仮面ライダージオウIF―アナザーサブライダー―   作:K/K

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アナザーイクサ2019 その2

「あ、コーヒーです。あとこれもどうぞ。アップルパイです」

「ありがとうございます」

 

 名護は一言お礼を言った後、コーヒーに口を付ける。

 ソウゴたちと名護は一旦クジゴジ堂へ戻っていた。互いの情報交換の為である。

 

「かなりの腕ですね。私の行きつけの店のマスターのコーヒーは絶品でしたが、このコーヒーにはそれに近いものを感じます」

「本当ですか! いやー、ありがとうございます!」

 

 コーヒーの淹れ方を褒められ、順一郎は素直に喜ぶ。

 

「ソウゴ君たちが連れて来たお客さんですが、お名前は……?」

「申し遅れました。私は素晴らしき青空の会会長の名護と申します」

「名護さんですね。素晴らしき青空の会……もしかして、スカイダイビングの同好会──」

 」

「民間の警備会社の様なものです」

「ああ、そうでしたか! どうりで体付きが違う訳だ! ははははは」

 

 的外れであった解答を笑って誤魔化し、順一郎は一人納得する。

 

「じゃあ、ゆっくりしていって下さいね」

 

 人の良さそうな笑みを浮かべながら、部屋の奥に行く。

 

「さて、先ずは君たちの方から話しなさい」

 

 アップルパイをフォークで切りながら、名護が慇懃無礼な態度で言う。

 

「何だ、お前。いきなり上から──」

「君、目上の人には敬語を使いなさい。礼儀知らずだと言っている様なものだ」

「こ、の……!」

 

 名護の言い方にゲイツはこめかみをひくつかせ、顔を険しくするが、ツクヨミとソウゴに宥められる。

 

「落ち着いてゲイツ」

「機嫌損ねたら、ライドウォッチを貰えなくなっちゃうかもしれないよ?」

「く……!」

 

 不本意、と顔に書きながらゲイツは仕方なく黙る。

 

「では、私の方から説明しよう」

 

 ウォズが代表し、アナザーライダーのこと、ライドウォッチのことについて簡単ながら説明する。

 

「──ということで、私たちはライドウォッチを集めている。全ては我が魔王の輝かしい未来の為に!」

 

 余計な一言を付け加えながらウォズの説明が終わる。

 

「成程。よく分かった。これには渡──ではなくキバの力が込められている訳か」

 

 名護はキバライドウォッチを見つめる。

 

「そういう事。──で、それを俺たちに……」

「尚更、君たちは私の弟子になるべきだ」

「ええ……やっぱりそうなるの……」

 

 改めて弟子入りを勧められ、ソウゴは困惑した表情となる。

 

「だから、何でお前の弟子になんか……!」

「キバの力の持ち主は、かつて私の弟子だったことがある」

「何っ!?」

「え? そうなの?」

 

 思わぬ間柄を教えられる。

 

「素晴らしき青空の会に属する者として、日々ファンガイアと戦う中で私は彼と出会い、私に憧れを抱いて弟子となった。その時はまさか彼がキバだとは思いもしなかったが」

「ファンガイア?」

 

 知らない単語が出て来たので、ソウゴはウォズの方を見る。

 

「ファンガイアとは、ライフエナジー───人の生体エネルギーを吸う所謂吸血鬼の様な存在だ。素晴らしき青空の会はそのファンガイアと戦う為の組織という事だよ。ついでに教えておくと、名護啓介、彼は仮面ライダーイクサへ変身する」

「へー」

 

 名護の話を遮らない為に小声で教えるウォズ。名護の方はまだ喋っていた。

 

「──という事があり、彼と私は今も共に戦っているという訳だ」

「一体何が言いたい?」

 

 殆ど自慢話であった内容にうんざりした態度でゲイツが問う。

 

「彼は大事な戦友だということだ。君たちの話では、このライドウォッチに力を込めると変身能力を失うらしいな。以前に比べれば彼の周りは平穏となったが、それでもまだ油断は出来ない」

 

 名護が言うには、キバの変身者は時折ファンガイアに狙われることが在るという。

 

「本当ならすぐにでもこの力を彼に返したいところだ。だが、彼の意思でライドウォッチに力を宿し、誰かに託すというのなら何か意味がある筈だ。そのライドウォッチを今持つ私には、彼の代わりにそれを見極める必要がある」

 

 鋭い眼光がソウゴたちを射貫く。歴戦の強者。それを感じさせる迫力のある眼差しは、ソウゴらを自然と緊張状態にする。

 

「──分かった。俺がそれに相応しいかどうか試してみてよ」

「おい、ジオウ!」

「弟子入りしないとライドウォッチが貰えないなら、そうするしかないでしょ?」

 

 ソウゴへの反論が思い付かず、ゲイツは顔を顰めてそっぽを向く。

 

「良い心掛けだ。では、場所を変えよう。付いてきなさい」

「ちょっといいですか?」

 

 出掛けようとする名護をツクヨミが呼び止める。

 

「貴方が戦ったアナザーライダーは、探さなくていいんですか?」

「大丈夫だ。既に手は打ってある」

 

 名護は警察関係者と連絡をとっており、年配の警察官から事情を聞き、北島祐子の名と彼女が脱獄犯である情報を得ていた。祐子を見つけ次第連絡を入れる様に指示も出している。

 

「では、行こう」

 

 名護がソウゴたちを連れてきたのは、クジゴジ堂近くの広場であった。遊具など一切無くベンチ程度しか置かれていない人の集まる要素の無い閑散とした場所であった。

 名護は持ってきた小さなバッグを地面の上に置く。

 

「まずは、身体能力を知りたい。どちらでも構わない。私に掛かって来なさい」

「ほう。いきなり一対一での戦いか。もし、お前に勝てたらライドウォッチを渡せと言ったら?」

「いいだろう。私が君に負けたら素直にライドウォッチを渡そう」

「なら、俺から行こう」

 

 ゲイツが一歩前に出る。

 

「勝敗の判定はどうする?」

「背中を地面に着けたら負け、というルールでどうかな?」

「分かった」

 

 二メートル程の距離で視線をぶつけ合うゲイツと名護。ゲイツは構えているが、名護は構えない。

 シッ、という呼気の音と共にゲイツは名護の顔へ拳を放つ。真っ直ぐ伸びていく拳。だが、顔に届く前に名護の手がそれを叩き落とす。

 すぐに拳を引き、逆の拳を繰り出す。それも横から叩き付けられた手刀で逸らされてしまう。

 連続して放たれ続けるゲイツの拳。名護は涼しい顔でそれらを逸らし、叩き落し、弾く。数を増やそうとも速度を上げようとも全て名護は捌いてしまう。

 拳が全く届かないことに徐々に焦りを募らせていくゲイツ。名護は守り以外の動作を見せないこともゲイツの気持ちを苛立たせる。

 

「はあっ!」

 

 速度と連射性のある拳の打ち方から、一つ一つの動作が大きい破壊力を重視の大振りの拳へ切り替えようとするゲイツ。

 その一瞬の切り替えを見抜き、名護は守りから攻めへと転じる。今まで後退しかしなかった名護が前進。それに焦らされたゲイツが思わず拳を振るうが、溜めも動作も不十分なそれが名護に当たる筈も無い。

 前進からの急停止。ゲイツの横振りの拳が名護の目の前で空振りする。

 そこから名護は踏み込み、ゲイツの襟首を掴みながら斜め前に移動しつつ、ゲイツの足を払う。

 重心を崩された所を引っ張られてゲイツは地面に投げ倒され、その際に背中を付けてしまい負けてしまう。

 

「──くそっ!」

 

 あっさりと敗れてしまったことに悔しがるゲイツ。

 

「君は身体能力の基礎が出来ているな。普段から鍛えているのが分かる。だが、まだまだ精神的に未熟だ。君は短気だ。血が頭の昇り易いせいで動きに粗が出て隙が出来やすい」

 

 ゲイツの良かった点と悪かった点を指摘する名護。的外れな指摘でなかったせいでゲイツも閉口する。

 

「次は君だ」

「え、その、俺はちょっと……」

 

 明らかに腰が引けているソウゴ。

 

「いいから来なさい」

 

 そんなソウゴの意思を無視して勝負が始まる。結果──

 

「ふぐえっ!」

 

 開始三秒でソウゴは地面に投げつけられた。

 

「全然ダメだ。君は貧弱だ。仮にも王を目指しているのならもっと鍛えなさい!」

 

 背中を強打し悶絶しているソウゴに、名護は容赦の無い言葉を浴びせる。

 

「ゲイツ君。次の訓練だ。このボタンをきちんと丁寧に付けなさい」

「何故ボタンが……」

 

 名護が手を開くといつの間にか数個のボタンがあった。新しいボタンではなく、引き千切った形跡であるほつれた糸くずが付いている。ならば、ボタンは元々どこに付いていたのか──

 

「あっ」

 

 ソウゴの自分のシャツを見る。ボタンが全て取られており、インナーシャツが露わとなっていた。

 

「いつの間に……」

 

 名護の早業に全員が驚く。

 

「お前の手癖が悪いのは分かった。だが、俺がジオウのボタンを縫う意味が分からない!」

「集中力を必要とする細かな作業をすることで、君のその短気さを少しでも改善するのが目的だ。私の弟子になったからには私が言う事は絶対だ!」

「ぐっ……!」

 

 名護の実力を認めてしまっているゲイツは言葉を詰まらせた後、大人しく名護からボタンを受け取る。

 

「道具はこれを使いなさい」

 

 小さなバッグの中からソーイングセットが取り出される。用意していた辺り、早い段階からゲイツの性格を見抜いていたと思われる。

 

「ジオウ! 貸せ!」

 

 ソーイングセットを受け取ると、ゲイツは強引にソウゴのシャツを剥ぎ取り、早速裁縫作業に取り掛かる。

 

「ゲイツー。俺、ちょっと恥ずかしいんだけど……」

 

 上がインナーシャツ一枚になったソウゴが文句を言うが、既に作業に集中しているゲイツの耳には届かない。

 

「代わりにこれを着なさい」

 

 小さなバッグからまた何か取り出す。ソウゴに渡されたそれは青い布地のシャツ。

 それを広げた瞬間、ソウゴらは絶句した。

 青い布地に白い文字で『753』。そのシャツは非常に──

 

「ダッサ……」

 

 ──ツクヨミの感想が示す出来栄えであった。

 

「さあ、私から君への贈り物だ。着なさい」

「ええ……」

 

 着たい気持ちが微塵も湧かないシャツに苦悩するソウゴ。

 

「──ところで君はいいのか」

 

 話の矛先がウォズに向けられる。

 

「私が何か?」

「見たところ、君もかなり戦える様に見えるのだが……?」

 

 ソウゴとゲイツが変身しようとする場面を目撃したが、その時ウォズはドライバーもウォッチも出していなかった。しかし、名護の直観がウォズもまた仮面ライダーであると薄々気付き始めている。

 

「いや、私は──」

「うん。そうだよ。ウォズも仮面ライダーだよ」

「我が魔王っ!」

 

 ソウゴから暴露され、ウォズは思わず叫んでしまう。

 

「そうか。なら君も今から私の弟子だ。そんなヒラヒラとした運動に適さない服ではなく、これを着なさい」

 

 白地に青文字で『193』と描かれたシャツを見せる。

 

「い、いや、私は……」

「ウォズ……まさか、俺だけにこんな格好をさせないよね……?」

 

 迫る名護と退路を断つソウゴ。最早ウォズに逃げ道は無かった。

 数分後、死んだ目で753シャツと193シャツを着たソウゴとウォズがそこに居た。

 ツクヨミは、その似合わない姿を見て必死に笑いを堪える。

 

「まずは私が考案したエクササイズで準備運動をする。最初に動きを見せるので後に続きなさい」

 

 

 ◇

 

 

 名護にソウゴたちが弟子入りをした翌日。

 ある場所で高級車が走っていた。そこへ突如道路の中央に女が現れる。

 急ブレーキを掛けるが、間に合わないと運転手の男は思った。目を瞑る男。数秒間瞑ったままだったが、やがて恐る恐る目を開ける。

 そこには轢いたと思っていた女性が立っていた。男の視界からでは気付かないが、女性の左足がフロントに押し当てられている。信じ難い話だが、華奢な女性の足一本で車が停められたのだ。

 そんなことなど知らない男は、最初は轢いていないことに安堵したが、それは無謀な行為をした女性への怒りに転じる。

 車から降り、女性へと文句を言うが女性に反省する態度は無く、それどころか息を吸い込むと男が昨晩何を食べたのか言い当てて見せた。

 その不気味さに戸惑う男だが、女性の顔をよくよく見て既視感を覚え、次の時には信じられないといった表情と化す。

 

「君は……北島祐子!」

 

 服役している筈の祐子が華麗な服を着て自分の前に現れたことにますます混乱する。

 

「思い出したか? お前の下手な弁護のせいで私は無実の罪を背負った」

 

 憎悪に満ちた眼光が弁護士の男を貫く。

 祐子は弁護士の見ている前で車にヒールの踵を叩き付ける。フロントが潰れ、その反動で車が直立する。

 

「喜べ。これがお前の墓標だ」

 

 人外の怪力を見せられ、弁護士は絶句した。

 

「お前に判決を言い渡す──有罪!」

『イクサァ』

 

 アナザーイクサと化した祐子は、弁護士の首を掴み、車へ叩き付けた。体を強く打ち、地面に倒れる弁護士。更に追い打ちをかけようとすると──

 

「アナザーライダー……!」

「誰だ!」

 

 第三者の声にアナザーイクサが振り返る。753シャツを着たソウゴが、ジクウドライバーにジオウライドウォッチを装填しながら走り出す。

 名護に言われて体力増強の為にランニングをしていたが、思わぬ場面に遭遇してしまった。

 

「変身!」

『ライダーターイム!』

 

 飛び出す『ライダー』の文字が、アナザーイクサを狙う。

 

「ちっ!」

 

 十字架の大剣でそれらを打ち返すアナザーイクサ。

 

『仮面ライダージオウ!』

 

 その大振りの隙にジオウはアナザーイクサの脇を通り抜け、弁護士を助け起こす。

 

「逃げて下さい」

 

 ジオウがアナザーイクサに立ち塞がっている内に弁護士を逃がす。

 

「何だお前は! 私はいずれ女王と成る身! 跪け!」

「女王? いきなり跪けって……」

 

 アナザーイクサが女性であることを知ると同時に、今まで会ったことが無い高慢な態度の性格にやや困惑。

 すると、アナザーイクサはベルトを押し込み、笛音を鳴らす。

 

「出番よ!」

 

 何処からともなく現れるガルル、バッシャー、ドッガ。ジオウを獲物と定め、獣の様な唸り声を上げる。

 

「カラフルー……というかどこかで見た様な……?」

 

 鮮やかな体色の怪物たちに見覚えがあったが、思い出す前に三匹が襲ってきた。

 先陣を切るのはバッシャー。水搔きと爪が付いた手で引っ掻きにくる。後退してそれを躱すと、頭上を跳び越えてきたガルルが先回りをしており、背後から爪を振るう。

 

「うおっと!」

 

 すぐさま前転をして回避するが、転がった先にはドッガ。立ち上がりと共にジオウは拳をドッガに打ち込むが、微動だにしない。

 

「いったー!」

 

 殴ったジオウの方が拳を痛める。

 今更ながらジオウⅡに変身しておけば良かったかもしれないと思ったが、あれは変身する手順がジオウの時よりも多いせいで緊急時の変身には向かない。弁護士を助けられたのもジオウならすぐに変身出来た為であった。そして、今変身しようにもガルルたちがそれをさせない。

 ジオウⅡの力は本当に強力だが、時間の余裕が無い時には不向きであった。

 

「ガルルルルッ!」

 

 ガルルが唸りながら飛び掛かると、その身を曲刀へ変え、空中で旋回しながらジオウを斬り付ける。

 

「うあっ!」

 

 斬り付けた後、ガルル改めガルルセイバーはアナザーイクサの手に収まる。

 

「それって!」

 

 引っ掛かかっていた記憶が一気に引っ張り出される。あの曲刀は、ディケイドと初めて戦った際にキバの姿で振るっていた武器である

 

「ふん!」

 

 アナザーイクサは大剣と曲刀の二刀流でジオウを斬る。ガルルセイバーの素早い連撃の後に、重い大剣の一撃がジオウの装甲に打ち込まれた。

 

「うあっ!」

 

 大きく下がられるジオウ。

 

「ぷー」

 

 バッシャーが風船の様な水塊を口から出し、それが弾けると幾つもの水弾がジオウに放たれる。

 

『ジカンギレード! ケン!』

 

 ジカンギレードの腹で辛うじてそれを防いで見せるが、バッシャーは水弾を吐きながらその身を銃──バッシャーマグナムへと変え、アナザーイクサの下へ飛ぶ。

 ガルルセイバーを放り棄て、バッシャーマグナムを取ると銃口から水弾を連射。弾切れなど一切考えない容赦無い連射は、ジカンギレードを構えるジオウをじりじりと後退させていく。

 そこに十字架から放たれる砲弾。水弾で動けないジオウは格好の的であった。

 

「うああああ!」

 

 断続した衝撃に混じった大きな衝撃。溜まらずジカンギレードが手から離れしまう。

 守る手段を失ったジオウ。彼が見ている前でドッガが大きな槌──ドッガハンマーに変わり、アナザーイクサは両手の武器を放ってそれを握る。

 その場でドッガハンマーを振るい一回転、勢い付けてもう一回転。そして三回目の回転でドッガハンマーを投げ放つ。

 ドッガハンマーは真っ直ぐジオウに飛び、直撃。ジオウを吹き飛ばした。

 

「ぐあああっ!」

 

 強烈な一撃に耐え切れず、ジオウの変身が解除される。

 アナザーライダーを前にして変身が解けることは、死に繋がる。この場から離れようにもダメージで体が思う様に動かない。

 ソウゴは壁に背を預け、絶体絶命の危機に陥っていた。

 しかし、何を思ったのかアナザーイクサも変身を解除してしまう。

 祐子はソウゴの下に近付き、座り込んでいるソウゴの顎を優しく撫でる。

 

「可愛い子」

 

 勝ったことに満足したのか、それとも始末する様な敵と見做していないのか、それだけ言って去ってしまった。

 顎に残る指先の感触。耳に残る声。それは、あの時の記憶を蘇らせるには十分なものであった。

 去っていった祐子の前に、タイムジャッカーのオーラが現れる。

 王だからといって男に拘らず、女を王として祀り上げ様と考え、祐子にアナザーライダーの力を与えた。

 

「それでいいのよ。貴女はやっぱり話が早い。──でも、ジオウを倒さなかったのはどういうつもり?」

「馴れ馴れしいなお前。一下僕に過ぎないのに弁えろ」

 

 返って来た言葉に、一瞬だがオーラは言葉を失った。

 

「何ですって? 貴女誰に言っているつもり?」

「もう一度言わなければならない程愚かなのか? お前だ」

 

 アナザーライダーは女王となる自分の為に運命が運んだもの。それを与えたオーラはただの使い。そう豪語し天井知らずの傲慢さを見せつける祐子。

 

「あんた、何を勘違い──」

 

 オーラが殺気立つ。すると、祐子は近くのマンホールにヒールを叩き付けて地面から踏み上げる。数十キロあるそれを片手で掴み、オーラへ投擲。オーラの頬を掠め、血を流させる。

 

「次は首だ。嫌ならとっとと失せろ」

 

 何処までも傲慢な祐子。去り行く祐子の背を見るオーラの目には、確かな殺意が宿っていた。

 

 

 ◇

 

 

 アナザーイクサの名は北島祐子。名護によってその情報が齎される。まだ調査中だが、冤罪を背負わされた復讐の為にその関係者を襲っていると推測された。

 ソウゴは彼女の冤罪を信じた。自分の初恋の人がそんな罪を犯す筈を無いと。だが、ゲイツはそれを一蹴する。子供の頃の記憶など曖昧なもの、そして、例え冤罪にされたからと言って人を襲い、復讐していいはずが無いと。

 それには一理あると思ってしまったのか、ソウゴも言葉を詰まらせてしまった。

 一旦名護の特訓は中止し、事件関係者を探すことを目的に動くことを決める。そこに必ず北島祐子が現れる筈である。

 翌日。とある波止場に祐子は現れた。狙いはそこで釣りをしている老いた検事の男。

 そこに手分けして探していたソウゴとゲイツが駆け付ける。

 

 

 ◇

 

 

「何故貴女は女王になりたんですか?」

 

 戦う前、ソウゴは祐子に訊いた。私利私欲の為か、それとも別の理由か。祐子を信じたいソウゴはそれが知りたかった。

 祐子は答えた。

 

「この世の法を正す為、冤罪で泣く人々を無くす為、その為に私が女王となり正しき法を制定する!」

 

 その志にソウゴは安堵するが、ゲイツの耳には戯言としてしか聞こえなかった。

 

「それが本当なら、御立派な目的だ。だが、生憎俺の耳には上っ面にしか聞こえない」

「ゲイツ!」

「お前……女王の言葉を疑うのか?」

「正しき法などとほざいているが、人を問答無用で襲うとしているお前に正しさなんて感じないな!」

 

 ゲイツはあくまで祐子を否定。

 

「お前はどう思うんだ? ジオウ」

「俺は……言っていることは正しいと思う。だから、それを目指す為に正しいやり方を……」

「どいつもこいつも女王に意見する気か!」

 

 話を遮って祐子は激昂する。

 

「そうよ。貴女は間違っているわ」

 

 その声と共に祐子が身を屈める。力の塊の様なものが上を通り過ぎ、海に着弾して水柱を上げた。

 タイムジャッカーのオーラが、周囲が歪んで見える程の殺気を放ちながら祐子を睨む。

 

「貴女は失敗作よ! 私の顔に傷を付けるなんて!」

 

 オーラの手から、再び力の塊が放たれた。祐子は近くにあったマンホールを踏み付けて跳ね上げ、そのままそれを蹴り飛ばす。

 力の塊とマンホールが衝突。片方は軌道を変え、もう片方は粉々に砕けた。

 

「お前たちは──有罪だ!」

 

 アナザーイクサに変身すると、それに呼応しガルルたちも出現する。

 周囲を囲まれながら、ゲイツはジクウドライバーとウォッチで変身。

 

「変身!」

『ライダーターイム!』

 

『らいだー』の四文字がアナザーイクサらに当たり、それぞれを怯ませる。その間にゲイツは変身を完了させる。

 

『仮面ライダーゲイツ!』

 

 ジカンザックスを構えるゲイツ。ソウゴも少し遅れて変身しようとするが──

 

「え?」

 

 何かを感じ、空を見上げた。青い空の中に浮かび上がる極彩色の穴の様なもの。

 

「何だ?」

 

 すると、その穴から炎の尾を引く隕石が飛び出してきた。しかも、それは明らかにこちらへ向かって来ている。

 

「ゲイツ! 上!」

「上!? 何だあれは!?」

 

 隕石がこちらに降ってきていることに気付く。他の者たちも隕石に気付いて驚愕した。

 

「皆! 下がって!」

 

 ソウゴが叫ぶが一歩遅い。隕石は海の中へ突入。凄まじい水柱を上げ、海水が雨の様に降り注ぐ。

 

「何だ! 何が起こっている!」

 

 隕石の落下。それだけで凄まじいインパクトだが、同時におかしなこともあった。人以上の隕石が落ちたというのに被害があまりに少ない。せいぜい派手な水飛沫が起こった程度。まるで、落下と共に減速でもしたかの様に。

 

「ん?」

 

 海面が不自然に盛り上がっていく。すると、海面を破って落ちた筈の隕石が浮き上がってきた。

 隕石が砕け散り、中から何かが姿を現す。

 紫色の体は星屑の様に点々と輝く箇所があった。胸の中央には太陽、体の各部には惑星が描かれた紋章が有り、背にはマントを羽織っている。

 帽子のつばの様に前に突き出た頭部。顔は岩の様な凹凸がある黒と両眼と思わしき金色の目。

 注目すべきは腹部に付けられたもの。金環の中央には地球が映し出されており、それはソウゴらも知るジクウドライバーに良く似ていた。

 もし、勘違いでなければ、この存在は──

 

「仮面ライダー……?」

「如何にも。仮面ライダーギンガ」

「何? 仮面ライダーギンガ?」

 

 突然の乱入者。しかもそれは自らを仮面ライダーギンガと呼称する。

 すると、ギンガは両手で円を描く。両手の中心に力が渦巻き、幾つの輝きを放つと、それを放つ。

 放たれたエネルギーは、アナザーイクサたちの近くに着弾。その爆風で彼女らを吹き飛ばす。

 

「何だこいつは……」

 

 ギンガの周囲が歪んだかと思えば消え、ゲイツの目の前に瞬間移動する。

 

「なっ!」

 

 反射的にジカンザックスを振り下ろす。ギンガが手を突き出す。三色の光が集まり、特殊な力場を生み出すと、ジカンザックスの刃がギンガの手に触れる前に停まる。

 押しても引いてもジカンザックスが動かない。

 

「地球の重力に身も心も縛られた者よ」

 

 突然ジカンザックスが重くなり、ゲイツの手ごとジカンザックスが地面にめり込む。

 

「ぐあっ!」

 

 ジカンザックスが重石となり、動けなくなってしまう。

 動けないゲイツの顔にゆっくりと手を伸ばしていく。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!」

『仮面ライダー! ライダー! ジオウ! ジオウ! ジオウⅡ!』

 

 ジオウⅡへ変身したソウゴがジカンギレードとサイキョーギレードの二刀流で斬り掛かった。

 

「ふん!」

 

 だが、ギンガの両掌は、その二本を難なく止め、弾き飛ばしてしまう。

 

「くっ! なら!」

 

 後ろに下がったジオウⅡは、額の二対の長針短針を回す。これにより未来を予測しようとした。

 ジオウⅡの脳裏に浮かび上がる未来の光景。だが、途端にそれらが捻じ曲がり、螺旋を描き、全ての色が混じり合った不気味な光景となる。

 

「何これ!?」

「無駄だ。宇宙では時の流れが違う。地球の法則は成り立たず、宇宙の法則によって成り立つ」

「ど、どういうこと!?」

 

 未来予知が出来ないことも驚きだが、それに気付いているギンガにも驚かされる。

 

「覚えておけ。それが宇宙だ」

 

 ギンガがドライバー中央を押す。

 

『ギガンティックギンガ!』

 

 ギンガが両手で円を描き始めたかと思えば、その両手を勢いよく上げる。

 空中に次々と現れる多色のエネルギーの球体。

 

「滅びよ」

 

 それらが一斉にジオウⅡに向け、隕石の様に降り注ぐ。

 




Q 何でジオウの未来予測がギンガに効かないんですか?
A それが宇宙の法則だからです。
宇宙という名のごり押し都合だと思ってください。ギンガは本編よりもちょっと強めに書いていきます。

先にどちらが見たいですか?

  • IF令和ザ・ファースト・ジェネレーション
  • IFゲイツ、マジェスティ

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