爆発。少し遅れて発生する衝撃波が大地や建物を細かく震わす。
小さく揺れる建物の上からウォズは爆発地点を見ていた。
「我が魔王……」
その声には、普段の慇懃無礼さが消えており若干の不安が混じっている。ウォズの『逢魔降臨暦』を掴む手に無意識に力が込められる。
『ウォズよ……』
響き渡る威厳に満ちた声。それを聞いたウォズは目覚めかの様に眼を見開き、周囲を見回す。
「その声は……! 我が魔王……!」
すると、ウォズの前方に銀色のオーロラが現れ、ある光景が映し出される。
荒廃した大地。そこに佇む金色の仮面ライダー。
一目見た瞬間、それ以上見ることは無礼とでも言わんばかりに片膝を突き、首を垂れる。
この存在こと未来のソウゴであり、ゲイツやツクヨミから最低最悪の魔王と称された者、オーマジオウである。
「どうなされました? 我が魔王よ。この様なご連絡を頂けるとは……」
恭しく説明を求めるウォズ。彼にとって想定外のこともあった声が緊張に満ちている。
『状況はどうなっている?』
「この時代の我が魔王が、現在タイムジャッカー・ティードとの決戦に挑んでいます。──今回の件、我が魔王の耳にも届いていたのですね。感服致します」
『そうか……』
「……無礼を承知で申し上げますが、もしやこの件を我が魔王が直々に解決を──」
『ウォズ』
「はっ! 申し訳ございません。出過ぎた真似を」
『私が手出しをしたところで、根本的に解決にはならない』
「それは、どういうことでしょうか……?」
ウォズはここで顔を上げ、オーマジオウを見た。
『この件は、若き日の私と彼らでなければ解決することは出来ない』
理由は述べず、あくまで解決策だけを言う。ウォズはそれ以上追求することはしなかった。ウォズにとってオーマジオウの言葉は絶対である。
「分かりました。それが我が魔王の計ならば」
『そして、その為にはあのウォッチが必要となる』
「あのウォッチ? まだ新たなライドウォッチが必要なのですか?」
『既にお前が持っている筈だ、ウォズよ』
その一言で察したウォズの顔色が変わり、明らかな動揺が浮かぶ。
「お、お言葉ですが我が魔王よ。今の魔王にあのウォッチを渡すのはまだ早計かと。せめて『オーマの日』が来るまで……」
『若き日の私には今必要なのだ』
一言から発せられる圧。映像越しだというのにウォズの顔から冷汗が流れ出る。映像であろうと何十年先の未来と過去であろうとオーマジオウにとっては些細な障害。その気になれば時間も場所も関係無く相手を容易く消し去ることが可能、と臣下であるウォズは断言出来た。
「重ね重ね申し上げますが……今の我が魔王ではあのウォッチの力を完全に引き出すことは出来ないかと……決して今の我が魔王の秘められた可能性を疑っているという訳ではございませんが……」
『流石はウォズ。慧眼だ』
「は、はぁ。有り難き御言葉」
実力不足であると申告したことに対し、 責されるどころか逆に褒められてしまい、ウォズは若干の困惑を抱きながら頭を下げて感謝の意を示す。
『お前の言う通り、今の若き日の私にはあのウォッチの力を完全には引き出せない。だが、多少なりとも力を得ることは可能だ』
「何故そこまでして力を与えようとするのですか?」
事を急がせている。ウォズにはそう思えて仕方ない。
『彼らと肩を並べて戦うのに、若き日の私はまだ未熟! 掲げる夢は広大かもしれないが、叶えるには多くが足りない! そんな若き日の私が既に至っている彼らと共に戦うなど失礼の一言に尽きる!』
王としても仮面ライダーとしても道半ばのソウゴに、せめて体裁だけは整えさせておけ、というオーマジオウの命令。
「彼ら……?」
ウォズはまだ知らない。フータロスの全力によってこの世界に平成ライダーたちが次々と現れていることを。その為、彼らが何を指しているのか察せず戸惑う。また、ウォズが戸惑う理由はもう一つあった。
唯一無二の魔王であるオーマジオウから彼らに対し並々ならぬ敬意を感じ取れたからだ。
「──分かりました。臣下として役目を果たしてみせます」
だが、ウォズは問うことはせず、オーマジオウの命を受け取る。
『頼んだぞ』
銀色のオーロラと共にオーマジオウの映像も消え去る。オーマジオウが消えて数秒経った後ウォズは立ち上がり、軽く息を吐く。
「ふぅ……我が魔王とはいえ、心臓に悪い」
突然現れたオーマジオウに対し、少しだけウォズは愚痴の様な言葉を零す。
ウォズは懐に手を入れ、中からある物を取り出した。ジオウの顔が描かれたライドウォッチ。だが、ソウゴが持っているジオウライドウォッチとは少し異なり、ジオウの画は煌き、外装も銀色に輝いている。
このライドウォッチこそオーマジオウがソウゴに渡すよう命じた物である。
「さて、命令通りにこれを今の我が魔王に渡すとして」
ソウゴたちが居るであろう方向を見る。途端、大気を震わす程の獣声が響き渡ってきた。その声量は、かなり離れた場所に居るウォズが音量で顔を顰める程である。
そこに途方も無い怪物が居ることが嫌でも伝わってくる。
「どうしたものか……」
命令を受け取ったが簡単に行きそうにないと分かっているので、渡す手段を考えるウォズ。
「──おや?」
何気無く空を見上げたウォズ。彼の目に通り過ぎていく赤い機影が映り込んだ。
◇
「どうなっている!?」
タイムマジーンの中でゲイツは焦る。
ツクヨミを安全な場所に避難させた後、タイムマジーンで急いで戻って来たゲイツが見たものは、大きなクレーターとその周囲の殆ど倒壊した建物であった。
ほんの数分前までビルや建物が雑居していた場所とは思えない。遠くから見た爆発が、どれ程の威力があったのか嫌というぐらいに見せつけてくる。
「奴らは、ジオウは何処に……!」
ジオウや他のライダーたちを探す。この規模の爆発では無事では済まない。下手をすれば──
その時、倒壊している建物の瓦礫が下から突き上げる様に盛り上がる。『ジオウたちか!?』などと楽観的な考えは浮かばない。何故なら盛り上がる瓦礫の範囲が明らかに大き過ぎる。
瓦礫を吹き飛ばしながらアナザーRUクウガが咆哮と共に立ち上がった。ゲイツから見れば悪魔の様な光景である。
黒炎で爆発を引き起こし、それによって巻き上げられた瓦礫で押し潰されたという間の抜けた失敗をしたアナザーRUクウガであるが、そんな失敗など無かったかの様に無傷。
ゲイツは、操縦桿を握る手に自然と力が込められる。アナザークウガですらタイムマジーンでは一方的に負けた。それを上回る力と体格を持ったアナザーRUクウガに勝てるビジョンが見えてこない。
アナザーRUクウガは四つん這いになり、犬の様にニオイを嗅ぎ分ける動作を見せる。それを不審に思うゲイツも、モニターで周囲を確認する。
「──居た!」
アナザーRUクウガから十数メートル離れた位置に横たわる戦兎を発見。近くに万丈、一海と幻徳も居た。
変身が解除される程のダメージを与えられ動く気配が無い。だが、センサーでまだ生きていることが確認出来た。気絶しているだけであった。
彼らと右方向に照井が仰向けになって倒れ、左方向に侑斗とデネブ。どちらも同じく気絶しているだけであった。
アナザーRUクウガは、戦兎たちの位置を特定させようとしているのかと思われたが、アナザーRUクウガは戦兎たちとは逆方向に向かって行く。
「何……?」
ゲイツは急いでアナザーRUクウガの進路先を確認する。
「ジオウ……!」
その先にはソウゴの姿。やはり彼も気絶していた。
「何故ジオウを……!?」
他の者たちよりも優先してソウゴを狙うアナザーRUクウガ。その疑問はすぐに答えに至った。
「そうか! ライドウォッチか!」
ジオウの持つクウガのライドウォッチ。アナザーRUクウガは、その気配を感じ取ってジオウの下に向かっているのだと理解する。
そう、ゲイツがソウゴに渡したライドウォッチによってソウゴは命の危機に陥ろうとしていた。
このまま放っておけばジオウは確実にアナザーRUクウガの餌食となる。
(──何で迷っているんだ! 俺は……!)
ゲイツの目的はオーマジオウが破滅させる五十年後の未来を救うこと。その為にソウゴを倒す為、過去へとやって来た。
このまま行けば自分の手を汚すことなくソウゴは死に、オーマジオウは消え、未来は救われる。至って答えは単純。迷うこと自体が問題である。
だというのに、頭では理屈が分かっているとうのに──
アナザーRUクウガとソウゴの距離は十メートルを切る。アナザーRUクウガは右腕を振り上げた。あと一歩踏み込めば、右腕の間合いにソウゴが入る。
アナザーRUクウガの右足が大地を踏み締めようとしたとき──
「おおおおおおおお!」
ロボモードとなったタイムマジーンの足がアナザーRUクウガの横顔を蹴り飛ばす。
意識外の奇襲を受け、アナザーRUクウガは横転していく。
「俺は、まだこいつを見定めていない!」
ソウゴは自身がオーマジオウの様な魔王になると確信したら倒せばいいとゲイツとツクヨミに言った。その確信に至っていないし、ならないという確信も無い。答え出ない今、ソウゴを倒させる訳にはいかない──と言い訳の様に叫び、自らの行為を無理矢理納得させる。
アナザーRUクウガは咆哮する。目の前に立ちはだかるタイムマジーンを敵と認識し、ソウゴよりも先に排除することを決めた。
右の一本、左の三本。長さの違う両腕を威嚇する様に振り上げる。
タイムマジーンが踏み込む。そのタイミングでタイムマジーンに変化が起きた。ゲイツライドウォッチと同じ形の頭部が別の物へ置き換わる。
U字型のバイザー。その中央にある緑と透明の二色の頭部。仮面ライダーバースのバースライドウォッチへと。
頭部が変わったことでタイムマジーンにもライドウォッチの影響が現れる。左手にコイン型のエネルギーが集まると、バケットが生成されショベルアームに変化。
タイムマジーンはショベルアームで先に仕掛ける。爪に見立ててアナザーRUクウガの体に突き立て、そこから下に向けて一気に振り下ろす。
火花散るアナザーRUクウガ。
「くっ!」
だが、悔し気な声を出すのはゲイツの方。アナザーRUクウガを引き裂いたかに思えたショベルアームの先端が削れている。火花はアナザーRUクウガではなくショベルアームから生じたもの。甲殻の硬さに完全に負けていた。
アナザーRUクウガの右腕が伸びる。タイムマジーンの肩を掴み、引き寄せると左手がショベルアームを掴む。
右肩、左腕を押さえられてしまうタイムマジーン。アナザーRUクウガはその口内に黒炎を溜め始める。
「今だ!」
胸部に形成される砲口──ブレストキャノンが近距離で赤い光線を発射。アナザーRUクウガの腹部に命中する。
『ガアアアア!』
相手を押さえつけていたと思っていたら、自分の方が無防備を晒していたという皮肉。光線を照射され続け、アナザーRUクウガの両手がタイムマジーン離れると、光線に押されてアナザーRUクウガは地面に深い溝を作りながら後退させられていく。
狙い通りの一撃にゲイツもしてやったりという気持ちになるが、十数秒後にはそれが焦りに転じる。
光線はアナザーRUクウガの甲殻を溶かしていくがいつまで経っても貫通しない。溶けた甲殻の下から新たな甲殻が現れ続ける。ブレストキャノンの威力とアナザーRUクウガの再生能力がほぼ均衡してしまっている。
『グガアアアアアアア!』
それどころかブレストキャノンを受けながら前進し始めた。焼かれる痛みを怒りに変え、光線を裂きながらアナザーRUクウガが迫って来る。
「こいつ……!」
想像を上回る怪物の力を目の当たりにし、ゲイツはすぐに戦い方を変える。
ブレストキャノンの光線が途絶え、勢いが無くなったせいで前のめりになるアナザーRUクウガ。その両足目掛け、滑走するタイムマジーン。
顔がバースライドウォッチからドライブライドウォッチに変わったことでタイヤも無いのに地面を疾走する能力を得る。
スライディングキックで足を掬われるアナザーRUクウガ。浮いた巨体がすぐに落下し、地面の上で大の字になる。
四本の腕で地面を突き、跳ね上がる様にして立ち上がったアナザーRUクウガは、振り返って背後に居るであろうタイムマジーンに向き直ろうとするが、向いたタイミングに合わせて疾風を纏った脚がアナザーRUクウガの顔を蹴る。
ドライブライドウォッチからWライドウォッチの顔となったタイムマジーンの蹴りは、緑の風による速度の上乗せだけでなく、切り札の記憶を宿すジョーカーの力も加わって切れ味も増している。
一撃、二撃、三撃とアナザーRUクウガへ立て続けに打ち込む。そして、四撃目を打ち込もうとしたとき──アナザーRUクウガの右手が伸びる。
「くっ!」
四撃目はアナザーRUクウガの顔面に入ったが、タイムマジーンも片腕を掴まれた。何とか振り解こうとする。しかし、直後に聞こえた破砕音がタイムマジーンの中のゲイツを止めた。
まるで粘土でも潰すかの様にタイムマジーンの片腕がアナザーRUクウガの手で握り潰される。金属を物ともしないアナザーRUクウガの怪力。
今度は左の複腕がタイムマジーンに掴みかかる。掴まればその場でタイムマジーンが解体される。
「やむをえん!」
タイムマジーンが跳躍。その勢いでタイムマジーンの片腕が千切れる。アナザーRUクウガの左複腕は、タイムマジーンの足裏を掠っただけで空振る。
片腕を代償としてアナザーRUクウガの手から逃れたタイムマジーン。その下ではアナザーRUクウガがタイムマジーンの片腕を不思議そうに見つめていたが、すぐにゴミの様に放り棄てる。
そして、頭上にいるタイムマジーンに向けて黒煙を吐き出す。
モニター画面が黒く塗り潰され、視界を奪われてしまうゲイツ。目潰しかと思ったが、黒煙はそれ以上に厄介なものであった。
「──何だ?」
黒い煙の中で何かが蠢く。画面を凝視するゲイツ。ドン、という音と共に無数の怪人たちが画面に顔を叩き付けてきた。
「これは!?」
黒煙から発生した怪人たちは、タイムマジーンを覆い尽くしていた。モニターが見えなくなる程の密度でしがみつく怪人たちは、己が持つ武器を用いてタイムマジーンを攻撃し始める。それは、蟻が自分より大きな虫に群がる様な悍ましさを見る者に与える。
だが、どれだけ怪人たちが攻撃を加えようともタイムマジーンの装甲はビクともせず、爪痕すら残せない。アナザーRUクウガの力が異常なだけで、本来ならこれが正しい光景であった。
タイムマジーンは体を振り、纏わりつく怪人たちを振り落とそうとする。身を振るう度に怪人たちが地に落ちていくが、それは怪人たちにしがみついていた怪人たち、つまりは表層でしかなく、まだかなりの数がタイムマジーンに付いている。
アナザーRUクウガは、徐に落ちてきた怪人たちを掴み取る。四本の腕で一体一体掴みのではなく纏めて数体握り潰す様にして掴む。
自分で生み出した者たちだが、アナザーRUクウガの目にはそれらの存在など路傍の石ころ以下の認識しかなく、故に雑に、無慈悲に、残酷にそれらを扱えた。
両腕を後ろに反らして力を溜め、一気に開放して怪人たちを投擲する。成人男性並みかそれ以上の重量を持つ怪人たちの塊が、砲弾と化してタイムマジーンへ飛んでいく。
衝撃。傾くタイムマジーン。
「攻撃をされている!?」
タイムマジーンを揺さぶられ、攻撃を受けていることに気付くゲイツ。すぐに回避行動に移ろうとするが、張り付いている怪人たちがタイムマジーンの動きを阻害。動けない所に次弾が命中した。
「うあっ!」
タイムマジーン内で火花が生じる。アナザークウガとの戦いでの損傷を応急処置で済ませたせいで早くも限界が来ていた。
更に怪人たちの塊が命中。内部画面がエラーを映し出し、空中で留まることが出来なくなり、タイムマジーンは落下する。
地面に落ちたタイムマジーン。その衝撃で纏わりついていた怪人たちも半数以上が離れていた。
ノイズが走る画面を見る。そこに映っていたのは、こちらに向けて黒い炎を放とうとしているアナザーRUクウガの姿。
「くっ! 動け!」
足から噴射で地面を滑る様に動くタイムマジーン。そのすぐ後に黒炎が吐き出された。黒い炎が着弾と共に爆発を起こし、タイムマジーンはそれに巻き込まれる。
「うああああああ!」
爆発の影響で内部機械が誤作動を起こし、コックピットのハッチが開いてしまいタイムマジーンの中からゲイツが飛び出す。
地面を転がった後、立ち上がろうとするゲイツ。そこへアナザーRUクウガが振るった掌が叩き付けられた。
全身への殴打。骨や内臓にまで響く重い一撃。幸いなのは、立ち上がった直後に受けた一撃だったせいで足に力が入らず相手の力に身を任せる状態となり、結果的に力をある程度受け流すことが出来た。もし、無意識に体へ力が入り、踏み止まる様な動きをしていたら全身の骨が砕けていたかもしれない。
巨大な平手打ちでゲイツは何処かへ飛ばされていく。背中から落下し、空を見上げるゲイツ。
「く、くう……!」
大きなダメージを受けて尚不屈の精神で立ち上がろうするゲイツ。歯を食い縛りながら地面に両手を突き立て、震える膝に全力を注ぎ込んで立ち上がる。
体のバランスも上手く保てずフラフラと体を揺らすゲイツ。ふと、背後に気配を感じて首だけ動かして後ろを見る。
偶然か必然か、そこには気絶しているソウゴ。ソウゴを守る為に戦いを始め、その終わりもソウゴの目の前で起きるかもしれない。そんな運命にゲイツは思わず苦笑する。
未来を滅茶苦茶にする怨敵かもしれないのに。いつかは戦う運命にある宿敵かもしれないのに。何故かこうやって立ち上がり、敵わない強敵に武器を構えている。
自分で自分の行動を不思議に思う。もしかしたら、自分がこんな真似をする理由を知りたいからこそソウゴの行く末を見たいのかもしれない。
アナザーRUクウガが黒煙で生み出した怪人たちを伴ってこちらに向かって来る。ゲイツは臆せず、叫ぶ。
「──来い!」
魂から振り絞った声が届いた者が居た。
「う、うう……?」
ソウゴは気絶から目を覚まし、すぐに自分の置かれている状況を知る。迫るアナザーRUクウガと怪人たち。そして、自分を守る為にそれらに立ち塞がっているゲイツ。
「ゲイツ……!」
ゲイツの名を呼ぶが反応は無い。
間近に迫る死。死をここまで近くに感じたのは人生で二度目であったが、そんなことよりもソウゴは恐れたのはゲイツの、仲間の死である。
「ゲイツ……! 逃げろ……!」
すぐに動けない自分のことよりもゲイツのことを優先するソウゴ。しかし、ゲイツから反応が返ってこない。
アナザーRUクウガたちはどんどんと迫ってくる。ソウゴたちの命が秒読みとなったとき──
「俺の必殺技──パート2!」
掛け声と共に刀身がソウゴの背後から飛び出し、怪人たちを横薙ぎに一刀両断する。爆散する怪人たち。
「おりゃああああ!」
アナザーRUクウガへ一直線に飛んでいく赤い影。アナザーRUクウガの顔面に蹴りを打ち込むと、大きな紋章──クウガの紋章が浮き上がるとあれ程頑丈であったアナザーRUクウガが苦鳴を叫ぶ。
『グガアアアアアアアッ!』
顔面を押さえながら大きく後退していくアナザーRUクウガ。
「ったくよぉ。誰を抜いてクライマックスを始めようとしてんだ」
ソウゴの脇を通り抜けていくチンピラの様な口調の人物。剣を肩に担いで歩くは、電王。
アナザーRUクウガに一撃を与え、素早く後退して電王と並ぶクウガ。
二人ともゲイツとソウゴを守る為に彼らの前に立つ。
「大丈夫?」
「う、うん」
少しだけ顔を後ろに向け、クウガがソウゴに話し掛ける。
「あの子が君たちを助けてって言ってすぐに来られて良かった……」
「アタルって奴に感謝しろよ。自分のことはいいからお前たちを助けてくれとさ」
怪人たちを蹴散らした二人は、シンゴとアタルの頼みを聞いてすぐにソウゴたちを助けに向かった。その結果、彼らを間一髪で助けることが出来た。
「──にしても凄いよね?」
「え?」
クウガと電王に並び立つ様に次々と降り立つ人影。全てが仮面ライダー。ソウゴが見た事がある仮面ライダーがいれば、見た事も無い仮面ライダーもいる。
「俺の知らない場所で戦っている人達が居るってさ」
「へっ! 役者も揃ってクライマックスらしくなってきたじゃねぇか!」
十八人の仮面ライダーが揃って並ぶ。
『グガアア……ヘイセイ……ライダー……!』
失われた筈のアナザーRUクウガの理性も、その光景に揺さ振られるものがあったのか、平成ライダーの口にしながら、怯んだ様に一歩後退する。
『グガアアアアアアア!』
平成ライダーたちへのプレッシャーを跳ね除け、アナザーRUクウガは咆哮する。それを合図にして平成ライダーたちとアナザーRUクウガの戦いが始まった。
◇
気絶している照井竜。そこへ忍び寄る怪人たち。アナザーRUクウガの黒煙から零れ落ちた怪人たちである。
本能か習性かは分からないが、仮面ライダーである照井の命を狙う。
すると、照井の体から光が溢れ出し、それが集まって人の形となる。白のスーツに白の中折れ帽を斜めに被る渋味のある壮年の男の姿になると、近くにいた怪人の一体を蹴り飛ばす。
「お前ら……俺の
帽子の陰から覗かせる鋭い眼光が、怪人たちの足を竦ませる。
「う……」
意識を取り戻した照井は、ぼやけた視界で自分の前に立つ帽子に白スーツの男の背中を見た。
「左……?」
仮面ライダーWの変身者であり、戦友でもある男の名が思わず出てしまう。すると、白スーツの男は帽子に手を触れながら照井を見る。
「あいつも俺と見間違うぐらい帽子の似合う男になったか……」
「──馬鹿なっ! まさか……!」
この世界で何度も驚かされてきたが、これが最大の衝撃であった。この世界でも照井の居た世界でも既に存在しない男が目の前に居るのだから。
「鳴海、荘吉なのか……!」
照井の妻である亜樹子の父親であり、故人である男。そして──仮面ライダーでもある。
荘吉は帽子を脱ぎ、腹部にある物を当てる。片方だけにスロットが設けられたドライバー、名をロストドライバー。
照井と同じくガイアメモリを取り出す荘吉。刻まれたイニシャルはS。
『スカル!』
骸骨の記憶を宿すガイアメモリをロストドライバーのスロットに挿し込む。
「変身」
『スカル!』
スロットを横に倒すとメモリの力で荘吉を作り替えていく。
黒一色の肉体。胸には肋骨を思わせる銀のマーク。首には端が擦り切れたマフラーを巻き、顔を髑髏そのものであり、額に傷の様なSのマーク。
仮面ライダースカルと成った荘吉は、帽子を再び被る。
「さあ、お前らの罪を」
怪人たちを指差し──
「数えろ」
その手の甲を返すと、怪人たちが一斉にスカルへ襲い掛かる。
「トォ!」
素早い前蹴りが怪人一体の胸を蹴り、そこから拳を別の怪人に打ち込むと流れる様な動きで三体目の怪人にボディブローを食らわせる。
「そこで見ているだけか?」
「え?」
スカルは戦いながら照井に話し掛ける。
「亜樹子が惚れた男は、そんな所で見ているだけのやわな男かと聞いているんだ?」
「──まさか」
照井はダメージなど無視して立ち上がる。
「あと俺に質問をしないで下さい」
「ふっ。それならいい」
ドライバーとガイアメモリを構える照井に、スカルはちょっとした助言を送る。
「力を使うなら出し惜しみは無しだ。想像しろ。お前の最強の力を」
「最強の力……?」
スカルの言葉に従い、アクセルはイメージする。自分の持つ最強の力を。すると、いつの間にか手の中に握られていた物。銀色の凸型のアダプター。ガイアメモリの能力を強化させるガイアメモリ強化アダプターであった。
「これは……!」
「使え。それが今のお前に必要な物だ」
照井はアクセルメモリを強化アダプターに挿す。
『アクセル! アップグレード!』
これによりアクセルメモリは三倍まで強化される。
「限界を超えて──振り切るぜ!」
照井はアクセルメモリをドライバーへ挿し込んだ。
◇
何かの物音で侑斗は目を覚ます。横たわった目線のデネブが見え、侑斗はデネブの肩を揺さぶる。
「デネブ、起きろ……」
「う、うーん……?」
意識を取り戻すデネブ。侑斗もハッキリとしない頭のまま周囲を確認しようとして一気に覚醒した。
「なっ!」
こちらへと向かって来る怪人たち。だが、そんなものは侑斗の眼中に無かった。彼の目が一点に集中しているのは、目の前に立つ男。
ベージュの外套を纏い、キャップ帽の上にチューリップ帽と二重に帽子を被る奇抜な格好。
侑斗は、その奇抜さに目を奪われたのではない。存在しない筈の男が存在することに驚いたのだ。
デネブも同じ様に驚いて跳ね起き、侑斗とその男を何度も見返す。
「侑斗と……侑斗!」
この男もまた桜井侑斗である。ただし、何年先の未来の桜井侑斗。未来を守る為に自らの存在を全て費やし、消滅した筈であった男がここに存在する。
「──つくづく驚かせてくれる世界だ」
侑斗は、これもこの世界によるものだと解釈した。ここまで来ると笑いそうになってくる。
未来の侑斗は何も言わず外套を捲る。その下はスーツであり、ゼロノスベルトが巻かれていた。
「変身」
『ALTAIR FORM』
ゼロノスへ変身した未来の侑斗は、ゼロガッシャーを手に怪人たちへ斬り掛かる。
「助ける為に、わざわざこんな世界に来たのかよ」
そのお節介さが自分の良く知る人物と被り、そしてそれが自分の行く末だと思うと妙な笑いがこみ上げて来る。
侑斗はしっかりと立ち上がり、ゼロノスカードを取り出す。それは今まで使った緑でも黄でもない赤のゼロノスカード。
「侑斗! それは──」
「カードは大事に仕舞っておくものじゃないんだ。こういう時に使わないとな」
デネブはそれ以上何も言わなかった。ただただ悲しそうにする。赤いゼロノスカードを使うことがどんな意味を示すのか、それを使う侑斗の意志がどれだけ強いのか、分かっていたからだ。
「それが侑斗の選んだ道なら……俺は付いて行く!」
「……ありがとな、デネブ」
侑斗は目を閉じ、短い時間ながらもこの世界で共に戦ってきた者たちの姿を思い浮かべ、そして目を開けると共にカードを挿し込んだ。
◇
何時まで眠っているんだい? それでも愛と平和を守る為に戦う仮面ライダーなのかい?
その声が聞こえた時、戦兎はまだ夢の中だと思っていた。それも限りなく現実に近い。
「早く起きなよ。他の仮面ライダーは戦っているっていうのに」
二度目に聞こえた時、それが紛れもなく現実の声だと理解し、一気に意識が覚醒する。
「はっ!」
目を開けると、自分と同じ様に意識を覚ましている万丈、一海、幻徳が見えた。
「ようやくお目覚めかい?」
「はっ……?」
「ああ……?」
「うん……?」
「なっ……?」
怪人たちと相対する人物。戦兎と同じ衣服を着て、髪型も同じ。だが、顔の作りは異なり狐の様な細目をしている。
不意打ちの様に現れたその人物に、戦兎たちは一瞬だけ呆けてしまった。そもそも存在することがおかしいのだから。
「葛城巧!?」
青年の名は葛城巧。優秀な科学者であったが、とある陰謀によって顔は作り替えられ記憶を失った。その記憶を失った後の彼こそが桐生戦兎であり、つまりこの場には同一人物が存在することを意味する。
「おまっ! どうなってんだよ!?」
「葛城巧って……何でいんだよ!」
「本当にお前なのか、葛城!」
混乱する戦兎たちに対し、葛城はうるさそうに顔を顰める。
「騒ぐなら後にしてくれないかな? 他の仮面ライダーたちの迷惑だ」
葛城はそう言ってビルドドライバーを装着。戦兎と万丈は慌てて自分のドライバーを確認すると、ドライバーもボトルもそこにあった。
「さあ、実験を始めようか?」
葛城は取り出したのはラビットフルボトルとタンクフルボトル。どちらも戦兎の手の中にある。
『ラビット! タンク! ベストマッチ!』
ハンドルを回し、ビルダーを形成する。
「変身」
『鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェーイ!』
葛城は指を鳴らすと装甲が前後から彼を挟み、ビルドへ変身させる。
「はっ!」
ウサギの跳躍で怪人たちに飛び掛かり、戦車の力でそれらを薙ぎ倒していく。戦兎のビルドと変わらぬ立ち振る舞い。
「君たち。何時まで眺めているつもりだい?」
怪人たちと戦いながら、ビルドは声を飛ばす。それを聞いて我に返った戦兎たちは、急いで変身しようとするが、そこにまたビルドの声が飛んで来る。
「この世界で必要なのは『想像』と『創造』だよ。そこを理解しておいてくれ。尤も、君は既に知っている筈だ」
ビルドの目が戦兎へ向けられる。その言葉に戦兎は心当たりがあった。玩具のフルボトルが本物と同じになったあの瞬間を。
「んだよ! 『そうぞう』と『そうぞう』って! 同じ意味じゃねぇか!」
「──君には言ってないんだけどね」
「そういうことか……!」
「理解したかい? 後は任せたよ。最強の力はもう君たちの中に在るからね」
「だからどういう意味だよ!?」
「出来なきゃ足りないってことさ。『気持ち』が」
いつか万丈が葛城に言った台詞を返され、思わず閉口する万丈。それを見て満足したのかビルドは怪人たちとの戦いに集中する。
「結局どういうことだよ?」
「現実も虚像も曖昧な世界では俺たちや人々の想像が大きな影響を与えるってことだ」
「つまりは?」
「正義のヒーローは負けないって強く思えば良いってことさ!」
戦兎の手が輝き、その中に一つの缶が生み出される。描かれているのは赤いマスクに兎を模した黄金の複眼。ただし、左半分だけ。
「それって……! ああ、そうか! そういうことかよ!」
万丈がドラゴンフルボトルを強く握る。すると、蒼のマスクに龍を模した銀色の複眼が缶の右半分に現れた。
「はっ、成程。得意中の得意分野じゃねぇか……!」
「やってやる……!」
一海と幻徳が強く願うとスクラッシュドライバーがビルドドライバーへ変わり、一海の手にボルケニックナックルに似た水色のブラスナックルと水色のフルボトルが握られ、幻徳の手にはフルフルボトルに似た紫のボトルが握られていた。
「さあ、この世界で俺たちの最後の実験を始めよう!」
幻徳はフルボトル──プライムローグフルボトルを折り曲げる。両端にあった黄金の装飾が折り曲げられたことで口を閉ざす鰐の横顔となる。
『プライムローグ!』
一海はフルボトル──ノースブリザードフルボトルを振って活性化させるとブラスナックル──グリスブリザードナックルへ装填、ビルドドライバーへそれを挿し込む。
『ボトルキーン!』
『グリスブリザード!』
戦兎は生み出した缶──クローズビルド缶のタブを引き起こす。クローズビルド缶が起動し、複眼が輝く。
『クローズビルド!』
それをビルドドライバーへ挿すと万丈がいつの間にか戦兎の後ろに立っていた。
「ダメです! は無しだぞ?」
「うるせぇ! ──何時でも来い!」
全員がビルドドライバーのハンドルを回す。戦兎たちの前後にビルダーによって金と銀の装甲が。幻徳を囲う様に煌びやかに輝くラインと地中から飛び出す鰐の大顎が。一海の背後にはブリザードナックルを模した坩堝が。
戦兎と万丈は、背中合わせのファイティングポーズをとって構える。その言葉に見せつける様に。
◇
ソウゴはアナザーRUクウガの相手を平成ライダーたちが引き受けている内に、ゲイツに呼び掛ける。
「ゲイツ! 大丈夫!?」
だが、やはり返事は返って来ない。
「ゲイツ!?」
「落ち着いてくれ、我が魔王」
ゲイツを揺さぶろうとしたソウゴの手を、ウォズが止めた。
「こればかりは賞賛させて貰おう、ゲイツ君。君の意思の強さはしかと見届けた」
「どういうこと?」
「彼は立ったまま気絶しているんだ」
「えっ!」
ジカンザックスを構えたままゲイツが意識を失っていることを知り、ソウゴは驚くしか無い。
「君が聞いていたら絶対に否定していただろうが、そこまでして我が魔王を守ろうとしてくれるとは……」
ウォズは茶化す様なことはせず、ゲイツの行動に素直に感動していた。
「──ウォズ。俺、行くよ。ゲイツのこと任せてもいい?」
「あのアナザーライダーの力は強大だ。他の平成ライダーたちの力を合わせても勝てる保証がないとしてもかい?」
「俺さ、あの仮面ライダーたちにもゲイツにも助けられたんだよね。他の仮面ライダーとは殆ど初対面だし、ゲイツなんて最初は俺のことを倒そうとしてたし」
ウォズは黙って続きを聞く。
「でも、そんなこと関係無く助けてくれた。だからこそ俺も一緒に戦いたい! 俺が目指す夢は、ああいう人たちを幸せに、笑顔に出来る王様なんだ!」
その時ウォズの懐が輝き、そこから飛び出した銀色のジオウライドウォッチが、ソウゴのジクウドライバーのライダーアーマー用のスロットに自動的に装填される。
「これは……!」
「まさか、ウォッチを自ら引き寄せるとは……! 使い給え、我が魔王! その力を存分に!」
ジクウドライバーにジオウの顔が二つ並ぶ。
「何か、行けそうな気がする!」
中央のロックを解除し、ドライバーが斜めに傾く。
その時、ソウゴの耳にある音声が聞こえる。ソウゴだけでなく戦いの喧騒の中だというのに、今から変身する者たちの耳にしっかりと届く。
『Are You Ready?』
問われるは覚悟。
返す言葉は唯一つ。
『変身!』
ジーニアスフルボトル『戦兎!戦兎!出してくれ…出してくれぇ! 出してくれ…出してくれぇ!戦兎!戦兎!出してくれぇ!!戦兎!戦兎!戦兎っ!戦兎!出してくれっ!出してくれよぉっ!俺は変身しなくちゃいけないんだ、俺のジーニアスフォームに! 嫌だ……いやだぁっ!出してくれ……出してぇ! 何でこうなるんだよ…… 俺は…… 俺は…… 変身したかっただけなのに』
という訳で今作ではジーニアスフォームの出番はありません。上位互換がありますので。
ジオウに関してはオリジナルフォームとなります。個人的な考えで最強フォームと並ぶならせめて中間にあたるフォームにならないと、と思ったので。
先にどちらが見たいですか?
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IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
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IFゲイツ、マジェスティ