仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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今後の投稿についてのアンケートを設置しました。


アナザーAクウガ2000 その2

「何か、ヤバそうな気がする……」

 

 アナザーAクウガを見て、ジオウはポツリと言葉を零す。ジオウの率直な感想には全員無言で同意した。

 ティード自身得体の知れない不気味さがあった。アナザークウガになってそこに凶暴さが加わった、そして、今のアナザーAクウガからは何をするか分からない狂気の様なものを感じ取れる。正気を感じないのだ。

 

『があ、あああ……平成、ライダー……!』

 

 人の言葉の割合が少なくなり、獣の様な唸り声を上げることが多くなってきている。

 あれ程巨大な相手ならタイムマジーンを持って来るべきであったか? と一瞬考えるジオウとゲイツであったが、2000年でアナザークウガの状態で一方的にやられたことを思い出す。存在感が増したアナザーAクウガにはタイムマジーンでは力不足である。

 

「ジオウ」

 

 ゲイツはアナザーAクウガを睨み続けながら、ジオウの胸に何かを叩き付ける。

 

「いたっ! え? 何?」

 

 ゲイツの突然の行動に戸惑うジオウ。だが、胸に押し当てられる硬い感触でゲイツがある物を手渡そうとしているのが分かった。

 

「これはお前に預けておく。使うタイミングを見極めろ」

 

 ゲイツが手を開く。中の物が落ち、ジオウの手の中に納まった。

 

「うん。ありがとう、ゲイツ」

「礼はいい」

「話しているところ悪いが、そろそろ動くみたいだぞ」

 

 ビルドが言う通り、アナザーAクウガは黒い前翅を開き、その下から二対の薄翅を広げる。ビルドとクローズマグマによって破壊した筈だが先程の脱皮で復活していた。

 砂埃が舞い上がる勢いで薄翅を羽ばたかせて巨体を浮かすと、長い隻腕を地面に接した状態でジオウたちに向かって低空飛行しながら迫る。

 鉤爪の様な二本指が大地を抉っていく。その状態から掬い上げる様に腕を振るう。

 

「──っ! 避けろ!」

 

 ビルドは何かを察し、まだ距離があるにも関わらず急いで動く様に声を飛ばす。ただならぬものを感じジオウ、ゲイツは右、ビルド、クローズマグマは左、左右へ分かれる様に急いで動いた直後、その間を下から上に向かって通過する黒い影。影が通った後地面が捲り上がり、破片が飛び散る。

 ジオウたちはその影を見る。影かと思えば、それは黒々とした甲殻。その甲殻の先には二本の爪。それは紛れもなくアナザーAクウガの隻腕であった。

 振るった腕が三倍以上も伸びており、ジオウたちに強襲を仕掛けたのだ。

 初撃が外れたアナザーAクウガは、そのまま上空へと上がる。伸びた隻腕もそれを追う様にして縮み、元の長さに戻る。

 アナザーAクウガは、ジオウたちの頭上まで飛ぶとまた腕を振るう。捕食生物の舌の如く伸びるそれにジオウたちは即座に反応しようとするも、鞭の様な鋭さと速さも兼ね備えており、音速に等しい先端を避け切れずジオウたちを掠めていく。

 

「うあっ!」

 

 指先がほんの少し装甲に触れただけだというのに、ジオウは上体に掛かった力でその場に立っていることが出来なくなり、足が離れ、後方に転がっていく。

 すぐに立ち上がったジオウ。周りを確認するとゲイツやビルドたちも同じ様な状態となっている。

 運良く掠っただけでこの威力。直撃を貰えば上半身が無くなっていただろう。

 

『があああああ!』

 

 アナザーAクウガは叫び声を上げ、今度は火球を吐き出す。碌に狙いを付けずに放ったそれは、見当違いな場所に着弾したり、近くの建物を貫いたり、乗り捨てられた車に命中し爆発を引き起こしたりする。

 命中率は低いが、その分一度に吐き出す数が多く、数を撃てば当たると言わんばかり滅茶苦茶に火球を吐き続ける。

 

「うおっ!」

「くっ! 無茶苦茶する!」

 

 爆撃機の如く火球を降らし続けるアナザーAクウガ。その内、近くに火球が着弾し、火柱や煙を上げる。

 ジオウとゲイツはジカンギレードとジカンザックスを銃と弓の形態にし、火球を避けつつアナザーAクウガを狙撃しようとするが、空中を移動するアナザーAクウガは素早く、尚且つ不規則な動きを連続して行うので照準が定まらない。

 

「動きが速い!」

 

 それでも何とか当てようとして引き金や弦を引く二人。十数発分の光弾と光矢がアナザーAクウガを狙うが、九割以上が外れてしまった。

 しかし、アナザーAクウガが避けた先に偶然にもジオウが撃った光弾があり、アナザーAクウガの体に当たる。

 軽い音がした後、光弾は消えた。アナザーAクウガは何かを感じる様子も無く、元々黒いせいで当たった跡すら見えない。

 

「効いてない……」

「どうやら生半可な攻撃じゃ効果が無いみたいだ。それにしても──」

 

 数メートル先に火球が落ち、破片と熱が広がる。ビルドはその破片から顔を守りながら思わず零す。

 

「何て雑な戦い方だ……」

 

 考えることを放棄した能力頼みの力押しの戦い。アナザークウガの時と比べると酷さが際立つ。力を得た代償にどんどん知性を失っている様な気さえした。

 

「万丈よりも頭を使わない戦いをしやがって」

「どういう意味だ、それ!?」

「まんまの意味だよ──どけ!」

 

 ビルドはクローズマグマを突き飛ばす。いきなり押されたせいで後方に倒れていくクローズマグマ。ビルドも押した反動で後ろに下がる。離れていく両者、そしてその間を通り過ぎていくアナザーAクウガの腕。

 戦い方は雑そのものだが、相手に近付かない攻撃に専念してくるのは厄介そのもの。今の様に一方的に攻められる。

 

「このまま離れて戦っていてもやられるだけだ。こうなったら接近して奴と戦うぞ」

 

 ビルドは横目でジオウたちを見る。

 

「お前たち、飛べるか?」

 

 するとジオウは二つのライドウォッチを取り出し、ビルドに見せる。

 

「飛べる」

「よし。じゃあ、行くぞ!」

 

 クローズマグマが手を挙げた。

 

「俺も飛べるぞ」

「それは訊かなくても知ってる」

「だったら先に行ってるぞ! 早く来いよ!」

 

 クローズマグマが一足先に飛び立つ。言葉にしなくともそれがアナザーAクウガの注意を誘い、ビルドたちが安全に別形態へ姿を変える為のものだと分かっていた。

 

「なら早目にいきますか」

 

 ビルドはビルドドライバーからフルボトルを抜き、振って思い描いたフルボトルに変え、挿し直す。

 

『フェニックス! ロボット! ベストマッチ!』

「ビルドアップ!」

 

 不死鳥の成分を閉じ込めたフェニックスフルボトルとロボットの成分を閉じ込めたロボットフルボトル。ビルドドライバーがそれを抽出し、伸ばしたチューブの中に黒と赤の成分が流れていき、ビルドの前後に二色のアーマーを創り出す。

 これらが合わさることで生まれ出るフォームの名は──

 

『不死身の兵器! フェニックスロボ! イェイ!』

 

 ロボットアーム型の黒い複眼。フェニックスを模った赤い複眼。右上半身は炎を彷彿とさせる揺らぎながらも尖った形の装甲。左上半身はロボットらしく機械とパワーユニットが組み込まれた無機質なデザインとなっており、左手にはこのフォームを象徴する三本爪のパワーアームを装着していた。

 ビルドアップして別のフォームになったビルドの横で、ジオウはゲイツにライドウォッチを手渡す。

 

「はい」

 

 差し出されたライドウォッチを無言で受け取るゲイツ。そして、そのウォッチに描かれた顔を見て、仮面の下で目を見開いた。

 

「どうしたの?」

 

 その雰囲気を察するジオウ。

 

「──何となくだが、これを使う時が来ると思っていただけだ」

 

 ゲイツが渡されたライドウォッチを起動させる。

 

『ビースト!』

 

 ジオウも続いてライドウォッチを起動。

 

『フォーゼ!』

 

 二人はライドウォッチをジクウドライバーにセット。その中に込められた力を喚び出す。

 

『アーマーターイム!』

 

 ゲイツの背後に立つ黄金の鬣を持ったライダーアーマー。

 ジオウの前にもライダーアーマーが召喚され、それがロケットの形に変形すると、ブースターから火を噴かせてジオウの周りを旋回する。

 ゲイツが構えるとライダーアーマーが分解され、体の各部へと装着。ジオウのライダーアーマーも頭上に移動すると各パーツとなってジオウに装備される。

 

『オープン! ビースト!』

『スリー! ツー! ワン! フォーゼ!』

 

 ゲイツに装備される黄金の鬣型のヘッドパーツ、左肩にはビーストの顔を模した装甲、右肩には四種の動物のレリーフが入った装甲と四色のマントを付けていた。

 ジオウの頭部はロケットに似た楕円型に変わり、両腕にはブースターモジュールを装備、白を主とした装甲に橙色のラインが入っている。

 ゲイツの顔に『びーすと』。ジオウの顔の『フォーゼ』の文字が填め込まれることで装着が完了する。

 ジオウは両手を突き上げて叫ぶ。

 

「宇宙へ……行くー!」

「行くのは空だ」

 

 フォーゼライドウォッチに込められた意思を反映させるジオウに対し、ゲイツは冷めた態度で冷静に指摘する。

 

「まあ、それぐらいの気持ちってことで」

「話はそれぐらいにしろ。準備は出来たし、行くぞ!」

 

 ビルドは背部にある直角に蛇行した計八本の帯を広げる。その帯に炎が宿ることで炎の翼となってビルドを上空へ飛ばす。

 ジオウは両腕のブースターを点火させることで上昇し、ある程度の高さまで移動するとロケット形態となって加速する。

 ゲイツは左肩のレリーフの中にある隼のレリーフが輝くと、マントを翼代わりにして飛び立った。

 空ではクローズマグマが、アナザーAクウガが隻腕から繰り出す攻撃をひたすら避けていた。伸縮自在に加え、腕の中に液体が詰まっているのではないかと思わせる程柔軟に動いており、節部分がどの角度にも曲がりクローズマグマを近付かせない。

 隻腕を嫌がり少しでも距離を開ければ火球が飛んでくる。遠近どちらにも対応した戦い。救いがあるとしればどちらも正確性に欠けている点であろう。

 散弾の如く吐き出される火球。殆どが外れていくが、中にはクローズマグマに命中する方向に飛ぶものもあった。

 

「おりゃああ!」

 

 だが、クローズマグマの拳がそれを粉砕する。破壊力も熱もクローズマグマの方が上である。

 

「埒が明かねぇ……!」

 

 それでも攻めあぐねているのはクローズマグマの方。火球と隻腕がクローズマグマに防戦を強いらせる。

 

「うん?」

 

 その時、アナザーAクウガの複眼がクローズマグマから外れた。それと同時にアナザーAクウガの周囲を飛び回る二つの存在。

 フォーゼアーマーを纏ったジオウとビーストアーマーのゲイツが高速で動きアナザーAクウガの注意を逸らす。

 

「よお」

 

 クローズマグマの側にビルドが現れる。

 

「おせぇーぞ」

「遅れた分はキッチリ仕事をするさ」

 

 炎の翼を羽ばたかせてビルドがアナザーAクウガに向かう。クローズマグマは一笑し、灼熱の翼で空気を焦がしながら後に続く。

 

『ぐああ、ああああ、あああ!』

 

 人語では無いが、恐らくは苛立ちを咆哮にして出すアナザーAクウガ。隻腕を伸ばし、ジオウを貫こうとするが、ジオウはブースターの角度を微妙に変更することで空中で回転して突きを躱す。

 腕の向きを変えようとした直前に背中に痛みと衝撃を覚える。首だけを背後に向けるといつの間にか接近していたゲイツが斧モードのジカンザックスで斬り付けていた。ジオウを追撃することに意識を傾け過ぎてゲイツの接近を許してしまっていた。

 

『うががあああ!』

 

 ヒットアンドアウェイで離れていくゲイツを首を強引に動かして火球で狙おうとするアナザーAクウガ。すると、後頭部を強く殴打され真下に向けて火球を吐くことになる。

 ゲイツに注目したことで攻撃の手が緩まった隙にジオウはロケット形態から人型へ戻り、右手のブースターモジュールを飛ばしてアナザーAクウガの後頭部を攻撃していた。

 遠隔操作されたブースターモジュールが何度もアナザーAクウガの頭部に体当たりをする。

 すぐにアナザーAクウガの攻撃対象がジオウへ移る。ジオウはまだブースターモジュールが戻っていないので機動性は半減しており、今ならアナザーAクウガの攻撃も簡単に当たってしまう。

 しかし、ジオウに焦った様子は無い。精神的な理由で視野の狭くなっているアナザーAクウガには見えていないが、ジオウには見えていた。

 アナザーAクウガに向かって飛ぶ不死鳥とドラゴンの姿が。

 

「はあ!」

「おらぁ!」

 

 アナザーAクウガの横顔にビルドとクローズマグマの拳が叩き込まれる。ビルドはパワーアームで、クローズマグマはマグマナックルを付けた拳で打ち込んでおり、破壊力を増した二人の拳が直撃し、アナザーAクウガの顔面の外骨格に罅が生じ、黄土色の体液が流れ出る。

 

『かっ! が、あああ……』

 

 ぐらりと体を傾けるアナザーAクウガ。よろめくその姿でビルドとクローズマグマの一撃がどれだけ重かったのかを表していた。

 

「今だ!」

 

 ロケットモジュールが戻るまでの間に、ジクウドライバーにセットしたライドウォッチのスイッチを押す。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『フォーゼ!』

 

 ジオウが必殺の一撃への体勢に入ったのを見てゲイツもジクウドライバーをスイッチを押し、更にウィザードライドウォッチをジカンザックスに填める。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『ビースト!』

『ウィザード!』

 

 ロケットモジュールを腕に装備し直すと、ロケット形態に変形。急加速でアナザーAクウガから離れ、ある程度の距離を稼ぐと反転し、また加速。そこで体勢を入れ替えて両足を突き出す。

 両足裏に刻まれた『キック』の文字がエネルギー体となって飛び出し、ブースターの角度を調整したことで錐揉み回転するジオウに合わせて文字も高速で回り出す。

 

「宇宙ロケットきりもみキィィィック!」

『リミット! タイムブレーク!』

 

 穿つ様にしてアナザーAクウガの胴体に打ち込まれるジオウの蹴り。アナザーAクウガの体はくの字に折れ、ブースターの勢いで上昇させられていく。

 その先に待ち構えるのはゲイツ。ビーストライドウォッチとウィザードライドウォッチの力が充填されたジカンザックスを両手で握り締めている。

 

「くらえ!」

『キマイライズ! タイムバースト!』

『ザックリカッティング!』

 

 ジカンザックスを振り抜く。その刃から隼、水牛、イルカ、カメレオンの群れが放たれる。しかも、その群れは火、水、風、土によって形成されたものであり、アナザーAクウガの背に大群となって襲い掛かった。

 火は燃やし焼き、水は濡らしてから凍結し、風は捻じり斬り裂き、土は纏わり、突き刺さる。

 四種の獣が四属性を宿すことでアナザーAクウガの背面に大きなダメージを与える。

 

『ぐ、か、かかか!』

 

 背面を攻撃されたことでアナザーAクウガの羽は使い物にならなくなり、自由に移動出来ず辛うじて宙に止まることしか出来なくなる。それでもアナザーAクウガは宙に浮いたまま隻腕を振り回そうとするが──

 

「させるかぁぁぁ!」

 

 そこに突撃するのはクローズマグマ。勢いよくドライバーのハンドルを回し、回し終えるとマグマナックルのナックルダスター部分に掌を叩き付ける。

 

『ボルケニックフィニッシュ!』

『ボルケニックナックル!』

 

 クローズマグマの接近に気付き、慌てて隻腕を伸ばすアナザーAクウガ。クローズマグマはその突きを躱すと、隻腕を中心として螺旋状に飛行する。

 勿論、ただ飛行するだけではない。飛びながらアナザーAクウガの腕を左右の拳で打ち続ける。

 

「おらおらおらおらおらおらぁぁぁぁぁ!」

 

 灼熱の拳打を浴びせられ、アナザーAクウガの腕は打ち込まれた箇所が炎上していく。高熱と拳の重さで甲殻が砕け、融解し、変形させられていき、クローズマグマが肩まで昇ってきた時には隻腕は歪な形になっていた。

 腕を使用不能にしたクローズマグマは離れ、替わってビルドがアナザーAクウガに接近。ドライバーのハンドルを回す。

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 左手のパワーアームにエネルギーが流れ込み、巨大エネルギーアームを創り出すとそれによってアナザーAクウガの頭部を鷲掴みにする。

 強力な握力によって締め上げられる頭部。甲殻や角が折れる音が響く。アナザーAクウガも抵抗しようともがくが腕が使えない為、身を揺さぶることでしか出来ない。当然、その程度の抵抗でエネルギーアームから逃れることなど不可能。

 ついには耐え切れることが出来なくなり、アナザーAクウガは落下。それと同時にエネルギーアームは頭部から離されるが、ビルドは落ちるアナザーAクウガを追い、その全身を炎で包む込み、不死鳥となってジオウが『宇宙ロケットきりもみキック』を打ち込んだ箇所に突撃した。

 

『うがああああああ!』

 

 絶叫を上げるアナザーAクウガ。ビルドのボルテックフィニッシュによる体当たりで勢い増した状態で地面に叩き付けられた。

 地面にめり込むアナザーAクウガ。だが、手足は動いておりその驚異的な生命力で再び動き出そうとしていた。

 空から降り立った四人。

 

「早くどうにかしないとまた脱皮して力が増すぞ」

「大丈夫。これがあるから!」

 

 ジオウがビルドたちにライドウォッチを見せる。それはゲイツによって手渡されたもの。

 赤と金の外装。描かれているのは赤い目、金色の角。間違いなくクウガの顔。クウガライドウォッチである。

 ティードが遺跡でクウガの力を奪った時、ゲイツが崩壊する遺跡の中でミイラに残った微かなクウガの力をライドウォッチに移したことで手に入れた物。

 アナザークウガを完全に倒すには、クウガの力しかない。

 ジオウはクウガライドウォッチを起動。

 

『クウガ!』

 

 起動状態となったクウガライドウォッチをフォーゼライドウォッチと交換し、いざライダーアーマーを喚ぼうとした時──

 

(あれ……?)

 

 何故か『いけそうな気がする!』という気持ちにならなかった。いつもなら新たライドウォッチを手に入れた時には根拠も無く自信が溢れて来る筈なのに、今はそれが無い。何か見落としているかの様に。

 

「どうした?」

「う、ううん。何でもない」

 

 だからといって何もすることなど出来ない。ジオウはジクウドライバーを回転させ、アーマーを召喚する。

 

『アーマーターイム!』

 

 出現したライダーアーマーは三ツ又の角。丸みのある肩装甲。銀に縁取られた赤い胸部装甲のシンプルなもの。

 内なる力が胎動し、殻を突き破る様にドンドンと音を強めていき、最後には──

 

『クウガ!』

 

 パーツとなってジオウへ装着。『ライダー』の文字が消え、飛び出してきた『クウガ』の文字が填まることで、ジオウクウガアーマーが完成する。

 

(やっぱり……)

 

 クウガアーマーを纏ってもやはり『何かいけそうな気がする!』と声に出すことが出来なかった。アナザーAクウガを倒す条件が揃っている筈だというのに。

 モヤモヤとした気持ちを抱えるジオウ。だが、それの答えが何なのか導き出す前にアナザーAクウガがゆっくりと立ち上がっていく。

 

「いけ、ジオウ! 倒すなら今だ!」

 

 不安を抱えたままジオウはジオウライドウォッチとクウガライドウォッチのスイッチを押す。

 

『フィニッシュタァァイム!』

『クウガ!』

 

 ジオウは右足を下げながら腰を落とし、両手を左右に広げる。地面を踏み締めながら駆け出していくと、駆け抜けていく足跡に一瞬だが炎の様な光が灯る。

 全速力でアナザーAクウガに近付いていき、一定の距離までいくとそこで跳躍。空中で前方宙返りをして右足を突き出した蹴りの体勢へと移る。

 

『マイティ! タイムブレーク!』

「おりゃああああああ!」

 

 マイティタイムブレークがアナザーAクウガの胸部に炸裂。燃える『キック』の文字がアナザーAクウガの胸に刻み込まれた。

 後ろへよろめいていくアナザーAクウガ。このまま倒れ、アナザーウォッチが破壊──されることなくアナザーAクウガは踏み止まり、尚且つ胸に刻まれた『キック』の文字も鎮火される様にして消え去った。

 

「馬鹿な! 同じライダーの力の筈なのに!」

 

 クウガライドウォッチでアナザーAクウガを倒せなかったことにゲイツは驚く。一方でこうなることを何となく予期していたジオウは特に動揺はしなかったが、これから先どう戦えばいいのか迷ってしまう。

 その迷いの隙にアナザーAクウガは口内に炎を灯す。最大まで高めたそれをジオウに吐き出そうとした時──

 大きな風切り音。ジオウの背後から何かが飛んで来る。その音に思わず振り返ってしまうジオウ。彼が見たのはこちらに向かって飛ぶビークルモードのゲイツ専用のタイムマジーン。そして、そのタイムマジーンに乗っているのは──

 

「照井刑事!」

 

 アクセルへ変身している照井がタイムマジーンの上でエンジンブレードを構えて立っていた。

 

『エンジン! マキシマムドライブ!』

 

 エンジンメモリの力を解放すると、タイムマジーンをも包み込む炎が発生し、それがAの文字を象る。

 炎のAは立ち尽すジオウの頭上を通過し、アナザーAクウガへ衝突する。

 

「おおおおおおおおお!」

 

 炎のAがアナザーAクウガを貫こうとする。傷付いた甲殻で何とかそれに耐えるアナザーAクウガ。このままでは胴体を貫通させられると判断したのか、口腔に溜め込んでいた炎をAに吐き出した。

 炎と炎が接触すると爆発を起こし、アナザーAクウガもタイムマジーンも吹っ飛んでいく。

 爆風から身を守るジオウ。その側に何かが落ちた音がする。タイムマジーンに乗っていたアクセルが片膝を突いた状態でそこに居た。

 

「──待たせたな」

「いや、無茶し過ぎだって……」

 

 大怪我を負っている筈なのに今の様な派手な合流をしたアクセルに、ジオウは思わずそう言ってしまった。

 

 

 ◇

 

 

「いたたた……大丈夫、デネブ?」

「はい、大丈夫です。頑丈だから」

 

 吹っ飛ばされたタイムマジーン内でツクヨミは頭を押さえていた。側にデネブも居るが、彼女の様に痛がってはいない。

 アクセルをタイムマジーンで運んだのは良かったが、アナザーAクウガから反撃を受けたせいで半壊していたタイムマジーンが一段と破壊が酷くなり、コックピット内では火花が散り、至る所からケーブルが垂れている。

 

「早く脱出しないと──」

 

 すると、コックピットの出入口が勝手に開く。ツクヨミは反射的にファイズフォンXを構えた。

 

「私だよ、ツクヨミ君」

「ウォズ!」

 

 ウォズがコックピット内を覗き込む。

 

「手を貸そう。早く出ないと爆発するかもしれない」

「──分かったわ」

 

 ファイズフォンXを仕舞い、ウォズに手を伸ばす。

 ウォズの手助けですぐにタイムマジーン内から脱出出来た二人。すぐにタイムマジーンから離れる。

 

「助けてくれたことには礼を言うわ。でも、ウォズ、貴方はここへ何をしに?」

「当然、我が魔王を祝福する為に」

 

 ツクヨミがジオウを見る。ジオウはツクヨミが見たことの無いアーマーを纏っていた。

 

「こんな時に……」

 

 呆れるツクヨミであったが、ウォズは何時にも無く真剣な表情となる。

 

「だが、まだだ」

「まだ?」

「私の勘が、まだ祝福する時では無いと囁くのだ」

 

 何を考えているのか分からない相手だが、今回は一段と何を考えているのか分からない。

 

「あの、この人は何を?」

「ごめんなさい。私にも分からないわ……」

 

 デネブが小声で尋ねるが、ツクヨミはそう返すしかなかった。

 

「今のクウガアーマーでは、アナザーAクウガは倒せない。なら──」

 

 ウォズは逢魔降臨暦を開き、全てを見通しているかの様に小さく笑った。

 




来年には本編の話を終わらせるのを目標にしたいですね。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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