輪が一つとなり、ジオウはバイク形態に変わる。

 

「おりゃあ!」

 

 着地の直後にターンして周囲の怪人たちを吹き飛ばすと、走るアナザーアクセルの後を追う。

 アナザーアクセルは追ってくるジオウを見ると、こちらも急反転してジオウに向かって突進した。

 全速力で互いに向かって行く両者。どちらも速度を緩めない。このまま最高速度で衝突すれば無事では済まない。

 残り五十メートル。速度は落ちない。残り三十メートル。依然変わらず。残り十メートル。まだ速度を緩めないジオウにアナザーアクセルは慄く。

 残りが五メートルを切る。最早ここまでが限界。アナザーアクセルは身の安全を優先し、ハンドルを切ってしまう。

 

「ここだ!」

 

 横へと逸れるアナザーアクセルに、ジオウすれ違い様に収納していたエンジンブレードブレードで斬る。

 前輪が切断されたアナザーアクセルは、顔面から地面に激突し、縦に何度も跳ね跳んでいく。

 自分の身を優先するがあまり、最後に油断して大きなダメージを受けてしまう。

 

「あが、がががが……!」

 

 顔面を押さえながら立ち上がろうとするアナザーアクセル。その耳に届く終わりを告げる声。

『フィニッシュタァァイム!』

『アクセル!』

『W!』

「はっ!?」

 

 アナザーアクセルは見た。炎を宿しながら走行してくるバイク形態のジオウと両肩の装甲をロボットに戻して風の力で上空に飛び上がるゲイツを。

 

『マキシマム! タイムブレーク!』

『マキシマム! タイムバースト!』

 

 ジオウは最高速度を維持したまま跳び上がり、車体を横回転する。高速回転して円の様になりながらアナザーアクセルの胸部にタイヤ痕に似たエネルギーの軌跡を打ち込む。

 

「ぐあああ!」

 

 そこでバイク形態から人型へと戻ると、赤熱するエンジンブレードブレードで下から斬り上げ、アナザーアクセルにAの文字を刻み込む。

 その直後、上空にいたゲイツとロボットたちがキックの体勢となり、三方向から緑、赤、紫の光を放ちながら三体同時のキックを刻まれたAの文字に叩き込む。

 

「──ゴールがお前の絶望だ」

「……おい、違うぞ」

 

 間違った決め台詞を言うとアナザーアクセルの体は爆発し、その体は爆炎に包み込まれる。

 アナザーアクセルは倒した。しかし、これで終わった訳では無い。爆炎の中から橙に輝く双眸が見える。

 まだ終わっていなことに気付き構えるジオウたちであったが、その二人を押しやって前に出る者が居た。

 

「照井刑事!」

「その傷で無茶をするな」

「ここから先は俺の仕事だ」

 

 二人の制止を無視して照井は前に出る。そのタイミングに合わせた様に爆炎の中からアナザーアクセルの中身であるアナザートライアルが出現する。

 

「──さあ、振り切るぜ!」

 

 アクセルドライバーを装着。構えるのはアクセルメモリ。

 

「変、身!」

『アクセル!』

 

 仮面ライダーアクセルへ変身した照井は、すぐさまある物を取り出す。USBメモリにストップウォッチを組み合わせた形をしたジオウたちが初めて見る物。『挑戦』の記憶を宿したトライアルメモリである。

 アクセルメモリを引き抜き、トライアルメモリのストップウォッチ部分を倒して変形させる。

 

『トライアル!』

 

 変形させたトライアルメモリをアクセルドライバーへ挿す。そして、ドライバーのレバーを回す。

 

『トライアル!』

 

 アナザートライアルに見せつける様に点滅する赤、黄、青のシグナル。聞かせる様に響くカウントダウンの音。

 それに合わせ、アクセルの体が赤から黄色に変わり、装甲が一新されると同時に青色へと変わった。

 装甲の厚い赤いアクセルと比べ、青いアクセルは軽装であった。最低限の装甲を纏い、頭部はモトクロスバイクヘルメットに似た形状となっている。

 この姿こそ仮面ライダーアクセルの強化形態、アクセルトライアル。

 

「く、くそ……!」

 

 炎の中から出て来たアナザートライアルは毒吐く。ジオウたちのせいでアナザーアクセルウォッチは破壊され、もうアナザートライアルの力しか残っていない。

 だというのに天敵であるアクセルトライアルまで目の前にいる。これ以上無いほど最悪な状況であった。

 どうすれば、どうすれば勝てると苦悩するアナザートライアル。しかし、彼の見ている前でアクセルトライアルは片膝を突く。

 

「あ……?」

 

 荒い息を吐くアクセルトライアル。アナザートライアルはすぐに理解する。アクセルトライアルは立っていられるのも困難な程限界に来ているのだと。変身してもそれをカバー出来ないほど弱っている。

 そうと分かると焦りは一気に余裕へと変わる。まともに戦えない仮面ライダーなど恐れる必要など無い。

 アクセルトライアルを人質にしてこの場を切り抜こうと考え、アナザートライアルの高速移動能力を使用し、アクセルトライアルに魔手を伸ばす。

 ガッと音が聞こえ、気付けばアナザートライアルは地面に座っていた。

 

「──はあ?」

 

 自分の身に何が起こったのか分からない。いつの間にか自分は座り込み──いつの間にかアクセルトライアルがそんな自分を見下ろしていた。

 

「トライアルの力でその程度か?」

 

 アナザートライアルは立ち上がり、アクセルトライアルへ襲い掛かろうとする。だが、またガッという音と共に地面に座っていた。

 もう一度起こったことで理解した。顎から伝わって来る痛み。アナザートライアルの速度を上回る速さでアクセルトライアルに顎を蹴られたのだ。

 

「な、何で!? 同じトライアルの力なのに!」

 

 またアナザートライアルは立ち上がろうとするが、気付いたら地面に座っていた。

 

「速すぎる……!」

「お前が遅すぎるだけだ」

 

 同じ力でもアクセルトライアルとアナザートライアルには大きな差があった。トライアルの力は『挑戦』の為の力。そびえ立つ困難に挑む為のものである。アクセルトライアルは重傷を負っていようともその痛みに負けず戦いに挑んだ。一方でアナザートライアルには挑戦する度胸など無い。保身と身の安全を優先する性格ではトライアルの力を引き出すことなど出来はしない。

 

「お前に教えてやる。トライアルの本当の速さを……!」

 

 トライアルメモリを引き抜き、元の形へと戻すとストップウォッチを動かすと同時に上空へ放り投げる。

 そこから先は最早視認出来るものではなかった。

 神速、高速、音速。残像すらも見えない蹴りの嵐。ただ青い閃光が走り、アナザートライアルにT型の軌跡を刻んでいく。

 アナザートライアルの悲鳴など蹴りの濁流に呑まれ、誰の耳にも届かない。

 最後の蹴りがアナザートライアルの顔面を蹴り抜くとアクセルトライアルは、アナザートライアルに背を向け、落ちてきたトライアルメモリをキャッチする。

 

『トライアル! マキシマムドライブ!』

「9.4秒。それがお前の絶望までのタイムだ」

 

 音速の連蹴は、アナザートライアルに断末魔の叫びを上げさせる猶予も与えず、その体を爆発炎上させる。

 アクセルトライアルの足元にアナザートライアルウォッチが転がってきて、アクセルトライアルが見ている前で砕け散った。

 それを見届けるとアクセルトライアルは変身を解除。照井の姿になると倒れる様に四つん這いになる。

 

「大丈夫!?」

 

 慌てて来てデネブが照井を助け起こす。

 

「少し、疲れただけだ……」

 

 満身創痍でもそう言ってのける照井からは不屈の精神しか感じられない。

 皆が照井を心配する中、アナザートライアルが爆発した場所では何かが息を殺して這いずっていた。

 

「ほお?」

 

 あわよくば気付かれない様に逃げようとしているソレの前にウォズが立ち塞がる。

 

「成程。これがアナザーアクセルの正体、という訳かい?」

「見るな、見るな……!」

 

 ウォズの言葉に全員の視線がソレに注がれる。

 目も鼻も口も耳も頭髪も無く、剥かれた茹で卵の様に凹凸の無い真っ白な顔。一切の飾り気が無い真っ白な体。まるでデッサン人形の様に特徴が無い。

 ジオウたちの視線に恐れて身を丸くするソレの周囲には白い砂が散っている。

 その異形の正体を、ウォズは知っていた。

 

「まさかイマジンがこの事件に協力していたとはね」

 

 

 




残すはアナザークウガとの対決だけとなりました。
因みに、作中でアクセルライドウォッチを継承させても照井が変身出来たのは、ブランクじゃなくてバイクライドウォッチだったからアクセルの力全部ではなく一部で済んだ、ということにしておいて下さい。

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  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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