仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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アナザーAクウガ2000

 全身にダイヤモンドの破片を突き刺した状態でアナザーRクウガは仰向けに倒れていた。それを少し離れた場所からビルドは見下ろす。警戒を緩めることなく注意深くアナザーRクウガを見つめ続ける。まだ戦いが終わっていないと言わんばかりに。

 そんなビルドの横にクローズマグマが降りる。

 

「おい! 戦兎! 何でお前、ベストマッチを!? っていうかフルボトルも変わらなかったか!?」

 

 横から喧しい声を叩き付けられ、ビルドはうるさそうに片耳を押さえる。

 

「少しは声を押さえろ。声の調整まで馬鹿なのか?」

「声まで馬鹿って何だそりゃあ! とにかく、どうやって手に入れたんだ? そのフルボトルは?」

「貰ったんだよ」

「貰ったって……そう簡単に手に入るもんじゃねぇだろ……」

「事実だからしょうがない」

 

 あの男の子からフルボトルの玩具を受け取った時、ビルドの手の中で玩具は本物のフルボトルとなった。それもビルドが望めば各フルボトルへと変化する特別なフルボトルに。

 何故こうなったのか。物理学者としてつい考えてしまう。現実が虚構に置き換えられた世界の為、虚構が本物と干渉し合うことで世界の法則が一時的に書き換えられ、修正されたのかもしれない。

 現時点では推測だけで答えなど用意することなど出来ない。

 もしかしたら──

 

『ビルドはこれでいろんな変身して強くなるんでしょ? あげる!』

 

 ──フィクションと本物の区別がつかない子供がビルドと接触したことで虚構と現実の境界が曖昧となったとも考えられる。

 

「まあ、奇跡が起こったってことだよ」

 

 これ以上の理由付けは不粋と思い、クローズマグマの疑問をその一言で片付ける。実際に、あの男の子と出会い、助け、フルボトルを貰う一連の流れは奇跡に等しい偶然と言えた。

 

「そっか。奇跡か! そりゃすげぇ!」

 

 その一言で納得する万丈。こういった単純さが話を拗れさせなくするので有難く感じる。

 話がひと段落した時、カチッ、という音が鳴る。音の源は仰向けになっているアナザーRクウガ。

 突き刺さったダイヤモンドの破片が体から押し出され始めており、それは肉体の修復を意味していた。

 

「どう戦う?」

「武器を破壊しても無駄だ。そこらへんの物を拾って武器に変えちまう。どうにかしてあの腕を使えなくするぞ」

「分かった!」

 

 戦い方を決めると、クローズマグマは了承しながら掌に拳を当てやる気を見せる。そして、ビルドもフルボトルを抜き、振ることで別のフルボトルへと変化させる。

 

『忍者! コミック! ベストマッチ!』

 

 挿し込むのは忍者フルボトルとコミックフルボトル。

 

『Are You Ready?』

「ビルドアップ!」

 

 三度目のフォームチェンジ。ビルダーによって形成された新たなフォームは、ペンとコマ割り、手裏剣の形をした黄と紫の仮面。鎖帷子とマンガ原稿を模した装甲を纏うビルド。

 

『忍びのエンターテイナー! ニンニンコミック! イェーイ!』

 

 右手を出すと、そこに先端がペン先、側面に四つのコマカトゥーン調の画が描かれた刀を逆手に握る。

 刀の名は4コマ忍法刀。ニンニンコミックフォームで使用するメインウェポンである。

 負傷を回復し終えたアナザーRクウガは体を起こすと共に、砲で二人を狙う。ビルドは4コマ忍法刀の柄部分にあるボタンを素早く四回押した。

 

『隠れ身の術!』

 

 4コマ忍法刀側面にある四つの画の内、先端部分の画が輝くと、ビルドは刀を地面に突き立てた。

 

『ドロン!』

 

 大量の煙幕が刀から発生し、ビルドとクローズマグマの姿を覆い隠してしまう。

 狙っていた筈の二人の姿を見失うアナザーRクウガ。狙いを定めずに煙幕ごと撃ち抜こうとしたとき、煙幕の隅から何かが飛び出したのを複眼で捉える。

 アナザーRクウガの死角に入ろうと素早く、音の無い動きで走るビルド。だが、アナザーRクウガは首を動かさずとも彼の動きをしっかりと把握していた。

 アナザーRクウガは敢えて気付かないフリをし続け、ビルドが飛び掛かって来る瞬間を待つ。

 構えた砲の引き金を引こうとするアナザーRクウガ。それを隙だと判断して、側面に回っていたビルドが4コマ忍法刀で斬りかかってくる。

 アナザーRクウガは、ビルドの方を見向きもせずに棍を突き出した。カウンターで繰り出された棍に対応出来ず、砕けろと言わんばかりの勢いの棍を上半身で受けてしまうビルド。

 しかし、ビルドは突き飛ばされることなくその体を煙と化して四散させた。

 

『何だと!?』

 

 ここでアナザーRクウガは、顔を反射的にビルドの方に向けてしまう。その瞬間を見計らったかの様に煙幕の中から飛び出してくる人影。

 一人はクローズマグマ。炎を噴き出して飛翔する。もう一方の人影はビルド。だが、一人ではない計八人のビルドが一斉に走り出してきた。

 

『分身の術!』

 

 4コマ忍法刀の能力により八人に分身するビルド。幻影ではなく紛れもない実体である。先程アナザーRクウガに倒されたビルドも分身の一人に過ぎない。

 ビルドたちは、紫と黄の入り混じった残像を残しながら素早い動きでアナザーRクウガに接近すると、同時に4コマ忍法刀のスイッチを押し込む。

 

『火遁の術!』

 

 八人の内四人のビルドが炎を纏う。

 

『火炎斬り!』

 

 燃え盛るビルドたちが、アナザーRクウガの周囲を飛び交いながら炎に包まれた4コマ忍法刀で斬りかかる。

 

『鬱陶しい!』

 

 アナザーRクウガも剣、棍にて対応しようとするも、ビルドたちが接近し過ぎていること、振るう武器が大き過ぎることもあって忍者の如き軽やかな身のこなしのビルドたちを捉えきれない。

 

「はあ!」

「とお!」

「やあ!」

「せい!」

 

 四人のビルドたちは火炎の斬撃にて、アナザーRクウガの硬い甲殻を破り、浅いながらも切り傷を付け、そこを4コマ忍法刀の先端で突き、そのままアナザーRクウガに張り付く。

 

『離れろぉぉぉ!』

 

 アナザーRクウガが纏わりつくビルドたちを振り落とそうとするも簡単には落ちない。

 

『風遁の術!』

 

 そこに残りの四人のビルドたちが4コマ忍法刀から別の忍術を引き出す。

 

『竜巻斬り!』

 

 その名の通り、四人のビルドたちが逆手に持った4コマ忍法刀を斬り上げると大きな竜巻が発生、張り付いているビルドたちごとアナザーRクウガを竜巻に閉じ込めた。

 唸る竜巻。そこに加えられる『火遁の術』。竜巻は、その炎を取り込み火炎竜巻と化し、閉じ込めたアナザーRクウガを焦熱地獄へ誘う。

 外からの空気を貪り炎は強まっていく。アナザーRクウガと一緒に閉じ込められたビルドたちは音を立てて全て消える。

 残されたアナザーRクウガは、灼熱の中で甲殻を徐々に溶かされていく。

 

『があああああああ!』

 

 獣同然の咆哮を上げて、アナザーRクウガは大剣を一閃する。囲んでいた竜巻が真っ二つに裂け、勢いを失う。

 しかし、それに気を取られていたアナザーRクウガは、空から突っ込んで来るクローズマグマの存在に反応が遅れてしまった。

 

「うおらぁぁ!」

 

 アナザーRクウガの顔面をクローズマグマの拳が撃ち抜く。甲殻が凹み、牙が折れ、相手よりも何倍もある巨体が後退させられる。

 

「もう一発っ!」

 

 続けて放たれる拳。今度は大剣を盾にして防ぎ、すぐさま押し返す。いつまでも触れさせていると武器が熱で溶解してしまう。

 跳ね返されたクローズマグマに棍の突きが打たれた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に防御するが、宙では踏み止まることも出来ず突き飛ばされてしまう。しかし、伸び切った棍を持つ腕に、四人のビルドたちが同時に斬り付ける。

 

『ぐあっ!』

 

 硬い甲殻であっても関節部分は柔い。それを狙った斬撃により、アナザーRクウガの腕は三分の一程の切れ込みが入る。幸いニンニンコミックフォームの力は特に秀でている程ではなく、それ以上刀が食い込まず切断までには至らない。

 

『──死ね』

 

 腕に刀を刺していることですぐには動けないビルドたちに砲で叩き落し、地面に落ちたタイミングで発射。圧縮空気が真上から降り注ぎ、ビルドたちを圧する。

 しかし、次の瞬間には煙と共にビルドたちは消え去った。

 

『何っ!』

 

 このビルドたちもまた分身であった。ならば本体は何処に居るのか。

 

『海賊! 電車! ベストマッチ!』

『Are You Ready?』

「ビルドアップ!」

 

 声と音声だけ聞こえる。すぐに周囲を探すアナザーRクウガ。そして、見つけた。近くのビルの屋上に立つビルドが別のフォームに変わる様を。

 

『定刻の反逆者! 海賊レッシャー! イェーイ!』

 

 マリンブルーのジャーリーロジャーと薄緑の線路の複眼。船首の模した右肩アーマーと複眼と同色のマント。左肩には青赤の信号と踏み切りを模した装甲を付けている。

 海賊レッシャーへとフォームチェンジをしたビルドは構えていた。その手に握るのは錨と海賊船合わせた形の弓、そこに番えられる矢は電車──海賊レッシャーのメインウェポンであるカイゾクハッシャー。

 ビルドは番えられた矢もとい電車を手前に引く。

 

『各駅電車ー。急行電車ー』

 

 電車を引く時間に応じてエネルギーがチャージされていく。アナザーRクウガが気付いても電車を引く手から力を緩めない。

 

『快速電車ー。海賊電車!』

 

 最大威力まで力が高まる。だが、アナザーRクウガもまたビルドに砲を放とうとしていた。

 このままでは相打ちとなる。このままでは。

 

「させるかよ!」

 

 アナザーRクウガの脇腹を蹴り付けるクローズマグマ。意識の外から受けた攻撃のせいでアナザーRクウガの意識が散漫となってしまう。

 

『発射!』

 

 電車から指を離すと番えられていた電車がエネルギー体となってカイゾクハッシャーから射られる。

 自分に向けて放たれたエネルギー体の電車に、アナザーRクウガは咄嗟に大剣を振り下ろした。

 しかし、電車は空中で蛇行して進路を変えて大剣を躱し、傷付いているアナザーRクウガの腕に命中し貫く。

 

『ぐあっ!』

 

 ほぼ千切れ掛けるアナザーRクウガの腕。だが、電車の突撃は一撃だけで終わらず、貫いた先で方向転換し、再び腕に着弾した。

 二度目の命中でアナザーRクウガの腕は完全に切断される。

 アナザーRクウガは、数秒の間千切れ飛ぶ己の腕を呆然と見ていてしまった。

 それがビルドたちに更なるチャンスを生み出す。

 

『Ready Go!』

『ボルケニックアタック!』

 

 上空へ移動していたクローズマグマがレバーを回し終え、その周囲に八頭の火龍を喚び出す。

 火龍はクローズマグマの右足へ収束し、万物をも溶かし焼き尽くす程の高熱を発すると、炎を噴出して降下する。

 

『アチャァァァァ!』

 

 怪鳥音と共に打ち込まれたクローズマグマの蹴り。アナザーRクウガは、咄嗟に砲を翳して盾にするが、砲はクローズマグマのキックに触れた瞬間に溶け破られ、翳していた腕を焼き貫く。

 着地したクローズマグマが見上げる中で、アナザーRクウガの腕が宙を舞う。

 

『うぐああああああ!』

 

 瞬く間に二本の腕を使用不能にされたアナザーRクウガ。残るのは無手と大剣を持つ腕のみ。

 

『虚構如きが、こんな、真似を……!』

 

 アナザーRクウガの体から電気の様な黄色い光が音を立てて放たれ始める。そして、大剣を地面に突き刺した。

 

「何だ?」

 

 刺したが何も起こらない。アナザーRクウガの行動に疑問を持つ二人であったが、その疑問もすぐに解消された。

 ビルドとクローズマグマの周囲が揺れ始める。

 

「うお!」

「なっ!」

 

 眼前に突き出る鋭い刃。それはアナザーRクウガの持つ大剣と同じ形をしていた。物体を武器に変換する能力を伝わらせ、ビルドたちの周囲に武器を創り出す。

 

「くっ!」

 

 文字通り剣山と化していくビルから急いで飛び降りるビルド。すると、ビルの側壁にアナザーRクウガが発する光が生じ、壁面一杯に砲口が形成される。

 

「嘘だろ!」

 

 アナザーRクウガの能力に驚くビルド。これ程までに便利な能力を何故使わなかったのかと思ってしまう。

 ビルドが疑問に持つのは正しい。この能力、今までのアナザーRクウガでは出来なかった。ビルドたちに追い詰められて際に生まれた怒り、憎悪、焦燥、劣等感がアナザーRクウガの新たな能力を開花させた。

 砲口群の形が揺らいでいく。大量の空気を集束しているせいであった。空中のビルドはすぐにフルボトルを抜き、振り、再装填する。

 

『パンダ! ロケット! ベストマッチ!』

 

 

 その時、集束し終えた空気が砲弾となって連なる砲口から吐き出される。形も残さずに撃ち抜き続けようとするアナザーRクウガの暴力の意思が見て取れる。

 だが、それらが着弾するよりも先にビルドの換装が終え、空中で方向転換、急発進する。

 

『ぶっ飛びモノトーン! ロケットパンダ! イェーイ!』

 

 パンダとロケットの複眼。モノトーンの名の通り白黒の右腕の先には、熊猫の名に相応しい太く長い爪。左肩には噴射孔、そこら腕、手に掛けてロケットパーツが装甲の様に填められ、ビルドはその能力で空中を炎と煙を噴き出しながら飛んでいた。

 周囲を大剣で囲われていたクローズマグマも、爆炎で全て吹き飛ばした後、飛び上がる。

 

『落ちろぉぉぉぉ!』

 

 地面に光が伝わると砲口が形成され、更には大剣と棍がビルドたちを打ち落とす為に射出された。

 地面を変換することで地形が変わり始め、所々陥没し、その陥没に巻き込まれてビルが傾き始める。

 

「無茶苦茶する!」

「おい、やべぇぞ! このままだとぶっ壊れちまう!」

 

 周囲のビルが倒壊すればどんな被害が起こるか分からない。まだ逃げ遅れている人々も居る可能性があるというのに。

 

「どうにかして止めるしかないな!」

 

 ビルドはロケットを巧みに操り、大剣、棍、空気弾を躱しながらアナザーRクウガへ接近しながらレバーを回す。

 

『Ready Go!』

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 ブースターの炎が勢い増し、加速する。急接近するビルドにアナザーRクウガは武器で狙おうとするがロケットの推進力に追い付けず、ビルドが通った後を通過していく。

 

「はあああ!」

 

 パンダの爪でアナザーRクウガに斬り付ける。アナザーRクウガは刺していた大剣でそれをガード。斬傷が大剣に刻まれるだけで止まる。

 そのままビルドを弾き飛ばすアナザーRクウガであったが、ビルドは離れ際に左腕のロケットパーツを一体化させ射出。大剣に直撃して大爆発を起こす。

 

『があっ!』

 

 大剣が根本から折れた。ロケットが爆発した際の音と衝撃と爆炎で視覚と聴覚を一時的に麻痺させられるアナザーRクウガ。

 音が消え、視界が霞む世界のまま辛うじてビルドのぼやけた輪郭を捉え、柄を硬く握った拳でビルドに殴り掛かる。

 粉微塵に砕く為に放った拳。ビルドに命中し、殴られたまま数メートル地面を滑っていく。

 しかし──

 

『うぐああああああ!』

 

 苦鳴を上げたのはアナザーRクウガであった。アナザーRクウガはビルドを殴りつけたと思っていたが、実際は拳は届いていない。何故ならば間に挟まれたビルドの腕、それから生えた無数の棘がアナザーRクウガの拳を刺し、直撃を防いでいた。

 アナザーRクウガの耳には届いていなかった。またもや別のフォームに変わったことを告げるドライバーの音声が。

 

『レスキュー剣山! ファイヤーヘッジホッグ! イェイ!』

 

 ハリネズミと消防車のフルボトルによるベストマッチ。紅白の二色に染まり、右腕のハリネズミの能力がアナザーRクウガの攻撃を防ぐ。

 そして、ビルドは針を引き抜くと空いた穴に左腕の消防車型の放水銃を突き刺し、レバーを回転させる。

 

『Ready Go!』

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 放水銃から大量の水が流されアナザーRクウガの腕が倍に膨らむ。途中放出する液体を水から可燃性の液体に変え、着火。熱せられた水は蒸気となり倍に膨らんでいた腕は更に倍に膨らみ、纏っていた腕の甲殻が膨張の結果弾け飛ぶ。

 

「おりゃあ!」

 

 放水銃を抜きながら下がり、その時に右腕を振るう。ハリネズミの針が飛ばされ、アナザーRクウガに刺さった。穴自体は小さなもの。しかし、内に閉じ込められていたエネルギーが行き場を求めて、その小さな穴に殺到。その結果、爆発するように水蒸気が噴出し、アナザーRクウガの腕を内側から破裂させる。

 

『──ッ!』

 

 上げる声すら水蒸気爆発に掻き消された。だが、アナザーRクウガは執念で倒れない。

 

『おおおおおお!』

「くっ!」

 

 それどころか後退するビルド目掛け、残った一本の腕で掬い上げる様に殴る。

 予想外の反撃に防御が間に合わず宙へ舞うビルド。

 

「危ねぇ!」

 

 だが、それを飛んでいたクローズマグマが受け止め、共に地面に降りる。

 二人が揃うタイミングを狙い、アナザーRクウガは跳躍。遥か高い空へ移動すると、下のビルドたちに何度も火球を吐き出す。

 

『ライオン! 掃除機! ベストマッチ!』

 

 空から降り注ぐ火球にすぐに新たなベストマッチを組み合わせる。

 

『たてがみサイクロン! ライオンクリーナー! イェア!』

 

 ライオンと掃除機を模した両眼。右手にライオンの頭部型のガントレット。左腕全体が掃除機の形になっていた。

 ビルドはその掃除機の上空に向けると、掃除機は吸引を開始し火球を吸い込み始める。

 ビルドたちを呑み込む程巨大な筈の火球が掃除機の中に吸い込まれ、左肩のダストボックス内に閉じ込める。

 そして、レバーを回しながら掃除機でアナザーRクウガを指す。

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 吸引した火球を一つに纏めて出し、右手で打つ。ライオンの頭部型のエネルギーが発生し、巨大な火球を咥えながら受け取ったものをアナザーRクウガへ倍にして返す。

 だが、アナザーRクウガは空中で前転すると右足を突き出しながら急降下。雷光の様な光を放つ右足が火球ごとビルドのボルテックフィニッシュを破る。

 

『があああああ!』

 

 ビルドたちを巻き込んで大地に刻み込まれるアナザーRクウガの一撃。アスファルトにクウガを示す紋章が浮かび上がったかと思えば、地面が割れ、隆起し、深い穴が出来上がる。

 

『はあああ……!』

 

 陥没した地面の中央でアナザーRクウガは興奮を冷ます様に荒い息を吐く。ふと、何かに気付きアナザーRクウガは右足を上げた。そこには何も無くアナザーRクウガの足跡があるだけ。

 アナザーRクウガは間一髪の所でビルドたちが逃れたことに気付く。もし、アナザーRクウガがもう少し冷静であったのならビルドたちを逃したことにすぐに気が付いただろう。

 しかし、今のアナザーRクウガは能力が向上していく度に理性が段々と削られていく。戦いだけに思考が集中し、冷静な対応が出来なくなってきていた。

 

『があああ!』

 

 取り逃したことに気付いたアナザーRクウガは地面から跳び上がる。その時──

 

『封印のファンタジスタ──』

 

 アナザーRクウガの体に巻き付く鎖。幾重にも巻き付いた後に錠前が出現し、アナザーRクウガを完全にロックする。

 

『キードラゴン! イェーイ!』

 

 拘束されたアナザーRクウガに現れるのは、ドラゴンと錠前の複眼を付け、左腕に鍵型のアームパーツを付けたビルドと無傷のクローズマグマ。

 アナザーRクウガのキックが命中する前にライオンクリーナーの掃除機の吸引力とクローズマグマの火力を合わせて破壊の範囲から逃れていた。

 

『ぐ、が、ぐぐぐ!』

 

 アナザーRクウガは鎖を力で破ろうとするが、中々千切れない。僅かに亀裂が入り始めるが、完全に引き千切るまでビルドたちは黙って見ていない。

 

「勝利の法則は決まった!」

 

 ビルドがレバーを回し始めると、クローズマグマはビートクローザーを取り出し中央にドラゴンフルボトルをセットする。

 

『Ready Go!』

『スペシャルチューン!』

 

 クローズマグマは続けてビートクローザーのグリップを引っ張る。

 

『ヒッパーレ! ヒッパーレ! ヒッパーレ!』

 

 ビートクローザーの剣身に蒼炎が宿りる。

 

『ボルテックフィニッシュ!』

『メガスラッシュ!』

 

 ビルドはドラゴンフルボトルの成分が宿る右手に蒼炎の火球を生み出し、ビートクローザーの蒼炎がドラゴンの形に変わる。

 

「はあ!」

「おりゃあっ!」

 

 ビルドの手から放たれた火球がアナザーRクウガに命中。拘束していた鎖を突き破って、アナザーRクウガの胴体にめり込む。そこに、ビートクローザーを振るったことで飛び出した蒼炎のドラゴンが喰らい付く。

 本来ならば在り得ない同じフルボトルを使用しての技。二本のドラゴンフルボトルが干渉し合うことで相乗効果が発揮し、それによって生み出されるのは通常時を上回る大爆発。

 アナザーRクウガの巨体が一瞬で蒼炎の中に消えた。

 

「同成分のフルボトルを使うとこんな効果が……面白い!」

「言っている場合か!」

 

 ドライバーからドラゴンフルボトルを抜き、恐らくは仮面の下で目を輝かせているビルドにクローズマグマは思わず突っ込む。

 

「とにかく奴を倒したんだ。早くあの小僧を救うぞ!」

「──いや、まだだ」

「はあ?」

 

 クローズマグマが蒼炎を凝視する。すると炎が消え、中から真っ黒なアナザーRクウガが力無く座っていた。

 

「見ろ。黒焦げじゃねぇか。だったら──」

「おい、動くぞ!」

「うご──?」

 

 黒焦げのアナザーRクウガが震え始めると、頭部に裂け目ができ、中から新たなアナザークウガが脱皮する。

 

「……やっぱ真っ黒じゃねぇか」

 

 新たなアナザークウガはクローズマグマが言う通り真っ黒であった。体型は変わらず、唯一色が違うのは額の金色の角と赤い目だけ。だが、その赤い目にも黒い血管が走っており、赤なのか黒なのか分かりにくくなっている。

 細部の違いとしては右脛に装備していた金のアンクレットが左脛にも装備されていた。

 そんな中で一番特徴的且つ目を惹くのは、脱皮したアナザークウガは隻腕であった。千切れた三本の腕が生え揃うことは無く左右非対称となっている。だが、その一本の腕はアナザーRクウガの時よりも太さも長さも倍以上あり、立っているだけなのに指が地面に接している。手数よりも腕一本だけを強くする歪な強化。今も歪んでいくティードの精神を表しているかの様に。

 

『俺が……俺が、クウガ、だ……! 俺だけが、平成ライダー、なんだ……!』

 

 口調が詰まり詰まりとなり、知性を感じられなくなってきている。

 

「おいおい……何回脱皮すれば気が済むんだよ……」

「何かやばくないか? あいつ?」

 

 消耗している所にまたも進化したアナザーRクウガ改めアナザー(アメイジング)クウガ。

 正気を失いつつあるアナザーAクウガの眼がビルドたちを捉えると──

 

『フォーゼ! スレスレシューティング!』

『ウィザード! ギワギワシュート!』

 

 アナザーAクウガの顔面にロケットモジュール型のエネルギーと体には炎と氷の光矢が命中。顔面で爆発が起こり、体は炎上と凍結が発生する。

 

「戦兎! 龍我! 大丈夫!?」

「ソウゴにゲイツか!」

「──ったくおっせぇんだよ! お前ら!」

 

 援軍として現れたジオウとゲイツに、ビルドたちは僅かに安堵する。

 

「何だあれは……?」

 

 ジオウとゲイツの記憶にあるアナザークウガとは姿が異なっており、戸惑った声を出す。

 

「ティードだよ。尤も二回も脱皮して姿も強さも変わっているけど」

「脱皮するアナザーライダー……」

「ちっ。自己強化出来る能力か。厄介だな」

 

 アナザーAクウガが体を震わす。爆炎は消え、身を焼いていた炎と氷も消え、何事も無かった様に立つアナザーAクウガ。

 合流し四人となった仮面ライダーたちにアナザーAクウガは叫ぶ。

 

『消え、ろ! 消えろぉぉぉぉ! 英雄(仮面ライダー)は、俺一人でいい!』

 

 

 




今回の話で出せるベストマッチはここまでで。本編で出た残りのベストマッチは出せるかどうか未定です。
七つのベストマッチのフォームは無理かも。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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