「本当にイマジンなの……?」
変身を解いたソウゴとゲイツが、真っ白なのっぺらぼうに疑いの眼差しを向ける。
ソウゴたちが知るイマジンは、デネブはフータロスの様に色彩があり見た目の個性もある。だが、アナザーアクセルであったイマジンにはそれが全く無い。特徴が無いことが特徴と言わんばかりに無個性な見た目であった。
「くっ!」
イマジンは急いで立ち上がり、この場から何とか逃げる為に走り出そうとするが、その両足にウォズのストールが巻き付き、転倒させる。
「うあっ!」
「君には聞きたいことがある。まだ逃げないでもらえるかな?」
「く、くそ……!」
観念したのか、イマジンは体を起こし、その場に座る。
「──何が聞きたいんだよ?」
「そんな口が利ける立場か?」
不遜な態度のイマジンに、ゲイツが顔を顰めながら詰め寄るが、すぐにデネブによって引き離される。
「乱暴なことはしちゃいけない」
「敵に情けなど──」
「ゲイツ。ここはソウゴたちに任せましょう?」
血の気が多いゲイツでは話がこじれると思ったのか、鼻息の荒い彼をツクヨミが宥める。流石に、ツクヨミにそう言われてしまうとゲイツも強く出ることが出来ず、眉間に皺を寄せたまま腕を組んでソウゴたちの会話に耳を傾けることにした。
「さて、では我が魔王に替わって私が君に質問しよう。最初に言っておくが、不真面目な解答や沈黙はしないことをお勧めしておく。私は乱暴なことは好まないが、出来ない訳ではない」
ウォズは丁寧に喋るが内容は殆ど脅しであった。イマジンはウォズの方を見ようとはせず、その指先を細かに震わす。
「最初の質問だ。君の契約相手はティードなのかな?」
「──ああ、そうだ」
誤魔化そうとはせず大人しく答える。
「『俺の力になれ』。それがティードとの契約だ。俺はその見返りとしてアナザーライダーの力を貰った」
「ほう。君がティードと契約した時、他のタイムジャッカーは居たかい?」
「いや。アイツ一人だった」
今回の事件はティードの単独のものであり、スウォルツ、オーラ、ウールのタイムジャッカーは関わっていない様子。
「……少し訂正させたいことがある」
「何かな?」
「俺はティードと契約したんじゃない。契約させられたんだ」
「契約をさせられた……?
「気付いたらティードが目の前に居て、そのまま無理矢理契約だ。断る暇すら無かったぜ」
「そんなことが可能なのかい? デネブ君」
イマジンの契約について同じくイマジンであるデネブに訊く。
「不可能、ではないと思うけど……そうなるとイマジン以上の力が無いと無理だと思う」
デネブは自信無さげに答える。彼からしても、このイマジンの契約の経緯は珍しい。
「言ってみりゃ俺も被害者みたいなもんだ」
その一言が聞き捨てならなかったのか、一旦は落ち着いたゲイツの目が一気に吊り上がる。
「散々アナザーライダーの力で好き勝手した挙句に被害者面かっ!」
今にも飛び掛かりそうなゲイツをデネブが後ろから羽交い絞めにして押さえる。
「ごめんなさい。何度も何度も。ゲイツ! 落ち着いて!」
「大丈夫。侑斗で慣れてますから」
敵意を剥き出しにしてイマジンを睨み付けるゲイツ。その間にウォズが入り、遮ってしまう。
「言葉は選んだ方がいい。出ないとゲイツが君に何をするやら……」
場合によってはゲイツをけしかけると含みを持たせるウォズ。ゲイツの純粋な怒りもウォズからすれば格好の脅しの材料であった。
「──分ったよ。もう勝手に喋らない」
「結構。話を戻そう。君はティードと無理矢理契約をさせられたという訳だ。逆らおうとはしなかったのかい?」
「意地の悪い質問をするな……考えなかった訳じゃ無いが、この姿を見ろよ……」
真っ白な凹凸の無い体を見せびらかし、自嘲した笑いを零す。
「見っともない姿だろ……? 契約した途端これだ。だが、こんな姿は普通じゃあり得ないんだよ」
「あり得ないってどういうこと?」
ソウゴの疑問に、ウォズが答える。
「イマジンは契約した人間の中のイメージを元にして姿を変えるのさ。デネブ君やフータロス君の様に何かしらのモチーフがある。それが一切無いということはつまり──」
「ティードの頭の中には何もイメージが無いってことだよ」
ウォズの声に、イマジンが被せる。
「普通じゃ考えられないだろうが。幼稚園児でも漠然としたイメージが有るっていうのに、それが全く無いんだぞ? あいつの中身は空っぽなんだよ、空っぽ。人の姿をした何かなんだよ! あいつは!」
イマジンは小刻み震える。ここに居ない筈のティードを恐れて。
「そして、君はティードを恐れ、屈したという訳か」
「ティードの能力に、更にアナザーライダーの力も見せられて断れるか? それに俺にとっては悪い話でも無かった。上手くいけば2018年以降の時代を好き勝手に出来るんだからなぁ」
このイマジンに顔が有れば、きっと陰湿な笑みを浮かべていただろう。
「ふん。口では奴のことを恐れているが、所詮は同類か」
最終的に自分の都合で悪事を働いたイマジンを蔑むゲイツ。
「だが、それもここまでだ。ティードに貰ったアナザーライダーの力は二つとも失った。お、俺にもう利用価値は無い。ティ、ティードに始末されるだけだ……!」
ティードが齎すであろう死の恐怖に慄くイマジン。ここまで惨めに怯えていると、敵対関係であったが、多少の同情も生まれる。
地面に爪を立てた後、震える手を握り締めていくイマジン。次の瞬間、イマジンはソウゴ、ウォズ、ゲイツに向けて何かを投げつけた。
「うあっ!」
細かい礫の感触。イマジンが現れた時に零れ落ちた白い砂であった。ダメージなどは皆無であったが、皆が注目している所に目を狙って正確に投げつけられたことで、白い砂が目に入り、痛みで反射的に目を瞑ってしまう。
「くっ! 貴様っ!」
砂の痛みで目から涙を流しながらゲイツが怒声を上げる。攻撃されてもすぐに反撃出来る様にライドウォッチを構えるが、予想に反して何も起きない。
「待ちなさい!」
ツクヨミの焦った声。ソウゴらの耳にファイズフォンXの銃撃音も聞こえる。
ソウゴたちに目潰しを行った直後、イマジンは素早い身のこなしでこの場から逃げ始めた。ツクヨミが足止めしようと銃撃を行うが、全て躱され、逃がしてしまう。
しばらくの間聞こえていた銃撃が止み、見えない間に何が起こっているのか確かめたいソウゴたちは、目の砂を取る為に目を強く擦ってしまう。
「そんなに強く擦っちゃダメだ。傷が出来るかもしれない。少し待ってくれ。洗えるものを探してくる」
その手をデネブが止め、水を探しに行く。幸い近くに自販機があったので、そこで水を購入してソウゴたちへ渡した。
「私としたことが……油断をしてしまった……」
イマジンにまんまと逃げられてしまったウォズは、悔し気に表情を歪める。重要なことを聞いたが、まだ幾つか質問したいことがあった。
「すまない、我が魔王。折角の情報源だというのに」
「謝らなくていいよ。俺もやられちゃったし」
「ごめんなさい。私が捕まえていたら……」
「ツクヨミもいいから。こうなっちゃったら仕方ないし、今は他にやることもあるし」
ソウゴの目はティードの城に向けられる。
「ティードというタイムジャッカーは謎が多い。気を付けてくれ、我が魔王」
「うん。分かった。──でも、あのイマジンが言っていることが本当なら、ティードの心の中には何も無いってことなんだよね?」
「そういうことになるね」
「それなのに、平成ライダーの歴史を消すっていうことを考えられるのかなぁ? 中身が空っぽってことは生まれたてみたいなもんだし……」
ソウゴは素直に疑問に思ったことを口に出す。イマジンはティードを空っぽの存在と評した。そんな存在がこの様な事件を引き起こせられるのだろうか、と。
「……さあ、私には分からない。それこそ本人に聞かないと知る由も無い」
ソウゴから目を逸らし、ウォズは思考する様な素振りを見せる。
「ソウゴ、ゲイツ。先に行ってくれる? 私たちは照井さんの傷の手当てをしてから行くわ」
「迷惑をかける……」
「怪我人を迷惑だなんて思わない」
一旦、ツクヨミたちと別れ、ソウゴとゲイツはティードの城を目指す。
それを建物の陰からイマジンが息を殺して見ていた。
(まだだ……まだチャンスは在る……! 俺が生き残る為のチャンスが……!)
◇
『どうした! そんなものか!』
「くっ!」
アナザーRクウガの猛攻からビルドは逃げ回ることしか出来なかった。
最初の時よりも身体能力も向上し、手が四本になったことで手数は倍以上になり、振り下ろされる爆撃の様な拳を防ぐ手立ては無く、急いで回避するしかない。
ウサギの力で後方へ大きく跳躍するビルド。だが、それを追うアナザーRクウガの速さは巨体だというのにビルドと同等以上であり、ビルドが着地する頃には既に拳を構えていた。
『砕けろぉぉぉぉぉ!』
ビルドは着地と同時にすぐにまた跳ぶ。昆虫の脚の様な細い腕。指二本しかない拳。それが地面に叩き付けられた瞬間に地面は陥没し、割れる。
『そこだぁ!』
宙にいるビルドにアナザーRクウガの直線の拳。ビルドは咄嗟に右足で蹴りを放つ。
足底の無限軌道がアナザーRクウガの拳に触れる。最も破壊力のある右足で蹴ったというのにアナザーRクウガと拮抗することも出来ず、ビルドは殴り飛ばされた。
そのまま電柱に打ち付けられ、電柱を伝ってビルドは地面に落ち、電柱は時間差でへし折れる。
「くっ、うう……」
ハザードフォームで無茶をしたせいもあって体が思うように動かない。だが、仮に万全な状態であってもラビットタンクフォームにしか成れないビルドではアナザーRクウガに勝つことは厳しい。
様々なフルボトルを使用して敵に対応し、翻弄しながら戦うのがビルドである。そのフルボトルも今は手持ちに無い。新世界創造の代償として失われていた。
立ち上がるビルド。それを見たアナザーRクウガは数メートル手前で止まる。ビルドの底力をその身で体験したせいで必要以上に警戒をしていた。
しかし、警戒するということは必ずしもビルドにとって優位に働く訳ではない。この場合は、ビルドを更なる窮地へ追い込む。
アナザーRクウガの四本の内三本の手が、消火栓、道路標識、電柱を掴む。その腕に巻かれた腕輪の石が輝くと、消火栓は巨大な砲へ、道路標識は棍、電柱は大剣へと変化する。
素手の状態でさせ苦戦したというのに、アナザーRクウガは武装までする。
「最悪だ……」
状況の悪化にビルドは思わず心中を吐露してしまう。
アナザーRクウガは砲をビルドに向ける。空気が砲口へ吸い込まれていくと、圧縮され弾丸として吐き出された。
不可視の弾丸。分かるのは僅かな空気の歪みのみ。ビルドはほぼ直感で真上に跳ぶ。直後にビルドが居た場所が爆薬でも仕掛けられていたかの様に弾け飛ぶ。
砲の一撃を避けたビルドであったが、そのビルドに大きな影が差す。
「しまっ──」
振り下ろされた棍が、跳び上がったビルドを地面に叩き落す。
地面にめり込むビルド。意識は奪われなかったが、強烈な打撃をまともに受けたせいで体が上手く動かない。
痛みに耐えながら、ビルドは最初の一撃がこうなる為に狙って行ったものだと理解する。でなければあそこまでスムーズに次の動作に移れない。
敵の思い通りに動かされたことに、ビルドは仮面の下で歯嚙みする。
『終わりだぁ』
アナザーRクウガは動けないビルドの側に寄ると、大剣を振り上げた。
自分を真っ二つにするだろう大剣を見ていることしか出来ないビルド。
大剣が振り下ろされる直前──
「戦兎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「万、丈?」
雄叫びの様に叫ばれる名。その声を聞き、思わずその名を呟くと見上げた空を高速で飛行する橙色のドラゴンが、その軌跡に火の粉を残していく。
『クローズ!』
橙色のドラゴン──クローズマグマが突っ込んでくるのを見てビルドに振り下ろす筈であった大剣の軌道を変え、クローズマグマに向け薙ぐ。
クローズマグマはその手にマグマナックルを握っており、ナックルダスター部分にあるスイッチを掌で押す。
『ボルケニックナックル!』
全身の炎がマグマナックルへ集中し、超高熱を帯びたそれを大剣に殴りつけると、大剣は一瞬赤熱化し、殴られた箇所から飴細工の様に溶けて二つに折れる。
大剣を即座に無力化されたアナザーRクウガに避ける暇など無く、大剣を突き破って繰り出されるクローズマグマの拳を胸に打ち込まれた。
『アチャァァァァ!』
炎のドラゴンが、アナザーRクウガの胸元に喰らい付き、焼く。炎の威力も脅威だが、クローズマグマの拳の威力もまた強烈なものであり、アナザーRクウガの巨体が浮き、十メートル以上も吹っ飛んで行き、そのまま仰向けに倒れる。
「おい! 大丈夫か!? 戦兎!?」
降り立ったクローズマグマは、地面にめり込んでいるビルドを引っ張り出し、意識の有無を確かめる。
「聞こえているから大声出すな揺さぶるな……」
「この野郎! 心配させんな!」
いつも通り口の悪いビルドに、クローズマグマは一先ず安心する。そのままビルドは肩を借りて立ち上がる。
「あのアナザーライダーたちは倒したのか?」
「あれは一海と幻さんだった……」
「嘘だろ!?」
仲間がティードの部下にされていた事実を今知り、ビルドは驚き、頭の回転が早いせいで即最悪な未来を想像してしまう。
「安心しろ。二人はあのアナザーライダーとかいうのを追い出して、洗脳も解けた。アナザーライダーにキッチリと借りを返している筈だ」
「なら良かった……ていうか先にそれを言えよ。間を置くな、間を」
「お前が途中で入ったせいだろうが!」
仲間が最悪な状況から脱していると知り、まだ予断を許さないが取り敢えず安心する。
『ああ……あの二人は役に立たなかったか……』
アナザーRクウガはゆっくりと立ち上がる。ビルドとクローズマグマの会話内容が聞こえていた様子。
「この野郎ぉ……!」
洗脳した挙句にこき下ろすアナザーRクウガに、クローズマグマは怒り、それに呼応して火の粉が散る。
ビルドも表面上は出さなかったが、クローズマグマと同じ心境であった。
『役立たずに役立たずと言って何が悪い?』
アナザーRクウガは悪びれた様子も見せず、街路灯を引き抜く。街路灯が変化し、大剣となって再び完全武装となる。
痛む体。無理を押して構えるビルド。その時、ビルドの聴覚がある音を拾う。
「お母さん……」
母親を求める子供の声。それもまだ近くに居る。このまま戦えば巻き添えにしてしまう。
「万丈」
「どうした?」
「近くに逃げ遅れた子供が居る」
「何だと!?」
「大きい声を出すな」
アナザーRクウガに悟られない様に小声で話すが、クローズマグマは思いっ切り大声を出すので軽く小突いて止めさせる。
「なら助けに行かねぇと。戦兎は行け。あいつは俺が相手する」
相談する間の無く、クローズマグマはアナザーRクウガと一対一で戦うことを自ら引き受ける。
「──いいんだな?」
「こんな奴と戦うよりもガキの命、救う方が大事に決まってんだろ」
「五分で戻る。その間に負けんなよ?」
「お前こそちゃんと五分で戻って来いよ!」
最低限の会話で互いの役割を決める。共に肩を並べて戦ってきたからこその信頼関係。
クローズマグマはアナザーRクウガに向かって突進し、ビルドは子供の声がする方に向かって走る。
戦うこと。救うこと。相反するそれもまた仮面ライダーとしての使命であると、彼らは知っていた。
◇
(何処だ? 何処に居るんだ……?)
幸い人気が少ないおかげで子供の泣く声はよく聞こえていた。聴覚やセンサーを駆使して泣く子供を探す。
まだ怪人たちが跋扈している。見付かれば怪人たちは躊躇することなく子供の命を奪うだろう。それにクローズマグマもアナザーRクウガに一人でどれだけ戦えるかは分からない。あくまでもビルドの直感だが、アナザーRクウガはまだ力の全てを見せていない気がした。
子供とクローズマグマ。どちらも時間の猶予が無い。
「ううう……ううう……お父さん、お母さん……」
今度ははっきりと聞こえた。声の距離は近い。ビルドは声の方に向かって急いで走る。
すると、建物の隅で体育座りをして顔を伏せている子供を見つけた。
「見つけた!」
ビルドは近付き、子供の肩に手を置く。
「大丈夫か?」
誰かに触れられ、体を震わせて顔を上げる男の子。そして、ビルドを見るなりポカンとした表情になる。
「ビルド……?」
「うん?」
「仮面ライダービルドだ……!」
泣き顔でくしゃくしゃになっていた顔が、ビルドの姿を見た途端、今までの不安が全て消え去った様に明るいものとなる。
その純粋な憧憬に満ちた目は、ビルドにとっては少しむず痒いものであった。
「──そうだよ。仮面ライダービルドだ。君、怪我は無いかい?」
子供の目線に合わせ、傷の有無を尋ねる。
「大丈夫! でも、お父さんとお母さんが……」
両親の居ない不安で子供の表情がまた曇ってしまう。この子の両親を見つける時間は今のビルドには無い。だが、せめて人の集まっている場所までこの子を運んで行くことは出来る。
無数の足音が聞こえた。怪人たちの集団がこちらに迫ってきている。
「ちょっと目を瞑ってくれるかな?」
「うん」
ビルドの言葉に大人しく従い、目を瞑る。ビルドは彼を抱きかかえると左足で跳躍。一瞬にして建物の屋上まで跳ぶと、そこから別の屋上に向かって跳ぶ。
「わあっ!」
風が顔に当たるので男の子は目を開ける。そこには高い建物と建物の間を跳ぶ光景。だが、男の子は恐怖するよりも先に興奮した。
「凄い! 凄い! 本物のビルドだ!」
画面の向こういる筈のヒーローがすぐ側にいることを喜ぶ男の子。ビルドからすると男の子の反応は新鮮なものであった。
争いなどとは無縁の世界。その中で育った子供からヒーローとして向けられる目。元の世界ではあり得ないことであった。
幾つかの建物を跳び移っていくと、人々の集団を発見する。
「居た!」
そこに向かって跳んでいくビルド。集団の近くに降りると人々は最初警戒するが、ビルドの姿を認識すると誰もが啞然とした。
「え? え?」
「仮面、ライダー……?」
「どういうこと?」
「本物?」
画面の中の存在が現実に現れ、人々はざわめく。
ビルドは抱えていた男の子を下ろす。
「悪いけどこの子も一緒に連れていってくれるかな?」
ビルドが喋ったことでざわめきも大きくなる。
すると、集団の中から飛び出してくる二人の男女。
「お父さん! お母さん!」
男の子が走り出し、二人二抱き締められる。運良く男の子の両親がいる集団であった。
無事を見届け、ビルドは戦いに戻る為、去ろうとする。
「ビルド!」
男の子がビルドを呼び止める。
「何かな?」
「これ!」
男の子はビルドに、ポケットの中にあったものを差し出す。それは二つのフルボトル。本物ではなく模した玩具であった。
「ビルドはこれでいろんな変身して強くなるんでしょ? あげる!」
不思議な、本当に不思議な気分であった。
きっとこの男の子は、仮面ライダービルドという虚構の存在に憧れ、自分もそれに成りたいと思い、ビルドに近付く為に色々な玩具を集めてきたのだろう。
防衛システムとして開発され、戦争の兵器として利用されたビルドが、この世界では子供に憧れを抱かせる存在と化している。
自分がかつて居た世界では起こり得ることは無かっただろう。
だからこそ、ビルドはこの世界を守りたいと強く思う。虚構であろうと仮面ライダーに純粋な希望や憧憬を覚えることが出来る平和な世界を。
「ありがとう」
ビルドは差し出されたフルボトルを受け取る。すると、ビルドの手の中でフルボトルが輝きを放ち始めた。
「これは……!」
◇
空中に於いてクローズマグマとアナザーRクウガは熾烈な戦いを繰り広げていた。
「おりゃああああ!」
炎の翼を広げて飛翔するクローズマグマ。同じく薄羽を高速で羽ばたかせて滞空するアナザーRクウガは、突っ込んでくるクローズマグマに砲を向ける。
固められた空気の弾丸が撃たれ、クローズマグマを狙う。
数発は素手で弾き飛ばせられたが、全て捌き切れず何発か受けてしまい、空中で飛ばされてしまう。
「この野郎!」
クローズマグマの攻撃力の高さを知ってかアナザーRクウガは距離を置く戦いをする。遠距離戦に向いていないクローズマグマは近付くことは出来ず、じわじわと体力を削られていく。
アナザーRクウガも時間を掛けたことでマグマナックルによって溶け、炭化した胸部が治りかけていた。
このままではクローズマグマは消耗だけ。だが、クローズマグマの頭では適した戦い方は思い浮かばず再び突進しようとする。
『ベストマッチ!』
クローズマグマにとっては効き慣れた音声が空に響き渡る。
そして、見上げて気付く。アナザーRクウガの頭上に飛翔する影を。
『天空の暴れん坊! ホークガトリング! イェア!』
オレンジと黒の二色のボディ。背部に翼を展開し、両眼はタカとガトリング砲を模した物へと変わったビルドであった。
ホークガトリングとなったビルドがドライバーのレバーを回すとチューブが伸び、武器を形成する。
機関銃型武器──ホークガトリンガーを構えると、回転式のマガジンを回す。
『
アナザーRクウガに球体のフィールが出現し、その中にアナザーRクウガが閉じ込められる。
『
ホークガトリンガーの幾つもの銃口からタカ型の光弾が音声通り百発連射され、フィールド内のアナザーRクウガに浴びせられる。
『うおおおおおおお!』
無数の光弾により、アナザーRクウガの薄羽は穴が開き、千切れ、巨体が地面に落下する。
「何でお前、ベストマッチが!」
「後で説明する」
ビルドは落下したアナザーRクウガを追って地面へ降りると、ドライバーからフルボトルを引き抜き、上下に振る。
その最中にアナザーRクウガは立ち上がり、ビルドに向け大剣を振り上げる
ビルドは焦ることなく振り終えたフルボトルをドライバーに再装填し、レバーを回す。
『ゴリラ! ダイヤモンド! ベストマッチ!』
『Are You Ready?』
「ビルドアップ!」
ビルドの前後にビルダーが召喚され、ビルドを再形成する。
『おおおおおお!』
そのビルダーごと両断しようと大剣が振り下ろされるが、形成の方が一歩早い。
『輝きのデストロイヤー! ゴリラモンド! イェイ!』
「ふん!」
頭上から迫る大剣を両手で白刃取りしてみせたのは、茶色と水色の二色に、ダイヤモンドとゴリラを両眼に付けたゴリラモンドフォームのビルド。
左腕の倍近い太さがある右腕一本で大剣を押さえながら、左手で器用にレバーを回す。
『Ready Go! ボルテックフィニッシュ!』
左手で大剣に触れる。すると、大剣が輝きを放つダイヤモンドへと変換されていく。
『何!』
自らに影響を及ぼすのを恐れ、アナザーRクウガは大剣を手放す。ビルドはその大剣目掛け、右拳を叩き付けた。
大剣は砕け、先端が尖ったダイヤモンドが散弾の様にアナザーRクウガへ突き刺さる。
『ぐあっ!』
ビルドのボルテックフィニッシュの直撃を受け、アナザーRクウガを転倒する。
ビルドはドライバーに挿したフルボトルを引き抜き、それを見つめる。
「君がくれたもの、最高だな!」
次回、ベストマッチ祭りの予定です。
先にどちらが見たいですか?
-
IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
-
IFゲイツ、マジェスティ